「パチュリー様、紅茶を淹れてきました」
書架の陰、揺り椅子に座って本を読んでいるパチュリー様に声をかける。パチュリー様
は本から少し上目遣いで私を見やった後、ん、と蚊の鳴くような小さい声で答えた。
相変わらず本以外にはまるで興味の無い方だ。
苦笑しながら彼女の脇にあるテーブルに盆を置く。もちろん本を読むのを中断するつも
りは毛頭ないらしく、紅茶には一瞥もくれない。
「冷めないうちに飲んでくださいね」
そう言い残して、私は普段の仕事である図書館の蔵書の整理を始める。
ようなフリをして、書架の後ろに隠れた。今日の紅茶は特別なのだ。
しばらく覗いていると、ようやくパチュリー様が動き始める。
まず横着にもスプーンに魔法をかけて動かした。それで砂糖壺の中身を大量にすくい、
カップに投入する。この間カップには一瞥もくれていない。
咲夜さんはあまり良く思っていないようだが、私の主人は大の甘党で紅茶には砂糖大盛
りが好みなのだ。
そしてこれまた余所見したまま多めのミルクを入れ、かきまぜる。どうあっても本から
目をそらすつもりはないらしい。
本を読みつづけながらカップを持ち上げ、その香りを楽しんだあとゆっくりと口に含み、
「げふぉぁっ!?」
盛大に噴いた。少女としてどうかと思う噴き方で。
私は自分の悪戯が成功した喜びを全力のガッツポーズで示す。
『砂糖壺』の中身は、塩だったということだ。
何が起こったのか理解できない、という表情をしながらも周りを見回すパチュリー様。
恐らく本に被害が出ていないかどうかを確かめているのだろう。
幸い本に紅茶をぶちまけるようなことはしていなかったようだが、今度は下手人を探し
てぎらぎらとした視線をそこらじゅうに送っている。
「ふふふ……、この私に塩風味のダージリンを飲ませるだなんていい度胸しているじゃな
いあの子さすが小悪魔と言ったところかしら」
普段以上に小声で早口な呪詛の言葉も、この静謐な図書館の中では一語一句漏らすこと
なく聞こえてきた。
それから彼女は不届き者を捕らえるべくこの異常に広い図書館じゅうをのそのそ歩いて
まわったが、結局私は捕まらなかった。なぜなら、私はずっと彼女に気づかれない程度の
距離を置きながら彼女の後ろについてまわっていたからである。
魔法を使っていない上に塩紅茶で集中を乱された彼女に、逃げも隠れもするのが本分で
ある私を捕まえられるだろうか、いや無理だ。
運動不足の喘息少女は数分のウォーキング程度で息切れしたらしく、荒い息を吐きなが
らさっきまで座っていた揺り椅子に座りなおす。
そしてその椅子のクッションの下には、私が逃げ回っているうちに仕掛けた罠が。
ぶぅ、という気の抜けた大きい音が図書館じゅうに鳴り響く。パチュリー様は弾かれた
ように立ち上がり、真っ赤な顔で辺りを見渡している。
嗚呼、羞恥と怒りに溢れたパチュリー様の御顔。この表情を独り占めできる喜びを鼻血
と共に噛み締めながら、私は再び勝利のポーズをとった。またまたやらせていただきまし
たァン!
