「幻想郷一億二千万人の皆様、お待たせしました。
最強の料理人を決めるべく開催された第一回幻想郷最強料理人対決!
観客席には料理人の勇姿を拝もうと、百人を超えるお客さんがここ紅魔館は特設スタジオに詰めかけております。
実況を務めさていただく射命丸文です。どうぞ、よろしくお願いします。
そして、解説をしてくださるのは幻想郷の歴史を知り尽くしたこの方!」
「上白沢慧音だ。料理は得意というわけではないんだが、呼ばれたからには恥ずかしくない程度に解説をするつもりでいる」
「解説もよろしくお願いします。さて、そろそろ料理人の準備も整ったようですし、第一回幻想郷最強料理人決定戦、まもなくゴングです!
まずは選手入場!
幻想郷一の食材キャラにして、西行寺幽々子の大好物!
食べられる側はもう嫌だと、今宵、作る側に回ったのはこの妖怪!
幻想歌姫、ミスティア・ロォォォォォォレライ!!」
「店を開いていたという情報も耳にしたことがある。今のところは優勝候補だな」
「続いては、料理の腕は保護者仕込みか?
過保護な主を置いてきて、この式神がやってきた!
八雲一家の隠し球! 橙選手!」
「確かに八雲藍の料理の腕は一流だが、その式も料理ができるという話は聞いたこともないな。未知数だが、楽しみでもある」
「そして最後に自信満々で現れたのは、最強を決める戦いにあたいがでないでどうするんだと名乗りをあげた一匹の妖精!
⑨ことチルノ選手!」
「論外と言いたいところだが、それなりに将来性のある妖精だ。次や次々回があるのなら、その時に期待することにしよう」
「言外に駄目だと言ってるように聞こえますが、ということは上白沢さんの予想ではミスティア選手だ断然有利と?」
「おそらくはな。やはり日頃から料理をしている者が勝つのは当然のことだろう。
橙選手が、どこまで八雲藍から料理を教えてもらっているのか。それもまた、見所の一つでもあるが」
「わかりました。では、時間も勿体ないですし、早速お三方には調理に入っていただきましょう!
制限時間は三十分。テーマは自由。時間内であれば、何品作っても構いません。
それでは、料理スタート!!」
「では、各選手の状況を伝える前に審査員の方々をご紹介しておきましょう。
まずは紅魔館特設スタジオの所有者でもある、レミリア・スカーレットさん」
「せっかく最高級のキッチンを用意してあげたのだから、それに見合うだけの料理を出してもらいたいものね」
「おおっと、いきなり料理人へのプレッシャーです。これがミスに繋がらないといいんですが。
そして、隣には美食家にして大食漢。西行寺幽々子さん」
「量があれば良いというわけでもないわよ。美味しくて、ボリューム満点なら言うことなしね」
「しかし時間は三十分。クオリティを維持しつつ、量を作るのは並大抵のことではないと思われます。果たして、この条件をクリアする選手は現れるのか。注目したいところです。
最後は、蓬莱山輝夜さん」
「姫だから味がわかると思ったら大きな間違いよ。だから、審査は全て永琳が行うから」
「どうして情けないことを真面目な顔して言ってるんでしょうか。私には理解できません」
「安心しろ、私にもできん」
「では気を取り直して、各選手の様子を窺ってみましょうか。ミスティア選手側のレポートを担当しているウドンゲさん?」
「はい! ええ、ミスティア選手なんですが……いきなり巨大な寸胴鍋を取り出しましたね。かなり大きいです。私一人ぐらいなら入るかもしれませんね」
「これは何をするつもりなんでしょうか、上白沢さん」
「よほど大きな材料を煮込むつもりなんだろう。だが、牛や豚の丸焼きなら聞いたことはあるが、それらの煮込みというのは聞いたことがない」
「謎は残りますが、次は橙選手側の魂魄妖夢さんにレポートをお願いしてみましょう。妖夢さーん!」
「二百由旬の一閃!」
「狐狸妖怪レーザー!」
「……どうやら、助太刀しようとした保護者と戦闘になっている模様です。
番組を見られているスキマ妖怪。迅速に彼女の回収をお願いします。
さて……橙選手は釜からご飯を取り出しましたね。これは茶碗によそうんでしょうか?」
「丼ものという可能性もあるな」
「おおっと、いま橙選手がご飯を茶碗へよそいました! どうやらこれが主食になるようです」
「和食か。基本だが、それだけに失敗すれば挽回しにくいぞ」
「さて、一方のチルノ選手なんですが、チルノ側をレポートしてくれる十六夜咲夜さーん!」
「はい」
「うわっ! どうしてレミリアさんの隣にいるんですか!」
「料理を作る人間として……あの空間にはいたくなかったのよ」
「どういうことでしょうか。様子を見てみたいと思います。
おっと、チルノ選手が蟹に手を伸ばしました!産地直送の蟹なので、かなり活きがいいですよ」
「……あの妖精は包丁を持っていないが、どうやって調理する気だ?」
「言われてみれば、チルノ選手はまったくの素手。調理台にはまだ何も用意されていません!
