#「妖夢×幽々子で駄目なお方はプラウザで戻る事をお勧めします」
従者は主に一生仕える。
従者は主に絶対服従である。
従者は主に――――――
冥界でも春という季節が過ぎ、西行桜以外、桜は散ってしまった。
徐々に夏へと向けて季節が動き出していた頃。
妖夢はいつものように庭の手入れをしていた。
変わらぬ日々、変わらぬ行い。
「妖夢~」
「なんでしょう。幽々子様」
庭の手入れをしている妖夢に、白玉楼の主君である幽々子様が、縁側に立ち、妖夢を呼んでいた。
主人である幽々子様が、私を呼びつけるときは決まって何か、食べ物のお願いか、無理難題な物のお願いかのどっちかである。
白玉楼の庭の手入れをしていた妖夢は、自分を呼ぶ幽々子の元へと駆け寄る。
「水羊羹が食べたいわ」
駆け寄ってきた第一声が決まって呼びつける前者であり、内心ほっとしてしまう。
食べ物のお願いをされるときはまだいい。もうかなり前の事になるが、春を獲って来いと言われたときに比べれば何十倍もマシというものだ。
「わかりました。庭の手入れが終わり次第、人里に買いに行ってきますね」
「どれぐらいで庭の手入れは終わるのかしら?」
すぐに食べたいのだろうか。時間まで聞かれ、今さっきまでやっていた庭の手入れが後どのくらいで終わるか時間を計算する。
「そうですね…三時のおやつまでには、用意出来ると思います」
梅雨の季節にしては、珍しく快晴なのもあり、このまま雨でも降ってこなければ問題なく昼を少し過ぎた辺りで終わる事だろう。
「そう、じゃあそれでお願いね~」
ニコリと笑う幽々子様の顔を見て、心臓が少し跳ね上がる。
顔には出ていない、この感情は、知られてはいけない感情なのだから。
縁側の奥へと引っ込んだ幽々子様を確認してから、小さくため息を吐く。
あの御方を、先代の庭師に託されてから数年。
私は物心ついた時から、あの方に仕える為に生きることを教えられた。
この命は、主君の為にあると。
けれど、そんな事は些細な事かもしれない。
どれだけ無理難題なお願いをされても、どれだけ無茶な要求をされても。
私は、幽々子様の事が、大好きなのだから。
「まいど」
庭の手入れは自分の見立て通りの時間で終わり、人里の菓子屋で水羊羹を買って、後は戻るだけだ。
半霊である私も、お金さえあれば買い物を出来るのだから、これに関しては顕界と冥界の境界の薄まりに感謝する事である。
以前は、大変だった。幽々子様のあれを食べたい、これを食べたいは、今に始まった事じゃなく、入手が今よりはるかに困難だった。
買い物も済ませ、冥界への帰路を辿っていると、小さな子供達が、はしゃぎ走っていくのにすれ違う。
皆一様に元気な顔をしながら、無邪気に駆けていく。
「おや、また主人のお使いか?」
それを少し眺めていると、後ろから声をかけられた。
振り返ってみれば、もう何度か、幽々子様のお使いで、人里で会う顔馴染みの者が立っていた。
「慧音……か」
半獣でありながらも、人里に住む上白沢慧音。
人間を守る事を良しとする、妖怪では異端な方であるが、妖夢は人里に顔を出す度に慧音とよく会うぐらいの仲であった。
「さっきの子供達は慧音の所のか。皆、元気ね」
「寺小屋で教えている時は、あそこまで元気ではないのだがね」
少し苦笑いをしながら慧音も子供達が駆けて行った方へと歩いていく。
「声を掛けた私が言うのも何だが、子供達に連れ添ってやらねばならないのでな。また」
すれ違う前に妖夢に一礼して、慧音も歩いていく。
私はそれを少し眺めて、再び冥界の帰路へと歩く。
時々、ああいう無邪気な子供を見ると思ってしまう。
あんな風に、幽々子様の前で私もなれたらと。
「幽々子様―」
白玉楼に戻り、自分が言った時刻を守るように居間で新茶と先ほど買ってきた水羊羹を一口サイズに小切りにしてから皿に移して置いて、準備が整い、きっかり三時に幽々子様の自室に声をかける。
「……幽々子様?」
襖を開け、幽々子の自室へと入る妖夢。
「…すぅ」
幽々子様の自室は、必要な物しか置いていない。
着替えの服に寝るための布団、はっきり言って、この二つのみだ。
その二点しかない筈の部屋で、幽々子は座布団の上で丸まって寝ていた。
「………はぁ」
自分で水羊羹を食べたいと言って寝ている主人にため息を吐きつつ、起こすか起こさないかを考える。
「……ん?」
くるまって寝ている幽々子様の手に、何か本が握られているのを見る。
「なに…?これ」
幽々子様に悪いとは思ったが、好奇心に勝てずにその本を、幽々子様を起こさないようにしながら手に取ってみる。
「……」
外界の本だろうか?字は読めないが、そこには黒い着物を着た女性がいたり、ドレスを着飾った女性の写真が写っていたり、お寺の写真や、何処かの式場らしき建造物の写真が写っていた。
「……」
多分幽々子様の親友である、紫様が持ってきた本だとは思うのだが、これを読み耽っておられて寝てしまったのだろうか?