ブーブークッション。空気を入れて椅子に仕掛けておくことで、油断している人が座っ
た瞬間に大きな音を立てるという魔法の道具である。ここ幻想郷には驚くほど素敵なもの
が、多数存在するのだ。
「パチュリー様、レディがあんな大きな音を立てるのははしたないですよ?」
にんまりと笑いながらパチュリー様の前に姿を現す。
「あなたの仕業でしょうが」
目に炎を宿し、今にも火と日の魔法を叩きつけてきそうなパチュリー様。ああ、私に絵
画の才能があったならばその可愛らしくも美しいその顔を永久に保存できるのに。
「あら、パチュリー様ったら自分の失敗を他人に転嫁するだなんて」
「……じゃあこれは?」
パチュリー様はクッションの下に仕込んでおいた、今や空気も抜けきってへろへろにな
っているそれを右手で私につきつけた。そして左手では魔道書を開いている。
「ごめんなさい謝りますから呪文を唱えるのやめてくださいそれ多分火が出る呪文でしょ
う図書館の蔵書と私が黒焦げになっちゃったら困るのはパチュリー様でしょうってうちの
本は防火対策してありましてたねとにかく勘弁してくださいぃ!」
私は必死にすがりついて彼女の許しを請う。その際どさくさにまぎれてその慎ましい胸
やお尻に触りまくったのは言うまでもない。
それからパチュリー様の細腕では両手を使わなければ持てないほどの質量を持つ本で、
彼女は私を執拗に打ち据え、ぼろくずのようになった私に紅茶を入れなおさせた。
「まったく、なんて非道い労働環境なんでしょう。労働者虐待で訴えてやります」
「一体全体、どの口がそんなことを言うのかしらね?」
大きなため息をついて、パチュリー様は言った。
「今日は蔵書の整理とかはいいから私の側にいなさい。目を離したら何をするかわかった
もんじゃないから」
そうして、パチュリー様の座る椅子の後ろで私は本を読んでいる。
ぱらりぱらりとページをめくる音と揺り椅子の軋む音だけが、図書館の中に響く。
気の遠くなるくらい穏やかな時間。悪戯をしている時やパチュリー様と話している時の
次くらいに私が好きな心安らかなひととき。でも――。
「そういえばあなたはどうして私の後ろにいるの? 隣はあいてるわよ?」
「いいんですよ。パチュリー様の隣に座っていいのはパチュリー様のご友人だけです。私
はパチュリー様の使い魔ですから、そんな不遜はできません」
パチュリー様の問いに笑顔で答える。パチュリー様は少し寂しそうに見える顔してから、
「レミィは、図書館で本を読むなんてこと、しないわよ」
何を言ってるの? なんて口調で言う。
「ええ、ですから、隣で本を読むような友人がいつか現れるまで、その席はあけておいて
ください」
「この館を訪れる者なんていないんだから、そんなのは現れないわ。変な子ね」
「主人も相当の変わり者ですから、使い魔も似てくるのでしょう」
そう私が言うとパチュリー様はくすくすと笑いながら、違いないわね、と言った。つら
れて私も笑う。二人分の小さな笑い声が図書館を満たす。
そんな時不意に扉が開き、この紅魔館の当主であるレミリアお嬢様が姿を現した。
「パチェ、ちょっといいかしら」
ちょっといいかと訊いてはいるが、この声の主は質問をしているのではなくこちらに用
があるから話を聞きなさいいいわね、という意味でこの言葉をよく使う。
「あらレミィ。本でも読みにきたの?」
百年近い友人の優先度はさすがに本を越えるらしく、本を閉じて応じるパチュリー様。
「本はかび臭いからいいわ。知識が必要になったらあなたに聞けばいいのだし」
お嬢様は鼻で笑いながら椅子を持ってきて、パチュリー様の正面に座った。
「それで、聞きたいことというのはね――」
お嬢様の聞きたいことというのは、今度お嬢様が昼間でも外を自由に歩けるように幻想
郷を霧で覆うということに関連して、効率良く幻想郷全体を包む方法やら霧の密度の調整
やらのところを理論で強化しようということだった。小難しいことは面白くもなんともな
いので聞き流した。
「それにしても普段から外にでないのになんでまたこんなことを始めようと思ったの?