あっと、ここで蟹がチルノ選手に腕ひしぎ十字固め! チルノ選手、涙目で床を叩いております。
そして、セコンドの大妖精からタオルが投げ入れられた!
チルノ選手、ここでまさかの敗北です!」
「まあ、料理対決自体の勝敗はまだついていないのだが」
「その通り。チルノ選手には気を取り直して料理に戻ってもらいたいと思います」
「放送席、放送席。ミスティア選手に動きがありました」
「先程巨大な寸胴鍋を用意していたミスティア選手ですが、いつのまにか鍋に湯が張ってありますね。ああ、ぐつぐつと沸騰しています」
「だがダシになりそうなものは入っていないな? やはり何かを煮る為に用意したのか?」
「そのことですが、試合前のインタビューで、ミスティア選手は根性を見せてやると語っていました」
「ウドンゲさんのレポートでした。
果たして、その言葉にはどういう意味が――おおっと!
どうしたことか、いきなりミスティア選手が服を脱ぎ始めたぞ!
観客席のボルテージが一気に高まり始めた!
警備員は至急、観客席から男を排除してください。特に、妙なテンションで自分も服を脱ごうとしている眼鏡の男を早く」
「いやしかし、これは一体どういうことだろうな?」
「私にもまったくわかりません。ミスティア選手、身体にタオルこそ巻いてはおりますが、素肌の殆どを露出しております。これには、西行寺幽々子も唾を飲んだ!」
「どっちの意味でなのか、まあ大体の予想はつくが」
「そしておもむろに、ミスティ選手、巨大な寸胴鍋の中に身体を沈めたぁぁぁぁぁ!!
誰が予想しえたでしょうか、まさか自分をダシに使うだなんて!」
「これは盲点だった。確かに、彼女なら良いダシがとれそうだ。
西行寺幽々子が度々狙っていることからも、それがわかる」
「ミスティア選手、歯を食いしばって熱湯に耐えています!
そこまでして勝ちたいという精神に、観客席では涙を流す者も現れ始めました!」
「おや、橙サイドでも動きがあったようだぞ」
「見てみましょう。
橙選手、七輪とサンマを取り出しました。これは、焼き魚を作るつもりでしょうか?」
「やはり和食で責めてくるつもりのようだ。統一性もあるし、ミスティア選手が失敗すれば、あるいはここが優秀する可能性も大いにある」
「橙選手、悩ましい顔で焼かれていくサンマを見つめているぞ!
サンマの油に、猫の本能が刺激されているのか!
ミスティア選手と橙選手は順調に調理にとりかかっているようですが、問題はチルノ選手。先程の敗戦から立ち直っているといいのですが」
「いちごシロップに、かき氷機。どうやらかき氷を作るつもりらしいな。順当な判断だ」
「氷の妖精ですからね、氷の料理はお手の物でしょう。だとしたら、先程の蟹は何だったのか。不思議です」
「チルノ選手の前のボールに水が張ってあるが? ひょっとして、あれを凍らせて氷を作るつもりか?」
「氷もこちらで用意してあるんですが、氷精としての矜持でしょうか。チルノ選手は自ら氷を作るつもりです。
スペルカードを取り出して、発動させたぁっ!
