Coolier - 新生・東方創想話

霊夢主義

2007/05/20 10:43:06
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もし、この作品が読者様の人生において、時間の邪魔にならないのであれば是非一読ください。
              以下天狗のスピードで五時間
                    ↓



























「貴女も暇ねぇ。こんな所にいても、特ダネなんてないわよ?」
「博麗霊夢居るところに不穏な影あり。ま、真実は解らないにしろ、噂が絶えませんから、アナタは」

夕闇も近い頃、博麗神社の境内に二つの影があった。
神社の巫女である博麗霊夢と、人騒がせな新聞記者、射命丸文だ。何時の頃からか神社へと赴く回数が
増えた文からすれば、霊夢の発言は今更である。

「それにネタにはあまり困っていません」
「なら尚更よ。何故いるの?」
「? いちゃいけませんか?」

尤もだ。人間より妖怪の参拝(はしないが)頻度が高い博麗神社であるからして、文が居る事も大して
不思議な事はない。そして文も例に漏れず、力の強い妖怪である。つまりここに居る事は何の疑いもな
く当たり前で、問答を繰り返すような問題ではない。

「いちゃいけないなんて言わないわよ。でも、何でかなって思ったの」
「ははぁ。霊夢さんは私がお嫌いなんですね……」
「ち、違うってば。仕事はいいのかって思ったの。取材以外だってあるでしょ、新聞記者なんだから」
「それを言えば霊夢さんこそ、境内のお掃除はもう良いんですか?観たところ、あちらこちら葉っぱが
散らかっていますし、さっき覗いたおみくじ、中身なくなってましたよ」
「え、嘘。誰があんなおみくじ引くのよ?」
「さぁ。無人にしているから、適当に暇つぶしにでも使われたんじゃないでしょうか」
「なら窃盗ね、激写して頂戴よ。仕事が増えたわ、ほら」

先ほどからこんな話ばかりである。内容は違えど、他の人間が来ても変わり映えはない。あれがどうし
たこうした、じゃあまた、で別れるのが何時もだ。
そろそろ日も沈もうとしている。

「はぁ……」
「憂鬱そうですね。人間は肉体の心配も然る事ながら心も弱いですから、面倒ですねぇ。もしよかった
ら相談に乗りますけれど?」
「間に合ってるわ」
「あら素っ気無い。誰にでもそうなんですか?」
「そーよ。みーんなにそう。私は中立なの」

背中を向け、境内から母屋に戻ろうとする霊夢に、文は巫女も大変だ、と言う。
いつもの幻想郷の、いつもの風景。巫女は怠惰で、魔法使いは空を飛び、人形遣いは引きこもって、新
聞屋は何を考えているか悟られないような顔をしている。

「そういえば、あの鬼はどうなりました」
「何よ、まだ帰らないの?」
「いいじゃないですか、本当は結構暇なんです」
「……萃香なら今日も屋台ね。あの大酒飲み、少しは仕事手伝いなさいってのよ」
「痛み入ります。鬼は昔からそんなもんですし」
「昔の萃香を知ってるの?」
「いいえ?ただみんな大酒のみの大食いの馬鹿力です。伊吹萃香も例に漏れないでしょう」
「そんなのがいた時代の幻想郷には生まれたくないわねぇ」
「生まれてますよ」
「ほんとだわ」

そんな話をしている間に、もう陽は命僅か。また明日来ると宣言している最中である。
今日はめずらしく魔理沙もアリスもスキマもいない。萃香も今日は帰ってくる事はないだろう。
霊夢からすればその誰もいないような時間は、魔理沙程度しか博麗神社に足を運んでこなかった時代に
戻るだけの話だが、突如その時代が訪れてみて誰もいなくなると、一抹の寂しさがあるようにも感じて
いた。

―――射命丸文がそこまで見越していたかいないかは別だが……

「ご飯、食べてく?」
「ご相伴に預かります」

流れは文の望んだ通りとなった。




1 博麗霊夢の生態




なんだかんだと詭弁を立て並べたが、本音の部分を晒せば、今日こそチャンスであると射命丸文は思っ
ていた。魔理沙とアリスは自分がポストに投函したフラ○シュかフ○ーカスかフ○イデーな写真の所為
で痴話喧嘩中。萃香にはミスティア屋台割引券を与えておいた。スキマをどうするべきかと悩んだが、
今日はどうもずっと寝る気でいるらしいと式神から聞いている。
レミリアにおいては、十六夜咲夜に賄賂を渡しておいてある為、絶対に外出は出来ない。賄賂とはもち
ろん写真であるが。

