本作品は作品集その41
発狂する永遠
永遠の苦行。不死の幸福。半獣の懊悩。
永遠亭精神衛生悪化阻止失敗
の最終章となっております。
前回までのあらすじ。
蓬莱人とは何か。何故二人は殺し合うのか。疑問と嫉妬を携えた慧音は、永遠亭へと赴きその
真意を蓬莱山輝夜より聞く事となる。人間程度の精神で人間を凌駕する時を重ねると如何なる
弊害を齎すのか。それは慧音も理解しえる範囲の事実であったが、また新たな疑問が生まれる。
それは同居人たる妹紅が正常な精神を持っているかどうか、であった。
しかし慧音は例え妹紅が狂っていようと、それはそれで受け止めようと決意する。
一方で輝夜は、この誰も理解しえぬ精神構造をもった蓬莱人を懸命に理解しようとする慧音に
引かれ、妹紅から慧音を奪ってしまおうと画策し、無理やり慧音に同居を迫る。
永遠の暇を持て余す存在。その咎人たるバケモノを受け止めようとする慧音に、輝夜は己の抱
く心の内を打ち明ける。
永遠を過ごす人間の憂いを悟った慧音は、輝夜の同居を許可する事になる。
永遠亭から輝夜が居なくなり数日。
八意永琳は自分の感情に悩んでいた。たった数日輝夜が居なくなっただけで、真っ当ではいら
れなかったのだ。
鈴仙に指摘され、悩んだ挙句上白沢家にお邪魔する輝夜へと逢いに行くが、そこには自分が忘
れていた笑顔を携え子供達とはしゃぐ輝夜の姿が。失意のままに永琳は永遠亭へと戻る事とな
る。日を増して酷くなる永琳の情緒不安定。何故自分にはあの笑顔を向けてくれないのかと悩
みに悩み尽くすが、それを見かねた鈴仙が輝夜を連れ戻すと言い出す。
制止も聞かず飛び出す鈴仙だったが、大した意味も無く。
鈴仙が居なくなった永遠亭で、永琳は過去を振り返る。何故笑顔も見せてくれないのか。
それは、自分が輝夜に対して長い間、愛も語らずにいた所為だという事実だった。
あらすじを大体把握した上で、取敢えずコイツで暇でも潰してやるぜふひひ、という方はどう
ぞ一読ください。
この先陸に上げられたナマコの速度で富士登山程度の距離
↓
『もし私を連れ出したいのならば、難題をこなさなくてはいけないわ。かぐや姫からの難題が
こなせないのならば、私はここから動く事は無い。知っているわね、鈴仙?』
永遠からの難題は五つ。これ全てを一人が突破しなければならない。
鈴仙は―――内容を聞いて即座に無理と判断した。
天狗の扇子。
吸血鬼の爪。
九尾狐の尾の毛。
これを取得後、更に二つ与えられるという。
鈴仙一人では、不可能に近い。人に負けぬ程度の能力は携えてはいるが、それをたった一日で
やり遂げられるか、といえば無理難題にも程がある。馴れ合って貸して貰う、もしくは失敬す
ると言う手立ては即座に封じられた。弾幕で、実力行使で奪えというのだ。
何もかかっていない戦いならいざ知らず、奪うとなれば相手も手加減はあるまい。
鈴仙には絶対に無理。輝夜は帰る気がないのか……と思われたが、後の一言が全ての答えを出
してくれた。
『出来ないのならば仕方がないわ。永琳にでもその過酷さを伝えて、泣き寝入りすればいい』
……遠回しに、永琳に課題を課したのである。
鈴仙はそれを受け、すぐさま永遠亭に舞い戻った。
鈴仙の心情は複雑である。これでは自分があまりにも役立たずではないだろうか。師匠の為と
永遠亭を出て、課題を持って帰ってくる。ガキの使いではないのだ……が。
元より、輝夜が鈴仙に連れ戻される事を望んでいない。自分が首を突っ込んでも仕方がない事
象なのだ。
永琳と輝夜。
どうやら、鈴仙はそこに入る隙間がないらしい。
しかし、鈴仙は期待してしまう。永遠の間があるのならば、その永琳の須臾の歴史に、一時で
も入り込めたのなら、と。
さもしい下心ではあるが、何せ相手は人外だ。そのぐらい許容してもらえるに、違いない。
もっと悲しい言い方をすれば、自分はその程度でしかきっと無いのだ。
「……との、事です。師匠」
「ありがとう。そう、姫は難題を課したのね……」
「スミマセン……何も出来なくて」
「いいのよ、うどんげ。貴女は何も気を病む必要なんてないわ。元より貴女に課したモノでは
ないし、誰も咎めないもの」
「でも……」
思わず鈴仙の瞳に涙が滲む。全て何もかも、輝夜が悪いとしても、やはり悔しい。
永琳を目の前にして、自分の卑しい心が晒された気がする。
「姫は意地悪ね。鈴仙、わざとよ、これ」
「えっ……?」
「貴女が……ほら、私に近いから。やきもちやいてるのよ」
「あっ……うぅぅ……」
「はいはい泣かない泣かない。じゃあ私は行くわ。家をお願いね、鈴仙」
「……」
「―――愛しく思っているわ。家族としての意味合いが強いけれど、貴女のこと」
「……師匠」
「じゃあね」
永琳が月夜に飛び立つ。
制限時間は今から明日の今まで。
上白沢家に居る人間が、下らない話に花を咲かせている間に、永琳は闘う。月のお姫様のワガ
ママを叶える為に。
八意永琳に武運を。
巻き込まれるかませ犬達に、協力への感謝を。
「なんか……ひっさびさに燃えて来たわ」
1 蓬莱山輝夜
こんな時間も須臾の間。永遠の姫からすれば、全てはハリボテのカキワリ。されど想うのは、
この須臾の間こそ永遠の糧である、という真実。
逃げられない現実は、幻想郷にありながらにして迫り来る現実。全ては我が為に。全ては我が
望む未来の永遠の為に。気が狂う退屈を凌ぐ為の礎として。糧として。
悲しくない。辛くも何とも無い。ただ暇なのだ。
永遠とは、終わらない退屈である―――。
「……」
鈴仙の悲しそうにする顔が頭から離れない。普段ならばイナバと一括りにしたペットに過ぎな
い存在であるのに、あの真っ赤な目だけが離れないのだ。
師匠が師匠がと喚く鈴仙に苛立ちを覚えた事は確かだ。お前に永琳の何がわかる。お前に私の
何がわかるのか。どうでもいいとあしらうだけの余裕は常に持っていた筈であるのに、それが
酷く気になって仕方がなかった。
もう狂って久しいにも関わらず、自分は何故こんな些細な嫉妬に燃えているのか。
「姫様、お腹痛いんですか?」
「え? あ、あぁそうね。姫様は少し体調が優れないから、貴方達で勝手に遊びなさいな」
「姫様からのお達しだぁぁぁぁ!!! 貴様等良くきけえぇぇぇ!! 我々はこれより例えこ
の身砕けようとも姫様の命に従い!! 勝手に遊ぶ!! わかったかぁあ!!」
「おぉぉぉぉ!!!」
「作戦行動時間は今から五時間後までとする!! 倒れたものは置いてゆけ!! 戦場は常に
前にあり!! 行くぞォォォッォ!!!」
「うぉぉぉぉっぉっ!!!!」
派手な号令と共に、子供達が広場へと散っていった。
輝夜は少しカリスマを出しすぎたと後悔し、また物思いに耽る。
陽が大分高くなり始める頃、輝夜は木陰にひっそりと座り込み、子供達を眺める。自分にはあ
んな過去があっただろうかと思い返し、ただの一ページも記録されていない事を再確認する。
愛も恋も想い出も全部仕舞われた心の内は、意外なほどに空虚であった。
これでは、身を失い、精神だけとなって永遠を彷徨ったならば、きっと暇で気が参ってしまう。
それだけ、思い出がない。
あるものといえば……大半が永琳との記録だ。
何の為に人の身で千年以上生きているのやら。自分に呆れ返る。
―――だからこそ、だろうか。
師匠師匠と永琳を気にかける鈴仙が、少しだけ羨ましかったのは。
永琳しかいないからこそ、自分は鈴仙に嫉妬した。
長い目で見ればそれは一瞬。けれど、その一瞬を奪われるのも、癪である。
姫様は傍若無人でワガママであるから。
「今日は皆と遊ばないのか?」
輝夜の隣りに慧音が腰掛けた。慧音の顔は……何か、悟ったようなものがある。
「何よ慧音。解っていて聞いているの?」
「当然」
「……貴女って、なかなか侮れないわよね。最初はもっと純粋なヒトかと思っていたのに」
「それはどうか知らんが、ヒトガタの生物をやって、短くはないからな」
「……」
「……一つ、いいか?」
「何かしら?」
慧音は小首を傾げ、俯く輝夜の顔を覗き込む。
「悩んで、どうにかなる事なのか?」
「そ、それを言われると痛いわ。ふん、いいですよ。どうせ悩んでも永遠かわりませんよーだ」
「そう子供になるな。お前は、永遠なのだろう。なれは今の悩みも須臾の間だ」
「……えぇ」
「ならば良かったではないか。また未来に来る永遠の暇を潰す悩みが、増えたのだから」
「その発想はなかったわ。貴女、大分理解しているじゃない」
「……最近、やっと解ったんだ」
慧音は芝生に横になり、木陰から、突き抜ける青空を眺めて見やる。
何か、満足げな表情で。
「お前は狂ってなんかいなかった。拍子抜けだぞ、輝夜」
「何が言いたいの?」
「妹紅と一緒にしても、なかなかに大人しくしているし、思った以上に常識が通じる。最初は
どうなる事かと肝を冷やされたが……お前は人並みに配慮するし、人並みに悩む。それならば、
だ。それならば、お前はただ長生きなだけで、人と何処が変わろうか?」
「……そう」
「―――問題は、むしろお前より妹紅だ」
「えっ?」
その言葉に、思わず顔を上げて慧音に目をやる。慧音は一瞬だけ満足そうな顔が消えたが……
