春眠なんとやらと言う。
桜の香りに鼻腔をくすぐられた博麗霊夢は、
どこぞの隙間妖怪ではないので定刻通りの時間に目を覚ました。
「……ずいぶんと見渡しがよくなったわねぇ」
「ああ、いい眺めだろ」
高みから声が降りてくる。
長身で赤毛の死神は、鎌を持たずに櫂を握ってあくびをかました。
霊夢は起き上がり、自らの置かれた状況を把握していった。
見渡す限り水である。
霊夢と小町はうららかな春の陽気と小川の冷気に包まれながら小船に揺られている。
「死んだ覚えなんかないんだけどなぁ」
「まあ人生なんて突然の連続さ」
「って、あんたが真面目に仕事しているなんて。今日は何が降るのかしら。卒塔婆?」
「賽の河原でぶっ倒れていたのを船までひきずって、わざわざ運んでやっているのにずいぶんな物言いだな」
「でも代金はもうしっかり貰ってるんでしょ」
「文句の多い死人だな」
「あんたがとろとろ進むからよ。もっと速くならないの? この船」
「なんのためにこの三途之川があるのか巫女のくせに知らないみたいだね」
「橋でもかけたら? いつまでも昼寝できるわよ」
「おや、貴方は長生きすると思っていたのですが」
幻想郷の閻魔は霊夢にそう声をかけると、部下に厳しい視線を送った。
「小町、珍しく早朝から仕事を始めた点は評価します」
「はい。昼間に寝すぎて夜中に起きちゃって」
「……全く。顔見知りから連れてきては他の死人に示しがつきません。以前にも言いましたが――」
「ちょっと、あんたこそちゃんとした仕事しなさいよ。客がここにいてこの死神は仕事したんだからあんたもあんたの仕事しないと」
霊夢に親指をグッと押し出す小町に、映姫は冷たい視線を送った。
慌てて逃げ出す部下をため息で送り、彼女は閻魔帖を開いた。
「さて、博麗霊夢。貴方の生前の行いについてですが……」
「それなんだけど」
「はい」
「私なんで死んでるの?」
「まだ死んで間もないようですね。理由がわかりません。担当のものが後で調査しますので、気にかける必要はありませんよ」
「でもなんだかわからない理由であんたの説教聞かされるのはたまったもんじゃないわ」
四季映姫はうなずく。
「良いでしょう。なら少し幻想郷に戻りなさい」
「生き返してくれるの?」
「ただの執行猶予です。迷いを持ったまま裁きを受けても納得するとは限りませんからね。死んだ理由がわかったのなら、またこちらにいらっしゃい」
「そう。じゃ、せっかく貰った時間だからちょっと出かけてくるわ。その間に部下の説教は終わらせておいて」
文字通り飛んで行った博麗の巫女も見送り、幻想郷の閻魔は呟いた。
「次にちゃんと小町は運んでくれるかしら……。彼女の言うとおりかもしれませんね。今から小町を捕まえましょう」
みんな暇なのかもしれない。
さて。
閻魔の酌量を貰ったはいいものの、霊夢はまず何処へ行けばいいのか考えあぐねていた。
そも、いつどこでなぜどうして死んだのか全くわからない。
死後前後の記憶がぶっ飛んでいる。
覚えている限り最新の記憶は、なぜか鬼から酒をかっぱらってきたことである。
なんでそんなことをしたのか霊夢自身よく覚えていない。参ったものである。
人の罪をあれだけ調べ上げることができるのだから、死んだ経緯くらいすぐに調べろと霊夢は思う。おかげでこのような無駄足を踏まねばならない。
まあ、どうせ長距離移動する時は生前の頃より足を使っていなかった気もするが。
ともあれ最初の目的地くらい決めねばなるまい。
「白黒なら昨夜から帰ってきてないけど」
辛気臭い森に住むもう一人の魔法使いは霊夢を見上げて呟いた。
よく接触している魔理沙ならば霊夢自身が覚えていない霊夢の行動も知っているかもしれない。
そう考えて魔理沙の家までやって来たのだが、留守だった。
仕方ないので近所暮らしのアリスにたずねたらこの有様である。
