д 「こんなアリス×魔理沙は認めない!と思った方はプラウザで戻る事をまずお勧めします」
「+公式東方求聞史記に基づいて書いてありますが、それでも未だに少し分らない部分があるのでそこは読み手の方々のイメージで歪曲してくださいませ」
「・・・よっと」
日課となっている倉庫の棚の整理を終え、店の前に出してある道具の方の整理も始める。
魔法の森の入り口と立地条件が悪く、滅多に人は来ないが、それでもお客が一人も来ないというわけでもなく、日々こうして森近霖乃助は店の在庫整理や掃除、その他諸々をお客に提供できるような環境を作っている。
・・・それでも店の前にはごちゃごちゃと「商品」が固まっている具合だが。
もっとも、大抵が香霖堂の事を「便利屋」と勘違いしている感が強く、店として成り立っているか疑問な部分が多い。
―――――カランカラン
「いらっしゃいませ~」
ドアが開くと鳴るようになっているベルが鳴り響き、お客をもてなそうと顔を上げる霖之助。
「よ、香霖」
そこには、「店」としてではなく、「便利屋」として最も見ている黒白の魔女が立っていた。
「・・・魔理沙、か」
また何か「借りるぜ」と言って持っていくんだろうなと思いつつ、霖之助は道具に傾いていた身体を魔理沙に向きなおす。
「今日は何を持っていくんだ?」
「失礼な。借りるだけだぜ」
開け放っていた扉を閉め、魔理沙も霖之助と向かい合うように立つ。
「・・・それを何度聞いた事か」
だが阻止するという選択肢は霖之助の頭にはない。断ればマスタースパークが飛んできて無理やり取っていくという身体を痛めるだけという状況になるのは目に見えている。
しかし魔理沙が今回欲しがった物は前回、前々回、否、今回が一番軽い注文であった。
「あぁ、とりあえず・・・裁縫箱に・・・布と綿をくれ」
もはや借りるとも言わずくれという魔理沙。
「・・・・・・それぐらいならすぐに渡すが・・・・・・」
今までの外の世界の道具や魔法書を持っていかれるよりかなりましなのだが、どうにも府に落ちなかった。
思考を巡らしつつ霖之助は倉庫から何に使うのかわからない多色の布一式と布団や服等に使用される綿を黒い袋に詰め込み、後は手提げで持てる裁縫箱を袋とは別に用意する。
「こんなものでいいかな?」
黒袋と手提げ裁縫箱を魔理沙に手渡す。
中身を確認して魔理沙は頷く。
「あぁ、ありがとな香霖。ここで無かったら人里まで降りるはめになってたぜ」
そこまでして欲しかった物なのか、魔理沙はニカリと笑って嬉々と箒に裁縫箱と綿と布が入った黒袋を吊るす。
「お得意様の一人がよく布と綿を注文するものでね・・・・・・?」
そこで霖之助ははたと思った事を口にしてしまった。
「もしかして、魔理沙も人形を作るのかい・・・・・・?」
お得意様というのは最近・・・いゃ、もうかれこれこの香霖堂を使い始めて一年にはなる、魔理沙とはまた違う、人形を操って闘う魔法使い。
自分で人形を作るのか、よく綿と多色の布、魔法の糸等を注文していく。
「ぁー・・・うん、まぁそんなところだぜ」
魔理沙は霖之助のその言葉にはぐらかすように相づちを打つ。
「と、とりあえず借りてくぜ。ありがとな!香霖」
何に動揺したかは分からないが、魔理沙は一目散に香霖堂のドアを開け、走りながら箒にまたがり、飛んでいった。
「・・・・・・・・・」
それを呆然と見送る霖乃助。彼は初めて、魔理沙が赤面して照れるなどという横顔をみたために呆然となったのであった。
「ふぅ・・・・・・」
自分がおかしくなかったか、香霖に人形を作ることを当てられ、過剰に動揺してしまった。
「アリスにバレなきゃいいけど・・・・・・」
もし香霖がうっかりアリスに魔理沙が人形を作るなんて事を言ってしまったらこちらの目論見は全て終わりだ。期限まで後三日もあるというのに、アリスがもしも香霖堂に注文しに行った時に香霖がこの事をうっかり喋ってしまったらと思うと気が気でならない。
「・・・・・・・・・口封じしておくべきだったぜ」
まるで香霖を殺すかのような口ぶりだが、魔理沙はそこまでは考えていない。あくまでアリスが来たとしてもバレないように魔理沙が人形を作っているという事実を言わないでほしいだけなのである。
戻って言うべきかとも思ったが、それで万が一余計な人物に鉢合せしたらと思うのもあり、人形を作る作業を優先しようと自分の家へと急いで向かう魔理沙であった。
後に、ここで霖之助の口を塞いでおくべきだとも知らずに。
霖之助は椅子に座りながら、思案していた。
さっきの魔理沙の動揺振りは、どうみても何かを隠しているような気がしてならない。
恐らく自分が言った人形を作るのか?という問いはあのうろたえからして間違いないのだろう。
「しかし何であんなに動揺したんだ・・・?」
今日の魔理沙はどうみてもいつもの魔理沙ではなかった。
アリス・マーガトロイドの人形劇を見て自分もやりたくなったのか・・・?
それとも同じような人形操りでのスペルカードバトル・・・?