その本をそっと寝ている幽々子の手に戻してから、肩を揺する。
「幽々子様、起きてください」
「……ん、んん…妖夢?」
肩を揺すられ、寝ぼけ眼であったが、起きる幽々子。
「もう三時ですよ、頼まれた水羊羹をご用意しました」
目を指でこすりながら身体を起こしていく幽々子。
「…ふぁ、ん……もう、そんな時間なのね」
緩慢な動きで立ち上がり、フラフラと部屋から出る幽々子。
それに私が付き添う形で一緒に居間へと向かおうとする。
「……」
一度だけ、もう一度振り返る。
座布団に置かれた本の表紙には、幸せそうな男女が、腕を組みながら立っている写真であった。
「んー、おいしいわねぇ~」
居間へと戻った妖夢と幽々子は、水羊羹を食べつつ、三時のおやつと洒落込んでいた。
「はい妖夢。あ~ん」
爪楊枝で一口サイズに切られた水羊羹を妖夢の口へと運ぶ幽々子。
「……あーん」
それを、目を閉じながら口を開けて食べる。
甘く、冷たい味が口の中に広がっていく。
いつもの事だが、幽々子様は一人でお食べになろうとしない。
わざわざ買いに行かせた私に悪いと思っているのか、はたまた一人で食べるのはつまらないと思っているのか、いつも食事やおやつと言った物を一緒に食べる。
1箱買ってきた水羊羹は二人で食べると、程よい時間で無くなっていった。
「ふぅ…」
お茶を飲みながら一息つく二人だったが、妖夢はすぐに席を立つ。
「では、私は戻りますね」
庭の手入れは終わったが、まだ自分の日課である剣の修行や手入れをしていない。
夕刻になれば夕飯の準備をしないといけない事もあり、あまり時間がなかった。
「あ~、妖夢、ちょっと待って~」
席を立ち、縁側から庭へと行こうとした妖夢を呼び止める幽々子。
「? 何ですか?」
呼び止められ振り返る。
「ん~~…………」
その振り返った妖夢を見て、幽々子は考えるような仕草をする。
「……幽々子様?」
一体どうしたのかと問おうとするまえに。
「…うん、決めたわ。ありがとう妖夢~行っていいわよ」
そんな事を言って、お茶を飲みきって、自室へと戻られて行った。
「……なにを?」
「紫~~いるかしら?」
自室へと戻った幽々子は、何もない空間に声をかける。
「ハイハイ、で、どれにするわけ?」
幽々子の前の空間にヒビが入っていき、「隙間」が現れ、そこから顔を出すお馴染みの隙間妖怪こと、八雲紫。
「最初は着物の方がいいかしらと思ったのだけど、それじゃあいつもと変わらないからこれでお願いするわ~」
自室に置かれていた外界の本を手に取り、表紙に写っている写真を指でさす。
「…これね。次はあの子のサイズをどうやって計ろうかしら?」
「それに関しては大丈夫よ~」
そう言うと、懐から紙を取り出し、紫に手渡す。
「…?何これ?」
「あの子のサイズ」
ニコニコと笑う幽々子であったが、紫はその笑顔が、今は少し怖く見えた。
「…………いつ、計ったのよ」
「この前一緒にお風呂に入った時ねぇ~洗いっ子したときにくまなく」
袖で口を隠しながら忍び笑いをする幽々子。あの時の妖夢の慌てようを、また脳内で思い出しているようであった。
「……我ながら、幽々子はホントに妖夢の事になると熱心ね」
自分の友人がまさかここまで従者にお熱だと知ったのは、つい最近なわけなのだが。
「それじゃあこれで準備をするわ。調達してくるのに一日かかると思うけれど」
「うん。お願いねぇ紫」
ハイハイと手を振り、幽々子に渡しておいた本を隙間に投げ込みながら一緒に消えていく。
「一日間があるなら、丁度いいわねぇ」
ニコニコと、その日の事を思うと楽しみが止まらない。
やるからには驚かせてあげたい。
色々と、無茶な事を言う私の我が侭を聞いてくれる自分の従者を労ってやりたかった。
翌朝、朝食を食べ終えると、身支度をしている幽々子の姿があった。
「…あの、幽々子様?」
庭の手入れに行こうとしたが、明らかに何処か外出しようとしている主人を疑問に思い、声をかける。
「あら、妖夢。少し出かけてくるけれど、お昼までには戻ってくるから~」
いってきま~すと言い終えて、フワフワと飛んでいく。
「……」
外出する事さえ珍しい主であったが、いつも白玉楼で寝ているだけの毎日と比べると、引きとめられず、何も言わずに行かせてしまう妖夢であった。
「半霊に効く睡眠薬が欲しいですって?」
人里から離れた迷いの竹林の中、幽々子は直接迷いの竹林の中にある永遠亭を訪問し、薬師である八意永琳の元に来ていた。
永琳としては、わざわざ冥界のお姫様がここに来たという事に驚愕し、その内容にも驚いている。
「そう、出来れば空気感染とかそういう類のが一番いいのだけどぉ~」
それはもう薬じゃなくてウィルスだろと言いたくなる永琳であったが、薬を求めて来た者を無下に出来るわけもなく、粉末状の薬を幽々子に手渡す事にした。