「もうっ。必要な時に限って。どこへ行ったかは知ってる?」
「さあ? でも、花見だ花見だとか言ってたから、あんたの神社じゃない?」
「ああ、なるほど。だから私はお酒が欲しかったのか」
「? ところで元から地に足付いてなかったけど、本格的になってきたわね」
「だから困ってんのよ」
「こら! 勝手に人ん家上がりこむな!」
縁側で茶を啜っている魔理沙は、宙に浮かびっぱなしの霊夢を見つめた。
ごしごしと目をこする。
「参ったな。霞み目だ。なあ霊夢、目にいいものってなんだっけな」
「夜雀んところでも行ったらどうかしら」
「うるさいんだよ、あれ。
眼鏡でもかけるかな。香霖んところから貰ってくるか。霊夢も一緒に行かないか?」
「そうしたいのは山々だけど私今ちょっと忙しいの」
「おっ、何かまた異変か?」
「いや、私死んだみたいだから」
魔理沙は首をひねった。
腕組みをして考え込んでいる様子である。
しばらくして、ぽんっ、と手を打った。
ちょいちょいと霊夢に手招きする。
近寄ってきた霊夢に手を差し出すと、おおっ、と叫び声を上げた。
「透けた!」
「まあ幽霊だし」
「そうでもないぜ。昨夜の幽霊は透けないし弾幕も張れるし食欲も旺盛だっただろ」
「あいつはまあああいう奴だから。……って、そうか。昨夜私は白玉楼に行っていたのか」
「おいおいボケるにはまだ早いぜ」
さすがに魔理沙である。どこぞの人形遣いと違って有意義な情報をくれる。見込んだ通りだ。
霊夢は思い出した。昨夜は冥界の花見に招待されたのだ。
幸い弾幕咲かせる妖怪桜は蕾一つ付けていなかったが、普通の桜は咲くものである。
陽気な亡霊どもに騒霊姉妹のライブも加わる賑やかな宴だった。
と、そこまで思い出したはいいが、なぜ死んだのかはよくわからない。
「私、昨夜どうしてたっけ」
「いつも通りだったぜ。――いや、でも霊夢は泊まりだったか。酔ったから」
「じゃ、もしかして私の死体まだ雲の上じゃないの?」
「かもな」
「亡霊に囲まれてる死体なんて冗談じゃないわ。ちょっと取り返してくる。火葬でも土葬でも水葬でも風葬でも鳥葬でもなんでもいいけど葬儀に出されないのは我ながら不憫だわ」
「そりゃそうだな。じゃ、私は死体運び役として同行しよう」
「助かるわ」
「茶一杯分だ」
魂魄妖夢は宴会の後片付けに追われていた。
何せ花見である以上、宴会場は屋外、庭となる。
ただでさえ毎日手入れに忙しい庭師の彼女は、宴会によって出た膨大なゴミの掃除もやらねばならなかった。
ゴミ屑だけ斬り飛ばす技でも編み出した方がいいのかもしれない。
「精が出るようね」
「あ、永琳さん。霊夢の調子はどうですか」
「身体の方は持ってるけど中身は飛んでっじゃってるから寝たまま。これ以上は私の管轄外だわ」
永遠亭の薬師は伸びをする。早めに起こされたから眠いらしい。
昨夜、宴会の席で酔ってしまい、そのまま寝ついてしまった霊夢は、幽々子の命で白玉楼に泊めることとなった。
早朝に妖夢は霊夢の様子を見に行った。
そしたら心の臓が止まりかけていた。呼吸も浅い。
慌てて同じように招待していた永琳を起こし、診てもらったというわけである。
「困りましたね。それじゃ、せっかく治療してもらったのに死んでしまう」
「というかもう死んでるって言った方が正しいかも。今頃閻魔様にお裁きを受けてたりして」
「じゃあ今は気合避けの真っ最中ですね」
「そうでもないわ」
「ないぜ」
白黒と紅白がやって来た。
妖夢はため息をつく。この二人が揃ってやって来たら、掃除の量が倍になるかもしれない。
「まだ成仏してなかったの。なんなら斬ってもいいけど」
「後にして。とりあえずとっとと私の身体のところに案内しなさいよ」
「はいはい。そこの魔法使い。まだ掃除している最中なんだから、お屋敷も庭も荒らさないでよ」
「そんなことするわけないだろ」
即答する魔理沙に訝しげな目線を送りつつ、妖夢は霊夢にせっつかれて屋敷の方へと向かった。
