Coolier - 新生・東方創想話

境界の、とある朝

2004/06/19 05:24:25
最終更新
サイズ
9.97KB
ページ数
1
閲覧数
1061
評価数
3/66
POINT
2710
Rate
8.16
幻想郷の境界に存在する、とある屋敷にて。

      紫「・・・・・・・。」

『八雲 紫』は、空を見ていた。

      紫「・・・・・・こんな時間に、目が覚めるなんてね。」

朝。
紫がこの時間に目覚めることは、まず無いはずだったが・・・。

      紫「眩しいわね。」

空は、憎々しいくらいの快晴。
真夏の暑さは薄らいだとはいえ、それでも暑いのは確かである。

      藍「あれ?紫様が起きてる?」

紫の式神『八雲 藍』が、洗濯物を抱えつつびっくりする。

      紫「おはよう、藍。」
      藍「おはようございます、紫様。今日は無駄に早起きですね。」
      紫「春眠暁を覚えずだけど、残暑眠は朝の光を覚えたらしいわ。」
      藍「紫様、日の光なんざ見てたら、眼が潰れますよ。・・・よいしょ。」

 ドサ

藍は、すでに乾いた洗濯物を床に置く。

      紫「私は土竜じゃないわ。たまには、日光浴も悪くないでしょ?」
      藍「悪くないけど、暑いのは勘弁してほしいですよ。」

紫が普段、この時間帯に眼を覚ますことは無い。
一日十二時間睡眠、加えて夕方から夜にかけてしか行動しない。
まるで、夜行性の生物のようである。
夜行性の生物なのかもしれないが。

      藍「紫様、朝食はどうします?」
      紫「いただくわ。朝ごはんなんて、何ヶ月ぶりかしらね。」
      藍「『何年』単位になるかと、記憶しておりますが。」
      紫「そうだったかしら?」
      藍「そうですよ。じゃ、作るからちょっと待って下さい。」
  
喋りながらも、洗濯物をたたむ藍。
相当、手馴れた様子である。

      紫「・・・・・・ふぁ~・・・・・。」
      藍「おや、もう一回寝られますか?」
      紫「欠伸というのは、脳に新鮮な空気を送り込む行為よ。何か勘違いしてない?」
      藍「してませんよ。それじゃあ、私は食事の準備しますから、これ、箪笥に片付けてください。」
      紫「・・・私を使うなんて、あなたは何時からそんな自堕落になったのかしら?」
      藍「自堕落とは心外な。運動不足な主人を気遣っての、式神の思いやりですよ。」
      紫「ふう・・・。その思いやり、有難く受け取ろうかしら。」
      藍「助かります。」

紫が洗濯物を片付け、藍は炊事場へ向かう。

      藍「パンと米、どっちにします?」
      紫「お米でお願い。」
      藍「わかりました。」

 グツグツ・・・・

米を炊く音がする。

      紫「あら?お米はもう洗ったの?」
      藍「玄米を水につけておいたやつを使ってます。」
      紫「水につけておくと、どうなるの?」
      藍「甘味が増して、美味しくなるんですよ。」
      紫「ふうん。」
      
 トントントン・・・・

野菜か何かを、包丁で切る音が響く。

      紫「あなたの式は、元気かしら?」
      藍「元気過ぎて困ってます。あいつは、いささか悪戯好きでして。」
      紫「かわいい盛りね。」
      藍「いやあ、まったくです。」
      紫「そういえばあの子、昔のあなたによく似てるわね。」
      藍「そうですか?」
      紫「そうね。例えば、ヒトを驚かすのが大好きだったり、それとか・・・。」
      藍「あ~!待って下さい、その先は言わなくていいです。」
      紫「つまらないわね~。」
      藍「もう・・・・。」

