Coolier - 新生・東方創想話

紫のとある一日

2007/06/04 11:19:01
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この作品は、「藍のとある一日」の紫サイドです。
先に藍の話を見ていると、より楽しめるかもしれません。





























午前7時

まどろみの中に居ると声が聞こえてくる。
「紫様~!紫様~!朝ですよ~!!」
私の式神の式神、橙の声だわ。
「朝ご飯出来てますよ~!」
う~ん・・・まだ寝て居たいわ・・・・・・
「う~ん・・・やっぱり起きない。」
ええ、私は起きるつもりはないわ。

「えいやっ!!」
橙のそんな声が聞こえたかと思うと、突然私から心地よい温もりが離れる。
「ん~・・・橙、布団を返しなさい・・・・・・」
橙が布団を剥ぎ取ったようね。
今の時期、布団を剥がされた位で寒いとは思わないけど、心地よさは失われる。

「ダメです!藍様に起こして来いって言われましたから。」
はぁ・・・仕方ないわね。
「解かったわ・・・起きるわよ・・・・・・」
気だるい体を起こしてそう答える。
「早く来てくださいね~」

橙はそう言って居間の方へと向かった。
居間が我が家の食卓。
橙も去った事だし、二度寝しようかとも考えたが、止めた。
それをやったら今度は藍がやって来るわ。
藍の起こし方は少々手荒い。
暴力的な手段に出ることはないけど、まぁ、その・・・・・・
大声で叫ばれるのよ。

このマヨヒガには他に住んでいる者は居ない。
それ故、遠慮無しに大声を出してくる。
しかもその後、鬼もかくやと言う顔で仁王立ちしている。
三角巾にエプロンを付けてるのはご愛嬌ね。
まぁ、あの口うるさい式の小言を朝から受けるのはご免こうむりたいわ。
よって私は居間へと向かう事にした。

「ん~・・・・・・」
まだ眠気の残る状態で顔を出す。
「おはようございます、紫様。」
私の式の藍が挨拶をする。

「まだ眠いわ~」
私は自分の状態を素直に口にした。
「さ、朝食の用意が出来てますので顔を洗って来て下さい。」
そんな私の言葉を綺麗にスルーして藍は言う。
付き合いが長いだけに私への対応も解かっているのよね。
「は~い。」
私も藍の性格は解かっている。
故に素直に従う事にする。

傍から見ると主従が逆転しているように見えるけど、実際家事に関してはそうなる。
大抵の事は藍に任せてる為、家事に関する事くらいは従うようにしている。
それに、藍の言う事はあくまで常識の範疇である。
それ以上に傲慢な事を言う事はない。
だから、私もそれを容認している。
藍は元々知能が高い上に式としても長いので、己が私の式であるという自覚はあるのよね。

「洗ってきたわよ~・・・ふわあぁぁぁ・・・・・・」
顔を洗って来て今に顔を出して早々私は欠伸をする。
充て付けでもなんでもなく、単純に眠いのよ。
「紫様、しっかりと寝巻きを正してください。」
藍が私の姿を見て言う。
もう、本当に口うるさいわね。

「良いじゃないの、どうせ貴女達しか居ないんだし。」
直すのが面倒な私はそう返す。
「そう言う問題ではありません。」
が、案の定、藍はバッサリと斬って捨てた。
「もう・・・藍はうるさいわねぇ・・・・・・そんなんじゃ行き遅れるわよ?」
思ってる事を素直に口にする。
行き遅れは関係ないわね。

「関係ありませんし、式神に行き遅れも何もあった物ではありません。」
そうしたら再びバッサリ切り捨てられた。
藍、貴女幽々子の所の庭師を務められるんじゃない?
「はぁ・・・・・・何時からこんなに反抗的になったのかしら?」

口ではこんな事を言うが、内心は結構嬉しかったりする。
私は力の所為か、恐れられる事が多い。
それはそれで悪くないけど、やはり私を恐れず進言する存在も欲しいと思うもの。
幽々子は友人だしね。