それも直ぐに戻る。
「お前は永遠であると諦めがついている。無駄な事を無駄だと解りこなしている。これも一つ
の思い出になるのならばと、全ての諦観の中に、意味を持って無意味としている。けれど妹紅
は違う。あれはただ不死なだけ。気が狂う痛みを楽しそうに笑い、お前との殺し合いも楽しそ
うに笑い、お前が私に引っ付こうものなら、それも殺してやると楽しそうに笑う……これが正
常とは、私にはとても思えない。気が狂っていると表すのならば、むしろ妹紅だ」
「それはただ、私に嫉妬しているだけで……」
「嫉妬で殺害か。愛が重いな……ならば」
「?」
「全てを諦めて、物事を気楽に見ているお前に流れてみようか?」
「……あら、本当?」
「……」
「……」
「ぷっ」
「あはははははっ!!!」
子供達の喧騒の中に、二人の笑い声が混じる。
よほどおかしかったのか、その可憐な笑い声は、次第に苦しいものになっていった。
輝夜は……本当におかしそうに笑っている。永遠も何も関係なく、ただ容姿相応の少女のよう
に、笑っている。
慧音はそれがまたおかしかったのか、更につられて笑う。こんなにも美しい顔が涙目になりな
がら笑う様が、面白くて仕方が無かったのかもしれない。
「ふふ、あははっ!! け、慧音ったらっ……もこたん大大大好きなくせにっ! あははっ」
「ふぅ……ふふ、ふ、あはっ……はぁ……。つくづく、私も可笑しい奴だ」
「いいわね妹紅は、本当に、本当に羨ましい。なんて理解者なのかしら。本当に……羨ましい
わ。慧音、貴女は本当にすばらしい”人間”ね」
「違う、違うよ輝夜。理解なんていらない。もしそうならば、ここにいる子供達もまた、良き
理解者であるに違いない。忘れたか輝夜、私は半獣だ」
「はぁ……はぁ……う、うん。えぇ。そうね。ふぅ……」
「私は人と妖怪の間。人の目から見て、私とお前の間になんの違いがあろうか。輝夜、幻想郷
は、もっと懐が深い。理解なんていらない。それは居るし、あるし、当然なんだ」
「恐れ多くも輝夜姫様ぁぁぁ!! 鬼ごっこに混ざっては、いただけませんでしょーかぁぁ!」
「私は、歴史を教えている。お前達が須臾と呼ぶ間の歴史を。たった数十年しか生きられぬ人間
に、人間なんたるか、妖怪なんたるかを学ばせている。それはきっと、お前がここで生きて行く
のにもきっと助けになると思うのだ。もっと人間が妖怪を理解し、もっと打ち解けた頃には……
今以上に共存共和が成り立った、すばらしい幻想郷になるに違いない。その時に生きる歴史たる
私やお前がいれば……お前も私も、きっと良い思い出を持って行ける」
「―――け、慧音……?」
輝夜の笑いは止まり、その視線は慧音一点に向けられた。
自分では思いつかない、自分しか考えていない人間にはとても及ばぬ考えを持つ慧音に、輝夜は
素直に尊敬の念を抱く。
もっと良い幻想郷になれば、もっと良い想い出をもって行ける。
それは勿論輝夜の利に適う話であり……喜ばしい事実だ。
「永琳ももっと人里に降りてくれば良いのに。その時は是非、お前が連れてきてくれ」
「……永琳は……」
永琳という単語に、過敏に反応してしまう。すっかり忘れ去っていたが、現在進行形の問題だ。
当然、全て何もかも、端から端に到るまで自分が悪いのだが……。
慧音は、解っているように、それについて言及する。
「自分の心の隙間を埋めるには永琳を。自分の思い出の隙間を埋めるには人間達との他愛ない歴
史を。どうだろうか」
慧音は……輝夜が思っている以上に、輝夜の事を考えていた。蓬莱人を、理解していた。
全て、何もかも、この世の事象がハリボテのカキワリ。
されど求めるのは思い出。決して消える事のない、永遠の記録。
このハクタクの少女は……そんな途方も無い考えを、理解してくれている。
今更泣いたりなんてしない。涙なんて遠の昔忘れ去った。
今更手放しで喜んだりはしない。感動など遠の昔に置いてきた。
けれど、だけれども。ただ、ただ今だけならば良いのかもしれない。
忘れ去った涙を思い出し。置いてきた感動を取りに戻っても、いいのかもしれない。
この少女は……本当に、いい子だ。
「慧音……有難う。本当に。感謝、するわ」
「か、輝夜?」
「あは、あははははっ!! そうね、そうよね。うん!」
「なんだかテンションが高いな。そんなに私の言葉が身に染みたか?」
「馬鹿ね、そうに決まってるじゃない。ふふ、さぁ」
「?」
「私はこれからあの子達と”歴史を作って”くるわ」
「―――あぁ、遊んでこい」
「慧音」
「なんだ?」
「―――有難う。もうなくなって久しいものだけど、心から、有難う」
「うぉぉぉぉぉぉ!!! 姫様現る!! 全員戦闘配置につけぇぇぇぇ!!!」
「打ち滅ぼすぞこの下衆共が♪」
「わぁぁぁっ!! 与太郎が捕まったぞぉぉぉぉっ!!」
「幻想郷のおわりじゃあぁぁっ」
「大げさよ」
「あいたっ」
慧得は、そんなかぐや姫を遠目で見つめ、思わず笑みを溢す。
これでいいのだ。自分に出来る善行など、この程度。
しかしこの程度の善行で蓬莱人を、永遠を少しでも楽にしてやれるのならば。
自分という仲介人も、なかなかに悪いものではない。
「かぐや姫のカリスマ復活。永遠亭には、悪い事をしたな」
今日も幻想郷は平和である。
慧音が言うのだ。間違いあるまい。
「さぁて次は……」
慧音は立ち上がり、子供達と戯れる輝夜に一瞥すると、空へと飛び上がった。
蓬莱山輝夜はもう大丈夫。
しかしもう一人いるのだ。厄介な厄介な、一番大好きで―――狂った、蓬莱人が。
2 藤原妹紅
自分を何のどう、と思った事は一度や二度では済まない。輝夜の残していった薬を服用してか
らと言うもの、命の軽さが際立って仕方が無かった。それは自分に限らず、その他に対しても。
何せ自分からすればアッと言う間に一般的な生物は死滅する。なれば、今死ぬのと後で死ぬの、
一体どれだけの違いがあるのか。
答えは誰からも齎される事はなく、また自分でもその答えは出せなかった。
自分は一体何の為に生きているのか。憂いを抱いた所で死ねる訳もないのだが、悪い事に時間
だけは有り余っている。ぼうっと百年生きていて、その間寿命で何人もが死ぬであろうと解っ
て居ても、どれだけ時間を無駄にしても、時間がある。
その百年には数多の人間の歴史。世界が激変する出来事だってあったに違いない。
けれど自分は何も変わらない。
ただ、少女の姿のまま。精神ばかりが老け込んで、命の価値はどんどん下がる。
誰を想う訳でなく、何かに固執する訳でもなく。
最初は不比等という父の仇を取る為に躍起になっていた。けれど時間は流れ世代は変わり全て
が流されて行く。時もモノも歴史も全てが経年劣化して行く。
だが、自分は変わらない。
何一つ、変わらない。変わるのは心持ちだけ。その分、価値観は更に腐れて行く。
ヒトの世を傍観しながら、日々生きる場所を変えながら。
変化のある、退屈のしない、答えを出してくれるだけの価値がある場所を求めて、彷徨った。
―――そして、とうとう見つけたのだ。
そこは蓬莱の地であった。
そこには自分を許容してくれるだけの全てが存在していた。誰が何年生きていようと気にしな
い。どこで何をしてようとお構いはしない。
そして当初の目的であった、父の仇も見つけた。
しかも、ソイツは死なないのだ。
何度も殺し何度も殺され、何度も殺し殺され殺し殺され殺し殺され殺し殺され。
ソイツは黄泉返り、自分も蘇る。
何とすばらしい事か。ここには求めた全てがあった。幻想郷という名の桃源郷。
気が狂っていようと何であろうと構いはしない。暇で暇で暇で暇で仕方が無かったのだから。
その暇を、今は蓬莱山輝夜という永遠のバケモノが許容してくれる。
そして、通常の生活をも、上白沢慧音という少女が包容してくれる。
嬉しくて嬉しくて、久々に忘れていた涙が零れた。自分は生きていける。幻想郷が消滅し、地
球が滅びるまで生きて行ける。
大嫌いな大馬鹿者と、大好きな恩人と共に、この世が消え失せるまで、幸せに生きて行けるの
だ。
―――ここは、蓬莱の地に違いない。
神様など信じていない。信じていないが、もしその神様が今の安住を約束してくれていたのな
らば、自分はそれを木彫りの像にして毎日崇めたっていい。
それほどまでに、嬉しかったのだから。
「少し、遅れたか」
「何。何でもないよそんな時間。私はルーズだからさ」
隣りに、一番愛しい少女が現れる。知識の半獣。上白沢慧音。
妹紅は……今はこの少女の為だけに存在する。この少女が求めている限りはずっと一緒に暮ら
して行こうと決めている。
容姿も性格も、仕草も声も、何もかもが愛おしい。自分を諌めるだけの理性がまだ残っていて
良かったと何度安堵したか解らない。そうでなければ―――愛しさのあまりに、思わず殺して
しまいそうになる。
慧音の肉が弾けて飛ぶ程に抱きしめてしまいたい。慧音の声が潰れる程に愛していると言って
貰いたい。慧音が消えて失せる程に、愛し合いたい。
ここまで来ると……自分が狂っていると自覚出来る。
妹紅はそんな自分の本能に恐怖する。自分が藤原妹紅で居られるか、心配になるのだ。
