Coolier - 新生・東方創想話

FRIEND ~SIDE Alice

2007/06/12 08:56:43
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 魔法の森の奥深く、そこに、アリスという魔法使いが住んでいます。
 アリスは一人で暮らしています。家族も友達も近くにはいません。友達の方は、そもそも最初からいなかったような気もします。けれど、アリスは寂しくありません。そんなものは自分には必要ないと思っていたし、その代わりになる、たくさんの人形達がいたからです。


 だから、アリスは寂しくありませんでした。


 少なくとも今までは。そして多分これからも。





 あるとき、アリスの家のドアが、こんこん、と音を立てました。誰かがノックしているようです。
 誰だろう、とアリスは思いました。
 訪ねてくる人は自分にはいないし、そもそもここに家があること自体、知っている人はいないはずだからです。
 アリスはいぶかしみながら、ドアを開けました。

「よう、遊びに来たぜ」

 魔理沙でした。何故こいつが、と一瞬考えましたが、そういえば、この間の事件で自分の家は魔法の森にある、と口を滑らせてしまったのを思い出しました。
そうです。この魔法の森に住んでいるのはアリスとこの変わり者の魔法使い、霧雨魔理沙くらいしかいないのです。自分の家以外の家があれば、それがきっとアリスの家なのだろう位はわかりそうなものです。

 しかし、何故ここに来たのでしょうか。
 魔理沙とはあのとき一回会っただけ。友達どころか知り合いの域にすら達していません。現にアリスは顔を見るまで魔理沙のことを忘れていました。それに、魔理沙のことを思い出したついでに、自分とは気が合わなさそうだな、とそのとき思ったことも思い出しました。
 アリスはどうしようかと思いましたが、まあ追い返すのもアレなので、いちおうはお客様、とりあえずそれなりにおもてなしをすることにしました。


 次の日、また魔理沙が来ました。
「ちょっと魔法の実験に付き合ってくれ」


 その次の日、またまた魔理沙が来ました。
「ずっと家に閉じこもってるのもアレだろ? たまには外に出ようぜ」


 その次の日も魔理沙が来ました。その次は来なくて、その次の日に来ました。さらにその次の日も。その次の次の日も。
 ほとんど毎日のように魔理沙は来ました。
 最初こそアリスは、たまにはこういうのもいいかなと思ってましたが、さすがにうんざりしてきました。
 こうも毎日来られたら、新しい人形作りや、自分の魔法の実験や、その他にもやりたいことがおちおちできないからです。



 そしてまた、魔理沙が来ました。アリスはもう限界でした。
「なあアリス、今日は……」
「帰って」
 アリスは魔理沙に背を向けたまま、すぐさま刺のような言葉を言い放ちました。
「私は忙しいの。あなたに構ってる暇なんてないわ」
 魔理沙の顔は一切見ません。
「……そっか、じゃあ、また明日」
「来ないで」
 また、言い放ちました。
「……もう来ないで。迷惑なの、あなた」
 とてもとても、冷たい言葉でした。
「……っ! ああそうかよ!! はっ、二度とこんなとこ来るもんか!」
 魔理沙はどうやら怒ったようで、ドアをバタンと勢いよく閉め、出て行きました。


 アリスは一人、残されました。いえ、残されたというのはおかしいでしょう。ここはアリスの家なのですから。
 何だか少し悪いことをしたような気もしますが、アリスは気を取り直して、前々から考えていた新しい人形作りに取りかかりました。


 次の日、魔理沙は来ませんでした。
 アリスは気にせず、せっせと人形を作ります。


 その次の日、魔理沙は来ませんでした。
 アリスは人形作りを続けましたが、なんだか思うようにいきません。


 さらにその次の日、魔理沙はまだ来ていません。
 アリスは人形作りを続けていましたが、どうにもこうにもうまくいきません。
 どうしてだろうと考えてみると、何故か途中で魔理沙のことが浮かんできます。
「ちがう、ちがう、あいつなんか、あんなやつなんか関係ない」
 頭を振ってその考えを振り払おうとしましたが、一向に離れてくれません。それどころか、どんどん魔理沙はアリスの思考を覆っていきます。
 それと同時に、今まで感じたことのない感情が、じわじわとアリスの心を蝕みます。










――サミシイ。









 やがて、ぽとり、と何かが落ちました。
 アリスの瞳から、涙が落ちました。
「え、うそ、なんで、どうして」
 ぽたり、ぽたり、涙は続けて落ちていきます。止まってくれません。
 アリスはわけもわからず、しばらく泣き続けました。
 そして、泣き疲れたのか、そのまま眠ってしまいました。








