Coolier - 新生・東方創想話

紫の思いつき1

2007/06/06 08:42:02
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Side 藍

「藍、ちょっとお使い行って来て。」
我が主の紫様が唐突に仰られた。
「何処へ何をしにですか?」
まずは抜けていた目的と場所を尋ねる。
まぁ、紫様がそれらを最初に言わないのは何時もの事だ。

「白玉楼と人の里よ。」
はて?白玉楼はともかく人の里も?
白玉楼は幽々子様関連で行く事も少なくはない。
が、同時に人の里も指定されるのは珍しい事だ。

「して、ご用件は?」
「三日後に博麗神社で料理対決を行うから、それぞれの場所で代表者を招集して頂戴。」
はい?
三日後に博麗神社で料理対決?
何時そんな事が決まったのだ?
いや、待て。
今、「行うから」「召集して頂戴」と言われたな・・・・・・
と、言う事は・・・・・・

「ああ、それから各代表者に当日には汎用性のある宝物を持って来るように言ってね。」
紫様の突発的な思い付きか・・・・・・
「汎用性のある宝物とは?」
中々矛盾している様な言葉だ。
「そのまんまの意味よ。解かるでしょ?」
「ええ、まぁ・・・・・・」
何となく言いたい事は解かる。
そして、それらをどうするのかも。

「じゃあ任せたわね。私は私で行く所があるから。」
そう言うと、紫様は隙間へと消えてしまった。

「あ、そうそう。」
と思ったら、首だけニュッと出して来た。
「橙にもお使いに行ってもらってるから、橙の事は気にしなくて良いわよ。」
それだけ言うと再び、今度こそ隙間へと消えた。

しかし、珍しい事もある。
大抵何か思いついたとしても、私達に準備を任せて動かない紫様が・・・・・・
ふむ・・・今回は何か重大な事に関連しているのかもしれない。
紫様の事だ、突発的な思い付きと思わせてその裏で想像もしえない何かの効果を発させる。
あのお方はそう言う方だ。
私如きに推察出来る事ではない。

であるならば、私は命じられた任務を全うするまで。
橙も紫様の命により使いに出されているようだし。
まぁ、紫様の命なら橙も危険な目に会う事はないだろう。
では、まずは白玉楼へ行くとしよう。


白玉楼

「失礼。」
私は白玉楼に付くと、一言声を掛ける。
それだけで出てくるのだ。
「おや?藍さん。幽々子様に御用件ですか?」
この大きな屋敷の小さな庭師が。

「ああ、紫様の命でね。お目通り願えるかな?」
「紫様の?解かりました、こちらです。」
妖夢はそう告げるだけですんなり通してくれた。
まぁ、私も紫様も白玉楼との付き合いは長い。
橙であっても私や紫様の名を出せば通して貰える程だ。
ただ、橙一人ではまだ通して貰えないとは思うが。

「幽々子様。」
「あら、妖夢。それに藍?どうしたの~?」
幽々子様は庭先の縁側に居られた。
私と妖夢を見ると、独特の口調で話しかけてきた。
「藍さんが紫様の命で参られました。」
妖夢は簡単にそう告げる。

「紫の~?」
「はい。紫様の命でこちらに参りました。」
まずは一礼。
主の親友であらせられるのだから、まずは礼を通す。
「そう堅くしなくて良いわよ~」
幽々子様はそう言われるが、そう言う訳にも行かない。
「いえ、そう言う訳にも参りません。それよりも、紫様の命ですが・・・・・・」
「なになに~?また面白い事でも思いついたの?」
流石はご親友。
紫様の事を解かってらっしゃる。

「率直に言えばその通りです。面白いかどうかは解かりませんが・・・・・・」
回りくどく言っても埒が明かない。
こう言う時は単刀直入に限る。
「紫様が三日後に博麗神社にて料理対決を行うとの事でして・・・・・・」
「料理対決!?」
料理、と聞いて幽々子様の目が思いっきり輝く。
流石は奈落に直結している胃袋を持つと言われている亡霊の姫君。
幽々子様の場合、幽体に死を操ると言う能力も加わり、あながち奈落に直結が冗談ではないかもしれない。

