3 もしかしたら
『ズガガガー、ガ、メイド長、メイド長応答願います』
耳障りな音が、まどろむ私の頭に響く。懐中時計を手にとれば午前の一時五十五分。もうそろそろ起床時刻だ。魔法無線
機を手にとり、応答に答えるまで数十秒かかる。流石に寝起きはきつい。時間調整の為にタイムテーブルが結構無茶だ。
お嬢様も、昼に起きるなら前々から言ってくれればいいものを……でもワガママな所もいいのよね。ふふ。
「あー、こちらメイド長……どこのだれ、どうぞ」
『お庭警備班のノエルです。あー、メイド長……そのぉー……』
「なぁによ……はっきり行って頂戴……どうぞ」
『美鈴警備隊長が……まだ戻りません』
なんだと?
「ちょっと待って、美鈴が紅魔館を出たのが昨日の昼十二時で今は午前の二時だから……えぇっと、昨日から数えてもう
十四時間も帰ってきてないの?」
『はい、影も形もありませんどうぞ』
「……あーあー、午前の部メイド全員に告ぐ、隈なく館内を捜索。紅美鈴警備隊長を捜索せよ」
『りょうかいーあいあいさーさーいえっさーぎょいにーしょうちつかまつるーはいはーいおっけーめいどちょうらぶ』
なんか混ざっていたが気にしない。
寝起きの頭を掻き毟りながら適当に時間を止めて身支度。備え付けの桶から水を掬って顔を洗い、鏡を見る。寝起きの顔
なんて、トテモじゃないけど人には見せられないわね。
おっきな欠伸一つして、パジャマを脱ぎ捨て、クローゼットからメイド服を引っ張り出し着付ける。眠いわ。
髪を解かして歯を磨いて、少しだけお化粧。
この間ゼロ秒。我ながら超便利だ。マジマジ、超便利よ。
「ほら、そこいちゃつくな、さっさと動けばか妖精ー」
「はぁい」
「マリエルー、マリエルは何処?」
「飽きて遊びに行きましたー」
「……」
長続きしないわねぇ。普段からあのくらい統制が取れていると紅魔館の仕事も上手く捗るのだけれど……、妖精を雇って
いる限りは、無茶な望みね。
まだまだ日も出ない、蝋燭の火が頼りの薄暗い紅魔館。お嬢様がお休みになっているから派手には動けないし。美鈴、無
線も置いていったのかしら。
「あーあー。こちらメイド長、紅美鈴応答せよ」
ダメね。幹部専用の周波数にあわせても無理。館内にはいないのかしら。ともなれば、まだあの老夫婦のお宅……? 幾
らなんでもそれはないわ。あの子、時間はキッチリ守るものね。
行っても無駄だろうけれど、と思いながら、私は門番詰め所へ赴く。
「ノエル、美鈴は?」
「あ、メイド長。前に交代した子も見てないそうです」
詰め所には門番妖精が一匹のみ。隊長室を覗いてみても、形跡はない。それどころか、何時も着ている改良人民服の上に、
ご丁寧にも無線が置いてある。外に居る事は確定ね。
まさか、私のイビリに耐え兼ねて逃げ出したとか。そうよね、あの家で居心地良さそうにしてたものね。案外孫娘役とし
て老夫婦の余生を楽しませているのかもしれない。それはそれで善行。
来るもの(外敵以外)拒まず、去る者追わずの紅魔館。人の出入りは激しい。けれども、美鈴が抜けられるとちょっとば
かり困るわ。サボタージュする癖はあるけれど、真っ当に門の前で構えてられる人員って、あの子しかいないし、妖精じ
ゃ魔理沙のボム一個も減らせないし。居なくなるとなんだかんだ、不便ね。
というか逃がさない為にもこれからちょっとは優しくしたげようって決意した途端これじゃあ私の感動は何処へ。
「うーん。お嬢様は時間調節で、起きてくるのが後二時間後。食事を取って適当に遊んで、お昼寝してまた調節してだか
ら……また夕方にはおはよう御座います、か。ノエル、ノエル?」
いない。まったく、妖精ったらなんでこうも気まぐれなのかしら。
「シャロル、シャロル、応答して」
『あたい、さいきょう』
……本当に頭の打ち所が悪かったのね。心の中でお悔やみ申し上げるわ。いっぺん死んで転生したら直るんじゃないかし
ら。妖精だし。
あーもー。どいつもこいつも使えないわ。
「妖精ゲッツ」
「あらららー?」
私は詰め所を出て、適当な妖精をひっ捕まえ門の前に立たせる。形だけでも門番は欲しい所だし。
「妖精メイドちゃん、ここで詰めてなさい。動く事は許されないわ。お友達呼んでもいいからここにいなさい。いいわね」
「アナベルですメイド長ぉ~」
「班長以外の名前なんて覚えてられないわ。大体みんな名前の下にルって何よ、ルって」
というか今までもっと別な名前だった気がするのだけれど。みんな。
「流行です。名前なんて記号でしかないから、しょっちゅうかわりますよ~。ちなみに前の名前はオッポソソロルチヌル
イア三千六百世~常闇からの使者~です」
「ああそう、で、解った?」
「はぁい~」
赤毛の妖精の頭をもみくちゃにしてやり、私はまだ暗い夜空に飛び立つ。お嬢様が起きる頃には全ての準備を終えなけれ
ばいけないから、正直三十分も時間はないけれど、なぁに大丈夫。だって私は十六夜咲夜。完璧で瀟洒なメイドですもの。
メイドの名前は覚えていないけれどね。
「それにしたって……いじめてるのは何時もの事じゃない? 明らかにいじめられ属性だし、いじめられるのが仕事じゃ
ない、あの子。ヘソ曲げて老夫婦と一緒に隠居か、いいご身分ねぇ」
まだしっかり起きていない頭で、普段の美鈴を思い出しながら空を飛ぶ。
えぇそうね、悪かったわよ。食事を朝抜いたりお昼抜いたり夜抜いたり、気まぐれにナイフ投げたり、なんとなくナイフ
投げたり、ウッカリナイフ投げたり、そこはかとなくナイフ投げたり、ちょっぴりナイフ投げたり、コッペパン齧り付く
寸前に時間を止めて大根に変えたり、小豆マーガリンコッペパンを大根に変えたり、ジャムマーガリンコッペパンを大根
に変えたり、etcetc. 色々したわよ?
