Coolier - 新生・東方創想話

些細な亀裂-中編-

2007/06/01 10:40:26
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このお話は「些細な亀裂」の第2話になります。1話同様、オリキャラ等が苦手な方はスルーで。
お心の寛大な方はどうかお読みください。


些細な亀裂-中篇-



重く、威圧感のある扉を開ける。長く窓のない廊下を歩く。歩きながらさっきまでの事を思い出す。
相手は幼い外見とは裏腹に、威厳のある声でレミリア・スカーレットと名乗った。スカーレットと言えば
純潔の吸血鬼である。知らなかったとはいえ、随分とデカい態度で挑んだものだ。

(・・・。よく殺されなかったなぁ)

今頃になって恐怖心が甦る。首筋を嫌な汗が流れるのが分かる。

あの後、眼を丸くしていたレミリアではあったが、一しきり説明し終えると納得したのか、
意外と快く承諾してくれた。・・・相変わらず何かを企んでいる様な笑みではあったが。
詳しくは咲夜から説明を受けると言われたので、とりあえず部屋に戻ることにする。

(何だろう。思いのほか広く無くなったな。)

あの部屋に行くまでの時間が嘘だったかのように、あっというまに部屋に着く事が出来た。
指示された部屋を空ける。誰も使っていない部屋なのにまったく不快を感じさせないほど
綺麗に片付いていた。

(なんだか色々ありすぎて疲れたなぁ)

ベットに横になり今日一日を振り返る。妖怪と戦い、死を覚悟してからまだ10時間も経っていないのに
今日は色々な出来事があった。それらに思いを巡らせながら眠りへとついた。






朝。日の出と共に、とは行かなかったが、昨日の疲れを考えれば中々に早く起きれたと思う。これも旅人の成せる技
であろう。手早く着替え身支度を整える。続いて軽くストレッチ。昨日まであんなに大怪我をしていたのに
全くと言っていいほど完治している。妖怪にでもなってしまったのかと不安になる。
その時ドアを叩く音。

コンコン

「はいるわよ」

「はい、どうぞ。」

入ってきたのはメイド姿の見慣れた少女であった。

(確か・・・十六夜 咲夜さんだったかな)

昨日2度ほど会っているので顔は覚えていた。

「傷の方はどう?とはいっても、見た感じ大丈夫そうね。」

「えぇ、すっかり。まさかあの傷が一日で治るとは思いもしませんでした。」

「ふふ。ま、ちょっとした手品よ」

「??」

「ま、気にしないで。ところで、ここで働きたいんだったわよね。」

「あ、はい。是非お願いします」

「もう一度確認するけど、希望の部署は?貴方が望んでいた部署の他にも色々あるのよ?
 特にあそこは戦闘専門の荒くれ部署だし。平気なのかしら?」

普通の人間に比べれば彼は強い方である。だか、これから相手にしようというのは全てが妖怪である。
この間のようなことになれば再び迷惑をかける事になるだろう。だが

「あの晩にも言いましたが、自分の希望する部署は門番隊です。そこ以外に考えられません。」

どんなに辛くてもいい。命を助けてもらった恩義とは絶大なものである。
それが少しでも返せるのであればどんな苦労も耐えられる。彼の心にはそれしかなかった。

「ふぅ。そこまで言うのなら二言はなさそうね。門番隊の隊長、紅 美鈴は知っているかしら」

「はい。知っています。」

一瞬、何故知っているのかという顔をしたが、すぐにいつもの顔に戻る。

「いつも話してたものね」

「知ってましたか」

その事に多少驚いたものの、コレだけの館を仕切るメイドの長である、それも当然かという思いに至る。

「それなら話しは早いわ。その美鈴に直接話を通しなさい。ダメと言われたらお嬢様命令といえば納得するわ。」

「分かりました。出来るなら命令とやらは使いたくないですが」

「あの娘の性格なら最初は断るでしょうね。あ、諦めないことね。それじゃ」

そういうと咲夜は部屋を出て行った。正確には、気付いた瞬間には目の前から居なくなっていたというのが
正しい。

(お嬢様といい、咲夜さんといい、ここの人たちは化け物ぞろいだなぁ)

そう納得出来てしまう時点で、彼も道を一歩踏み外れてしまったのだろう。






日光は眩しく、風がとても清々しい。この上ない晴天である。昨日寝込んでいただけなのに、ものすごく
久しぶりに外に出たような感覚に襲われる。

(何だかんだ、生きてるって素晴らしいなぁ)