「で!?で!?どういう内容なの!?」
物凄い喰いつきっぷりだ。
物凄すぎて私が食われそうだ。
いや、本当に。

「詳しい内容は私もまだ聞いてないのですが・・・・・・」
「なんだ~・・・後で紫に聞きに行こうっと。」
「ただ、各場所から代表者を出して戦わせるようです。無論、料理で。」
「じゃあ、私審査員やるわ!!これ決まりね!!」
勝手に決められてしまった。
が、まぁ、紫様も恐らくそうするつもりだろう。

「しかし、各場所とは?」
妖夢が私に尋ねてくる。
「う~ん・・・私も委細は聞いていないんだ。ただ、この後人の里にも行くように言われてるから・・・・・・」
「白玉楼に人の里ですか・・・・・」
「それだけで済むとは・・・・・・あっ。」
そこで私は気が付いた。

「どうしたんですか?」
「いや、今回は珍しく紫様も動いているんだ。」
「あら?珍しいわね、あの紫が自分から動くなんて。」
「ええ、そして考えてみれば、今、幻想郷にまとまった大きな集落は5つ。」
「あ!」
妖夢も気が付いたようだ。
即ち

白玉楼
人の里
紅魔館
永遠亭
そして我がマヨヒガ

妖怪の山もまとまった大きな集落ではあるが、あそこは種類が雑多すぎる上に、
その中で更に細々と集落が分けられている。
故に上記の5つから外した。
紫様はその5つから代表者を選別させるのだろう。
そして、私が白玉楼と人の里に来たと言う事は・・・・・・

「紫は紅魔館と永遠亭ね。まぁ、確かに藍じゃその二つは荷が重いわね~」
幽々子様の言うとおりだ。
正直、紅魔館の吸血鬼と永遠亭の蓬莱人はクセが強過ぎる。
恐らく、真面目な性分な私ではまともに交渉できないだろう。

ふぅ・・・なんのかのと家事では偉そうな事を紫様に言ってはいるが、
やはり、私はまだまだ式として未熟なのだな・・・・・・
「さて、それじゃあウチの方からはもう代表は決まってるわ。」
幽々子様がそう言われる。
まぁ、それが誰かは私にもわかる。

「あの~・・・・・・幽々子様?一応お聞きしますが、その人物とは?」
妖夢も察しているのだろう、半ば諦め気味に尋ねる。
「勿論、妖夢よ。」
だろうな。
そもそも、殆どが幽霊のこの屋敷でまともに料理を作れそうなのは妖夢くらいのものだ。
「ああ・・・やっぱりそうなんですね・・・・・・」
解かっていた事とは言え、がっくりとうなだれる妖夢。

「それで、幽々子様。対決の際に、それぞれ汎用性のある宝を持って来いとのお達しなのですが・・・・・・」
「汎用性のある宝?」
妖夢が聞きなれない単語に首をかしげる。
「ああ、お酒とかって事かしらね?」
流石に幽々子様は解かってらっしゃる。
口調や行動などからは想像できないが、この方もまた、すこぶる頭の回転が速い。
多分、やろうと思えば式を使役出来るのではなかろうか?
それもかなり強力な式を。

「えっと・・・・・・すみません、私は解からなかったのですが・・・・・・」
まぁ、普通はそうだろうな。
「解かりやすく言うとだな。妖夢、君のその二本の刀はとても素晴らしい物だな。」
楼観剣は妖怪が鍛えたといわれる刀。
一振りで幽霊十匹分の殺傷力を持つと言われている。
白楼剣は斬った者の悩みを斬り払うと言われている。
幽霊に使えば即成仏させられるとの事だ。
言うまでも無く、どちらも比類が無い程の名刀だ。

「え?ええ、この二振りは死んだって離せません。いや、まぁ、半分死んでは居ますけど・・・・・・」
「うむ、それは素晴らしいものだ。素人が見たって解かるだろう。宝としては申し分ない。」
「ちょ、ちょっと待ってください!!いくらなんでもこれは・・・・・・」
「妖夢、藍の話を最後まで聞きなさい。」
幽々子様が妖夢をなだめてくれる。

