#「鈴仙×妖夢?です。ェェーと思った瞬間に戻ることをお勧めします」
#「これ鈴仙じゃねぇよと思った方も戻ることをお勧めします」
#「あくまで公式設定どおりに書いたつもりですが、何処までが本当なのかわからないので注意」
私は他者を見てはいけない。
私は他者と接触してはいけない。
私は他者を思ってはいけない。
兎は寂しいと死んでしまうと聞く。けれど、私が他者を狂わせてしまうよりかはいい。
寂しいのに?
何故寂しいという感情が沸くのか?私は、多くの出会いを果たした。
寂しいのに?
薬師の師である八意永琳、その師が主として仰いでいる永遠亭の姫、蓬莱山輝夜様。その輝夜様の命を狙いつつも仲良くしている不死なる人間、藤原妹紅。悪戯を良くするが、可愛らしい所がある同じ兎の妖怪の因幡てゐ。
言い出してみればこれだけの数の出会いを私は誰とも「狂わさず」果たしてきたのだ。
寂しいのに?
さっきからこの声が煩わしい。何故寂しいと私に問うのか?
寂しいのに?
私は寂しくなどない。ありえない出会いを果たし、ありえない幸せに包まれているというのに、何故寂しいなんて言う?
―――――それは、貴方が満たされていないから。
・・・満たされない?
えぇ、貴方は満たされていないわ。
ふわりふわりと自分の身体が浮いている感覚。なのに、その声だけは私の心に鮮明に入ってくる。
貴方はどうあっても満たされない。貴方を大事だと思ってくれる人がいても、貴方を愛してくれる人がいても、決して満たされない。
どうしてそんな事が言える?私を大事だと思ってくれるなら、私を愛してくれるなら、それはとても幸せな事じゃないのか?
そこで、その声が形となって目の前に現れる。
「それは、貴方が狂わす現実から逃げているからよ」
ニタリと、邪のある笑みをしながら私の姿をした何かが笑う。
「貴方は私よ。大事であればあるほど、それに触れてはいけないと心を閉ざす哀れな存在」
やめて。
「貴方は幸せに等なれない。他者を狂わせてしまう貴方に、どんな幸せがあるの?」
やめて・・・・・。
「結局貴方は、全てを狂わす邪魔な存在なのよ!」
「やめて!!」
鈴仙が叫ぶと同時に、鈴仙の姿をした何かは消えていく。
同時に、自分がどんな状況にいたのかも把握した。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
意識が覚醒すると同時に身体を起こし、荒い息を整えようと必死に酸素を求める。
「はぁ・・・・・・ん」
首筋にかかる嫌な汗や、額にかかる汗を手で拭いながら、自分にかかっている布団をどかす。
「・・・・・・嫌な夢」
外を見れば、竹林の隙間から月が見える。少なくとも朝ではない。
――――――――邪魔な存在なのよ
夢の最後に、自分自身に言われた言葉に、鈴仙は苦渋な顔をする。
「・・・・・・・・・・・・そんなの、私が一番わかっている」
私の能力は狂気。
私の目を見た者は例外なく狂う。
私が大好きな者、私が大切にしたい者を全て狂わせてしまうその目を、私は何度、自身の手で潰したかわからない。
しかし、私は妖怪なのだ。潰した筈の目は再生するし、無理をすれば消滅してしまう。
ならば他者を好きにならなければいいと思った時もあった。
けれど、私は知ってしまった。
どれだけ他者といれば楽しいのか、どれだけ他者といれば幸せなのかを。
「・・・・・・・・・」
幸せなはずなのだ。
なのに、今さっき見ていた悪夢に私は自信を持って、幸せだと言えなかった。
「じゃあこれを人里にお願いね」
師匠から薬箱を受け取り、誰に何を渡すかの説明を受ける。
師匠の薬は妖怪、人間に例外なく効果が効く薬を作り、何かと仕事が多い。
その為、人里への薬の配給は私の仕事となっていた。
「・・・・・・・・・」
私はそれを聞きつつも、昨日の悪夢を思い出して心が陰る。
もし、人里で私の目を直視してしまう者がいたら?
もし、それでその人が狂ってしまったら?
もし・・・・・・それでこの永遠亭にいられなくなるような事になったら?
「・・・人の話を聞いているかしら?うどんげ」
ハッと、意識の底に沈んでいたのを永琳の声により現実に引き戻される。
「ご、ごめんなさい。聞いていませんでした」
嘘を吐いたら言及され余計に酷い目にあうとわかっている為か、素直に謝る。
「・・・珍しいわね、貴方が本当に聞いていないなんて」
紙と筆を机の中から取り出し、永琳はそこに何か書き込んでいく。
「・・・・・・はい、紙に書いておいたから、これの通りに薬を渡していきなさい」
達筆で書かれたその紙を渡され、鈴仙はきょとんと、首を傾げる。
「し、師匠?」
いつもなら何かミスをする度に、きついお咎めを受ける筈なのだが。
「・・・何があったか知らないけれど、暗い表情をするのはやめなさい。病人に余計な不安をさせる気?」
暗い、表情をしていたのだろうか。
「ご、ごめんなさい・・・」
再び謝ってしまう。
けれど、私は、謝っている間も、説明を受けている間も、一度として師匠の顔を見られずにいた。
ずっと一緒に暮らしてきたのに、狂わせてしまうと強く思ってしまったから。
「・・・お大事に」
ペコリと、紙に書かれていた薬の配給先の最後の民家に会釈をして、鈴仙はその民家から出る。
時刻は既にお昼時、お腹の虫が鳴ってもいい頃合いであった。
師匠からお昼の路銀は渡されていたが、鈴仙はすぐに誰もいない所に行きたかった。
多少軽くなった薬箱を片手に持ち、往来している人の中を掻い潜るように駆け走って行く。
数分もせずにそのまま行けば、人里を離れられるはずだった。
いつもなら人になんてぶつからない。自分の身体能力はそこまで低下していない。
だが、焦りが出てきてしまっていたためなのか、はたまた、相手が悪かったのか。
見事に、通りで立ち止まっていた一人の少女に激突してしまう。
「きゃ・・・!」
激突した少女に覆いかぶさるようにして倒れこむ鈴仙。
まず、初めに、しまったと思ってしまった。
その次に、痛がる少女の顔を見て。
その少女と目が合ってしまった。
「あ・・・・・・」
澄んだ青い瞳に、日焼け等したことがないような白い肌、灰色の髪に黒いリボンをしているその少女の顔を間近で見て、素直にまず思い浮かんだのは綺麗だと、まるで人とは思えない綺麗さがそこにあった。
「・・・・・・」
それにどれくらい見惚れていただろうか。
「あの・・・そろそろどいてくれない?」
少し怒ったような顔をして覆い被さっていた鈴仙をどかすその少女は、´何事´もなかったかのように立ち上がる。
「・・・・・・え?」
確実に目が合ったはずだ。
なのに、何故この少女は狂わない――――?
