#「今回の作品はアリ×マリではありません。+紫×レイでもないので嫌な方はプラウザで戻る事をお勧めします」
#「なお今回のは作者の妄想具現化に近いので注意」
いつから、あの魔女の事ばかり考えていた事だろう。
出会ったのは子供の時。まだ母様や父様と一緒に神社に住んでいた時。
人里でもっとも大きな道具屋として霧雨家は栄えているのを知っていた。
そして霧雨家と博麗家が深い知り合いなのも。
けれど、最近になって初めてわかったのだ。
私が、あの黒白の魔女をとんでもなく好きなのだという事を。
その「好き」という認識を確認出来たのは、人形遣いの少女が魔理沙とよく接している時にくる胸の痛みで気づけた。
私は他人に対して興味がわかないとずっと思っていた。
けれどそれは、わかないのではなくて・・・自分が気づいていなかっただけで。
いがみ合っている二人が、とても羨ましく思えて。
何だか自分が除け者になった気がして・・・そこからどうしてこんな感情が二人を見てわくのだろうと思うようになってしまって。
それで、私は魔理沙の事がとても好きなのだと。その結論に辿り着いた。
けれど、結論に辿り着いても私は動けずにいる。
好きだと。魔理沙の事が大好きだといったらこの関係が崩れてしまいそうで・・・。
「・・・・・・・・・はぁ」
この感情を胸の内にくすぶらせてからどれぐらい経ったか。
神社の掃除をしていたが、どうしても魔理沙の顔が頭の中に浮かんでしまい、掃除に身が入らず、そのまま放棄してしまった。
ぼーっと、空に広がる青空を見上げる。
「・・・・・・」
このまま眼をつぶって寝てしまおうか。そうすればこの感情に悩まされることもない。
そう思い、徐々に目を瞑って意識をなくすときだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・なにしてるのよ、紫」
わずかにだが、目を瞑った瞬間によく顔を出す妖怪の妖気を感じ取った。
霊夢の言葉に促されるように、視界に広がっていた空に裂け目が生じ、「隙間」が出現する。
「あらあら・・・そのまま寝てくれたら面白い事を出来たのだけど」
隙間の中からいつもの紫と白を基調とするドレスに、フリルが付いた日傘を手に持った八雲紫が出てきた。
霊夢の横に降り立つと仰向けに寝っ転がっている霊夢の顔を覗きこむようにして微笑する。
「例えば口付けとか・・・ふふ、お姫様を起こすいい趣向だとは思わない?」
「全然」
即答して私はため息をつきながら紫の顔をどかして、身体を起こす。
今は人と話す気分ではない。人ではなく妖怪だが。
「つれないわねぇ~。折角会いに来たって言うのに」
「生憎私は・・・・・・今はそんな気分じゃないの。他の暇そうな話し相手に当たってちょうだい」
草履を脱いで神社の中へと入る。少し早いが、夕飯の仕込みでもしてしまおう。
「・・・・・・・・・悩み事かしら?」
静かに、そう背中越しに言われ、心臓が跳ね上がる。
振返って紫を見て見れば微笑のまま縁側で空を見上げている紫が。
「どんな悩み事かしら?誰かに打ち明けてみれば少しは気が晴れるなんて思わないかしら?」
そう言われ、内心動揺が走るが、顔にまでは出していないはずと、鼓動が早くなっている心臓を落ち着けさせる。
「私は何も悩んでなんかないわよ。ただ、気分が悪いだけよ」
「嘘ね」
ばっさりと、その言葉で心が切られたような気がした。
「ならなんであんな思いに耽るような顔をしていたのかしら?掃除中ずっーとあんな顔をして・・・まるで誰かに恋をしたかのような顔をしていたわよ」
青空を見上げていた顔がニタリ、とこちらに振り向いた。
「・・・アンタ、いつからここにいたの・・・」
「神社の掃除をはじめた時からかしら。いつもの霊夢なら近くに来ただけで気づく筈なのに、気づかないのですもの」
やれやれとお手上げのポーズをしつつ、紫はポンポンと霊夢がさっきまで座っていた所を叩いて手招きをする。
「誰かに打ち明けた方が楽な時もあるわ。そういう話はね」
霊夢はその言葉に少し迷い、首を横に振って答えた。
「言ったところで何かが変わるわけでもないわ」
「そうかしら?少なくとも霊夢が誰に恋をしているか聞けば私にはわかるわ」
自分勝手な事を言って二コリと笑う紫。
「・・・・・・・・・はぁ」
その笑顔に、何を思ったのか。首を横に振った筈の霊夢は紫に手招きされた縁側に座る。
「いいわ。そんなに聞きたいのなら、聞かせてあげる」
そこで少し深呼吸をして、横に座っている紫を見ずに、青空を見上げながら答えた。
「どうやら私、魔理沙に恋したみたい――――」
「・・・ゆ・・・・・・・・・・・・・・・さま!」
誰かが呼んでいる気がする。
「・・・・・・・・お・・・・・・・・・き・・・・・くだ・・・い!」