「・・・・・・・・・・・・・・・駄目だ。僕にはサッパリわからない」
折角店の整理整頓をしてお客が来るのを待っていたが、今日はもう店じまいだ。
あんな魔理沙を見せられてしまったら、悶々として営業継続は無理そうであった。
外出の身支度を整え、香霖堂を出る。
「こういうのは・・・近況を知っていそうな人に聞くべきだな」
本人に聞きに行くのでもよかったのだが、恐らく何に用途するかは教えてくれないだろう。
よって、近況を知っていそうで、暇を持て余していそうな巫女に会いに行こうと博麗神社へと向かう。
「はぁ~・・・」
紅白の巫女衣装に身を包んでいる霊夢は、境内の掃除に明け暮れていた。
「やってもやっても変わらないわね・・・」
桜が満開に咲いているこの境内では、桜の花びらが地面を覆い尽くすように落ちている。
その中をひたすら掃除しているのだが、何度掃っても変わりないように地面に桜が散っている。
「いい加減辞めておいたら?参拝客もいないのだし、こっちに来て一緒にお茶でも飲んでお花見をしていましょう?」
と神社の縁側で紫色のフリルドレスを着た、漆黒の翼を背中に生やした幼女が神社に似つかわしくない紅茶を飲んで霊夢の掃除姿を眺めていた。
「・・・はぁ、そうね。少し休憩しましょ」
流石に疲れたのか、箒を縁側の横に置き、置いておいた魔法瓶から自分の湯飲みに緑茶を入れる。
「ふふ、こういうのもたまにはいいわね」
いつもは日光の下にあまり出ないレミリアなのだが、妹のフランと夜中に少しばかり戯れをしたせいか、そのまま寝てしまい、昼ごろに起きてしまったのである。
起きてしまったからには何かしようかしらと思ってみたものも、特にこれといった事がなく、じゃあ霊夢に会いに行こうかしらと今に至るわけである。
霊夢はというと、参拝客は来ないが、境内に埋もれていた桜の花びらを見て掃除しようかしらねと、意気込んで箒を持って掃除を始めた所で、レミリアが日傘を差して上がってきたので縁側に座っていてと言い、掃除を黙々としていたのである。
時間をみれば丁度3時頃、お茶のついでに柏餅も用意し、3時のおやつと洒落込んでしまおう。
「レミリアも食べない?柏餅」
紅茶を優雅に飲んでいた紅の吸血鬼に用意した柏餅を勧める。
「ありがたく頂くわ」
紅茶を縁側に置き、勧められた柏餅を上品に食べるレミリア。
それから少し間があいた。お茶を飲んで、柏餅を食べながら、風と共に散る桜をただ黙って見る。
このまま眠ったらさぞ気持ちいいんだろうなぁと思いつつ霊夢はその春の陽だまりを満喫していた。
「おや、先客がいたか」
どれぐらいその陽だまりを満喫していたのか。
神社の階段を登って、やぁと手を上げる霖之助さんがいた。
「珍しい、どうしたの?霖之助さん」
ここにはあまり来ないはずの霖之助さんが来るというのは何かあったのかと戸惑う。
香霖堂も本来ならまだ営業しているはずの時間の筈だ。
「いゃ、少し聞きたい事があったのだけどね・・・」
チラリと霖之助はレミリアの方を見る。
「私の事は気にしないでよくってよ。霊夢に会いに来ただけですし、香霖堂のご主人」
構わず話せとレミリアに言われ、それじゃあと霖之助は霊夢に本題をはなす。
「魔理沙と・・・・・・アリスちゃんの近況とか霊夢ちゃんは知らないかな?」
「・・・・・・・・・」
神経を指に集中させる。
まずはこれが出来なければ始まらない。
そぅーっと・・・・・・・・・そぅーっと・・・・・・・・・。
目前までそれは指と指の合間に挟まっている。
このまま真っ直ぐ入れれば・・・・・・・・・。
徐々に近づかせていき・・・裁縫針の穴に糸が貫通することは・・・・・・・・・・・・なかった。
「ダァーーー!クソ!」
これで計八回目の裁縫針に糸を通すという行為を失敗した魔理沙は地団駄を踏んでしまう。
まさかここまで指先で行う作業が難しいとは思ってはいなかった。
「ぁー・・・ホントにイライラしてきたぜ・・・・・・」
自宅に戻ってすぐに作業に取りかかったはいいが、初手の初手、人形作成の為に必要な裁縫針の小さな穴に糸を通すという事すら出来ないでいる。
いっそのこと諦めてしまおうか?と早くもおもってしまうほどだ。
「・・・・・・それは無理だぜ」
一ヶ月も前から計画していた事なのもあれば、何を送ればアリスが喜んでくれるのだろう?と悩みに悩み抜いて考えた行動である。
それをこんな簡単に諦めてしまうなんて無理がある。
もう一度裁縫針と糸を指先に持ち、徐々に、糸を近づけていく。
´アリスの為に´作る人形の作業は、まだ始まったばかりだ。
「アリスと魔理沙の近況・・・」
2杯目のお茶を飲みつつ霊夢は霖之助にされた質問を反芻するようにして考える。
「魔理沙が持っていった物が人形の材料としか思えなかったものでね。本人に聞くのは無理そうだし・・・かといってアリスちゃん直々に聞くのは後が怖い」
「あら?それはどうしてかしら?」
横で事情を聞いていたレミリアは、何か「面白い」話を聞くかのような笑みを顔に張り付かせながら霖之助に聞き返す。