「往来で立ち止まっていた私も悪いけど、あんな駆け足で人ごみの中を走るのはどうかと思うわよ」
未だに座り込んでいる鈴仙に言うその少女は、腰に2刀の剣を差し、隣に・・・霊魂を浮かばせていた。
呆気に取られたままの私にため息を吐きつつも、手を差し伸べてくる。
私はその手を取り、起こしてもらう。
「じゃ、今度からお互い気をつけましょう」
一礼して去るその少女剣士に私は結局何も言えず、その姿が見えなくなるまで往来でずっと立っていた。
「それは多分、白玉楼の所の庭師ね」
あの後鈴仙は謝罪も何もしていない事に気がつき、謝罪をしなければと思い、あの少女が何処に住んでいるのだろう?と思ってから永遠亭に一度戻る事にし、幻想郷のすべてに詳しい輝夜様に聞くことにした。
「白玉楼って言うと・・・」
「冥界を管理している西行寺家の事よ。そこの庭師が半霊の者に任されているはず。博麗の神社での宴でも話したことはないけれど姿は見たことあるわ。・・・名前は確か、魂魄妖夢」
「・・・魂魄妖夢」
言葉に出してその名前を確認する。
「・・・・・・で、人里でその娘と何かあったのかしら?」
輝夜様は勘が鋭いお方だ。それに私から輝夜様に尋ねるなんてした事がなかったせいか、興味もあるのだろう。
「いぇ、その・・・急いでいたら往来でぶつかってしまって。謝罪を出来なかったので行こうかと」
ちゃんと謝りに行きたいというのもあったが、鈴仙はどうしても確認したい事があった。
妖夢は、私の目を見た筈なのだ。
なのに、妖夢は狂った感じは全くしていなかった。
私の目は例外なく人を狂わす筈なのに。
「・・・・・・・・・鈴仙、それは貴方にとっていい事だったのかしら?」
いきなりそう言われ、鈴仙は戸惑う。
「・・・ぶつかった事がいい事だとは思いませんが」
「嘘。それなら何で貴方はそんな嬉しい顔をしているのかしら」
「え・・・・・・」
咄嗟に、自分の顔を手で抑える。
「貴方のそんな嬉しい顔、私がここに貴方を迎え入れてきた事以来かしらね」
輝夜は微笑しつつ、鈴仙の頭を撫でる。
撫でられて、自分の顔に熱がこもっていくのがわかった。
「あ、あの輝夜様」
「なぁに?」
撫でられながら、私はこの何千年も生きる少女に聞きたい事が出来てしまった。
「その・・・ぶつかった時に、私はその妖夢殿と目が合ってしまったんです。けれど狂わなかった。例外なく私の目を見たものは狂うはずなのに、何事もなかったかのように立ち上がって私に手を差し伸べたんです。・・・そんな事ってあるんですか?」
撫でていた手が止まる。
「・・・・・・・・・だから、か」
輝夜は、さっきまでの微笑は何処に行ったのか、悲しい顔をしながら、その疑問に答えた。
「・・・・・・貴方の目は、確かに例外なく人を狂わせるわ。私や妹紅でさえ、一度死ななければ元に戻らないぐらいの魔眼」
「・・・・・・で、ですが、妖夢殿は私の目を見ても何も狂いはしていませんでした。あれにはどう説明を」
「・・・自分で言っている事じゃない。´人´は、例外なく狂わすと」
それを聞いて鈴仙は、何故妖夢が狂わなかったのか気づいた。
「・・・・・・幽霊だから?」
「えぇ、妖夢は半分霊体だから影響がなかった・・・そうね、貴方が始めて、人の顔をちゃんと見られる存在ね、妖夢は」
そう、例外はあったのだ。
鈴仙はその事実に納得し、素直に嬉しさがこみ上げてきた。
私にも、ちゃんと接せれる存在がいたのだと。
「・・・少し、話疲れたわ。夕飯まで横になっているから、永琳に伝えておいて」
嬉しがる鈴仙とは逆に、輝夜の顔は暗くなってしまっていた。
鈴仙は自室に戻る輝夜が消えたのを確認すると、妖夢にどう言って謝罪をしに行くかで頭の中がいっぱいになっていった。
「・・・・・・所詮、何千年生きようとも、あの子の悩みを解決出来るのは他人なのね」
自室に戻った輝夜は一人寂しく、先ほどまでの嬉しそうな鈴仙の顔を思い出していた。
一度耐えてみせるとあの子の目を直視した事があった。
だが、直視した後の記憶は覚えていない。聞けば、永琳に一度心の臓を停止されるまで、暴れていたそうだ。
自分では解決できない悩みを、他者が解決してくれる。
喜ばしい事でもあり、それは同時に悲しい事でもあった。
私たちでは鈴仙を幸せにはしてやれないという終止符を押されたみたいで。
「・・・あの子が、幸せになりますように」
出会いは唐突みたいだけど、と願う輝夜であった。
「・・・・・・よし」
身支度を整え、鈴仙は冥界へと赴く為に、永遠亭を出る。
師である永琳や輝夜様には既に謝罪をしにいくことを旨として伝えてあるし、迷いの竹林の兎達には、今日はてゐに指示を仰ぐように言ってある。
本当ならもう少し早くに行こうかと思っていたのだが、謝罪するにあたってどんな感じに行こうかと悩んでいたらこんな時間になってしまった。
頭上には既に三日月が輝くように地上を照らしている。
迷いの竹林を駆けながら移動し、山を飛ぶように超えていく。
いや、文字通り鈴仙は一足着くたびに飛翔していた。
それはさながら、兎がぴょんぴょんと跳ねるように。
その飛翔をどれぐらい続けた事だろうか。
師匠に教えてもらった顕界と冥界が薄くなっている所まできた。
深呼吸をして、その薄くなっている所に助走をつけて飛ぶ。
途端、違う景色が目に入ってくる。
鬱葱と生えている森林群、所々にある墓石。