アイシクルフォール-Easy-!!」
「バケツが安地に置いてあるぞ」
「シロップとかき氷機は凍っても、水はまったくそのままだぁっ!
見かねたセコンドの大妖精から、再びタオルが投げ込まれた!」
「何に対するギブアップなんだ?」
「本当にチルノ選手は料理を作られるのか!
この後も目が離せません」
「ますます熱気を増していく紅魔館特設スタジオ。ここまでを振り返って、どうですか上白沢さん」
「ミスティア選手がダシをどこまで上手く使えるかということと、橙選手が失敗をせずに料理を完成させられるかが勝敗の別れ目だろう」
「チルノ選手はどうですか?」
「どうと言われても……おい、料理せずにアイス食ってるぞ」
「……まあ、放っておきましょう。多分、彼女は彼女なりのやり方があるのです。
さて、それではミスティア選手の様子を見てみましょうか。
ウドンゲさーん!」
「寸胴鍋に入っていたミスティア選手ですが、ついさっきようやく鍋から出てきました。 身体中が真っ赤で、ちょっと良い匂いがしていました。今は服を着て調理を再開しています」
「ありがとうございます。妖夢さんはまだ戦ってるみたいですから、勝手に様子を見てみることにしましょうか。
橙選手、あれは味噌汁をつくっているんでしょうか?」
「おそらくそうだろう。豆腐にワカメ、あまり具材は多くない。失敗しない為だろうな」
「これはかなり期待できそうです。
……おや? そういえば先程焼いていたサンマはどこにいったんでしょうか?
用意されていたお皿の上には骨すらありません」
「食べたな」
「猫まっしぐら。橙選手、どうやら試食を前にして自ら料理を食べてしまったようです」
「これは試食に大きな影響を与えるな。さすがにご飯と味噌汁だけでは、評価も厳しくならざるをえまい」
「橙選手、大きな痛手をこうむってしまいました。
さて、チルノ選手はどうしているでしょうか?」
「まだアイスを食べているな。ふむ、ブルーハワイだ」
「放っておきましょう」
「放送席、ミスティア選手なんですが、新たに鳥肉を持ってきました」
「おおっと、これはどういう気まぐれだ! 夜雀のミスティア選手が、自ら鶏肉を持ってくるなど考えられないことです!
ああ、ミスティア選手泣いてますねえ」
「泣くならどうして持ってきた?」
「涙を拭いながらも、いまミスティア選手が鶏肉を真っ二つに……切る!
まるで大切な誰かを殺してしまったかのように、ミスティア選手泣き崩れました」
「鶏肉は、先程のダシに入れるつもりなのか?」
「おそらくそうでしょう。ああ、やはりミスティア選手、切った肉をダシの中に放り込んだ」
「濃厚な味にはなるかもしれないが、少し単調で脂っこすぎる気もするな。これは、橙選手の勝率がぐっと上がったかもしれんぞ」
「問題の橙選手ですが、ようやくミソを溶かし始めたようです」
「多少溶かしすぎの気もするが……まあ許容範囲か」
「各選手ともラストスパートに入ったようですが、チルノ選手はどうしているでしょう?」
「ようやくフライパンを取り出したようだ。残り時間は……」
「五分です」
「さて、ここから何を作るのか。かなり手際がよくなければ一品作るのも難しいぞ」
「ここにきて動きを見せたチルノ選手。出来上がりに期待しましょう!」
「ここでゴング! 続いてはいよいよ試食タイムです。
まずはミスティア選手!」
「鳥のスープに鳥肉の団子。鳥づくしというコンセプトは認めるが、いささか味が単調に思えるな。審査員はそこのところをどう評価するのか。楽しみでもある」
「なるほど。おおっと、上白沢さんの言葉が正しかったのか、審査員が一様に難しい顔をしております。
どうですか、審査員の皆さん」
「マズイ」
「ダシは最高なんだけど、これはちょっとねぇ……」
「どう、永琳?」
「どうしても鳥づくしにしたかったのなら、調味料か薬味で工夫するしかありませんね。スープか団子のどちらかの材料を変えるのが一番の手段だとは思いますが」
