Coolier - 新生・東方創想話

ゆかりん・さよならいって

2007/05/22 04:44:35
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この作品は作品集その40の『ゆかりん・~』シリーズの最後の作品です。
初めから読みたければ『ゆかりん・紅魔湾に沈められて』からお読みください。
















霖之助が店に入ると居間と台所から騒々しい音が響いてきた。
思ったより、なかったことにするのに時間がかかったらしい、って何をなかったことにしたんだっけ、などと考え首を傾げる霖之助はそのまま居間へと入っていった。

「おう、香霖!どこいってたんだ?」
「ああ、少し体を拭いてたんだよ」
「ふぅん、霖之助さんは結構時間をかけるのね」
「いや、お風呂も体を拭うのもそんなに時間をかけないんだけどね」

そんな他愛のない会話をしながら、霖之助はちゃぶ台の前に座り込んだ。
そしてタイミングよく紫が朝食を持ってくる。

「霖之助さん、お帰りなさい!」
「ああ、ただいま」
「おお、美味そうだな」
「ほんとねぇ、さすが紫ね」
「あ、ありがとうございます」

和気あいあいと朝食は始まる。
メニューは、ご飯になめこ汁、そして梅干しと焼鮭である。
鮭については、魔理沙が昨日とってきた物の中に混ざっていた鮭である。
いざ食べ始めれば、四人が四人みな黙る。
食べ終えた魔理沙が口を開く。

「そういえば香霖」
「…ん、なんだい?」

そして、霖之助が朝食をすまして相槌を打つ。

「明後日の宴会だが、必ず来いよ」
「何だそんなことか」

そう言って、霖之助は自分が汚した食器を持って台所へと消えていった。

「ありゃ、今回も来なさそうだな」

魔理沙はふぅ、と溜息をつく。

「明後日、宴会ですか?」
「ん、ああ、そうだぜ」
「明後日ですか‥」
「何か困るようなことでもあるのか?」
「い、いいえ、別に何でもありませんよ」

明らかに何かあるような素振りを見せながら、紫はふるふると手を振って否定する。

「ん、そうか」

対して魔理沙は特に気にしなかった。
そして、自分が汚した皿を持って立ち上がる。

「よっと、ごちそうさまだぜ」
「あ、はい、お粗末さまです」

そう言ってにっこりほほ笑む。
そうして朝は過ぎてゆく…





「んじゃあ、行ってくるよ」
「ん、どこにだ?」
「彼女を永遠亭に連れて行くんだよ」
「ああ、なるほどな」

霖之助が紫の手を引いて立ち上がると同時に、魔理沙はカウンターの椅子に座り込む。
霊夢はさっきから、霖之助が淹れたお茶を飲んでいる。

「じゃあ、行こうか」
「…はい」

紫は握られている手を見ながら答える。
その顔は真っ赤だ。

「ん、大丈夫かい?」
「え、ひゃあ!」

それを見た霖之助は紫の額に手を当てる。
紫の顔はますます赤くなる。

「ん、少し熱が…イテ!」
「さっさと行って来い!」

何かを投げつけてきた魔理沙の怒声が店内を駆け巡る。

「まったく、人に物を投げるなと何度も言ってるはずなんだがなぁ」
「うるさい!さっさと行け!」
「やれやれ…」

霖之助はあわてて店を後にした。
その後、店は静寂が支配する。

「なぁ霊夢、これでよかったんだよな…」

ぽつりと魔理沙が呟く。

「ええ、これでいいのよ」

そういって、霊夢は一口お茶を啜った。





二人は竹林を歩いていた。
そこにいるのはたった二人、周りに妖怪一匹いないのだ。
だからそこにいるのはたった二人。
一人は顔を真っ赤にしながら、一人は何も考えずに、たった二人で歩いている。
二人は一言も発さずに目的地まで歩いていた。
二人はこの雰囲気を楽しみながら。