「失礼ですが、反抗はしていません。あくまで進言しているまでです。」
本当に良く成長してくれたものね。
まぁ、偶にその口うるささが煩わしいと思う事もあるけど、それも一興だわ。
「うぅぅ・・・・・・・まぁ良いわ。早くご飯食べましょ。橙なんて待ちきれないみたいよ?」
これ以上の言い合いは無駄、と言うか私に勝ち目は無いので切り上げる事にした。

まぁ、勝とうと思えば勝てるわ。
まだまだ藍に論争で負けるつもりはないし。
けど、それをやればかなり時間がたってしまうし、その間にご飯が冷めてしまう。
それに何より、橙が今にも食いつかんばかりに鮭を睨んでいる。
この子は本当に行動が子供っぽくて微笑ましいわ。
藍も良い子を拾って来てくれたものね。

「食事を終えたらしっかり着替えてくださいね?」
藍が私に念を押す。
言われなくてもそのつもりよ。
「解かってるわよ。さ、ご飯にしましょ。」
私がそう言って、八雲家の朝食が始まった。


午後8時

朝食を終え、着替えも済ます。
流石にご飯を食べ終える頃には好い加減目も覚める。
さて、今日は何をしようかしら?
藍はと言うと、食事を終えてから食器の洗浄をし、
次は洗濯を始めている。

藍が使っているのは私が外の世界から持ってきた「洗濯機」という物。
因みに我が家には「冷蔵庫」や「掃除機」、「炊飯ジャー」に「電子レンジ」も存在する。
洗濯機を初めて見せた時の藍の喜びようと言ったら・・・・・・
掃除機や冷蔵庫等を見た時も感動してたわね。

しかし、つくづく思う。
今、洗濯の片手間に布団を纏め、干しに掛かっている藍を見ていると、
先ほどの行き遅れると言う台詞は間違いなく有り得ないわね。
炊事、洗濯、掃除と家事全般を完璧にこなし、
あまつさえ、それらを楽にこなす道具を見て感動する。
橙とのやり取りを見る限りでも良き母親になるわね。
これが式でなく普通の女性であったなら間違いなく引く手数多ね。
我ながら良い式を持ったものだわ。

さて、藍を見ているのも良いけど、見慣れた光景の為面白いとは思わない。
う~ん・・・やる事もないし、幽々子の所にでも行こうかしら?
藍に一々行き先を告げる事はしない。
私が勝手に消えるのは藍も解かっているから。
それに、藍が急用で呼べばそれは直ぐにわかる。
だから私は勝手に白玉楼へと行った。


午後9時

「は~い、幽々子。」
隙間を開けて白玉楼に到着。
「あら、紫。いらっしゃい。」
私の親友の幽々子が笑顔で迎える。
「ちょっ!?紫様!?」
私の後から何か驚いた声が聞こえる。
この声はあれね、庭師の娘だわ。

「あら?妖夢じゃない。どうしたの?」
突然驚いた声を上げる妖夢に私は振り向いて尋ねる。
別段、私が神出鬼没なのは何時もの事なのに。
「どうもこうも・・・そんな所から現れないでくださいよ・・・・・・」

そんな所?
ふと、私は隙間を開けた場所を見る。
ああ、なるほど。
私が隙間を開けた場所は妖夢のお腹の真ん前だった。
丁度距離を開けて幽々子と向かい合ってたのか、良い感じの間合いに私の上半身が出ている。

「あらあら、妖夢ったら・・・その年で出産?」
「ぶっ!!!」
突然の幽々子の発言に妖夢が噴出す。
幽々子の発言からその行動を予想できていた私は既に体を隙間に引っ込めている。
真後ろから唾なんて浴びたくないもの。

「汚いわねぇ、妖夢。」
再び、にょきっといった感じで体を出して私は言う。
「す、すみません・・・と言うか、幽々子様!何て事言うんですか!!」
謝って直ぐ幽々子に抗議をする妖夢。
妖夢は言いつつ私の後ろから場所を移動する。
まったく・・・その素直すぎる反応が遊ばれる原因なのにねぇ。
「そうよ、幽々子。妖夢に失礼だわ。」
だから、私も
「え~?そうかしら~?」
「そうですよ!!」
「ええ、そうだわ。」
私も

「妖夢ももう立派に子供を産める年齢よ?」
「紫様!!!」
妖夢をいじるのだ。
顔を真っ赤にして怒鳴る妖夢。
その素直な反応が面白いから弄るのを止められない。
嗚呼、藍も良いけど、この子もこの子で良いわ。

