Coolier - 新生・東方創想話

帰還の道は程遠く? ―第一章―

2007/06/10 06:33:14
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※この作品は、帰還の道は程遠く? ―序章― の続きとなっております。
 前作を未読の方は、お手数ですが序章より読まれることをお勧めします。




凍えるような寒さを感じ、意識を取り戻す。
この刺すような寒気は、一体どこから来るのだろうか。
水か、風か、何かは解らないが、とにかく何かに当てられている様だった。
目蓋に感じる太陽の光。どうやら外のようだ。
耳に入るはびょうびょうと、これは風の音だろうか?
・・・と言うことは、今の自分は野ざらしで強風に煽られているということだろうか。
けれども、このふわふわした、浮いたような感触は・・・?
そこまで頭が働けば、あとは目蓋を開けるのみだった。

目を覚まして驚いた。
何に驚いたかって、空を飛んでいる事よりも、自分が血塗れな事よりも、
何でったって、自分は女性に抱きかかえられているのだろうか?

そうだった、自分は襲われたのだった。
追って来る女から逃げ、転んだと思ったら何者かに肩口をガブリ、と。
なんとか振り解いたものの、そのまま意識を失った事までは覚えている。
その後に、この女性に助けられたという事なのだろうか?
・・・それにしても、綺麗な顔立ちの女性である。
その、白く締まった顎先に見惚れながら、
「ああ、追いかけて来た人か・・・」等と思っていると。

 「気がついたか、今は大人しくしていろ」

と、彼女は真っ直ぐ前を向いたまま、こちらに一瞥もくれずに言い放った。
とは言え、男が女にお姫様抱っこされているという、この情けない状況は耐え難い。
さてどうしてやろうかと、身の回りを確認しようとして・・・

途端、あまりショックに思考が完全に止まった。
口元でガチガチと音を立てているのは、合わなくなった歯の根か。
情けない事に、今更ながら意識が、飛んでいるという事に注意したのだ。
高度自体は低いものの、そもそも“空を飛ぶ”という事自体が現実より逸脱した事である。
それだけでも、恐怖心を掻き立てるには十分すぎた。
おもわず女性の背中に腕を廻したのは、落ちまいとの一念による物だった。
それに対して、彼女は軽く身をよじらせると。

 「もうすぐ里に着く、落ちるような真似はするなよ」

とだけ喋った。
対する自分は頷く事も出来ずに、只彼女にすがり付く事しか出来なかった。

彼女の言葉の通り、森の一本道沿いに飛んでいると集落が見えてきた。
高度と速度が緩やかに下がり、やがて地上に降り立った。
目の前には家が一軒。竹林を抜けて尋ねたあの家だ。
「もう大丈夫です」と、降ろして貰おうとしたのだが、

 「そんな死にそうな顔で何を言う、いいから大人しくしていろ」

と、一喝されてしまった。
その体制まま一、二歩と家へ近づくと、するり、と独りでに玄関の戸が開いた。

 「や、お帰り。言われたとおり、医者を呼んでおいたよ」

その先にはあの竹林で出会った、銀髪のリボン少女が立っていた。

 「すまないな、妹紅。ついでと言っては何だが・・・」

 「あー、わかった。行ってくるよ。さもないとそいつ死ぬんだろ?」

 「ありがとう、助かるよ。礼は必ず・・・」

 「ああ、それは元気になったそいつから頂くさ。それじゃあ」

親しげに会話をし終えた二人。
妹紅と呼ばれた少女は竹林へと進んでいくと、自分は家へと連れ込まれるのだった。

それからはドタバタである。
家の中で医者と思しき老人に迎えられ床に伏せられると、
傷口の洗浄から始まり、やたらと沁みる薬を塗りたくられて、仕上げに傷の縫合をされた。
麻酔など無いようで、いきなり傷口に触れられたものであるから、
それは今までの人生の中で経験した痛みの中でも、断トツの激痛であった。
その間にも血がドバドバ出る物なので、あまりの恐怖に意識が飛びかけたのだが、
あの女性が暴れさせまいと、体を押さえつけながらも終始激励してくれたお陰で、
なんとか意識を保つことが出来たのであった。
まあ、正直な所、意識が飛んでいた方が楽だったのかもしれないが・・・。