「かなり辛い評価となりました。苦労して作ったミスティア選手、涙にくれております」
「あれだけやってこの評価なら泣きたくもなるな」
「では、続いて橙選手の料理です。
これは、いかにも朝の食卓といった感じですね。焼き魚が無いのは少し寂しい気もしますけど」
「そこが審査にどう影響するのか。だが、見た感じではそれほどミスらしいミスもなかった。まあ、食べられないことはないと思うぞ」
「審査員も……ああ、苦笑いしていますね。マズイわけではないけれど、と言ったところでしょうか」
「悪くは無いけれど、それだけね」
「う~ん、やっぱりオカズが一品ぐらいは欲しいわ」
「どう、永琳?」
「ご飯が少し固いですね、炊くときの水の分量を間違えたんでしょう。それと、やはり味噌汁が少し辛い。ダシもしっかりととれてません。ただ、努力は認められます」
「評価は苦いですけど、橙選手は満足気です。まあ、初めての料理という考えれば、これだけ作れたのはむしろ凄いことだと言えます」
「それにしても、輝夜は何の為にいるのだ? 直接八意医師を座らせればいいだろうに」
「そして、最後はチルノ選手ですが……えっと、これはなんでしょうね?」
「フライパンだな」
「ええ。ただ、中には何も入っていないようですが……
ああっと、いま情報が入ってきました。チルノ選手の料理はフライパンだそうです」
「だとしたら、何故チルノ選手はさも頑張ったという顔をしているのか、私には理解できん。フライパンは調理器具だ」
「まさかの展開ですが、一応は料理として出された以上は試食しなくてはなりません。
急遽、レミリアさんの妹の協力でフライパンが粉々に砕かれました」
「ああ、やっぱり食べるんだ。審査員の胃が心配だな」
「審査員一同、青い顔をしております。それでも、食べてください」
「鬼か、お前は」
「天狗です」
「血にも鉄は混じっているけど、これは違う……」
「さすがの私もただの鉄は食べたくないわ……」
「助けてえーりん……っていねぇ!」
「ようやく集計が出たようです。かなり難航しましたが、結果発表に移りたいと思います」
「一人凄いのがいたからな」
「それでは発表です。
第一回、幻想郷最強料理人対決、栄えある優勝者は……
橙選手に決定いたしました! おめでとうございます」
「どこか優れていたというよりは、減点が一番少なかったからの優勝といったところか。まあ、一番マシな料理ではあったしな」
「優勝した橙選手には特製フライパンを送るつもりでしたが、チルノ選手が料理に使ってしまいました」
「優勝商品だったのか、あれ!?」
「というわけで、橙選手には名誉だけが送られます」
「本人は喜んでるようだし、まあいいか」
「本来なら、ここで審査員の方々にお話しをうかがいたいところですが、生憎と全員が謎の腹痛を起こして退場してしまったので、八意永琳さんからお言葉を頂戴したいと思います」
「いや、別に謎ではないだろう……」
「えー、ある意味では、非常にハイレベルな戦いでしたが、ここに決着がついたことを嬉しく思っております。
これを機会に、幻想郷の方々も広く料理に興味を持ってくださるのなら、この大会を開催した意味もあるというものです。
選手の皆様、本当にご苦労様でした」
「……開催者は彼女だったのか?」
「いえ、違います」
「……ふうむ」
「それでは、この辺で時間もなくなってきたようなので終わりたいと思います。
最後に、全体的に見てどうでしたか、上白沢さん」
「確信したことならある。第二回は絶対にない」
「私もそう思います。
第一回にして最後の幻想郷最強料理人対決を制したのは橙選手でした。
ここまでご覧になられた方、どうもありがとうございます。
では、皆様。さようなら」
にしても最近料理物は流行っているのでしょうか?
……チルノ。あんたって娘は。
笑いました。
提出後の皆さんの対応というか反応はとてもよかったけど。
みすちー、頑張った、頑張ったよ
どきどきしたよ
このままコントの台本に出来そうなレベル。絵を想像するとますます破壊力アップです。