「そうね~。でも何時の間に出来ちゃってたのかしら?」
いつの間にか妖夢を勝手に妊娠させている。
「そうね・・・妖夢は結構人里に下りる事が多いから、その時じゃない?」
私も悪乗りする。
「か、勝手に話を進めないでください!!!」
妖夢は叫ぶが、私達は無視する。

「偶に帰ってくるのが遅かった事とかなかったかしら?」
「あ~、偶にそう言う時もあったわ~。」
「じゃあきっとその時ね。」
「でも、妖夢が出かけてる時ってお昼よ?」
「そうなの?もう、妖夢ったらお盛んなんだから。」
「若いって良いわね~。」
「ち、違いますよ!!そう言う時は大抵妖怪に絡まれて!!!」
「ええ!?そうなの!?」
私は大仰に驚く
「ええ、見た目でやはり弱く見えるんでしょうか?偶に絡まれますね。」
確かに見た目だけならこの娘は強くは見えないわね。
が、私が言いたいのはそう言うことでなく。

「お相手は人間じゃなくて妖怪だったのね。」
「あらあら、妖夢ったら・・・ちゃんと父親は解かってるの~?」
「な、なんでそう言う風になるんですか!!!」
ああ、本当にこの子をからかうのは楽しいわ。
そして、幽々子。
流石私の親友、息ぴったりだわ。

ひとしきり妖夢をからかった後、そろそろお昼なのでマヨヒガに帰る事にした。
まさか、この子を弄ってるだけで二時間以上も楽しめるとは思わなかったわ。
中々の逸材ね。


午後12時

「ただいま~。」
「あ、お帰りなさいませ紫様。」
帰宅すると藍が昼食を作り終えたところだった。
暫くして食卓に並べられた昼食は二人分。
「あら?橙は里なのね。」
あの子は最近里の子供達と仲が良い。
今日も遊びに行っているのだろう。
「ええ。」
藍も私がそう察している事を知り簡単に答える。
「そ。じゃあ頂きましょうか。」
「はい。」


午後1時

「藍~、私昼寝してるから~。」
私は何時もの午睡に入る。
「またですか?食べて直ぐ寝たら牛になりますよ?」
藍が呆れたように言う。
けど、私達妖怪は人間のように目まぐるしく体型が変わることはない。
なので
「生憎、私はここ何百年もこの体型よ。」
と返して眠ることにした。
藍の溜め息が聞こえる。
ま、何時もの事ね。


午後3時

藍が出かけたようね。
私はムクリと起き上がる。
今日は天気も良いから恐らくそうなるだろうとは踏んでいたわ。
それに冷蔵庫の中身も少し寂しくなりつつあったしね。
さてと・・・それじゃ、遊んできましょうかね。

私は隙間を通って博麗神社へと辿り着いた。
別段用事があったわけではない。
何となくここの巫女、博麗霊夢と話をしたくなっただけ。
霊夢は今日も今日とで縁側でお茶を飲んでいた。
相変わらず仕事しないわね、あの娘は。
まぁ、私も人の事をとやかく言えたものではないけど。
けど、神社には既に先客が居た。

「よう、邪魔するぜ。霊夢。」
「邪魔するなら帰りなさい。」
黒と白の魔法使い。
一見で解かる。
森に住む普通の魔法使いの霧雨魔理沙ね。

「お、羊羹か?」
「ダメ。」
「まだ何も言ってないぜ?」
「何言うか解かってるわよ。これは取って置きなの。取ったら殺すわよ?」
たかが羊羹に本気の殺意を出すなんてあの巫女くらいでしょうね・・・・・・
しかもあの羊羹、そこらで売ってる普通の羊羹よ?
その時私の脳裏に色々閃いた。

「解かった解かった。解かったから札をしまってくれ。」
あの娘、スペルカードまで使う気だったの?
「で、何の用?」
「いや、特に用があったわけじゃない。」
「暇人ねぇ。」
「お前は暇じゃないのか?」
「お茶と羊羹を味わうのに忙しいわ。」
「それは暇って言うんだぜ?」
その通りね。