そこまで根回ししたのだ。
ここで博麗家の母屋に合法的に侵入出来なければ面白くも無い。それに他の人間がいては、博麗霊夢の
私生活に迫れないではないか。
兎にも角にも。
第一印象からほぼ変化のない博麗霊夢は、どこからが公でどこからが私なのかまったく判別がつかない。
人に見せる印象だけが博麗霊夢の全てであるとは、腹の黒い天狗からするとどうも信用ならないのだ。

中立中立とはいえど、どこまで本当なのか?そもそも霊夢と親しくしようと迫る人々がいるのに対し、
誰にも靡かない態度を貫く霊夢には如何なる決意があるのか?

取材出来たら勿論許可も取らずに新聞紙に印刷してばら撒くのである。

個人的にこの少女への興味がある。
吸血鬼だろうが、尋常ならならざる力を持つスキマだろうが、冥界の姫君であろうが、異星人であろう
が、閻魔であろうが兎に角気に入らなかったら叩き伏せるその根性と、叩き伏せた人間皆博麗霊夢を嫌
う事なく、むしろ好いているというねじれた事実。
本気ではなかったが、射命丸文もまたこの少女に負けている。
なんとなくは、理解しているのだ。人間にしては力が強く、存在そのものが不思議。その異端なる人間
を、自分も嫌いではないと理解はしているのだが、確信を得るほどの感情が持てない事も確かだ。

では仕方ない、自分は新聞記者なのだから、としてこのように取材へと取り掛かった訳である。

「適当に寛いでて。御不浄はこの廊下を突き当たり右」
「これはこれは。ではお言葉に甘えて」

霊夢は文にそう伝えると、夕食を作る為に流しへと消えた。

「何もない部屋ですねぇ」

あるのは大体日用品。趣味らしい何かは見当たらない。その所為かやたら小奇麗に見える。
まぁ当然の事ながら、取材といってもそれ以外の事がメインである。私生活を知りたいのだからその人
間が如何なる趣向の持ち主であるかなども知り得たい訳だ。

「趣味はなしっと……」

文花帖にメモを取りながら、チラリと流しへと目をやる。霊夢は作業に没頭しているらしく、文へ気は
払っていないと見える。
これをチャンスと踏んだか、文は俊敏な動きで次々と物色し始めた。

「これは……なんと、光物?」

丁度神棚を不敬にも物色していると、奥にある箱の中から驚くほど大きな琥珀が出てくる。光る物や綺
麗なものに目を引かれるのは鴉としての習性か、はたまた乙女としてなのか。
流石に大切に神棚に仕舞ってあるものにイタズラするのも恥かしいので、それは大人しく元へと戻した。

「プレゼントだったりして……いやまさかぁ」

かなり高価そうである、という点のみで取敢えずプレゼント説を否定して次へ。

「ふふーんふーん……っと、うわ」

桐の引き出しを開けると、そこには花が咲いていた。文は花を摘み上げると、よく観察する。
花はよりどりみどりで、白は思ったより少なく、黒から紫まで揃っていた。どうも博麗霊夢の感性とは
かけ離れた花のチョイスに、文も戸惑う。

「意外と派手なの持ってますね……あ、上はないんですね。そうですよね、サラシですもんね」

そもそもつける必要がある大きさとも思えない、と確信。花を元に戻して、自分も元の位置に戻る。

「射命丸さん、ご飯は堅めと柔らかめどっちがいい?」
「堅めがいいです。それと私は文と呼んでくださいね」
「文……って違和感あるわねー。文さんでいい?」
「構いません。というか今まで貴女としか呼ばれていなかったんですね私」
「そうねー」

