#「咲夜×妖夢です。毎回言ってる事ですが、認めないと思った瞬間にプラウザで戻る事をお勧めします」
#「今回電波を受信してかなり酷く書いてあるので注意」
最初に灯ったのは憧れであった。
次に灯ったものは尊敬であった。
そして、最後に灯ったのは・・・・・・灯ってはいけない感情であった。
顕界から切り離された筈の世界、冥界。
最近では、顕界と冥界の間にある結界に穴が開いてしまい、出ることも入ることも容易となっている。
冥界に住んでいる半分幽霊、半分人間のハーフと、少し特殊な二刀流剣士である魂魄妖夢は、侵入者の迎撃、主である幽々子の世話、白玉楼の広大な庭の整備等、日々忙しい生活をしていた。
妖夢はそれを苦しいと思った事もなければ、むしろ喜んでその生活を受け入れていた。
この身は主の為に一生あると自身に誓い、自身の剣技は先代の庭師から学んだ唯一の「思い出」であることから、手放そう等と思った事もない。
だが、最近になって妖夢は、自身の心に芽生えたある気持ちに悩まれている。
些細なきっかけであった。幽々子が博麗の神社で行われる宴会に赴くと聞き、ならば私もお供しますと一緒に行ったときの事である。
その宴会は特殊で、人間、妖怪、幽霊、妖精と、幻想郷に住むあらゆる人種が、自身の人種等関係ないかのように皆一様に楽しんでいた。
その中の、一人の人間の女性に妖夢は興味を惹かれたのである。
主を吸血鬼としながらも、あくまで人間として従い、その宴で皆が騒いでるなかも、一部の隙もない従者の鏡。
妖夢が求める従者の頂点と言えたかもしれない。
妖夢はその後も三度幽々子と共に宴に足を運んで、初めてその憧れであった紅魔館のメイド長、十六夜咲夜に話しかけた。
聞けば日々忙しい生活を館でしているときき、私よりもっと忙しそうなのに、それを苦に思わせない笑顔がとても輝かしい物に見えた。
そして四度目の宴、今日も咲夜はきているだろうか?とはしゃぐ心に、受け入れがたい現実と共に、心にひびが入った。
私が急いだせいか、はたまた幽々子様のきまぐれで早く冥界を出たせいか、博麗の神社にすぐに着いた。
そして目的の人物は境内の隅で、紅の吸血鬼ことレミリアと一緒にいたのだ。
声をかけようと近づき、その足が止まる。
妖夢が見た光景は・・・・・・咲夜とレミリアが口付けをしている等という、逢引行為の最中であった。
自分の時が止まったような感覚、はしゃいでいた心は何処かに消え、冷水を浴びせられたかのような喪失感。
レミリアと咲夜が唇を離した所を見て、妖夢の時間はようやく動き出し、踵を返して咲夜に声をかける事もなく、幽々子様の元に戻った。
結局、四度目の宴の中で妖夢は咲夜に話しかけることもなく、早く終わってほしいと願った宴になってしまった。
白玉楼に戻り、時間がどれだけ経とうとも胸にすくっている痛みに妖夢は悩まされ、今に至る。
日々の生活はあまり変わらない、朝は幽々子様より早く起きて朝食を作り、昼は庭の手入れと剣の修行、夜は幽々子様がお眠りになられてから就寝。
生活サイクルは変わっていないが、あの時の光景を思い出し、時折来る胸の痛みにずっと溜息を吐く毎日である。
「私は、結局どうしたいのだろう・・・」
昼の庭の手入れを終え、自身の二刀、楼観剣と白楼剣の手入れをしながら考え込む。
自分のこの気持ちが何なのかもわからない。
誰かに言えば答えが返ってくるのだろうか?
仮に、答えがわかっても私はどうしたいのだろうか?