山の中にいたはずの景色は、森の中へと姿を変えた。
「・・・・・・・・・」
師匠の話では、冥界に入った時点で私は違和感として認識され、迎撃する形で妖夢が来ると言う。
その時に謝罪の言葉と共に色々と言いたい事を言ってしまえば?という案であった。
「・・・・・・」
鈴仙は静かすぎる森の中を緊張しながら前へと歩いていく。
鈴仙の頭に生えている兎の耳は、かなり遠くまで音が聞こえる。
だから、先ほどまで聞こえていた虫や動物の声が、冥界に入った瞬間に何も聞こえてこないのに、少なからず恐怖を感じていた。
ここには、生きている者などいないと。
「・・・そんなの、当たり前じゃない」
自分の考えに毒づいてしまう。
冥界なのだ。生きている気配があるのがそもそもおかしい。
師匠がこの冥界の中では私を「違和感」を持った存在と言った理由が今になってわかる。
怖がりながら歩いていき、白玉楼を目指そうと足をひたすら前に。
どれぐらい、そうやって前を進んでいただろうか?
ガサガサガサ―――――――――――
何かが迫ってくる音を、鈴仙は歓喜と共に、聞いた。
まだ遠いが、暗い森の中、私の目は確かに捉える。
白楼剣と楼観剣を抜き放っている妖夢の姿を。
「・・・え?」
長年の経験からか、鈴仙はその向かってくる妖夢の殺気を肌で感じ、横っ飛びに、放たれた2刀の斬撃を回避する。
「ま、待って!」
くださいと、言おうとするまえに再び斬撃が。
「く・・・!」
躊躇がないその斬撃を必死にかわす。
だが、それが何度も続くはずもなく。
「ハッ・・・・・・!」
白楼剣が鈴仙の太ももに深く突き刺さった。
「~~~!!」
激痛と加熱していく熱さを持った自分の足を抱えながら、鈴仙は地面に倒れ、のたうち回る。
妖夢は冷静に突き刺した事で相手が動けなくなったのを確認し。
「・・・・・・・・・・・・・・あれ?」
何処かで見たような顔だと、今更気づいた。
「ごめんなさい!」
床に頭を擦り付けるようにして土下座する妖夢。
私はというと、少し・・・いや、かなり涙目になってしまっていた。
今、私は白玉楼の客室にいる。
突き刺して動けなくなった所で妖夢が私を認識した後、慌てて私を抱えながらここに連れてきて、傷の手当てをしてくれたのだ。
無言で涙目のまま下を向いている私に妖夢は困ったようにおろおろしながら私を見る。
「ま、まだ痛む・・・わよね。本当に、ごめんなさい」
本当にすまない事をしてしまったと思っているその表情。
私は、傷の痛みだけに涙目になっているわけではない。
あの時、いきなり向かって来て、私を問答無用で殺しにかかってきた妖夢は、自分のせいで「狂って」しまっているんじゃないかって思って。
今こうして私の傷の手当てをしている妖夢を見て、この人は狂っていないとわかっただけで安心してしまって。
刺された痛みよりも、安堵感で涙が出そうになってしまっていた。
「・・・・・・あの、妖夢さん」
土下座の姿勢を崩さない妖夢に私は優しく声をかける。
「その、もうお顔を上げてください。夜分遅くに私が来てしまったのがいけないのもあるのですから」
日が出ているときに来ればちゃんと相手が確認出来る余裕があったのだろう。
だが真夜中に来てしまい、暗い森の中となっては妖夢も確認する暇がなく、先手必勝を優先したのである。
別の話だが、こうなった理由は妖夢も撃墜しにくい「侵入者」が来てからだ。
そして今回もその侵入者の類と勘違いし、今に至るわけである。
鎮痛な面持ちのまま、妖夢は顔を上げる。
鈴仙はその顔を見つめ、あぁ、ちゃんと顔が見られると、それだけで傷の痛みがなかったかのような気持ちになっていった。
「・・・それでも、何かお詫びをしないと気がすみません。私に出来る事でしたら何でも言ってください」
そう言われ、鈴仙は困ったように表情を変える。
謝罪をしに来ただけなのに何故こうも話が飛躍していくものかと。
だが、何もいらないではこの剣士は引き下がらないだろう。
「じゃ、じゃあ・・・」
鈴仙はしばし悩んだ後に、自分が担いでいたお詫び品の存在を思い出し、こう提案した。
「一緒に、月でもみながらお酒を飲みませんか?」
どうしてこうなったのか。
妖夢は自分の情けなさを今宵の三日月を眺めながらお酒と一緒に流し込む。
「月が、綺麗ですね」
月を眺めるとなっては縁側に出なければという話しになって、鈴仙と私は白玉楼の縁側で鈴仙が私に詫びの品という形で持ってきていたお酒を飲んでいる始末である。
「えぇ・・・・・・月が綺麗ね」
見上げる三日月だけは、一つの業物を見ているような、鋭利な輝きを放っていた。
しばらくどちらとも喋らずに、月を見ながらお酒を飲み交わしている。
それは、久しぶりに出会った友と飲み交わすかのような会合だと、妖夢は思った。
何故そんな風に思ってしまうのか、自分でもわからない。
人里の往来でぶつかり、さっきまで侵入者と迎撃し、勘違いして平謝りをしていた人物なのに。
月の魔力でもかかったのだろうかと思ってしまう。
何杯目になるかわからないぐらいにお酒を自分の酌に入れ、再び口へと運んでいく。
「・・・・・・あの、妖夢さん」
そんなただお酒を飲んでいた二人だったが、鈴仙は何かを決意するように口を開いた。
「・・・なんですか」
「今日、私は色々な意味で、貴方に謝罪をしにきたんです」
色々な意味?
