#「性懲りもなくアリ×マリです ありがとうございました」
#「今回恋人フラグ成立したバージョンで話が進んでいるので余計に注意」
孤独には耐えられない。
孤独を愛せない。
永遠を愛せない。
永遠には耐えられない。
彼女は永遠に、私とともに生きてくれるだろうか――――――?
彼女は孤独に、耐えられるだろうか―――――――――――?
「……ん」
口に何かが触れる違和感を、寝ぼけた頭で意識する。
それは浅いようで長い時間、私の唇に触れていた。
徐々に目を開けていく。そこには、ここ最近では朝から見慣れた顔が、私の唇を奪っていた。
「…おはよう、魔理沙」
私の唇を奪った相手は顔を赤らめながら朝の挨拶をしてくる。
「……おはよう、アリス」
何度してもこういうのは慣れない。私の顔もきっと紅潮していることだろう。
「……ちょ、朝食の支度、そろそろ終わるからすぐにきなさいよね」
そのまま火照っている顔をそむけながら一階に下りていく。
私もすぐにベッドから下りて、寝間着からいつものドロワーズに黒白のエプロンドレスと着替えて身だしなみを整えてから下に降りていった。
アリスを友としてではなく、一人の女性として好きだと告白して数ヶ月、その告白は受け入れられ、友としての関係から、少しずつ変化していった。
流石に同居はまだしていないが、朝、私の朝食を作りに来るようになったり、その後の行動も人形の製作をする事以外は、私と一緒に行動をするようになった。
そして極めつけは……その、なんだ。朝におはようの、キスをしてきたり、唐突に私を抱きしめたり、流石に知識として知っている男女の行為にまで走ってはいないが、アリスは何か今までの「友」としての関係以上を求めて、私によくそういう行為をする。
私としては、一緒にいられるだけで幸せなのだが、アリスは違うのかもしれない。
告白した側が何もそういう「恋人」としての行為に走らないから、不安になっているのだろうか?
悩んでも仕方がない事なのだが、私は出来る限りアリスに答えてやりたかった。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
アリスが作った朝食を食べ終えて、私は食べ終えた自分の食器類と、アリスの食器類を流しに入れていく。
人里ではどう食器を洗っているか知らないが、私の家は、魔法の森にある小川の下流に流れるように、わざわざ香霖が外来の道具として説明してきたパイプ管というものを地中に掘ったりして家から川まで繋げている便利な台所になったりしている。
水自体も、上流までわざわざ掘って繋げているおかげで、川に水を汲みに行ったりする必要もない。
「今日はこれからどうするの?魔理沙」
食器を洗っている私の後ろ姿に声をかけるアリス。
どうするか?と聞かれて逆にアリスに何をしたい?と問い返したくなるが、私としてはそろそろ魔法の実験に使っている茸が少なくなってきているので、茸の採集をしたい所だった。
「今日は魔法の森に生えている化け物茸の採集をしたいところだな。そろそろ保管している数が少なくなってきているし」
ただ、季節が夏真っ只中な事もあり、茸の採集はかなりきつい。
森の中とはいえ夏は暑いし冬は寒い。おまけに夜になれば妖怪達がうごめいて、普通の人間が住むにしては物騒きわまりない所だったりする。
「……私も、付いていっていいのかしら?」
食器を洗っているせいで顔は見えないが、アリスが不安な声を上げながら私に聞いてきたのはわかった。
「……?別に構わないぜ?」
何故そんな不安な声で聞いてくるのかはわからないが、別に茸採集に付いてこられても困る事もなければ、むしろ居てくれれば、ひたすら茸取りという黙々とした仕事を紛らわすには良かったりと考えたりする。
「…ありがとう。それじゃあ私、一度家に戻って準備をしてくるわ」
不安な声から一転、少しはしゃいでいるような声を上げながら席を立つ。
「…あ、魔理沙」
そのまま足音が遠ざかっていくと思ったが、何を思ったのか、逆に私の方に歩みよってきて肩を叩く。
「ん?なんだ?」
私は食器を洗いながらも顔だけアリスに向けるように振り返った。
「……ん」
振り返った瞬間に、朝の口付けと同じように、不意打ち気味に唇を奪われた。
「…ん」
その口付けを、私は固まって動けないまま、目を閉じて受け入れていた。
頬が熱くなる。さっき食べた朝食とは別に、甘く痺れるような味が、口内を汚染していく。
食器を洗う水の音が、何処か遠くにいってしまったかのような気がした。
「…プハ、……じゃあ、準備してくるから待っていて」
唇を離すと、アリスは頬を紅潮させ、笑顔のまま家から足早に出て行った。
「………」
私はというと、固まって動けずにいる。本当に、何度されても慣れない行為だ。
「……熱いぜ」
「……熱いわね」
準備が出来たアリスと茸採集に来て数時間。
森林群で直射日光を避けられているとはいえ、蒸し暑い空間に、早くもダルダルな空気が流れていた。
「………後、もう半分は欲しい所なんだが」
採集した茸を入れておいた袋の中身を見る。
どれも一つ一つが大きく、「化け物」茸の名に相応しい物であったが、質と量で考えれば、もう半分程量が欲しかった。
「一度、何処かで休憩にしない…?そろそろお昼になると思うし」
「……ならこの先に小川があるはずだから、そこで休憩にしようぜ」
首元の汗を腕で拭いながら、アリスの提案通り、休憩をする為に森の中を歩いていく。
歩いていくと、虫や動物の鳴く音とは別に、魔理沙の言った通り、川の流れる音が徐々に聞こえてきた。
「ふぅ……」
川の近くの大木に背中を預けながら私は腰を下ろす。
「お水、汲んでくるわね」
アリスは用意しておいたのか、背中に背負っていた袋から竹の水筒を二つ取り出して小川の方に歩いていく。
「……」
そんなアリスを眺めながら、私はアリスの朝の行動を思い起こしていた。
私から口付けとか抱きしめたりするべきなのだろうか?