でも出て行く事はないんじゃないかしら? これも一種の愛情表現よ、メイド長からの。まったく有り難く思いなさいっ
ていうの。こんなに構ってあげてるんだから。妖怪のクセに気がちっちゃいわねぇ。
「おっと、行き過ぎた」
人里上空をちょっと過ぎた辺りで急停止、そこから引き返す。
確か、昨日の記憶によると、人里でも割合人が少ない場所の更にちょっと外れた辺り……に、あった。
暗闇の人里は完全に寝静まっている為、人っ子一人見当たらない。あ、猫は見つかったわ。おいでー、おいでー。
チッ、何よお高く止まって。だから猫は嫌いなのよ。やっぱ従順な犬よね。
「長屋の並びの、右手……の、なんだったかしら……北から三番目、あったあった。意図的に覚え難くしてるような感が
あるわね。まぁ、人間がまじない程度にする結界かなにかね。……一応時間止めてみようかしら」
夜中にメイドが一人人里をうろちょろしていたなんて噂立てられたら、また何企んでるのよ紅魔館は、なんて言われかね
ないしね。
「はーい、ちょっと失礼しますわ」
堂々と襖を開けて侵入。長屋だもの、部屋なんて一つしかないわ。そこには幸せそうに眠る美鈴と老夫婦が。
「―――いないのよね」
ぴしゃり、と頬を叩く。はて、狐に化かされたか。ともなると倒す相手は式神か。それとも狸ならスキマか。ネコじゃあ
ないわね。一体全体どこへ行ったのかしら……。
部屋にあがりこんで、鍋やら釜やらを少々拝見させてもらう。残り物なし、部屋も掃除されてる。えーっと。
出かけたのかしら。美鈴も一緒に。
まさか家出に便乗して家出。ああ、家族の愛がなくなるとやぁね……って、ちょっと待ってよ美鈴。
そんなに就労待遇が悪かったかしら? 寝床も食事もあるじゃない。困ったプロレタリア階級ね。
まぁ……最近疲れてた見たいだったけれど。言ってくれれば少しぐらい環境改善したわよ。というかこれからしたげるわ。
失踪なんてストライキよりデモより性質が悪い。
まさか心中……って、美鈴は死なないか。そもそもそこまで何を苦にするのやら。
考えても仕方が無い。取敢えず家を出て、時間を進める。待ってみようかとも思ったけれど、夜中に「ちょっと外に出て
ましたぁ」なんて事はないだろうし。
まさか、老夫婦食べちゃったから、高飛びしたとか?
まさかね。ちゃんと与えてるもの、人間……でも不安ねぇ。一ヶ月に一度じゃ少ないのかしら。確証は、ないわ。
私は再び空へと舞い上がり、紅魔館への空の道を辿る。懐中時計を確かめて見ると、現在二時二十五分。このまま戻れば
丁度だろう。四時頃にはお嬢様が起きてきちゃうし、御手洗いとロビーの清掃、食事の準備を終らせて、食べ終わった頃
に洗い物。日が昇ったら洗濯して、あー、門番のタイムテーブル書き直さなきゃ。
えーとそれからお嬢様の寝室を清掃、その後午後の部のメイドの班長にスケジュール説明して……時間足りない足りない。
どのくらい止めれば丁度いいかしらね。
美鈴が居なくとも世は全て事もなし、時間の概念が存在する限り世の中イヤって言うほど動くのよ。特に私は。
「お、メイドじゃないか。こんな夜中にお空のクルージングか」
「……あら魔理沙。ずいぶんな時間に出て行くのね」
湖に差し掛かろうとした所。大分霧が出ている森の上で、その霧より厄介そうな物体と遭遇。コマンド?