「僕も魔理沙とアリスちゃんが、仲が良い事ぐらいは知っている。それで普通に考えれば魔理沙は僕の所じゃなくアリスちゃんの家に人形の材料を貰いにいくだろう?人形を何十個も製作するような数を注文するアリスちゃんだ。材料が余っているだろうし、何より、僕の所より確実に手に入るだろうしね・・・それであの発言だ。ここでなかったら人里まで行く必要があった。人形を作るのかと聞いたら見たこともないような赤面。ここまで来たらアリスちゃんに隠れながら人形を製作すると思ってもいいと思うんだが・・・僕の考えは間違っているかい?」
少し知的にかけていた眼鏡を上げつつ霖之助は説明してみせた。
「ふふふ・・・私の考えていた事と大体一緒よ、香霖堂のご主人。それで、そこまで読みつつでは何の為に人形をアリスに隠れながら作るのか?って所まで来てわからなくなったわけね」
少し肩をおどけさせながら霖之助は理解が早くて助かるよとその場でため息をついた。
「隠すって事はアリスちゃんに直前まで知られたくない・・・もしくは完成した人形をアリスちゃんにプレゼントでもするのかな?とか色々考えたのだけど・・・近況を知らない僕には全く想像がでない話なものでね。そこで二人の近況を知っていそうな霊夢ちゃんに聞きにきたのだけど・・・」
その霊夢はというと、さっきからうーんと首を傾げるばかりで答えが出てこないようだ。
「・・・何か喧嘩したとか、アリスちゃんの誕生日が近い・・・とか何でもいいんだ。魔理沙が何をしようとしているのかが分かればスッキリ出来る」
自分でも何故そんなにこだわっているのか、霖之助は香霖堂を出てここに来るまでに考えていたが、恐らくそれは・・・魔理沙が赤面して照れて何かをするという新鮮なモノを見てしまったからに違いないと一人愚痴りながら来てここでスッキリしておきたかったのだ。
どれぐらい霊夢は首を傾げていた事だろうか。
「あ」
ふと、何かに気づいたかのように霊夢は答えを´見つけて´しまった。
「丁度一年・・・・・・」
「え?」
その言葉に霖之助は疑問符を作るが、横にいたレミリアはあぁ、と納得した。
「なるほど・・・魔理沙も可愛いところがあるものね」
「え?え?一体何の話なんだい?」
その言葉に霖之助は自分だけ置いてかれている気がして聞き返す。
「アリスと魔理沙が出会って、もうすぐ一年のはずなのよ」
それぐらいしか霊夢は出てこなかった。最近喧嘩をしたとも聞かないし、アリスの誕生日はもっと先のはずだ。
「まさか・・・出会って一年の記念日だから人形をプレゼントするっていうのかい?」
そんな結婚記念日みたいな事を魔理沙が?と思ってしまう霖之助。
いつもの魔理沙を考えてみればそれはどうしても結びつかない。
「それぐらいしか考えられないわよ。後三日・・・人形を今日から製作したら完成した人形を今日中に渡すのは無理・・・アリスなら数時間で大量に出来るかもしれないけど、初めて人形を作る人なら数日は時間が欲しいと思うはずだわ」
「・・・・・・・・・霊夢」
そこまで話していてふと、横にいるレミリアが何か企んでいそうな顔をしている事に気づく。
「な、なに?レミリア」
「確信は持てなくても・・・その魔理沙とアリスが三日後に出会って一年目という話は間違いないのね?」
霊夢は何かまたレミリアが面白い事を考え付いたのを悟ってしまう。
「え、えぇ。間違いないわ」
その返事を聞いて、ニヤっと、悪魔らしい笑みをするレミリア。
「ならこっち側から祝えばいいのよ。その記念日を」
「・・・・・・よし」
いつも通りに手早く作った人形を魔法の糸に通し、操ってみる。
人形は空中に浮かぶとその場で旋回を初め、テーブルに滑降するように降り、そのまま置いてあった中身は空のコーヒーカップをその両腕で掴むと、そのまま台所の洗い場へもっていき洗い始めた。
「ん、問題ないわね」
その動きにアリスは自分に合格点を与えて、椅子から席を立ちつつ、窓辺に移動する。
窓から映った景色は、既に日は傾いており、太陽に代わって月が出ようとしている所である。いつものように、夜中の魔法の森は常闇に包まれていた。
「・・・・・・・・・はぁ」
人形を作り終えて気分がいいはずなのに、アリスはため息を吐いてしまう。
原因は最近の魔理沙の行動にある。
「・・・・・・なんで会いに来ないのよ。馬鹿」
魔理沙は覚えているだろうか?今日という日を過ぎれば後二日後に、私と魔理沙が始めて出会った時という事を。
ここ最近はあの黒白の魔女とは会っていない。自分が人形制作に没頭しているのもあるが、いつもなら何の唐突も無しに人の家に上がってくるというのに、ここ最近はそれもぱったりと無い状態だ。
何か嫌われる事でもしたのだろうか?と不安がよぎってしまう。
「・・・ぅ」
魔理沙に嫌われたらと思うだけでこんなにも悲しくなってしまう。
いつから、こんなに孤独に耐えられなくなったのだろう?
いつからあの黒白の魔女の事ばかり考えていたのだろう?
いつから・・・・・・魔理沙を好きになってしまったのだろう?