文は胸を撫で下ろす。たまたまなのか、直感なのか。霊夢を相手にするとまず気は抜けない。
堪がどうにもこうにも良い。花の異変の時はこんなものかと思っていたが、いざ一緒にいる機会が増える
とその意味が漸く解ってきた。
しかしそこは俊敏な文である。人間に遅れを取るほど伊達に妖怪ではない。小さなプライドである。

「文さん、タマネギとか食べれる?」
「え?えぇ大丈夫ですけれど」
「そう。血中ヘモグロビンが破壊されたりしないかと心配で」
「私は犬猫ですか。でもそうすると八雲家の猫や紅魔館のメイドなんかは大変そうですね」
「前者はそうね。後者は……あぁ、あはは、犬ね」
「面白い写真が撮れたら焼きまわししますよ」
「変化の無い日常に必要な要素だわ、それ」

紅魔館といえば色物ぞろいだが、その中でも矢張り異色であるのは何故か魔窟に住む人間メイドだ。何や
ら時間も止められるらしいので、文としてももしそのスクープを撮るとなれば命がけである。

(紅魔館かぁ……あぁ、あぁそうか……さっきのお花、もしかしてレミリア氏の趣味でしょうかね)

先ほどのお花畑を思い出す。やたら際どいものが多かっただけに不思議だったが、霊夢とレミリアの関係
を考えるにありそうだ。どこまで至っているかは定かではないが、あの女ならば自分の趣味を押し付ける
真似をしそうである、と文は思考する。

(しかし……本当にそれぐらいで、何もない家ですねぇ)

まさか、本当に見た感じだけが博麗霊夢なのか、表が裏を兼ねるなどという非人間的な人間がいるのだろ
うか。普段から娯楽もなしに生きているのだろうか。
文は首を捻る。
とりあえずする事がないので、庭先にいるぶんぶん丸を呼びつけて、夕食まで戯れる事とした。




2 食生活




「……すごい。どんなものを出されるのかと俄に心配していたんですけれど、これは」
「貴女、私の事どんな目で見てたのよ」
「博麗といえば貧乏。貧乏といえば貧相な食生活。貧相な食生活といえば」
「もういいわ、お帰りはあちらよ」
「夜は暗くて嫌です。おいてください、おいてください」
「妖怪が何を。というかこれじゃあ私が鬼みたいじゃない」
「鬼は大酒のみの大飯喰らいの馬鹿力です。恐くはありません」
「というかこれじゃあ私が保健所の人みたいじゃない」
「ごめんなさい、ごめんなさい」

文は鬼より保健所が恐かったので頭を下げた。
しかし文としても意表を突かれたと言わざるを得ない。なかなかに立派だ。

「頂きます」
「頂きます」


湯気立つ白米は文が望んだ通りの堅さで、新米でもないのに巧い具合に粘りも引き立っている。堅さと粘
りを両立させた炊き具合だ。
手を伸ばす先にある味噌汁。質素ななめこ味噌汁だが、出汁も味噌も塩梅が良く、口にしょっぱさが残ら
ない。なめこ味噌汁は独特の粘りがある為冷めにくいが、温度も調節してくれているらしく舌を火傷する
心配もない。
そしてメインのこれは、野菜と兎の酢兎だろう。本来は豚であろうが、豚は貴重である。代替品として兎
を用いているが、どうか。

「ん、美味しいですこれ……」
「そう、よかったわ」

肉の揚げ加減が良いのか。本来淡白で脂身が薄い兎ではジューシー感に欠けるものがあると文は思ってい
たが、作る人の手一つでどうにでもなるようだ。驚きである。

「油も使うなんて。食費、払った方が良いですよね」
「くれるなら貰うわ。只で良いと思っていたけど、まぁもらえるに越した事もないし」
「本来ならば余計な事を言ってしまったと後悔する場面ですが、しません。後でお賽銭として入れておき
ます」
「殊勝な心がけね。信心は大事よ」
「うーん……」
「何?」
「いえ、何でもありません」

白米がよく進む。それにしても、随分食費がかかっていると思う。文の頭脳が博麗家の家計を勝手に算出
し始めるが、ブラックボックスが多すぎて、考えるのをやめた。
あるものはあるのだ。神の巫女なのだから。きっとそうである。幻想郷七不思議入りだ。