大きく息を吸い込み、吐き出す。よし、と意気込み門番隊の詰め所がある場所へと歩みだす。



門番隊の詰め所は20~30人程度が入れる長方形の様な建物になっており、門番隊はそこで食事、睡眠、洗濯等を
行っている。洋館内にも食堂はあるのだが、メイド隊とはあまり仲が良くないらしく、皆この詰め所で
食事を取っている。詰め所にはコックが居ないため、当然自炊となる。交代で作るのだ。

詰め所の所まで来て立ち止まる。いざ来たはいいものの、なんと説明すればよいのか全く考えていなかった。

(参ったな。なんて説明しよう。出来れば命令は使いたくないなぁ。ちょっと裏で考えてから入ろうかな)

ここまで来てビビりが入った。詰め所の裏は日陰になっており、また、館から来た際、詰め所の裏は見えなかった。
ここは建物から死角になっているのだろう。

(そこならゆっくり考えられそうだ)

そう思い裏手に向かって歩く。そこは大きな木が立っており、その木の造る日陰が日光を遮り、吹き抜ける風が
とても気持ちよい場所であった。

そして彼女はそこに、いた。

すらっとしたしなやかな体に、異彩を放つ紅い髪。大陸風の服に、黄色い星の付いた帽子。
その容姿には似つかない、門番隊の隊長を勤めている彼女は、木陰のしたとても気持ち良さそうに寝ていた。

彼はしばらく見とれていた。不純な意味ではなく、思わぬ所に咲いた一輪の花を見つけたかの如く
ただただ純粋に見とれていた。

どれくらい時間が経っただろうか、彼女が小さな声を上げて動く。彼は我に返り頭をぶんぶんと大げさにふる。

(どうしよう。寝てるし、後で出直そうかな)

そう考えを巡らしているうち、彼女は上半身を起こし大きく伸びをする。大きなあくびをし目の前にいた彼と
眼が合う。

「あ」
「あ」

同時に声を上げる。暫しの沈黙。彼女はこの状況がいまいち呑み込めなかった様だ。しばらくして彼女から沈黙を破る。

「あれ、何でここにいるの?」

どうやらまだ寝ぼけているようだ。彼は少し混乱しながらも分かりやすく今までの状況を説明した。
咲夜に逢ったこと。夜中に再び眼が覚めたこと。傷の治りが恐ろしく早かったこと。レミリアに逢ったこと。
紅魔館に雇ってもらえたことを順序良く説明した。

「あぁ、咲夜さんはね、時間が操れるんだよ。だから貴方の傷口の時間を早めて治す時間を早めたのよ」

「時間を?」

まったく理解できなかった。何を馬鹿な事を。と言いたかったが、そう思われる出来事を何度も見せ付けられたため、
完全に否定は出来なかった。むしろ、そう言ってくれた方がつじつまが合う。傷にしろ、部屋から居なくなる速度にしろ
理解は難しいが自分を納得させるには十分だろう。

「それにしても、紅魔館で働きたいとは・・・。中々の変わり者だねぇ」

そういうあなた方は?と言いたかったが寸での所で呑み込む。

「えぇ、昔からよく言われます。」

「で、で。どの部署に決まったの?」

「まだ決まってはいないんですよ。これから雇ってもらうために相談に行くところでした。」

「へぇ~。ちなみにどこを希望してるの?」

一呼吸置く。覚悟を決めて言葉を出す

「門番隊です」

再びの沈黙。彼女は一瞬何を言っているのか分からなかったようだ。彼女が言葉を出すまでおそらく2秒も無かっただろう。
だが、彼にとって今までで最高に長い'間'となった。

「えぇー!ホントに!?何で?なんで?」

心底驚いていた。まさか門番隊にくるとは思ってもいなかったのだろう。半分声が裏返っている。

「自分を助けて頂いたのは門番隊の皆様だと咲夜さんに聞きました。そして、寝ずに一晩中介抱して下さったのも
美鈴さんだと聞きました。貴女方のお蔭で今の自分があります。このことは感謝に絶えません。」

美鈴は不思議そうに見ていた。

「自分の生まれ育った国では、恩を受けて返さずは人の恥と教えがあります。ましてや命を救って頂いた恩義となれば
それは恥どころの話ではありません。確かに自分はそんなに強くないですし、何かの能力を持っている訳ではありませんが、
雑用でも何でもやります。どうか皆様のお側に置いて下さい。」

