Coolier - 新生・東方創想話

0と1の境界

2007/05/19 05:56:20
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幻想郷で唯一無二の能力を持つ大妖怪、八雲紫。
『あらゆる境界を操る程度の能力』を使い、神隠しなどを行っている張本人。
そんな彼女でも操れない境界がある。
その境界とは、『0と1の境界』である。



「大分この紫の桜も散ってきましたね。」
四季映姫・ヤマザナドゥは無縁塚に咲いている紫の桜を見上げて呟いた。
60年に一度起こる、この妖怪桜の大開花。
乗り移っているのは外界で罪を犯した咎人の魂。
「本当、綺麗ね。」
映姫は声の方向に視線を向ける。
そこには紫を基調とした衣装を身にまとう妖怪―――八雲紫がいた。
「珍しい来客もあったものですね・・・。
 私の説教を聴きにきたのですか?」
紫はにっこりといつもの胡散臭い笑顔を浮かべていた。
「悪いけど説教をされるのは趣味じゃないの。
 久しぶりに60年に一度満開になるこの妖怪桜、『罪桜』を見に来たのよ。
 色も私の名前と同じ紫だしね?」
返答を聞きながら、映姫は再び桜を見上げた。
紫は近くにある石の上に腰を落ち着け、同じように罪桜を見上げる。



「・・・そうね。あの時も同じ色の桜だったわね。」
誰に聞かせるのでもなく、紫はそっと呟いた。
「あの時?」
映姫は反芻した。
「聞こえちゃったのね。」
苦笑を浮かべる。
「ここには私と貴方しかいませんからね。
 呟きだったとしても、ここならよく声は通ります。
 よろしければ、聞かせてもらえますか?」
「説教をされるのは趣味じゃないって言ったでしょう?」
相変わらずの苦笑いを浮かべたまま、扇で口元を隠す。
「何も説教をするのだけが閻魔の仕事ではありませんよ。
 ここで私に懺悔をする、それが今の貴方にできる善行です。」
映姫も同じように卒塔婆で口元を隠し、紫を見つめる。
「・・・そうね。たまには閻魔様に愚痴をこぼすのも一興かもしれないわね。」
紫はそう告げるとスキマを開き、ボロボロになった扇を取り出した。
その扇を見つめる瞳に、偽りの無い悲しげな光が一瞬見えたのを映姫は見逃さなかった。



「一つ、質問いいかしら?」
扇をただ見つめたまま、紫は口を開いた。
映姫は無言で肯定の意を示す。
「貴方には、『0と1の境界』って分かる?」
「『0と1の境界』、ですか。」
紫は頷く。
「それはまた難しい質問ですが、答えることは出来ます。
 いえ、答えるではなく、私の考えを述べることが出来るというのが正しいでしょう。」
さぁっ、と風が周りの彼岸花を揺らす。
「『0と1の境界』とは、私が考える限りでは何者も操作することが出来ない絶対の境界のことを言うのだと思います。
 『0』とは無、『1』とは有。死や生では捉えることの出来ない絶対のもの。
 貴方のスキマがそれに近いとは言え、やはりそこは『1』なのだと思います。
 つまり、『0と1の境界』を操作すると言う事は、『0』の中から『1』を生み出すこと。
 無の中から何かを作り出すことに等しいのだと思います。
 何も無い場所から運命を作り出すように。」
紫は黙って聞いていた。
映姫は更に続ける。
「『0と1の境界』についての意見を求めると言う事は、貴方がその境界を操作できないと言う事でしょう?
 つまり、貴方は昔『0と1の境界』を操作しようとした。違いますか?」
紫の体が強張った。
一時の静寂が二人の間を過ぎていく。
それを破ったのは紫だった。
「・・・西行妖、を知っているかしら?」
「知っています。人を愛するあまり、人を魅了し、命を奪う罪深き妖怪桜。」
「少し昔の話になるのだけどね・・・。」



それは昔、幽々子が西行妖を封印するために人柱となった時に遡る。
西行妖の根元で血の羽を広げた幽々子
「どうして・・・!どうして待ってくれなかったの!幽々子!」
「西行妖は・・・可哀想な子なの・・・。これで誰も・・・この子に・・・もって・・・いかれ・・・。」
「今助けるから・・・!死なないで、幽々子!」
紫は必死に『生と死の境界』を操作する。
だが、人柱としての力はその境界を受け付けることも無かった。
少しずつ冷たくなる幽々子の体を抱きしめ、ただ嗚咽することしか出来なかった。
「・・・こ・・・に・・・今・・・くね・・・。」
幽々子は西行妖に向けて手を伸ばしたが、すぐにその手は紫の背中に落ちてきた。
「幽々子・・・?幽々子?嘘・・・嘘よ・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
紫は幽々子の体をきつく抱きしめ、そして思い至った。
人柱として死んだのなら、死ではなく、別の事象が起きているのだと。
「・・・人柱として使った肉体では無く・・・、新しい幽々子の肉体を0から作り出せば・・・。」