「あの、萃香さんは何が気に入らないんでしょうね」
「何がよ」
「いえ、これだけのご飯を出してくれる同居人がいるのに、わざわざ外でツマミを頂くなんて」
「そうねぇ。雰囲気じゃない?酒飲みの」
「あ、なるほど。それはあるかもしれませんね」
「それに私、あまりお酒強くないし、一緒に飲めるだけの相手がほしいのよ」
「いやぁ、あれと飲み比べるのは私もちょっと」
「天狗が何を」
「まぁまぁ。そのほうが乙女らしいですから。はい」

もくもくと食事を進める。結局その後は無言で、食べ終わったとの洗い物は文がした。
洗い物途中で、はて自分は一体何をしに来たのか、などと疑問に思う。はたと思い出し、なんだか無粋な
真似をしているなぁと後悔。けれど無粋だからこそ新聞記者であると再確認し、次の手に出た。




「お酒です、いいのがあるんですよ」
「へぇ……あ、それは稗田さん所でも飲んだ事あるわ。美味しいのよね、白百合」

如何わしい名前である。勿論妖怪山産だ。どこの誰がつけたのかも解らないが、本当に如何わしい名前だ。
当然文とて如何わしい名前だと思いつつ持ってきた。

「おごりです。私は萃香さんほどガバガバやらないので、あわせますよ、ペース」
「いい能力ね。相手が進むとこっちも進めなきゃいけないって変な義務感できちゃって、強い人と飲むの
苦手なのだけれど」
「ヘタですねぇ。お酒は相手を見ながらです。特に二人の場合は」
「そうね、同意だわ」

人に口を割らせたかったらアルコールが一番である。これは何処の世も変わらない真理であるように文は
思っていた。頭はぼんやりするし、相手に話し掛けられると喋らなきゃいけないような気がしてくるのが
お酒である。文はもう何十年も本気で酔っ払った記憶などないが。

「おつまみ、これでいいわよね」

霊夢が持ってきたのは野菜の唐揚げと兎肉の和え物である。なんと準備がいい、と文は思ったが、もしか
したら見越していたのかもしれないと、ギクリとする。

「じゅ、準備がいいんですね」
「流れとしてありそうだったから。一応こっちもお酒があったし。でも文さんの方が良いのを持ってきた
から、そっちのおつまみにしようと思って」
「そうですか、なら頂きましょう」

文は霊夢にお酒を注ぎながら、またしても自分は何やってんだろうと考える。もしかして手玉に取ろうと
して逆に取られているのは自分だったりして、と疑念が生まれるが、霊夢からはそういったものは感じな
いし、先ほど表も裏も無きに等しいと認識したばかりだ。
それにしても、本当に嫌味が無い。
新聞記者だし、煙たがられるかと思ってもいたが、そんな素振りも見せない。本当に中立ではなかろうか、
と真剣に信じてしまいそうになる。

「ほんとに美味しいわねこれ……辛すぎず甘すぎず。クセもないのね」
「妖怪の山でも一ニを争う出来です。酔えない分キツイものに走る傾向のある天狗ですが、意外と舌は肥
えてるんですよ」
「へぇ……」
「?」
「あはは」

笑いやがった。文に一抹の不安が過ぎる。何度か宴会にも参加して、霊夢が何上戸なのかと観察はしたが
どれとも判別が出来なかった。まさかランダム系の非常に扱いにくい輩なのでは……。

「くふ、ふふ、あははっ」
「あは、あははははは……」

泣き笑い怒り様々あれど、ミックスされると性質が悪い。そもそもそれではどこで話を聞くべきか迷って
しまう。というか弱すぎる。普段本当は飲んでなかったんじゃなかろうか?
文はもうなんだか笑うしかなかった。

「ぐす……文ちゃん……文ちゃん……」

もう泣き笑い怒り何周目だっただろうか。とうとう縋りつかれる。

「はいはい、何ですか霊夢さん」
「文ちゃん……抱いて!」
「はいはい、ダメですよー、落ち着いてくださいねー」
「く、あはははは!!!」

文としては……これはこれで面白かった。当初の目的など那由多の彼方に消え去り、なんだかもう使命感
や好奇心はどこかにいった。
それよりこの壊れた博麗霊夢が妙で妙で仕方が無い。普段陽気といえば陽気だが、ぶっ壊れるとこうなる
ものかと関心する。お酒は偉大だった。
ちなみに抱いて発言はこれで二十回目あたりである。
なるほど、こんな状態をレミリア氏その他に捕まれば乙女の純潔など何処へやらであろう。自制心が強い
のかもしれない、と取敢えず文花帖にメモした。