また溜息を吐いてしまう。妖夢は、それが恋なのだと自分ではわからなかった。
「・・・・・・はぁ」
霧の湖の畔に立っている紅魔館。
この紅魔館のメイド長である咲夜は、日々自身の主であるレミリアスカーレットの為に身を粉にして働いている。
しかし、ある事からレミリアお嬢様のせいで、嫌な気分になってしまっていた。
「どうして・・・」
頭の中に浮かび上がるのは先週の博麗神社で行われた宴での事。
咲夜は心なしか、少し期待があってその宴に主君であるレミリアと共に赴いた。
あの冥界に住んでいる半霊の少女、妖夢と話をしたくて。
前の宴では自分とよく似た境遇や、従者である為の悩みなど色々と従者だからこそ話せる事があり、楽しかった。
だが、あの時、突然境内でレミリアお嬢様に唇を奪われ、妖夢に見られるという「結果」になってしまった。
その後行われた宴では結局何も話さず、期待とはかけ離れた宴になってしまい、咲夜は主であるレミリアに抗議してまで怒りを立ち昇らせた。
そうしたら・・・。
「あら?嫌だったの?」
私の心を見透かすかのように、そんな言葉を投げかけてきた。
嫌だったか?と問われると、別にその口付けの行為自体は嫌ではなかった。ただ時と場所を考えて欲しいと。
「そんなの、私の勝手ではなくて?私が欲しいと思ったときに私に答える・・・咲夜、貴方は´私の物´なのよ?」
ニタリと、その邪のある顔に戦慄したのを今でも心が覚えている。
・・・いゃ、「身体」がと言った方がいいかもしれない。その後、その場で辱められるという主に逆らってはいけないと無理やり教えこまれた。
だが、それが苦しいなどと思わなく、むしろ更にレミリアお嬢様に心惹かれてしまった時点で、私の心はどうかしている。
だが、それでも、あの妖夢が私とレミリアお嬢様の口付けを見て、泣きそうな顔に歪んでいったのを今でも思い出してしまい・・・・・・。
「はぁ・・・・・・」
ため息を、吐くしかなかった。
「・・・・・・」
レミリアは日が落ちようとしている外の景色を見つつ、自室である事を考えていた。
思い浮かべるのはあの半霊の剣士と従者である一人の少女。
あの半霊の剣士が咲夜に気がありそうなのは一目見て看破した。
だからあえて境内でみせつけるように口付け行為をしたというのに・・・・・・。
「つまらないものね・・・」
あの場で立ち向かってきたら遠慮なく潰してあげたのに。
何か進展させられるように出来ないものかと悩む。
´私が´楽しめるような進展の仕方を。
「・・・・・・・・・・・・・・・あ」
一つ、面白い妙案を閃く。
「ふふ・・・そういえば、引きずり込む餌はあるのよね」
自身が思い浮かべる妙案を行動に起こすべく、レミリアは席を立ち、窓から空へと飛翔する。
日は既に、落ちていた。
「ごきげんよう、境界の住人」
とある境界の中で、運命を操る吸血鬼と境界を操る大妖怪が顔を見合わせていた。
「貴方が来るなんて、珍しい事もあるものね」
突然のレミリアスカーレットの来訪に紫はさして驚きはしない。
色々と確約と自分の持ち物を交換する中である。紫の所に来訪するのもこれが初めてというわけでもない。
「それで?わざわざ私の所に足を運んできたのですもの。何かまた面白い事でもするのかしら?」
初めてではない理由というのがそれであった。レミリアが紫の所に来るということは、何か面白い事を紫を共犯に仕立ててまで行う時である。
「面白い事かどうかはなってみないとわからないわ。ただ、少しお願いをね」
レミリアは咲夜と妖夢の事を紫に話す。どう進展させるのかも。
紫はそれを聞き、ニタリと、邪のある顔をした。
「貴方も好きねぇ。自分の従者が持ってかれたらとか思わないのかしら?」
レミリアはそれを同じように邪のある顔をしながら返す。
「私に敵うはずがないものに、もってかれる心配なんてしないわ」
それに、と付け足し。
「咲夜は私を裏切れないわ。そういう風に仕込んだのですもの」
絶対の自信を持って、レミリアはそう言い切った。
「紅魔館におつかい・・・ですか?」
お昼時、庭の手入れをしていたら主である幽々子様からおつかいを言い渡された。
「うん~私というより紫からのお願いなのだけど~」
「あぁ・・・なるほど」
紅魔館にブランデーを取りに行ってほしいと言われた時にピンと来なかったが、紫様なら確かに飲みそうだと納得する。
「・・・・・・・・・あの、幽々子様」
「うん?なぁにぃ~?」
首を傾げるように聞かれ、妖夢はそのおつかいを他の者に任せられないものかと言おうとし・・・。
「・・・・・いぇ、何でもないです」
断ったら幽々子様本人が行きそうだと結論を下し、渋々と承諾した。
行きたくない理由は、咲夜に会った時どんな顔をすればいいのかという不安があるためである。
「いってきます」
「いってらっしゃい~」
外出する身支度をして、幽々子様に見送られながら冥界の外へと出る。
幻想郷は、今日も変わらぬ景色のまま存在していた。
「む」
紅魔館に着き、門前に立っている紅美鈴に会釈をして門を通ろうとする。
「待ちなさい、何のようで屋敷に訪れたのですか?」
話が伝わってないのだろうか。武術の構えをし、妖夢にここを通さないと意思表示をした。
「幽々子様のおつかいで紅魔館のブランデーを取りに来たのだけど・・・」
伝わっていないの?と首を傾げる。
「・・・・・・・・・聞いていないのですが」