何時の日にか本物のバケモノになってしまわないだろうか。本当の意味で気が違えてしまった
自分を、慧音が愛してくれるとは思えない。
だから恐い。妹紅は自分が恐いのだ。
こんな桃源郷にありながら―――桃源郷からも弾かれてしまわないか、心配でならない。
「最近はずっと輝夜が居たから……二人きりには、なれなかったものな」
「慧音……」
この愛を、どう言葉で表現してよいものかと詰まり、結局身体で表す事になる。
人の来ない、湖の辺でもやはり慧音は恥ずかしそうに身をよじった。
「アイツがいたもんだから……最近こうしてないなって」
「も、妹紅……ひ、人がきたら、その、恥ずかしいから……」
「今は、今はもう少しだけ……もう少しだけでいいから……」
自分が壊れている。狂っている。今後も何時本当に狂ってしまうのかは心配だ。
そして何より一番心配なのは―――この最愛の人が奪われてしまうかもしれない、という事だ。
輝夜を憎らしいとは常に思っていたものの、一度決めたものを覆す程無粋ではない。一応理性
という名の怪しげな機能は持ち合わせている。
だがしかし、輝夜は些かばかり強烈すぎる。何もかもが、自分の一つ二つ上を行くのだ。
自分はただ不死なだけだが、あれは違う。死のうが生まれ変わり、永遠と須臾という時間を扱
う、人外以上の人外。
きっと普段から手加減はされているのだと思う。
でなければ殴り合いが始まった瞬間から妹紅は消し炭だ。
それに存在そのものが強い。その存在感たるや、妹紅などトテモではないが並んでは立てない
程に。故に恐ろしい。解っていても、本当に慧音が取られてしまうのではないかと。
「妹紅、い、痛い」
「ご、ごめん……」
感極まった所為か、強く抱きしめすぎた。
思わず、慧音を抱き潰す瞬間を幻視してしまう。
……。
たった数日で八意永琳が情緒不安定になってしまった事を踏まえて考えると、蓬莱山輝夜とい
う存在の威厳やその超越的なカリスマは揺ぎ無い事が伺える。
たった数日同居しただけで、妹紅は酷い不信感を抱かされていた。勿論輝夜自身そんなつもり
はなく、むしろ愛しくも思っているのだが、妹紅からすればその輝夜の感覚は通用しない。
同居の要請は輝夜から齎されたもので、それを否定する事は遠回しに慧音への不信感に繋がっ
てしまうと思ったが故に否定出来なかったが……妹紅は後悔した。
だから、救いが欲しかったのだ。
わざわざ慧音をこんな場所に呼びつけたのも他ではない。
自分を今後も藤原妹紅として見てくれるか、確認したかったのだ。
こんなもの何時でも聞けばいい。そのように何の素振りも見せず三人で暮らしていた事が今と
なっては恐ろしい過去だ。
そしてこれからも、もし輝夜が居続けるとなれば……。
妹紅は想像するだけで身震いする。
「妹紅、大丈夫だから、大丈夫だから、な?」
「慧音……」
「全く思うのだが……私はつくづく、先生なのだと思う」
「……え?」
妹紅の恐怖心とは打って変って、慧音といえば……涼しいものだ。しかし逆にその涼しげな表
情が不安になる。
「何せ、蓬莱人二人にまで諭してやるほどおせっかいなのだから。これは永遠の力を少しでも
受け取った者の副作用か何かか? 二人とも何でも悲観的すぎる。あの蓬莱山輝夜が落ち込む
素振りを見せたときは、流石に地球も終わりかと思ったが、妹紅を見る限りどうやらみんな同
じのようだな……まったく」
「あの輝夜が悲観的? 馬鹿な、あの生きる楽天が?」
「私は、安心した。二人とも、人間らしいじゃないか。思い悩んでこそ人生だと思うのは私ば
かりだろうか?」
「違う、と思うけど……うん。それはあると思う」
慧音が何を言いたいのか解らない。妹紅は一端慧音から離れて、恥ずかしそうに俯く。
コレだけ長い間生きていて、人の考えも解らないとは、と。奇しくも蓬莱山輝夜と同じような
思考であるらしい。犬猿なのも頷ける。二人は同族嫌悪の類だ。
「輝夜は、お前とは違って永遠。あの永遠からすると、私もお前も有限で、羨ましい存在なの
だそうだ。死んでも死なない、何もかもが滅びても存在し続ける。故に、暇なのだそうだ」
「……」
「暇で暇で仕方が無くて、だからこそ、その暇を潰す為に新しい何かを見つけて、思い出を作
りたい。輝夜はそう言っていた。だから私もそれに答えてやれればと、同居を許可した」
「輝夜が……?」
「ある意味ではお前よりよっぽど正常だ。妹紅は、輝夜が恐かったのか?」
「……恥ずかしい話だけど……本当に慧音が取られちゃうんじゃないかって思って」
妹紅が沈み込む。そんな話をしに呼んだのではあるが、やはり気恥ずかしい。己の弱い部分を
晒して今更悲しくなる自分も嫌だった。
「アレは、一瞬一瞬を大事に生きる、といった。今日を大事にせぬ者が未来を大事になど出来
ない、という意味合いだろうが。輝夜はな、永遠故に、有限である私達を、よほど愛しく思っ
ているらしい。ではお前はどうだろう?」
「私は……慧音、私は……」
先ほどの思考と質問が重なる。
低下して行く価値観。低下して行く命の価値。長く生きれば生きる程に全てが安価で詰まらな
いものになって行く、不道徳な感覚。
輝夜がそこまで立派な思想を有していたなど、とてもではないが妹紅には想像がつかなかった。
自分はどうだろうか……?
このまま生きていて……終いには慧音の命すらも軽んじてしまったりはしないだろうか。
生きとし生けるものに、敬意を払えて行けるだろうか。
このまま狂わず……理性を保って、慧音と死ぬまで一緒に生きて行けるだろうか―――。
妹紅は、顔を上げて、改めて慧音を見つめ直す。
「妹紅―――?」
「あっ……」
何をどうしたら。
どこをどう弄ったら。
一体どんな事があったら。
―――こんなにも愛おしい少女を―――傷つける事が出来るだろうか?
「慧音……私は……」
「いい、構わないよ妹紅」
湖面漂う、緑生い茂る辺で二人は優しく抱きしめあう。
「お前が狂ってしまおうと、私は愛している。命の価値が幾ら下がってしまって、何もかもが
軽薄で安価な物体に見えるようになっても……お前に殺されるならば、本望だ……」
「慧音……慧音……大丈夫だから……絶対、絶対傷つけたりしないから……私は、今やっと答
えを見つけたんだ……この楽園で、やっと、やっと……長い間求めてきた、答えを見つけたか
ら……輝夜のお陰って言うのが憎らしいけれど……でも、大丈夫だから……」
悲しくて嬉しくて、感情が高ぶってしまう。
なんていい人を見つけたんだろう。
なんて素晴らしい人を見つけたんだろう。
なんて素敵な人がいる場所なんだろう。
ああそうか。
ここが、蓬莱の地に、違いない―――。
「本当に……世話が焼けるなお前は……本当に、大好きだ」
妹紅は、久しぶりに声を出して泣いた。
3 八意永琳
レミリアスカーレットは語る。
『あの目は恋する乙女の目。私の事を小娘扱いした癖に、なんていい顔するのかしら』
永琳は思うのだ。愛とは何と素晴らしいものかと。
目標を目の前にするこの気持ちは、本当に久しぶりであった。
永遠の中、変わらぬ惰性に身を置いてしまったが故だったのかもしれないが……永琳は忘れて
いた。
自分がどれだけ蓬莱山輝夜を愛していたか。自分がどれだけ蓬莱山輝夜に愛を語らったか。
永遠姫の永遠従者が、一体今まで何をもってして調子に乗っていたのか。
惰性に任せると碌な事はない。愛は冷めて煮ても焼いても美味しくなどない。
何故自分からまた新しく作ろうとしなかったのか。気がつけなかった自分を思い出すだけで恥
ずかしい。
永琳は愛を取り戻す事に必死になった。
それがどれだけ理不尽で迷惑な行為なのかも知っていたが、今更躊躇する相手でもないので本
気で蹴散らしてやった。
迷惑極まりないが、その必死な形相に、やられた人々もまた納得していった。
今永琳は恋をしている。
あの古き良き時代を新たに建設する事を目的とした……如何わしいものであるが、一体誰が批
難出来ようか。そもそも何もかもが理不尽な幻想郷において、それは一つの退屈な日常のエッ
センスとなったのかもしれない。
永琳は思うのだ。嗚呼、ここは蓬莱の地に違いないと。
妹紅の言葉が身に染みる。
「あぁお許しください姫……永琳は間違っておりました……」
何でもハイハイと聞いていればいいというものではない。
時にはキツく言う事も必要だった。例え相手が承知していようと、愛を語るべきだった。
天才八意永琳の胸を締め上げるその愚行になりたった現在を、今解放しようとしているのだ。
「はい、けーね♪ あーん♪」
「か、輝夜……妹紅の目線が痛いからやめて……」
「はい、けーね♪ こっちもあーん♪」
「も、妹紅……無理するな、無理を」
そんな永琳の気持ちを知ってか知らずか、三人はいちゃいちゃしていた。
慧音は思うのだ。ああここは地獄だ。閻魔はどこか、と。
弾け飛ぶ視線攻撃を交わす慧音はもう色々と限界である。美人教師上白沢慧音も、流石に蓬莱
人二人を抱え込むにもいい加減無理が来ていた。
そしてまたしても思うのだ。えーりんえーりん助けて、えーりん、と。
そして―――それは襲来する。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