「私の目を、ぶつかった時に見ましたよね?」
赤い、澄んだ瞳を思い出し、私は首を縦に振る。
「実を言うと・・・私の赤い目は人を狂わせるものなんです」
妖夢はそれを、月を見上げながら聞く。
何だか頭の中がボンヤリとしてきたのが自分でもわかっていた。
「だから私は、往来で妖夢さんが平然としていて驚きました。この人は何故狂っていないんだろうって」
その言葉に、徐々に何か、悲しみが混ざっているような気がして。
「もし私の目を見ても狂わない人がいるのなら、私はその人にもう一度会ってみたいと思って」
涙目になっていても泣くのをさっきまで我慢していた鈴仙の肩が震えているのが見えて。
「私を迎撃した妖夢さんは・・・・・・実は、本当は狂ってしまっていたんじゃと恐怖して」
その澄んだ赤い瞳から、涙がこぼれるのを見て、私はその兎の妖怪の口を、自分の口で閉ざした。
「ん・・・・・・」
頭はボンヤリとしているが、この妖怪の言っている事がいちいち勘に触った。
唇を離す。
「私は狂ってなんかいないわ。貴方のそんな澄んだ瞳で、狂わされるのなら狂わせてほしいけれど」
鈴仙が流す涙を指で拭う。
「・・・・・・私は、誰も狂わせたくないです。妖夢さんのような瞳が欲しかった」
「無理ね。生をその身で受けたからにはその眼と折り合いをつけていくしかないわ」
お酒で頭がかなりぼやけている気がするが、意識を飛ばすわけにはいかない。
・・・何を求めて、ここに来たのかは知らないが、応えられるのなら、さっき鈴仙に傷をつけた代価を支払わねば。
だから、私はこう提案をした。
「狂わない私なら、貴方の友達になってあげられる。・・・・・・本来なら、貴方が先に言うかもしれない台詞だけど。私が言うわ」
私の、友達になってください―――――
震える兎の妖怪を抱きしめながら妖夢は、それだけ言って、眼を閉じながら、意識を途絶えさせた。
「・・・・・・妖夢~?こんな所で寝ていたら風邪を引くわよ~?」
そんな幽々子様の声が聞こえた気がして、私は目を開けた。
途端、ズキズキと来る頭痛に顔をしかめる。
「~~~」
頭で手を抑えつつ、倒れていた身体を起こし、周りを確認する。
白玉楼の縁側に、横には昨日飲んだお酒が一升瓶。
日は既に昇っていて、幽々子様が私の顔を覗きこんで・・・。
「・・・・・・す、すいません幽々子様!」
寝坊したと、把握した。
幽々子様はニコニコと微笑みながらそんな妖夢を見る。
「いいのよ~私が早起きしただけだから、朝食まで時間はあるわ」
それよりもと言いながら、妖夢の横に置いてあった空になった酒瓶を手に持つ。
「妖夢も罪な女ねぇ~」
そんな事を、酒瓶と一緒に置かれていた紙を手に持ちながら言った。
妖夢は、その紙に書かれていた事を読んで、あれは夢じゃなかったかと一人安堵する。
「・・・すぐに、朝食の用意をします」
だが、そんな事を顔に出さずに、朝食の用意をするために幽々子から酒瓶と紙をひったくる。
紙には、こう書かれていた。
´親愛なる友、魂魄妖夢
また会いに来ます。待っていてください。
by 鈴仙・優曇華院・イナバ ´
と。
#「これ鈴仙じゃねぇよと思った方も戻ることをお勧めします」
#「あくまで公式設定どおりに書いたつもりですが、何処までが本当なのかわからないので注意」
私は他者を見てはいけない。
私は他者と接触してはいけない。
私は他者を思ってはいけない。
兎は寂しいと死んでしまうと聞く。けれど、私が他者を狂わせてしまうよりかはいい。
寂しいのに?
何故寂しいという感情が沸くのか?私は、多くの出会いを果たした。
寂しいのに?
薬師の師である八意永琳、その師が主として仰いでいる永遠亭の姫、蓬莱山輝夜様。その輝夜様の命を狙いつつも仲良くしている不死なる人間、藤原妹紅。悪戯を良くするが、可愛らしい所がある同じ兎の妖怪の因幡てゐ。
言い出してみればこれだけの数の出会いを私は誰とも「狂わさず」果たしてきたのだ。
寂しいのに?