「はぁい文たぁん、おつまみでちゅよー♪」
「はい、あーん。霊夢さん良く出来ました」
「やぁん♪」

こう、文もなんというか。
何というべきか。ここまで来ると変を通り越して可愛く思えてきた。
さてと文は考える。恐らく、この機会は二度とこないだろう。

―――もし、もしだ。

もし自分がこの博麗霊夢に手をかけたならば、一体どれだけの波乱が幻想郷に巻き起こるだろうか。

―――ブン屋の血と、天狗の好奇心と、下心が相まる。

「霊夢さん」
「ぐすっ……うぅぅ……なによぉ……」
「もう寝ましょうか♪」
「嫌よ!」
「霊夢さん」
「はぁい♪」




3 博麗霊夢という生物




「布団、これでいいですね?」
「そうよぉー……あたい最強ー……」
「それは ひとちがい です」
「そうねぇ……」

霊夢はどうやら知能が妖精でも取って置きのアレにまで下がっているらしい。

文は霊夢を布団に横たえると、その脇に腰掛けて眺める
私服のまま寝たらシワになるだろうなぁ。脱がせた方がいいんじゃないだろうか、というか体も拭いた方
がいいんじゃないだろうか、ふふ、妙に可愛いわね、どうしてくれようかしらこの腋巫女。
などと考える。

改めて取材の事を思い出したが、迫り来る義務感を金属バットで殴り倒し、埋葬する。文はそれをざまぁ
ないと吐き捨て、アルコールで熱っぽくなった霊夢へと顔を寄せてみる。

(……なぁんとなく解りますね。最初は変な人間だとは思いましたが……)

(強くてよい子なら、私の許容範囲内です)

と、脳内の文がふしだらな発言をする。ついでに幻想郷万歳と三唱し、神々に祈りを捧げ、理性にサヨナ
ラグッパイまた会う日までと告げた。

「霊夢さん」
「なぁによぉ……」
「可愛いらしいですね」
「そぉう?」
「えぇとっても。人間にしては魅力があります」
「見下したなからすてんぐー、明日はきさまのーかああげじゃあ……」
「一応、優れている自信があります。普段口にしませんけれど」
「ふぅん……?」
「美味しそうですね、霊夢さん」
「そりゃああなた、引く手あまたなのよ、ふふ」
「そうでしょうそうでしょう。大妖怪も吸血鬼もアナタがお気に入りのようですし」
「つみぶかいわぁ……くふふ」
「えぇ。なので私もそれに便乗したいと思います。大丈夫です。楽しくなれますから」
「えっちぃー、てんぐのくせにえっちー、あやちゃんは卵うむのん?」
「脈絡がありませんがそうです。でも女の子が好きなので産む必要もないですね」
「????」

「―――では、霊夢さん」
「………………ん?」
「いただきm」




その時、文に電撃が走った―――。

嗚呼この世はなんと理不尽に出来ているのか。物事とは須らく上手くいかないものである。万事巡り合わせ
が為すこの世界において、都合が良い事が立て続けに起こった場合、後に控えているのはそれに相当する悲
劇である。森羅万象有象無象三千世界の端の端まで、きっと宇宙の先があっても同じような法則が取り巻い
ているに、違いが無いのだ。

と、文は約コンマ二秒で全ての答えを出した。

「霊夢、霊夢?あら鴉天狗、私の霊夢に何をしているの?」
「霊夢!今日は貴女に一番似合いそうな下着を持ってきたの!霊夢……あら鴉天狗?」
「霊夢ー、今帰ったよー。霊夢ー?あれ、射命丸文?」
「霊夢、お夜食食いにきたぜー。お腹へって力が出ないぜ。れいm……鴉天狗?」
「霊夢!魔理沙ったら酷いのよ!私に隠れてあの子やこの子……あらブン屋じゃない?」