「あら、えーりんじゃない?」
「嗚呼永琳……やっぱり貴女は天才だ……」
息を切らせた永琳は上白沢家の玄関を通り越し、食卓につく。
その様は正に異様としか表現しようがない。輝夜と妹紅は慧音に縋りつき、息を上げる永琳が
ちゃぶ台に、必死な形相で座り込んでいるのである。
些か地味な展開に一同はキョトンとしてしまったが、永琳だけ超必死である。
「……姫、五つの難題……三つクリアしてまいりましたわ……」
「……あら、まぁ」
「あらまぁじゃないだろ輝夜。お前が出した課題なんだから、さっさと応対したげなよ」
「……そうね。よく来たわね、永琳。自分の愚かさ、身をもって理解したかしら?」
「えぇそれはもう……兎も角……早々に、残りの二つの難題を……」
その鬼気迫る表情は鬼も瓢箪を置いて逃げ出す程だ。きっといっぱいいっぱいなのだ。
「難題は二つ……『不死鳥の羽』と『白澤の智慧』よ」
その言葉に、妹紅と慧音は顔を合わせた。
いつもならば批難轟々一悶着ありそうなものだが、どうやら違うらしい。
「どっちが先が良い? 永琳」
「二人まとめて、かかってきなさい小娘共……」
「おっと、ずいぶんと余裕だ」
「それで良いのなら此方も異論はない。生憎満月ではないが、只では終わらせないぞ、永琳」
「望む、所」
戦いの火蓋は切って落とされた。
愛の深さを数値化してランキング付けしたとしよう。
当然そんなものは不毛なものであり、皆がよってたかって数字の上下に一喜一憂しようとも、
ランキング付けされている人々からすれば、頭に来る事この上ない。
何せこの数値は上下の変動が激しい。一日で下がる者もいれば、七十年続く愛を保ち続ける者
もいるだろう。
愛は不変などではなく、その時々の環境と心持ちによって変化する。
一度一緒になるまでは鰻上りでも、一緒になって暫くすれば下がる。下がっても底辺を這いず
る二人が居る中、愛すらもなくなって消え失せるものもいるだろう。
相手を思いやる気持ちを常に持ち続ける事が、どれだけ大変な事なのか。
長年連れ添った夫婦がどれだけ奇跡的なのか。若い人々には理解しえないものがある。
時には冷め、時には熱し、常に変動が激しいのが、愛だ。
八意永琳の、蓬莱山輝夜の二人を数値化しよう。
当然そんなものは測定不能。何せ人間の理解しえる範疇を超える長さで一緒にいる。
一緒には居たが……しかしこれも数は知れずとも変動はする。
つい最近まで、底辺を這いずり回っていた事は、当人の二人すら否定はしない事実だ。
しかし、そのどちらかが行動に出るとする。ほんの些細な事でもいい、生活に変化を齎したとす
れば、それはまた別の変動を齎す事になるだろう。
例えば、わざと他人の家に泊まり込んで、ヤキモチをやかせてみたり。
些かばかり常人には考え難い発想であるが、蓬莱山輝夜に常識は通じないので考慮しない。
そんな、まずあってはいけないような蓬莱山輝夜の奇行は……見事、功を奏した。
「凱風快晴……フジヤマ、ヴォルケイノッッ!!」
「くっ……」
「永琳、後ろがお留守だ。避けきってみよ……幻想天皇ッ!!」
美しく飛び交う、規律正しい弾幕が、常人では回避不可能な角度から幾層にも重なり迫る。
天才八意永琳とて、もはやブレインで考える暇はない。全て気合で避けてみせる。
右から来る弾群を受け流し、下から迫る弾群を身を捩りスレスレで回避。
正面から迫り来る弾群は……もはや避け様が無い。
「胡蝶夢丸、ナイトメアッ!!」
自弾で打ち消す。同時にそれは反撃となり、二人に襲い掛かり始める。
全ては愛すべき姫の為。
一度愛したのならば、永遠にそれを貫こう。何度でも愛し直そう。
「つらぬけぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!」
あの冷静な永琳が、思わず声を上げた。意志と弾を重ね合わせるように、貫けと。
五つの難題。
個人で打ち破ったモノはそうそう居ない。何せ無理難題なのだ。頭に無理が来る、手厳しい、
非情なる難題。だがそれでも……それが例え無理と付こうと、永琳はやってのける。
やってのけねばならないのだ。
―――愛を貫く為に。
「永琳!! 後ろ!!」
白熱した思考回路に、闇を劈く少女の悲鳴が突き刺さる。
幻想天皇の、相殺しきれなかった弾が永琳を今まさに捉えていた。
寸での所で、身体を無理に捩り何とか回避する。声が無ければ間違いなく被弾確定であった。
妹紅と慧音は、まだナイトメアと格闘している。
危機は勝機となり……永琳は不敵に微笑んだ。
「禁薬……」
「あ、やばっ」
「じ、次弾か!? 無理だ、避けきれんっ」
「『蓬莱の薬』」
夜空は、不死を齎す禁断の術で埋め尽くされた。
「永琳!!」
「輝夜様!! 私は、私は、貴女を愛していますっ!! これからもずっと!! 永遠に!!」
愛するもの愛されるもの、互いに努力を惜しまぬ事が最良であり、それはとても絶佳であろう。
Epilogue
「お世話になったわね、慧音」
快晴の朝。
すっかり身支度を整えた輝夜は、永琳と共に上白沢家を出る。
「また何時でも来るといい。布団は奥に仕舞わず週末には干して置こう」
「二度と来るなアホ姫。ばーかばーか」
「もこたんは本当にヤキモチやきねぇ」
なんとも、晴れ晴れした表情だと、慧音は嬉しくなる。いつもは妹紅といがみ合ってばかりで、
どのように接して良いかも解らなかった相手だったが……数日一緒に暮らしてみれば、何の事
はない。思っていた以上に立派なニンゲンであった。
自分の教授した話も、少しは役に立っているのかもしれないと思うと、尚更だ。
「いい思い出が出来たわ。これで少しは永遠の足しになるかしら?」
「これだけ大事にしておいて、まったく足しになりませんでしたではすまんなぁ」
「まったくだよ」
「ふふ……ねぇえーりん?」
「なんでしょうか?」
「やだ。硬い」
「なに? 輝夜」
「えーりん♪」
「かぐや♪」
「えーりん♪」
「かーぐや♪」
「えーりん! 愛してるっ!」
「あぁかぐやっ! もうどうにでもして!」
「勘弁してほしいものだ」
「……」
「も、妹紅?」
「けーね♪」
「か、勘弁してほしいものだ……」
そんなこんなと……二人の愛はすっかり元通り……いや、元以上になった。
見ていて恥ずかしいほど情熱的である。
蓬莱人とは咎人であるが……重い罪を背負って尚、人間らしい。むしろ背負うべき罪があり、
永遠の苦行を生きてゆかねばならぬからこそ、これだけ人らしい感情を思う存分発揮出来るの
かもしれない。
勿論慧音の推論であるし、答えなどではない。
けれど、慧音が見た限り……不死を往く者達は、皆一様に、人並みに悩み人並みに苦悩してい
る。それが狂っているか狂っていないかなどという問いは、あまり意味をなさないのかもしれ
ない。
幻想郷だからこそ、こんな事が起こりえる。
幻想郷だからこそ、幻想の住人らしい悩みがある。
人も妖怪も不死も半獣も皆苦行と幸福に懊悩し、愛に笑い別れに悲しみ、生きて行く。
生きるとは何と素晴らしい事か。愛するとは何と美しい事か。
それだけの思い出を持っての永遠の旅路は、なかなか悪いものでもないかもしれない。
「それじゃあ、またね、慧音」
「迷惑をかけたわ。何かあれば、何時でも永遠亭に来て頂戴」
「あぁ。勿論。ね、もこたん?」
「なあにけーね?」
「もーこたん♪」
「けーね♪」
「うおっほん。やっぱ恥ずかしいからなしだな。二人とも、大事……はないな。では、また」
「いいじゃんいいじゃん……ぐすっ……けーねぇぇ」
二人は上白沢家を離れ、青空へと飛び去って行く。
「永遠の姫と不変の薬師。なんとも、お似合いではないか」
―――出来るのならば、二人に永遠の幸せを。
―――出来ないのならば、一瞬一瞬を大切に生きた時代の、永遠の幸せの記憶を。
「私ね、永琳」
「はい?」
「寺子屋の幼年部を受け持とうと思うの」
「――――――――――えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッッッ!!!???」
「えへ♪」
青空に、薬師の悲鳴が木霊する。
永琳の苦悩は、まだまだ続きそうだ。
了
発狂する永遠
永遠の苦行。不死の幸福。半獣の懊悩。
永遠亭精神衛生悪化阻止失敗
の最終章となっております。
前回までのあらすじ。
蓬莱人とは何か。何故二人は殺し合うのか。疑問と嫉妬を携えた慧音は、永遠亭へと赴きその
真意を蓬莱山輝夜より聞く事となる。人間程度の精神で人間を凌駕する時を重ねると如何なる
弊害を齎すのか。それは慧音も理解しえる範囲の事実であったが、また新たな疑問が生まれる。
それは同居人たる妹紅が正常な精神を持っているかどうか、であった。
しかし慧音は例え妹紅が狂っていようと、それはそれで受け止めようと決意する。
一方で輝夜は、この誰も理解しえぬ精神構造をもった蓬莱人を懸命に理解しようとする慧音に
引かれ、妹紅から慧音を奪ってしまおうと画策し、無理やり慧音に同居を迫る。
永遠の暇を持て余す存在。その咎人たるバケモノを受け止めようとする慧音に、輝夜は己の抱