さっきからこの声が煩わしい。何故寂しいと私に問うのか?
寂しいのに?
私は寂しくなどない。ありえない出会いを果たし、ありえない幸せに包まれているというのに、何故寂しいなんて言う?
―――――それは、貴方が満たされていないから。
・・・満たされない?
えぇ、貴方は満たされていないわ。
ふわりふわりと自分の身体が浮いている感覚。なのに、その声だけは私の心に鮮明に入ってくる。
貴方はどうあっても満たされない。貴方を大事だと思ってくれる人がいても、貴方を愛してくれる人がいても、決して満たされない。
どうしてそんな事が言える?私を大事だと思ってくれるなら、私を愛してくれるなら、それはとても幸せな事じゃないのか?
そこで、その声が形となって目の前に現れる。
「それは、貴方が狂わす現実から逃げているからよ」
ニタリと、邪のある笑みをしながら私の姿をした何かが笑う。
「貴方は私よ。大事であればあるほど、それに触れてはいけないと心を閉ざす哀れな存在」
やめて。
「貴方は幸せに等なれない。他者を狂わせてしまう貴方に、どんな幸せがあるの?」
やめて・・・・・。
「結局貴方は、全てを狂わす邪魔な存在なのよ!」
「やめて!!」
鈴仙が叫ぶと同時に、鈴仙の姿をした何かは消えていく。
同時に、自分がどんな状況にいたのかも把握した。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
意識が覚醒すると同時に身体を起こし、荒い息を整えようと必死に酸素を求める。
「はぁ・・・・・・ん」
首筋にかかる嫌な汗や、額にかかる汗を手で拭いながら、自分にかかっている布団をどかす。
「・・・・・・嫌な夢」
外を見れば、竹林の隙間から月が見える。少なくとも朝ではない。
――――――――邪魔な存在なのよ
夢の最後に、自分自身に言われた言葉に、鈴仙は苦渋な顔をする。
「・・・・・・・・・・・・そんなの、私が一番わかっている」
私の能力は狂気。
私の目を見た者は例外なく狂う。
私が大好きな者、私が大切にしたい者を全て狂わせてしまうその目を、私は何度、自身の手で潰したかわからない。
しかし、私は妖怪なのだ。潰した筈の目は再生するし、無理をすれば消滅してしまう。
ならば他者を好きにならなければいいと思った時もあった。
けれど、私は知ってしまった。
どれだけ他者といれば楽しいのか、どれだけ他者といれば幸せなのかを。
「・・・・・・・・・」
幸せなはずなのだ。
なのに、今さっき見ていた悪夢に私は自信を持って、幸せだと言えなかった。
「じゃあこれを人里にお願いね」
師匠から薬箱を受け取り、誰に何を渡すかの説明を受ける。
師匠の薬は妖怪、人間に例外なく効果が効く薬を作り、何かと仕事が多い。
その為、人里への薬の配給は私の仕事となっていた。
「・・・・・・・・・」
私はそれを聞きつつも、昨日の悪夢を思い出して心が陰る。
もし、人里で私の目を直視してしまう者がいたら?
もし、それでその人が狂ってしまったら?
もし・・・・・・それでこの永遠亭にいられなくなるような事になったら?
「・・・人の話を聞いているかしら?うどんげ」
ハッと、意識の底に沈んでいたのを永琳の声により現実に引き戻される。
「ご、ごめんなさい。聞いていませんでした」
嘘を吐いたら言及され余計に酷い目にあうとわかっている為か、素直に謝る。
「・・・珍しいわね、貴方が本当に聞いていないなんて」
紙と筆を机の中から取り出し、永琳はそこに何か書き込んでいく。
「・・・・・・はい、紙に書いておいたから、これの通りに薬を渡していきなさい」
達筆で書かれたその紙を渡され、鈴仙はきょとんと、首を傾げる。
「し、師匠?」
いつもなら何かミスをする度に、きついお咎めを受ける筈なのだが。
「・・・何があったか知らないけれど、暗い表情をするのはやめなさい。病人に余計な不安をさせる気?」
暗い、表情をしていたのだろうか。
「ご、ごめんなさい・・・」
再び謝ってしまう。
けれど、私は、謝っている間も、説明を受けている間も、一度として師匠の顔を見られずにいた。
ずっと一緒に暮らしてきたのに、狂わせてしまうと強く思ってしまったから。
「・・・お大事に」
ペコリと、紙に書かれていた薬の配給先の最後の民家に会釈をして、鈴仙はその民家から出る。
時刻は既にお昼時、お腹の虫が鳴ってもいい頃合いであった。
師匠からお昼の路銀は渡されていたが、鈴仙はすぐに誰もいない所に行きたかった。
多少軽くなった薬箱を片手に持ち、往来している人の中を掻い潜るように駆け走って行く。
数分もせずにそのまま行けば、人里を離れられるはずだった。
いつもなら人になんてぶつからない。自分の身体能力はそこまで低下していない。
だが、焦りが出てきてしまっていたためなのか、はたまた、相手が悪かったのか。
見事に、通りで立ち止まっていた一人の少女に激突してしまう。
「きゃ・・・!」
激突した少女に覆いかぶさるようにして倒れこむ鈴仙。
まず、初めに、しまったと思ってしまった。
その次に、痛がる少女の顔を見て。
その少女と目が合ってしまった。
「あ・・・・・・」
澄んだ青い瞳に、日焼け等したことがないような白い肌、灰色の髪に黒いリボンをしているその少女の顔を間近で見て、素直にまず思い浮かんだのは綺麗だと、まるで人とは思えない綺麗さがそこにあった。
「・・・・・・」
それにどれくらい見惚れていただろうか。
「あの・・・そろそろどいてくれない?」
少し怒ったような顔をして覆い被さっていた鈴仙をどかすその少女は、´何事´もなかったかのように立ち上がる。
「・・・・・・え?」
確実に目が合ったはずだ。
なのに、何故この少女は狂わない――――?