「だがな、妖夢。例えば私や紫様がその刀を景品として受け取ったとしたら、果たしてどうだろうか?」
妖夢には悪いが、はっきり言って只の荷物だ。
何せ私も紫様も刀は使わない。
なのに、そんな高価な物を貰っても困るのだ。
だったら安物であっても酒のほうが良いという物。

「あ、なるほど。」
それで妖夢も理解したようだ。
「汎用性のある宝とはそう言う事。誰が貰っても困らないような、それでいて貴重な物って事よ。」
幽々子様が最後に付け足してくれた。

「じゃあ、宝を持って行くという事は、それが景品に?」
「恐らくはそうだろうな。勝者の総取りになるんじゃないか?」
「でしょうね~。じゃなきゃ持って来いなんて言わないでしょ。」
「なるほど・・・それなら確かに汎用性のある物の方が良いですね。」
妖夢も漸く状況が飲み込めたようだ。

「幽々子様、私達は何を出すんですか?」
「あら?決まってるじゃない。」
ほう?
幽々子様、つまりは白玉楼の汎用性のある宝とは?
自然、私も興味が惹かれる。




「妖夢よ。」


「え~~~~~!!!!」
妖夢が悲鳴を上げる。
まぁ、当たり前か。
「成る程。妖夢なら確かに汎用性がありますね。」
私も少し悪乗りしてみる。
「ちょ、ちょっと!藍さんまで何を!!」
「あ、藍もそう思う~?」
「ええ、気立て良しの上、用心棒としても心強いですからね。」
これは本心だ。
「わ、私の意思は!?」
妖夢最後の抵抗。



「無いわ。」


庭師顔負けの勢いでバッサリと切り捨てる幽々子様。
「そ、そんな~・・・・・・」
妖夢が今にも泣きそうになる。
好い加減助け舟を出してあげないと可愛そうだな。

「さて、幽々子様。お戯れはこの辺にして・・・・・・」
「そうね~。」
まぁ、幽々子様が可愛がってる妖夢を手放す訳は無い。
だから私も悪乗りしたのだ。

「う、嘘だったんだすか!?」
信じてたのか、妖夢・・・・・・
それだから幽々子様に遊ばれてしまうのだよ。
「当たり前じゃな~い。可愛い妖夢を手放すわけないでしょ~。」
そう言って妖夢を抱き寄せて頭を撫でる幽々子様。

「うぅ・・・・・・もう少しまともな冗談言って下さいよ~。」
妖夢は少し泣いてる。
まぁ、確かにここまで素直で可愛い反応をする者を手放したくなど無いだろう。
ふと、私は橙を思い浮かべる。
ふふ・・・しかし、まだまだ橙よりは妖夢の方がしっかりしているか。

「まぁ、当日には持って来るようにとの事でしたので、三日間の間にご用意ください。」
「ええ、少し探してみるわね~。」
主に妖夢が、なのだろうが。
「では、私はこの辺で・・・・・・」
「あ、入り口まで送ります。」
妖夢がそう言ってくれるが
「いや、構わないよ。勝手知ったる他人の家・・・とまでは言わないが、庭だ。一人で大丈夫さ。」
もう何度も足を運んでいるから道くらい解かる。
「解かりました。では、お気をつけて。」
「ああ、ありがとう。それでは幽々子様。失礼いたします。」
「はいは~い。紫によろしくね~。」
妖夢はお辞儀をして、幽々子様は優雅に手を振って見送ってくれた。


人の里

さて、ここの里で一番話しやすいのは・・・・・・慧音だな。
慣れてきたとは言えども、やはりこう言う用件の場合は慧音を頼ってしまうな。
こんな時は彼女の存在はありがたい限りだ。

慧音の家を目指して歩いていたら、丁度道を歩いていた慧音を確認できた。
が、今は誰かと一緒に歩いているようだ。
あの銀髪に赤いモンペの少女は確か・・・・・・
そうだ。藤原妹紅だ。
なんでも蓬莱の薬を飲んで不老不死になったという。
以前、霊夢と紫様が蓬莱人にそそのかされた時に戦った相手だ。