ここ数十年にはなかった発想じゃない」
「さあね。ちょっとした気まぐれよ」
しれっと答えるお嬢様。ちょっとした気まぐれでいつも周りの者、特に咲夜さんや門番
の――名前忘れちゃったまあ内勤と外勤の職場の距離を考えたら別にしかたないよね――
妖怪さんが振り回されるということを理解して欲しい。まあ、私含めてみんなそれくらい
の騒動が多少起こるくらいがちょうどいいと思っている節はあるが。
「今回のことが上手くいったら、パチェもいっしょに外へ行かない?」
「必要ないわ。私には本があればそれでいいの」
「そうなの?」
「そうなのよ」
常に天上天下唯我独尊我侭万歳なお嬢様と仏頂面日陰少女のパチュリー様はどうみても
相性が良いようには思えないのだが、なかなかどうしてこの二人はとても仲が良い。紅魔
館七つ以上絶対ある不思議の一つである。
パチュリー様も、たまには外に出てみればいいのにと思う。窓も開けずに日がな一日座
って本を読んでばかりというのは彼女の喘息に良い効果を与えるはずはないのだから。
彼女がもしも外に出たときのことを想像してみる。
霧の中、パチュリー様と外を歩く私。運動不足の上歩きなれていない彼女は道に転がっ
ている小石につまづき、それを受け止める私。そして私は大丈夫ですか? なんて言って、
パチュリー様は顔を赤らめて――。
「ねえパチェ、あの子なんだか遠くに行ってしまっているようだけれど、いいの?」
「いつものことよ。気にしないで」
おっと、少々失態を晒してしまったらしい。咳払いをして、鼻血を拭いた。
「じゃ、本番の前に少し色々と試してみるわ。ありがとねパチェ」
そう言い残し、お嬢様は扉の向こうへと去っていった。
お嬢様(と結構な割合でパチュリー様)が何かやらかすたびに毎回思うことだが、今回
のことで何かこの屋敷に変化が訪れないだろうかなぁと、思う。
ご飯はおいしいし寝床は気持ちいいし、咲夜さんは有能だし門番の人はやさしいし、パ
チュリー様は可愛いけれど、この紅魔館の平穏にはところどころ綻びが存在する。
あまり主だった立場ではない私だからこそ見えてくるところが、この屋敷にはいくつも
あるのだ。
例えば。地下室に幽閉されているあの方とか――。
今はまだ何も起こっていないが、いつかこの張りぼての平和が崩れ去るかもしれない。
「……まあでも、今回も結局はいつも通り何も変わらないで、このままずっと薄氷のよう
な平穏が続いていくのでしょうけれどね」
苦笑しながら誰にも聞こえないように呟いた声は、誰にも届かない。
書架の陰、揺り椅子に座って本を読んでいるパチュリー様に声をかける。パチュリー様
は本から少し上目遣いで私を見やった後、ん、と蚊の鳴くような小さい声で答えた。
相変わらず本以外にはまるで興味の無い方だ。
苦笑しながら彼女の脇にあるテーブルに盆を置く。もちろん本を読むのを中断するつも
りは毛頭ないらしく、紅茶には一瞥もくれない。
「冷めないうちに飲んでくださいね」
そう言い残して、私は普段の仕事である図書館の蔵書の整理を始める。
ようなフリをして、書架の後ろに隠れた。今日の紅茶は特別なのだ。
しばらく覗いていると、ようやくパチュリー様が動き始める。
まず横着にもスプーンに魔法をかけて動かした。それで砂糖壺の中身を大量にすくい、
カップに投入する。この間カップには一瞥もくれていない。
咲夜さんはあまり良く思っていないようだが、私の主人は大の甘党で紅茶には砂糖大盛
りが好みなのだ。
そしてこれまた余所見したまま多めのミルクを入れ、かきまぜる。どうあっても本から
目をそらすつもりはないらしい。
本を読みつづけながらカップを持ち上げ、その香りを楽しんだあとゆっくりと口に含み、
「げふぉぁっ!?」
盛大に噴いた。少女としてどうかと思う噴き方で。
私は自分の悪戯が成功した喜びを全力のガッツポーズで示す。
『砂糖壺』の中身は、塩だったということだ。
何が起こったのか理解できない、という表情をしながらも周りを見回すパチュリー様。
恐らく本に被害が出ていないかどうかを確かめているのだろう。
幸い本に紅茶をぶちまけるようなことはしていなかったようだが、今度は下手人を探し
てぎらぎらとした視線をそこらじゅうに送っている。
「ふふふ……、この私に塩風味のダージリンを飲ませるだなんていい度胸しているじゃな
いあの子さすが小悪魔と言ったところかしら」
普段以上に小声で早口な呪詛の言葉も、この静謐な図書館の中では一語一句漏らすこと
なく聞こえてきた。
それから彼女は不届き者を捕らえるべくこの異常に広い図書館じゅうをのそのそ歩いて
まわったが、結局私は捕まらなかった。なぜなら、私はずっと彼女に気づかれない程度の
距離を置きながら彼女の後ろについてまわっていたからである。
魔法を使っていない上に塩紅茶で集中を乱された彼女に、逃げも隠れもするのが本分で
ある私を捕まえられるだろうか、いや無理だ。
運動不足の喘息少女は数分のウォーキング程度で息切れしたらしく、荒い息を吐きなが
らさっきまで座っていた揺り椅子に座りなおす。
そしてその椅子のクッションの下には、私が逃げ回っているうちに仕掛けた罠が。
ぶぅ、という気の抜けた大きい音が図書館じゅうに鳴り響く。パチュリー様は弾かれた
ように立ち上がり、真っ赤な顔で辺りを見渡している。
嗚呼、羞恥と怒りに溢れたパチュリー様の御顔。この表情を独り占めできる喜びを鼻血
と共に噛み締めながら、私は再び勝利のポーズをとった。またまたやらせていただきまし
たァン!