彼は何も考えずただ純粋な気持ちを伝えた。命を救って頂いたお礼に少しでも門番隊の役に立ちたいと。その純粋な
気持ちが通じたのだろう。彼女は優しい顔をしていた。

「分かった。そこまでの考えがあるなら私は断ったりしない。改めて宜しくね。あぁ、そういえばちゃんと名前を聞いてなかったね」

「アルバート・フォルトナーです。長いんでフォルと呼んで下さい」

「私は紅 美鈴。まぁ、知ってるか。」

そう言ってはにかむ

「門番隊にようこそフォル。門番隊は強者、曲者ぞろいだからねぇ。仕事はキツいよ~。覚悟しとけ~」

不適に笑う美鈴。だが、その笑みに曇りは無く心から迎えてくれているようだ。

「お、お手柔らかにお願いします。」

雲ひとつ無い昼下がり。今この瞬間、門番隊に1人の新人が配属された。











「はいはい、ちゅ~も~く!今日付けで新人君が入りましたぁ!」


扉を開けるなり叫ぶ美鈴。何事かと凝視する門番隊一同。初見からこの雰囲気は中々の試練である。

(き、気まずい・・・)

「ほらほら、自己紹介して」

どうやら本人は気付いていないようだ。満面の笑顔で言われては責める気も起きない。覚悟を決め息を大きく吸い込む

「今日から門番隊に配属になりました、アルバート・フォルトナーです。いろいろご迷惑おかけしてしまうと思いますが
宜しくお願いします!」

人並みではあるが簡単に自己紹介を済ます。いまいち状況が飲み込めなかったのか一瞬の沈黙はあったが、門前で話を
した事のある人が何人かいたらしく、声をかけてもらった事により、ひとまずの危機を脱した。

その後、全員を交えての自己紹介が行われた。やはり見知った顔も多く、皆、口を揃えてまさか門番隊にくるとは
思わなかった。気は確かかと、言われたい放題であった。何だかんだと言われたが、皆やはり嫌がる様子は無く
快く彼の配属を受け入れてくれたようだ。


配属されたといってもまだまだ戦闘に出れるような器ではないので、最初はどこでも一緒の雑用係である。
炊事・洗濯・掃除にアイロンがけなど完全に生活を支える裏方に徹する。旅人をしていただけあって
手際は中々良く、先輩たちに色々と教わりながら月日を過ごしていった。



それから数ヵ月後、雑用にも慣れ、2度3度の実戦も経験した。そろそろ新人とは呼べなくなってきた頃のこと。
太陽は沈み、月が顔を出し始め、紅魔館の時間がやってき始めた頃、突然全号配備の号令が発令された。
全号配備とは門に配置している人員に加え、見回りや待機している者、休み中の者も全てに門に配置するように
促す号令である。この場合、たいした実戦経験を持っていないフォルとて例外ではない。

「全号配備!!急いで門前に集合!ほら、急げ急げ!!」

突然の号令に戸惑いながらも食べていた食事を投げ捨てて駆け出すフォル。ここで遅れると後が怖いのである。
息を切らしながら門前に到着すると丁度隊長が登場し、状況の説明が行われた。

「現在の状況は芳しくありません。偵察の報告によると、敵はB級からC級の妖怪の群れです。大半はC級ですが
1体A級が混じっていたとのことです。」

紅魔館では妖怪の強さに応じてランク分けをしている。襲ってくる敵のクラスに応じてこちらも編成を組み損害を
出さないようにする工夫である。C級妖怪は数が揃わなければフォルでも勝てる妖怪である。B級は一対一でも苦戦する
だろう。A級ともなれば、今のフォルではひっくり返っても勝てない相手である。それはフォルも重々承知である。

「A級・・・」

「大丈夫だよ。A級の相手は私がします。もし見つけても迂闊に手を出さず直に報告して下さい。」

『はい!』

「それと、いつも通り4人一組で組むこと。決して単独行動はしないように。いいね!?」

『はい!』

「それでは健闘を祈ります。みんな、ムリはしないでね?終わったら私がおいしいチャーハンを作ってあげよう」

「おぉ、こいつぁ楽しみだ。これで仕事に身が入るってもんですよ。」

「隊長のチャーハン食べられるなら、まだ死ねないなぁ」

「縁起でもないこと言わないの。」

隊長の美鈴は料理が得意で、よく皆に特製の料理を振舞っている。特に門番隊の間で人気なのがチャーハンであり
とある門番隊員曰く、1週間食べても飽きない程のうまさらしい。特にチャーハンに深い意味は無いのだが、
戦闘を前にしてもユーモアを忘れないのは門番隊の良いところである。