「恋人」としての行動に悩む。するにしてもいつすればいいのか?
無理にする行為でもないが、けれど私からもするのが「恋人」なのではないか?
「魔理沙、はい、お水」
そんな風に悩んでいたら、汲み終わったのか、二つあった竹の水筒の一つを私に渡してくるアリス。
「あ、ああ。ありがと」
渡された水筒を受け取り、そのまま口に運ぶ。
「んぐ……んぐ」
気持ちを落ち着けたいのと、喉がいつの間にかカラカラになっていたのもあり、一気に飲み干していった。
「作ってきた昼食もあるから、ここで食べちゃいましょ」
私の横に座りながら、同じように大木に背中を預けて、袋から正方形の箱を取り出して自分の膝の上に置く。
中を開けると、あの短時間でどうやって作ったのか、二人分はあるサンドイッチが詰め込まれていた。
「おー、うまそうだな」
見た目の感想を言いながら私はそのサンドイッチを一切れ取り、口に運ぶ。
「ど、どう?」
作った側としては不安なのか、口に運んで二、三度咀嚼すると、食べ物の感想を聞いてくるアリス。
「普通に美味いぜ。準備するって言ってもあんまり時間がなかったのに、これだけ作れれば上出来だ」
それに美味いと返す。実際、兎の肉を使ったのか、肉の甘みと一緒に挟んであったレタスのシャキシャキ感が丁度いい感じに出ていた。
「よかったぁ…急いで作ったから失敗したかもしれないって思ったのよね」
ほっとその感想を聞いて安心したアリスは、自分もそのサンドイッチを口に運んだ。
黙々と食べる私とアリス。
「あ、アリス」
食べながら私は、アリスの頬にいつの間にかついた肉のカスを手で取って、自分の口に運んだ。
「………え?」
その行動に、アリスは耳まで真っ赤になるほど赤面した。
「い、今……魔理沙」
肉のカスが付いていた頬を何度も手で触りながらアリスは慌てる。
「お、おい?アリス?」
私はそんな赤面するアリスに同調するように慌てて頬が熱くなっていった。
そんなに慌てるような行為だったのか。いや、今思えば確かに恥ずかしい行為だったかもしれない。
「「………」」
二人して赤面しながら何処か明後日の方向を向く。
「………あ、あのさ。アリス」
テンパッテいるのが自分でもわかったが、この恥ずかしい空気の中、何を思ったのか。
「な、なに?魔理沙」
まだ赤面しているアリスだったが、呼ばれて顔を魔理沙の方に向ける。
「………キ、キスして、いいか?」
自分の口から言った言葉に、自分で驚くぐらい、頭の中で熱が発生していた。
「…………」
言われたアリスも同じようで、口を震えさせながら、しかし、必至に首を横に振って深呼吸してみせたりして自分を落ち着かせようとしている。
「…すぅ……はぁ………」
幾度か深呼吸をして、落ち着いたのか。
「い、いいわよ」
頬を紅潮させながら、答える。
「……じゃ、じゃあ。するぞ」
アリスの肩に手を置いて、徐々に自分の顔を近づけていく。
「………」
アリスは目を閉じながらそれを待つ。
私は、目を閉じているアリスの唇に、自分の唇を近づけていって―――――
視界に、ニヤニヤしている妖怪の姿が見えて、動きを止めた。
「っつ!?」
もう少しで唇が触れるというところで自分の顔を離して、そのまま立ち上がる。
「あらー?私の事は気にせずにそのままどうぞー?」
なにが楽しいのか、「隙間」から顔だけ出している紫の声が聞こえて、アリスも慌てて、目を開けてそちらに振り返る。
「ゆ、紫!何だってお前がここにいるんだよ!」
「お天気がいいから森林浴にでもこようかなぁって思ってねぇ」
何処まで本当なのかわからないが、紫はニコニコと笑顔のままアリスと私を見る。
「そうしたら面白い現場が見られそうで、ワクワクしながら見ていたのだけど・・・残念ねぇ」