ブーブークッション。空気を入れて椅子に仕掛けておくことで、油断している人が座っ
た瞬間に大きな音を立てるという魔法の道具である。ここ幻想郷には驚くほど素敵なもの
が、多数存在するのだ。
「パチュリー様、レディがあんな大きな音を立てるのははしたないですよ?」
にんまりと笑いながらパチュリー様の前に姿を現す。
「あなたの仕業でしょうが」
目に炎を宿し、今にも火と日の魔法を叩きつけてきそうなパチュリー様。ああ、私に絵
画の才能があったならばその可愛らしくも美しいその顔を永久に保存できるのに。
「あら、パチュリー様ったら自分の失敗を他人に転嫁するだなんて」
「……じゃあこれは?」
パチュリー様はクッションの下に仕込んでおいた、今や空気も抜けきってへろへろにな
っているそれを右手で私につきつけた。そして左手では魔道書を開いている。
「ごめんなさい謝りますから呪文を唱えるのやめてくださいそれ多分火が出る呪文でしょ
う図書館の蔵書と私が黒焦げになっちゃったら困るのはパチュリー様でしょうってうちの
本は防火対策してありましてたねとにかく勘弁してくださいぃ!」
私は必死にすがりついて彼女の許しを請う。その際どさくさにまぎれてその慎ましい胸
やお尻に触りまくったのは言うまでもない。
それからパチュリー様の細腕では両手を使わなければ持てないほどの質量を持つ本で、
彼女は私を執拗に打ち据え、ぼろくずのようになった私に紅茶を入れなおさせた。
「まったく、なんて非道い労働環境なんでしょう。労働者虐待で訴えてやります」
「一体全体、どの口がそんなことを言うのかしらね?」
大きなため息をついて、パチュリー様は言った。
「今日は蔵書の整理とかはいいから私の側にいなさい。目を離したら何をするかわかった
もんじゃないから」
そうして、パチュリー様の座る椅子の後ろで私は本を読んでいる。
ぱらりぱらりとページをめくる音と揺り椅子の軋む音だけが、図書館の中に響く。
気の遠くなるくらい穏やかな時間。悪戯をしている時やパチュリー様と話している時の
次くらいに私が好きな心安らかなひととき。でも――。
「そういえばあなたはどうして私の後ろにいるの? 隣はあいてるわよ?」
「いいんですよ。パチュリー様の隣に座っていいのはパチュリー様のご友人だけです。私
はパチュリー様の使い魔ですから、そんな不遜はできません」
パチュリー様の問いに笑顔で答える。パチュリー様は少し寂しそうに見える顔してから、
「レミィは、図書館で本を読むなんてこと、しないわよ」
何を言ってるの? なんて口調で言う。
「ええ、ですから、隣で本を読むような友人がいつか現れるまで、その席はあけておいて
ください」
「この館を訪れる者なんていないんだから、そんなのは現れないわ。変な子ね」
「主人も相当の変わり者ですから、使い魔も似てくるのでしょう」
そう私が言うとパチュリー様はくすくすと笑いながら、違いないわね、と言った。つら
れて私も笑う。二人分の小さな笑い声が図書館を満たす。
そんな時不意に扉が開き、この紅魔館の当主であるレミリアお嬢様が姿を現した。
「パチェ、ちょっといいかしら」
ちょっといいかと訊いてはいるが、この声の主は質問をしているのではなくこちらに用
があるから話を聞きなさいいいわね、という意味でこの言葉をよく使う。
「あらレミィ。本でも読みにきたの?」
百年近い友人の優先度はさすがに本を越えるらしく、本を閉じて応じるパチュリー様。
「本はかび臭いからいいわ。知識が必要になったらあなたに聞けばいいのだし」
お嬢様は鼻で笑いながら椅子を持ってきて、パチュリー様の正面に座った。
「それで、聞きたいことというのはね――」
お嬢様の聞きたいことというのは、今度お嬢様が昼間でも外を自由に歩けるように幻想
郷を霧で覆うということに関連して、効率良く幻想郷全体を包む方法やら霧の密度の調整
やらのところを理論で強化しようということだった。小難しいことは面白くもなんともな
いので聞き流した。
「それにしても普段から外にでないのになんでまたこんなことを始めようと思ったの?