対話ね。いざこざはご免だわ。忙しいのに。
「いやな、パチュリーがな」
「ふむ。攻撃を仕掛けてくると、性的な意味で」
「違う、違う。なんだか『つまり貴女が気の引かれそうな物を設置して、そこに拘束装置を更に設置する事により捕獲で
きるトラップを思いついたの。名付けて鳥は鳴かずとも食われます君。ちょっと実験に手伝って頂戴魔理沙、魔理沙どこ
?』とか言い出したから、逃げてきたぜ」
「災難ね」
「全くだぜ。それでメイドは何をしてるんだ?」
「野暮用よ」
「そっか。私は逃げるぜ。それじゃあーーーなぁーーーーー………」
後ろ手に手を振りながら、物凄いスピードで魔法の森方面へ飛んで行く。ドップラー効果で魔理沙の声が小さくなって、
数秒もせずに姿も消え失せた。良くもあんな自由に生きられるわ。ある意味で感心。私なんて仕事してないと手持ち無
沙汰で腐りそうよ。寝ても醒めてもお仕事お仕事。うわ、仕事馬鹿ね私。
「ん?」
また紅魔館に向けて飛んでいたところで、後ろから爆音。まぁ、魔理沙がきっと闇とか妖精とかにマスタースパークでも
ぶちかましたのね。「魔法は夜使うものだぜ」だなんて、ほんと人迷惑ね。幻想郷じゃ良く有ることだけれど。
あー、それにしても。世は全て事も無し、である事は間違いないけれど……門番どうしようかしら……。
深い溜息を何時の間にか吐く。あんなのでも居ないと困るものね。ああ、紅魔館が見えてきた。
今日もまた、一日頑張りましょうか。まったく早く帰ってこないかしら、アイツ。
「お嬢様、御茶のお時間ですわ。メイドがお嬢様へとスコーンを焼いたのですが、ご一緒に如何でしょう」
「あら、妖精も面白い事するのね。差し詰め、お菓子作りが面白いってだけでしょうけれど」
「はぁ、まぁ調理場が散々たる有様ですが、一応お嬢様へ、との事だったので。妖精といえど無碍に出来ず。あ、毒見は
しましたわ。なかなかのものです」
「そ、なら頂くわ」
日も昇り、そろそろ美鈴が紅魔館を出て二十二時間になろうとしている。帰ってくる様子は見受けられない。ほんと、何
処行ったのかしら。まして老夫婦まで居ないんじゃ、その内問題になったりして。そうなると面倒ねぇ。
……食べてませんように、食べてませんように。ううう。
「ねぇ咲夜」
そんな事をぼんやり考えていると、お嬢様の美しい一声が。スコーンをもりもりやりながら。
今日もお美しゅう御座いますね。えぇ。
「はい、如何なさいましたか」
「貴女、なんだか心ココにあらずね。奉仕者としてどうなのかしら」
鋭い。流石はご主人様、といったところかしら。
「え、いえいえ。なんでもありませんわ。おほほ」
「嘘仰い。完璧で瀟洒なメイドはどこへ行ったのかしら。今更隠し事をする主従関係でもないでしょう?」
主従関係は強調するのね。とはいえ、私はどうか知らないけれどお嬢様からすれば門番が一人暇を出した程度、報告する
までもないのだけれど。話せって言うなら話すわ。一応紅魔館の全ての事情を知る権利はお嬢様にあるのだし。
「門番が暇を出しましたわ。今妖精で埋め合わせしていますけれど、何分妖精なもので」
「また嘘」
……あーあ、参っちゃうわねぇ。
「貴女なら門番やりながら料理を作って私を持て成しながらお掃除出来るでしょうに。そんな事で悩む筈無いわ。そんな
ヤワな従者、雇ってないもの。臭うわねぇ」
「あらやだ、お風呂は入ったんですけれど」
「咲夜……貴女って意外と素直ではないわよね。何時も思うけれど」
そうで御座いますね、ええ自覚はありましてよっと。
「なんといいましょうか……在るべきものがそこに存在しないと、落ち着かない……気がして」
「はいはいメイドメイド。メイリン……よね。あの子と貴女は仲が良いでしょ?」
「どうなんでしょう。いつもいじめてましたから」
「そこはハッキリ言うのね」
完璧主義とは言わないまでも、ある事象や物体を適当なモノで埋め合わせをするのは、好きではない。それは常にあるべ
き存在で埋められていて、それ以外では例え埋めれたとしても違和感が付き纏う。そんな感覚があるのよね。
ましてプラスして余計に不安な要素があるし。
「それで、いじめすぎて出て行かれてしまったから、友達が居なくなって寂しいと。はは、咲夜ったら人間っぽいわねぇ」
「お嬢様、私は人間ですわ」
「あらそうだったかしら。時間を止めてしまえば【世界】は貴女の意のまま。隙さえつければあのスキマであろうと、私
でさえ殺害可能な人間なんて、それは人間なのかしら」
「スキマは兎も角、お嬢様の首を狙うなんて」
「……ま、私が貴女の運命を握っている限りは無理ね。そうねぇ、暇になったら遊んであげてもいいわよ、咲夜」
「お戯れを。私は単なる完璧で瀟洒なメイドですわ」
「でも今は完璧じゃないもの。ただの垢抜けた人間メイドだわ」
「―――何がいいたいのよ、れみりゃ」
「―――さっちゃんが悩んでる顔も面白いわねって思っただけ。やっぱり人間だわ貴女」
「コホン。話の前後が矛盾していますわ、お嬢様」
「いいのよ、戯れよ戯れ。なんでもいいの。それより……あら?」