とは言え、私も今日は争いに来たわけではない。
それにあの慧音の友人だ。
いきなり攻撃してくる事は無いだろう。
慧音も隣にいる事だしな。

「慧音。」
私は用件を伝えるべく慧音に声を掛けた。
友人と散歩中に失礼だとは思ったが、あまり時間を食いすぎると私が紫様に怒られる。
紫様のお仕置きは避けたいのだ。
「ん?ああ、藍じゃないか。」
慧音もこちらに気付き、寄って来る。
「散歩中すまないな。悪いが、時間は空いているか?」
一応友人と歩いていたのだから尋ねてみる。

「ふむ・・・そんなに時間が掛からなければ構わんぞ。」
一度友人の顔をうかがってから慧音は返答した。
まぁ、友人と一緒にいるんだ。
当然だろう。
寧ろ時間を取ってくれただけで感謝すべきだ。
「ありがとう。」
「立ち話もなんだ。私の家に来ると良い。構わないだろう?妹紅。」
「ま、私はどっちでも良いよ。」
以前の事もあって警戒、もしくは嫌悪されるかと思ったが大丈夫なようだ。


慧音の家

家について直ぐに慧音が三人分のお茶と茶菓子を持って居間に戻ってきた。
「さ、遠慮せずにくつろいでくれ。」
「ああ、すまないな。」
差し出されたお茶をまずは飲む。
うん、美味しい。
良い茶葉を使っているな。
「さて、用件なんだが・・・・・・」
私は直ぐに用事を延べることにした。
時間が掛からなければ、と言われていたしな。

「紫様の突発的な思い付きで3日後に博麗神社で料理対決をする事になった。」
「また突然だな。」
慧音が驚いたような、呆れたような表情で返す。
まぁ、当たり前か。

「相変わらず何考えてるか解からない妖怪だねぇ。」
「妹紅殿は永夜異変の時に・・・・・・」
「妹紅で良いよ。ああ、やりあったよ。あんたとあんたの主と。」
「その節は主共々ご迷惑を・・・・・・」
後で聞けば、永夜異変の首謀者に乗せられたとの事だった。
「え?あ、まぁ、気にしなくて良いよ。悪いのは全部輝夜なんだからな。」
少し戸惑った後、妹紅はそう言った。
すると

「なんだよ、慧音。何ニヤニヤしてんのさ。」
「いや何、珍しく妹紅が照れているな、と。」
照れていたのか。
「な、何言ってんのよ!照れてるわけ無いでしょ!」
「まぁ、気持ちはわかるさ。素直に謝る妖怪なんて多く無いからな。」
ああ、確かに。
何だかんだと理由をつけて正当化し、謝らないと言うのが妖怪の特徴だ。

まぁ、私の主である紫様もご多分に漏れない訳だが。
そしてそのツケは私に回ってくる。
良い迷惑だ・・・・・・
紫様のそう言う所は何とかして欲しいと持っている。
まぁ、無理な願いであろうが。

「それはそうと、それを告げに来ただけではないだろう?」
そうだった。
「ああ、すまない。その件についてなんだが、人の里からも代表者を一人出して欲しいとの事だ。」
「人の里からも?」
その単語に慧音が反応する。

「白玉楼、紅魔館、永遠亭、人の里、そして我がマヨヒガより代表者1名を選出しての対決になる。」
「永遠亭!?奴らも来るのか!?」
妹紅の目の色が変わる。
そう言えば、永遠亭の人間と相当因縁があると聞いていた。
「ああ、紫様の事だ。どのような事があっても引っ張り出してくるだろう。」
でなくば紫様自ら動かれるなど考えられない。

「しかし、妖怪だらけの所に人一人送り込むわけには・・・・・・」
まぁ、確かに危険極まりないな。
しかも他の4つの集落はどれも超一級品の実力者が居る。
「いや、その辺りは問題ないだろう。紫様がその辺りの事を考慮していないわけは無い。」
これは予想で無く確信だ。
大体、人間一人おびき出して何をしようというのか。

「それもそうか。」
紫様の事をそれなりに解かっているのであろう、慧音は納得した。
「頼めないか?」
こちらも紫様の命である以上、遂行せねばならない。

「ふむ・・・・・・別に私が出ても構わんのだろう?」
「人の里の代表者、であるなら何も問題は無いだろう。」
ダメであるなら紫様は予め釘を刺すはずだ。
「なら、私が出よう。そんな物騒な連中の集まりの中に一般人を向かわせる訳にもいくまい。」
当然の判断だ。