その背中が消えたのを見計らい、魔理沙は周囲を見渡す。
「さて、と。ここの蔵はどこにあったっけな。おい永琳、知らないか?」
「さあ。でも、今からは私はここの主に話をしに行くから、その時に聞いておいてあげるわ」
「頼んだぜ」
「ついでにねずみが一匹入り込んだことも」
「それは黙っててくれ」
白玉楼の主は牡丹餅でお茶をしていた。
その隣に、永遠亭の薬師は座りこんだ。
「誰も気にしてないようだから、私が言うけど」
「なぁに?」
「霊夢のお酒に毒を混ぜたのは、貴方ね」
「ええ」
幽々子は湯呑みを傾ける。
そうしてから、牡丹餅を永琳に差し出した。
「いかが?」
「匂いで毒入りだってわかるから」
「やっぱりあなたは毒殺できないみたいねぇ」
「というか、だから私は死なないし」
「そういえばそうね。最近幻想郷には私の天敵が増えたみたいね。って、元々いたのか」
「恥ずかしい話だけどね」
幽々子は湯呑みを置いて、視線を下げる。
「あの巫女とメイドは面白いし役立つからウチに欲しかったんだけどねぇ」
「そりゃ死ねば貴方のところに来るかもしれないけど、まず閻魔様のお裁きを受けてからこの冥界に来るかどうか決めるんでしょう。貴方のところに来なければ無駄な殺生だわ」
「それはそうなんだけどね」
「貴方の能力を使えばもっと手っ取り早く済むでしょうに」
「けどそうしたら成仏できないし」
「成仏したらここからいなくなるってことでしょ。不都合じゃないの」
「それはそうだけど、私は来るものは拒まないし去るものは追わないわ。妖忌だってきちんと見送ったもの」
「けど積極的に引き込みはすると」
「能力使ってないからいいじゃない」
「まあ貴方の被害で私にお客が来るなら別にいいけど。ともあれ、お代」
「妖夢から貰っておいて」
「悪いわね」
「幽々子さまの命だから」
永琳に診療代を払った妖夢は、霊夢の謝罪を軽く流した。
それにしてもしっかり身体を持った霊夢は憂鬱そうな顔をしている。
「せっかく生き返ったのに、嫌そうね。そんなにウチの住人になりたかったの?」
「こんな騒がしいとこ嫌よ。いや、生き返ったら生き返ったで閻魔がうるさそうだからなぁ、って」
「霊夢は幽々子さまと違って静かなのが好きなのかしら」
「時と場所を選べってことよ。亡霊は四六時中いつでもやかましいから。あんたの主人は大人しいけど」
「いや、幽々子さまも騒がしいのは好き。自分が騒がないだけで」
「はあ」
「寂しがりやなんですよ」
「まあ春度が頭ん中だけで満開になっている間はいいけど。じゃ、お世話になったわ」
「はいはい。……ん? あんたにくっついてきた白黒は?」
「私が知るわけないでしょ。発掘じゃない?」
「小町、私の話を聞いてますか」
「いえ、あの……いやー、そういえばあの巫女、帰りが遅いですね」
「蘇生したようです。そもそも死ぬのが早すぎたんですよ」
「でも執行猶予を言い渡しちゃったんでしょう」
「本当に死ぬまでの執行猶予です。それは肉の身体を持っていてもなくても同じことですよ。寿命の短い人間にとっては」
「はあ」
「貴方は違いますけどね」
「あー……」
桜の香りに鼻腔をくすぐられた博麗霊夢は、
どこぞの隙間妖怪ではないので定刻通りの時間に目を覚ました。
「……ずいぶんと見渡しがよくなったわねぇ」
「ああ、いい眺めだろ」
高みから声が降りてくる。
長身で赤毛の死神は、鎌を持たずに櫂を握ってあくびをかました。
霊夢は起き上がり、自らの置かれた状況を把握していった。
見渡す限り水である。
霊夢と小町はうららかな春の陽気と小川の冷気に包まれながら小船に揺られている。
「死んだ覚えなんかないんだけどなぁ」
「まあ人生なんて突然の連続さ」
「って、あんたが真面目に仕事しているなんて。今日は何が降るのかしら。卒塔婆?」