まどろみの中その声に反応して眼を開けてみれば、私の身体を揺らす藍の姿が映った。
「藍・・・・・・?」
「やっと起きましたか・・・・・・お夕飯の支度が出来たので食べますよ」
ため息を吐きつつ藍は紫が起きた事を確認し、紫の部屋を出る。
紫は目をこすりつつ、壁に立てかけてある時計を見る。
時刻は9時、夕飯というにしては少し遅い時間だが、霊夢の所に行って今寝ているのだから、これぐらいが紫にとって丁度いい時間であった。
「・・・・・・」
紫は昼のやりとりを思い出す。
霊夢はあれから魔理沙に対する想いを紫に打ち明けた。
紫はそれを聞いていて、霊夢も普通の少女なのねと思ったのがまずあった。
誰に対しても同じように接する霊夢。そんな少女が他人に興味を持てるのか?と思った時もあったが、こうして恋する相手が出来た事は、それだけで紫にとって喜ばしい事でもあった。
紫はそれに対して好きなら好きって言ってしまえばいいと言った。
だが、霊夢は・・・本当にらしくない事を言って力なく返した。
今の関係を崩したくないと。
「・・・・・・・・・どうしてこうイライラするのかしら」
昔の、嫌な過去が頭のなかでよぎる。
私は色んな者と何千年と接してきた。
生まれてきた当初は、この境界を操る能力を純粋に、欲しいものに使った。
数多の人間の血肉を食らいつくし、時には気に入った人間とお喋りし、時には・・・・・・・・・。
「・・・」
思い出しただけで暗い感情が身体を駆け巡る。
その感情をグルグルと巡らせながら、徐々に、徐々になじませた。
「藍の御飯食べに行かないと・・・」
フラフラとまだ寝起きで力が入っていない身体を動かしながら食卓が並ぶ居間へと向かう。
食べ終わったらまた後で霊夢の所にいこう。うまくいけば寝ている霊夢の姿が見られる事だろう。
そんな事を思う紫であった。
昼間はあれだけ晴れていたというのに、空を見上げれば暗い雲が空を覆っていた。
「これは・・・降るかしら」
魔法の森の頭上を飛んでいる霊夢は今、魔理沙の家に向かおうとしている。
別に紫に言われた通り好きなら好きと言ってしまえばいいという行為を実行しにいくわけではない。
ただ・・・少し気になっただけだ。
今何をしているのだろうかとか夕飯は食べたのだろうかとか。
自分の頭の仲でもそれが口実なのだとわかっている。
ただ会いたいだけ。その姿を見たいだけ。
それでも何か言い訳しないとわざわざこんな夜更けに見にいかないだろう。
魔理沙の家が見え始めた辺りで、とうとう、ポタポタと頭に水滴が当たる感覚がした。
霊夢は魔理沙の家に降り立って、完全に雨が降ってくる前に中に入れてもらおうと、魔理沙の家の窓を横切ろうとした。
だが、偶然か、それとも必然か。
アリスが、魔理沙にキスをしているのがみえた――――
「あら~?」
藍が用意してくれた夕飯を食べ終わり、博麗神社へとまた隙間で来たのだが・・・
「いないのかしら?」
神社の外を見れば雨の音がしてくる。あれだけ昼は晴れていたというのに。
紫は完全に隙間から出て神社の中で霊夢を待つことにした。
何処にいったのかしらと思い、昼間のやりとりを思い出す。
「もしかしたら関係を崩したくないなんて言っておいて好きだって言っていたりして」
それだったら私はニヤニヤしながら霊夢をからかえるネタがまた増えて嬉しいなとか思ってしまう辺り、酷い女なのかもしれない。
どれくらい、経っただろうか。
外では雨の勢いが少し増してきている。
「・・・・・・・・・」
もしかしたら、帰ってこないかもしれない。魔理沙の家に行っているのか誰の家に行っているのかわからないが、この雨だ。神社に戻るぐらいなら何処かに泊まって明日の朝に戻る可能性の方が高い。
「・・・魔理沙の家に行ってみようかしら」
もしかしたら霊夢が好きだと言って情事に浸っている可能性も拭えないが、それはそれで面白い現場を見られていいか。と、軽い感じで隙間へと移動する。
魔理沙の家の中に入って見たのは、魔理沙が椅子に座って寝呆けている姿だけだった。
隙間から顔だけ出して他に誰かいないものかと見渡すが、誰もいない。
「・・・ここには来なかったのかしら?」
椅子の上で寝ている魔理沙を見るが、起きる気配もない。
起こして霊夢が来たか聞くべきか?とも思ったが、そのまま隙間の中に顔を引っ込める。
何をしていたのかは知らないが、手に魔法書を抱えて寝ていた事から、読みふけっていて寝てしまったのだろうなと勝手に解釈してしまった。
それに霊夢が来ていたらいてもいいはずなのだ。
他に宛がありそうな場所は何処かともう一度神社に戻って考えていた。
――――――ジャリ
雨が降っていて、そんな音は聞こえてこないはずなのに、紫は誰かが徐々に神社に近づいてくる足音が聞こえた。