少しお待ちをと言い、館の方に走りそのまま消えていった。
数分後、戻ってきた美鈴に確認が取れましたと言われ、招かれるように館に入る。
そのまま客室に案内され、美鈴と代わり、今一番会いたくない人物と会ってしまった。
「・・・こんにちは」
「こんにちは」
ペコリと妖夢が挨拶し、それに返す咲夜。
あの時以来、何も話していなく、何処か気まずい。
第三者である美鈴はその気まずい雰囲気に耐えられず、そそくさと持ち場へと戻る。
「珈琲と紅茶があるけれど、どちらがよろしいかしら?」
何処かいつになく他人行儀に咲夜は言葉を交わしながら客人にもてなす為に茶を用意しようとする。
「・・・・・・・・・どっちでも」
なら紅茶で、とカップに紅茶を注ぐ咲夜。
その仕草一つにも私とは違う敬服の念がこめられ、心が締め付けられる。
何でこんなにも咲夜を見ていると心がズキズキと痛むのだろう。
「どうぞ」
自分の目の前に紅茶が置かれる。
何処か甘い匂いがするそれは、今の私の心を癒してくれるかのような匂いだった。
「レミリアお嬢様が来るまで少しお待ちを」
そう言い、おじぎをしながら客室から出ようとする咲夜。
「あ、あの!」
それを、何故か呼び止めてしまう。
「?なにか?」
振り返り、咲夜は首を傾げる。
「あ、ええと・・・その・・・・・・」
呼び止めたまではいいが、その先が続かない。何か、何か話さねば。
咲夜はしどろもどろする妖夢に咲夜は黙って待つ。
「待たせたかしら?ようこそ、紅魔館へ」
そこに、扉を開けて客室に入ってくる紅魔館の主である、レミリアが妖夢をもてなすように入ってきた。
「大吟醸と交換に渡すように言ってあったはずなのだけど」
妖夢の向かい側のソファーに座り、開口一番にそんな事を言われた。
「・・・私は取って来いとしか聞いてないわ」
そんな事を聞かされていない妖夢にとっては知らぬ話であり、主である幽々子様のお願いを無下に出来るわけもなく、引く気はなかった。
「・・・・・・」
引けぬ意思が見えたのか、レミリアはニヤニヤしながら何故か妖夢を見て。
「仕方ないわね。今回だけは貴方に渡すわ」
ありえない言葉を聞くかのように妖夢と咲夜までもが驚愕した。
「何よ、二人して驚いて」
その反応に少しムッとするのかのように拗ねるレミリア。
「い、いぇ。レミリアお嬢様らしくない譲歩だったものでつい・・・・・・・・・」
当惑しつつも正直な感想を述べる咲夜。
実際のところ咲夜はブランデーをお嬢様は渡さない、妖夢はこのまま引けないという話の展開で平行を辿り、この客間は戦場となるだろうと思っていたぐらいなのだ。
妖夢もまさかこんな簡単に譲ってくれるという話になるとは思わず、腰に差していた白楼剣に手がかかっていた。
「ここで渡さずに客間を汚すようなはめになったら後片付けする咲夜が可哀相っていう配慮もあったのだけど。闘うのだったら遠慮せずに潰してあげるけど」
射抜くように白楼剣に手を添えたままの妖夢を見るレミリア。
「・・・・・・くれるというなら貰うわ。無駄な戦いはしたくないもの」
だが、咲夜が後始末するはめになるのが妖夢は嫌だったために、その条件を受け入れる。
「なら、今度はちゃんと大吟醸を持って来るということで。咲夜、地下の酒蔵に案内してあげなさい。私は少しやる事があるから自室に戻るわ」
それだけ言うとレミリアは席を立ち、自室に戻っていった。
「こっちよ」
妖夢は咲夜に案内される形で地下の酒蔵へと向かう。
案内されている間も別段話す事もなく、黙々と歩き、時折妖精メイドと廊下ですれ違う程度であった。
やがて、廊下の端にある木製の扉を開け、地下へと続く階段を降りる。
「暗いので足元に気をつけて」
明かりがないのか、少し暗いその階段を降りると、今度は色々な模様が施されてある鉄製の扉の前に出た。
「隙間の方が以前、勝手にワインボトルをいくつか拝借したらしくて、入れないように色々と施したのよ」
違和感のある扉をしげしげと眺めていた妖夢に、説明する咲夜。
扉自体に鍵はないのか、咲夜が扉のノブを捻り、中へと入る。
中はほんのりと明かりがあり、樽や横に陳列されているワインボトルでいっぱいだった。
何処か甘い匂いがするその空間に酔いそうになる妖夢。
バタン―――――――――――――――カチリ。
ドアを閉め切って、奥へと進む咲夜の後ろへとついていく。
「・・・これね」
一つのワインボトルを取り、横に備えられてあった黒い袋に入れて妖夢へと手渡す。
「ありがとう」
目的の物が手に入り、来た道を戻り、ドアを開けようとする。
だが、ノブを捻ってもドアが開くことはなかった。
「あ、あれ・・・?」
ガチャガチャとドアノブを捻りながら押したり引いたりしてみるが、開かない。
「どうしたの?」
「ド、ドアが開かなくて・・・」
「え」
妖夢に代わり、咲夜がドアノブを捻るが、開く気配がない。
「・・・・・これは、困ったわね」
少し思案した後、咲夜はスカートの中から銀のナイフをいくつか取りだし。
「・・・ッフ!」
全力でドアの前に何十と放った。
鉄と鉄がぶつかる音がし、ドアの前で刺さる事もなく落ちていくナイフ。
「やっぱり、駄目か」
お手上げのポーズをしながら後ろに下がる咲夜。
「破壊していいのなら、私がやるわ」
隅に渡されたボトルを置き、咲夜と代わる形で白楼剣と楼観剣を抜き、構える。
「ハァーー!!」
気合と共にドアを両断せんと二対の刀を振りぬく。
ガキィーーーン!
