Coolier - 新生・東方創想話

東方妖々夢if:Ⅰ-Lost Blossom(1)-

2004/06/19 16:14:39
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<1 桜の海、死の空を駆け>

一方、その風上である。
3人の少女が、のんびりと急いでいた。
その飛ぶ様は、
優雅で、それでいて風より速い。
「しっかし、どこを見ても満開だな」
一人は、モノクロの魔術師。
「こんな非常時じゃなければ、
ゆっくりお花見して行きたいところだけど」
もう一人は、紅白の蝶。
「ここじゃ落ち着かないわ。
やっぱり地に足をつけて見たい」
最後に、最強の従者。
「そういやお前、左腕」
「ああ、大丈夫よ。どうせ使わないだろうし」
ここに至るまでの戦闘で、咲夜の左腕に、
大きな刀傷が付いていた。
血は出ていない。
「それにしてもあの庭師、最後の最期でいきなり強くなるんだから」
「人にはそう言う所があるもの。
追い詰められると、ね」
「そういやアイツ、半分人間だったか」
春を取り戻すためにここまで来たと言っても説得力の無いぐらい、
今の彼女達は普通であった。
「さぁて、ここまで春を集めた張本人は、」
そこまで魔理沙が言ったとき。


空気が、変わった。


―風が、停止する。


ぞくり。
氷を首の後ろにくっつけた様な冷たさ。

「……お出ましのようだぜ」
「そうね」
「……」


―目の前に、
優雅な舞姫。


一言で表せば、そんな風体。
空気が違う事が、強者を思わせた。

やがて、舞姫が口を開く。
「貴女達ね?風を熾しているのは」
「……熾す?」
最初に反応したのは、霊夢。
「なぜ“熾す”なのかしら?」
「この桜を散らせる、
言ってみれば“死”の風だもの」
「お前自身が“死”の権化なのに、よく言うぜ」
と、魔理沙。
声のトーンがさっきより低いところを見ると、
もう先に戦闘体勢に入ったようだ。
「ええ。ここは白玉楼。
貴女達は、死んだらここに来る事になるのでしょうけど、
まだ、お呼びでないわ。
それとも、死にに来たのかしら?」
「そんな事はどうでもいいし、
そんな気はこれっぽっちも無い。
あまり時間が無い、
幻想郷中の春を集めた理由を聞かせてもらえないか?」
舞姫は、ちょっと首を傾ける。
「あまり適当な言葉が見つからないけど…
この白玉楼には、咲かない桜があるの」
「枯れてるんじゃないの?」
咲夜が小さく呟く。
「西行妖と言うんだけど、ある書によれば、
何かが封印されていて、それが結界を作っているらしいの。
ここまで春を集めてやっと咲きそうなのよ。
まだ、咲かないけど」
「“内側に開いた結界”か……
それなら分からなくも無いわ」
霊夢が言う。
魔理沙はチラリと霊夢の顔を見てから、
「で、その結界を解くと、どうなるんだ?」
「すごく満開になる」
「微妙な言い回しだな」
「…と同時に、その何かが復活するらしいの」
霊夢が引き継ぐ。
「そう言う物は、封印したままにしておいた方が身のためよ」
「いや、復活させて見せる」
「……?」
違和感。
何かの強迫観念を、その言葉に感じ取った。
まあ、後に引けない気持ちも、分からないでも無い。
自分たちも、同じ気持ちだったから。

そして、そうであると言う事は。
この舞姫の進む線と、
自分たちの進もうとしている線が、
平行であると言う事。


……平行は、決して交わらないのだ。
どちらかが折れぬ限りは。


「そのために、貴女達の持つ僅かの春が必要なの。
……お渡しになって下さらないかしら?」
「断る」
3人の気持ちを代弁する咲夜。
「そんな枯れているとも知れない桜に興味は無い。
それよりも、集めた春を返してくれないかしら?
そろそろ冬が終わってくれないと、こっちとしても困るの」
「申し訳無いけど、それはまだ出来ない。
西行妖が、満開になるまでは」
「そんな悠長な事言ってられないのだけど?」
「それでも無理」
舞姫の表情は暗いが、
それでも、その気持ちが変わる事だけは無い事は分かった。
ああ、と溜め息。
初めからこうなる事は分かっていたのに。
何故、こんな訊いても無駄な事を言ってしまったのだろう。