それはきっと、あの出会った瞬間からだ。
アリスは窓に映っていた自分の顔が涙でぐちゃぐちゃになっているのを見て、その考えをやめた。
「・・・・・・・・・・・・」
チクチクと裁縫針と糸を布に通していく。
布と布を合わせるこの反復運動は綿を中に入れる為の大切な作業だ。
形をまず形成してから綿を入れていかなければ、膨らみが何処かに偏ったりしてしまい、いびつな形になってしまう。
前にアリスに人形を製作しているときに聞いた言葉を頭の中で思い出しながらチクチクと通していく。
ブスッ。
「~~~~~~~!」
と、普通に布に通していたはずなのに、´また´針を自分の指に刺してしまった。
指先から赤い雫がポタポタと流れる。
「・・・駄目だ」
針と繋ぎ合わせていた布を裁縫箱の中に押し込み、そのまま二階に上がって寝室のベッドに顔からダイブした。
お腹がかなり空いていたり、髪の毛もツヤが無くなっていてお風呂に入らないと・・・等思うのだが、極度のストレスと頭痛でそのまま意識をばっさりとなくす。
記念日まで、既に後二日となっている真夜中の話である―――――
「何でこんな事になったんだろうねぇ・・・・・・」
まさかの香霖堂二日目の休業をし、今霖之助は紅魔館の客室にいる。
あの後霖之助は策を練るから明日ウチに昼ごろいらっしゃいと霊夢に言い、日傘を差して神社を去っていった。
それを見て霖之助は霊夢に言ったのだろうと思い、じゃあ僕も戻るよと、神社を後にしたのである。
後日・・・昼に迎えに来た紅魔館のメイド長と、霊夢によって、ここに連行された。
「霖之助さんがレミリアの前で言ったのが悪い」
じと目でそう横に座っている霊夢に言われ、霖之助はため息をつくほかなかった。
霊夢ははっきりいって今回は巻き込まれた形だ。ただ相談に持ちかけられて、面白そうだから片棒を担いでほしいと。
「悪いわね、待たせてしまって」
呼び出した本人が咲夜と共に客間のドアを開いて現れる。
「・・・・・・ええと、レミリア?」
「何かしら?」
レミリアはニコニコと笑みを絶やさず霊夢と霖之助の向かい側のソファーに座る。
「その・・・・・・何でプリズムリバーの連中がここにいるの?」
レミリアと咲夜が出てきたのはわかったが、廊下の方で何故か床に転がっているプリズムリバーの面々。
「祝い事には演奏が必要でしょう?だから二日後の記念日の為にここに呼んだのよ」
それで少し遅れてしまったけれど。と付け足す。
絶対に呼んだのではなく、力づくで連行したんだろうなぁ・・・と霊夢は思ったが、口には出さない。
出されているクッキーに手をつけつつ話を切り出す。
「で、あの後どうすることにしたの?レミリア」
「そうね。まず霊夢にお願いすることは神社を祝い場所として提供してもらう事。香霖堂のご主人にはある物を用意してほしいって所かしら。料理や運営の系統は全部私の方でやらせてもらうわ」
咲夜の入れた紅茶を飲みつつ、レミリアはここに呼んだ事を単刀直入に言った。
「・・・本当にやる気なのね・・・」
はぁ、とまた深いため息をして、ソファーに身体を預ける。
「・・・いいわ。二日後の・・・何時にやるのかは知らないけれど、そっちで準備をしてくれるのなら場所を提供するわ」
もはや投げやりに言う感じに場所の提供を承諾する。
「ありがとう」
「・・・で、僕は何を用意しろと・・・?」
霖之助は自分がどんな難題を言われるのかで少し不安になる。
「簡単なものよ。昨日パチュリーとこの事を話していて、夜中にやるなら光があったほうがいいって話になって、その時に地下の図書室で、魔法光で周囲一体を輝かす物をパチュリーが見つけてくれたから、その材料を用意してくれないかしら?」
「その材料をみて見ないことにはわからないが・・・何故夜中にやるんだい?」
祝い事等は昼間辺りにやればいいのではないのだろうか?夜中では神社の帰り道等に妖怪がたむろする中を帰る事になる。
「昼間だったら行けない人が出るからって言えばわかるかしら?主に私の妹とか」
人ではなく吸血鬼なんだが・・・とか野暮な事を言おうとして霖之助は口を噤む。
「まぁ・・・祝う事自体には僕も賛成だからね。協力させてもらうよ」
「ありがとう。じゃあ、二日後に最高の形で祝福出来ますように」
紅の吸血鬼は高らかにそう言い、残りの紅茶を飲み下す。
アリスと魔理沙の知らぬ所で、大規模な祝い事は着々と進行していた。
「・・・・・・はぁ」
チクチクと裁縫針を´2体目´となる人形に通す。
朝に目を覚まして朝風呂や空いていたお腹に何か詰め込もうと保存しておいた食べ物を貪って、再び人形制作に取りかかっていた。
一体目は朝から再スタートして、昼ごろには出来たには出来たのだが・・・。
「・・・ちゃんと作ったはずなのになんで歪になったのかね・・・」
チラリと、テーブルに置かれている人形を見る。
アリスが使っている人形と比べると、腕が綿を詰めすぎて盛り上がっていたり、足が綻んでいたりと、かなり・・・渡すとしては失礼なものだった。
「くそ・・・こんな事ならもっと前から製作に取り組むべきだったぜ・・・」
一人で愚痴りつつ、慎重に針を人形に通していく。
黙々と続けていたせいか、さっきは裁縫針の穴に糸を通すのが三度目で成功し、自分の指に針を刺してしまうという行為も徐々に少なくはなっている。
後はちゃんとした形にするだけ・・・とピンと左手の人差し指を伸ばした瞬間に―――
「あ」
自分でも分かってしまった。右手に持った針が、左手の人差し指に突き刺さる瞬間が。
ブスッ。
「~~~~~~~!!」
わかったのが悪いのか、その痛みは、今までで一番痛かった。
声を上げなかっただけ魔理沙は強かったと言っておこう。