だが、傷一つ付かない扉。
「な・・・・・・」
傷さえつけられないその扉に、もう一度、返す刃でぶつける。
「こ・・・の・・・!!」
何度も何度も旋風を巻き起こすかのように斬りつけるが、傷一つつかない。
どれぐらい、扉に向けて斬撃を放っただろうか。
結局傷一つ付かなかったその扉を見て、咲夜と妖夢は酒蔵に閉じ込められたという現実を受け入れた。
静寂がその空間を支配する。妖夢は今更ながらに、密室で二人きりでいる事に緊張が出てきてしまっていた。
横に座る咲夜は何をするでもなく、目の前のワインボトル達に視線を送っている。
その沈黙が、ずっと続くはずもなく。
「・・・ねぇ」
咲夜が、隣にいる妖夢の顔を見ずに声をかける。
「は、はい?」
妖夢は声をかけられただけで動揺が走り、慌てるが、咲夜は気にせずに続ける。
「レミリアお嬢様が来る前に私を呼び止めたけれど・・・あれは何だったの?」
「あ、あれは・・・・・・」
自分でもわからない。あの時、私は何故呼び止めたのか。
「・・・・・・・・・わからないわ」
正直に言う、嘘も何も浮かんでこなかった。
「・・・・・・わからなくて、呼び止めたの?」
「・・・・・・・・・」
言葉が出てこない。折角、二人きりという空間の筈なのに、胸のうちがジクジクと痛む。
「貴方は・・・・・・・・・どうしてあの時悲しい顔をしたの?」
それがどの時を指すのか。
妖夢は、頭の中にあの時の口付けの光景を思い出してしまい、咲夜に顔を向ける。
咲夜は、ただ、何かの痛みをこらえるような顔をして妖夢を見ていた。
「・・・わからないわ・・・ただ・・・・・・・・・貴方を見ていてとても興味がわいて・・・貴方と話していてとても楽しくて・・・・・・」
そこで言葉を切る。
あの時の光景を、あの時の感情を。心の内から言うべく。
「レミリアと貴方が口付けを交合わしているのを見て・・・悲しくなった」
泣く気もなかった。咲夜を困らす気もなかった。
「教えて・・・私のこの気持ちはなんなの?どうして貴方を見ているとこんなに胸が疼くの?どうして貴方が他の誰かの物だとわからされると胸が痛むの?」
ただ、止まらない、この感情をどうにかしてほしい。
「教えて・・・・・・!私のこの気持ちはなんなのよ!」
八つ当たりをする赤子のように喚く妖夢。
そんな妖夢に咲夜は―――
「・・・・・・え?」
そっと妖夢の身体を抱きしめながら咲夜は頭を撫でる。
「それは・・・・・・・・・恋よ」
「恋・・・・・・?」
「ええ・・・・・・・・・貴方は私に恋をしたのよ」
咲夜の声は震えている。まるで自分が泣くわけにはいかないと言わんばかりに。
「けれど、ごめんなさい。私は貴方のその感情に、答える事は出来ない」
「・・・・・・レミリアがいるから?」
答えがわかっていても叶わないその恋を、踏みにじる自分がとても悲しくても。
「・・・・・・・・・えぇ」
それでも、この子の為に、泣いてはいけないのだと。
「私は、レミリアお嬢様の事が好きなのよ。心も、身体も、あの人の為にある」
だけど、と一度言葉を切って、抱き合っていた身体を少し離し、妖夢の顔を見る咲夜。
妖夢の顔は、涙で目が腫れてしまっていた。
「貴方が悲しむ顔を見たくない私もいるのだから、駄目な女ね。私は」
そう言い、咲夜は泣いている妖夢に´口付け´をする。
「ん・・・・・・・・・」
力なくそれを受け入れる妖夢。
「・・・ん、プハ。ここには、貴方と私しかいない」
だから今だけ、貴方を愛してあげる―――――――
後に残るのが悲しみしかないだけだというのに、咲夜はそれを知りつつもこの泣く少女を慰める方法を他に知らなかった。
それが主を裏切る行為だとしても。
私の事は、忘れなさい―――――――
とぼとぼと、冥界に続くまでの帰り道をぼぉーっとしながら帰る妖夢に、咲夜が別れ際に言った言葉を思い出す。
あの後私は口に言えないような愛され方をし、いつまで経っても戻ってこない咲夜と私にしびれを切らしたレミリアに救出される形であの酒蔵を出た。
そして、あの酒蔵を出るときに言われたのだ。忘れろと。ここであった事、私への気持ちを全て忘れろと。
嫌だと言いたかった。
けれど、それを口に出せなかった。
咲夜にも、私にも仕える主人がいて、咲夜も私も、その生活を手放すわけにはいかなかった。
「・・・・・・」
どれだけ過ぎようとも、私はこの気持ちを忘れない。
例え叶わぬ恋だとしても、私は咲夜に恋をしたのだ。
その気持ちを消すなんて事は、出来るわけがない。
空を見上げる。日は既に傾き、空には輝く月が照らされている。
「・・・明日、また紅魔館に行こう」
そして言うんだ。ちゃんと自分の口で。
例え叶わなくても、例え報われなくても、例え、咲夜が困ったとしても。