「さ、美味しいチャーハンを食べるためにも一仕事するよ」

『おぉー!』

「んじゃ、いくよ。散!!」

合図で各々一斉に分散する。事前に決めていた担当場所に向けて前進し、そこで敵を迎え撃つのだ。フォルの班が担当する
地区は門に近く、見通しも良いので他の班も視界の中にあり、何かあれば直に駆けつけることが出来た。
配置に付き、敵が来るのを待つ。ミーティングでの威容はどこえやら。すっかり緊張してしまっている。
門番隊の中でも圧倒的に実戦経験が少ないためであろう。他の隊員は余裕である。

「・・・。」

「何だ、フォル。緊張してんのか?」

「そりゃしますよ。こんな大規模な戦闘は初めてですよ?どう立ち回ったらいいやら・・・」

「そんなに緊張すること無いって。この地区は比較的敵が来ないと予想されてる場所だからな」

「え?そうなんですか?だったら何で先輩みたいに強い人がこんなポジションに?前は班も違いましたよね。」

「そりゃ~戦闘が少なけりゃ楽できるだろ。気張って仕事してもしょうがないよ。それにお前がビビって逃げ出さないか
 見張れるしな。ははは」

「あ・・・」

「ん?何だよ?」

「い、いえ・・・」

(オレのために先輩を配置してくれたのかな・・・。)

隊長の気持ちにただただ感謝するばかりである。

「前線じゃぁもう戦闘始まってるんだろうなぁ。ここは呑気なモンだぜ」

「おい、向こうの班が手振ってるよ」

「ホントだ。ありゃミストだな。おい、フォル手ぇ振ってやれよ」

「え?オレですか?」

「振らねぇと後でミストに無視したって怒られるぞ」

「そりゃマズい。」

慌てて手を振り返す。これでひとまず怒られずに済みそうだ。ミストとはフォルが配属されたばかりの頃から、
紅魔館での仕事や門番隊での仕事など、一から丁寧に教えてくれている先輩であり、今でも彼女の指導を受けて
修行中である。彼女には5つ下の妹がいるらしく、よくその話を聞かせてくれた。どうやら紅魔館からそう遠くない
森に住んでおり休みの日には必ず帰っているようだ。妹思いのいい姉である。

「そういえばアイツの妹見たことないなぁ」

「え?そうなんですか?かわいくていい子そうな感じでしたけどね」

「な、見たことあるのか?」

「まぁ写真ですけど」

「何だよずるいなぁ。私も今度見せてもらおう」

その時、前線からの使い魔が飛んできた。

「おしゃべりやめ!敵がくるよ!」

「お、いよいよ仕事か。ここまで来るってことは前衛は結構てこずってるみたいだな」

「おっかないこと言わないで下さい」

通常、全号配備では部隊を三つの線に分け、前衛・中衛・後衛に分けて守備をする。前衛が抜かれた場合、中衛が支援して
前衛を後衛の後ろに下げ再編成させるといった流れである。

「あ、隊長だ。」

空を見上げればいつの間にか美鈴が来ていた。身なりの綺麗さからまだ戦っていないようだ。

「おーい、よく聞いて!敵はもうそんなに残ってない。B級が2~3体とC級が少しいるだけ。ただし、A級妖怪が
未だに見つからないの。戦闘するときは十分に気をつけてね」

「はい」

『は~い』

さすが百戦錬磨の先輩方である。返事がどこか間延びしていた。余裕の成せる技であろう。
注意点を説明し終えると美鈴はまたA級妖怪を探しに飛んで行った。

「A級かぁ。不安だなぁ」

「なに、気配で一発で分かるよ。お前は直に逃げろよ。いいな?」

「りょ、了解です・・・」

辺りの雰囲気が変わった。さっきまでの、のんびりとした雰囲気は無く、ピリピリと張り詰めたような
空気が辺りを覆っている。先輩達も自然と戦闘体制へと移行してゆく。その刹那

ドカーーン!!