「あーーくそ!」
テーブルに置いてある救急箱から包帯を取り出す。
受け手となる左手は既に何度ささったかわからないほどに包帯が巻かれていた。
人差し指に手早く包帯を巻き、ピンで止める。
そして再び糸を通している人形を左手に持ち、右手に裁縫針を。
少し楽になったからといって油断してはいけない。魔理沙はまた教訓となる事をこの人形制作によって学んだのである。
再び糸を通す針を右手に持って人形に通そうと勢いをつける・・・が、勢いをつけたのがいけなかった。
ブシュ。
「~~~~~く、ぁ!」
今度はこらえきれず、声が少し出てしまう程に、強烈に痛かった。
涙目になりつつ、手のひらを見て見ると、縦一線に赤い雫がぷっくりと手首にかけて流れているのが見える。
人形に血がしみこまないように、すぐに右手で人形を持ち替えて、テーブルに置く。
「・・・・・」
もはや何も言わず、手早く手のひらと手の甲に巻くように包帯を。
ほどよい長さで包帯を切ってピンで止めてから、今度は深呼吸を数度してから人形を持つ。
急いでもいいことがない、それもまた人形制作から汲み取った魔理沙であった。
どれぐらい時間が過ぎただろうか。
部屋の時計がカチコチと規則正しい音をだしているだけで、後は何も音がしない。
テーブルに置いてあるランプに火を点けたということは、そろそろ夕飯時である。
黙々とひたすら作業をする魔理沙。既に´3体目´の人形に糸を通していた。
綻びはしていなかったのだが、綿を詰め込んで閉じた際に、詰め込みすぎて布が破れてしまうという失敗をしてしまったのだ。
幸い、まだ霖之助から渡された布も綿ももう何体か作る分は残っていたので、時間が許す限り完全な物を作ろうと思ったのである。
黙々と針を人形に通す。
音が何もせず、時計だけがよく聞こえる空間。
――――――コンコン
だからだろう、控えめにノックした筈のドアの音が強く聞こえたのも
「!だ、誰だ!?」
慌ててテーブルに置いてあった出来損ないの人形I 人形IIを裁縫箱にいれ、箱を閉じながら黒い袋の中に詰め込んでそのままテーブルの下に隠す。
作りかけの人形Ⅲは自分のスカートの中に隠した。
「?私よ、魔理沙どうしたの?何だか物がぶつかるような音がしたけど・・・」
ドアを開けようとしてドキリとする。何でまた嫌なタイミングで自分からはあまりこっちの家に来ないのに来るのだと。
「べ、別に何でもないぜ!?アリスこそどうしたんだ?人形制作で忙しいとか前に言っていたはずだぜ?」
声が明らかに動揺していたが、魔理沙はアリスが絶対に自分が人形を製作している間は絶対に来ないと踏んでいた理由を言う。
「あぁ・・・人形制作ならもう全部終わったから、それで気分がいいから今日は夕飯でも一緒にどうかなって思ったのだけど・・・」
ドア越しにそう言われて、魔理沙はこれを断る事自体が疑問に思われると思い、すぐにテーブルに残っている糸くずや切れ端の布等をランプにかけて炭にしてしまう。
裁縫道具や布は幸い黒い袋に入っているので隅にやれば大丈夫だろうと思い、隅に移動させる。
ドアを開ける前に少し深呼吸をして、自分を落ち着かせてから鍵をはずしてドアを開けた。
そこには、鍋を両手に持って佇むアリスが立っていた。
「いやー、助かったぜ。お腹がかなり空いていてさ」
アリスが持ってきたキノコシチューを一度火にかけてから、家にある皿に移して食べる。
「・・・・・・・・・」
パクパクと食べる魔理沙に対して、アリスは何故か無言で、じっと、魔理沙をみていた。
「それにしても美味いなコレ」
朝ごろに保存した食べ物しか食べていなかったからお腹が空いていて早いペースで食べているのもあるが、内心魔理沙はかなり動揺していた。
気づかれていないだろうか?
糸くずや布はさっき処理したはずだ、道具一式も隅に置いてあってわからないはず。
「ねぇ・・・魔理沙」
「ん、なんだ?」
スープを飲み干しつつアリスが口を開いたので更に緊張が増して嫌な汗が流れる。
「その手、どうしたの?」
ギクっと、動揺したが、顔に出さないように苦笑いしながら質問に返す。
「あ、あぁこれか?ちょっと魔法の実験に失敗してな」
まさか左手の包帯の事を言われるとは思わなかったが、もっともらしい嘘でごまかした。
「そう・・・なの?じゃあその魔法の実験の失敗のせいかしら・・・?何だか私の部屋にいるような感じがして」
更に動揺が広がるような事を言うアリス、自分の部屋にいるような感覚とはつまり・・・・・・人形を製作した残り香みたいなのを感じとったということか?
「た、多分そうかもな。幻覚作用を起こすような実験だったし・・・」
しかしそれも旨い嘘によって何とかごまかした。
後は自分の顔に動揺が広がってないのを祈るばかりである。
「ふーん・・・・・・魔理沙もそういう実験をするのね」
特に怪しんだ素振りもなく、納得するアリス。
それに対して自分が嘘を吐いた事に少しばかり心が痛くなったが、それでも本当の事を言うわけにはいかない。
鍋いっぱいにあったスープを平らげ、魔理沙は夕飯を貰った代わりに鍋を洗う。
「味はよかったでしょ?」
洗い物をしている間、アリスはテーブルで夕食の後の紅茶を飲んでいた。
「あぁ、美味かったぜ」
素直な感想を言いつつ、洗い物をさっと済ませて鍋だけ手早く拭いてしまう。
拭いた鍋をテーブルに置きつつ、魔理沙も自分のカップを持ってきて魔法瓶から紅茶を注ぐ。
「しかし、気分がよかったからって夕飯まで作って私の家に来るなんて珍しいな」
何気ない台詞でそう言いながら紅茶を飲んでいたが、アリスがその言葉に少し、悲しい表情をしたような気がした。
だが、すぐに笑顔になりながら紅茶を飲む。