全然残念に思っていない顔で言う紫に、アリスと私は顔を真っ赤にされる始末である。
「お邪魔なようだから私は退散するわ。じゃあね♪」
そして、ニヤニヤしたまま隙間に消えていく紫。
「……」
魔理沙は、決心して自分から口付けしようとしたのを憚られ、心の中で、大きくため息を吐いた。
「……そ、そろそろ、茸の採集に戻るか」
「え、えぇ、そうね」
その後、ギクシャクしたまま再び茸の採集を続ける私とアリスであったが、その後の茸採集は、どちらとも口を開かず、充分な量を確保した時点で、早々に終わる事になってしまった。
「……はぁ」
途中でアリスと別れ、自宅に戻ってきてため息を吐きながら今日の収穫である茸を、地下の魔法実験室に持っていく。
地下実験室は当初ここに来たときはなかったのだが、仮にも魔法店と名乗るならば実験を行う場所は一階じゃまずいと思い、香霖に頼み込んで一緒に作ってもらった代物である。
薄暗い実験室に化け物茸を袋ごと置き、一階に戻る。
「あらあら、いたいた」
一階に戻ると、昼の雰囲気をぶち壊しにしてくれた妖怪が、勝手知ったる我が家でお茶を飲みながらくつろいでいた。
「……紫、ブレイジングスターとマスタースパークくらうの、どっちがいい?」
「そう喧嘩越しにならないで欲しいわね。昼の一件を悪いと思ってまた顔を出してきてあげたのに」
よよよ、と泣き真似をしながら全然悪いと思っていない顔で「隙間」からお茶を取り出し、反対側に置く紫。
「……はぁ」
怒りの前に落胆がこみ上げて来てしまい、置かれたお茶の前におとなしく座る。
「けど驚いたわね。私の知らない所でそんな仲にまで発展しているなんて、貴方達」
自分の分のお茶を再びズズーと飲みながら紫はくつろぐ。
「・・・・・・お前が知らないのはどうでもいいが、友人としての仲以上になっちゃいけないのか?」
私もズズーとお茶を飲みながら紫に返す。
紫は少しばかり考えるような仕草をした後、真面目な顔になった。
「魔理沙、貴方´永遠´を生きる気はあるの?」
唐突にそう言われ、私は困惑するように聞き返す。
「永遠を生きる…?」
「えぇ、永遠を生きる。アリスは既に捨食の魔法を行使して、不死に近い魔法使いなのよ?」
紫のその言葉に、少し、心が痛んだ。まるで、アリスと私が別の存在のように言われている気がして。
「……私は、死ぬまでアリスを愛し続けるつもりだぜ?」
しかし、紫はその言葉に首を振る。
「答えになっていないわよ。貴方、置いていかれる者の気持ちとか考えて告白したのかしら?」
「………それは」
考えていなかった事はない。けれど、考えてしまったら、好きだなんて言えなかった。
「永遠を生きる気がないのなら、アリスとは、別れた方がいいと思うわ」
「!?どうしてそういう話になるんだよ!」
別れた方がいいと言われ、カッと、頭に血が上る。
「…わからない?」
「あぁ、わからないな!」
声を荒げながら返す…が、私は何故か、頭の中で次に紫が言う言葉を予想できた。
「……アリスは、´孤独´に耐えられないわよ?」
紫に言われ、私が死んだ後のアリスが脳裏によぎる。
あいつは、悲しんで、ずっと涙を流しながら私の死を受け入れられなくて、そのまま壊れていく。
そんな弱々しくなっていくアリスの姿を。
「…………」
だから、何だろうか?
私がいついなくなってしまうかわからないから・・・・・・あんな行為をするのだろうか?
友人以上になって、私という存在がアリスの中で大きくなってしまって、その感情を止められなくて、私はそういう行為に走るのだと思っていた。
けれど、その逆なのか?
私という存在が、アリスの中で大きくなってしまって、失ってしまうかもしれない恐怖によってそういう行為に走らせているのか?