「参加するのか?慧音。」
妹紅が尋ねてくる。
「ああ。八雲紫は掴めない妖怪だが、無意味な行動は少ないと言う。」
まぁ、確かに多少は無意味な、と言うか暇つぶしをされるが。
「これだけの面子を集める以上、単なる思い付きの暇つぶしと言う事はあるまい。」
それについては同感だ。

「ああ、それから、当日は汎用性のある宝を持ってきて欲しいとの事だ。」
「汎用性のある宝?何それ?」
妹紅が尋ねてくる。
「ふむ・・・それは高級な酒や宝石の類と考えれば良いのか?」
流石に慧音は解かっている。
「ああ、その通りだ。」

「それが汎用性のある宝?」
「簡単に言えば誰が貰っても困らない物。と言うことだ、妹紅。」
慧音が妹紅に説明する。
「あ、成る程ね~。だったら最初からそう言や良いのに。」
まぁ、ごもっともだ。
「それはすまない。つい主から言われた通りになぞってしまった。」
私の悪い癖かもしれないな。

「ごめんくださ~い。」
「ん?この声は・・・・・・」
用件も伝えのでそろそろ帰ろうかと言う時に玄関から声が聞こえてきた。
私は聞き覚えが無いが、慧音は知っているようだ。
「この声は・・・・・・」
妹紅も知っているようだ。

慧音と妹紅が玄関へと向こう。
私も興味が惹かれて一緒に向かう。
「やはり貴様か!!輝夜の手先め!!!」
妹紅がその相手を見るなり敵意を剥き出しにする。
妹紅の台詞から察するに永遠亭の者らしい。

「ちょっ、何でいつも貴女はそうなんですか!!」
相手が反論する。
私は二人の間からひょいっと覗いてみる。
そこに居たのは兎の耳に淡い紫の長い髪。
そして妙な服・・・・・・確か、紫様が「ぶれざー」と言っていたか、
その服に白いスカートをした少女が立っていた。

「落ち着け妹紅。鈴仙は薬を売りに来ただけだ。」
「だが!!」
慧音が妹紅をなだめている。
れいせん?
「ああ。」
そこで私は彼女の事を思い出して、ポンッ!と手を打つ。
正確には彼女を思い出したのではなく、紫様から聞いた事を思い出したのだ。

「あれ?今日は他にも人が居たのね。」
その少女、れいせんが私を見て言う。
「ああ、ちょっと用事があってな。」
「そうですか。ああ、私は・・・・・・」
れいせんが自己紹介をしようとする。
が、私は彼女の名前を知って・・・思い出したので、それを遮る。
「ああ、紫様から聞いてるよ、名前は確か、れいせん・・・・・・・」


















「零戦・うどんGain・イナバだったかな?」






「ちっがーーーーーうっ!!!!」
あ、あれ?紫様からは確かにそう聞いたのだが・・・・・・
「なに!?うどんGainだったのか!?」
慧音が驚く。
だが、違うらしいぞ、慧音。
「違う違う!!カナ読みならあってるけど、その名前は全然違う!!!」

「すまん・・・てっきり今まで、鈴仙・うどんげ・イナバかと・・・・・・」
「そっちもちっがーーーーう!!!」
絶叫する零戦、もとい、鈴仙。
れいせん、はどうやら鈴仙と言う字らしい。
また紫様に騙された・・・・・・
恐らくまた隙間辺りからクスクス笑ってるに違いない。

「何よ!うどんGainって!!うどん増加!?なんなのよそれ!!」
キレる鈴仙。
「うどんを増加する程度の能力。良いじゃないか、生産的だぞ?」
妹紅がニヤニヤしながら鈴仙に言う。
「そんな能力要らないわよ!!博麗の巫女にでもくれてやるわよ!!!」
ああ、彼女なら喜んで受け取りそうだな。

「ちゃんと覚えなさい!!私の名前は鈴仙・優曇華院・イナバ!!うどんGainでもうどんげでも無いの!!」
なんと、優曇華院、だったのか。
うぅむ・・・人の名前を間違えるのは失礼な事だ。
ちゃんと覚えておこう。
しかし、言っては悪いが、変な名前だ・・・・・・