 「慧音様。これで治療は終わりました。しかし・・・」

 「ああ、わかっている。妹紅を永遠亭に向かわせた」

 「左様ですか、薬師ならば安心ですな。それでは私はこれにて・・・」

 「ああ、ありがとう。
  そうだ、ついでとは悪いのだが、本日の寺子屋を任されたいと
  稗田家へ、謝辞と共に伝言を頼まれたい。」

 「承知しました。」

そのやり取りを終えると、医者は出て行った。

さて、一応の手当ては終わった様だが、
こちらは床に伏せたまま、激痛の余韻に呻く事しか出来ない。
しかも、失血による貧血か、視界はフラフラ、頭はクラクラとするし、
傷口は疼くし、何より喉の渇きが著しかった。

ふと、無意識に開いた唇に、湿った脱脂綿が当てられる。
まさに命の水であった。
生涯の中で、これほど旨いと思った水は無い。
必死に餌に喰いつく小魚のように、水を吸い込む。

 「慌てず、ゆっくり呑むんだ」

その声は、仏の言葉のようだった。
そのまま湯呑み一杯分程の水分を呑み終えると、落ち着いた為か、不意に意識が緩んでくる。

 「・・・妖の者に噛まれたとなると、じきに発作が起きる。
  腕の立つ薬師を呼ぶが、後はお前の生命力次第だ。
  生きて元の世に帰る為にも、頑張って乗り越えろ。
  絶対に、諦めるな」

そうして握られた手は、力強く、温かった。
その感触を最後に、意識は沈んでいくのだった・・・

           ・

           ・

           ・

突然感じたのは、全身の血が腐っていくような正体不明の感覚。
余りに不快なそれを掻き出そうと、胸を掻き毟りたくなる衝動が襲う。
だが、手は愚か、体全体が動かない。
意識はあっても、体は睡眠下にあるようだ。
目は覚めているのに起きられない。これは一体どうしたことか。
薄皮一枚まで迫っている目覚めに手が届かないのは、
溺れる者に足を捉まれて、水面に出れない様な感覚だった。

ふいに、背後に誰かの気配を感じる。
意識の裏。そこに自分以外の誰かが、居た。
ゆっくり、振り返るように気配を手繰る。
そこには見覚えのある、一人の少女の影。

 「あはは、また会ったー」

それは、悪夢の再開だった―――

           ・

           ・

           ・

急に顔面蒼白となった男の傍に、二つの影があった。
一人は慧音、もう一人は・・・

 「月のイナバ嬢」

 「ええ、始まったようです。
  この薬剤を打った後は、経過を見守るだけ。
  ・・・妖の力に負けた時が、この人の最後ですね」

 「ああ、それで命を落とした者を、私は数多く見てきた。
  最近こそ薬師の協力で被害は激減したが、
  果たして、幻想の力に外の者が耐えられるかどうか・・・」

 「はい。ここの住人より条件が悪いのは確かです」

           ・

           ・

男に異変が表れてから、数時間が経過した。
あれから容態は進退無く、熱に浮かされるように、時折苦しそうな呻きを漏らしている。
慧音は男の額に浮かぶ汗を拭いながら、容態を見守っていた。
それを複雑な面持ちで見つめるのは、月のイナバと呼ばれた少女だった。

 「慧音さん、一つ、聞いてくれませんか?」

 「ん、何だ?」

 「ご存知の通り、私は月から逃れてきました。
  その経緯は、前にお話したとおりです。
  あれから時間も経ち、ここでの生活にもすっかり馴染みました。
  永遠亭の皆には、本当に良くして貰っています。
  あそこに居ると、とても穏やかな気分になるんです。
  まさか、こんな暮らしが送れるとは夢にも思っていませんでした」

 「・・・」

 「それでも、昔の記憶は色褪せる事無く、私の中に焼き付いています。
  そして、この罪は、私が滅ぶ時まで負っていく物です。
  私は、もう月に干渉することも無く、孤独に罪を滅ぼしていかなければならない。
  でも、この人の服装が・・・この迷彩が、あの時を思い出させる。
  月の民を蹂躙して行った、あの兵士達と同じ・・・
  一瞬、私は・・・この人間を絞め殺したくなった。
  いいや、今すぐにでも殺したいっ!!」

 「・・・そうか。
  だが、君はそんなに弱くは無い。
  仮に、この人間に手を掛けようともなれば、その時は解かるな?」

 「ええ・・・突然見苦しい所を、すみません」

 「いや、君は良くできた妖怪だ。
  こう自制の利く者も、そうそう居ないだろう。
  わざわざ辛い事を、思い出すことも無い。
  妹紅も居る事だ。後は私に任せれば良い。」