「それで効かなかったら、無理やり意識を落とす事をお勧めするわ。一応妖怪にも、人間にも効く代物よ」
永琳が悪戯心もかねて作ったそれは、一人の兎の妖怪と、月のお姫様が被害にあった代物だった。寝かした後何をしたか知らないが、その後の月のお姫様と力関係が一時期逆になったとかならないとか。
「ありがとう~それじゃあこれを代わりに置いていくわね」
袖に手を突っ込んで、永琳の手にじゃらじゃらと、床にこぼれ落ちるぐらいに何かを握らす。
「…?牙?」
それは、迷いの竹林の中ではよく見る牙だ。
「狼さんをここに来る途中、幾度か見たから始末しておいたわぁ~。これで当分は貴方達兎の住人は安全に動けると思うわよ」
手の中には、大量の狼の牙が握らされていた。
「……」
つまり、これは牙一個につき、一体殺したわけか。
「………ありがたくもらっておくわ」
にこやかに微笑む幽々子に、永琳もにこやかに返す。
内心では、この陽気な亡霊のお姫様の見方を変えつつ。
「………」
妖夢は、また人里に来ていた。
昼食の準備を終え、何処に行ってきたか知らないが、戻ってきた幽々子様と昼食を食べ終えた瞬間に。
「妖夢~柏餅を食べたいわぁ~」
と言われ、柏餅なら一昨日買ってきたのがありますよと言って、そのまま庭の手入れに行くはずであった。
そうしたら。
「妖夢~餡蜜団子を食べたいわぁ~」
こう言われ、昨日と同じように買いに来ているわけである。
幽々子様が言い直してまで買いに行かせたのは、何か裏があるのではないかと思ったが。
あのニコニコ笑って朝食の献立さえ忘れてしまう幽々子様に裏があるとは思えない。
結局、何も思い浮かばずに、首を捻りながら白玉楼への帰路を辿る妖夢であった。
「一応調達は済んだわよ」
妖夢を人里に行かせている間に、紫と幽々子は、自室で明日のやりとりをしていた。
「えぇ、ありがとう~紫。まさか頼んだ通りの物を用意してくれると思わなかったわ」
自室に妖夢が来る可能性もあるので置いとくわけにはいかず、隙間に置いてあるのを見せてもらったが、自分の想像していた通りの代物を紫は用意してくれた。
「後は人ねぇ…藍に任せようかしら。庭の手入れぐらい、一日しなくてもいいわよねぇ?」
「朝に仕込むからどうしようかしらねぇ~?庭の手入れとかを他にしてくれそうな人っていたかしら?」
先代の庭師が、何処にいるかわかれば一日頼むという手もよかったのだが、行方知れずのままであった。
「仕方ないか。私が今日、藍に言っておくわ」
まさか自分の式神を使うはめになるとは思っていなかったが、自分がやるよりかははるかにましだ。
「ごめんなさいねぇ紫」
「いいのよ、あれを着てみた妖夢を、私も見てみたいわけだし」
謝る幽々子に紫は簡単に返す。実際のところ、それが目的であの本を幽々子に渡したりと色々と提案をしたりしたのである。面白くなれば、紫はそれでいいのだ。
「そろそろ妖夢が戻ってくる頃ね…明日の朝食食べ終えたらまたここに来るわ」
「うん、じゃあまた明日ね~紫~」
隙間で消えていく紫に手を振る幽々子。
妖夢を労う準備は着々と、整いつつあった。
私は、夢でも見ているのだろうか。
昨日も人里に行かされたりして色々と忙しい中就寝し、日々の繰り返しをしていた。
そして今日起きて、朝食の準備をしようと台所に顔を出した時点で、何か「違和感」があった。
台所からする食欲をそそるいい匂い、トントンと子気味よい包丁の音。
そこには、主である幽々子様が、いつもの蒼いフリルドレスの上に、白いエプロン姿で朝食を作っている光景だった。
私はまず、我が目を疑い、何度も何度も自分の手で頬をつねってみたが、痛かった。
あの幽々子様が、あのいつも寝ていて我が侭を言っている幽々子様が!私より早く起きて朝食を作っているだと!?
天変地異の前触れかとも思ったが、流石に従者が主人に朝食を作らせるわけにも行かず、止めに入った、が。
「たまには私の御飯を食べてみたいと思わないかしら~?」
こう言われ、いいにおいがする朝食に少なからず、食欲がそそられてしまい、止められなかった。
先代の庭師に土下座をしても足りないかもしれない。けれど私は幽々子様の御飯を食べてみたいんです。ごめんなさい。
おとなしく居間で待ち、食器類を出したり、テーブルを拭いたりして待機する。
「お待たせ~」
台所から顔を出した幽々子様の手伝いをしながら料理をテーブルに置いていく。
料理自体は、焼き鮭やホウレン草のおひたし、お味噌汁に白米と、シンプルな献立であった。
「「いただきます」」
妖夢は、まずはお味噌汁に手を出してみる。
「…!」
自分の作るお味噌汁とはまた違う絶妙な濃さ。
次は鮭も口に運ぶ。
「……」
次元が違った…。使っている物は同じのはずなのに焼き加減の違いでこうも変わるものなのか!?