 夢を見ました。
 夢の中のアリスは、幼い姿をしていました。
 アリスから少し離れたところで、同じくらいの姿の子どもたちが遊んでいます。
 アリスはその手に人形を持って、その光景を眺めていました。
 しばらくすると、そのうちの一人がアリスの方に駆け寄ってきました。
「ね、いっしょにあそぼう?」
 そう言って目の前の女の子は手を差し出しました。
 アリスはその手を取るかどうか、迷ってしまいました。どうしたらいいのか、わからなかったからです。
 そうこうしているうちに、女の子は別の子に呼ばれました。
 女の子はそっちの方に走っていって、それきりアリスの方には来ませんでした。
 アリスは、ひとりぼっちになりました。









 アリスは目を覚ましました。
 だいぶ眠っていたのか、窓から夕陽が差し込んできています。
 ぼおっとした頭で、アリスはさっき見た夢を思い出してみました。
 あの夢で、自分は一体何を感じたのだろうか。そんなことを考えて、考えて考えて、何度も考えて結局出た答えは、寂しい、の一つに尽きました。

 ひとりぼっちになって、寂しかったから。

 ひとりぼっちに戻って、寂しかったから。

 魔理沙が来なくなって、寂しかったから。


 結局、心の底ではアリスは寂しいと思っていたのです。
 謝ろう、と思いました。
 そうだ、イライラしてたからってあんなひどいことを言ってしまったんだ、と今更ながら反省しました。


 と、ドアがノックされる音が聞こえました。
 ひょっとしたら、と期待を込めてアリスはドアに手をかけます。
 案の定、そこには魔理沙がいました。なんだか、泣いていたかのように少し目が赤くなっています。
 しかし、今更どんな表情をしたらいいのか、どう謝ればいいかと考えてしまい、結局顔をそらして、「入って」とだけしか言えませんでした。
 そのまま二人は、テーブルにお互い向かい合うように座りました。
 二人ともしばらく黙っていましたが、やがて、示し合わせたわけでもないのに、同時に「ごめん」と言いました。

「…………」
「…………」

 何だか気まずい空気が流れました。
「……魔理沙から先に言って」
 このままじゃあ何も始まらない、と思って、アリスはうながしてみました。
 魔理沙はそれに答えます。
「……えと……、あんなに毎日来たら、そりゃ、迷惑だったよな。私、自分のことばっかりで、アリスのこと、全然考えてなかった。ごめん」
 魔理沙はぺこりと頭を下げました。
「ううん、私も……あなたに、ひどいこと言っちゃった。私こそ、ごめん」
 アリスも同じように頭を下げました。
 そして、一番聞きたかったことを聞いてみました。
「でも、何であんなに毎日来たの?」
 その言葉に魔理沙はうっ、とうめきました。
 魔理沙は顔を赤くして、しばらく口をもごもごと言いにくそうにして、

「…………ちになりたかったから……」

 やがて、蚊の鳴くような声で呟きました。
「え、何?」
 よく聞こえなかったので、アリスは聞き返しました。
 魔理沙はますます顔を赤くし、
「と、友達になりたかったんだよ! 悪いか!」
怒鳴るような声で言われました。そのあと魔理沙は大声を出してしまったことに慌ててか、
「ほ、ほら、家だって近いし、魔法の実験とかも協力できるし、マジッックアイテムの貸し借りとか、それにほら、気が合いそうだったし!」
言い訳のような理由付けを始めました。
 それを見ていたアリスは始めあっけにとられていましたが、慌てる様子を見て、何故だか笑いがこみ上げてきました。なんだか、かわいく見えたのです。
「わ、笑うなあっ! ーーっ! とにかく!」
 アリスの前に、魔理沙はばっ、と手を差し出しました。


「……わ、私と、友達になってくれないか?」


 あの夢と同じように。
 言葉は違うけど、今度はとまどわないで、しっかりと。

 アリスはにこりと優しく微笑んで、

「こちらこそ、よろしく」

ぎゅっと、その手を握りました。
というわけで五作目となります。柊一です。
今回の作品、一つの物語を二つの視点で描いてみました。
もともとこれはこのアリス編のみで出そうかと思ったのですが、ふと魔理沙の視点で書いたらどうなるだろうと魔が差し、勢いだけで魔理沙編を書き上げ、このように二つで一つの物語になっています。
しかし、それぞれの物語もそれ自体でいちおうは独立させてあります。
正味独立できてるか不安ですが、ええ。
一つ一つに感想つけてもよし、二つとも見てから総合で感想を書くもよし、こんなもんに感想なんか書くかー!などどうぞご自由に。
それではまた。
6/12 誤字指摘ありがとうございます。修正しました。
柊一
http://www.eonet.ne.jp/~hiiragilodge222/
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コメント



0.540簡易評価
2.70名前が無い程度の能力削除
童話風の語り口が心地よいです。

>とまどらないで
とまわどわないで、では?
3.無評価名前が無い程度の能力削除
うわ、誤字指摘したつもりが別の誤字になってる…_| ̄|○
×とまわどわない
○とまどわない
4.100時空や空間を翔る程度の能力削除
友達から始めよう。
何時かは親友になって行きますよね
お二人さん。

仲良き事は・・・・