「客人に茶の一杯くらい出してくれても良いんじゃないのか?」
「誰が客人よ。でもまぁ、一杯くらいなら良いわ。」
そう言って霊夢が台所へと向かっていく。
「あ、羊羹食べたら・・・」
「解かってるから札をしまえ。」
魔理沙が言いながら、やれやれと言った感じに首を振る

「羊羹一つであそこまでムキになるなんてな・・・・・・食べ物の恨みは怖い・・・か?」
それは少し違うわね。
正確には霊夢の恨みは怖い、ね。
「お?賽銭箱か・・・どれくらい入ってるんだ?」
魔理沙が賽銭箱を覗き込む。
その隙に私は先ほど閃いた事を行動に移す。

「はい、持ってきたわよ。って何してんのよ。」
「いや、賽銭箱いくらくらい入ってるのかな~ってな。」
「悪かったわね。どうせ雀の涙よ。」
「今度入れてやろうか?」
「それなら何時でも歓迎するわ。」

そう言って霊夢は先ほど座っていた位置に戻る。
そして
「・・・・・・・・・・・・魔理沙?」
「ん?」

ヒュゴウッ!!!

呼ばれて振り向いた魔理沙の顔の横を札が通り抜けた。
少しだけ頬が切れているわね。
「な、何するんだ霊夢!!」
まぁ、状況が解かってないでしょうから当然の質問ね。

「良い度胸してるじゃない、あんた・・・・・・」
「は?何の事だ?」
まぁ、何で霊夢があんなに怒ってるのか、あの娘には解からないわよね。
「散々言っておいて食べるなんて・・・・・・・・・良いわ。それなら前言通り殺してあげるわ。」
「ちょ、霊夢!?食べるって・・・・・・・・・食べる?」

ふふ・・・あの娘も漸く解かったようね。
そう、霊夢のお楽しみの羊羹は私が隙を突いて食べたのよ。
今も口の中に入っているわ。
しかし、これ本当に安物ね。
ああ、でも口の中が甘いわ。
飲み物飲み物・・・・・・ズズズゥ・・・・・・・・・ふぅ。
ついでだからお茶も頂いたわね。

「待て!!何となく察しは付いたが、私は食べてないぞ!!!」
「嘘おっしゃい!!じゃあ何で消えてるのよ!!3切れもあったのに!!!」
それは私が食べたから♪
「勝手に食べたばかりか、その罪を認めないなんて・・・・・・」
「だから!私は食べてない!!」
「私の夢想封印に討たれる事。それが今の貴女に出来る善行よ。」
「ちょっと待て!口調が閻魔様っぽくなってるぞ!?」
そんな事より応戦したほうが良いわよ?貴女。

「問答無用!!夢想封印!!!」
「ちっ!謂れのない罪でやられる気はないぜ!!」
お、避けた避けた。
ふふ・・・これで暫く弾幕合戦が楽しめそうね。
「大人しく討たれなさい!!」
「冗談じゃないぜ!!スターダストレヴァリエ!!!」
あ、これ結構好きなのよね。
星が綺麗で。

「反抗するのね!?二重結界!!!」
あらあら、霊夢も結構結界の張り方が上手になったわね。
「ちぃ!!耐えられるか!?マスタースパーク!!!」
出たわね、妖怪達が恐れる最強レベルの火力を誇るスペルカード。
「何の!!夢想封印・集!!!」
霊夢も負けてないわね。
本来拡散してから収束する夢想封印を最初から一つに集めてるから、その威力はやはり凄いわね。

さて、あまり続けさせると色々収拾付かなくなるわね。
あの夢想封印の一つを一つだけ解からない様に隙間に放り込んでっと。
「あ!?」
「何!?」
そして、あたかも一個だけ制御がずれたように弾道をずらして出来上がりっと♪
「しまった!里に!!!」
「ちょ!?これはヤバイぜ!!!」

私がずらした弾は魔理沙を通り抜けて人の里へと向かった。
けど、問題なし。
この時間ならあのワーハクタクが居るだろうし、それに

「あ。」
「あ。」
二人が呆けた声を出す。
同時に安堵の溜め息も。

やっぱり貴女が処理したわね、藍。
居る事はわかってたし、多分そうなると思ったわ。
さて、夢想封印にマスタースパークの衝撃は里にも伝わってるはず。
そして、今の流れ弾。
それらから導き出される答えは。