「…………けど、それでも」
私は、´永遠´を生きる手段を、取らない。
「時間が有限だから、こんなに愛したいと思えるんだ」
確かに、アリスと永遠に生きるのは魅力的な事かもしれない。
「人間として、私はアリスに恋をしたんだよ」
最後は悲しませてしまうかもしれない。
最後は困らせてしまうかもしれない。
最後は………孤独にさせてしまう。
それでも、人として私は、アリスを愛している。
「…………ホントに、貴方達人間は自分勝手ね」
嫌いじゃないけれど、と言いながら、紫は隙間から何か、本を取り出す。
「あーあ。捨食の魔道書までお詫びとして用意したけれど、いらなくなったわね」
取り出した本をそのまま上に投げ、指先からお馴染みの光弾を放って消し飛ばす。
「ま、私はどっちに転がっても面白いからいいのよねぇ。不死なる存在を愛すのならそれなりに頑張りなさい、魔理沙。応援ぐらいはしてあげるわ」
真面目な顔は何処に行ったのか、口元を手で隠しながら笑う紫に、今頃になって自分が恥ずかしい宣言をしたのをわからされ、途端に顔の熱が高まっていった。
「………はめやがったな」
「いやあねぇ。はめてなんかいないわよ。ただ少し気になっただけ」
紫はケラケラ笑いながらお茶を啜る。
「………ま、謎が解けたからいいけどな」
紫の言葉でアリスが何であんな行為に走るかよくわかった。
それだけは、この降って沸いた隙間妖怪に感謝する。
「紫、悪いが用が出来たから話は終わりだぜ」
席を立って、テーブルに置いてあったトンガリ帽子を頭に被って家を出て行く。
「あらあら、いってらっしゃい」
それを、手を振りながら見送る紫。
紫もその用事が何なのかわかっているのもあり、ずっとニヤニヤが止まらなかったが。
「…すぅ…はぁ…」
一度、深呼吸をして、ドアを叩く。
昼の暑さから比べると、夜中はそれなりに涼しく、心地よく吹く風はとても気持ちよかった。
「はい…?どなたかしら?」
程なくして、アリスの声がドア越しに聞こえてくる。
「私だ。ちょっと、中に入れてくれないか?」
私の声が聞こえてから、少し間を置くように、アリスの顔だけ出るようにドアが開く。
「ま、魔理沙?どうしたの?」
昼の事が尾を引いているのか、アリスは未だにギクシャクしたような感じであった。
「あぁ、ちょっと話したい事があってな。中、入るぜ」
少し強引にドアをそのまま開けて、アリスの家に入っていく。
「ちょ、ど、どうしたのよ魔理沙」
アリスの家に入って、私はそのままアリスの手を掴みながら二階の階段を上っていく。
2階の寝室に入って、私は先に周囲を確認する。
もしかしたら私の思考を読んで、あの隙間妖怪が覗いている可能性があるからだ。
周囲を見渡して、何処にも異常がないのを確認してから、私は、アリスの両肩を両手で掴んだ。
「アリス」
じっと、アリスの顔を見る。アリスは、困惑したままの顔で私を見ていた。
「な、なに?」
今から言う言葉は、アリスを泣かせてしまうかもしれない。
けれど、言わなければ、本当の「恋人」じゃない気がするんだ。
「私は、人間だ。これからも、人間として生きていき、人間として死ぬ人生を選ぶと思う」
その言葉に、ビクっと、身体が一瞬震えたのが両手に伝わってきた。
アリスの顔は、困惑から、悲しい顔になっていくのが徐々にわかる。
「永遠には生きられない、アリスより先に……私は死んで、置いていってしまう」
「……それが、わかっているなら、なんで…」
「だけど!」
その先を言わさないように、私は大声で遮る。
「だけど!私は人間としてアリスを愛したんだ!時間が有限だってわかっているから!アリスに恋をしたんだ!」
私は、アリスと一緒にいられるだけで幸せだ。
けれど、それに終わりがあるから、幸せだと思えるんだ。
「我が侭なのかもしれない、自分勝手なのかも知れない!…アリスを、悲しませてしまうかもしれない。でも、私は人間として、アリスを好きなんだ」
アリスの両目からは既に、水滴がこぼれているのが目の前で見える。
あぁ…泣かせちゃったな。
私は泣いているアリスを、自分から抱きしめる。
「これで、私を嫌いになったのなら、振りほどいてくれていい。私は、嫌われてもおかしくない我が侭を通す気だからな」
だが、アリスから、振りほどかれる事はない。
「………振りほどけるわけ、ないじゃない」
アリスは、逆に私の身体に手を回す。
「嫌いになれるわけ、ないじゃない」
強く、その存在がいつまでも消えて欲しくないように、強く。
「私は………そんな魔理沙を、好きになったのだから」
どれぐらい、抱き合っていただろうか。
「……アリス」
「……なに、魔理沙」
「キス、していいか?」
昼に出来なかった口付け。
「…えぇ、いいわ」
少しだけ、身体を離して、アリスの顔を見る。
目を閉じながら、私からの、最初の口付けを待つ。
私は目を閉じながら待つアリスに顔を近づけていき。
本当の、恋人になった気がした、最初の口付けを交わした――――――
#「今回恋人フラグ成立したバージョンで話が進んでいるので余計に注意」
孤独には耐えられない。
孤独を愛せない。
永遠を愛せない。
永遠には耐えられない。
彼女は永遠に、私とともに生きてくれるだろうか――――――?