そんなよくわからない会話を区切ろうとしたお嬢様は、突如窓へと顔を向ける。私もそれにならって窓をみれば……カー
テンの隙間から、なにやら怪しい気配。時間を止めて窓を開け放ち、そこでのぞき見している人物を摘み上げて亀甲縛り
にしてから、お嬢様の前に放り出す。
「はいはい皆さんのハイパークオリティーペーパー、文々。新聞記者の射命丸文でぇぇぇぇぇっ!?」
「ごきげんよう、天狗」
「あ、ありのまま今起こった事を話します……『紅魔館を覗き見していたら、何時の間にか亀甲縛りにされてレミリア氏
と十六夜咲夜氏に生暖かい目で見られていた……』な、何を言っているのか解らないと思いますが……私も何をされたか
さっぱり解りません……頭がどうにかなりそうです……何時の間にか羽っ娘になっていたとか、文ちゃんは卵産むのんと
か、そんなチャチなものじゃあ断じてありません……もっと恐ろしいものの片鱗を味わった気分……より、なんというか、
些かきついです。咲夜さん。食い込みます、色々」
「よく喋る鴉ねぇ……咲夜、天狗の血は美味しいかしら?」
「お口に合わないのでしたら、色々と加工して御覧にいれますわ。スッポンの血のゼリーみたいに」
「や、後生ですから、後生ですからっ」
文ちゃん五月蝿いわねぇ。仕方ないからさっさとロープを切ってお嬢様の対面に座らせる。その間に御茶も用意して、口
の中にスコーンをつめて、出来上がり。
「ほぃへくははい、ほぃへくははい……んがぐぐ」
「射命丸さんは面白いのね」
「んぐっ、んぐっ。ぷはっ、咲夜さん、遊ばないで下さい……」
「はいはい。それで、この悪魔の館に一体何の御用時かしら?」
「スコーン美味しい……あ、ええとですね。これをどーぞ」
「文々。新聞号外? またみょうちくりんな記事なんでしょう?」
寄越されたのは油を吸い取ってくれる良質紙。普段はあまり読まないのよね。
って……え、何よこれ。
『文々。新聞号外
人里から老夫婦突如の失踪。妖怪の犯行か
本日早朝、一つの事件が人里を賑わわせた。呉服屋の隠居夫妻が誰にも行き先を伝えずに失踪。上白沢慧音氏私設の人里
自警団の調べに寄れば、頻繁に紅魔館の門番である紅美鈴氏が出入りしていたという情報がある。記者の聞き込みでは、
紅美鈴氏は人里に来る頻度は少ないものの、妖怪らしからず人当たりが良く、界隈でも『みすずちゃん』として通ってい
たという。この事件を受けて、豆腐屋の主人は「あんな可愛い子が人を攫うなんて信じられない。妖怪とはいえ、とても
筋が通っていて人間にしたって珍しい良い子だ。俺は信じない。おっぱい」などと述べており、本当に犯行に及んだのか
疑問視する声が多い。上白沢慧音氏は紅美鈴を重要参考人として引渡すよう紅魔館に要請するつもりでいるという。
記事 射命丸文』
*写真は普段の居眠りをする紅美鈴氏
……時刻はそろそろ十二時に差しかかろうとしている。ああ、参った。不安がその通りになっちゃったわよ。この新聞記
者、本当にふんじばってお嬢様の夕飯にしてやろうかしら。
「咲夜、これは?」
「いえまぁ、大体あってます。天狗の新聞の割に」
「これ原本です。これから印刷してくばっちゃいますけれど」
「そう、それで咲夜は朝からそわそわしていたのね。友達は居なくなるわもしかしたら人を食ったのかもしれないわ、不
安不安不安」
「お嬢様、ちょっとばかり心が痛いですわ」
「そうね。天狗、上白沢慧音は何時頃来るの?」
「湖を渡るのに時間がかかるでしょうけれど、朝出発していましたからそろそろでしょう」
「仕方ないわね。咲夜、会見の準備を。居ないものは引き渡せないわ」
「そういえば門番がいませんでしたね。失踪中っと」
射命丸が何やらメモ帳にチェックをしている。久しぶりに大きな事件、となるのかしらね。霊夢が解決した事件の殆どの
裏が取れていなくて、異変を記事に出来なかった腹いせかしら。幾ら天狗でも行動が早いし。
「事情を説明して頂きたいものですね。ダメでしょうか?」
「咲夜、私も詳しく知りたいわ。一応、ココの責任者なのよ」
「準備はゼロ秒で出来ますし……解りましたわ」
私は昨日の出来事をある程度簡略して伝える。
昨日は美鈴を尾行して、紅魔館に引き返したのが昼過ぎ、そこから休憩をいれて、食事を作って図書館を訪れたのが十九
時頃。そろそろ帰ってくるかと思っていた美鈴は帰宅せず、お嬢様が帰宅したのは二十時半頃。そこから休憩を入れて、
夜寝を取って、起きたのが二時。美鈴が帰宅していなかったので、館内捜索をかけ、もしかしたらと人里を探しにいった
ら三人は居らず。紅魔館に帰ってきたのが二時半。様々な準備を終えてお嬢様を起したのが四時。お食事を済ませて、門
を見に行ったのが六時。そこからは掃除洗濯その他諸々で、御茶の時間の今を迎える。
「二時過ぎには、美鈴さん含め老夫婦は自宅に居なかったんですね」
「えぇ。でも射命丸さん、美鈴は決して……」
「はい、人を襲う妖怪じゃあありませんね。何かしら事件に巻き込まれたと考えるのが妥当ですが……」
「ですが、何かしら?」