く心の内を打ち明ける。
永遠を過ごす人間の憂いを悟った慧音は、輝夜の同居を許可する事になる。
永遠亭から輝夜が居なくなり数日。
八意永琳は自分の感情に悩んでいた。たった数日輝夜が居なくなっただけで、真っ当ではいら
れなかったのだ。
鈴仙に指摘され、悩んだ挙句上白沢家にお邪魔する輝夜へと逢いに行くが、そこには自分が忘
れていた笑顔を携え子供達とはしゃぐ輝夜の姿が。失意のままに永琳は永遠亭へと戻る事とな
る。日を増して酷くなる永琳の情緒不安定。何故自分にはあの笑顔を向けてくれないのかと悩
みに悩み尽くすが、それを見かねた鈴仙が輝夜を連れ戻すと言い出す。
制止も聞かず飛び出す鈴仙だったが、大した意味も無く。
鈴仙が居なくなった永遠亭で、永琳は過去を振り返る。何故笑顔も見せてくれないのか。
それは、自分が輝夜に対して長い間、愛も語らずにいた所為だという事実だった。
あらすじを大体把握した上で、取敢えずコイツで暇でも潰してやるぜふひひ、という方はどう
ぞ一読ください。
この先陸に上げられたナマコの速度で富士登山程度の距離
↓
『もし私を連れ出したいのならば、難題をこなさなくてはいけないわ。かぐや姫からの難題が
こなせないのならば、私はここから動く事は無い。知っているわね、鈴仙?』
永遠からの難題は五つ。これ全てを一人が突破しなければならない。
鈴仙は―――内容を聞いて即座に無理と判断した。
天狗の扇子。
吸血鬼の爪。
九尾狐の尾の毛。
これを取得後、更に二つ与えられるという。
鈴仙一人では、不可能に近い。人に負けぬ程度の能力は携えてはいるが、それをたった一日で
やり遂げられるか、といえば無理難題にも程がある。馴れ合って貸して貰う、もしくは失敬す
ると言う手立ては即座に封じられた。弾幕で、実力行使で奪えというのだ。
何もかかっていない戦いならいざ知らず、奪うとなれば相手も手加減はあるまい。
鈴仙には絶対に無理。輝夜は帰る気がないのか……と思われたが、後の一言が全ての答えを出
してくれた。
『出来ないのならば仕方がないわ。永琳にでもその過酷さを伝えて、泣き寝入りすればいい』
……遠回しに、永琳に課題を課したのである。
鈴仙はそれを受け、すぐさま永遠亭に舞い戻った。
鈴仙の心情は複雑である。これでは自分があまりにも役立たずではないだろうか。師匠の為と
永遠亭を出て、課題を持って帰ってくる。ガキの使いではないのだ……が。
元より、輝夜が鈴仙に連れ戻される事を望んでいない。自分が首を突っ込んでも仕方がない事
象なのだ。
永琳と輝夜。
どうやら、鈴仙はそこに入る隙間がないらしい。
しかし、鈴仙は期待してしまう。永遠の間があるのならば、その永琳の須臾の歴史に、一時で
も入り込めたのなら、と。
さもしい下心ではあるが、何せ相手は人外だ。そのぐらい許容してもらえるに、違いない。
もっと悲しい言い方をすれば、自分はその程度でしかきっと無いのだ。
「……との、事です。師匠」
「ありがとう。そう、姫は難題を課したのね……」
「スミマセン……何も出来なくて」
「いいのよ、うどんげ。貴女は何も気を病む必要なんてないわ。元より貴女に課したモノでは
ないし、誰も咎めないもの」
「でも……」
思わず鈴仙の瞳に涙が滲む。全て何もかも、輝夜が悪いとしても、やはり悔しい。
永琳を目の前にして、自分の卑しい心が晒された気がする。
「姫は意地悪ね。鈴仙、わざとよ、これ」
「えっ……?」
「貴女が……ほら、私に近いから。やきもちやいてるのよ」
「あっ……うぅぅ……」
「はいはい泣かない泣かない。じゃあ私は行くわ。家をお願いね、鈴仙」
「……」
「―――愛しく思っているわ。家族としての意味合いが強いけれど、貴女のこと」
「……師匠」
「じゃあね」
永琳が月夜に飛び立つ。
制限時間は今から明日の今まで。
上白沢家に居る人間が、下らない話に花を咲かせている間に、永琳は闘う。月のお姫様のワガ
ママを叶える為に。
八意永琳に武運を。
巻き込まれるかませ犬達に、協力への感謝を。
「なんか……ひっさびさに燃えて来たわ」
1 蓬莱山輝夜
こんな時間も須臾の間。永遠の姫からすれば、全てはハリボテのカキワリ。されど想うのは、
この須臾の間こそ永遠の糧である、という真実。
逃げられない現実は、幻想郷にありながらにして迫り来る現実。全ては我が為に。全ては我が
望む未来の永遠の為に。気が狂う退屈を凌ぐ為の礎として。糧として。
悲しくない。辛くも何とも無い。ただ暇なのだ。
永遠とは、終わらない退屈である―――。
「……」
鈴仙の悲しそうにする顔が頭から離れない。普段ならばイナバと一括りにしたペットに過ぎな
い存在であるのに、あの真っ赤な目だけが離れないのだ。
師匠が師匠がと喚く鈴仙に苛立ちを覚えた事は確かだ。お前に永琳の何がわかる。お前に私の
何がわかるのか。どうでもいいとあしらうだけの余裕は常に持っていた筈であるのに、それが
酷く気になって仕方がなかった。
もう狂って久しいにも関わらず、自分は何故こんな些細な嫉妬に燃えているのか。
「姫様、お腹痛いんですか?」
「え? あ、あぁそうね。姫様は少し体調が優れないから、貴方達で勝手に遊びなさいな」
「姫様からのお達しだぁぁぁぁ!!! 貴様等良くきけえぇぇぇ!! 我々はこれより例えこ
の身砕けようとも姫様の命に従い!! 勝手に遊ぶ!! わかったかぁあ!!」
「おぉぉぉぉ!!!」
「作戦行動時間は今から五時間後までとする!! 倒れたものは置いてゆけ!! 戦場は常に
前にあり!! 行くぞォォォッォ!!!」
「うぉぉぉぉっぉっ!!!!」
派手な号令と共に、子供達が広場へと散っていった。
輝夜は少しカリスマを出しすぎたと後悔し、また物思いに耽る。
陽が大分高くなり始める頃、輝夜は木陰にひっそりと座り込み、子供達を眺める。自分にはあ
んな過去があっただろうかと思い返し、ただの一ページも記録されていない事を再確認する。
愛も恋も想い出も全部仕舞われた心の内は、意外なほどに空虚であった。
これでは、身を失い、精神だけとなって永遠を彷徨ったならば、きっと暇で気が参ってしまう。
それだけ、思い出がない。
あるものといえば……大半が永琳との記録だ。
何の為に人の身で千年以上生きているのやら。自分に呆れ返る。
―――だからこそ、だろうか。
師匠師匠と永琳を気にかける鈴仙が、少しだけ羨ましかったのは。
永琳しかいないからこそ、自分は鈴仙に嫉妬した。
長い目で見ればそれは一瞬。けれど、その一瞬を奪われるのも、癪である。
姫様は傍若無人でワガママであるから。
「今日は皆と遊ばないのか?」
輝夜の隣りに慧音が腰掛けた。慧音の顔は……何か、悟ったようなものがある。
「何よ慧音。解っていて聞いているの?」
「当然」
「……貴女って、なかなか侮れないわよね。最初はもっと純粋なヒトかと思っていたのに」
「それはどうか知らんが、ヒトガタの生物をやって、短くはないからな」
「……」
「……一つ、いいか?」
「何かしら?」
慧音は小首を傾げ、俯く輝夜の顔を覗き込む。
「悩んで、どうにかなる事なのか?」
「そ、それを言われると痛いわ。ふん、いいですよ。どうせ悩んでも永遠かわりませんよーだ」
「そう子供になるな。お前は、永遠なのだろう。なれは今の悩みも須臾の間だ」
「……えぇ」
「ならば良かったではないか。また未来に来る永遠の暇を潰す悩みが、増えたのだから」
「その発想はなかったわ。貴女、大分理解しているじゃない」
「……最近、やっと解ったんだ」
慧音は芝生に横になり、木陰から、突き抜ける青空を眺めて見やる。
何か、満足げな表情で。
「お前は狂ってなんかいなかった。拍子抜けだぞ、輝夜」
「何が言いたいの?」
「妹紅と一緒にしても、なかなかに大人しくしているし、思った以上に常識が通じる。最初は
どうなる事かと肝を冷やされたが……お前は人並みに配慮するし、人並みに悩む。それならば、
だ。それならば、お前はただ長生きなだけで、人と何処が変わろうか?」
「……そう」
「―――問題は、むしろお前より妹紅だ」
「えっ?」
その言葉に、思わず顔を上げて慧音に目をやる。慧音は一瞬だけ満足そうな顔が消えたが……
それも直ぐに戻る。
「お前は永遠であると諦めがついている。無駄な事を無駄だと解りこなしている。これも一つ
の思い出になるのならばと、全ての諦観の中に、意味を持って無意味としている。けれど妹紅
は違う。あれはただ不死なだけ。気が狂う痛みを楽しそうに笑い、お前との殺し合いも楽しそ
うに笑い、お前が私に引っ付こうものなら、それも殺してやると楽しそうに笑う……これが正
常とは、私にはとても思えない。気が狂っていると表すのならば、むしろ妹紅だ」
「それはただ、私に嫉妬しているだけで……」
「嫉妬で殺害か。愛が重いな……ならば」
「?」
「全てを諦めて、物事を気楽に見ているお前に流れてみようか?」
「……あら、本当?」
「……」
「……」
「ぷっ」
「あはははははっ!!!」
子供達の喧騒の中に、二人の笑い声が混じる。
よほどおかしかったのか、その可憐な笑い声は、次第に苦しいものになっていった。