……そう、初めから。
闘う事は、運命付けられていたのに。


もう、問答は無用だ。
ほんの僅か残っていた迷いを捨て、
咲夜は、2人にチラリと視線を送る。
杞憂だった。
目つきが、いつかの時と同じ。
そう、それは。


―余裕の中に緊張を湛えた、
闘いの眼。


「最期に、名前を聞かせてもらえない?」
もう、言葉を交わす必要も、機会も無いだろうから。
名前を聞いておく事にした。
「……西行寺幽々子よ。
ついでに、貴女達の名前も聞いておこうかしら?」
「十六夜咲夜」
「霧雨魔理沙だぜ」
「博麗霊夢よ」
それは、まるで、
古代の戦場で、
互いに名乗りあう武将を思わせた。


…しかし、そんな感傷も一瞬だけ。


幽々子は、懐から扇を取り出す。
「ここで逢うたも、何かの導きがあっての事。
その縁です、
私の死の舞、
どうぞ心ゆくまで……」


―時の止まった、白玉楼。
……今、死の宴が
静かに幕を開く。


螺旋は、鮮やかに。
しかし、激しく。


相克する2本の線は、
互いを消し去らんと行動を開始した。




幽々子の舞に誘われ、何かが彼女の周りに集まる。
それは、魂であった。
全ての物の中核をなし、
今、次の生を待つモノ。
その魂が、集まり、何かを形作っていく。

―扇。
それは巨大な、彼女の力の姿。

「ほぉ……」
魔理沙は溜め息を漏らす。
実に美しい。
敵同士でなければ、この舞をいつまでも眺めていたかった。
しかし、それは叶わない。
もう闘いは始まっているのだ。
扇から、弾が放たれる。
音はしない。
今度の弾幕は、今までのそれとは、明らかに質が違う。
一切の無駄が無い。
それそのものが、見ただけで死を連想させる。
事実、それは死のみで作られていた。
明確な死の匂いを感じ取りつつ、
魔理沙は向かってくる弾幕を丁寧に避ける。
多分、かすっただけでも死ぬ。
中る事は、許されない。
見ると、霊夢と咲夜も、ちゃんとかわせている。
自分だけミスる訳にもいかない。
(ここで死ぬなんて、未練ありまくりだぜ)
そんな事を考えながら、丁寧に避ける。

―と。

何かに捉えられたような感覚が、
悪寒となって背中を走り抜ける。
「……?」
そして、次の瞬間。
八条の魂の流れが、魔理沙を襲った。
「!?」
ホーミングは、予期していなかった。
咄嗟にマスタースパークを放つ。


―ゴウッ!


七色の光が、一つの柱となってその魂の流れを焼かんとした。
……しかし。
「……マジかよ」
その柱は、魂を素通りした。
「魂に物理的な攻撃は無駄よ」
幽々子が、舞いながら静かに言う。
「魂は、厳密には実体ではないから」
その声を、魔理沙は聞いていたかどうか。
魂の流れが、魔理沙を貫く。
その途端、マフラーが、ズタズタになって魔理沙の首から滑り落ちた。
「……あっぶねぇ~…」
魂が、首を狙っていたから助かった。
あらゆる物を遮断するマフラーがズタズタになったということは。


―次に喰らえば、間違いなくやられる。


魔理沙は、身構える。
問題は、あれが何を頼りにこちらへ向かってくるのか、だ。
それさえ分かれば、或いは何とかなるかも知れない。
「身構えても、無駄よ」
幽々子の声と同時に、もう一度。
魂が、魔理沙を襲う。
「魂は、魂を追尾するから」
魔理沙はその言葉を聞くや、幽々子の周りを円に飛びはじめる。
追いすがる魂と、付かす離れずになるよう、速度を調整しつつ。
「無駄だと言って―」
そこで、気付く。
さっきから、魂はこの一人しか追っていない。
しかも。
さっきまであった、もう二つの気配が、消えている。
魔理沙に視線を戻す。
避けることで手一杯なはずの魔術師の顔は、
確かに笑っていた。
「お前、矛盾してる事に気が付かないか。
お前の弾幕には、無駄が無いんだ。
純粋に死だけで作られた、一種の死の芸術だな。
それなのに、お前は無駄だとばかり言っている。
そんなこと言う必要無いのに」
気配。
一つは真後ろ。
もう一つは、左斜め後方。
「だから、本当に無駄な事に気付かないんだよ」
一気に迫ってくる。
咲夜は真後ろから。
霊夢は左斜め後方から。
無数のナイフと針が、一点を目標にして。
「……なるほど。確かに、気付かなかったわ」
だが、向かってくる攻撃を前にしても、
幽々子は冷静だった。
「でもね」
数え切れないほどの攻撃の意志は、
彼女に向かって飛んでいき、