「あ、いらっしゃい」

永遠亭に着いたら、一羽のウサギが出迎えた。

「あ、あなたは零戦…鈴仙・優曇華院・イナバさん」
「私は突っ込まないわ!最初のイントネーションは突っ込まないわ!」
「それより八意 永琳さんは見えるかな」

突っ込まないと言いながら突っ込んでいる鈴仙を無視して、話を進める霖之助。

「…師匠でしたらこちらです」

腑に落ちない感をだしつつ、奥まで案内する鈴仙。
しばらく廊下を歩いて、目的の場所に到着する。

「さぁ紫さん、どうぞ」
「は、はい!」

多少緊張している紫を通した。
紫はそのまま扉の中に消えてしまった。






「霖之助さん。師匠がお呼びです」

待合室にある雑誌で、暇をつぶしていた霖之助に声がかかる。
霖之助は、呼ばれた部屋へと入っていく。
部屋に入ると、そこには永琳がいた。

「えっと、何か病気でも」

心配そうに尋ねる霖之助。

「いえ、一応報告よ」

そう言って、永琳は診断結果の説明を始めた。

「まず、彼女に記憶喪失だけど」
「はい」
「どうやら一時的な記憶の退行のようね」
「一時的な退行?」

霖之助は首を傾げる。
その疑問もすぐに晴れる。

「ええ、何か衝撃的なことによる一時的な幼児退行化よ」
「なるほど」

納得したというように、何度も首を縦に振る。
そこで、ふと思いついた疑問を投げかける。

「なぜ彼女の前でなく、僕にだけそれを教えるのですか?」

そういって、周りを見渡しても紫の姿はなかった。

「いえ、今日中に元に戻るからよ」
「そうですか」
「あら、もっといろいろ驚くと思ったのに」
「?…なぜですか?」

目を丸くする永琳に、首を傾げる霖之助。
奇妙な構図がそこにあった。

「まぁいいわ、お大事にね」
「はい、ありがとうございます」

ぺこりと一礼して、霖之助はその部屋を後にする。
お大事に―、という鈴仙の声が部屋まで伝わってくる。

「さて、次の患者ね」

永琳は新たなカルテを手に取った。








静かな竹林。
再び二人が支配する。

「何もなくてよかったね」
「そうですね」

何気ない会話の後、すぐに静寂が二人を包む。
しばらく続いた静寂は、優しく二人を包み込む。

「そういえば、さようならの前に聞きたいことがあるんですけど…いいですか?」
「紫、君は…」

紫は、くすりと微笑む。

「自分のことは、自分が一番わかることですから」
「…そうだね」

霖之助は納得したようで何度も頷く。

「最後に…私のこと、どう思っていますか?」

ふさぁぁぁぁぁぁ

一陣の風が二人の間を駆け巡る。
風が連れてきた静寂が、あたりを支配する。
しばらくして霖之助は静寂を破る。

「君は僕にとって…」
「残念、時間切れです」

そう言って、近づきながら霖之助の言葉を遮る。

「では、さよならです」

霖之助の頬に、やわらかな感触が一瞬感じられた。
ふっ、と糸が切れたかのように、紫は霖之助によりかかった。
静寂が、再びあたり支配する。
そこには、気を失った妖怪とそれを支える半妖がいるだけだった。






~~~~~~~~~




香霖堂は今日も閑古鳥が鳴いていた。

「今月は厳しいなぁ」

そのことに、店主の霖之助は嘆く。
呟きつつも、打開案を考えもせずに、視線を持っている本へと移す。
珍客はいつも突然やってくる。

「こんにちわ」
「いらっしゃいませ、珍しいですね。扉から入ってくるのを見るのは初めてでしょうか」
「あらあら、そうだったかしら」

珍しく扉から入ってくる紫。

「今日は何をお求めでしょうか?」
「いいえ、ただの冷やかしよ」
「なるほど」

そうして、霖之助は本に目を落とす。

「…そういえば、一つ聞いてもよろしいかしら」
「ん、どうぞ」

胡散臭い笑みを浮かべつつ、紫が霖之助に問いかける。

「私のこと、どう思っていますか?」

霖之助は読んでいた本を置き、ニッコリ笑って答えた。

「君は僕にとって、とてもいい友達だよ」
「あら、そう」

言い終わった霖之助は、再び本を手に取り視線を落とす。

「じゃあ、これでもいただこうかしら」
「毎度あり」

ただの小さな小瓶。
中身は何も入っていない。

「でわ、また今度めぼしいものがあったら買いに来るわね」
「はい、ありがとうございました」

紫が出て行った後の店内が、本のページをめくる音に支配される。





一人の妖怪が歩いている。
その手の中には小さな小瓶が握られている。
真っ青な晴天だというのに、なぜだか雨が降っている。
彼にとって彼女はとても良い友人だったのだ。
そして、雨はいつの間にか止んでいた。





「そういえば、今夜は宴会だったか」

霖之助は、珍しく宴会に参加する気になっていた。
そして、最近手に入れた二つの酒を棚から取り出した。

焼酎の『紫』とワインの『My Love デュペレ・バレラ』

彼は意図せず、それを持っていく。
その二本の酒を見て、喜ぶ者がいたとしても、彼はそれを意図などしていない。
そう、彼はとても鈍感だから…

最後まで読んでいただきありがとうございます。
正直、自分でもここまでいくとは…


まぁ、最後に…ゆかりん…イイ!
でわでわ

ああ、とある合言葉で埋め尽くされそうだ。
ドルルン
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コメント



0.2070簡易評価
10.80名前が無い程度の能力削除
いい感じっすねw
良いもの読ませてもらいました。
11.80名前が無い程度の能力削除
無理にカプで終わらせたりせず、マイルドな感じを最後まで保ち続けていて好感を覚えました。
ゆかりんアプローチがとことんさり気なさすぎるよゆかりん
また次の作品を期待しています。
13.80名前が無い程度の能力削除
ここはやっぱり
こーりんこr
14.80名前が無い程度の能力削除
うまく言えないけど良かった。
24.100時空や空間を翔る程度の能力削除
最後まで甘いお話でした~

本当にいい友達関係とは・・・・・・
秘たる思いかな。
26.無評価ドルルン削除
みなさん、いつも誤字指摘とコメントありがとうございました。
またいつか、書くことがあればよろしくお願いします。
30.40椒良徳削除
やっぱり貴方の文章はどこか読み辛い。
文と文の接続が悪いせいかもしれない。
まあそんな瑣末な事は置いておいて。
こーりんころr
36.80名前が無い程度の能力削除
なんかずっと嫌がらせのようなレスしてる奴いるな

なかなか楽しめました。が、もうちょっと二人の関係を描写したほうがいい気がします。
37.90名前が無い程度の能力削除
なんだかとても霖之助らしいと感じました。
やさしくて少し切ない良い物語だったと思います。
39.100ウェスカー削除
ラストが良かったw
あとこーりんこr
43.100名前が無い程度の能力削除
ゆか霖最高!
48.100名前が無い程度の能力削除
いい話だった、曖昧なとこがモニョる