輝夜は……本当におかしそうに笑っている。永遠も何も関係なく、ただ容姿相応の少女のよう
に、笑っている。
慧音はそれがまたおかしかったのか、更につられて笑う。こんなにも美しい顔が涙目になりな
がら笑う様が、面白くて仕方が無かったのかもしれない。
「ふふ、あははっ!! け、慧音ったらっ……もこたん大大大好きなくせにっ! あははっ」
「ふぅ……ふふ、ふ、あはっ……はぁ……。つくづく、私も可笑しい奴だ」
「いいわね妹紅は、本当に、本当に羨ましい。なんて理解者なのかしら。本当に……羨ましい
わ。慧音、貴女は本当にすばらしい”人間”ね」
「違う、違うよ輝夜。理解なんていらない。もしそうならば、ここにいる子供達もまた、良き
理解者であるに違いない。忘れたか輝夜、私は半獣だ」
「はぁ……はぁ……う、うん。えぇ。そうね。ふぅ……」
「私は人と妖怪の間。人の目から見て、私とお前の間になんの違いがあろうか。輝夜、幻想郷
は、もっと懐が深い。理解なんていらない。それは居るし、あるし、当然なんだ」
「恐れ多くも輝夜姫様ぁぁぁ!! 鬼ごっこに混ざっては、いただけませんでしょーかぁぁ!」
「私は、歴史を教えている。お前達が須臾と呼ぶ間の歴史を。たった数十年しか生きられぬ人間
に、人間なんたるか、妖怪なんたるかを学ばせている。それはきっと、お前がここで生きて行く
のにもきっと助けになると思うのだ。もっと人間が妖怪を理解し、もっと打ち解けた頃には……
今以上に共存共和が成り立った、すばらしい幻想郷になるに違いない。その時に生きる歴史たる
私やお前がいれば……お前も私も、きっと良い思い出を持って行ける」
「―――け、慧音……?」
輝夜の笑いは止まり、その視線は慧音一点に向けられた。
自分では思いつかない、自分しか考えていない人間にはとても及ばぬ考えを持つ慧音に、輝夜は
素直に尊敬の念を抱く。
もっと良い幻想郷になれば、もっと良い想い出をもって行ける。
それは勿論輝夜の利に適う話であり……喜ばしい事実だ。
「永琳ももっと人里に降りてくれば良いのに。その時は是非、お前が連れてきてくれ」
「……永琳は……」
永琳という単語に、過敏に反応してしまう。すっかり忘れ去っていたが、現在進行形の問題だ。
当然、全て何もかも、端から端に到るまで自分が悪いのだが……。
慧音は、解っているように、それについて言及する。
「自分の心の隙間を埋めるには永琳を。自分の思い出の隙間を埋めるには人間達との他愛ない歴
史を。どうだろうか」
慧音は……輝夜が思っている以上に、輝夜の事を考えていた。蓬莱人を、理解していた。
全て、何もかも、この世の事象がハリボテのカキワリ。
されど求めるのは思い出。決して消える事のない、永遠の記録。
このハクタクの少女は……そんな途方も無い考えを、理解してくれている。
今更泣いたりなんてしない。涙なんて遠の昔忘れ去った。
今更手放しで喜んだりはしない。感動など遠の昔に置いてきた。
けれど、だけれども。ただ、ただ今だけならば良いのかもしれない。
忘れ去った涙を思い出し。置いてきた感動を取りに戻っても、いいのかもしれない。
この少女は……本当に、いい子だ。
「慧音……有難う。本当に。感謝、するわ」
「か、輝夜?」
「あは、あははははっ!! そうね、そうよね。うん!」
「なんだかテンションが高いな。そんなに私の言葉が身に染みたか?」
「馬鹿ね、そうに決まってるじゃない。ふふ、さぁ」
「?」
「私はこれからあの子達と”歴史を作って”くるわ」
「―――あぁ、遊んでこい」
「慧音」
「なんだ?」
「―――有難う。もうなくなって久しいものだけど、心から、有難う」
「うぉぉぉぉぉぉ!!! 姫様現る!! 全員戦闘配置につけぇぇぇぇ!!!」
「打ち滅ぼすぞこの下衆共が♪」
「わぁぁぁっ!! 与太郎が捕まったぞぉぉぉぉっ!!」
「幻想郷のおわりじゃあぁぁっ」
「大げさよ」
「あいたっ」
慧得は、そんなかぐや姫を遠目で見つめ、思わず笑みを溢す。
これでいいのだ。自分に出来る善行など、この程度。
しかしこの程度の善行で蓬莱人を、永遠を少しでも楽にしてやれるのならば。
自分という仲介人も、なかなかに悪いものではない。
「かぐや姫のカリスマ復活。永遠亭には、悪い事をしたな」
今日も幻想郷は平和である。
慧音が言うのだ。間違いあるまい。
「さぁて次は……」
慧音は立ち上がり、子供達と戯れる輝夜に一瞥すると、空へと飛び上がった。
蓬莱山輝夜はもう大丈夫。
しかしもう一人いるのだ。厄介な厄介な、一番大好きで―――狂った、蓬莱人が。
2 藤原妹紅
自分を何のどう、と思った事は一度や二度では済まない。輝夜の残していった薬を服用してか
らと言うもの、命の軽さが際立って仕方が無かった。それは自分に限らず、その他に対しても。
何せ自分からすればアッと言う間に一般的な生物は死滅する。なれば、今死ぬのと後で死ぬの、
一体どれだけの違いがあるのか。
答えは誰からも齎される事はなく、また自分でもその答えは出せなかった。
自分は一体何の為に生きているのか。憂いを抱いた所で死ねる訳もないのだが、悪い事に時間
だけは有り余っている。ぼうっと百年生きていて、その間寿命で何人もが死ぬであろうと解っ
て居ても、どれだけ時間を無駄にしても、時間がある。
その百年には数多の人間の歴史。世界が激変する出来事だってあったに違いない。
けれど自分は何も変わらない。
ただ、少女の姿のまま。精神ばかりが老け込んで、命の価値はどんどん下がる。
誰を想う訳でなく、何かに固執する訳でもなく。
最初は不比等という父の仇を取る為に躍起になっていた。けれど時間は流れ世代は変わり全て
が流されて行く。時もモノも歴史も全てが経年劣化して行く。
だが、自分は変わらない。
何一つ、変わらない。変わるのは心持ちだけ。その分、価値観は更に腐れて行く。
ヒトの世を傍観しながら、日々生きる場所を変えながら。
変化のある、退屈のしない、答えを出してくれるだけの価値がある場所を求めて、彷徨った。
―――そして、とうとう見つけたのだ。
そこは蓬莱の地であった。
そこには自分を許容してくれるだけの全てが存在していた。誰が何年生きていようと気にしな
い。どこで何をしてようとお構いはしない。
そして当初の目的であった、父の仇も見つけた。
しかも、ソイツは死なないのだ。
何度も殺し何度も殺され、何度も殺し殺され殺し殺され殺し殺され殺し殺され。
ソイツは黄泉返り、自分も蘇る。
何とすばらしい事か。ここには求めた全てがあった。幻想郷という名の桃源郷。
気が狂っていようと何であろうと構いはしない。暇で暇で暇で暇で仕方が無かったのだから。
その暇を、今は蓬莱山輝夜という永遠のバケモノが許容してくれる。
そして、通常の生活をも、上白沢慧音という少女が包容してくれる。
嬉しくて嬉しくて、久々に忘れていた涙が零れた。自分は生きていける。幻想郷が消滅し、地
球が滅びるまで生きて行ける。
大嫌いな大馬鹿者と、大好きな恩人と共に、この世が消え失せるまで、幸せに生きて行けるの
だ。
―――ここは、蓬莱の地に違いない。
神様など信じていない。信じていないが、もしその神様が今の安住を約束してくれていたのな
らば、自分はそれを木彫りの像にして毎日崇めたっていい。
それほどまでに、嬉しかったのだから。
「少し、遅れたか」
「何。何でもないよそんな時間。私はルーズだからさ」
隣りに、一番愛しい少女が現れる。知識の半獣。上白沢慧音。
妹紅は……今はこの少女の為だけに存在する。この少女が求めている限りはずっと一緒に暮ら
して行こうと決めている。
容姿も性格も、仕草も声も、何もかもが愛おしい。自分を諌めるだけの理性がまだ残っていて
良かったと何度安堵したか解らない。そうでなければ―――愛しさのあまりに、思わず殺して
しまいそうになる。
慧音の肉が弾けて飛ぶ程に抱きしめてしまいたい。慧音の声が潰れる程に愛していると言って
貰いたい。慧音が消えて失せる程に、愛し合いたい。
ここまで来ると……自分が狂っていると自覚出来る。
妹紅はそんな自分の本能に恐怖する。自分が藤原妹紅で居られるか、心配になるのだ。
何時の日にか本物のバケモノになってしまわないだろうか。本当の意味で気が違えてしまった
自分を、慧音が愛してくれるとは思えない。
だから恐い。妹紅は自分が恐いのだ。
こんな桃源郷にありながら―――桃源郷からも弾かれてしまわないか、心配でならない。
「最近はずっと輝夜が居たから……二人きりには、なれなかったものな」
「慧音……」
この愛を、どう言葉で表現してよいものかと詰まり、結局身体で表す事になる。
人の来ない、湖の辺でもやはり慧音は恥ずかしそうに身をよじった。
「アイツがいたもんだから……最近こうしてないなって」
「も、妹紅……ひ、人がきたら、その、恥ずかしいから……」
「今は、今はもう少しだけ……もう少しだけでいいから……」
自分が壊れている。狂っている。今後も何時本当に狂ってしまうのかは心配だ。
そして何より一番心配なのは―――この最愛の人が奪われてしまうかもしれない、という事だ。