「往来で立ち止まっていた私も悪いけど、あんな駆け足で人ごみの中を走るのはどうかと思うわよ」
未だに座り込んでいる鈴仙に言うその少女は、腰に2刀の剣を差し、隣に・・・霊魂を浮かばせていた。
呆気に取られたままの私にため息を吐きつつも、手を差し伸べてくる。
私はその手を取り、起こしてもらう。
「じゃ、今度からお互い気をつけましょう」
一礼して去るその少女剣士に私は結局何も言えず、その姿が見えなくなるまで往来でずっと立っていた。
「それは多分、白玉楼の所の庭師ね」
あの後鈴仙は謝罪も何もしていない事に気がつき、謝罪をしなければと思い、あの少女が何処に住んでいるのだろう?と思ってから永遠亭に一度戻る事にし、幻想郷のすべてに詳しい輝夜様に聞くことにした。
「白玉楼って言うと・・・」
「冥界を管理している西行寺家の事よ。そこの庭師が半霊の者に任されているはず。博麗の神社での宴でも話したことはないけれど姿は見たことあるわ。・・・名前は確か、魂魄妖夢」
「・・・魂魄妖夢」
言葉に出してその名前を確認する。
「・・・・・・で、人里でその娘と何かあったのかしら?」
輝夜様は勘が鋭いお方だ。それに私から輝夜様に尋ねるなんてした事がなかったせいか、興味もあるのだろう。
「いぇ、その・・・急いでいたら往来でぶつかってしまって。謝罪を出来なかったので行こうかと」
ちゃんと謝りに行きたいというのもあったが、鈴仙はどうしても確認したい事があった。
妖夢は、私の目を見た筈なのだ。
なのに、妖夢は狂った感じは全くしていなかった。
私の目は例外なく人を狂わす筈なのに。
「・・・・・・・・・鈴仙、それは貴方にとっていい事だったのかしら?」
いきなりそう言われ、鈴仙は戸惑う。
「・・・ぶつかった事がいい事だとは思いませんが」
「嘘。それなら何で貴方はそんな嬉しい顔をしているのかしら」
「え・・・・・・」
咄嗟に、自分の顔を手で抑える。
「貴方のそんな嬉しい顔、私がここに貴方を迎え入れてきた事以来かしらね」
輝夜は微笑しつつ、鈴仙の頭を撫でる。
撫でられて、自分の顔に熱がこもっていくのがわかった。
「あ、あの輝夜様」
「なぁに?」
撫でられながら、私はこの何千年も生きる少女に聞きたい事が出来てしまった。
「その・・・ぶつかった時に、私はその妖夢殿と目が合ってしまったんです。けれど狂わなかった。例外なく私の目を見たものは狂うはずなのに、何事もなかったかのように立ち上がって私に手を差し伸べたんです。・・・そんな事ってあるんですか?」
撫でていた手が止まる。
「・・・・・・・・・だから、か」
輝夜は、さっきまでの微笑は何処に行ったのか、悲しい顔をしながら、その疑問に答えた。
「・・・・・・貴方の目は、確かに例外なく人を狂わせるわ。私や妹紅でさえ、一度死ななければ元に戻らないぐらいの魔眼」
「・・・・・・で、ですが、妖夢殿は私の目を見ても何も狂いはしていませんでした。あれにはどう説明を」
「・・・自分で言っている事じゃない。´人´は、例外なく狂わすと」
それを聞いて鈴仙は、何故妖夢が狂わなかったのか気づいた。
「・・・・・・幽霊だから?」
「えぇ、妖夢は半分霊体だから影響がなかった・・・そうね、貴方が始めて、人の顔をちゃんと見られる存在ね、妖夢は」
そう、例外はあったのだ。
鈴仙はその事実に納得し、素直に嬉しさがこみ上げてきた。
私にも、ちゃんと接せれる存在がいたのだと。
「・・・少し、話疲れたわ。夕飯まで横になっているから、永琳に伝えておいて」
嬉しがる鈴仙とは逆に、輝夜の顔は暗くなってしまっていた。
鈴仙は自室に戻る輝夜が消えたのを確認すると、妖夢にどう言って謝罪をしに行くかで頭の中がいっぱいになっていった。
「・・・・・・所詮、何千年生きようとも、あの子の悩みを解決出来るのは他人なのね」
自室に戻った輝夜は一人寂しく、先ほどまでの嬉しそうな鈴仙の顔を思い出していた。
一度耐えてみせるとあの子の目を直視した事があった。
だが、直視した後の記憶は覚えていない。聞けば、永琳に一度心の臓を停止されるまで、暴れていたそうだ。
自分では解決できない悩みを、他者が解決してくれる。
喜ばしい事でもあり、それは同時に悲しい事でもあった。
私たちでは鈴仙を幸せにはしてやれないという終止符を押されたみたいで。
「・・・あの子が、幸せになりますように」
出会いは唐突みたいだけど、と願う輝夜であった。
「・・・・・・よし」
身支度を整え、鈴仙は冥界へと赴く為に、永遠亭を出る。
師である永琳や輝夜様には既に謝罪をしにいくことを旨として伝えてあるし、迷いの竹林の兎達には、今日はてゐに指示を仰ぐように言ってある。
本当ならもう少し早くに行こうかと思っていたのだが、謝罪するにあたってどんな感じに行こうかと悩んでいたらこんな時間になってしまった。
頭上には既に三日月が輝くように地上を照らしている。
迷いの竹林を駆けながら移動し、山を飛ぶように超えていく。
いや、文字通り鈴仙は一足着くたびに飛翔していた。
それはさながら、兎がぴょんぴょんと跳ねるように。
その飛翔をどれぐらい続けた事だろうか。
師匠に教えてもらった顕界と冥界が薄くなっている所まできた。
深呼吸をして、その薄くなっている所に助走をつけて飛ぶ。
途端、違う景色が目に入ってくる。
鬱葱と生えている森林群、所々にある墓石。
山の中にいたはずの景色は、森の中へと姿を変えた。
「・・・・・・・・・」
師匠の話では、冥界に入った時点で私は違和感として認識され、迎撃する形で妖夢が来ると言う。
その時に謝罪の言葉と共に色々と言いたい事を言ってしまえば?という案であった。
「・・・・・・」
鈴仙は静かすぎる森の中を緊張しながら前へと歩いていく。
鈴仙の頭に生えている兎の耳は、かなり遠くまで音が聞こえる。
だから、先ほどまで聞こえていた虫や動物の声が、冥界に入った瞬間に何も聞こえてこないのに、少なからず恐怖を感じていた。
ここには、生きている者などいないと。
「・・・そんなの、当たり前じゃない」
自分の考えに毒づいてしまう。
冥界なのだ。生きている気配があるのがそもそもおかしい。
師匠がこの冥界の中では私を「違和感」を持った存在と言った理由が今になってわかる。
怖がりながら歩いていき、白玉楼を目指そうと足をひたすら前に。
どれぐらい、そうやって前を進んでいただろうか?