「どう?おいしいかしら?」
私の驚いている表情を見ていたのだろうか、箸を持たずにニコニコと、幽々子様は私の顔を見ていた。
「は、はい!とてもおいしいです。幽々子様!」
「そう。よかったわぁ」
私はその後も幽々子様の作った朝食を余すところなく食べ、進んでおかわりしてしまうほどに満足する朝食であった。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした~」
行儀よく手を合わせ、食器類ぐらいは私が片付けようと席を立とうとする。
「あぁ、妖夢いいのよぉ~何もしないで~」
それを止める幽々子様。
「ぇ、し、しかし、」
「本当に、何もしなくていいのよ~。むしろ」
そこで、ニコニコした笑顔とは違い。
「´何も出来なくなるのだから´」
悪魔の笑みをしているように、幽々子様は見えた。
「……え」
そう言われ、視界が歪み、暗転していく。
「な、なん、ですか……こ、れ……は」
そのまま意識が保っていられず。私の意識は暗転に飲まれていった―――
………………ぅ。
意識が重い。
私は、どうなったんだ?
「…眼も……みたいだ……私、………る…わ……ま……ね…」
遠くから、紫様の声が聞こえた気がする。
視界が眩しい気もするし、暗い感じもする。
何も、見えない…?
「よう………む……お…た?」
目の前から幽々子様の声が聞こえてきている気がするのに、ノイズが混じっている感じがして聞きづらい。
「う………」
必至に頭を振って意識を復活させていく。
何かわからないが、随分と身体を動かしてなかったみたいで、自分の身体じゃないかのような重い身体だった。
徐々に、徐々に、視界がクリアになっていく。
「…ゆ、…ゆ…こ…さま?」
目の前には、微笑んでいる、いつも通りの幽々子様の顔があった。
「おはよう、妖夢」
「……私は…?」
「ごめんなさいねぇ。永琳に貰った睡眠薬が効きすぎちゃったみたい」
「…睡眠薬?」
あぁ、だからいきなり視界が暗転して………。
「って、睡眠薬!?」
意識が覚醒する。無理やり力をいれ、身体を起こそうとする。
「………え?」
だが、不可解な事に、自分の腕に何か、白いレース上の手袋がはめられているのに気づく。
「え、ええ!?」
それ所か、いつもの服じゃなく、何処かでみた、純白のドレスを着ていた。
「うんうん、似合っているわよ~妖夢~」
幽々子様はさもご機嫌な顔をしながら私を見つめる。
「ゆ、幽々子様!これは一体何なんですか!?」
「なにって、見てわからない~?」
みてわからないかと言われれば一目でわかる。
私は何故か今、白いドレスを着させられて、白玉楼の縁側で仰向けに寝ていたというところだろう。
「わ、私が言いたいのはそんな事じゃなくて、どうして私がこんなドレスを、睡眠薬を飲まされてまで無理やり着させられているかって事です!」
「それはあれよ~。妖夢に今日は一日´お姫様´になってもらおうと思ったからよ」
「…は、はぁ?」
幽々子様の口からまたわけのわからない言葉が出てくる。
幽々子は、扇子をバッと広げ、自分の顔を隠しながら喋る。
「いつも私が我が侭言って迷惑をかけているから、労おうと思って色々と紫に準備してもらったりしたのよ。庭の手入れや御飯の支度とか、いつも妖夢がしてるじゃない?」
妖夢はその言葉を、黙って聞いていた。
「だから、妖夢が我が侭を言っていい日もあってもいいかなぁ~って、思って、頑固な妖夢の事だから、用意してもドレスとか着ないだろうから睡眠薬まで用意したのだけど……効きすぎて夜中まで寝かせてしまうなんて、詰めが甘いわねぇ…私も」
言われてみれば、既に空には月が昇っていて、朝からずっと私は寝こけていたということなのか。
「……幽々子様」
顔を遮っている扇子をどかして顔を見る。
そこには、いつもニコニコと微笑んでいる顔はなく、落ち込んだ素振りをしている、我が主の顔があった。
「ホントに…駄目な主人でごめんね…妖夢」
そんな落ち込んでいる主人を見て、私は首を振る。
「……そこまで私の事を気遣ってくれようとしただけでも、私は嬉しいですよ。幽々子様」
落ち込んでいる幽々子様を抱きしめたい衝動に駆られるが、それは出来ない。
私は、あくまで従者なのだ。主人に恋愛感情を持つなど。あってはならない。
「……あの幽々子様」
けど、このくらいの我がままは、今は言ってもいいよね?