「別にあんたなんてどうでも良いわ。」
「はぐあっ!!」
興味もなさそうに言う妹紅に鈴仙は精神的ダメージを受けたようだ。
「うぅぅ・・・大体、私の本名はレイセンで、鈴仙も優曇華院もイナバも勝手に付けられたのよぅ・・・・・・」
しゃがみこんでいじけてしまった。
「ああ、すまない鈴仙。名前を間違えるのは失礼な事だ。謝る。」
私は取り敢えず謝っておいた。
名前を間違えるのは失礼な事だからな。
「ああ、そうだな。私も謝ろう。」
続いて慧音も謝る。
まぁ、当然だが、妹紅は謝らない。

「うぅぅ・・・・・・そこの狐の人。」
ん?私か?
「一体誰からそんな名前聞いたのよ・・・・・・」
ジト目で私を睨む。
「え?ああ、私の主の紫様からだが・・・・・・」
「紫・・・・・・?あのうっさんくさい妖怪か・・・・・・」
否定できない所が痛いところだ。

あの方の行動自体は確かに最終的に最善へと結びつくので問題は無いのだが・・・・・・
紫様は色々人を騙して遊ぶ方だ。
それゆえに、言動全てが怪しく、うさんくさく見えてしまう。
恐らくそれらは自分の心意を気付かれぬ為のカモフラージュなのだろうが・・・・・・
如何せん、カモフラージュなのかカモフラージュじゃないのかの区別がつかなすぎる。
巧妙すぎるのだ。
故にそう感じられるのだろう。
だって、私も偶にそう感じるし。

「その様子だと他にも言われてない?」
再びジト目で見てくる。
この際正直に言うか。
色々聞いてみたい事もあるし。
「ああ、後一つ聞いていたな。」
「何?」
嫌そうな顔で鈴仙が聞いてくる。
嫌なら聞かなければ良さそうな気はするが、聞かなければ気が収まらないというのもあるんだろう。
紫様から聞いたもう一つの事は・・・・・・・・


















「コスプレうさ耳少女と言われていた。」



「ぬぁーーーーーー!!!!」
鈴仙がキレた。
「お、落ち着け鈴仙!!!」
慧音がなだめる。
「す、すまん!何か気に障る事でも言ったのか!?」
恐らく「こすぷれ」と言うのが気に障ったのだろう
うさ耳は事実だし。

「はぁ!はぁ!はぁ!!」
肩で大きく息をする鈴仙。
少しは収まったようだ。
「す、すまん・・・・・・だが「こすぷれ」とは何なのだ?」
どうしても気になってしまった私は鈴仙に尋ねる。
紫様に尋ねても。

「藍にはまだ早いわ。」

と、怪しげな笑みを浮かべて答えてくれなかったのだ。

「あんたの主にでも聞きなさい!!!」
怒鳴る鈴仙。
どうやら相当嫌な言葉らしい。
「わ、解かった。この言葉はもう言わない。」
不必要に相手を不快にする必要は無いだろう。
「ったく!どこからそんな言葉覚えてくるのよ!あんたの主は!!!」
「あ~・・・・・・紫は外の世界にも行けるからな。色々と知識が豊富なんだ。」
慧音が私に変わって説明する。

そう、紫様は外の世界に行ける為、知識は勿論、色々持ち帰ってきたりもする。
この前は何か侍の漫画を持って帰ってきてたな。
漫画とはこの幻想郷に溢れているような本とは違い、文字よりも圧倒的に絵が多い本だ。
と言うよりは、絵で登場人物を表現し、文字がそれらを飾るように付いている。
幻想郷にある本とは大違いだ。

大きな特徴は、登場人物の心情や周りの状況などが解かり易いことだ。
文だけでは今一捉えにくい心情や状況も絵で見ればまさに一目瞭然。
だが、難点もある。
絵による登場者の動きがメインの為、物語の進みが遅いのだ。
つまり、文章よりも大量に紙を使う。
が、理解度の高さでは恐らく文だけの本以上だろう。

何せ、文だけの教本と図式付きの教本ではそれだけで理解度の度合いが違う。
その図、および絵がメインとなれば理解度は高まるだろう。
まぁ、あまり小難しい話はそう言う「漫画」にしにくようでもあるが・・・・・・