前方で爆発音。そして爆煙の中から飛び出した無数の弾幕が、殺意をもってこちらに向かってくる。対弾幕対策に
深めの穴を掘っておいてその中に伏せる。弾幕が通り過ぎたのを見計らって頭を上げる。そこには先輩の姿はなく、
激しい音のする前方に眼を移す。そこにはついさっきまで隣にいたハズの先輩たちが、既に戦っていた。

「は、はやい・・・」

遅れまいと慌てて駆け出す。C級妖怪の作る弾幕はたいした脅威ではなくフォルでも普通に避けられる。
薄い弾幕を避わし、敵に近づく。ちゃんとした武道の心得があるわけでもなく、路地裏の喧嘩殺法ではあったが
それなりの技量を誇っており、1人また1人と倒してゆく。隣にいた班とも合流して敵を撃退してゆく。
あらかた倒しあと数十体を残すのみ、勝利が見えてきた。合流していた班を分散し、配置場所に戻そうとした時。
またしても戦場の空気が変わった。まるで全てが凍って動かなくなったかのような張り詰めた空気。次の瞬間

「伏せろぉー!!」

ドーーーン!!

一閃。そして爆音。さっきまで隣にいた班が'居た'であろう場所には大きなクレーターが穿たれていた。
皆動けなかった。誰も何が起きたのか理解できなかった。いや、理解したくなかったのだ。これほどまでに
力の差があることを。空を見上げると、大きな穴を作ったであろう張本人が静かに出てきた。

「紅魔館・・・。何のこともあらん・・・。」

相手を押し殺すような威圧感のある声で一言そう漏らした。

「おい、隊長の居場所は?」

「ここから遠いです。どうやらダミーが出たみたいです」

「クソ!到着まで時間を稼ぐぞ!連絡入れとけ」

「はい!」

「これが・・・。A級妖怪・・・」

フォルは見るのは始めてであった。ましてや今その敵と戦うというのである。旅人であれば逃げることが出来ただろう。
だが、今はまがりなりにも、誇り高き門番隊の一員である。震える体を戒め、戦闘態勢をとる。

「うおぉぉぉ!」

そう叫ぶや否や先輩たちが飛び掛る。先ほどまでの余裕な先輩の姿はどこにもない。いつになく真剣だが
恐怖に怯えているのが見て取れる。

キンッ!
キーン!
ドンッ!!
ドカーーン!!

先輩たちによる戦闘は続く。いや、戦闘と呼べるかどうかも疑問である。相手は先ほどの場所から動いていない。
圧倒的な力の差にまったく太刀打ちできないで居るのだ。今フォルが戦闘に参加したところで足を引っ張るだけであろう。
自分の非力さが実に悔しい。歯を食いしばって後悔していた。
その時

カラ・・・

何かの物音に気付く。ふと先ほどの穴を見ると既に爆煙は晴れており、クレーターがはっきりと顔を覗かせていた。
そのクレーターの中、確かに動くものを彼は・・・見た。苦しそうに手を動かし、必死に助けを求めていた。

(助けなきゃ・・・!!)

ドーーーン!!

一際大きな音。ふと見上げると先輩たちが皆、地に足をつけている。体は傷つき、体力は消耗しており
みな息絶え絶えであった。それに引き換え妖怪はたいしたダメージを負っていなかった。唯一の戦果は、
わき腹に一閃、傷が付いていた。恐らく先輩が使っている斧によるものだろう。先輩は剣などの細かい動きは
苦手だから、一撃にかける。とよく言っていたものだ。

ふと、妖怪が自分の穿いた穴に動いているものをみつけ、にやける。

「ほほぉ・・・。あの攻撃で生きているヤツがいるとは・・・。」

皆実戦経験豊富であるため、とっさの判断で一命は取り留めていた。4名の内、3名は逃げれたが爆風にとばされ
気を失っている。そして、その3名を誘導するため逃げ遅れたのが1人。彼女もまた一命は取り留めているものの、
危険な状態である。妖怪には、そのもがく気苦しむ様がたまらなかったのだろう。とどめを刺そうと妖弾を作り始める。

(ミスト・・・先輩・・・)

そう思ったときには駆け出していた。何も考えては居なかった。ただ助けることで頭がいっぱいだった。
間に合えと必死で祈った。周りでは叫ぶ声がする。でも何処か遠くの出来事のように聞こえる。ふと空に
目をやる。妖弾が手より放たれた。一直線に向かってくる。妖弾が命中する刹那、彼女を拾い上げ庇う様に伏せる。
激しい爆音。辺りに舞う土ぼこり。全身に鈍い痛みが走る。頭がクラクラし、耳の奥で鐘が鳴っている。必死に
体の異常を確認する。どうやらまだ動けるようだ。次に庇った彼女を確認する。怪我が酷いが、いまだ一命は取り留めて
おり、何とか助ける事が出来たようだ。傷つけないようゆっくり体を起こし、3~4歩遠ざかる。まだ耳鳴りがやまない。