彼女は孤独に、耐えられるだろうか―――――――――――?
「……ん」
口に何かが触れる違和感を、寝ぼけた頭で意識する。
それは浅いようで長い時間、私の唇に触れていた。
徐々に目を開けていく。そこには、ここ最近では朝から見慣れた顔が、私の唇を奪っていた。
「…おはよう、魔理沙」
私の唇を奪った相手は顔を赤らめながら朝の挨拶をしてくる。
「……おはよう、アリス」
何度してもこういうのは慣れない。私の顔もきっと紅潮していることだろう。
「……ちょ、朝食の支度、そろそろ終わるからすぐにきなさいよね」
そのまま火照っている顔をそむけながら一階に下りていく。
私もすぐにベッドから下りて、寝間着からいつものドロワーズに黒白のエプロンドレスと着替えて身だしなみを整えてから下に降りていった。
アリスを友としてではなく、一人の女性として好きだと告白して数ヶ月、その告白は受け入れられ、友としての関係から、少しずつ変化していった。
流石に同居はまだしていないが、朝、私の朝食を作りに来るようになったり、その後の行動も人形の製作をする事以外は、私と一緒に行動をするようになった。
そして極めつけは……その、なんだ。朝におはようの、キスをしてきたり、唐突に私を抱きしめたり、流石に知識として知っている男女の行為にまで走ってはいないが、アリスは何か今までの「友」としての関係以上を求めて、私によくそういう行為をする。
私としては、一緒にいられるだけで幸せなのだが、アリスは違うのかもしれない。
告白した側が何もそういう「恋人」としての行為に走らないから、不安になっているのだろうか?
悩んでも仕方がない事なのだが、私は出来る限りアリスに答えてやりたかった。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
アリスが作った朝食を食べ終えて、私は食べ終えた自分の食器類と、アリスの食器類を流しに入れていく。
人里ではどう食器を洗っているか知らないが、私の家は、魔法の森にある小川の下流に流れるように、わざわざ香霖が外来の道具として説明してきたパイプ管というものを地中に掘ったりして家から川まで繋げている便利な台所になったりしている。
水自体も、上流までわざわざ掘って繋げているおかげで、川に水を汲みに行ったりする必要もない。
「今日はこれからどうするの?魔理沙」
食器を洗っている私の後ろ姿に声をかけるアリス。
どうするか?と聞かれて逆にアリスに何をしたい?と問い返したくなるが、私としてはそろそろ魔法の実験に使っている茸が少なくなってきているので、茸の採集をしたい所だった。
「今日は魔法の森に生えている化け物茸の採集をしたいところだな。そろそろ保管している数が少なくなってきているし」
ただ、季節が夏真っ只中な事もあり、茸の採集はかなりきつい。
森の中とはいえ夏は暑いし冬は寒い。おまけに夜になれば妖怪達がうごめいて、普通の人間が住むにしては物騒きわまりない所だったりする。
「……私も、付いていっていいのかしら?」
食器を洗っているせいで顔は見えないが、アリスが不安な声を上げながら私に聞いてきたのはわかった。
「……?別に構わないぜ?」
何故そんな不安な声で聞いてくるのかはわからないが、別に茸採集に付いてこられても困る事もなければ、むしろ居てくれれば、ひたすら茸取りという黙々とした仕事を紛らわすには良かったりと考えたりする。
「…ありがとう。それじゃあ私、一度家に戻って準備をしてくるわ」
不安な声から一転、少しはしゃいでいるような声を上げながら席を立つ。
「…あ、魔理沙」
そのまま足音が遠ざかっていくと思ったが、何を思ったのか、逆に私の方に歩みよってきて肩を叩く。
「ん?なんだ?」
私は食器を洗いながらも顔だけアリスに向けるように振り返った。
「……ん」
振り返った瞬間に、朝の口付けと同じように、不意打ち気味に唇を奪われた。
「…ん」
その口付けを、私は固まって動けないまま、目を閉じて受け入れていた。
頬が熱くなる。さっき食べた朝食とは別に、甘く痺れるような味が、口内を汚染していく。
食器を洗う水の音が、何処か遠くにいってしまったかのような気がした。
「…プハ、……じゃあ、準備してくるから待っていて」
唇を離すと、アリスは頬を紅潮させ、笑顔のまま家から足早に出て行った。
「………」
私はというと、固まって動けずにいる。本当に、何度されても慣れない行為だ。
「……熱いぜ」
「……熱いわね」
準備が出来たアリスと茸採集に来て数時間。
森林群で直射日光を避けられているとはいえ、蒸し暑い空間に、早くもダルダルな空気が流れていた。
「………後、もう半分は欲しい所なんだが」
採集した茸を入れておいた袋の中身を見る。
どれも一つ一つが大きく、「化け物」茸の名に相応しい物であったが、質と量で考えれば、もう半分程量が欲しかった。
「一度、何処かで休憩にしない…?そろそろお昼になると思うし」
「……ならこの先に小川があるはずだから、そこで休憩にしようぜ」
首元の汗を腕で拭いながら、アリスの提案通り、休憩をする為に森の中を歩いていく。
歩いていくと、虫や動物の鳴く音とは別に、魔理沙の言った通り、川の流れる音が徐々に聞こえてきた。
「ふぅ……」
川の近くの大木に背中を預けながら私は腰を下ろす。
「お水、汲んでくるわね」
アリスは用意しておいたのか、背中に背負っていた袋から竹の水筒を二つ取り出して小川の方に歩いていく。
「……」
そんなアリスを眺めながら、私はアリスの朝の行動を思い起こしていた。
私から口付けとか抱きしめたりするべきなのだろうか?