輝夜を憎らしいとは常に思っていたものの、一度決めたものを覆す程無粋ではない。一応理性
という名の怪しげな機能は持ち合わせている。
だがしかし、輝夜は些かばかり強烈すぎる。何もかもが、自分の一つ二つ上を行くのだ。
自分はただ不死なだけだが、あれは違う。死のうが生まれ変わり、永遠と須臾という時間を扱
う、人外以上の人外。
きっと普段から手加減はされているのだと思う。
でなければ殴り合いが始まった瞬間から妹紅は消し炭だ。
それに存在そのものが強い。その存在感たるや、妹紅などトテモではないが並んでは立てない
程に。故に恐ろしい。解っていても、本当に慧音が取られてしまうのではないかと。
「妹紅、い、痛い」
「ご、ごめん……」
感極まった所為か、強く抱きしめすぎた。
思わず、慧音を抱き潰す瞬間を幻視してしまう。
……。
たった数日で八意永琳が情緒不安定になってしまった事を踏まえて考えると、蓬莱山輝夜とい
う存在の威厳やその超越的なカリスマは揺ぎ無い事が伺える。
たった数日同居しただけで、妹紅は酷い不信感を抱かされていた。勿論輝夜自身そんなつもり
はなく、むしろ愛しくも思っているのだが、妹紅からすればその輝夜の感覚は通用しない。
同居の要請は輝夜から齎されたもので、それを否定する事は遠回しに慧音への不信感に繋がっ
てしまうと思ったが故に否定出来なかったが……妹紅は後悔した。
だから、救いが欲しかったのだ。
わざわざ慧音をこんな場所に呼びつけたのも他ではない。
自分を今後も藤原妹紅として見てくれるか、確認したかったのだ。
こんなもの何時でも聞けばいい。そのように何の素振りも見せず三人で暮らしていた事が今と
なっては恐ろしい過去だ。
そしてこれからも、もし輝夜が居続けるとなれば……。
妹紅は想像するだけで身震いする。
「妹紅、大丈夫だから、大丈夫だから、な?」
「慧音……」
「全く思うのだが……私はつくづく、先生なのだと思う」
「……え?」
妹紅の恐怖心とは打って変って、慧音といえば……涼しいものだ。しかし逆にその涼しげな表
情が不安になる。
「何せ、蓬莱人二人にまで諭してやるほどおせっかいなのだから。これは永遠の力を少しでも
受け取った者の副作用か何かか? 二人とも何でも悲観的すぎる。あの蓬莱山輝夜が落ち込む
素振りを見せたときは、流石に地球も終わりかと思ったが、妹紅を見る限りどうやらみんな同
じのようだな……まったく」
「あの輝夜が悲観的? 馬鹿な、あの生きる楽天が?」
「私は、安心した。二人とも、人間らしいじゃないか。思い悩んでこそ人生だと思うのは私ば
かりだろうか?」
「違う、と思うけど……うん。それはあると思う」
慧音が何を言いたいのか解らない。妹紅は一端慧音から離れて、恥ずかしそうに俯く。
コレだけ長い間生きていて、人の考えも解らないとは、と。奇しくも蓬莱山輝夜と同じような
思考であるらしい。犬猿なのも頷ける。二人は同族嫌悪の類だ。
「輝夜は、お前とは違って永遠。あの永遠からすると、私もお前も有限で、羨ましい存在なの
だそうだ。死んでも死なない、何もかもが滅びても存在し続ける。故に、暇なのだそうだ」
「……」
「暇で暇で仕方が無くて、だからこそ、その暇を潰す為に新しい何かを見つけて、思い出を作
りたい。輝夜はそう言っていた。だから私もそれに答えてやれればと、同居を許可した」
「輝夜が……?」
「ある意味ではお前よりよっぽど正常だ。妹紅は、輝夜が恐かったのか?」
「……恥ずかしい話だけど……本当に慧音が取られちゃうんじゃないかって思って」
妹紅が沈み込む。そんな話をしに呼んだのではあるが、やはり気恥ずかしい。己の弱い部分を
晒して今更悲しくなる自分も嫌だった。
「アレは、一瞬一瞬を大事に生きる、といった。今日を大事にせぬ者が未来を大事になど出来
ない、という意味合いだろうが。輝夜はな、永遠故に、有限である私達を、よほど愛しく思っ
ているらしい。ではお前はどうだろう?」
「私は……慧音、私は……」
先ほどの思考と質問が重なる。
低下して行く価値観。低下して行く命の価値。長く生きれば生きる程に全てが安価で詰まらな
いものになって行く、不道徳な感覚。
輝夜がそこまで立派な思想を有していたなど、とてもではないが妹紅には想像がつかなかった。
自分はどうだろうか……?
このまま生きていて……終いには慧音の命すらも軽んじてしまったりはしないだろうか。
生きとし生けるものに、敬意を払えて行けるだろうか。
このまま狂わず……理性を保って、慧音と死ぬまで一緒に生きて行けるだろうか―――。
妹紅は、顔を上げて、改めて慧音を見つめ直す。
「妹紅―――?」
「あっ……」
何をどうしたら。
どこをどう弄ったら。
一体どんな事があったら。
―――こんなにも愛おしい少女を―――傷つける事が出来るだろうか?
「慧音……私は……」
「いい、構わないよ妹紅」
湖面漂う、緑生い茂る辺で二人は優しく抱きしめあう。
「お前が狂ってしまおうと、私は愛している。命の価値が幾ら下がってしまって、何もかもが
軽薄で安価な物体に見えるようになっても……お前に殺されるならば、本望だ……」
「慧音……慧音……大丈夫だから……絶対、絶対傷つけたりしないから……私は、今やっと答
えを見つけたんだ……この楽園で、やっと、やっと……長い間求めてきた、答えを見つけたか
ら……輝夜のお陰って言うのが憎らしいけれど……でも、大丈夫だから……」
悲しくて嬉しくて、感情が高ぶってしまう。
なんていい人を見つけたんだろう。
なんて素晴らしい人を見つけたんだろう。
なんて素敵な人がいる場所なんだろう。
ああそうか。
ここが、蓬莱の地に、違いない―――。
「本当に……世話が焼けるなお前は……本当に、大好きだ」
妹紅は、久しぶりに声を出して泣いた。
3 八意永琳
レミリアスカーレットは語る。
『あの目は恋する乙女の目。私の事を小娘扱いした癖に、なんていい顔するのかしら』
永琳は思うのだ。愛とは何と素晴らしいものかと。
目標を目の前にするこの気持ちは、本当に久しぶりであった。
永遠の中、変わらぬ惰性に身を置いてしまったが故だったのかもしれないが……永琳は忘れて
いた。
自分がどれだけ蓬莱山輝夜を愛していたか。自分がどれだけ蓬莱山輝夜に愛を語らったか。
永遠姫の永遠従者が、一体今まで何をもってして調子に乗っていたのか。
惰性に任せると碌な事はない。愛は冷めて煮ても焼いても美味しくなどない。
何故自分からまた新しく作ろうとしなかったのか。気がつけなかった自分を思い出すだけで恥
ずかしい。
永琳は愛を取り戻す事に必死になった。
それがどれだけ理不尽で迷惑な行為なのかも知っていたが、今更躊躇する相手でもないので本
気で蹴散らしてやった。
迷惑極まりないが、その必死な形相に、やられた人々もまた納得していった。
今永琳は恋をしている。
あの古き良き時代を新たに建設する事を目的とした……如何わしいものであるが、一体誰が批
難出来ようか。そもそも何もかもが理不尽な幻想郷において、それは一つの退屈な日常のエッ
センスとなったのかもしれない。
永琳は思うのだ。嗚呼、ここは蓬莱の地に違いないと。
妹紅の言葉が身に染みる。
「あぁお許しください姫……永琳は間違っておりました……」
何でもハイハイと聞いていればいいというものではない。
時にはキツく言う事も必要だった。例え相手が承知していようと、愛を語るべきだった。
天才八意永琳の胸を締め上げるその愚行になりたった現在を、今解放しようとしているのだ。
「はい、けーね♪ あーん♪」
「か、輝夜……妹紅の目線が痛いからやめて……」
「はい、けーね♪ こっちもあーん♪」
「も、妹紅……無理するな、無理を」
そんな永琳の気持ちを知ってか知らずか、三人はいちゃいちゃしていた。
慧音は思うのだ。ああここは地獄だ。閻魔はどこか、と。
弾け飛ぶ視線攻撃を交わす慧音はもう色々と限界である。美人教師上白沢慧音も、流石に蓬莱
人二人を抱え込むにもいい加減無理が来ていた。
そしてまたしても思うのだ。えーりんえーりん助けて、えーりん、と。
そして―――それは襲来する。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
「あら、えーりんじゃない?」
「嗚呼永琳……やっぱり貴女は天才だ……」
息を切らせた永琳は上白沢家の玄関を通り越し、食卓につく。
その様は正に異様としか表現しようがない。輝夜と妹紅は慧音に縋りつき、息を上げる永琳が
ちゃぶ台に、必死な形相で座り込んでいるのである。
些か地味な展開に一同はキョトンとしてしまったが、永琳だけ超必死である。
「……姫、五つの難題……三つクリアしてまいりましたわ……」
「……あら、まぁ」
「あらまぁじゃないだろ輝夜。お前が出した課題なんだから、さっさと応対したげなよ」
「……そうね。よく来たわね、永琳。自分の愚かさ、身をもって理解したかしら?」
「えぇそれはもう……兎も角……早々に、残りの二つの難題を……」
その鬼気迫る表情は鬼も瓢箪を置いて逃げ出す程だ。きっといっぱいいっぱいなのだ。
「難題は二つ……『不死鳥の羽』と『白澤の智慧』よ」