「おい、霊夢。慧音が来たぜ。」
本当、私の素晴らしい頭脳って惚れ惚れするわ。
月の天才なんて目じゃないくらい。
「やっばぁ・・・・・・」
ふふふ・・・いまさら後悔しても遅いのよ?霊夢。

暫くしてワーハクタク、上白沢慧音が到着した。
あのワーハクタクは人間に肩入れしているから今の出来事は許せないはずね。
「博麗の巫女、それから霧雨魔理沙。どういう事だこれは?」
ものすっごい怒ってるわ♪
「いや、これは霊夢が・・・・・・」
「ちょっと!そもそもの原因は魔理沙じゃない!!」
「だから、私は食べてないと言ってるだろう!!」
「好い加減にしろ!!!お前達のせいで危うく里に被害が出る所だったんだぞ!!!」

わお、すっごい大声。
流石、寺小屋で教師をしているだけあるわ。
叱り慣れてるわね、あれは。
霊夢達も体をビクッとさせて竦んでるわ。
あれも藍とは違ったタイプの良い母親になりそうね。

「何が原因かは知らんが里に弾を飛ばすとは何事だ!!!」
「う・・・・・・」
「す、すまん・・・・・・」
二人ともすっかり萎縮しているわ。
「霊夢!!!」
「は、はい!?」
名前を叫ばれて再び体をビクッとさせる霊夢。
そこへ

ゴスッ!!!

「あ・・・あ・・・あぁぁぁぁ・・・・・・・!!」
すんごい頭突きだわ。
思いっきり振りかぶってたし。
霊夢ったら頭を抱えてうずくまってるわ。
「魔理沙!!!」
「ま、まて・・・・・・!!」

ゴスッ!!!

当然制止の言葉を聞く事などせず、制裁の頭突き。
う~ん・・・素晴らしい威力ね。
満月の時には更に威力が上がるって話だけど・・・・・・興味深いわね。
「ぐ・・・あ・・・あぁぁぁぁ・・・・・・・!!」
魔理沙も同じようにうずくまっちゃったわ。
「それで、何であんな事をした!?」
さて、そろそろ良いかしらね。

「は~い、お邪魔するわよ~ってあれ?」
私はわざとらしく、さも、これまでの経緯など知りませんといった風に登場した。
「む?お前は八雲紫。」
ワーハクタクが気づいて声を掛けてきた。
まぁ、霊夢と魔理沙は反応できる状態じゃないけど。
「ゆ、紫・・・・・・?」
あ、霊夢が反応したわ。

「何してるの二人とも?やだ、まさかついに地面にお金が落ちてないか探し始めちゃったの!?」
「そんな訳ないでしょ!!」
霊夢は怒鳴るけど、いつかやりそうなのよね・・・あの娘。
「っててててて・・・・・・紫?・・・そうか!お前だな!!」
あら?漸く気づいたの?
「何がだ?」
事の次第を知らないワーハクタクは魔理沙に尋ねる。

「お前が霊夢の羊羹食ったんだろう!!知らない間に物が消えるのは大抵お前の所為だ!!!」
あらあら、今頃気づいたのかしら?
けど、貴女の家の本が探して見つからないって言うのは私じゃないわよ?
あれは単純に貴女の整理整頓がなっていないだけ。
「考えてみればそうね・・・・・・紫、まさかあんたが・・・・・・」
「羊羹?何を言ってるんだ?」
「霊夢がお楽しみの羊羹が食われたって事で私に容疑がかけられたんだ。」
ワーハクタクに魔理沙が事情を説明する。

「ま、まさかその程度の事で争ってたのか?」
呆れるワーハクタク。
まぁ、気持ちはわかるわ。
「その程度とは何よ!!私の数少ない贅沢品なのよ!?」
あの安物が?
同情するわね。

「ああ、すまん。そうとは知らなかったんだ。」
あまりの霊夢の迫力にワーハクタクもたじろぐ。
本当、あの娘は食べ物の事になると怖いわね。
あの娘は当分嫁入りは無理ね。
「どうなの?紫。」
霊夢が私に詰め寄る。