ガサガサガサ―――――――――――
何かが迫ってくる音を、鈴仙は歓喜と共に、聞いた。
まだ遠いが、暗い森の中、私の目は確かに捉える。
白楼剣と楼観剣を抜き放っている妖夢の姿を。
「・・・え?」
長年の経験からか、鈴仙はその向かってくる妖夢の殺気を肌で感じ、横っ飛びに、放たれた2刀の斬撃を回避する。
「ま、待って!」
くださいと、言おうとするまえに再び斬撃が。
「く・・・!」
躊躇がないその斬撃を必死にかわす。
だが、それが何度も続くはずもなく。
「ハッ・・・・・・!」
白楼剣が鈴仙の太ももに深く突き刺さった。
「~~~!!」
激痛と加熱していく熱さを持った自分の足を抱えながら、鈴仙は地面に倒れ、のたうち回る。
妖夢は冷静に突き刺した事で相手が動けなくなったのを確認し。
「・・・・・・・・・・・・・・あれ?」
何処かで見たような顔だと、今更気づいた。
「ごめんなさい!」
床に頭を擦り付けるようにして土下座する妖夢。
私はというと、少し・・・いや、かなり涙目になってしまっていた。
今、私は白玉楼の客室にいる。
突き刺して動けなくなった所で妖夢が私を認識した後、慌てて私を抱えながらここに連れてきて、傷の手当てをしてくれたのだ。
無言で涙目のまま下を向いている私に妖夢は困ったようにおろおろしながら私を見る。
「ま、まだ痛む・・・わよね。本当に、ごめんなさい」
本当にすまない事をしてしまったと思っているその表情。
私は、傷の痛みだけに涙目になっているわけではない。
あの時、いきなり向かって来て、私を問答無用で殺しにかかってきた妖夢は、自分のせいで「狂って」しまっているんじゃないかって思って。
今こうして私の傷の手当てをしている妖夢を見て、この人は狂っていないとわかっただけで安心してしまって。
刺された痛みよりも、安堵感で涙が出そうになってしまっていた。
「・・・・・・あの、妖夢さん」
土下座の姿勢を崩さない妖夢に私は優しく声をかける。
「その、もうお顔を上げてください。夜分遅くに私が来てしまったのがいけないのもあるのですから」
日が出ているときに来ればちゃんと相手が確認出来る余裕があったのだろう。
だが真夜中に来てしまい、暗い森の中となっては妖夢も確認する暇がなく、先手必勝を優先したのである。
別の話だが、こうなった理由は妖夢も撃墜しにくい「侵入者」が来てからだ。
そして今回もその侵入者の類と勘違いし、今に至るわけである。
鎮痛な面持ちのまま、妖夢は顔を上げる。
鈴仙はその顔を見つめ、あぁ、ちゃんと顔が見られると、それだけで傷の痛みがなかったかのような気持ちになっていった。
「・・・それでも、何かお詫びをしないと気がすみません。私に出来る事でしたら何でも言ってください」
そう言われ、鈴仙は困ったように表情を変える。
謝罪をしに来ただけなのに何故こうも話が飛躍していくものかと。
だが、何もいらないではこの剣士は引き下がらないだろう。
「じゃ、じゃあ・・・」
鈴仙はしばし悩んだ後に、自分が担いでいたお詫び品の存在を思い出し、こう提案した。
「一緒に、月でもみながらお酒を飲みませんか?」
どうしてこうなったのか。
妖夢は自分の情けなさを今宵の三日月を眺めながらお酒と一緒に流し込む。
「月が、綺麗ですね」
月を眺めるとなっては縁側に出なければという話しになって、鈴仙と私は白玉楼の縁側で鈴仙が私に詫びの品という形で持ってきていたお酒を飲んでいる始末である。
「えぇ・・・・・・月が綺麗ね」
見上げる三日月だけは、一つの業物を見ているような、鋭利な輝きを放っていた。
しばらくどちらとも喋らずに、月を見ながらお酒を飲み交わしている。
それは、久しぶりに出会った友と飲み交わすかのような会合だと、妖夢は思った。
何故そんな風に思ってしまうのか、自分でもわからない。
人里の往来でぶつかり、さっきまで侵入者と迎撃し、勘違いして平謝りをしていた人物なのに。
月の魔力でもかかったのだろうかと思ってしまう。
何杯目になるかわからないぐらいにお酒を自分の酌に入れ、再び口へと運んでいく。
「・・・・・・あの、妖夢さん」
そんなただお酒を飲んでいた二人だったが、鈴仙は何かを決意するように口を開いた。
「・・・なんですか」
「今日、私は色々な意味で、貴方に謝罪をしにきたんです」
色々な意味?