貴方の事が好きです、と―――――――
妖夢はその気持ちを忘れないように、自分自身にこの時誓った。
#「今回電波を受信してかなり酷く書いてあるので注意」
最初に灯ったのは憧れであった。
次に灯ったものは尊敬であった。
そして、最後に灯ったのは・・・・・・灯ってはいけない感情であった。
顕界から切り離された筈の世界、冥界。
最近では、顕界と冥界の間にある結界に穴が開いてしまい、出ることも入ることも容易となっている。
冥界に住んでいる半分幽霊、半分人間のハーフと、少し特殊な二刀流剣士である魂魄妖夢は、侵入者の迎撃、主である幽々子の世話、白玉楼の広大な庭の整備等、日々忙しい生活をしていた。
妖夢はそれを苦しいと思った事もなければ、むしろ喜んでその生活を受け入れていた。
この身は主の為に一生あると自身に誓い、自身の剣技は先代の庭師から学んだ唯一の「思い出」であることから、手放そう等と思った事もない。
だが、最近になって妖夢は、自身の心に芽生えたある気持ちに悩まれている。
些細なきっかけであった。幽々子が博麗の神社で行われる宴会に赴くと聞き、ならば私もお供しますと一緒に行ったときの事である。
その宴会は特殊で、人間、妖怪、幽霊、妖精と、幻想郷に住むあらゆる人種が、自身の人種等関係ないかのように皆一様に楽しんでいた。
その中の、一人の人間の女性に妖夢は興味を惹かれたのである。
主を吸血鬼としながらも、あくまで人間として従い、その宴で皆が騒いでるなかも、一部の隙もない従者の鏡。
妖夢が求める従者の頂点と言えたかもしれない。
妖夢はその後も三度幽々子と共に宴に足を運んで、初めてその憧れであった紅魔館のメイド長、十六夜咲夜に話しかけた。
聞けば日々忙しい生活を館でしているときき、私よりもっと忙しそうなのに、それを苦に思わせない笑顔がとても輝かしい物に見えた。
そして四度目の宴、今日も咲夜はきているだろうか?とはしゃぐ心に、受け入れがたい現実と共に、心にひびが入った。
私が急いだせいか、はたまた幽々子様のきまぐれで早く冥界を出たせいか、博麗の神社にすぐに着いた。
そして目的の人物は境内の隅で、紅の吸血鬼ことレミリアと一緒にいたのだ。
声をかけようと近づき、その足が止まる。
妖夢が見た光景は・・・・・・咲夜とレミリアが口付けをしている等という、逢引行為の最中であった。
自分の時が止まったような感覚、はしゃいでいた心は何処かに消え、冷水を浴びせられたかのような喪失感。
レミリアと咲夜が唇を離した所を見て、妖夢の時間はようやく動き出し、踵を返して咲夜に声をかける事もなく、幽々子様の元に戻った。
結局、四度目の宴の中で妖夢は咲夜に話しかけることもなく、早く終わってほしいと願った宴になってしまった。
白玉楼に戻り、時間がどれだけ経とうとも胸にすくっている痛みに妖夢は悩まされ、今に至る。
日々の生活はあまり変わらない、朝は幽々子様より早く起きて朝食を作り、昼は庭の手入れと剣の修行、夜は幽々子様がお眠りになられてから就寝。
生活サイクルは変わっていないが、あの時の光景を思い出し、時折来る胸の痛みにずっと溜息を吐く毎日である。
「私は、結局どうしたいのだろう・・・」
昼の庭の手入れを終え、自身の二刀、楼観剣と白楼剣の手入れをしながら考え込む。
自分のこの気持ちが何なのかもわからない。
誰かに言えば答えが返ってくるのだろうか?
仮に、答えがわかっても私はどうしたいのだろうか?
また溜息を吐いてしまう。妖夢は、それが恋なのだと自分ではわからなかった。
「・・・・・・はぁ」
霧の湖の畔に立っている紅魔館。
この紅魔館のメイド長である咲夜は、日々自身の主であるレミリアスカーレットの為に身を粉にして働いている。
しかし、ある事からレミリアお嬢様のせいで、嫌な気分になってしまっていた。
「どうして・・・」
頭の中に浮かび上がるのは先週の博麗神社で行われた宴での事。
咲夜は心なしか、少し期待があってその宴に主君であるレミリアと共に赴いた。
あの冥界に住んでいる半霊の少女、妖夢と話をしたくて。
前の宴では自分とよく似た境遇や、従者である為の悩みなど色々と従者だからこそ話せる事があり、楽しかった。
だが、あの時、突然境内でレミリアお嬢様に唇を奪われ、妖夢に見られるという「結果」になってしまった。
その後行われた宴では結局何も話さず、期待とはかけ離れた宴になってしまい、咲夜は主であるレミリアに抗議してまで怒りを立ち昇らせた。
そうしたら・・・。
「あら?嫌だったの?」
私の心を見透かすかのように、そんな言葉を投げかけてきた。
嫌だったか?と問われると、別にその口付けの行為自体は嫌ではなかった。ただ時と場所を考えて欲しいと。