「…なぁに、妖夢」
「差出がましいお願いなのですが……日が変わるまで、手を握っていては、駄目ですか?」
それは本当に、ちっぽけな我が侭。
けれど、妖夢にとっては、大きな我が侭だ。
「……そんな事」
幽々子様が私の手を握る。
少し冷たいその手を、私は壊れ物を扱うように、優しく握り返す。
日が変わるまで後一時間程、私と幽々子様は、縁側でお月様を見ながら、手を握り合っていた―――――――――――
従者は主に一生仕える。
従者は主に絶対服従である。
従者は主に――――――
冥界でも春という季節が過ぎ、西行桜以外、桜は散ってしまった。
徐々に夏へと向けて季節が動き出していた頃。
妖夢はいつものように庭の手入れをしていた。
変わらぬ日々、変わらぬ行い。
「妖夢~」
「なんでしょう。幽々子様」
庭の手入れをしている妖夢に、白玉楼の主君である幽々子様が、縁側に立ち、妖夢を呼んでいた。
主人である幽々子様が、私を呼びつけるときは決まって何か、食べ物のお願いか、無理難題な物のお願いかのどっちかである。
白玉楼の庭の手入れをしていた妖夢は、自分を呼ぶ幽々子の元へと駆け寄る。
「水羊羹が食べたいわ」
駆け寄ってきた第一声が決まって呼びつける前者であり、内心ほっとしてしまう。
食べ物のお願いをされるときはまだいい。もうかなり前の事になるが、春を獲って来いと言われたときに比べれば何十倍もマシというものだ。
「わかりました。庭の手入れが終わり次第、人里に買いに行ってきますね」
「どれぐらいで庭の手入れは終わるのかしら?」
すぐに食べたいのだろうか。時間まで聞かれ、今さっきまでやっていた庭の手入れが後どのくらいで終わるか時間を計算する。
「そうですね…三時のおやつまでには、用意出来ると思います」
梅雨の季節にしては、珍しく快晴なのもあり、このまま雨でも降ってこなければ問題なく昼を少し過ぎた辺りで終わる事だろう。
「そう、じゃあそれでお願いね~」
ニコリと笑う幽々子様の顔を見て、心臓が少し跳ね上がる。
顔には出ていない、この感情は、知られてはいけない感情なのだから。
縁側の奥へと引っ込んだ幽々子様を確認してから、小さくため息を吐く。
あの御方を、先代の庭師に託されてから数年。
私は物心ついた時から、あの方に仕える為に生きることを教えられた。
この命は、主君の為にあると。
けれど、そんな事は些細な事かもしれない。
どれだけ無理難題なお願いをされても、どれだけ無茶な要求をされても。
私は、幽々子様の事が、大好きなのだから。
「まいど」
庭の手入れは自分の見立て通りの時間で終わり、人里の菓子屋で水羊羹を買って、後は戻るだけだ。
半霊である私も、お金さえあれば買い物を出来るのだから、これに関しては顕界と冥界の境界の薄まりに感謝する事である。
以前は、大変だった。幽々子様のあれを食べたい、これを食べたいは、今に始まった事じゃなく、入手が今よりはるかに困難だった。
買い物も済ませ、冥界への帰路を辿っていると、小さな子供達が、はしゃぎ走っていくのにすれ違う。
皆一様に元気な顔をしながら、無邪気に駆けていく。
「おや、また主人のお使いか?」
それを少し眺めていると、後ろから声をかけられた。
振り返ってみれば、もう何度か、幽々子様のお使いで、人里で会う顔馴染みの者が立っていた。
「慧音……か」
半獣でありながらも、人里に住む上白沢慧音。
人間を守る事を良しとする、妖怪では異端な方であるが、妖夢は人里に顔を出す度に慧音とよく会うぐらいの仲であった。
「さっきの子供達は慧音の所のか。皆、元気ね」
「寺小屋で教えている時は、あそこまで元気ではないのだがね」
少し苦笑いをしながら慧音も子供達が駆けて行った方へと歩いていく。
「声を掛けた私が言うのも何だが、子供達に連れ添ってやらねばならないのでな。また」
すれ違う前に妖夢に一礼して、慧音も歩いていく。
私はそれを少し眺めて、再び冥界の帰路へと歩く。
時々、ああいう無邪気な子供を見ると思ってしまう。
あんな風に、幽々子様の前で私もなれたらと。
「幽々子様―」
白玉楼に戻り、自分が言った時刻を守るように居間で新茶と先ほど買ってきた水羊羹を一口サイズに小切りにしてから皿に移して置いて、準備が整い、きっかり三時に幽々子様の自室に声をかける。
「……幽々子様?」
襖を開け、幽々子の自室へと入る妖夢。
「…すぅ」
幽々子様の自室は、必要な物しか置いていない。
着替えの服に寝るための布団、はっきり言って、この二つのみだ。
その二点しかない筈の部屋で、幽々子は座布団の上で丸まって寝ていた。
「………はぁ」
自分で水羊羹を食べたいと言って寝ている主人にため息を吐きつつ、起こすか起こさないかを考える。
「……ん?」
くるまって寝ている幽々子様の手に、何か本が握られているのを見る。
「なに…?これ」
幽々子様に悪いとは思ったが、好奇心に勝てずにその本を、幽々子様を起こさないようにしながら手に取ってみる。
「……」
外界の本だろうか?字は読めないが、そこには黒い着物を着た女性がいたり、ドレスを着飾った女性の写真が写っていたり、お寺の写真や、何処かの式場らしき建造物の写真が写っていた。
「……」
多分幽々子様の親友である、紫様が持ってきた本だとは思うのだが、これを読み耽っておられて寝てしまったのだろうか?