紫様は最近その漫画にハマっているようだ。
この前など、木が一本物凄い力でへし折られていた。
破壊跡から察するに、斬ったのではなく、突いたのだろう。
確か、その漫画に登場する人物の技だった気がする。
記憶に間違いが無ければ、零から参まで型がある突きだったはずだ。

推測だが、いつも持っている傘で放ったのではなかろうか?
傘は叩くには些か弱いが、突くとなると話は別だ。
まぁ、紫様のは叩かれても痛いのだが。
今度のお仕置きではアレの実験台になるのではとビクビクしている。
しかし、よもやそれにハマり過ぎて傘を仕込み傘に変えはしないだろうか?
有り得そうなので怖い。
紫様のその様は、その本から題名を借りれば、さしずめ






















流浪人ゆかりん -幻想妖怪浪漫譚-





やばい・・・色んな意味でやばい
紫様の場合本当に流浪してるし
本当にやりかねない
考えないようにしよう
封印すべきだ、この思考は・・・・・・

「・・・・・・うした?」
ん?何か聞こえたな・・・・・・
「どうした?藍。大丈夫か?」
気付くと目の前で慧音が心配そうな顔で覗き込んでいた。
「え?あ、ああ・・・・・・すまない、大丈夫だ。」
私とした事が・・・・・・長い間思考の迷路に迷っていたようだ。
「えっと・・・・・・顔色悪いですけど、薬いりますか?」
鈴仙が持っていた薬箱から薬を出して聞いてくる。
「いや、大丈夫だ。少し考え事をしてただけだ。」
忘れよう。
私は何も考えてなかった。
そう・・・考え事をしたとは言ったけど、考えてなかったんだ。
そうすべきだ。

「だ、大丈夫か?本当に・・・・・・」
妹紅まで心配してきた。
「ああ、大丈夫だ。だが、今日は帰るとしよう。用事も済んだしな。」
そう、用事は済ませたのだ。
後は帰るだけだ。

「そうか。調子が悪いのならしっかり休めよ。」
「一応これあげます。お代は良いですから。」
慧音にそういわれ、鈴仙に薬を渡された。
「しかし・・・いや、ありがたく貰っておくよ。」
好意を無碍にするわけにもいくまい。
それに、本当に必要になったらその時は助かるし。

「それじゃあ、帰るよ。邪魔をしたな。」
「いや、気が向いたらまた来ると良い。茶ぐらいは出すさ。」
「気をつけて帰んなよ。」
「お気をつけて~」
三人に見送られて帰路に着く。


帰り道

「藍様~!!」
帰り道を歩いていると橙が後ろから追いかけてきて声を掛けた。
「ああ、橙。紫様からの用事はすんだのかい?」
橙も紫様に命じられていた事を思い出して尋ねる。
「はい、私の方は終わりましたよ!」
元気一杯に橙は答える。
「そうか。では一緒に帰るとしようか。」
「はい!」
私と橙は並んで歩いた。

そう言えば・・・・・・
「そうだ、橙。お前は前に妖怪に追われていた事を知っているか?」
「え?何の事ですか?」
どうやら知らないようだ。
「紫様から聞いたのだがな、いつだったか、お前が帰り道を走っている時、後ろを妖怪が追っていたそうだ。」
「え!?そうだったんですか!?」
「ああ。まぁ、その妖怪どもは紫様が追い払って事無きを得たようだが・・・少しは周りに気を配りなさい。」
「あ、はい・・・・・・」

しゅんとなって耳と尻尾が垂れ下がる。
ああ、こう言う姿も可愛いものだ。
「しかも、お前が通った道は極力避けるようにと言っていた道だったそうだ。何故通ったんだ?」
だが、こう言う所はしっかりしておかないといけない。
橙は私の式だ。
橙が襲われれば確かに私は解かる。
が、私が行くまで無事な保証など無いのだ。
「えっと、多分その日は竹林の兎にあった日だったんです。」
「兎?」
兎と聞いて鈴仙を思い浮かべたが、違う気がする。
「あの詐欺兎か?」
「そうです!あの竹林の兎がお賽銭入れれば良い事があるって言ってたから大丈夫かと思って・・・・・・」
まったく・・・・・・
確かにあの兎は出会った者を少しだけ幸運にする能力があると言う。
恐らく、橙が無事だったのもその幸運が作用して紫様を気付かせたのだろう。
だとしても。