ふと、嫌な感覚に襲われる。以前にもあった、そう、蛇に睨まれた様な感覚である。とっさに防御体制をとり振り向く。
その刹那、激しい衝撃。体が浮き、後ろに飛ばされる。痛みを必死にこらえ、前方を見る。そこには、禍々しい妖怪が
こちらを見下していた。

「あの状況で助けに出るとはたいした勇気だ。だが」

そして、おぞましいほどに笑う

「折角助かった命を無駄にするとは、あまり賛成できんね」

死をイメージされられるほどの威圧感。自分はここで殺される。膝をつき、命乞いをしたい気持ちに駆られる。
体が振るえ、今にも崩れ落ちそうだった。
「・・・うぅ・・・」

その時、後ろからかすかなうめき声。ふと、我に返る。ここで倒れは門番の名折れ。ここで見捨てては門番隊の恥さらし
である。彼は最後の力を振り絞り戦闘態勢をとる。先ほどの一撃を受けた左手は、思うように自由が利かなかった。
動かす度に激痛が走る。もう左手は使わない方がいいだろう。だか、そんな痛みには構っていられない。
全ての痛みを戦闘意欲に変え、眼前の敵へと意識を集中する。

「ははははは。立ち向かってくるとは面白い!気にも止まらぬ虫の様な存在が、オレに楯突くとは!!
いいだろう。相手になってやる。一撃で肉片も残さず消し飛ばしてやる!!」

狙うはカウンター。彼の最も得意とする戦法。誘うは油断。傲慢な一撃ほど隙が大きくなるもの。
意識を集中し、頭を空っぽにする。無駄な思考を省き眼前の敵に傾注する。

「消し飛べぇ!!」

右ストレート。相手がモーションをとる刹那に先ほどまで死んでいた左手を無理やりおこす。激痛が走るが
歯を食いしばり耐える。その左手を相手の拳の軌道上に持っていく。

(乗って来い・・・)

相手の拳はその左手に僅かに向きを変えてきた。相手にしてみれば、その防御ごと吹き飛ばす算段だったのだろう。
彼はその左手を犠牲にし、相手の拳が当たる瞬間に身をよじり相手の懐に入る。足を踏ん張りねじった体を元に戻しながら
右拳を突き出す。狙うは先輩のつけた傷跡。相手の速度を殺さぬよう正確に拳を叩き込む。
鋼の様に硬かったが一歩も引かず、全身全霊を叩き込んだ。

相手は一瞬顔を歪め、一歩退く。左手で傷口を押さえ、軽く肩で息をしている。彼の攻撃は成功した。
全ての力を込めた一撃は命中した。だが、倒すことは叶わず、顔を歪めさせるのが限界であった。

「はぁ、はぁ。ここまでコケにされるとはなぁ・・・!次はない。必ず殺す!!」

そういうと、妖怪は一部の隙も無く身構え、彼に対峙した。先ほどのように油断を誘うことはできない。
敵の拳を受け流した左手は完全に死んでおり、右拳も握ったまま開かなかった。
膝は笑い出し立っているのもやっとだった。ぼやける視線の先では、身構えた姿勢から相手が飛び出す。

(これまでか・・・)

そう思い軽く眼を閉じる。



ふと、微かに風が流れる。そして、耳元で誰かが囁いた。幻聴ではなかった。確かに聞こえたのだ。

「お疲れ様。よく頑張ったね」















目の前には白いモノが広がっていた。どこかで見たことのあるモノ。今回はソレが天井であると、認識するのに
時間は掛からなかった。体中が鈍く痛む。筋肉痛みたいな痛みだ。頭がガンガンする。ふと見ると左手は動かないよう包帯と
ギブスで固められていた。きしむ体にムチ打って上半身を起こす。ベットを囲っていたカーテンを開ける。
そこには医療担当のメイド隊が何人か居た。皆、忙しそうにしている。