その本をそっと寝ている幽々子の手に戻してから、肩を揺する。
「幽々子様、起きてください」
「……ん、んん…妖夢?」
肩を揺すられ、寝ぼけ眼であったが、起きる幽々子。
「もう三時ですよ、頼まれた水羊羹をご用意しました」
目を指でこすりながら身体を起こしていく幽々子。
「…ふぁ、ん……もう、そんな時間なのね」
緩慢な動きで立ち上がり、フラフラと部屋から出る幽々子。
それに私が付き添う形で一緒に居間へと向かおうとする。
「……」
一度だけ、もう一度振り返る。
座布団に置かれた本の表紙には、幸せそうな男女が、腕を組みながら立っている写真であった。
「んー、おいしいわねぇ~」
居間へと戻った妖夢と幽々子は、水羊羹を食べつつ、三時のおやつと洒落込んでいた。
「はい妖夢。あ~ん」
爪楊枝で一口サイズに切られた水羊羹を妖夢の口へと運ぶ幽々子。
「……あーん」
それを、目を閉じながら口を開けて食べる。
甘く、冷たい味が口の中に広がっていく。
いつもの事だが、幽々子様は一人でお食べになろうとしない。
わざわざ買いに行かせた私に悪いと思っているのか、はたまた一人で食べるのはつまらないと思っているのか、いつも食事やおやつと言った物を一緒に食べる。
1箱買ってきた水羊羹は二人で食べると、程よい時間で無くなっていった。
「ふぅ…」
お茶を飲みながら一息つく二人だったが、妖夢はすぐに席を立つ。
「では、私は戻りますね」
庭の手入れは終わったが、まだ自分の日課である剣の修行や手入れをしていない。
夕刻になれば夕飯の準備をしないといけない事もあり、あまり時間がなかった。
「あ~、妖夢、ちょっと待って~」
席を立ち、縁側から庭へと行こうとした妖夢を呼び止める幽々子。
「? 何ですか?」
呼び止められ振り返る。
「ん~~…………」
その振り返った妖夢を見て、幽々子は考えるような仕草をする。
「……幽々子様?」
一体どうしたのかと問おうとするまえに。
「…うん、決めたわ。ありがとう妖夢~行っていいわよ」
そんな事を言って、お茶を飲みきって、自室へと戻られて行った。
「……なにを?」
「紫~~いるかしら?」
自室へと戻った幽々子は、何もない空間に声をかける。
「ハイハイ、で、どれにするわけ?」
幽々子の前の空間にヒビが入っていき、「隙間」が現れ、そこから顔を出すお馴染みの隙間妖怪こと、八雲紫。
「最初は着物の方がいいかしらと思ったのだけど、それじゃあいつもと変わらないからこれでお願いするわ~」
自室に置かれていた外界の本を手に取り、表紙に写っている写真を指でさす。
「…これね。次はあの子のサイズをどうやって計ろうかしら?」
「それに関しては大丈夫よ~」
そう言うと、懐から紙を取り出し、紫に手渡す。
「…?何これ?」
「あの子のサイズ」
ニコニコと笑う幽々子であったが、紫はその笑顔が、今は少し怖く見えた。
「…………いつ、計ったのよ」
「この前一緒にお風呂に入った時ねぇ~洗いっ子したときにくまなく」
袖で口を隠しながら忍び笑いをする幽々子。あの時の妖夢の慌てようを、また脳内で思い出しているようであった。
「……我ながら、幽々子はホントに妖夢の事になると熱心ね」
自分の友人がまさかここまで従者にお熱だと知ったのは、つい最近なわけなのだが。
「それじゃあこれで準備をするわ。調達してくるのに一日かかると思うけれど」
「うん。お願いねぇ紫」
ハイハイと手を振り、幽々子に渡しておいた本を隙間に投げ込みながら一緒に消えていく。
「一日間があるなら、丁度いいわねぇ」
ニコニコと、その日の事を思うと楽しみが止まらない。
やるからには驚かせてあげたい。
色々と、無茶な事を言う私の我が侭を聞いてくれる自分の従者を労ってやりたかった。
翌朝、朝食を食べ終えると、身支度をしている幽々子の姿があった。
「…あの、幽々子様?」
庭の手入れに行こうとしたが、明らかに何処か外出しようとしている主人を疑問に思い、声をかける。
「あら、妖夢。少し出かけてくるけれど、お昼までには戻ってくるから~」
いってきま~すと言い終えて、フワフワと飛んでいく。
「……」
外出する事さえ珍しい主であったが、いつも白玉楼で寝ているだけの毎日と比べると、引きとめられず、何も言わずに行かせてしまう妖夢であった。
「半霊に効く睡眠薬が欲しいですって?」
人里から離れた迷いの竹林の中、幽々子は直接迷いの竹林の中にある永遠亭を訪問し、薬師である八意永琳の元に来ていた。
永琳としては、わざわざ冥界のお姫様がここに来たという事に驚愕し、その内容にも驚いている。
「そう、出来れば空気感染とかそういう類のが一番いいのだけどぉ~」
それはもう薬じゃなくてウィルスだろと言いたくなる永琳であったが、薬を求めて来た者を無下に出来るわけもなく、粉末状の薬を幽々子に手渡す事にした。
「それで効かなかったら、無理やり意識を落とす事をお勧めするわ。一応妖怪にも、人間にも効く代物よ」
永琳が悪戯心もかねて作ったそれは、一人の兎の妖怪と、月のお姫様が被害にあった代物だった。寝かした後何をしたか知らないが、その後の月のお姫様と力関係が一時期逆になったとかならないとか。
「ありがとう~それじゃあこれを代わりに置いていくわね」
袖に手を突っ込んで、永琳の手にじゃらじゃらと、床にこぼれ落ちるぐらいに何かを握らす。
「…?牙?」
それは、迷いの竹林の中ではよく見る牙だ。