「賽の河原でぶっ倒れていたのを船までひきずって、わざわざ運んでやっているのにずいぶんな物言いだな」
「でも代金はもうしっかり貰ってるんでしょ」
「文句の多い死人だな」
「あんたがとろとろ進むからよ。もっと速くならないの? この船」
「なんのためにこの三途之川があるのか巫女のくせに知らないみたいだね」
「橋でもかけたら? いつまでも昼寝できるわよ」
「おや、貴方は長生きすると思っていたのですが」
幻想郷の閻魔は霊夢にそう声をかけると、部下に厳しい視線を送った。
「小町、珍しく早朝から仕事を始めた点は評価します」
「はい。昼間に寝すぎて夜中に起きちゃって」
「……全く。顔見知りから連れてきては他の死人に示しがつきません。以前にも言いましたが――」
「ちょっと、あんたこそちゃんとした仕事しなさいよ。客がここにいてこの死神は仕事したんだからあんたもあんたの仕事しないと」
霊夢に親指をグッと押し出す小町に、映姫は冷たい視線を送った。
慌てて逃げ出す部下をため息で送り、彼女は閻魔帖を開いた。
「さて、博麗霊夢。貴方の生前の行いについてですが……」
「それなんだけど」
「はい」
「私なんで死んでるの?」
「まだ死んで間もないようですね。理由がわかりません。担当のものが後で調査しますので、気にかける必要はありませんよ」
「でもなんだかわからない理由であんたの説教聞かされるのはたまったもんじゃないわ」
四季映姫はうなずく。
「良いでしょう。なら少し幻想郷に戻りなさい」
「生き返してくれるの?」
「ただの執行猶予です。迷いを持ったまま裁きを受けても納得するとは限りませんからね。死んだ理由がわかったのなら、またこちらにいらっしゃい」
「そう。じゃ、せっかく貰った時間だからちょっと出かけてくるわ。その間に部下の説教は終わらせておいて」
文字通り飛んで行った博麗の巫女も見送り、幻想郷の閻魔は呟いた。
「次にちゃんと小町は運んでくれるかしら……。彼女の言うとおりかもしれませんね。今から小町を捕まえましょう」
みんな暇なのかもしれない。
さて。
閻魔の酌量を貰ったはいいものの、霊夢はまず何処へ行けばいいのか考えあぐねていた。
そも、いつどこでなぜどうして死んだのか全くわからない。
死後前後の記憶がぶっ飛んでいる。
覚えている限り最新の記憶は、なぜか鬼から酒をかっぱらってきたことである。
なんでそんなことをしたのか霊夢自身よく覚えていない。参ったものである。
人の罪をあれだけ調べ上げることができるのだから、死んだ経緯くらいすぐに調べろと霊夢は思う。おかげでこのような無駄足を踏まねばならない。
まあ、どうせ長距離移動する時は生前の頃より足を使っていなかった気もするが。
ともあれ最初の目的地くらい決めねばなるまい。
「白黒なら昨夜から帰ってきてないけど」
辛気臭い森に住むもう一人の魔法使いは霊夢を見上げて呟いた。
よく接触している魔理沙ならば霊夢自身が覚えていない霊夢の行動も知っているかもしれない。
そう考えて魔理沙の家までやって来たのだが、留守だった。
仕方ないので近所暮らしのアリスにたずねたらこの有様である。
「もうっ。必要な時に限って。どこへ行ったかは知ってる?」
「さあ? でも、花見だ花見だとか言ってたから、あんたの神社じゃない?」
「ああ、なるほど。だから私はお酒が欲しかったのか」
「? ところで元から地に足付いてなかったけど、本格的になってきたわね」
「だから困ってんのよ」
「こら! 勝手に人ん家上がりこむな!」
縁側で茶を啜っている魔理沙は、宙に浮かびっぱなしの霊夢を見つめた。
ごしごしと目をこする。
「参ったな。霞み目だ。なあ霊夢、目にいいものってなんだっけな」
「夜雀んところでも行ったらどうかしら」
「うるさいんだよ、あれ。
眼鏡でもかけるかな。香霖んところから貰ってくるか。霊夢も一緒に行かないか?」