「ええ、羊羹なら私が頂いたわ。」
私はあっけらかんに答える。
「良い度胸じゃない・・・・・・」
霊夢に凄まじい霊力が集まる。
改めて思うけど、凄まじい霊力ね。
歴代の巫女でもこれほどは数える程度よ。
しかもこの年で、なのだから尚驚く。
惜しむらくは、それが食べ物のことで発揮されているという事ね。

「待ちなさい。ちゃんとお詫びの品を持ってきているわ。」
そう言って私は隙間から袋を取り出す。
そしてそれを見せる。
「そ、それは!?」
そう、霊夢が食べた物とは比べ物にならないくらい高級な羊羹と、玉露だ。
「ちょっと小腹が空いちゃって摘まんじゃったから、お詫びにと直ぐに持って来たつもりだったんだけど。」
私は申し訳なさそうに言う。

「ったく、じゃあお前のせいかよ。」
魔理沙が私に言う。
「あら?何が?」
「どうやら博麗の巫女が羊羹を取られた事に激昂してここで弾幕合戦を始めたんだ。」
ワーハクタクが成り行きを説明した。
まぁ、知ってるのだけどね。

「あら?そうなの。」
「そうなの?じゃないぜ。その所為で私達は慧音に頭突き喰らったんだぞ。」
「そうね。慧音。紫にも食らわせて上げなさい。」
「そうだな。」
そう言ってワーハクタクが近づいてくる。

「待ちなさい。何でそうなるのかしら?」
しかし、あんな物食らう気はないわ。
「仕方ないだろう、お前が原因の事なのだ。」
「それは違うわ。確かに私は霊夢の羊羹を摘まみ食いした。その点で責められる事に異論はないわ。」
まぁ、お詫びに高級なの持ってきてるから責められる事はないけどね。

「でも、その後の行動は私には無関係じゃなくて?」
「む・・・・・・」
「羊羹を摘まんだのは悪かったわ。でも、だからと言ってその容疑者に弾幕を仕掛けるのは如何なものかしら?」
「そうだな。しかも、私は濡れ衣だったしな。」
「う・・・・・・」
「原因は私かもしれないわ。でも、その後の事は霊夢が原因じゃなくて?」
「言われてみればそうだな・・・・・・」
理詰めで行けばこのワーハクタクは丸め込みやすいわね、思ったとおり。

「それとも、私が霊夢がそうなると思ってそう言う行動を取ったとでも言うのかしら?」
勿論、解かってたわ♪
「まぁ・・・確かに安物の羊羹でそこまで行くとは思わないよな、普通は・・・・・・」
魔理沙も同意したわ。
これで3対1ね。

「うぅ・・・・・・」
霊夢も、もう追い込まれてるわね。
「はぁ・・・・・・何か複雑になってきたが・・・博麗の巫女。」
ワーハクタクが霊夢を呼ぶ。
「・・・・・・何?」
罰が悪そうに霊夢は返事をした。
「今後はもう少し冷静に行動してくれ。事あるごとにこれでは、正直もたん。」
「うぅ・・・解かったわよ。」

霊夢も渋々了承する。
まぁ、何だかんだと言って、弾幕合戦始めた霊夢が悪いものね。
「やれやれ・・・何かどっと疲れたな。私は帰るとするよ。」
気をつけてくれよ、と残してワーハクタクは帰った。
「さて、私も帰るわね。」
「紫。」
と、霊夢に呼び止められた。
「何かしら?」
「今度から摘まんで詫び持ってくる時は書置きでも残しておいて。」
「そうね、そうするわ。」
つまり、侘びを持ってくる気がなければ何も残さなくて良いのよね♪


午後6時

さて、そろそろ夕飯になるでしょうし、帰りましょうかね。
ん?
帰ろうかと思った時、ふと気になる気配を感じた。
これは橙ね。

別に橙が居たくらい気にもならないわ。
どうせ直ぐに帰って来るでしょうし。
問題は、それを追っている気配・・・・・・
橙は気づいていないわね。
しかも困った事にこいつら橙より格上だわ。
もう、手間の掛かる子ね・・・・・・
あれ程周りには気を配りなさいって言っているのに。