「私の目を、ぶつかった時に見ましたよね?」
赤い、澄んだ瞳を思い出し、私は首を縦に振る。
「実を言うと・・・私の赤い目は人を狂わせるものなんです」
妖夢はそれを、月を見上げながら聞く。
何だか頭の中がボンヤリとしてきたのが自分でもわかっていた。
「だから私は、往来で妖夢さんが平然としていて驚きました。この人は何故狂っていないんだろうって」
その言葉に、徐々に何か、悲しみが混ざっているような気がして。
「もし私の目を見ても狂わない人がいるのなら、私はその人にもう一度会ってみたいと思って」
涙目になっていても泣くのをさっきまで我慢していた鈴仙の肩が震えているのが見えて。
「私を迎撃した妖夢さんは・・・・・・実は、本当は狂ってしまっていたんじゃと恐怖して」
その澄んだ赤い瞳から、涙がこぼれるのを見て、私はその兎の妖怪の口を、自分の口で閉ざした。
「ん・・・・・・」
頭はボンヤリとしているが、この妖怪の言っている事がいちいち勘に触った。
唇を離す。
「私は狂ってなんかいないわ。貴方のそんな澄んだ瞳で、狂わされるのなら狂わせてほしいけれど」
鈴仙が流す涙を指で拭う。
「・・・・・・私は、誰も狂わせたくないです。妖夢さんのような瞳が欲しかった」
「無理ね。生をその身で受けたからにはその眼と折り合いをつけていくしかないわ」
お酒で頭がかなりぼやけている気がするが、意識を飛ばすわけにはいかない。
・・・何を求めて、ここに来たのかは知らないが、応えられるのなら、さっき鈴仙に傷をつけた代価を支払わねば。
だから、私はこう提案をした。
「狂わない私なら、貴方の友達になってあげられる。・・・・・・本来なら、貴方が先に言うかもしれない台詞だけど。私が言うわ」
私の、友達になってください―――――
震える兎の妖怪を抱きしめながら妖夢は、それだけ言って、眼を閉じながら、意識を途絶えさせた。
「・・・・・・妖夢~?こんな所で寝ていたら風邪を引くわよ~?」
そんな幽々子様の声が聞こえた気がして、私は目を開けた。
途端、ズキズキと来る頭痛に顔をしかめる。
「~~~」
頭で手を抑えつつ、倒れていた身体を起こし、周りを確認する。
白玉楼の縁側に、横には昨日飲んだお酒が一升瓶。
日は既に昇っていて、幽々子様が私の顔を覗きこんで・・・。
「・・・・・・す、すいません幽々子様!」
寝坊したと、把握した。
幽々子様はニコニコと微笑みながらそんな妖夢を見る。
「いいのよ~私が早起きしただけだから、朝食まで時間はあるわ」
それよりもと言いながら、妖夢の横に置いてあった空になった酒瓶を手に持つ。
「妖夢も罪な女ねぇ~」
そんな事を、酒瓶と一緒に置かれていた紙を手に持ちながら言った。
妖夢は、その紙に書かれていた事を読んで、あれは夢じゃなかったかと一人安堵する。
「・・・すぐに、朝食の用意をします」
だが、そんな事を顔に出さずに、朝食の用意をするために幽々子から酒瓶と紙をひったくる。
紙には、こう書かれていた。
´親愛なる友、魂魄妖夢
また会いに来ます。待っていてください。
by 鈴仙・優曇華院・イナバ ´
と。
出会いも、流れも、あり得ることだと思えます。
公式設定に重きをおいて、ここまで書けるのだから、尊敬です。
誤字と思われるので。
あの後玲仙は → あの後鈴仙は
玲仙は自室に → 鈴仙は自室に
次はアリマリでしょうか。楽しみにしています。
リクエスト、もしまだ受付中ならば、霊夢×フランorゆゆ様×よーむを
お願いします。
今執筆中なのはアリマリですが、ガオ○イガーに脳が触発されているせいかバトル物になりそうな予感。 少し色々書いてからからどうするか考えます。
綺麗な作品でしてた。
@れいむ → 大結界「博麗弾幕結界」
れいせんうどんげいんいなば → 鈴仙・優曇華院・イナバ
上記のようにとても便利で、私も使わせて頂いております。
東方キャラは名前も一発変換できないものが多いので重宝しています。
余計なお世話でしたら、申し訳ない。
点数は入力済みなので、フリーレスにさせて頂きました。
鈴仙が妖夢と面識がないってことは永夜以前ってことかな、鈴仙が人里に薬を売りに来てるって事は永夜のあとだし・・・。
あと妖夢ってプレイヤーキャラの中では月の狂気に影響されやすい方じゃなかったっけ?
以前という話で私書いてないですね。永夜の異変を解決したのはあくまで霊夢が行った事であり、妖夢は鈴仙と出会っていない→永夜解決後の出会いとして書いたつもりでした。
妖夢は狂気に侵されやすいキャラってのは知らなかった。だとしたらこの作品、ハナカラ成立しませんね。
続きが読みたいべさ。
それから救われた時の、心から溢れ出る喜び、感謝は大きなものになりますよね。