「あは……わたし、もてすぎぃ」
「あははは、あはははは。皆さんお揃いで……って、霊夢さん手を、手を離してくださいっ」
「嫌よ!自分からするっていったんじゃない!嘘つきは天狗の始まりなのよ!」

そしてそれは起こった。

「んっ……んふぅぅう……♪」
「んぐぐ……ぷぁっ!ちょ、霊夢さ、舌いれちゃ……んふぅぅぅ♪」

文の中に絶望と官能が押し寄せた。ある意味で絶頂である。
力は当然の事ながら文が断然強いが、酔っ払って本領をはっきした博麗霊夢の舌技は文の持つ理性と既成概念
を当たり前の如くぶちやぶり、抵抗を不可能とする。

時間が動いているのはお熱い二人のみで、その他全員は不法侵入者ながら、侵入しなければよかったという大
後悔と目の前のありえざる光景に完全硬直。この場にだけプライベートスクェアが適応されていた。

「んちゅぅ♪……Zzzz」
「はぁ……あふぅ……あぁ……なんですかこれ……幸福と絶望が一挙に押し寄せて……ある意味カイカン…♪」

「でも、押し寄せるのは……それだけじゃないんだぜこのエロ鴉がああああああああああああああ!!!!!」

「弾!!!!!幕!!!!!結!!!!!!!界!!!!」
「不夜城レェェェェェェドォォォォッォォォ!!!!!!」
「百万鬼!!!やこぉおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」
「マスタースパーク!マスタースパーーークゥゥゥ!!!」
「アーーーティフルサクリファアアアアアイス!!!!!」

「い――――――いやあぁぁぁぁ!!!!!!」

後に人里の染悟郎氏は語る

『きったねぇ花火だった』

と……。




4 射命丸文という選択肢




「……んぅ……ふうぁぁぁぁぁぅぅ……あら?」

霊夢の眼前には、射命丸文らしきものがいた。その射命丸文らしきものは、なんと半裸である。

「う……霊夢さん、お、おはようございます」
「お、おおおお、おはよう、文さん……」

霊夢が真っ赤にした顔を伏せる。
文は取敢えず意識を戻し、色々とボロボロになった服を調えて、霊夢の正面に座り、土下座する。

「で、出来心だったんです!なんだか昨日の霊夢さんすんごく可愛くって!それでもってもし私が手をだした
らどうなっちゃうんだろうなぁっておぼろげに思っただけなんです!でもこんな事になるなんて!」

霊夢は辺りを見回した。母屋は……無残にも半壊している。
思わず引きつった笑みが零れた。非常に、朝日がまぶしい。外を見れば、なにやら見覚えのある四人が話しあ
っていた。霊夢は今一判断に困ったが、部屋をぶっ飛ばすほどの阿呆ならそこに五人人も揃っていたので、独断
と偏見で五人をきつく呼びつける。

五人は霊夢の布団の周りにあつまり、ふかぶかと頭を下げ、適当に射命丸文が犯人であるとでっちあげた。

「え?私ですか?え?えぇ?」
「射命丸が霊夢の首を取ろうとしてたから、咄嗟にマスタースパークだったぜ」
「思わず弾幕結界よ」
「間違いなく不夜城レッド」
「紛う事無く百万鬼夜行」
「もう絶対アーティフル」

「そう……みんなありがとう……じゃあ全部修理してね」

「えぇ?射命丸だってば!」
「そうよ霊夢。罰する対象が違うわ」
「陽射しがある中仕事なんて出来ないわよ」
「いやまぁ、なんとか出来るだろうけど……萃めたりすれば」
「うぅ……なんでこんなのばっかり……だれが一人上手よ……」

アリス辺りはあまり的を得ていなかったが、五人はしぶしぶと母屋の修理に取り掛かる。途中紫はいつもの怠け
者精神を発揮して藍を呼び、レミリアは咲夜を呼びつけていた。

「ふふ……」

そんな中。
射命丸文は見たのだ。あまりにも、少女には似つかわしくない、博麗霊夢の不敵な笑みを。




「霊夢さん、私も手伝わないと……」
「いいのいいの。あれだけへんな力持ってる奴等が集まれば、直ぐに出来るわよ」

文は霊夢に連れ出され、平和な幻想郷の空を飛んでいた。目的地もなく、ただ二人でぶらぶらと。最初は気まぐれ
の散歩であるのかと思ったが、どうも違うらしい。そんな事より貸してもらった霊夢の服がひらひらして飛びにく
かった。