「そんなの、私の勝手ではなくて?私が欲しいと思ったときに私に答える・・・咲夜、貴方は´私の物´なのよ?」
ニタリと、その邪のある顔に戦慄したのを今でも心が覚えている。
・・・いゃ、「身体」がと言った方がいいかもしれない。その後、その場で辱められるという主に逆らってはいけないと無理やり教えこまれた。
だが、それが苦しいなどと思わなく、むしろ更にレミリアお嬢様に心惹かれてしまった時点で、私の心はどうかしている。
だが、それでも、あの妖夢が私とレミリアお嬢様の口付けを見て、泣きそうな顔に歪んでいったのを今でも思い出してしまい・・・・・・。
「はぁ・・・・・・」
ため息を、吐くしかなかった。
「・・・・・・」
レミリアは日が落ちようとしている外の景色を見つつ、自室である事を考えていた。
思い浮かべるのはあの半霊の剣士と従者である一人の少女。
あの半霊の剣士が咲夜に気がありそうなのは一目見て看破した。
だからあえて境内でみせつけるように口付け行為をしたというのに・・・・・・。
「つまらないものね・・・」
あの場で立ち向かってきたら遠慮なく潰してあげたのに。
何か進展させられるように出来ないものかと悩む。
´私が´楽しめるような進展の仕方を。
「・・・・・・・・・・・・・・・あ」
一つ、面白い妙案を閃く。
「ふふ・・・そういえば、引きずり込む餌はあるのよね」
自身が思い浮かべる妙案を行動に起こすべく、レミリアは席を立ち、窓から空へと飛翔する。
日は既に、落ちていた。
「ごきげんよう、境界の住人」
とある境界の中で、運命を操る吸血鬼と境界を操る大妖怪が顔を見合わせていた。
「貴方が来るなんて、珍しい事もあるものね」
突然のレミリアスカーレットの来訪に紫はさして驚きはしない。
色々と確約と自分の持ち物を交換する中である。紫の所に来訪するのもこれが初めてというわけでもない。
「それで?わざわざ私の所に足を運んできたのですもの。何かまた面白い事でもするのかしら?」
初めてではない理由というのがそれであった。レミリアが紫の所に来るということは、何か面白い事を紫を共犯に仕立ててまで行う時である。
「面白い事かどうかはなってみないとわからないわ。ただ、少しお願いをね」
レミリアは咲夜と妖夢の事を紫に話す。どう進展させるのかも。
紫はそれを聞き、ニタリと、邪のある顔をした。
「貴方も好きねぇ。自分の従者が持ってかれたらとか思わないのかしら?」
レミリアはそれを同じように邪のある顔をしながら返す。
「私に敵うはずがないものに、もってかれる心配なんてしないわ」
それに、と付け足し。
「咲夜は私を裏切れないわ。そういう風に仕込んだのですもの」
絶対の自信を持って、レミリアはそう言い切った。
「紅魔館におつかい・・・ですか?」
お昼時、庭の手入れをしていたら主である幽々子様からおつかいを言い渡された。
「うん~私というより紫からのお願いなのだけど~」
「あぁ・・・なるほど」
紅魔館にブランデーを取りに行ってほしいと言われた時にピンと来なかったが、紫様なら確かに飲みそうだと納得する。
「・・・・・・・・・あの、幽々子様」
「うん?なぁにぃ~?」
首を傾げるように聞かれ、妖夢はそのおつかいを他の者に任せられないものかと言おうとし・・・。
「・・・・・いぇ、何でもないです」
断ったら幽々子様本人が行きそうだと結論を下し、渋々と承諾した。
行きたくない理由は、咲夜に会った時どんな顔をすればいいのかという不安があるためである。
「いってきます」
「いってらっしゃい~」
外出する身支度をして、幽々子様に見送られながら冥界の外へと出る。
幻想郷は、今日も変わらぬ景色のまま存在していた。
「む」
紅魔館に着き、門前に立っている紅美鈴に会釈をして門を通ろうとする。
「待ちなさい、何のようで屋敷に訪れたのですか?」
話が伝わってないのだろうか。武術の構えをし、妖夢にここを通さないと意思表示をした。
「幽々子様のおつかいで紅魔館のブランデーを取りに来たのだけど・・・」
伝わっていないの?と首を傾げる。
「・・・・・・・・・聞いていないのですが」
少しお待ちをと言い、館の方に走りそのまま消えていった。
数分後、戻ってきた美鈴に確認が取れましたと言われ、招かれるように館に入る。
そのまま客室に案内され、美鈴と代わり、今一番会いたくない人物と会ってしまった。
「・・・こんにちは」
「こんにちは」
ペコリと妖夢が挨拶し、それに返す咲夜。
あの時以来、何も話していなく、何処か気まずい。
第三者である美鈴はその気まずい雰囲気に耐えられず、そそくさと持ち場へと戻る。
「珈琲と紅茶があるけれど、どちらがよろしいかしら?」
何処かいつになく他人行儀に咲夜は言葉を交わしながら客人にもてなす為に茶を用意しようとする。