その言葉に、妹紅と慧音は顔を合わせた。
いつもならば批難轟々一悶着ありそうなものだが、どうやら違うらしい。
「どっちが先が良い? 永琳」
「二人まとめて、かかってきなさい小娘共……」
「おっと、ずいぶんと余裕だ」
「それで良いのなら此方も異論はない。生憎満月ではないが、只では終わらせないぞ、永琳」
「望む、所」
戦いの火蓋は切って落とされた。
愛の深さを数値化してランキング付けしたとしよう。
当然そんなものは不毛なものであり、皆がよってたかって数字の上下に一喜一憂しようとも、
ランキング付けされている人々からすれば、頭に来る事この上ない。
何せこの数値は上下の変動が激しい。一日で下がる者もいれば、七十年続く愛を保ち続ける者
もいるだろう。
愛は不変などではなく、その時々の環境と心持ちによって変化する。
一度一緒になるまでは鰻上りでも、一緒になって暫くすれば下がる。下がっても底辺を這いず
る二人が居る中、愛すらもなくなって消え失せるものもいるだろう。
相手を思いやる気持ちを常に持ち続ける事が、どれだけ大変な事なのか。
長年連れ添った夫婦がどれだけ奇跡的なのか。若い人々には理解しえないものがある。
時には冷め、時には熱し、常に変動が激しいのが、愛だ。
八意永琳の、蓬莱山輝夜の二人を数値化しよう。
当然そんなものは測定不能。何せ人間の理解しえる範疇を超える長さで一緒にいる。
一緒には居たが……しかしこれも数は知れずとも変動はする。
つい最近まで、底辺を這いずり回っていた事は、当人の二人すら否定はしない事実だ。
しかし、そのどちらかが行動に出るとする。ほんの些細な事でもいい、生活に変化を齎したとす
れば、それはまた別の変動を齎す事になるだろう。
例えば、わざと他人の家に泊まり込んで、ヤキモチをやかせてみたり。
些かばかり常人には考え難い発想であるが、蓬莱山輝夜に常識は通じないので考慮しない。
そんな、まずあってはいけないような蓬莱山輝夜の奇行は……見事、功を奏した。
「凱風快晴……フジヤマ、ヴォルケイノッッ!!」
「くっ……」
「永琳、後ろがお留守だ。避けきってみよ……幻想天皇ッ!!」
美しく飛び交う、規律正しい弾幕が、常人では回避不可能な角度から幾層にも重なり迫る。
天才八意永琳とて、もはやブレインで考える暇はない。全て気合で避けてみせる。
右から来る弾群を受け流し、下から迫る弾群を身を捩りスレスレで回避。
正面から迫り来る弾群は……もはや避け様が無い。
「胡蝶夢丸、ナイトメアッ!!」
自弾で打ち消す。同時にそれは反撃となり、二人に襲い掛かり始める。
全ては愛すべき姫の為。
一度愛したのならば、永遠にそれを貫こう。何度でも愛し直そう。
「つらぬけぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!」
あの冷静な永琳が、思わず声を上げた。意志と弾を重ね合わせるように、貫けと。
五つの難題。
個人で打ち破ったモノはそうそう居ない。何せ無理難題なのだ。頭に無理が来る、手厳しい、
非情なる難題。だがそれでも……それが例え無理と付こうと、永琳はやってのける。
やってのけねばならないのだ。
―――愛を貫く為に。
「永琳!! 後ろ!!」
白熱した思考回路に、闇を劈く少女の悲鳴が突き刺さる。
幻想天皇の、相殺しきれなかった弾が永琳を今まさに捉えていた。
寸での所で、身体を無理に捩り何とか回避する。声が無ければ間違いなく被弾確定であった。
妹紅と慧音は、まだナイトメアと格闘している。
危機は勝機となり……永琳は不敵に微笑んだ。
「禁薬……」
「あ、やばっ」
「じ、次弾か!? 無理だ、避けきれんっ」
「『蓬莱の薬』」
夜空は、不死を齎す禁断の術で埋め尽くされた。
「永琳!!」
「輝夜様!! 私は、私は、貴女を愛していますっ!! これからもずっと!! 永遠に!!」
愛するもの愛されるもの、互いに努力を惜しまぬ事が最良であり、それはとても絶佳であろう。
Epilogue
「お世話になったわね、慧音」
快晴の朝。
すっかり身支度を整えた輝夜は、永琳と共に上白沢家を出る。
「また何時でも来るといい。布団は奥に仕舞わず週末には干して置こう」
「二度と来るなアホ姫。ばーかばーか」
「もこたんは本当にヤキモチやきねぇ」
なんとも、晴れ晴れした表情だと、慧音は嬉しくなる。いつもは妹紅といがみ合ってばかりで、
どのように接して良いかも解らなかった相手だったが……数日一緒に暮らしてみれば、何の事
はない。思っていた以上に立派なニンゲンであった。
自分の教授した話も、少しは役に立っているのかもしれないと思うと、尚更だ。
「いい思い出が出来たわ。これで少しは永遠の足しになるかしら?」
「これだけ大事にしておいて、まったく足しになりませんでしたではすまんなぁ」
「まったくだよ」
「ふふ……ねぇえーりん?」
「なんでしょうか?」
「やだ。硬い」
「なに? 輝夜」
「えーりん♪」
「かぐや♪」
「えーりん♪」
「かーぐや♪」
「えーりん! 愛してるっ!」
「あぁかぐやっ! もうどうにでもして!」
「勘弁してほしいものだ」
「……」
「も、妹紅?」
「けーね♪」
「か、勘弁してほしいものだ……」
そんなこんなと……二人の愛はすっかり元通り……いや、元以上になった。
見ていて恥ずかしいほど情熱的である。
蓬莱人とは咎人であるが……重い罪を背負って尚、人間らしい。むしろ背負うべき罪があり、
永遠の苦行を生きてゆかねばならぬからこそ、これだけ人らしい感情を思う存分発揮出来るの
かもしれない。
勿論慧音の推論であるし、答えなどではない。
けれど、慧音が見た限り……不死を往く者達は、皆一様に、人並みに悩み人並みに苦悩してい
る。それが狂っているか狂っていないかなどという問いは、あまり意味をなさないのかもしれ
ない。
幻想郷だからこそ、こんな事が起こりえる。
幻想郷だからこそ、幻想の住人らしい悩みがある。
人も妖怪も不死も半獣も皆苦行と幸福に懊悩し、愛に笑い別れに悲しみ、生きて行く。
生きるとは何と素晴らしい事か。愛するとは何と美しい事か。
それだけの思い出を持っての永遠の旅路は、なかなか悪いものでもないかもしれない。
「それじゃあ、またね、慧音」
「迷惑をかけたわ。何かあれば、何時でも永遠亭に来て頂戴」
「あぁ。勿論。ね、もこたん?」
「なあにけーね?」
「もーこたん♪」
「けーね♪」
「うおっほん。やっぱ恥ずかしいからなしだな。二人とも、大事……はないな。では、また」
「いいじゃんいいじゃん……ぐすっ……けーねぇぇ」
二人は上白沢家を離れ、青空へと飛び去って行く。
「永遠の姫と不変の薬師。なんとも、お似合いではないか」
―――出来るのならば、二人に永遠の幸せを。
―――出来ないのならば、一瞬一瞬を大切に生きた時代の、永遠の幸せの記憶を。
「私ね、永琳」
「はい?」
「寺子屋の幼年部を受け持とうと思うの」
「――――――――――えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッッッ!!!???」
「えへ♪」
青空に、薬師の悲鳴が木霊する。
永琳の苦悩は、まだまだ続きそうだ。
了
もこてる派であった俺を転ばせかねんほどの百合弾幕……。
100では足りぬ。あなたは私をどうしたいのだ……。
面白かったです。
おもしろかった!
あれだな
また凄ぇSS師がやってきたもんだ
その一言に尽きます。
なにか新しい永夜組の姿を見た気がする。
本当に面白かったです!
どうもありがとう
次は冥界ですか~死なない程度に頑張ってください
死ぬ気で遊ぶ子供達ワラタwwww
どうらや永琳の苦労はまだ終わりそうもありませんね。
そんな素晴らしい長編にこの点数。
・恐らく誤字だろうと思われる場所(間違ってたらすみません)
自分の教授した話も、~
↓
自分の享受した話も、~
一人で千点くらい入れたい気分です。
実に良かったです。
更に願うならば、もっと何重にも輪をかけて攻めて来るような作品を見てみたいです。
生とは死とは、人生とは人とは・・・。
色々思考がぐるぐる出来るぐらい面白かった。
良作をありがとうございました。
問題無しにこの点数を付けれます。
ゆっくり休んでから次回作をお願いします。
お疲れ様でした。
カリスマ溢れるぐやたんが見れるとは…GJ!
子供たちに何より笑ったw
次回作は冥界ですか・・・楽しみで仕方がないと言わざるを得ないです。
たいへんおいしゅうございました
次回作もワクテカしながら待ってますよ!
ご評価有難う御座います。本当に有難う御座います。
皆様から頂いたそのお言葉を無駄にせず、東方への愛を綴ってまいりたいと
思う次第であります。
まだまだ拙い部分が多々御座いますが、今後とも宜しくお願いします。
幻想郷はなんて懐が広いんだろうか。
希有なテーマのSSを書ききった俄雨氏に乾盃!
永遠という思いテーマなのにすっきりさっぱりした後味・・・
貴方のファンでよかった!
蓬莱人の内面描写とか興味深く面白かったです。
見事の賛辞と100点以外の送るものがあろうか…!