「霊夢さん、あの、ごめんなさい……」
「何故謝るの?」
「いえ、先ほども話した通り、その……霊夢さんをですね、手篭めにしてしまおうと」
「ずいぶんな言葉使うのね。でもまぁ……ね。貴女になら”されてあげても”いいわ」
「……博麗、霊夢……やっぱり、貴女……」

こんな温かい日和であるのに―――文の背筋に、冷たいものが流れた。
緊張感……いや、もっと深刻な何かが文の心に影を落とす。
まったくもって勘違いしていた。何もかもが違っていた。博麗霊夢は貧乏の守銭奴の腋巫女の紅白のただの少女な
どではない……。

「文ちゃん、私、全部覚えてるわ」
「―――!?」
「ふふ、私ったら、罪深い女ねぇ♪」

文は思わず喉を嚥下する。これは……これは恐ろしい。これはただの人間などではない。大よそ巫女などという神
聖で純潔な存在ではない。

この女はまさに―――。

「何故、まさか、何もかも……」
「あはは!そうね、何もかも。紫が言ってたわ。人生とは如何に暇を潰すかであるって。私は人間だけれど、やっ
ぱり暇は暇なのよ……だってね。異変がないとする事もないし。お茶を飲んで掃除しているだけじゃあ、つまらな
いでしょう?それ以外で何か娯楽を求めるとしたら……ね」
「実質的な支配者……この、この人間が……」

「私は公平中立。来るもの拒まず。みんな平等に、愛してあげる」
「……わ、私は……」
「これからも宜しくね、文ちゃん♪」

霊夢と呼ばれる少女は、本当に何も知らない、純粋な少女の笑顔で、射命丸文へと微笑みかけた―――。

射命丸文は思う。

そうかやっぱりと。

最初から手玉に取られていたのは。

自分だったのだ、と。

そうして、文の答えは、一つしか用意されていない。

「よ、宜しくお願いします……」

何故こんな事を言ってしまったのかといえば、答えは単純である。

「うん♪」

全部演技だと解っていても、否定して何か得するのかといえば、実のところ何も無い。

考えるべき事は沢山あるけれど。

―――今はただ、頬に感じた唇の感触だけが、射命丸文を支配していた。



end
ここまで読んでくださった方に最大の感謝を。
創想話たしか六作目です。

口癖のように文かわいいよ文、腋だよやっぱり腋だよなどとのたまっていましたら、いつのまにかこんなことに。
きっとへんな気に中てられたのかもしれません。お祓いしてもらいます。

ちなみに私は文に3回に1回しか勝てません。

それでは失礼します。

*追記
誤植修正しました。ご指摘有難う御座います。
俄ファン
簡易評価

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コメント



0.2540簡易評価
2.90名前が無い程度の能力削除
霊夢さん最強!!w
話の展開がすごく好きでした。
3.100名前が無い程度の能力削除
なるほど、あなたは私を(萌え)殺したいらしい
ひゃっほう!霊文最高だぜ!!
5.100名前が無い程度の能力削除
霊夢恐ろしい子!?

面白かったですw こういう霊夢はいいなぁ
10.100うみうし削除
キュイーーーー!!また死んだのかー!
14.80徹り縋り削除
何と言う節操無し
24.100名前が無い程度の能力削除
こ、こんどは文が霊夢の服をおおお!!
26.100名前が無い程度の能力削除
れ、れれれれれれれれれれ霊夢がなんかすげえええええええええええ!!
27.無評価俄ファン削除
>話の展開がすごく好き
めめ、滅相も御座いません。
>私を(萌え)殺したいらしい
となれば私は殺人未遂犯。でも常習的なので今後もっと頑張って
確実にSATUGAIできるよう精進いたします。
>霊夢恐ろしい子
あの腋に秘密が………。
>キュイーーーー!!
おおおおお、おちついてくだしあ
>何と言う節操無し
私の脳内東方は何故かみんな節操なし
>○ジータ…
幻想になっちゃいました
>文が霊夢の服
そのうち幻想郷が腋だらけに、マニア垂涎。
>霊夢がなんかすげえええええええええええ
絶対あの子何か隠してますよ。絶対。うん。