「そうしたいのは山々だけど私今ちょっと忙しいの」
「おっ、何かまた異変か?」
「いや、私死んだみたいだから」
魔理沙は首をひねった。
腕組みをして考え込んでいる様子である。
しばらくして、ぽんっ、と手を打った。
ちょいちょいと霊夢に手招きする。
近寄ってきた霊夢に手を差し出すと、おおっ、と叫び声を上げた。
「透けた!」
「まあ幽霊だし」
「そうでもないぜ。昨夜の幽霊は透けないし弾幕も張れるし食欲も旺盛だっただろ」
「あいつはまあああいう奴だから。……って、そうか。昨夜私は白玉楼に行っていたのか」
「おいおいボケるにはまだ早いぜ」
さすがに魔理沙である。どこぞの人形遣いと違って有意義な情報をくれる。見込んだ通りだ。
霊夢は思い出した。昨夜は冥界の花見に招待されたのだ。
幸い弾幕咲かせる妖怪桜は蕾一つ付けていなかったが、普通の桜は咲くものである。
陽気な亡霊どもに騒霊姉妹のライブも加わる賑やかな宴だった。
と、そこまで思い出したはいいが、なぜ死んだのかはよくわからない。
「私、昨夜どうしてたっけ」
「いつも通りだったぜ。――いや、でも霊夢は泊まりだったか。酔ったから」
「じゃ、もしかして私の死体まだ雲の上じゃないの?」
「かもな」
「亡霊に囲まれてる死体なんて冗談じゃないわ。ちょっと取り返してくる。火葬でも土葬でも水葬でも風葬でも鳥葬でもなんでもいいけど葬儀に出されないのは我ながら不憫だわ」
「そりゃそうだな。じゃ、私は死体運び役として同行しよう」
「助かるわ」
「茶一杯分だ」
魂魄妖夢は宴会の後片付けに追われていた。
何せ花見である以上、宴会場は屋外、庭となる。
ただでさえ毎日手入れに忙しい庭師の彼女は、宴会によって出た膨大なゴミの掃除もやらねばならなかった。
ゴミ屑だけ斬り飛ばす技でも編み出した方がいいのかもしれない。
「精が出るようね」
「あ、永琳さん。霊夢の調子はどうですか」
「身体の方は持ってるけど中身は飛んでっじゃってるから寝たまま。これ以上は私の管轄外だわ」
永遠亭の薬師は伸びをする。早めに起こされたから眠いらしい。
昨夜、宴会の席で酔ってしまい、そのまま寝ついてしまった霊夢は、幽々子の命で白玉楼に泊めることとなった。
早朝に妖夢は霊夢の様子を見に行った。
そしたら心の臓が止まりかけていた。呼吸も浅い。
慌てて同じように招待していた永琳を起こし、診てもらったというわけである。
「困りましたね。それじゃ、せっかく治療してもらったのに死んでしまう」
「というかもう死んでるって言った方が正しいかも。今頃閻魔様にお裁きを受けてたりして」
「じゃあ今は気合避けの真っ最中ですね」
「そうでもないわ」
「ないぜ」
白黒と紅白がやって来た。
妖夢はため息をつく。この二人が揃ってやって来たら、掃除の量が倍になるかもしれない。
「まだ成仏してなかったの。なんなら斬ってもいいけど」
「後にして。とりあえずとっとと私の身体のところに案内しなさいよ」
「はいはい。そこの魔法使い。まだ掃除している最中なんだから、お屋敷も庭も荒らさないでよ」
「そんなことするわけないだろ」
即答する魔理沙に訝しげな目線を送りつつ、妖夢は霊夢にせっつかれて屋敷の方へと向かった。
その背中が消えたのを見計らい、魔理沙は周囲を見渡す。
「さて、と。ここの蔵はどこにあったっけな。おい永琳、知らないか?」
「さあ。でも、今からは私はここの主に話をしに行くから、その時に聞いておいてあげるわ」
「頼んだぜ」
「ついでにねずみが一匹入り込んだことも」
「それは黙っててくれ」
白玉楼の主は牡丹餅でお茶をしていた。
その隣に、永遠亭の薬師は座りこんだ。
「誰も気にしてないようだから、私が言うけど」
「なぁに?」
「霊夢のお酒に毒を混ぜたのは、貴方ね」
「ええ」
幽々子は湯呑みを傾ける。
そうしてから、牡丹餅を永琳に差し出した。
「いかが?」
「匂いで毒入りだってわかるから」