「たまには私もこういう事をしたくなるものよ」
もう二口程一気に飲み干し、テーブルにカップを置いて、鍋を持ちながらアリスは椅子から立ち上がる。
「そろそろ帰るわね。また」
「あぁ、夕飯ありがとな」
玄関まで見送って、アリスが帰ったのを見届けると、ドアの鍵を閉めてそのまま床にへたりこんだ。
「・・・はぁ」
あの最後の表情はなんだったのだろうか。
数分そこでへたりこんでいたが、勢いよく立ち上がって、再び黒い袋から裁縫箱を取り出して人形の製作に取りかかる。
どっちにしてもこれを終わらせなければ話にならないと思って。
「・・・・・・はぁ」
アリスは深い溜息をつかざるをえない。
魔理沙の家にわざわざ行って夕飯を振舞うという勇気は、寂しさに耐え切れずに起こした行動であった。
「なのに・・・」
魔理沙はそんな私の気持ちになんて気づいていない。
「はぁ・・・・・・」
もうすぐ一年となるというのに、出会ってからどれだけ魔理沙との関係が近づいたと言えるのだろうか。
ふて腐れつつ帰路を辿るアリスであった。
「・・・えぇ、これで完成ね」
地下の図書室の隅でその作業は終わりを遂げた。
「はぁ~~~~~。疲れましたねぇご主人様」
何枚も油紙を張るという作業を延々とパチュリーの僕の子悪魔はし続け、今ようやくOKサインを貰えたところだ。
「そうね・・・」
床まで延びる長い髪に紫のドレス服といつもの格好をしていたパチュリーだったが、久しぶりに肉体労働をするにあたって、帽子はしていなかった。
とりあえず魔法書にかかれた通りにそれは完成した。
「後は本番でどうなっているか・・・」
爆発するまでわからないというのが嫌だが、仕方ない。
打ち上げ花火の球のような魔道弾を、用意しておいた箱の中に入れ、パチュリーはレミリアに完成したことを告げに行く。
「貴方は通常業務に戻っていいわよ」
へたれこんでいる小悪魔にそれだけ言って、上への階段をのぼっていく。
既にレミリアの計画した「お祭り」まで24時間を切っていた―――
舞台となる博霊神社は、昼間の光景にしては似つかわしくない程の妖怪や妖精で溢れていた。
紅魔館のメイド長、十六夜咲夜が指揮を執るようにして、館にいるはずの妖精メイド達が簡易組み立て式のテーブルを設置したり、今日振舞うべき料理等を隅で大量に作ったりしている。
氷妖精のチルノや春を運ぶ妖精リリーホワイト等もレミリアに「連行」されたのかはたまた自主的にやっているのか、花の種を急激に育てて咲かせていたり、氷菓子を作る手伝い等をしているのも見られる。プリズムリバーの面々はメイド妖精達によって作られた簡易ステージでリハ等。忙しなく皆が動いていた。
「・・・何だか本格的ね」
場所を提供した霊夢はというと、普段なら自分がやるはずの境内の掃除等も妖精メイドがやってしまい、縁側で緑茶を啜りながらその光景を見守るという状態だった。
「あの紅の吸血鬼がやるって言ったら徹底してやるでしょうからねぇ」
と、横で一緒に緑茶を啜っている「隙間」妖怪事、八雲紫が霊夢の独り言に反応するように返す。
「・・・・・・紫やあの引きこもりの月のお姫様にまで紹介状を届けるのはどうかと思うけどね」
霊夢はそれに関しては心底レミリアに対して呆れてしまっている。
レミリアは紅魔館の人間+霊夢と霖之助で祝おう等と初めから考えていなかったのである。
やるなら派手に、徹底的にやるカリスマに溢れた紅の吸血鬼様は、あろうことか、幻想郷の、魔理沙とアリスに関わりがあるもの全てに紹介状を送ったのである。
勿論、未だに顔を出していないものもいるが、夜中になれば、もっと人が集まる事だろう。
「私は楽しい事があるならそれに乗るわ。からかい甲斐がある記念日だし」
本音を言えば、アリスと魔理沙の記念日と聞いて、あまりピンとは最初は来なかった。
しかし場所が博霊神社なら話は別だといわんばかりに霊夢の顔を覗きにきたわけである。
彼女はこのアリスと魔理沙の記念日をどういった顔で見るのかしらと。
これが一番紫にとって期待するところだった。
「そういえば少し話が変わるけれど、どうやって、アリスと魔理沙をここに連れてくるのかしらね?」
「・・・さぁ、どうやって連れてくるのかしらね」
それはレミリアが考えることよと言って何杯目になるかわからない緑茶を飲み干す。
この時、紫がまさか自分まで仕事周りをするはめになるとは思っていなかった。
「・・・・・・出来たぜ」
日が夕日になりかけている頃に、ようやく魔理沙はまともな人形を製作した。
実を言うとアリスが帰った後、一睡もせずに作業を繰り返し、朝ごろに、アリスによく似た人形は完成してあった。
しかしどうしてもアリスのあの悲しい表情が頭の中で甦ってしまい、魔理沙は、少し休憩してから、黒い帽子に黒白のエプロンドレス、金髪のふんわりとした柔らかな髪と、ここに魔理沙人形を完成さしたのである。
5体目という事もあったせいか、今日中に作れた事が魔理沙は嬉しく、そのままテーブルに突っ伏すようにして意識を断絶した。
・・・・・・頬を突付かれたような気がした。
「まーりーさ。起きなさい。主賓がこれじゃ目も当てられないわ」
次は肩をゆすられたような衝撃によって、まどろみから徐々に視界が開いていく。
そこには、玄関から入ってこない妖怪の顔が映っていた。
「!」
慌てて身体を起こして手にしていた人形をそのままスカートの中に入れる。
「ゆ、紫!?何で」
ここにいるのかと言うところで周囲が隙間に呑み込まれていく。
「うふふ。まぁ、行けばわかるわ」
反論をする前に隙間によって魔理沙は紫と共に完全に呑み込まれていった。
「・・・・・・」