「人里の人間は、どう思うでしょうね。確かに、紅魔館は異変以来人里と良い関係を築いています。しかし、やはり悪魔
の館である事には変わりありません。美鈴さんは変な妖怪として、咲夜さんは変な人間として人里で扱われていますが、
これがきっかけで関係悪化する事は、避けられないんじゃないでしょうか」
トンでもない事を仕出かすような子じゃあない。解っている。でも、事実が明かされない限りはそうとは限らない。まし
て里で人食いなんて噂が立てられたら、霊夢も魔理沙も飛んで来る。個人個人の価値観があるし、その内問題に尾ひれが
ついて、私まで人里から変な目で見られかねないわ。
……人里でニンニクラーメンが食べられなくなるのは、苦痛の極みねぇ……。ここじゃ作れないし。はぁ。
「天狗から新聞を取り上げても、あんな小さな集落ですもの、話は直ぐに広まるわね」
「えぇ。ですからこうして原本まで持ってここに居ます。私は真実を伝えます。だから誇張もしませんが遠慮もしません。
人里との交流に罅が入るのは、妖怪としても心苦しくはありますが」
「中立ね、なかなか良く出来た新聞記者じゃない。咲夜、何部か取るわ」
「えー」
「来た甲斐があります。ご購読有難う御座います」
こんな時に商魂働かせてるんじゃないわよ馬鹿鴉。取ってゆでるぞ。
『アー、アー。ゴホン。こちら、人里代表の上白沢慧音だ。紅魔館代表者、出て来い』
『でーてこい、でーてこい』
「シュプレヒコール? デモのやり方知ってるのかしらあのハクタク」
「咲夜、後は宜しくね」
「かしこまりましたわ」
「……あれ? なんで私また縛りあげられて……」
兎も角、来てしまったものは仕方が無い。まずは会見だ。時間を止めて客間を整え、御茶とお菓子を用意。
私は早速正面玄関にまで赴いて、自警団と対峙する。屈強そうな男達と、老人夫妻の家族と思しき人、そしてそれを従え
ているのは、白髪を称えた里の守護者上白沢慧音だ。よくやるわね。ほんと、人間大好きちゃんだわ。
「あーあー、静粛に。責任者が来たぞ」
「客間にて会見を開きます。代表者三名の選出を」
「解った。では私と呉服屋の大旦那、それと奥方だな」
聞き分けは良いようだ。いや、上白沢慧音自身も、恐らくは美鈴の犯行ではないのではないかと、思っているのかもしれ
ない。懸命ね。大量に押しかけてきてお嬢様の怒りを買ったら、私責任取れないもの。
三人を客間に案内し、合間合間で時間を止めながら会見の準備を進める。なんともまぁ我ながら器用だ。
慧音は整然としているが、息子と嫁は、その館の作りに相当驚いているらしい。当然といえば当然だけれど。三人にお茶
を出して、私はそれを正面に据える。
「このたびは、お騒がせして申し訳ありませんでした。紅魔館の代表として、門番が誤解を受けるような行動を取ってい
た事をお詫び申し上げますわ」
「誤解? 何が誤解だってんだ。とうちゃんとかあちゃんどこへやった!?」
「大旦那、もう少し冷静に。怒鳴りに来たのではなく、真相を究明しに来たのだ。正直な所、紅美鈴を出してくれれば、
此方としてはそれでいいのだが、咲夜」
「紅美鈴は現在消息不明で、昨日から帰宅しておりません」
「しょ消息不明!? 貴女達が匿っているんじゃないの?!」
ずいぶんと気性の荒い二人だ。恥ずかしい事この上ないけれど、両親が失踪したら仕方ないか……。
でもなんだか、様子がへんね。怒鳴る割には気迫が薄いというか、なんかもやもやしたものを抱えている感じ。私って意
外と見る目あるのよねぇ。何か隠してるのかしら。
「つまり、紅美鈴はそちらでも消息が掴めず困っていると」
「当館は人里との関係を重視しております。人里に迷惑がかかるような事を行った者がいたのならば、当館も遺憾として、
身柄を引き渡す所存ですが……当人が見つかりません。これは紅魔館の威信をかけた、真実の言葉です。決して人を欺く
ような真似は致しません」
「……。実際の話、紅美鈴は人里と実に良い関係を持っていたと思う。ここに来る前阿求氏にも意見を聞いた。それに幻
想郷縁起でも述べているが、あれは突如人を襲うような妖怪ではない。ともすれば、紅美鈴も隠居夫婦もどこへいったの
やら、皆目見当がつかんな」
「け、慧音様、こいつの言葉を信じるんですか?」
「だがなぁ……貴方達お二方、紅美鈴を見た事があるのか?」
二人は押し黙る。恐らく、話に聞く程度なのだろう。
「それより、隠居夫婦は何か言っていなかったのか。どこへ行くとか、なんとか」
「それはその……明け方頃、人里近くで何か爆発音があったでしょう。それに驚いた住人が皆外に出たらしいんですけれ
ど、その時に二人の顔を見なかったらしく。それで朝早く久しぶりに顔を出したら居なくなっていて……」
「久しぶり? どのくらいだ」
「最後に顔を出したのは……四ヶ月ほど前……だったか」
慧音は……おもいっっっきり大きな溜息を吐く。なんだか私まで溜息を吐きそうだ。老夫婦二人をほったらかし? あん
たら本当に家族なの? これじゃあ虐待ね、虐待。確か美鈴してた話によれば、孫にも顔合わさせないそうじゃない?