私は隙間を開けてそいつらの前に出た。
勿論、いきなり目の前に私が出てきた事でそいつらは驚く。
隙間を操る妖怪なんて私しか居ないから、そいつらも直ぐに私が誰か気づいたようね。
顔に緊張が走ってるわ。

「さて・・・なんで私が貴方達の前に出てきたか解かるかしら?」
一応、聞くだけ聞いてあげる。
その言葉で状況を察したのだろう、顔が緊張から恐怖に変わっている。
失礼ね、私は女神の様な微笑を浮かべてるって言うのに。
まぁいいわ。
「解かったようね。それじゃ、一つだけ忠告してあげるわ。」
さて、ここで少し表情を変えてあげましょうかしら。

「ウチの子に手を出したら・・・・・・・・・・・・消すわよ?」

目だけ笑ってない笑顔という物を見せてあげたわ。
そしたら青を通り越して真っ白な表情になって逃げて行ったわ。
やれやれ・・・・・・橙もまだまだね。
こんなのに餌として見られてるんだから。
・・・・・・・・・・・・まさか、雌として見られていないわよね?
だったら追ってでも消した方が良いわね。
考えすぎね。
私も藍の親馬鹿が移ったかしら?

さて、そろそろ橙も家についてる頃ね。
あの子、足は速いから。


隙間を抜けて我が家に到着。
すると橙が洗面台に駆けている所が見えた。
この時間だと藍は台所かしら?
声くらいは掛けておきましょうかね。

台所に着くと、案の定藍が夕飯の準備をしていた。
ん?あの油揚げ・・・・・・あれ、かなり良い物ね。
道理で藍の尻尾が嬉しそうに振られてるわけだわ。
すると

「ああ、すまない。そこにある豆腐をとってくれないか?少し目が離せないんだ。」
と、藍が言ってきた。
恐らく私を橙と間違えているのだろう。
そこでまたまた私の天才的頭脳が閃いてしまった。

私は藍の言うとおりに従った。
「油揚げを取ってくれ。」
再び言うとおりにする。
「次は、刺身を取ってくれ。つまみ食いなんかしちゃダメだぞ?」
失礼ね、私はつまみ食いなんて・・・・・・・・・しまくるけどね。
藍の台詞と同時に橙が台所に来た。
藍の台詞から察するに手伝うと言ったのだろう。
まだ料理を作れる訳ではないが、藍に言われたとおりに動く姿は見ていて可愛いわ。

そんな橙に私はニッコリと微笑む。
とたん、青ざめる。
もう、皆して失礼ね。
「ら・・・藍様・・・・・・・?」
そして、橙は藍に声を掛ける。

「どうしたんだ?橙。」
藍は振り向いた。
けど、私が居る方向は藍が振り向いた方向と逆方向。
そして藍は橙を見たまま固まる。
あれは思案をめぐらしている顔ね。
そろそろ良いわね。


「刺身はこれで良いのかしら?藍。」


「ゆゆゆゆゆゆ、紫様ぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」
パニクり過ぎよ、貴女。
「それにしても藍も偉くなったものねぇ・・・・・・」
ほぅ、と私は息を吐く。
我ながら絵になる姿ね。
「私を顎で使うなんて・・・・・・・・ねぇ?」
あらあら、藍ったら、顔が真っ青だわ。

色々考えてるわね、どうしようかと。
まぁ、藍が戦って私に勝てる訳は無し。
というか、藍が私に対して戦うという選択肢があるか疑問だけどね。
逃げたって無駄なことも知ってるわ。
さて、どういう行動取るのかしら?

「も、申し訳ございませんでした!!紫様とは気づかず・・・・・・・」
結果、藍は一番無難かつ正常な行動を取った。
まぁ、ここで足掻かれて夕飯遅れても困るから良いわ。
「あらら、良いのよ藍。間違いは誰にでもあるわ。」
まぁ、偶には寛大な心で許してあげましょう。
今日は結構色んな者で遊んだから。