アリスは博霊神社の階段を一歩一歩、霊夢と共に徐々に上っていく。
夕方頃に霊夢が来たかと思うと、ちょっと用があるから夜中になったら自分と一緒に博霊神社に行って欲しいと言われ、今その神社に続く階段をのぼっている最中である。
本当は今日も魔理沙の家に行こうかと考えていたのだが、霊夢の頼みを無下に出来るわけでもなく、こうして一緒についていっている。
家にいる間にその用とは何なのかと聞いたのだが、苦笑いをしながらその時に行けばわかるわよと言われるだけであった。
今日は新月のせいか、やけに神社の道も暗く感じ、アリスは昨日の事もあってか、気分が悪かった。
「着いたわ」
階段を昇り、神社に着くと、そこは異様な光景だった。
暗くてよくわからないが、神社にひしめくように妖怪や、人、妖精がざわざわと設置されたテーブルに座り、騒いでいる。
「れ、霊夢、これはどういうこと?」
妖怪達が神社にこんなに集まる事なんて宴会の時ぐらいだ。
しかし宴会があれば私や魔理沙のほうに何かしらの報告があるはずだ。
「ちょっと待ってね。レミリア、魔理沙はまだ来てないの?」
神社の中央、賽銭箱が設置した辺りに声を霊夢がなげかけると、レミリアの声が聞こえてきた。
「まだよ、もうそろそろ来るはずだと思うのだけど」
と、返事をした瞬間。
「うお!?」
アリスの横に隙間が現れて、その中から魔理沙は倒れるように、紫と一緒に出てくる。
「お待たせ~。初めていいわよ」
紫はレミリアにOKサインを出す。
「ちょ、何を始めるんだ」
魔理沙はすぐに立ち上がり、紫に食ってかかろうとするが、紫に口元でシーッと言われ、黙る事になる。
いつの間にか、他の妖怪たちや妖精のざわめきも、無くなっていた。
「お集まりの皆様」
そこに、レミリアの透き通った声が響く。
「まず、初めに、今日お集まり頂いた事に感謝を。そして今ここに、主催者として開演の合図を。杯を持ちなさい」
そういうと、皆がコップやら杯を手に持つ。
紫や霊夢も妖精メイドに渡され、並々とお酒が入ったコップを持つ。
アリスと魔理沙はこの現状に困惑するばかりであった。
「今ここに―――――」
レミリアは頭上に、パチュリーが作った魔道弾を投げ、自身のスペルカード、「スピア・ザ・グングニル」をそれに向けて投光する。
「アリスと魔理沙、出会って一周年記念日を開催する!」
グングニルと魔道弾がぶつかり合い爆発し、瞬間、淡い紫色の輝きを頭上で輝かせながら
紫色の文字でこう書かれていた。
アリス魔理沙記念日、と。
「「「「「おめでとーーーう!!!!」」」」
それを合図に皆が祝福の言葉を呆然と立っているアリスと魔理沙に言い、トップバッターだったのか、メルランプリズムリバーのトランペットが簡易ステージから高らかに鳴り響く。
ここにレミリアが立てた「祭り」は開始された――――。
「・・・あそこで香霖の口を塞いでおくべきだったぜ・・・・・・」
最初の衝撃からかなり呆然としていた二人だが、妖怪たちのどんちゃん騒ぎによって、徐々に正気を取り戻していた。
今は苦笑いしている霖之助や、霊夢、紫と、横に何故か赤面したままのアリスらとお酒を飲みながらこの祭りに対しての愚痴を言っていた。
「あ、あははは・・・まぁいいじゃないか。実際めでたい事なんだし。憎くなるより紅の吸血鬼様に感謝するべきだと思うよ」
「レミリアは自分が楽しみたかっただけだろ・・・・・・」
事実おめでとう、アリス、魔理沙と邪悪な笑顔でそれだけ言って今は別の席でレミリアは咲夜やフラン、パチュリーや中国と紅魔館の面々と共にこの祭りを楽しんでいる。
「はぁ・・・」
これじゃ人形をいつ渡すか困ったもんだとため息を吐きたくなったが、その、横にいるアリスがずっと黙ったまま顔を赤くしていてそっちのが困った。
「アリス?」
「ぁ・・・ぇ、な、なにかしら?」
いきなり声をかけられてビックリしたのかアリスはバッと赤面したまま顔を上げる。
その表情に少しドキリとしてしまった。
「ぁ、い、いやさ、アリスもこんなビックリ祭りに付き合わされて迷惑じゃないかなぁって思って」
自分も慌てたようにそう言ってしまい、何故かこっちも顔が熱くなっている気がする。
「・・・ううん。私は純粋に嬉しいわ。私と魔理沙との出会いを、こんなたくさんの人達に祝福してもらえて」
その言葉に、私は耳まで熱くなった気がした。
「そ、そうか。それはよかったな」
「魔理沙は・・・・・・嬉しくない?」
その言葉に私は首を振って答える。
「・・・嬉しいか嬉しくないかって聞かれたら嬉しいに決まっているぜ。私たちの出会いに、これだけの奴らが祝福にきたんだからな」
私はそれだけ言って酒を煽る。
「そうだな・・・アリスが嬉しいならこのお祭りをもっと楽しまないとな」
「「「・・・・・・・・・」」」
無言でそのやりとりを見ていた三人は、何だかこっちが見ていて恥ずかしくなるもの、冷めた目でみるもの、その冷めた目をニヤニヤしながら見ているものと三者三様に分かれていた。
「あーもう、これは飲まないとやってられないわね」
毒に当てられたようにお酒を勢いよく煽る霊夢。
酔わないとやってられないと、まるで現実逃避したくなるその現状に本当に、現実逃避を走ったのである。
「霊夢~そんなに飲んだら酔って動けなくなるわよ?」
「別にいいじゃない。お祭りなんだから」
紫はそう言いつつも自分も霊夢と同じ勢いで酒を煽っていく。
「仕方ないわね・・・私も付き合ってあげるわ」
「僕も付き合うよ。霊夢ちゃんの心情は察するから・・・」
そう言って三人が祭りの最中に飲んだくれになったのは言うまでもない。
「楽しかったな。お祭り」