人殺しにはなっても、こうはなりたくないものねー。
ああ、倫理規準が可笑しいか。
「……それで、紅魔館としては、これからどうする?」
「当然、捜索に出ますわ。妖精の噂と、魔法使いの探知と、私の足で」
「それは頼もしい限りだ。紅美鈴が行きそうな場所は?」
「普段殆ど紅魔館を出ないので……それは此方で引き受けるとして、人里の皆さんは隠居夫婦を」
「―――そうだな、ここに居ないとなれば、里から離れた場所にいるかもしれな……」
「け、慧音様……あ、あの……実はですね……」
「アナタ……!!」
何よ、その物言い。やっぱり隠し事があるのね。勘弁して頂戴。
「ご夫妻、この際隠し事は無しにしたい。今は一刻も早く隠居夫婦を探さねば……って、あれ?」
そうね、美鈴は死なないとして、老人を何処かに放置なんてしたら命に関わるわ。って、あれ?
「……すみません、遅くなりました、咲夜さん……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「重要参考人確保だな」
「ゼロ秒待って頂戴、ふんじばるわ」
「え、あ、えー?」
そこに現れたのは渦中の人物。紅美鈴―――何よ一体。これ、どうなってるの?
「ずいぶん帰りが遅かったわね。どこほっつき歩いてたの?」
「いえその……夜中に戻ろうとしたら、霧雨魔理沙のマスタースパークでびゅーんと人里の向うに飛ばされて……」
あいつのせいかよ。
終章 価値観色々。
ほんとーに正直な、腹の内を言ってしまえば、私に関わる人間以外の命など、どーでもいい。どこで野垂れ死のうが、ど
こで殺されようが、どこかの館で解体されて食事にされようが、知ったことではない。私を取り巻く環境の、私が管理す
る【世界】の住人が何か危機に陥ったとしたならば、それは直接私に被害が降りかかるのだから、本気でその危機の因子
を取り除くわ。
レミリアお嬢様あたりも多分、そんな感覚で生きているのだと思う。
でも、紅美鈴はどうだろうと、考えてみる。
妖怪のクセに人間臭くて、人里で人と戯れるほどの社交性があって、変人として見られている私とは大きく異なる。人受
けがいい、取っ付き易い性格が手伝っているのだろうけれど、なんとなく、傍にいると安心するような、いじめたくなる
ような、そんな妖怪だ。
『お義兄さん、お姉さんへ。大変衝撃的な事をお伝えせねばなりません―――』
そんな変な妖怪が今回携わった事件は、なんだか非常に腑に落ちない結果だった。稗田阿求が語るように、紅美鈴は口で
は人間を脅したりするけれど、自分に被害が被ったりしないかぎり、絶対的に人間に手出しはしない。
これは、恐らく定期的に人肉を与えているが故に、だと思っていたけれども、本人に聞けば本当に食べないらしい。理由
は簡単で、自分と同じ形をしたモノをバラして食べるなんて、嫌だからだそうだ。
……。
それに比べたら、私ったらなんて人外な神経しているのかしらね。
『この度、わざわざこの紅美鈴さんが、お義父さんとお義母さんを負ぶって本家にいらっしゃいました。理由を聞けば、
どうしても孫に合わせてあげたかったから、だそうです―――』
もうどのくらいバラしたかしら。罪悪感なんて微塵もない。だってお嬢様の為ですもの。それは食料として割り切ってや
っているし、牛豚バラすのとあまり差異はない。けどきっと、美鈴は私のそんな姿を見たら、卒倒するんだろうなぁと、
漠然と想像してしまう。
なぁにが胸が大きいから人間、よ。その通りじゃない。アンタって本当に妖怪らしからぬ妖怪よ。私ったらホント人間ら
しからぬ人間ね。
『お義父さんとお義母さんは、ユメコちゃんに会われて、それはそれは、大層喜ばれました。大きくなったなや、もう何
年ぶりだべな、めんこいめんこいと、涙を流しながら喜ばれました。前から不思議には思っていたんです。何故貴方達夫
妻が、ユメコちゃんに会わせたがらないか。けれど、今回の事を受けまして、初めて理解しました―――』
ねぇ美鈴。人間って、そんなに重たくて重要な存在? 貴女にまっっったく関係の無い人の―――
『お二人は……亡霊だったのですね。ユメコちゃんに縋って、美鈴さんに何度も感謝しながら、お二人は逝きました』
―――肉体を失った魂でも。
「……美鈴さんは余計な事をしてしまったと嘆いておられましたが、決して責めないであげてください。お二人は感謝し
ておりました。勿論、貴方達夫妻が、あの素晴らしいお義父さんとお義母さんを失った気持ちは理解出来ます。出来ます
がしかし、亡霊のまま、生き長らえさせる事に、何の意味がありましょうか。どうかどうか、美鈴さんを責めないであげ
てください。彼女は妖怪との事ですが、本当に良い妖怪です。お葬式の段取りが出来ましたら、連絡をください―――本
家の位牌持ち」
長屋の一角に、重苦しい空気が流れる。私、こういう空気苦手なのよね。
結局……そう。なるほどね。