ご評価有難う御座います。
皆様の声を受けながら、今後も脳内に溜まったあれやそれやを
恥ずかしながらも文章にしたため、羞恥プレイの如く投稿した
いと思う所存であります。あんあん
30.70名前が無い程度の能力削除
展開は好みですが、霊夢は同性は全て呼び捨てにするというイメージが…。
31.80名前が無い程度の能力削除
これはなんというかもう……
というかもしや酔ってミックス上戸になったのすらも演技!?物凄い萌えたのに!!霊夢、マジで恐ろしい子……!掌で転がされたいって文ちゃんの気持ちがちょっと解るような気がするのが更に恐ろしいです。

>感がどうにもこうにも
勘では。
>なにやら見覚えのある四人、阿呆ならそこに四人、独断と偏見で四人、四人は霊夢の布団、四人はしぶしぶと
五人では。
38.80椒良徳削除
 !や?の後ろに文章が続くときには後ろにスペースを入れるのが一般的です。
守られてるところと守られてない所があるのが気になる。

 まあそんな無粋なことは置いておいて。印象に残った所をメモメモ。
「魔理沙とアリスは自分がポストに投函したフラ○シュかフ○ーカスかフ○イデーな写真の所為で痴話喧嘩中」について詳しく聞きたいものですな。どんな写真だったんだろう。
「花はよりどりみどりで、白は思ったより少なく、黒から紫まで揃っていた」なんという花のセンス。読んだ瞬間おもわず勃起してしまった。この霊夢は間違いなくレイプする。
 文を「射命丸さん」「文さん」と呼ぶ霊夢はなんか新鮮でよい。「庭先にいるぶんぶん丸を呼びつけて、夕食まで戯れる事とした」この乙女心に涙する。というかなんで幻想郷に忌まわしきペットの敵保健所があるのかが判らない。しかし保健所を怖がる文には勃起する。
「はぁい文たぁん、おつまみでちゅよー♪」
「はい、あーん。霊夢さん良く出来ました」
「やぁん♪」
このやり取りには萌え転がくぇrちゅいおp

 しかし、最後に明かされる霊夢の恐ろしさにはまじガクブル。霊夢まじ最強。
それでこそ神主の嫁。
39.80deso削除
狙っている。乗せられている。
わかっていてもコメントせざるを得ない時がある!
なんという腹黒霊夢。だがそれが良い!
42.無評価俄ファン削除
>椒良徳氏
ご指摘有難う御座います。良質の批評は実に嬉しい限りです。
今後ともどうぞ宜しくお願いします。
>狙っている。乗せられている。
そんな私はいっつも霊夢ばっかり使うんです。霊夢かわいいよ霊夢。
>これはなんという
いやはや酷い誤植をしたものです。インド人を右へ

ご評価ありがとうございました。あんあん
43.100時空や空間を翔る程度の能力削除
一言で言うと・・・・・・「萌え」ですな。
ずばり
47.90名前が無い程度の能力削除
誘い受けもここに極まったかw
いや、これは誘い受けを超えた、言うなれば『誘い"受けない"』。被害者は残らず悶死するのみですねw
48.100名前が無い程度の能力削除
\射命丸!/
49.90名前が無い程度の能力削除
>五人人も揃っていたので
人が多いぜw

腹黒霊夢GJ
50.90辻堂削除
私の求めていたSSがここにあったか・・・。

ストーリー展開がもはや理想的。

会話と描写のバランスもよく、テンポよく読みやすかったです。



最後にちょっとチェックを。



>「面白い写真が撮れたら焼きまわししますよ」

『焼き増し』ですね。
65.90名前が無い程度の能力削除
霊夢…恐ろしい子……!
67.無評価名前が無い程度の能力削除
>的を得るは誤用
「的を射る」か「当を得る」
73.90幻想削除
汝、右の頬にkissされたなら左の頬も差し出せww
76.100名前が無い程度の能力削除
ホァッ