Coolier - 新生・東方創想話

宝物 3

2007/06/12 06:18:16
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……

………



「…お?アリスじゃないか。こんなところで会うなんて奇遇だな」

「久しぶりね、魔理沙」

「こんなところに何の用で来たんだ?」

「あんたの家に何度いってももぬけの殻だったからね…探したわよ…」

「そうか。いやあ人気者は辛いぜ。愛の告白か?」

「……あんた借金取りにもその台詞言いそうね…。それはともかく、
私がわざわざあんたを追ってきたといえば、心当たり位あるんじゃ
ないの?」

「ない」

「…………」

「ないぜ」

「あんたねぇ…この前一緒に見つけたオーブのことよ!記憶力なくなったの!?」

「あーこのオーブか。これは結局私のものになったじゃないか」

「あ、あの時はあんたがいきなりじゃんけんなんてしてくるから…」

「お前後出ししてしかも負けたじゃないか」

「うぐっ…あ、あれはあんたが突然『じゃ~んけ~ん』なんて言い
出すからじゃない……!とにかくあんなの無効よ無効!!」

「えー」

「えーじゃない!わざわざ出向いてきてやったのよ。さっさと勝負
して、オーブをこっちに渡しなさい!」

「お、やる気か?」

「愚問ね。おとなしくオーブを差し出すか、ぼこぼこにやられた後
オーブを差し出すか、二つに一つよ」

「おとなしく明日あたりにショートケーキとチーズケーキを私に作
ってくれるか、ぼこぼこにやられた後明後日あたりにショートケー
キとチーズケーキとアップルパイとシュークリームと…」

「1日ずれてるのはなんでなのよ」

「だってうめきながら療養する日が必要じゃないか」

「………」

「………」

「……ふ、ふふふふ…」

「んふふふふ~」

「………」

「………」

「…これでもくらいなさいっ!!」

「なんの、お返しだぜっ!!」

 張り詰めた緊張感(?)がはじけ、あたりは一面弾幕景色となった。

 お互いの牽制の攻撃を、アリスはするりするりとなめらかな動き
で、魔理沙は鋭い直線的な動きでかわしていく。

「…ったく、毎度毎度黒いアレに似てちょこまかすばしっこいわねぇ…。
今私は暇じゃないから、さっさと決めるわよ!」

 そしてアリスがばっと懐から取り出した1枚のカード。スペルカードだ。

「早速来たな…」

 それを見て、にやっとする魔理沙。

「おいアリス、今度は骨のある奴頼むぜ。この前の奴はあくびが出
る出来だったからな」

「そんなこと言ってられるのも今のうちよ…。──スカッタリング・バレット」

 優雅に、そして踊るように。なめらかにくるりと身を翻しながら
スペルの発動動作を行い、それと共にアリスはスペルカードに力を
与えるコマンドワードをつぶやく。

「─────」

 雷鳴のような音とともに辺りの世界が薄暗くなり、そして、アリ
スの手の中のスペルカードが発動した。アリスを中心として、魔法
陣の円が浮かび上がる。それと同時に、アリスの正面と斜め前、3
箇所に白い光球が現れた。

「──?」

 …そして、その光球からから米粒弾が生み出され、ゆっくりと魔
理沙に向かっていった。魔理沙はしばらく様子を見るが、米粒弾以
外は現れない。ようやく自分のところにまで到達した米粒弾を避け
てみても、それは単なる米粒弾だった。

「…おいおい、これで私を倒そうっていうのか?これじゃあまだ前
のほうがまし…」

 そこまで言って、魔理沙は気づく。──段々と、弾幕の密度とス
ピードが上がっている…?

 アリスに目を向けると、依然としてスペルを唱え続けている。詠
唱を続けることでスペルカードの力を上昇させているのだ。

「…なるほど、な…っ」

 次々に迫り来る米粒弾を避けながら、魔理沙はつぶやく。単なる
米粒弾の乱射。…の筈なのだが、その量とスピードが桁違いのレベ
ルに高まっていくにつれて、受けるプレッシャーがどんどんと強く
なっていっていった。

「…ちと甘く見すぎたか…しまったぜ…」

 通常、この手の乱射系の弾幕というものは、発射側の術者も全て
の弾1つ1つにまで気を回すことはできない。だから、どうしても
しばらく経つと弾の出方とスピードの緩急がパターン化してきてし
まうのが常である。それゆえ、いち早くその法則性を暴いてその隙
を突くのが定石なのだが…

「……っ…どこにそんなもんがあるんだよっ…」

 魔理沙には、全くその兆候すら見つけられない。弾のスピードも
方向も、規則性のかけらも見つけることができなかった。完全なる
ランダムとしか自分には見えない。…しかしそのはずなのに、妙に
自分に迫ってくる弾幕は他より濃い気がするのだった。これは、ア
リスがこの大量に発生させている弾1つ1つにまで意識を向けてい
るからに他ならない。見た目の地味さとは正反対に、全く常識外れ
の弾幕だった。

「くそっ…この偏執狂っ……」

 あっという間に、反撃する余裕はおろか、目の前の弾を見て何と
か避けるしかできなくなってしまっていた。弾幕の密度が濃くなる
前に、自身の全力で一か八かの勝負を挑む──。唯一の勝機を、魔
理沙は逸してしまっていたのだ。