「恋人」としての行動に悩む。するにしてもいつすればいいのか?
無理にする行為でもないが、けれど私からもするのが「恋人」なのではないか?
「魔理沙、はい、お水」
そんな風に悩んでいたら、汲み終わったのか、二つあった竹の水筒の一つを私に渡してくるアリス。
「あ、ああ。ありがと」
渡された水筒を受け取り、そのまま口に運ぶ。
「んぐ……んぐ」
気持ちを落ち着けたいのと、喉がいつの間にかカラカラになっていたのもあり、一気に飲み干していった。
「作ってきた昼食もあるから、ここで食べちゃいましょ」
私の横に座りながら、同じように大木に背中を預けて、袋から正方形の箱を取り出して自分の膝の上に置く。
中を開けると、あの短時間でどうやって作ったのか、二人分はあるサンドイッチが詰め込まれていた。
「おー、うまそうだな」
見た目の感想を言いながら私はそのサンドイッチを一切れ取り、口に運ぶ。
「ど、どう?」
作った側としては不安なのか、口に運んで二、三度咀嚼すると、食べ物の感想を聞いてくるアリス。
「普通に美味いぜ。準備するって言ってもあんまり時間がなかったのに、これだけ作れれば上出来だ」
それに美味いと返す。実際、兎の肉を使ったのか、肉の甘みと一緒に挟んであったレタスのシャキシャキ感が丁度いい感じに出ていた。
「よかったぁ…急いで作ったから失敗したかもしれないって思ったのよね」
ほっとその感想を聞いて安心したアリスは、自分もそのサンドイッチを口に運んだ。
黙々と食べる私とアリス。
「あ、アリス」
食べながら私は、アリスの頬にいつの間にかついた肉のカスを手で取って、自分の口に運んだ。
「………え?」
その行動に、アリスは耳まで真っ赤になるほど赤面した。
「い、今……魔理沙」
肉のカスが付いていた頬を何度も手で触りながらアリスは慌てる。
「お、おい?アリス?」
私はそんな赤面するアリスに同調するように慌てて頬が熱くなっていった。
そんなに慌てるような行為だったのか。いや、今思えば確かに恥ずかしい行為だったかもしれない。
「「………」」
二人して赤面しながら何処か明後日の方向を向く。
「………あ、あのさ。アリス」
テンパッテいるのが自分でもわかったが、この恥ずかしい空気の中、何を思ったのか。
「な、なに?魔理沙」
まだ赤面しているアリスだったが、呼ばれて顔を魔理沙の方に向ける。
「………キ、キスして、いいか?」
自分の口から言った言葉に、自分で驚くぐらい、頭の中で熱が発生していた。
「…………」
言われたアリスも同じようで、口を震えさせながら、しかし、必至に首を横に振って深呼吸してみせたりして自分を落ち着かせようとしている。
「…すぅ……はぁ………」
幾度か深呼吸をして、落ち着いたのか。
「い、いいわよ」
頬を紅潮させながら、答える。
「……じゃ、じゃあ。するぞ」
アリスの肩に手を置いて、徐々に自分の顔を近づけていく。
「………」
アリスは目を閉じながらそれを待つ。
私は、目を閉じているアリスの唇に、自分の唇を近づけていって―――――
視界に、ニヤニヤしている妖怪の姿が見えて、動きを止めた。
「っつ!?」
もう少しで唇が触れるというところで自分の顔を離して、そのまま立ち上がる。
「あらー?私の事は気にせずにそのままどうぞー?」
なにが楽しいのか、「隙間」から顔だけ出している紫の声が聞こえて、アリスも慌てて、目を開けてそちらに振り返る。
「ゆ、紫!何だってお前がここにいるんだよ!」
「お天気がいいから森林浴にでもこようかなぁって思ってねぇ」
何処まで本当なのかわからないが、紫はニコニコと笑顔のままアリスと私を見る。
「そうしたら面白い現場が見られそうで、ワクワクしながら見ていたのだけど・・・残念ねぇ」