 「・・・すいません。今日の所は、失礼します。」

 「ああ、世話になった。
  君の師匠にもよろしく言っておいてくれ」

 「はい、それでは・・・」

そして彼女は戸を開く。
外は夕暮れに染まっていた。
深い深い茜色に染まる里は、あの忌々しい景色に似ていたのかもしれない。
鈴仙は、一瞬だけ肩をすくめると、逃げるように竹林へ駆け込んでいく。
駆け抜ける足音が止んだ後は、静寂だけが残っていた・・・

           ・

           ・

           ・

再び表れた少女を前に、一目散に駆け出した。
躊躇して同じ事を繰り返すほどマヌケではない。
だから、否応なしに逃げ出す。
宵闇の少女も追って来るが、その差は歴然であった。
それはそうだろう、何しろここは自分の意識の中なのだ。
自身の世界でわざわざ捕まる者など、生粋のマゾヒスト位のものである。
どうやら、捉まる心配はなさそうだ。
後は、何とかしてこの正体不明の少女追い返す方法を考えるか、
手段が無くても、少女が諦めるのを待てば良いだろう。

そうして、少女から逃れようと意識を巡らしていると。
ふと、ある事に気がついた。
妙な閉塞感を感じる。と、言うよりも、
彼女の存在が、だんだん大きくなっているような・・・

 「あはー、気がついた?」

背後から響く、嬉々とした声。

 「逃げられないよー
  だんだんきみが無くなっていくのがわかるでしょ?
  どうせ逃げ道なんてないんだから、あきらめなよ。
  そうしたらひとくちで楽にしてあげるから。
  抵抗すると、いたいよー?」

ふざけるな、こんな訳の解からない死に方をしてたまるか。
諦めるなんて、真っ平ごめんだ。
相変わらず打開の方法など無いが、とにかく逃げ続ける。
だが、それも時間経過とともに、限界が迫っていた。

 「あははー、もうおわりだね。
  それじゃあ、いただきまーす」

刹那、宵闇の少女に呑み込まれた。
ガリガリと、意識が削られてゆく。
この痛覚を失った時、自分という存在が無くなるのだろう。
その力の前には抗うことも出来ない。
だが、

  ――“絶対に、諦めるな”――

ふと、彼女の声を思い出す。
そして、風前の灯火の意識で、磨耗に耐え続けた。
やがて

 「んー、だめかー。
  もうすこしだったのにぃー・・・
  あー・・・おなかへったよぉー・・・」

どの位たった頃だろうか。
宵闇の少女は、その言葉を最後に、自分の意識から離れて行った・・・




                      ― 第一章・終わり ―
どうも、第二段ということで投稿しました。
ええと、自分で言うのもなんですが、突っ込みどころ満載です。
特に時系列関係では厳しいところなのですが。まあ、富士の霊脈の影響という事で・・・。
あとキャラ同士の呼び方等は、完全に自分のイメージですので、合わない方も多のではと思います。
そしてルーミアとの第二戦、こりゃなんでしょうね、自分でも良くわからんです。
主人公の設定が生きていない回でした。つか、生かす機会のほうが少なくなるかも・・・
とにかく、ここまで駄文に付き合ってくださった方に感謝、感謝です。
それでは、次回にて。

※先回、質問があったので返答をば・・・
>気になったんですが訓練での迫撃砲ってどういう代物なんでしょう?
>銃弾なんかはゴム弾とかペイント弾とかあるかと思いますが、迫撃砲って爆発したら材質がなんであれ危なすぎる気がするんですが…

ええと、迫撃砲についてはほぼ実弾で訓練します。
現行で使われている迫撃砲は射程があるため、第一師団では主に富士演習場で訓練します。
一応、縮尺弾という練習用の砲弾があるのですが、扱ったことおろか、実物を見た事さえないです。
恐らく、自分の部隊以外も、実弾での訓練が主ではないでしょうか?
なので、危ないというのは実に的を得た質問です。
扱いを間違えて、腕をふっとばされたなんて話も・・・まあ、命が助かっただけ良かったと思いますが。
ちなみに、小銃での訓練は空砲等が主になります。
ゴム弾やペイント弾は一般部隊には無いでしょう。
市街地訓練などは、エアガン等を活用します。

こんなもんですかね、質問ありがとうございました。
白河
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コメント



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前回で質問したものです。実弾使ってるんですか…しかも敵側に撃ってるとは、本当に命がけの訓練ですね。
丁寧に答えてくださってありがとうございました。