「……どう?この弾幕。こういう力勝負っての、魔理沙は好きなん
じゃないの?」

「…っ……くっ……」

「……あらあら、私の言葉に答えることもできなくなってるってわ
け?なかなか楽しい状況ね~」

「………」

 魔理沙は必死に目の前に迫りくる弾幕を避け続けている。

「…さあ、そろそろ降参したらどう?この弾幕を避け続けてるのは
もうそろそろ限界でしょ?」

「………」

 …魔理沙はまだ避け続ける。目をしっかと見開いて、弾の一つも
見逃さないように。

「…ねえ、さっさと『まいりましたアリスさま』っていいなさいよ
…。いい加減にしないと気が狂うわよ?」

 ………まだ避ける。かすった弾で服を破き、トレードマークの三
角帽子を飛ばされながら。

「………ちょっと……いい加減にあきらめなさいよ…ほんとに狂う
んだから…」

 ……瞬き一つしない魔理沙の表情にアリスは不安になった。…普
通の人間なら、いや、普通の妖怪だって、ここまで強化されたこの
弾幕をこれだけ避け続けていたら、間違いなく発狂している。魔理
沙が規格外の存在だったとしても、これ以上続けていれば、早晩同
じ道を歩むことだろう。

「……聞きなさいよ魔理沙!さっさと負けを認めなさい!」

 目を見開いた表情を変えないまま魔理沙はいまだに避け続ける。
これはもしかして、入り込みすぎてトランス状態になっているんじ
ゃないか…アリスは背中に冷水を浴びせかけられたような気持ちに
なった。

「…ちょ、ちょっと…魔理沙大丈…」

 そしてアリスがスペルを解きかけ、一瞬弾幕が緩んだ瞬間。

「──」

「…っ…なっ…!」

 ─その瞬間。今まで表情を変えなかった魔理沙が、にやり…と笑った。

「しまっ…くそっ…」

 必死に解きかけたスペルを立て直すアリス。その隙はほんの一瞬。

 …しかし。

「遅いぜ」

 その一瞬の隙を魔理沙が逃すはずはなかった。魔理沙のかざした
その手から、光の奔流がほとばしる──

「あ……あああああっ!!」

 アリスの目の前を埋め尽くす光。その膨大な光の渦にアリスは飲
み込まれていった。




「……ふぅ…」

 頭を振りながら、魔理沙は一息ついた。…正直、あのまま行けば
完全に負けていただろう。

「…さて、早いところスペルを解かないとさしものアリスも跡形な
くなっちまうな……って、え…」

「…………ぁぁぁぁぁ…」

 …暴力的なまでの光の渦。その渦の中で、小さいが、力強い、ア
リスの声が聞こえる…

「な…まさか、マスタースパークをまともに受け止めてるのか…!?」

「……ぁぁぁああああ……!!!」

 …光に飲み込まれながらも、アリスはマスタースパークを受け続
けていた。

「お、おい、嘘だろ…?」

 マスタースパークを放った時点で勝利を確信したのに、まさかこ
んな冗談みたいな展開が待っているとは。

「全くお前もあきらめが悪いぜ、アリスっ…!」

 魔理沙の魔力が尽きるのが先か、アリスが光に飲み込まれるのが
先か。最後の最後で、またも力と力の勝負となった。


          - * - * -


「………」

 アリスは魔力を使い切ったことによる、強烈な虚脱感に身を包ま
れていた。…もう腕一本持ち上げる気力すら残っていない。服もぼ
ろぼろ。マスタースパークを受け止めるなどという無謀なことをす
ればこうなるのは当然だった。

 …と、箒にまたがった魔理沙が降下してきて、その傍らに降り立った。

「…私の甘さが敗因よ」

 魔理沙への言葉だったのか、それともひとりごとだったのか。空
を見つめたまま、アリスはそう一人ごちた。負け惜しみである。
…であるが、アリスは言わずにはいられなかった。

「いやー、マスタースパークを受け止められた時には自分の目を疑った」

「………」

「…それに、スカッタリング・バレットだったか?あれには度肝を抜か
れたぜ。まさか単純な弾幕の基本形で押してくるなんてな。…そし
て、単純なのに、それを圧倒的なパワーと卓越した技術でで強力な
攻撃に仕立て上げる。あんなにしびれたのは本当に久しぶりだった」

「………」

「…おっとと、久々の仕事があるんだった…。アリス、すっごく楽
しい勝負だった。また勝負したいんなら、いつでも受けて立つぜ。
その時には正面からぶつかってあのスペルカードを打ち破ってみせ
るからな。覚悟しろよ!」

 にっと笑うと、魔理沙は再び箒にまたがる。

「んじゃなー……」

 手を振りながら、魔理沙ははるか上空へと飛び上がっていった。

「………」

 そして、魔理沙の姿が米粒ほどの大きさになり、視界から消えた頃。

「………なによ、完敗じゃないのよ………」

 アリスははぁとため息をついてつぶやいたのだった。


<続く>
続きます。
ぽい
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コメント



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2.503削除
「宝物2」とは別の時系列の話なのでしょうか?

弾幕の描写は難しいものですが効果音付きで弾幕の展開が目に浮かぶようでした。