「・・・・・・・・・どっちでも」
なら紅茶で、とカップに紅茶を注ぐ咲夜。
その仕草一つにも私とは違う敬服の念がこめられ、心が締め付けられる。
何でこんなにも咲夜を見ていると心がズキズキと痛むのだろう。
「どうぞ」
自分の目の前に紅茶が置かれる。
何処か甘い匂いがするそれは、今の私の心を癒してくれるかのような匂いだった。
「レミリアお嬢様が来るまで少しお待ちを」
そう言い、おじぎをしながら客室から出ようとする咲夜。
「あ、あの!」
それを、何故か呼び止めてしまう。
「?なにか?」
振り返り、咲夜は首を傾げる。
「あ、ええと・・・その・・・・・・」
呼び止めたまではいいが、その先が続かない。何か、何か話さねば。
咲夜はしどろもどろする妖夢に咲夜は黙って待つ。
「待たせたかしら?ようこそ、紅魔館へ」
そこに、扉を開けて客室に入ってくる紅魔館の主である、レミリアが妖夢をもてなすように入ってきた。
「大吟醸と交換に渡すように言ってあったはずなのだけど」
妖夢の向かい側のソファーに座り、開口一番にそんな事を言われた。
「・・・私は取って来いとしか聞いてないわ」
そんな事を聞かされていない妖夢にとっては知らぬ話であり、主である幽々子様のお願いを無下に出来るわけもなく、引く気はなかった。
「・・・・・・」
引けぬ意思が見えたのか、レミリアはニヤニヤしながら何故か妖夢を見て。
「仕方ないわね。今回だけは貴方に渡すわ」
ありえない言葉を聞くかのように妖夢と咲夜までもが驚愕した。
「何よ、二人して驚いて」
その反応に少しムッとするのかのように拗ねるレミリア。
「い、いぇ。レミリアお嬢様らしくない譲歩だったものでつい・・・・・・・・・」
当惑しつつも正直な感想を述べる咲夜。
実際のところ咲夜はブランデーをお嬢様は渡さない、妖夢はこのまま引けないという話の展開で平行を辿り、この客間は戦場となるだろうと思っていたぐらいなのだ。
妖夢もまさかこんな簡単に譲ってくれるという話になるとは思わず、腰に差していた白楼剣に手がかかっていた。
「ここで渡さずに客間を汚すようなはめになったら後片付けする咲夜が可哀相っていう配慮もあったのだけど。闘うのだったら遠慮せずに潰してあげるけど」
射抜くように白楼剣に手を添えたままの妖夢を見るレミリア。
「・・・・・・くれるというなら貰うわ。無駄な戦いはしたくないもの」
だが、咲夜が後始末するはめになるのが妖夢は嫌だったために、その条件を受け入れる。
「なら、今度はちゃんと大吟醸を持って来るということで。咲夜、地下の酒蔵に案内してあげなさい。私は少しやる事があるから自室に戻るわ」
それだけ言うとレミリアは席を立ち、自室に戻っていった。
「こっちよ」
妖夢は咲夜に案内される形で地下の酒蔵へと向かう。
案内されている間も別段話す事もなく、黙々と歩き、時折妖精メイドと廊下ですれ違う程度であった。
やがて、廊下の端にある木製の扉を開け、地下へと続く階段を降りる。
「暗いので足元に気をつけて」
明かりがないのか、少し暗いその階段を降りると、今度は色々な模様が施されてある鉄製の扉の前に出た。
「隙間の方が以前、勝手にワインボトルをいくつか拝借したらしくて、入れないように色々と施したのよ」
違和感のある扉をしげしげと眺めていた妖夢に、説明する咲夜。
扉自体に鍵はないのか、咲夜が扉のノブを捻り、中へと入る。
中はほんのりと明かりがあり、樽や横に陳列されているワインボトルでいっぱいだった。
何処か甘い匂いがするその空間に酔いそうになる妖夢。
バタン―――――――――――――――カチリ。
ドアを閉め切って、奥へと進む咲夜の後ろへとついていく。
「・・・これね」
一つのワインボトルを取り、横に備えられてあった黒い袋に入れて妖夢へと手渡す。
「ありがとう」
目的の物が手に入り、来た道を戻り、ドアを開けようとする。
だが、ノブを捻ってもドアが開くことはなかった。
「あ、あれ・・・?」
ガチャガチャとドアノブを捻りながら押したり引いたりしてみるが、開かない。
「どうしたの?」
「ド、ドアが開かなくて・・・」
「え」
妖夢に代わり、咲夜がドアノブを捻るが、開く気配がない。
「・・・・・これは、困ったわね」
少し思案した後、咲夜はスカートの中から銀のナイフをいくつか取りだし。
「・・・ッフ!」
全力でドアの前に何十と放った。
鉄と鉄がぶつかる音がし、ドアの前で刺さる事もなく落ちていくナイフ。
「やっぱり、駄目か」
お手上げのポーズをしながら後ろに下がる咲夜。
「破壊していいのなら、私がやるわ」
隅に渡されたボトルを置き、咲夜と代わる形で白楼剣と楼観剣を抜き、構える。
「ハァーー!!」
気合と共にドアを両断せんと二対の刀を振りぬく。
ガキィーーーン!