けど、藍。
貴女、その顔。
「藍。貴女失礼な事考えてない?」
私は思った事を率直に述べた。
「いえ、決してそのような事は!!」

慌ててる。
思ってたわね。
「私が人を安心させてから蹴落とす女だと思ってない?」
ついでにカマも掛けて見ようかしら。

「思いっきり思ってます!!!」
「ら、藍様・・・・・・」
「ふふ・・・ふふふふふ・・・・・・」
貴女も言うようになったじゃない、藍。
私は嬉しいわ。
ええ、もう嬉しくて隙間に放り込んであげたくなるくらい♪

「少しお仕置きが必要かしらね?」
何にしてあげましょうか?
紅魔館殴りこみツアー3泊4日かしら?
それとも24時間耐久蓬莱人バトルなんてどうかしら?
あ、素っ裸で市中晒し者も捨て難いわね。

けど、まぁ・・・・・・
「とはいえ、壊れられても困るわね・・・・・・」
今日は機嫌が良いから許してあげましょ。
「しょうがない、晩御飯抜きで抑えてあげましょうかね。」
精神的拷問でね♪


午後7時
「いただきま~す。」
「い、いただきます・・・・・・」
夕飯が始まった。
「橙。藍は晩御飯抜きだからあげちゃダメよ?」
「は、はい・・・・・・」
あらかじめ橙に釘を刺す。
こうでも言わないとこの子は藍に後ろめたさ感じそうだものね。
私が命令したからしょうがない、ってしてあげないと。
そうすれば両者の体面も保てるものね。

「ん~、これ美味しい!」
揚げ出し豆腐を口にして私は言う。
ふふ・・・藍ったら、すっごい物欲しそうに見てるわ。
あ、視線を下にずらしたわね。
物を見ないようにして耐えるつもりね?
甘い、甘いわ。

「ああ、このお味噌汁も美味しいわ。油揚げが特に!」
ふふふ・・・体がプルプル震えてるわよ?
「ほら、橙も遠慮しないで一杯食べなさい。」
「は、はい。」
未だ食べようとしない橙に私は言う。
貴女が藍に合わせて夕飯断ったって藍は喜ばないわよ?

「橙、私の事は気にせず食べなさい。私は自業自得なのだから・・・・・・」
「あ、はい。」
藍にも言われて漸く箸を付け始める。
「ん~。この油揚げは良い物ね!」
そして私は、橙に言う為に顔を上げた藍に追い撃ちをかけた。


午後11時
あ~、面白かったわ。
藍ったら油揚げって単語が出るたびにプルプル震えちゃって。
やっぱりあの娘も弄りがいがあるわね。
さて、十分遊んだ事だし。

「藍も馬鹿ねぇ・・・・・・晩御飯は抜きだって言ったけど、夜食取っちゃダメなんて言ってないのにねぇ。」
独り言のように少し大きめの声でそう呟く。
少し離れた所に橙が居るのを確認済みで。

ふふ・・・案の定、今日の夕飯の残りが仕舞ってある冷蔵庫に駆けて行ったわ。
ほんと、素直で可愛い子ね。
さて、隙間を開けてっと・・・・・・

あらあら、藍ったら目を丸くしてるわ。
まぁ、藍が勝手に摘まんだら、勿論制裁確定だったけど。
良い酒の肴ね、この子達は。

そんな事を考えながら外に視線をずらしてみる。
気が付かなかったけど、今日は良い月ね。
天気が良かったのだから当然といえば当然かしら。

それにしても・・・・・・
一人で居た時もそれはそれで良かったけど。
今みたいに可愛い子達が居るのも悪くないわね。
さて・・・・・・明日はどうやって遊んであげましょうかしらね?
これからも私を楽しませて頂戴ね?

藍のとある一日を紫サイドで書いてみました。

なんででしょうね~、勝手に筆(?)が進みました。
紫は書くのが難しいと思ってたんですが・・・・・・

ともあれ、楽しんでいただけたのなら幸いです。

好評不評問わず待ってます。
華月
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コメント



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マジでおもしろかった
6.100名前が無い程度の能力削除
グレイトだ…
8.100時空や空間を翔る程度の能力削除
楽しめました。
藍、紫と来れば次は・・・・・・

次回作楽しみにしてます。
32.100名前が無い程度の能力削除
これは素晴らしいゆかりん
36.100名前が無い程度の能力削除
なんと言ったらいいものか・・・最高です。
38.80名前が無い程度の能力削除
紫ひどいな~