「孫娘の顔見たさに、妄執を残して死んだのか。隠居夫婦は。それで不憫に思った貴方達は阿求氏に相談、長屋の一角に
匿った、と。美鈴は何故老夫婦といた?」
「たまたま、その、お仕事の合間を縫って人里にですね、お菓子を買い食いにいったら会いまして……それ以来です。お
孫さんが産まれる数日前に、畑仕事の最中お二人で落雷にあったそうで。そのあと直ぐ、亡霊となって現れたそうです。
亡霊と一緒だと、精気を吸われます。ご夫妻は人間だから、近寄れなかったんです。最初は一緒に暮らしていたそうです
けれど、奥様が体調を崩し始めて仕方が無く……。そのように、稗田の阿求さんに訊きました。慧音さん、どうか」
「落雷とはまた、不遇すぎるな……まぁとにかく人里に実害はない。しかし、何故相談しなかった。よりによって阿求氏
とは、ふむ。信用されていないのか私は」
「ちち、ちがいまさぁ。信用がある故にその、人里に被害が出そうなとうちゃんとかあちゃんの事、打ち明けにくくて」
「む。一理ある。私ならば早速博麗の巫女か坊主を呼んだところだな」
「……ごめんなさい、私が余計な事をしなければ……」
「とんでもない、とんでもないですみすずさん。遠くからは見ていたんです。お義母さんもお義父さんも、貴女が来る度
に、本当の孫が来たように喜んでいたの、知っていますから……悪いのは私達なんです」
「……」
皆言葉を失ってしまう。これは、だぁれも悪くない事件だ。元からいない夫婦がいなくなっただけの話。人里にも被害は
出ていないそうだし、決着は直ぐつくわね。
あー……問題は、この心底落ち込んでる美鈴か。最近疲れているなんて言ってたのは、無理して亡霊と長い時間あってい
たからかしら。大妖怪ならまだしも、なんだかハンパな妖怪だし……。それに妖怪って、心的なダメージが大きいと疲労
するんだったかしら……。
馬鹿ねぇ。ほんと、馬鹿ね。
「紅魔館組。もういいぞ。これから呉服屋まで、遺体を掘り返しに行く」
「そう、じゃあ私達は帰るわ。美鈴、行くわよ?」
「……はい」
美鈴は、長屋を名残惜しそうに眺めてから、振り切るようにして空へと舞い上がる。
現時刻一時五十分。美鈴帰還、事件解決。ちゃんちゃん。お終いよ。お終いにして頂戴な。
「……ねぇ貴女……なんで、あのお爺さんとお婆さんと、一緒に過ごす時間なんて、作ったのよ」
「……そんなの……たまたまです。たまたま見つけて、可哀想で……私が行くと、お爺さんもお婆さんも、凄く嬉しそう
だったんです。家族にも孫にもあえず、亡霊として存在しているのが、あんまりに哀れで……」
「……へんな子」
「ごめんなさい」
それから、数日がたった。美鈴はアレ以来、本当に元気がない。コッペパンなんて半分も残す。魔理沙には一撃でやられ
るし、私がナイフを投げたって交わそうともしない。
美鈴。残念な事にね、その気持ち私には全然解らないのよ。元から無い者が無くなった、むしろ人間としての秩序を取り
戻したハッピーエンドよ。人間ならまだしも、妖怪の貴女がいつまでもウジウジする事、無いじゃない。
気持ちは解らないのよ。
解らないけれど、でもねぇ。私は、身内が悲しんでいると、悲しいわ。
「ねぇ美鈴。はっきり言うけれど、私貴女の気持ちがさっぱりわからないわ。日常的に人を殺していると、何もかも冷め
ちゃってね。ひどい女でしょう?」
「咲夜さんは、いい人ですよ、ちょっといじわるだけれど。こんな使えない妖怪も、こき使ってくれます」
「自虐的ねぇ」
私はさっぱり解らないけれど、やっぱり身内が悲しければ悲しいし、全力でその因子を取り除こうと思ったりもする。
世は全て事もなし。世界はちっさいけれども、身内の世界を許容するぐらいのことは出来るわ。
元気の無い美鈴なんて、門番以下よ。だから、もうそんな顔は見たくないわ。
「ねえ美鈴。貴女さ、私の事どう思ってるかしら? 答えによって待遇が違うわ」
「……うーん。好きですよ。良い上司? です。なんだかんだ、気を使ってくれますし、いじめられますけれど……こん
な事言ったら自意識過剰なのかもしれませんけれど……咲夜さん、すっごく私に突っかかりますよね。まるで構ってほし
いみたいに」
「……」
「あ、ナイフは嫌です、痛いです」
「投げないわよ。なんだ、意外と解ってるんだなって、思っただけ」
「え?」
「たった一日程度だったけれど、門に門番がいないと、すごく腹がたったわ。妖精は何時の間にかどっかいっちゃうし、
使い物にならないし、埋め合わせ程度で、心もとないし。でも門に貴女がいると、やっぱり安心するのよ」
「はぁ……」
「貴女妖怪にくせに、人間っぽいじゃない? だからちょっと嫉妬したのよ。私が人間らしからぬだから」
「えぇと、前後がつながりませんが……」
「貴女見てると頭に来るけれど、貴女が居ない紅魔館はもっと頭に来るの。貴女がウジウジしてるとこっちまで気分が悪
くなるわ。安心するけど頭に来る。兎に角、貴女みたいな矛盾存在が、ここには必要なのよ」
「……」