「・・・そして『0と1の境界』を操作しようと狂気に走りかけたのですね。」
「ええ、今思えば若かったわ。」
扇から視線を逸らすことなく、紫は困ったような笑みを浮かべる。
「でも『0と1の境界』はどんなに苦心しても操作することは出来なかったわ。
 だから、願ったの。輪廻を忘れ、永久に新しい幸せを得て暮らしてほしいと。」
映姫は卒塔婆で口元を隠したまま口を開いた。
「そうですか。あの時の紫の桜、というのは西行妖の事。
 そして貴方が悔いていることは西行寺幽々子を救えなかったこと。
 新しい肉体にて新しい運命を辿らせることが出来なかったこと。
 逆に一つ問います。
 貴方はその『0と1の境界』を今でも操作したいと思っていますか?」
紫は映姫を見て、そして答えた。
「いいえ。どんなことがあろうとも操作したいとは思わないわ。
 私はこの幻想郷が好きだから。
 幽々子が幸せを加味しているこの幻想郷が好きだから。
 それを壊す可能性の有る境界は操作しようなんて思わないわね。」
「そうですか。」
映姫は再び紫の桜を見上げる。

「ゆ~か~り~?」
紫はスキマに扇をしまいこむと、後ろからやってきた親友のほうを見る。
幽々子は疲れ切った笑顔で紫に話しかけた。
「いいお饅頭が入ったから一緒にお茶しようと思って探してたのよ~?
 まったく~、妖夢は永遠亭へお薬もらいに行ってていなくて、探し回ってへとへとよぉ~。」
「あらあら、ごめんなさいね。」
そして振り向くと、そこにはもう映姫の姿は無かった。
「・・・たまには善行も良いものね。」
そっと呟いた。
「紫~?スキマでぱっといきましょ~?」
「ええそうね。楽しくお茶と行きましょうか。あぁ、藍にお茶を作らせないといけないわねぇ。」
そう言いながら、二人はゆっくりとスキマに入り、消えていった。

「『0と1の境界』・・・、そんなものはもう二度と操作できないのですよ。
 貴方の最後の願いこそが『0と1の境界』を生み出し、幽々子を繫ぎ止めたのですから。」
誰に聞かせるでもなく、映姫は罪桜の後ろから二人を見送り、そっと呟いた。
初めまして、瞑夜と言う者です。
初めての投降になります。

まずそんなに見ないペアで書いてみよう、と思い立ち、一気に書き上げてみました。
このような文章ですが、お楽しみ頂けたら幸いです。

それでは失礼いたします。
瞑夜
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コメント



0.550簡易評価
4.無評価名前が無い程度の能力削除
生きていても死んでいても壱は壱だ。
死んだものが甦ろうとやはりそれは壱の範疇だ。
最初から無かったもの。無かったことにすら出来ないもの。
それこそが零だ。

ってけーねが言ってた。
11.40椒良徳削除
 !と?の後ろに文章が続くときには後ろにスペースをいれ、・・・ではなく…を使い、…は二個並べて使うのが一般的です。
例えばこんな風に。
「どうして・・・!どうして待ってくれなかったの!幽々子!」
→「どうして……! どうして待ってくれなかったの! 幽々子!」

 私はキリスト教的な解釈しかできないのですが、一と〇の境界を操る事は造物主の範疇に当る事なので、一妖怪に過ぎぬ紫には不可能と言いたいのですか?
それはダウト。
紫の能力は論理的創造と破壊の能力であると求聞史紀で明言されています。
よって紫に不可能は無いとは言いすぎですが、一と〇、有と無の境界くらい操れるとそう思うのです。

 まあそんなことはともかく、全体的な感想を述べますと、全体的に文章量が足りない所為で、読み足りない感を強く持ちました。
西行妖を封印しようとするシーンでの紫と幽々子の感情が丁寧に描写されていない所為で、いまひとつノれないというか。悲しめないというか。
もう少しいろいろな描写を丁寧になさればどうかと思います。
お互い、頑張りましょう。
13.80名前が無い程度の能力削除
私は論理的創造と破壊の能力=有と無の境界ではないと思うので
この作品の解釈はアリだと思います。
14.60辻堂削除
三点リーダなどの使い方については椒良徳のおっしゃっている通りですね。

ですが、特に読みにくいと言うわけでもありませんでしたので、きっちり直せばさらに読みやすくなるかと。



後半に行くにしたがって、会話文の割合が多くなってきていますね。

描写を丁寧に書いていけば、さらによくなるかと。