「やっぱりあなたは毒殺できないみたいねぇ」
「というか、だから私は死なないし」
「そういえばそうね。最近幻想郷には私の天敵が増えたみたいね。って、元々いたのか」
「恥ずかしい話だけどね」
幽々子は湯呑みを置いて、視線を下げる。
「あの巫女とメイドは面白いし役立つからウチに欲しかったんだけどねぇ」
「そりゃ死ねば貴方のところに来るかもしれないけど、まず閻魔様のお裁きを受けてからこの冥界に来るかどうか決めるんでしょう。貴方のところに来なければ無駄な殺生だわ」
「それはそうなんだけどね」
「貴方の能力を使えばもっと手っ取り早く済むでしょうに」
「けどそうしたら成仏できないし」
「成仏したらここからいなくなるってことでしょ。不都合じゃないの」
「それはそうだけど、私は来るものは拒まないし去るものは追わないわ。妖忌だってきちんと見送ったもの」
「けど積極的に引き込みはすると」
「能力使ってないからいいじゃない」
「まあ貴方の被害で私にお客が来るなら別にいいけど。ともあれ、お代」
「妖夢から貰っておいて」
「悪いわね」
「幽々子さまの命だから」
永琳に診療代を払った妖夢は、霊夢の謝罪を軽く流した。
それにしてもしっかり身体を持った霊夢は憂鬱そうな顔をしている。
「せっかく生き返ったのに、嫌そうね。そんなにウチの住人になりたかったの?」
「こんな騒がしいとこ嫌よ。いや、生き返ったら生き返ったで閻魔がうるさそうだからなぁ、って」
「霊夢は幽々子さまと違って静かなのが好きなのかしら」
「時と場所を選べってことよ。亡霊は四六時中いつでもやかましいから。あんたの主人は大人しいけど」
「いや、幽々子さまも騒がしいのは好き。自分が騒がないだけで」
「はあ」
「寂しがりやなんですよ」
「まあ春度が頭ん中だけで満開になっている間はいいけど。じゃ、お世話になったわ」
「はいはい。……ん? あんたにくっついてきた白黒は?」
「私が知るわけないでしょ。発掘じゃない?」
「小町、私の話を聞いてますか」
「いえ、あの……いやー、そういえばあの巫女、帰りが遅いですね」
「蘇生したようです。そもそも死ぬのが早すぎたんですよ」
「でも執行猶予を言い渡しちゃったんでしょう」
「本当に死ぬまでの執行猶予です。それは肉の身体を持っていてもなくても同じことですよ。寿命の短い人間にとっては」
「はあ」
「貴方は違いますけどね」
「あー……」
暢気もここまでくると恐怖だ。
でも不思議とその世界の住人らしいと思いましたね。w
そして今までに無い「何か」を感じました。
けどな~白玉楼に霊夢と魔理沙が来たとこから、
もう少し話を展開してくれると尚嬉しかったです。
死にながら物を食べたり会話が出来る
死の定義を少しこっちと変えないと幻想郷には馴染めませんねぇっはっはっは
>毒殺すら当たり前のように~
毒殺がわかっているのはえーりんとゆゆ様だけ(つまりネタ元の永夜冥界組EDと同じメンツ)なのですけどね。
ゆゆ様の暢気もアレですけど霊夢のも相当だと思います。
>死をそのまま受け入れられるような世界。
なるたけ二次創作設定に引きずられないような話を書こうと思いましたので。
一発目の作品でそれが成功したようなので嬉しい限りです。
>お~これは良いですね。
ありがとうございます。
個人的に短い話の方が読みやすいので、思いっきり削りまくったのですがそれも問題のようですね。
アドバイスとお褒めの言葉、とてもありがとうございます。
>生きながら死霊や閻魔と話せる~
幻想郷において生と死の境界っていったいなんなんだと思わなくもない昨今。
個人的に閻魔様の説教は好きです。
>死をあまり深刻に考えないから~
死んでから人生花開いた人ですからねぇ……。
求聞史紀の人間に対する「友好度」&「危険度」MAXの理由はコレだと思ってます。冥界いいとこ一度はおいで。