ここ数十年にはなかった発想じゃない」
「さあね。ちょっとした気まぐれよ」
しれっと答えるお嬢様。ちょっとした気まぐれでいつも周りの者、特に咲夜さんや門番
の――名前忘れちゃったまあ内勤と外勤の職場の距離を考えたら別にしかたないよね――
妖怪さんが振り回されるということを理解して欲しい。まあ、私含めてみんなそれくらい
の騒動が多少起こるくらいがちょうどいいと思っている節はあるが。
「今回のことが上手くいったら、パチェもいっしょに外へ行かない?」
「必要ないわ。私には本があればそれでいいの」
「そうなの?」
「そうなのよ」
常に天上天下唯我独尊我侭万歳なお嬢様と仏頂面日陰少女のパチュリー様はどうみても
相性が良いようには思えないのだが、なかなかどうしてこの二人はとても仲が良い。紅魔
館七つ以上絶対ある不思議の一つである。
パチュリー様も、たまには外に出てみればいいのにと思う。窓も開けずに日がな一日座
って本を読んでばかりというのは彼女の喘息に良い効果を与えるはずはないのだから。
彼女がもしも外に出たときのことを想像してみる。
霧の中、パチュリー様と外を歩く私。運動不足の上歩きなれていない彼女は道に転がっ
ている小石につまづき、それを受け止める私。そして私は大丈夫ですか? なんて言って、
パチュリー様は顔を赤らめて――。
「ねえパチェ、あの子なんだか遠くに行ってしまっているようだけれど、いいの?」
「いつものことよ。気にしないで」
おっと、少々失態を晒してしまったらしい。咳払いをして、鼻血を拭いた。
「じゃ、本番の前に少し色々と試してみるわ。ありがとねパチェ」
そう言い残し、お嬢様は扉の向こうへと去っていった。
お嬢様(と結構な割合でパチュリー様)が何かやらかすたびに毎回思うことだが、今回
のことで何かこの屋敷に変化が訪れないだろうかなぁと、思う。
ご飯はおいしいし寝床は気持ちいいし、咲夜さんは有能だし門番の人はやさしいし、パ
チュリー様は可愛いけれど、この紅魔館の平穏にはところどころ綻びが存在する。
あまり主だった立場ではない私だからこそ見えてくるところが、この屋敷にはいくつも
あるのだ。
例えば。地下室に幽閉されているあの方とか――。
今はまだ何も起こっていないが、いつかこの張りぼての平和が崩れ去るかもしれない。
「……まあでも、今回も結局はいつも通り何も変わらないで、このままずっと薄氷のよう
な平穏が続いていくのでしょうけれどね」
苦笑しながら誰にも聞こえないように呟いた声は、誰にも届かない。
欲を言うならボリュームがもっと欲しかったです。面白かったので。
霊夢、そりゃ無茶な注文だ。
続編きぼー。
うーパチュリー!
読み足らない・・・・・
良い話だからこそ読み足らない・・・