「狼さんをここに来る途中、幾度か見たから始末しておいたわぁ~。これで当分は貴方達兎の住人は安全に動けると思うわよ」
手の中には、大量の狼の牙が握らされていた。
「……」
つまり、これは牙一個につき、一体殺したわけか。
「………ありがたくもらっておくわ」
にこやかに微笑む幽々子に、永琳もにこやかに返す。
内心では、この陽気な亡霊のお姫様の見方を変えつつ。
「………」
妖夢は、また人里に来ていた。
昼食の準備を終え、何処に行ってきたか知らないが、戻ってきた幽々子様と昼食を食べ終えた瞬間に。
「妖夢~柏餅を食べたいわぁ~」
と言われ、柏餅なら一昨日買ってきたのがありますよと言って、そのまま庭の手入れに行くはずであった。
そうしたら。
「妖夢~餡蜜団子を食べたいわぁ~」
こう言われ、昨日と同じように買いに来ているわけである。
幽々子様が言い直してまで買いに行かせたのは、何か裏があるのではないかと思ったが。
あのニコニコ笑って朝食の献立さえ忘れてしまう幽々子様に裏があるとは思えない。
結局、何も思い浮かばずに、首を捻りながら白玉楼への帰路を辿る妖夢であった。
「一応調達は済んだわよ」
妖夢を人里に行かせている間に、紫と幽々子は、自室で明日のやりとりをしていた。
「えぇ、ありがとう~紫。まさか頼んだ通りの物を用意してくれると思わなかったわ」
自室に妖夢が来る可能性もあるので置いとくわけにはいかず、隙間に置いてあるのを見せてもらったが、自分の想像していた通りの代物を紫は用意してくれた。
「後は人ねぇ…藍に任せようかしら。庭の手入れぐらい、一日しなくてもいいわよねぇ?」
「朝に仕込むからどうしようかしらねぇ~?庭の手入れとかを他にしてくれそうな人っていたかしら?」
先代の庭師が、何処にいるかわかれば一日頼むという手もよかったのだが、行方知れずのままであった。
「仕方ないか。私が今日、藍に言っておくわ」
まさか自分の式神を使うはめになるとは思っていなかったが、自分がやるよりかははるかにましだ。
「ごめんなさいねぇ紫」
「いいのよ、あれを着てみた妖夢を、私も見てみたいわけだし」
謝る幽々子に紫は簡単に返す。実際のところ、それが目的であの本を幽々子に渡したりと色々と提案をしたりしたのである。面白くなれば、紫はそれでいいのだ。
「そろそろ妖夢が戻ってくる頃ね…明日の朝食食べ終えたらまたここに来るわ」
「うん、じゃあまた明日ね~紫~」
隙間で消えていく紫に手を振る幽々子。
妖夢を労う準備は着々と、整いつつあった。
私は、夢でも見ているのだろうか。
昨日も人里に行かされたりして色々と忙しい中就寝し、日々の繰り返しをしていた。
そして今日起きて、朝食の準備をしようと台所に顔を出した時点で、何か「違和感」があった。
台所からする食欲をそそるいい匂い、トントンと子気味よい包丁の音。
そこには、主である幽々子様が、いつもの蒼いフリルドレスの上に、白いエプロン姿で朝食を作っている光景だった。
私はまず、我が目を疑い、何度も何度も自分の手で頬をつねってみたが、痛かった。
あの幽々子様が、あのいつも寝ていて我が侭を言っている幽々子様が!私より早く起きて朝食を作っているだと!?
天変地異の前触れかとも思ったが、流石に従者が主人に朝食を作らせるわけにも行かず、止めに入った、が。
「たまには私の御飯を食べてみたいと思わないかしら~?」
こう言われ、いいにおいがする朝食に少なからず、食欲がそそられてしまい、止められなかった。
先代の庭師に土下座をしても足りないかもしれない。けれど私は幽々子様の御飯を食べてみたいんです。ごめんなさい。
おとなしく居間で待ち、食器類を出したり、テーブルを拭いたりして待機する。
「お待たせ~」
台所から顔を出した幽々子様の手伝いをしながら料理をテーブルに置いていく。
料理自体は、焼き鮭やホウレン草のおひたし、お味噌汁に白米と、シンプルな献立であった。
「「いただきます」」
妖夢は、まずはお味噌汁に手を出してみる。
「…!」
自分の作るお味噌汁とはまた違う絶妙な濃さ。
次は鮭も口に運ぶ。
「……」
次元が違った…。使っている物は同じのはずなのに焼き加減の違いでこうも変わるものなのか!?
「どう?おいしいかしら?」
私の驚いている表情を見ていたのだろうか、箸を持たずにニコニコと、幽々子様は私の顔を見ていた。
「は、はい!とてもおいしいです。幽々子様!」
「そう。よかったわぁ」
私はその後も幽々子様の作った朝食を余すところなく食べ、進んでおかわりしてしまうほどに満足する朝食であった。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした~」
行儀よく手を合わせ、食器類ぐらいは私が片付けようと席を立とうとする。
「あぁ、妖夢いいのよぉ~何もしないで~」
それを止める幽々子様。
「ぇ、し、しかし、」
「本当に、何もしなくていいのよ~。むしろ」
そこで、ニコニコした笑顔とは違い。
「´何も出来なくなるのだから´」
悪魔の笑みをしているように、幽々子様は見えた。
「……え」
そう言われ、視界が歪み、暗転していく。
「な、なん、ですか……こ、れ……は」
そのまま意識が保っていられず。私の意識は暗転に飲まれていった―――
………………ぅ。
意識が重い。
私は、どうなったんだ?