―そして、すり抜けた。

「その言葉、そっくり貴女にお返しするわ」
咲夜と霊夢は、驚きを隠せない。
魔理沙もちょっとだけ、目を見開く。
「私は霊体なの。お忘れかしら?」
「―いや、忘れてなどいないさ」

……声が、妙に近い。

その意味を知ったとき、幽々子の目は、
今度こそ驚愕に見開かれた。
「そう、魂の制御をほんの、ちょっとの間でいい。
忘れてくれさえすればよかったのさ」

―目の前に、モノクロの魔術師。

「あんたの体は霊体らしいが、
その扇はそうでも無いらしいな!」
魔理沙は、見逃していなかった。
聞き逃していなかった。
針が一本、扇に当たって跳ね返った、その光を。
その、聞き取れるか聞き取れないかのレベルの、その音を。
実体のある物に力を行使するためには、その力も実体を持たねばならない事を、
今までの経験から知っていた魔理沙は、たったそれだけの情報で、
幽々子の攻撃のプロセスを看破していた。
「なら!」
スペルカードを空中へと投げ上げる。
途端、そのカードは炎と化し、
その炎が魔理沙の右手に収まる。
それを媒介とし、
両手にエネルギーを溜め込む。
狙うはただ一点。
先程の針が付けた、
あの傷。

「……焼かれな!」
短い、魔術の詠唱。


―ゴウッ!


もう一度、マスタースパーク。
幽々子の体をすり抜け、扇に命中。
今度はちゃんと手ごたえがあった。


―ビキッ!


ひびの入る音。
幽々子の体が大きくよろめく。
力を維持するのは、俗に精神力と言われるものである。
今、その精神力に直接攻撃が加えられた。
いくら霊体とて、こればかりは防げない。
「くっ……」
初めて浮かべる、ほんの僅かの苦悶。
そんな中でも、彼女は言った。
「でも、お忘れかしら?
貴女はまだ魂に追われているのよ」
動かしようの無い、事実を。


―背後に殺気。
その距離、10cm。


「……」
ニヤリ。
意味ありげな笑みを浮かべつつ、魔理沙はそこから動かなかった。
戻って来た八条の魂が、魔理沙の体を貫く。
いや、貫こうとした。
その刹那。
その魂の動きが、不意に止まった。
「!?」
幽々子は、周りの状況の変化に驚く。
全てが、停止している。
変化が無くなったのではない。
咲き乱れる桜ですら、
その動きを止めていた。
自らの体も、動かす事が出来ない。
真に今、時が止まっている。
「勿論、それも忘れちゃいないさ。
言っただろ?
『魂の制御をほんの、ちょっとの間でいいから
忘れてくれさえすればよかった』と。
良い事を教えておくとな、
魔術の下準備は、一瞬あれば事足りるんだ。
何も、外に求めないから」
そう言う魔術師の、右腕が動く。


―パチン。


指が打ち鳴らされると同時に、時が動き出す。
魂は、当然のように魔理沙の体を貫く。
しかし。


―はらり。
貫かれたのは、服だけだった。


……全く、何段構えなんだ。
幽々子は一人苦笑する。
そう考えてから、否、と思い直す。
確かさっき、あの魔術師はこう言った。
『魔術の下準備は、一瞬あれば事足りるんだ』と。
と言う事は、こうしている、まさに今。
彼女は対策を練っているのだろう。
「さて、面白くなってきたわね…」
次の手を考えつつ、一人呟く。
その顔は、小さく笑っていた。



どこかで、瞋恚の笑いが聞こえた。
今度は、先程よりほんの少しだけ長く。



―時の止まった、白玉楼。
……今、運命が
加速を始める。
えー……
お互い小手調べといったところです。

今回は戦闘がメインになるので、スピード感を出したかったのですが……。
出てないみたい(泣)

感想待ってます。
斑鳩
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コメント



0.320簡易評価
5.無評価いち読者削除
 文体がちょっと変わっているために、正直最初は「読み辛いなぁ」と思って読んでました。
 でも読み進めていくと、一行一行進むにつれて、先の見えない不気味さがジワリジワリと染み出してくるような、そんな感じがしてきました。……何か自分で言っててよく分かりませんが、とにかくある種の「怖さ」がありました。不思議です(笑)。
 確かにスピード感は無いですが、戦闘にも色んな表現の方法がありますし、気にすることは無いのでは。

 で、タイトルなんですが、“花”などの意味であれば“blossom”が正しいです。念のため。
6.無評価斑鳩削除
ありゃ、ほんとだ。
直しておきました。