「お、眼が覚めたのかい?」

「えぇ、おかげさまで」

「しかし、お前も中々の常連だな。いい加減強くなれよ」

「精進します・・・」

豪快な物言いで医者が患者を診察する。

「傷はデカイがたいした事はない。左手は絶対安静だ。あと頭の傷もな。右拳はムリさせなきゃ動かしても平気だよ。」

一通り傷の説明を聞き、薬を用意してもらう。薬棚をいじっている背中に話しかける。

「あの・・・。あのあと戦闘はどうなったんですか?」

「え?あぁそうか。途中で倒れたって話だもんな。知らないのも無理はないか」

「はい。できれば詳しく教えてください。」

「お前さんがぶっ倒れる直前に美鈴さんが到着してね。ちょうどあんたと入れ替わりで戦闘を始めたよ。
 すいぶん長く戦ってたみたいだが、美鈴さんが勝って戦闘はお開きさ。ザコ妖怪どもは一目散に逃げてったよ。」

「隊長が・・・。」

「あんたに感謝してたよ。あんたが時間を稼がなかったから死人が出てたったてね。ま、あんたも死にそうだったんだけどね」

そういってまた豪快に笑う。その時の戦闘を思い返し、重大な事に気付く

「そうだ!!!」

「な、何だい、いきなり。」

「あ、あの、ミスト先輩はどうしました?無事なんですか?」

ものすごい勢いでまくし立てる。

「・・・。」

沈黙する医者。どうして黙るのかと、肩を揺さぶって問いただしたかったが体が言う事を利かない。

「ま、まさか・・・?」

「結論から言えば生きてる。」

「・・・!!」

「ただ・・・」

「ただ・・・?」

「ものすごく重傷なんだ。生きているのが奇跡だよ。もう少し、あとほんのちょっとでもダメージが大きければ
 確実に死んでいた。あんたが庇ったお蔭で彼女は生きてる。」

その言葉に酷く安堵する。全身の力が抜け落ちるようだ。

「ただ、何度もいうけど、元のダメージが大きすぎる。しばらくは目を覚まさないだろう。いや・・・もしかしたら
 二度と目を覚まさないかもしれない。」

「そ、そんな・・・!!」

「あとは彼女の気持ち次第だ。本人が生きたいと望まなければどんなに手を尽くしても彼女は死ぬ。こればかりは
 どうしようもない」

「・・・。」

「今は彼女を信じるんだね。そんな気持ちの弱い連中なのかい?あんたら門番隊は」

「!」

力いっぱい否定する。彼女はいや、門番隊は真に強い人たちだ。簡単には心折れたりはしない。

「意識が戻ったらスグに連絡するよ。それより、今は自分の体の心配をするんだね。」

確かに傍から見たら彼も立派な重傷患者である。だが、彼も門番隊の端くれ。

「自分は平気ですよ。歩けますし」

少しぎこちなくはあったが、生活する分には問題はないだろう

「あんまり無理するんじゃないよ。ゆっくり休んできな」

「他の先輩方だって皆戦って怪我をしているハズです。自分だけ休むわけにはいきません」

「まったく・・・あんたら門番隊はホントに仕事熱心だこと。」

そういうと、もう何も言わず薬と予備の包帯を渡してくれた。無理だけはしないようにと念を押され
医務室を後にした。

外は相変わらずいい天気で、何だか太陽が傷口にしみるようなむず痒さを覚える。だが、吹き抜ける風は
相変わらず気持ちいい。歩けるなんて言った手前、1人で出てきたが、医務室から詰め所までの距離ですら
体に堪える。何かに掴まらないと歩くのもままならなくなってきた。どこかで休憩したい。
ふと、詰め所裏の木陰が思い浮かぶ。あそこなら日陰だし風も気持ちいい。何より人が来ないので
1人で考え事に集中できる。そう思い立つと自然と力が沸いてくる。詰め所裏なのだから
そのまま中に入ればいいのに、その考えはまったく頭の中に無かった。

木陰にたどり着く。予想通りそこには誰も居なかった。木に寄りかかり、腰を下ろす。
痛む体をさすりながら昨日の事を考える。A級妖怪を前によくあそこまで善戦したものだ。
今考えただけで震えてきそうだった。そういえば、他の先輩方は平気だろうか。前衛の人たちや
同じ班だった先輩たちも皆かなり傷ついていた。
・・・そしてミスト先輩。
医者は言っていた。目を覚まさない可能性のが大きいと。あの時は気付かなかったが、きっとものすごい
怪我をしていたのだろう。あの妖弾をくらって生きてただけでもすごいものだ。

(・・・。)

だが、2発目はどうにか出来た筈だ。もしあの時、足が震えてなかったらもっと早く駆けつけられただろう・・・
もしあの時、決断を早くしていればもっと怪我を軽く出来ただろう・・・
もしもあの時、もっと強ければ先輩は傷つかなかっただろう・・・!