「変な顔しないでよ。貴女の事嫌いなんて一言も言ってないわ。ええ、同僚として部下として友人として、貴女の事その」
「その?」
「……ああああもう、貴女は居なきゃダメなの、ここに。この門に。それ以下でもそれ以上でもないのっ」
「咲夜さん、なんで顔真っ赤うっ」
美鈴の喉元に、ナイフを突きつける。そう、この調子だ。
「私は、身内が悲しんでいるならば、全力を尽くすわ。今後もこの門で、へたれた門番を元気一杯やってもらう為に、咲
夜さんは一つ、手を打ちましたとさ。美鈴、目、開けちゃダメよ」
「え、瞑るんですか? はい、あ、こわいこわい」
私は時間を止めて、美鈴を背負って飛び立つ。ああもう、背中に当たる胸が憎らしい。
ちょっとばかり距離があって辛いけれど、美鈴が今後もへたれ妖怪をやる為には、仕方が無い。こんなグダグダぐにゃぐ
にゃの美鈴なんて、ちっとも美鈴じゃないもの。
私は全力で空をかける。
そして―――全力で冥界の門をぶっとばして、白玉楼まで訪れるのだ。
「美鈴、まだ目開けちゃダメよ」
「え? ここどこです? なんだか生暖かいところですけれど」
「幽々子、それで間違いないのね」
「まったく、冥界をナンダト思っているの?」
「甘いものは定期的に持ってくるわよ。取引取引」
「そうね、まぁそれならいいっかぁ」
緩いお姫様をだまくらかし、冥界の、転生を待つ魂を、二つほど集めてもらう。こんな事をさせているのだ、死んだ時は
閻魔様の裁きも甘んじて受けなきゃダメね。
「美鈴。目あけていいわ」
当然、亡霊の時代の記憶など、綺麗サッパリなくなっているのだろうけれど。
「……お爺さん? お婆さん?」
でもやっぱり……あれかしらね。魂に刻み込まれたものが、あるのかもしれない。二つの魂は、美鈴の周りを嬉しそうに
くるくると、くるくると回る。
「さ、咲夜さん……これ……これ……」
「そこの冥界の姫に感謝なさい」
「別にいいわよ。甘いものがあれば」
「あああ……」
私は、本当に、他人の事などどーーーーーでもいいし、他人が幾ら死のうがぜーーーーんぜんどうとも思わない。
けれども、身内のためになら、兎に角全力は尽くす。これで悲しい顔が少しでも綻んでくれるのならば、それでいい。
それに、少しは優しくしてあげるって、決めたものね。
これが何かしら解決になるとは思えない。死んだものは死んだもの。魂だけで、肉体がなくて、繋がりは薄い。
それでも、私が出来るのはこの程度だ。それで笑顔が少しの間でも戻ってくれればいい。
後は、面倒だけれど私が笑かしてあげるよう、努力する。
「ありがとう、ありがとうございます、咲夜さん!! 大好きです!!」
「は、はずかしい奴ねぇ」
でもまったくもって、本当に。いいやつすぎて、妖怪らしからぬ、妖怪よね―――紅美鈴。
了
なにはともあれ面白かったですよ
価値観の違い。人間と妖怪の差異。ずれた二人。
この関係は、非常に好みでした。
咲夜さんが面白すぎた。いいですね。このふたり。
お台所のアイテムっすか
あやちゃん、どうせ縛られているなら小悪魔にたべさせてあげて欲しかった
何で主役以外に目がいくかな自分・・・
こうゆうおもちゃ箱をひっくり返したみたいな、とりとめのない感じが好きです。
途中でちょっと流れを見失いがちになるところがありましたが……
むー、それを直すと良さが崩れるような気もする……
これまでの作品よりも非常に読みやすかったですし。
こぁとか文たんとかあちこちでみんなが何かと素敵でいいなぁー、おっぱい
文かわいいよ、あとおっぱい
有難う御座います、有難う御座います。
>途中でちょっと流れを見失いがち
俄雨の悩みで御座います……もう少し、取りまとめのある話を書こうといつも思うのですが、如何せん本人に自覚がなくても現れてしまうようで。
>お腹いっぱいいただきました
消化不良だけは、お気をつけ下さいませ。というかわたくしですね。胃薬どうぞ。
>どうせ縛られているなら
何故、思いつかなかったわたくしっ!
>いい門番
>いいメイド長
紅魔館ウフフ
読者様によき幻想郷ライフあらんことを。おっぱい。
グルグルか? いや、グリエルとイベルには付くけどルリンダ、チュリカ、フェイフェイには付いてないな……
もっと! もっとレミサクを!
美鈴まじ良い娘。
しかし、それ以上に身内以外に対する咲夜さんの非道さに憧れる。
台無し感がかえって良い作品に。
その中でも人妖に関する考察は、中々に興味深かったです。
人肉抜きにしても美鈴は何もかわらなそうな気がしますねw
楽しく読ませていただきました。おっぱい。
盛りだくさんなのにまとまっていて、
咲夜さんの人物描写も素敵でした。
おっぱい。
他のキャラもいい味出してました。おっぱい。
レミリアお嬢様も上白沢慧音氏も文ちゃんも名有りの妖精メイドも面白すぎる。
とても楽しかったです。おっぱい。
優しく暖かく気が回る、妖怪らしからぬ美鈴。
カリスマあふれる吸血鬼で、悪戯っぽいお嬢様。
素敵な紅魔館でした!