全然残念に思っていない顔で言う紫に、アリスと私は顔を真っ赤にされる始末である。
「お邪魔なようだから私は退散するわ。じゃあね♪」
そして、ニヤニヤしたまま隙間に消えていく紫。
「……」
魔理沙は、決心して自分から口付けしようとしたのを憚られ、心の中で、大きくため息を吐いた。
「……そ、そろそろ、茸の採集に戻るか」
「え、えぇ、そうね」
その後、ギクシャクしたまま再び茸の採集を続ける私とアリスであったが、その後の茸採集は、どちらとも口を開かず、充分な量を確保した時点で、早々に終わる事になってしまった。
「……はぁ」
途中でアリスと別れ、自宅に戻ってきてため息を吐きながら今日の収穫である茸を、地下の魔法実験室に持っていく。
地下実験室は当初ここに来たときはなかったのだが、仮にも魔法店と名乗るならば実験を行う場所は一階じゃまずいと思い、香霖に頼み込んで一緒に作ってもらった代物である。
薄暗い実験室に化け物茸を袋ごと置き、一階に戻る。
「あらあら、いたいた」
一階に戻ると、昼の雰囲気をぶち壊しにしてくれた妖怪が、勝手知ったる我が家でお茶を飲みながらくつろいでいた。
「……紫、ブレイジングスターとマスタースパークくらうの、どっちがいい?」
「そう喧嘩越しにならないで欲しいわね。昼の一件を悪いと思ってまた顔を出してきてあげたのに」
よよよ、と泣き真似をしながら全然悪いと思っていない顔で「隙間」からお茶を取り出し、反対側に置く紫。
「……はぁ」
怒りの前に落胆がこみ上げて来てしまい、置かれたお茶の前におとなしく座る。
「けど驚いたわね。私の知らない所でそんな仲にまで発展しているなんて、貴方達」
自分の分のお茶を再びズズーと飲みながら紫はくつろぐ。
「・・・・・・お前が知らないのはどうでもいいが、友人としての仲以上になっちゃいけないのか?」
私もズズーとお茶を飲みながら紫に返す。
紫は少しばかり考えるような仕草をした後、真面目な顔になった。
「魔理沙、貴方´永遠´を生きる気はあるの?」
唐突にそう言われ、私は困惑するように聞き返す。
「永遠を生きる…?」
「えぇ、永遠を生きる。アリスは既に捨食の魔法を行使して、不死に近い魔法使いなのよ?」
紫のその言葉に、少し、心が痛んだ。まるで、アリスと私が別の存在のように言われている気がして。
「……私は、死ぬまでアリスを愛し続けるつもりだぜ?」
しかし、紫はその言葉に首を振る。
「答えになっていないわよ。貴方、置いていかれる者の気持ちとか考えて告白したのかしら?」
「………それは」
考えていなかった事はない。けれど、考えてしまったら、好きだなんて言えなかった。
「永遠を生きる気がないのなら、アリスとは、別れた方がいいと思うわ」
「!?どうしてそういう話になるんだよ!」
別れた方がいいと言われ、カッと、頭に血が上る。
「…わからない?」
「あぁ、わからないな!」
声を荒げながら返す…が、私は何故か、頭の中で次に紫が言う言葉を予想できた。
「……アリスは、´孤独´に耐えられないわよ?」
紫に言われ、私が死んだ後のアリスが脳裏によぎる。
あいつは、悲しんで、ずっと涙を流しながら私の死を受け入れられなくて、そのまま壊れていく。
そんな弱々しくなっていくアリスの姿を。
「…………」
だから、何だろうか?
私がいついなくなってしまうかわからないから・・・・・・あんな行為をするのだろうか?
友人以上になって、私という存在がアリスの中で大きくなってしまって、その感情を止められなくて、私はそういう行為に走るのだと思っていた。
けれど、その逆なのか?
私という存在が、アリスの中で大きくなってしまって、失ってしまうかもしれない恐怖によってそういう行為に走らせているのか?