「橙。そんな不確かなもので危険な道を通っては駄目だ。」
「でも・・・・・」
「でも、じゃない。もしその幸運が作用しなければどうなっていたと思っているんだ?」
「・・・・・・・・・」
橙はうつむいて黙ってしまった。

私は橙の頭にポンッと手を置いて。
「私も紫様も橙に何かあったら悲しい。だから危険な事は避けてくれ。」
そして頭を撫でながら微笑んでそう言った。
「はい・・・ごめんなさい。」
橙は一回顔を上げたあと、直ぐにまたうつむきながらそう言った。
「解かってくれれば良いさ。」
橙の頭をポンポンと叩いて私は言う

「あの・・・藍様。」
「ん?」
橙は手をいじりながらもじもじしている
「あの・・・・・・・・・手を繋いでも良いですか?」
そしてそんな事を言ってきた。
「構わないよ。」
私は微笑んでそう言い、手を差し出す。
橙は嬉しそうにその手を握った

「でもどうしたんだ?急に。」
「あのね、皆遊んでから帰る時に親が迎えに来るんです。」
ああ・・・
恐らくその時自分ひとりがポツンと残ってるのが寂しいんだろう。
「それで・・・その・・・うらやましいなって・・・・・・」
寂しそうに橙が言う

「そう言う事なら偶には私が迎えに行こうか?」
「本当ですか!?」
パァッと橙の顔が明るくなる。
この笑顔を見れるなら毎回でも行きたいくらいだ。
まぁ、忙しい事もあるので毎回は無理なのだが
「ああ。私が忙しい時は無理だが、それ以外なら構わないよ。」
「えへへへへ・・・・・・藍様がお母さんみたい。」
「私が?ふふ・・・それでは紫様はおばあちゃんだな。」
こんな事を紫様に聞かれたら何をされるか解かったものではないが。
「私ね、藍様の式神になれて良かったです。」
「私も同じさ。」
そう
私も同じ
「紫様の式になれて・・・そして橙を式神に出来て良かったと思っているよ。」
「はい!」
満面の笑顔で橙は返事をする。
あの方の式にならなければ橙に出会う事も無かっただろう。
あの方の式にならなければこんな気持ちを知る事も無かっただろう。
本当に、紫様には感謝が絶えない。
まぁ、我侭な主ではあるが。
それもまた、楽しい事の一つなのかもしれないな。

全三話予定の話です。

次回は紫サイドを予定してます。
気が向いたら、とある一日と合わせて橙サイドも書いてみようかな~と思います。

好評不評問わず待ってます。

華月
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コメント



0.2620簡易評価
2.100時空や空間を翔る程度の能力削除
私・・・恥ずかしながら
「逆刃刀」持ってますよ。
ファンでしたので・・・・・・・
定価「4万8千円」です。
華月さんも一振り如何ですか??
14.80名前が無い程度の能力削除
実験台のなるのではと→実験台になるのではと
かな?

全三話でまだ料理対決が始まっていないっていうことは・・・・料理対決自体は短い?
15.90名前が無い程度の能力削除
こういうの、すごくいいと思う・・・。
あまり投稿したりすることは少ない
のですが、思わずいれてしまいました!
次回、待ってます
18.無評価華月削除
>実験台のなるのではと→実験台になるのではと

ご指摘ありがとうございます。誤字訂正いたしました。

>華月さんも一振り如何ですか??

良いですねぇ。でもちょっと高いです^^;

皆様、拙い文に高評価ありがとうございます。
ご期待に添えられるよう、これからも努力したいと思います。

後、橙の「兎さん」を「竹林の兎」に修正しました。
幾らなんでも「兎さん」は発言が幼すぎました^^;
22.80虚堰削除
「うどんを増加する程度の能力」
どんな能力だろう…手から砂金ならぬうどんがでてくるのかな?
とりあえず、次回楽しみにしてます。
45.100名前が無い程度の能力削除
面白いお話をありがとうございます。