時刻は4時過ぎというところだろうか。頭上で輝いていた魔法光が切れてお開きになり、皆面々は帰路を辿っている。
魔理沙とアリスは横に並ぶようにして魔法の森を歩いて帰っていた。
「えぇ、最初はビックリしたけど・・・それなりに楽しめたわ」
アリスも同じ感想を言いながら笑顔で答える。
そしてしばらくして、同じ方向だった道が分かれる所で。
「じゃあビックリついでにこれをプレゼントだ」
スカートの中に入れてあった人形を手渡す。
「・・・・・・・・・・・・・え?」
手渡されて、アリスは呆然と、魔理沙の顔を見た。
「これ・・・・・・・・・」
「アリスの人形程じゃないけどさ、あの祭りとは別に私が今日、プレゼントしようとしてたものだぜ」
少し頬をかきながら魔理沙は顔を赤くして照れながらそっぽを向く。
アリスはそこで気づいた。何で魔理沙の家と自分の家と同じような感じがしたか、何で左手に見慣れない包帯を巻いていたのか。
「・・・・・・ふ・・・・・・ぅう・・・・・・」
魔理沙は、私のために。この人形を作ってくれたのだと。
だから、ここ最近ずっと会いに来なかったのだと。
「お、おいアリス?」
急に泣き出したアリスに魔理沙は困惑する。
「違う・・・違うの・・・」
これは悲しい涙なんかじゃない。
「嬉しくて・・・嬉しくて・・・泣いているだけだから」
渡された魔理沙によく似た人形を胸に抱きながら、涙を拭って、アリスは魔理沙に笑顔で答える。
「ありがとう!私・・・ずっと大切にするね!」
このお人形と言って、記念日は幕を閉じたのであった。
アリスの家に行けばこの魔理沙人形は寝室の枕元でよくみられる事だろう。
小奇麗にまとまっているので、読みやすくはあるんですけれども、
もっと勢いを出して欲しかったな、とも思います。
氏の書く紅魔館勢や霊夢と紫の会話が表現が凄く好きになりました。
いずれ彼女達の話を書いて頂ければと思います。
創想話に来て初めて批判を受け何人かには単なる罵倒&マイナス点を貰ってしまう作家さんは多いですが、その批判を正面から受け止め糧にして成長できる作家さんは、悲しいことに少ないです。その中で、七氏さんが後者であったことは非常に喜ばしく思います。何故なら、作品だけ見れば嫌いと言うより好きの部類だったからです。というわけで口うるさいかも知れませんが今度は内容について幾つか指摘させて下さい。
まず小説・SSを構成する要素を簡単に分類すると「話の構成」「演出」「台詞回し」「文章力」という感じになると思うんですが、七氏さんの場合この中の前三つはかなりのレベルに達しているように感じます。もし違うとしても、私好みであるのは間違いないです(笑) ですが文章力についてはまだまだ改善の余地が大きくあるように感じました。幾つか挙げさせていただくと…
>計八回目の裁縫針に糸を通すという行為を失敗した魔理沙
「という行為」は些か硬いです、「の」ぐらいで良いと思います。やろうとして出来なかったのなら「試み」もありかも知れません。また、主語が長いので切ってみるのも良いかも。名詞節に拘る必要も無いと思いますので。
>前にアリスに人形を製作しているときに聞いた言葉
「てにをは」が難しいのは、文法的に正しい=文中で最適とは必ずしも言えず、文法的に正しい複数の表現からその文に最も適したものを探さなくてはいけない事です。「アリスに聞いた」に「人形を製作しているときに」を挟んでしまうと読みづらくなるので、「アリスが~言っていた」にするとか順番を変えて「人形を製作しているときのアリスから」にするとか色々工夫をしてみると良いと思います。
>周囲一体 これは一帯の誤字でしょう。
>みて見ないことには
「みてみる」は「(物を)見る」+「(~して)みる」という構成なので、漢字にすべき字は逆になります。こういった細かい語の成り立ちを気にすることは物書きが必ずやらねばならない事ではないのものの、やっていると文章がひと味変わってくるポイントでもあると思います。
>自分の指に針を刺してしまうという行為
これも「という行為」だと硬く、「事」ぐらいで良いと思います。
>何枚も油紙を張るという作業を(1,目的語)
>延々と(2,修飾語)
>パチュリーの僕の子悪魔は(3,主語)
>し続け(4,術語)
これは文節の順番が読みづらさを作ってしまっているかと。3→2→1→4にすれば凄く読みやすいと思いませんか?
>舞台となる博霊神社、場所が博霊神社なら、アリスは博霊神社の、一緒に博霊神社に
これらは単に誤字ですね。「幻想卿」や「永淋」と並んで東方初心者には結構あるので、あまり気にせず次から気を付けて下さい。
>賽銭箱が設置した辺り
これも「てにをは」と、あと受身の関係もあります。「が設置されている」とか「を設置してある」とかにすべきでしょう。
>現実逃避を走った
>お蔵行き
それぞれ「現実逃避に走る」「お蔵入り」が普通の使い方です。こういう熟語というか決まり文句みたいなものも、語の成り立ちと同じく、気を付けていれば文章が引き締まる大事な要素だと思います。
というところです。「話」「演出」「台詞回し」については特に言うことはないというか、とても良かったです。魔理沙の努力とレミリアの悪巧みという二つの軸で話が進んでいくのは面白かったですし、そのために各々が準備をしているのも面白かったですし、登場人物それぞれの行動が愛おしく感じられました(動機が優しいからでしょうね)。
一点だけ気になったのが「こーりんが『霊夢ちゃん』て言うのはちょっと…」だったんですが、私は東方香霖堂を読んだことがないので「創想話を見る限りでは霊夢に対しては呼び捨てみたいですよ」とだけ申し上げておきます。
では、次回作を楽しみにしていますね。