「・・・・・・霊夢?」
神社の外に出て日傘を差しつつ、明かりも何もない暗闇の中に声をかける。
「・・・・・・・・・・・・・」
そこには、雨でズブ濡れになっている紅白の巫女衣装を着た少女が立っていた。
「霊夢!?」
すぐに駆け寄って日傘を霊夢の上に差す。
霊夢は、ボンヤリとした、生気のない目をしたままそこに立っている。
「どうしたの・・・何があったのよ」
そんな霊夢を初めて見て、いつもはからかうだけの紫が真剣な表情のまま霊夢に問いかける。
「・・・・・・ゆ・・・・か・・・・・・・り」
そこでようやく、私を認識したのか、私の顔を見ながら・・・・・・・・・霊夢は涙を流した。
「ゆか・・・・・・・・・り!」
涙を流しながら私に抱きついてくる霊夢。日傘が、横に落ちてしまった。
「おそか・・・・・った!もう・・・・・・おそかった!」
泣きじゃくりながら私の胸のうちで泣き続ける霊夢。
「魔理沙は・・・・・・・・!もう・・・・・・アリスのものだった!」
私はその言葉で、わかってしまった。魔理沙の家に行って、よくない何かをみたのだと。
「もう・・・・・・何もかも・・・・・・遅かった」
雨が降っている。
泣き続ける少女が、いつもの霊夢に見えなくて・・・・・・頭の中で何かが囁いてきた。
ウバッテシマエ――――
頭の中の「ソレ」は、とても甘美な響きをしていた。
イマナラオマエノスキナヨウニデキル―――――
これは何なのか。
ジュウリンシロ、ウバエ、オカセ、頭のてっぺんから足の先まで喰らい尽くせ―――!
あぁ、そうか。久しく忘れていたわ。
コレハ、私の、ホンノウだ。
霊夢の白い肌が目に映る。
絹のように綺麗な肌、輝くような黒髪、見るものを惑わす身体―――
唇を奪い、押し倒し、その首筋に牙をタテタイ。
その身体を隅々まで、血の一滴まで食らいつくしたい。
霊夢を強く抱く。
今なら――――イマナラ――――
そのまま私は―――――
全力で、自身の舌を噛み切った。
囁くような声はもう聞こえない。口の中に鉄の味が広がっていくが、痛みは一瞬だけだ。
霊夢が私の顔を見ないように、強く霊夢の頭を抱えるように抱く。
雨が降る中、霊夢の身体は冷たかったが、それでも、この少女を離すわけにはいかなかった。もう、二度と、大切な者を自分から奪うなんてことは御免だ。
「・・・・・・・・霊夢」
舌が治り、ようやく口が開けるようになって、抱いている少女に紫は優しく声をかける。
「魔理沙の家で・・・何を見たのかはわからないけれど」
赤ん坊をあやすように紫は霊夢の髪をなでる。
「それでも・・・・・・貴方が臨んで・・・・・・この世界に魔理沙がいる限り・・・・・・遅かったなんて事はないわ」
だから、悲しい涙を流さないで――――
それから、どれくらいの時間が経った事だろう。
数分だったかもしれないし、数時間だったかもしれない。
「・・・・・・・・・・・・」
紫と霊夢はズブ濡れになって冷え切ってしまった身体を温めるために、神社のお風呂に入っている。
そんなに大きくない浴槽だったせいか。二人で入ったらきつそうねぇと言って、少し心配だったが「隙間」で自宅に戻ってからお風呂に入ってしまおうなんて紫は思っていたのだ。
なのに、霊夢は無言で紫をお風呂に誘った。服の裾を引っ張って。
今身体を洗い、浴槽の中、背中と背中をくっつけ合って体育座りするように浴槽に入っている。
「・・・・・・」
どちらとも無言のまま浴槽に浸かっている。
霊夢はあんなに泣きじゃくった為に気恥ずかしく、紫はその霊夢を奪いたい衝動に駆られ、罪悪感で声をかけづらかった。
「・・・・・・・・・紫」
ずっと無言だったが、霊夢は決心して声をかける。
「その・・・ありがとう。そうよね、魔理沙がいる限り、遅いなんて事ないわ。私、頑張ってみる」
その言葉に、紫はええと返して。
「頑張りなさい、貴方達人間は、添い遂げられるのだから」
何千年も生きる紫こそが言える言葉であった。
アリスが魔理沙にキスしたとき、魔理沙に意識があったのかが暈してあるところがまた良いですね。こ~ゆ~の好きで。
紫も魅力的ですね。暴走せずに無理やり抑えるなんて。
なんか…霊夢×紫を読みたいです、この話の続きの。
紫が霊夢をどうにかするんじゃなくて、霊夢が自分に気をかけてくれる紫を
好きになるような話って感じの。
話の流れは氏の作品の中で一番好きでした。
描写も過不足なくていい感じです。
霊夢、紫それぞれの葛藤がうまく出ていて楽しめました。
唯一言・・・・・・・
素晴しいと・・・・・。
「これは霊夢か?」と思うぐらいイメージが違ってましたw
母性本能以前の問題で妖怪としての本能を抑えた紫にご苦労様。
レイマリも悪くないけど霊夢×紫もまた一つのカタチなのでしょうね。