「…眼も……みたいだ……私、………る…わ……ま……ね…」
遠くから、紫様の声が聞こえた気がする。
視界が眩しい気もするし、暗い感じもする。
何も、見えない…?
「よう………む……お…た?」
目の前から幽々子様の声が聞こえてきている気がするのに、ノイズが混じっている感じがして聞きづらい。
「う………」
必至に頭を振って意識を復活させていく。
何かわからないが、随分と身体を動かしてなかったみたいで、自分の身体じゃないかのような重い身体だった。
徐々に、徐々に、視界がクリアになっていく。
「…ゆ、…ゆ…こ…さま?」
目の前には、微笑んでいる、いつも通りの幽々子様の顔があった。
「おはよう、妖夢」
「……私は…?」
「ごめんなさいねぇ。永琳に貰った睡眠薬が効きすぎちゃったみたい」
「…睡眠薬?」
あぁ、だからいきなり視界が暗転して………。
「って、睡眠薬!?」
意識が覚醒する。無理やり力をいれ、身体を起こそうとする。
「………え?」
だが、不可解な事に、自分の腕に何か、白いレース上の手袋がはめられているのに気づく。
「え、ええ!?」
それ所か、いつもの服じゃなく、何処かでみた、純白のドレスを着ていた。
「うんうん、似合っているわよ~妖夢~」
幽々子様はさもご機嫌な顔をしながら私を見つめる。
「ゆ、幽々子様!これは一体何なんですか!?」
「なにって、見てわからない~?」
みてわからないかと言われれば一目でわかる。
私は何故か今、白いドレスを着させられて、白玉楼の縁側で仰向けに寝ていたというところだろう。
「わ、私が言いたいのはそんな事じゃなくて、どうして私がこんなドレスを、睡眠薬を飲まされてまで無理やり着させられているかって事です!」
「それはあれよ~。妖夢に今日は一日´お姫様´になってもらおうと思ったからよ」
「…は、はぁ?」
幽々子様の口からまたわけのわからない言葉が出てくる。
幽々子は、扇子をバッと広げ、自分の顔を隠しながら喋る。
「いつも私が我が侭言って迷惑をかけているから、労おうと思って色々と紫に準備してもらったりしたのよ。庭の手入れや御飯の支度とか、いつも妖夢がしてるじゃない?」
妖夢はその言葉を、黙って聞いていた。
「だから、妖夢が我が侭を言っていい日もあってもいいかなぁ~って、思って、頑固な妖夢の事だから、用意してもドレスとか着ないだろうから睡眠薬まで用意したのだけど……効きすぎて夜中まで寝かせてしまうなんて、詰めが甘いわねぇ…私も」
言われてみれば、既に空には月が昇っていて、朝からずっと私は寝こけていたということなのか。
「……幽々子様」
顔を遮っている扇子をどかして顔を見る。
そこには、いつもニコニコと微笑んでいる顔はなく、落ち込んだ素振りをしている、我が主の顔があった。
「ホントに…駄目な主人でごめんね…妖夢」
そんな落ち込んでいる主人を見て、私は首を振る。
「……そこまで私の事を気遣ってくれようとしただけでも、私は嬉しいですよ。幽々子様」
落ち込んでいる幽々子様を抱きしめたい衝動に駆られるが、それは出来ない。
私は、あくまで従者なのだ。主人に恋愛感情を持つなど。あってはならない。
「……あの幽々子様」
けど、このくらいの我がままは、今は言ってもいいよね?
「…なぁに、妖夢」
「差出がましいお願いなのですが……日が変わるまで、手を握っていては、駄目ですか?」
それは本当に、ちっぽけな我が侭。
けれど、妖夢にとっては、大きな我が侭だ。
「……そんな事」
幽々子様が私の手を握る。
少し冷たいその手を、私は壊れ物を扱うように、優しく握り返す。
日が変わるまで後一時間程、私と幽々子様は、縁側でお月様を見ながら、手を握り合っていた―――――――――――
レミリア×霊夢編
きっと来ますね・・・・
まず、リクに応えてくださって、ありがとうございました。
妖夢があくまで従者として突っ走らないとこが素敵でした。
詰めが甘いじゃないかなあ
ゆゆ様おご飯たべたすぎるーw
東方変換辞書で名前ミスらなくなってもこういう所でミスってるのを見ると
なにげに凹むorz
別件ですがリクレミリア×霊夢にするかフラン×霊夢にするか迷い中。
今までの反響か、悪魔レミリアのイメージが払拭できな(ry
幽々子様がわざわざ永遠亭まで足を運ぶってのが…GJ!
あとフラン×霊夢に一票。
フラグ立ってるのにあんまりみたことない。
妖夢はあくまで従者として、と抑えるところがらしいですね。
こう、想いがつのって、ゆゆ様に気持ちを伝えちゃうような話も読んでみたいです。
今のままでも十分幸せなんでしょうけれども、立場を超えて想い合えるような、そんな関係になった二人の話を熱望してしまう。
七氏の書く、この雰囲気の冥界組が大好きです。
ドレス妖夢、なるほど。