「・・・。」

「・・・。」

いつの間にか後ろには隊長の美鈴が立っていた。医務室を出たと連絡があったのに、帰ってこないので捜しに来たのだ。

「隊長。オレ、今回スゲー頑張ったんスよ」

「・・・うん」

「A級妖怪と戦って、ボロボロでしたけどね。はは」

力なく笑う。だが、余計な口を挟むことなく、美鈴は静かに聴いている。

「ミスト先輩を助けに行って、結局、気を失っちゃって。情けなかったですよ」

「・・・」

「医務室のお医者さんに聞いたんです。先輩、一命は取り留めて、死ぬ事はないそうなんですよ」

「うん・・・」

「先輩、かわいい妹さんがいらっしゃって、いつも写真を自慢げに見せてくるんですよ。ホントに
 かわいらしくて、本当に仲のいい姉妹なんですよね」

「・・・。」

声が震える。どうしようもない程の後悔の念が、体を包み込む。

「でも・・・。先輩、目を覚まさないかもしれないって・・・。」

「・・・。」

「オレが・・・もっとしっかりしてれば・・・!オレがもっと強かったら!
先輩を助けられた!オレが弱かったから・・・!!!」

いつからだろうか。気付けば涙がこぼれていた。止めたくてもまったく止まる気配は無く、溢れ出す感情と共に
流れ続ける。

「フォル・・・」

「オレ・・・もっと強くなりたいです・・・!誰よりも!誰にも負けないくらいに!もう、二度と後悔はしたくない!」

しばらくの沈黙。フォルの泣き声だけがあたりに響く。ふと、美鈴がいつにない真剣な表情で沈黙を破る。

「フォル。貴方が来てから今までの間、貴方の勇気、素質、全て見させてもらいました。」

美鈴が静かに語る。今まで見てきた雰囲気とは違う厳かなもだった。

「貴方はまだまだ強くなれる。自分を犠牲にしてまで仲間を想うその気持ち。その心が我々にとって一番大事なもの。
 フォル、私の門下に入りなさい。貴方にはその資格がある」

静かに、優しく、だが厳かにフォルを見おろす。決して強制はせず、フォル自信に考えさせる。

「宜しいんですか・・・?」

「貴方が望むのなら」

隊長の噂は聞いている。こと、格闘においては幻想郷でも1、2位を争うほどの武術の使い手である。だが、決して
弟子は取らず、その武術もあまり公にされることは無かった。その彼女が弟子をとる。それは大変な名誉でり、
大きな例外でもある。彼女は考え、悟ったのだろう。この者になら自分の後を任せられると。

再びの沈黙。だが、彼の顔には涙は無く、決意の表情としっかりとした眼だけがあった。


「今日より貴女を師と仰ぎ、絶対の忠誠と永遠の不逆を誓います」



ども、大二郎です。性懲りもなく2話目をつくっちゃいました。過去のお話は簡単に済まそうと想ったのに
あれよあれよととんでもなく長いお話に。てか、3話構成じゃ終わらないかも・・・;;

今回のメインはフォル君が美鈴に弟子入りするまでを書いてみました。分からない所、読みづらい所
多々あるとはおもいますが、シベリアのような広々とした心でお読みくださいまし。

文句・罵声等、皆様の意見をお待ちしとります。
大二郎
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コメント



0.250簡易評価
3.80時空や空間を翔る程度の能力削除
読み応えがあります。
続編楽しみにしてます。
6.無評価椒良徳削除
>目を覚まさない可能性のが大きいと。
は「目を覚まさない可能性が大きいと。」でしょう。

なんというか、一人称と三人称が混ぜて使われているのに違和感。
視点を変えるのならば、せめて場面が変わった所でしたほうが良いと思いますよ。

>キンッ!
>キーン!
>ドンッ!!
>ドカーーン!!

戦闘シーンをこんな風に擬音でまとめてしまうのはもったいない。
もっと細かく描写したほうが良いと思います。

あと、別に難しい語彙を使っているわけじゃないのに、妙に読みづらいです。

この作品の評価は、後編でまとめてさせていただきます。