だが、傷一つ付かない扉。
「な・・・・・・」
傷さえつけられないその扉に、もう一度、返す刃でぶつける。
「こ・・・の・・・!!」
何度も何度も旋風を巻き起こすかのように斬りつけるが、傷一つつかない。
どれぐらい、扉に向けて斬撃を放っただろうか。
結局傷一つ付かなかったその扉を見て、咲夜と妖夢は酒蔵に閉じ込められたという現実を受け入れた。
静寂がその空間を支配する。妖夢は今更ながらに、密室で二人きりでいる事に緊張が出てきてしまっていた。
横に座る咲夜は何をするでもなく、目の前のワインボトル達に視線を送っている。
その沈黙が、ずっと続くはずもなく。
「・・・ねぇ」
咲夜が、隣にいる妖夢の顔を見ずに声をかける。
「は、はい?」
妖夢は声をかけられただけで動揺が走り、慌てるが、咲夜は気にせずに続ける。
「レミリアお嬢様が来る前に私を呼び止めたけれど・・・あれは何だったの?」
「あ、あれは・・・・・・」
自分でもわからない。あの時、私は何故呼び止めたのか。
「・・・・・・・・・わからないわ」
正直に言う、嘘も何も浮かんでこなかった。
「・・・・・・わからなくて、呼び止めたの?」
「・・・・・・・・・」
言葉が出てこない。折角、二人きりという空間の筈なのに、胸のうちがジクジクと痛む。
「貴方は・・・・・・・・・どうしてあの時悲しい顔をしたの?」
それがどの時を指すのか。
妖夢は、頭の中にあの時の口付けの光景を思い出してしまい、咲夜に顔を向ける。
咲夜は、ただ、何かの痛みをこらえるような顔をして妖夢を見ていた。
「・・・わからないわ・・・ただ・・・・・・・・・貴方を見ていてとても興味がわいて・・・貴方と話していてとても楽しくて・・・・・・」
そこで言葉を切る。
あの時の光景を、あの時の感情を。心の内から言うべく。
「レミリアと貴方が口付けを交合わしているのを見て・・・悲しくなった」
泣く気もなかった。咲夜を困らす気もなかった。
「教えて・・・私のこの気持ちはなんなの?どうして貴方を見ているとこんなに胸が疼くの?どうして貴方が他の誰かの物だとわからされると胸が痛むの?」
ただ、止まらない、この感情をどうにかしてほしい。
「教えて・・・・・・!私のこの気持ちはなんなのよ!」
八つ当たりをする赤子のように喚く妖夢。
そんな妖夢に咲夜は―――
「・・・・・・え?」
そっと妖夢の身体を抱きしめながら咲夜は頭を撫でる。
「それは・・・・・・・・・恋よ」
「恋・・・・・・?」
「ええ・・・・・・・・・貴方は私に恋をしたのよ」
咲夜の声は震えている。まるで自分が泣くわけにはいかないと言わんばかりに。
「けれど、ごめんなさい。私は貴方のその感情に、答える事は出来ない」
「・・・・・・レミリアがいるから?」
答えがわかっていても叶わないその恋を、踏みにじる自分がとても悲しくても。
「・・・・・・・・・えぇ」
それでも、この子の為に、泣いてはいけないのだと。
「私は、レミリアお嬢様の事が好きなのよ。心も、身体も、あの人の為にある」
だけど、と一度言葉を切って、抱き合っていた身体を少し離し、妖夢の顔を見る咲夜。
妖夢の顔は、涙で目が腫れてしまっていた。
「貴方が悲しむ顔を見たくない私もいるのだから、駄目な女ね。私は」
そう言い、咲夜は泣いている妖夢に´口付け´をする。
「ん・・・・・・・・・」
力なくそれを受け入れる妖夢。
「・・・ん、プハ。ここには、貴方と私しかいない」
だから今だけ、貴方を愛してあげる―――――――
後に残るのが悲しみしかないだけだというのに、咲夜はそれを知りつつもこの泣く少女を慰める方法を他に知らなかった。
それが主を裏切る行為だとしても。
私の事は、忘れなさい―――――――
とぼとぼと、冥界に続くまでの帰り道をぼぉーっとしながら帰る妖夢に、咲夜が別れ際に言った言葉を思い出す。
あの後私は口に言えないような愛され方をし、いつまで経っても戻ってこない咲夜と私にしびれを切らしたレミリアに救出される形であの酒蔵を出た。
そして、あの酒蔵を出るときに言われたのだ。忘れろと。ここであった事、私への気持ちを全て忘れろと。
嫌だと言いたかった。
けれど、それを口に出せなかった。
咲夜にも、私にも仕える主人がいて、咲夜も私も、その生活を手放すわけにはいかなかった。
「・・・・・・」
どれだけ過ぎようとも、私はこの気持ちを忘れない。
例え叶わぬ恋だとしても、私は咲夜に恋をしたのだ。
その気持ちを消すなんて事は、出来るわけがない。
空を見上げる。日は既に傾き、空には輝く月が照らされている。
「・・・明日、また紅魔館に行こう」
そして言うんだ。ちゃんと自分の口で。
例え叶わなくても、例え報われなくても、例え、咲夜が困ったとしても。
貴方の事が好きです、と―――――――
妖夢はその気持ちを忘れないように、自分自身にこの時誓った。
しかしレミリア様マジ悪魔だな。元からか。
あんまりリクエストに応えすぎると次から次へと出てきて自分の書きたいものが書けない雰囲気になったりするからほどほどに。
今回も良い作品感謝です
共に使えるべき主人を持つもの同士の恋いいですね。
そして、妖夢×アリスをリクエスト!
イメージ上難しいとおっしゃっておられたのに、有難うございます。
ハッピーエンドじゃないけれど、凄く納得の出来るお話でした。
自信ありすぎのレミリアや、登場の少なかった紫・幽々子のイメージが
自分の持っていたものと同じなのが、嬉しかったです。
次回作も楽しみにしています。有難うございました。
「実際のところ咲夜はブランデーを~」のくだりですが、主語と述語が離れすぎていてわかりにくいですね。きちんと読点をうつか、主語を後ろに回したほうがよいかと。
内容が非常に好みでよかったのに、いくつか文章に難のある箇所があったのがもったいなくてついコメントしてしまいました。
月並みではありますが、マリアリを今度はハッピーエンドで読みたいですね……