「…………けど、それでも」
私は、´永遠´を生きる手段を、取らない。
「時間が有限だから、こんなに愛したいと思えるんだ」
確かに、アリスと永遠に生きるのは魅力的な事かもしれない。
「人間として、私はアリスに恋をしたんだよ」
最後は悲しませてしまうかもしれない。
最後は困らせてしまうかもしれない。
最後は………孤独にさせてしまう。
それでも、人として私は、アリスを愛している。
「…………ホントに、貴方達人間は自分勝手ね」
嫌いじゃないけれど、と言いながら、紫は隙間から何か、本を取り出す。
「あーあ。捨食の魔道書までお詫びとして用意したけれど、いらなくなったわね」
取り出した本をそのまま上に投げ、指先からお馴染みの光弾を放って消し飛ばす。
「ま、私はどっちに転がっても面白いからいいのよねぇ。不死なる存在を愛すのならそれなりに頑張りなさい、魔理沙。応援ぐらいはしてあげるわ」
真面目な顔は何処に行ったのか、口元を手で隠しながら笑う紫に、今頃になって自分が恥ずかしい宣言をしたのをわからされ、途端に顔の熱が高まっていった。
「………はめやがったな」
「いやあねぇ。はめてなんかいないわよ。ただ少し気になっただけ」
紫はケラケラ笑いながらお茶を啜る。
「………ま、謎が解けたからいいけどな」
紫の言葉でアリスが何であんな行為に走るかよくわかった。
それだけは、この降って沸いた隙間妖怪に感謝する。
「紫、悪いが用が出来たから話は終わりだぜ」
席を立って、テーブルに置いてあったトンガリ帽子を頭に被って家を出て行く。
「あらあら、いってらっしゃい」
それを、手を振りながら見送る紫。
紫もその用事が何なのかわかっているのもあり、ずっとニヤニヤが止まらなかったが。
「…すぅ…はぁ…」
一度、深呼吸をして、ドアを叩く。
昼の暑さから比べると、夜中はそれなりに涼しく、心地よく吹く風はとても気持ちよかった。
「はい…?どなたかしら?」
程なくして、アリスの声がドア越しに聞こえてくる。
「私だ。ちょっと、中に入れてくれないか?」
私の声が聞こえてから、少し間を置くように、アリスの顔だけ出るようにドアが開く。
「ま、魔理沙?どうしたの?」
昼の事が尾を引いているのか、アリスは未だにギクシャクしたような感じであった。
「あぁ、ちょっと話したい事があってな。中、入るぜ」
少し強引にドアをそのまま開けて、アリスの家に入っていく。
「ちょ、ど、どうしたのよ魔理沙」
アリスの家に入って、私はそのままアリスの手を掴みながら二階の階段を上っていく。
2階の寝室に入って、私は先に周囲を確認する。
もしかしたら私の思考を読んで、あの隙間妖怪が覗いている可能性があるからだ。
周囲を見渡して、何処にも異常がないのを確認してから、私は、アリスの両肩を両手で掴んだ。
「アリス」
じっと、アリスの顔を見る。アリスは、困惑したままの顔で私を見ていた。
「な、なに?」
今から言う言葉は、アリスを泣かせてしまうかもしれない。
けれど、言わなければ、本当の「恋人」じゃない気がするんだ。
「私は、人間だ。これからも、人間として生きていき、人間として死ぬ人生を選ぶと思う」
その言葉に、ビクっと、身体が一瞬震えたのが両手に伝わってきた。
アリスの顔は、困惑から、悲しい顔になっていくのが徐々にわかる。
「永遠には生きられない、アリスより先に……私は死んで、置いていってしまう」
「……それが、わかっているなら、なんで…」
「だけど!」
その先を言わさないように、私は大声で遮る。
「だけど!私は人間としてアリスを愛したんだ!時間が有限だってわかっているから!アリスに恋をしたんだ!」
私は、アリスと一緒にいられるだけで幸せだ。
けれど、それに終わりがあるから、幸せだと思えるんだ。
「我が侭なのかもしれない、自分勝手なのかも知れない!…アリスを、悲しませてしまうかもしれない。でも、私は人間として、アリスを好きなんだ」
アリスの両目からは既に、水滴がこぼれているのが目の前で見える。
あぁ…泣かせちゃったな。
私は泣いているアリスを、自分から抱きしめる。
「これで、私を嫌いになったのなら、振りほどいてくれていい。私は、嫌われてもおかしくない我が侭を通す気だからな」
だが、アリスから、振りほどかれる事はない。
「………振りほどけるわけ、ないじゃない」
アリスは、逆に私の身体に手を回す。
「嫌いになれるわけ、ないじゃない」
強く、その存在がいつまでも消えて欲しくないように、強く。
「私は………そんな魔理沙を、好きになったのだから」
どれぐらい、抱き合っていただろうか。
「……アリス」
「……なに、魔理沙」
「キス、していいか?」
昼に出来なかった口付け。
「…えぇ、いいわ」
少しだけ、身体を離して、アリスの顔を見る。
目を閉じながら、私からの、最初の口付けを待つ。
私は目を閉じながら待つアリスに顔を近づけていき。
本当の、恋人になった気がした、最初の口付けを交わした――――――
そして甘い・・・w
紫タイミング良すぎだろwwwww