 ジュ~・・・・・

何かを焼く音。

      紫「ん~・・・。いい匂いね。」
      藍「もうちょっと待って下さい。あと、つまみ食いは駄目ですよ。」
      紫「そこまで飢えてはいないわ。」

そして待つこと、数分。

      藍「出来ましたよ。」
      紫「待ってました。」

藍が、出来たての朝食を運んでくる。

      紫「それじゃあ、いただきます。」
      藍「いただきます。」

手を合わせる二人。

      紫「それにしても、お料理上手くなったわね。」
      藍「何年、お仕えしてると思ってるんですか。」
      紫「『何十年』どころじゃないと思うわ。」
      藍「そういうことです。大体、夕食と夜食は毎日食べてるでしょうに。」
      紫「あら、この玉子焼き、美味しい。」
      藍「でしょう?稀少品の、『世にも珍しい怪鳥』の卵が手に入りまして。」
      紫「ふうん。その稀少品を、贅沢にも玉子焼きにしたのね。」
      藍「こういうのは、素材の味を活かした調理法で食うべきですよ。」
      紫「目玉焼きとか。」
      藍「それもありですが、私はこっちの方が好きなんですよ。」
      紫「生で。」
      藍「稀少品を、一気に『ずる!』って飲むのも、味気ないでしょう。」
      紫「殻ごと丸呑み。」
      藍「蛇じゃないんですから。」
      紫「ピータン。」
      藍「珍品を珍味にしなくても・・・。」
      紫「ところで、その『世にも珍しい怪鳥』って、具体的に何なの?」
      藍「・・・・・さあ?」
            
会話とともに、食事も進む。

      紫「ごちそ・・・・。」
      藍「とと、待って下さい。まだ残ってるじゃないですか。ちゃんと残さず食べる。」
      紫「え~・・・・。」
      藍「そんな顔しても駄目です。」
      紫「ふん。お料理は上手くなったけど、意地悪にもなったわね。」
      藍「昔、ご飯は残さず食べなさいって言ったの、誰ですか?」
      紫「それ、何百年前の話?もう・・・。」

渋々、残りのものを食べる紫。

      紫「ごちそうさま。」
      藍「はい、お粗末様でした。」

食事が終わる。
藍は食器を持って、再び炊事場へ向かう。

 カチャカチャ・・・

食器を洗う音。

      紫「・・・・・ふあ~ぁ・・・・・・。」
      藍「おや、脳に新鮮な空気を送ってるんですか?」
      紫「脳に酸素が足りないの。足りないと脳細胞が死滅してしまうわ。」
      藍「それは一大事。遠慮なく、酸素を補充して下さい。」
      紫「誰に遠慮する必要があるの?」
      藍「植物でも置きますか?光合成で酸素が出ますよ。」
      紫「そうねえ・・・。食人植物とか。」
      藍「そんな物騒なもん、置かなくても。」
      紫「マンドラコラは?」
      藍「どっかの黒白が奪いに来るに決まってます。」
      紫「ドリアードを飼うとか。」
      藍「食費がかかりますから、駄目です。」
      紫「世界樹。」
      藍「家に置けない。」
      紫「全部駄目じゃない。」
      藍「もっと手間のかからない物にしてください。花とか。」
      紫「ラフレシア。」
      藍「だから・・・・。」
      紫「私が世話するわよ。」
      藍「絶対嘘だ・・・・。」

そうこうしているうちに、食器が洗い終わる。

 トントン・・・・

そして、再び包丁の音。

      紫「もうお昼ご飯?」
      藍「さっき朝飯食べたばかりでしょう。食後のデザートです。」
      紫「それは素敵な催しだわ。」
      藍「催しってほどのもんじゃないですけど。」

藍が、何かを運んでくる。

      紫「桃?」
      藍「先日、『仙桃』のいいやつが手に入りまして。」
      紫「美味しそうね。いただきます。」

桃を食す紫。
藍も手をつける。

      紫「ん。よく冷えてるし、美味しい。」
      藍「ええ。その辺の安物とは違うらしいですから。」
      紫「何が違うのかしら?」
      藍「・・・・・年代とか?」
      紫「腐ったりは、してないわよね?」
      藍「それは大丈夫です。きっと。」
      紫「あら?最後の一切れ。」
      藍「紫様。」
      紫「ん?」
      藍「・・・・ジャン、ケン!」
      紫「ぽん!」
      藍「・・・・負けた。」
      紫「自分で挑んでおいて負けるなんて。」
      藍「ジャンケンの勝率は、常に一定なんですよ。今回はたまたまです。」
      紫「負け惜しみなんて、往生際が悪いわ。罰として・・・、あ~ん。」
      藍「・・・?」
       
紫が、大きく口を開ける。

      紫「ほら、あ~ん。」
      藍「何のつもりです?」
      紫「あ~ん。」
      藍「・・・・・もう。」

藍は最後の一切れを、紫の口の中に入れる。

      紫「ん~。ヒトに食べさせてもらうのも、たまにはいいわね。ごちそうさま。」
      藍「ごちそうさま。」
     
炊事場に、皿を運ぶ藍。
少しして、戻ってくる。

      藍「ふ~。」
      紫「もう疲れたの?」
      藍「まさか。ただ、紫様がこんな時間に目覚めるなど。」
      紫「仕事が増えた、とでも言いたいのかしら?」
      藍「やはり、昨今の異常な月のせいですか?」
      紫「・・・・・・。」

紫の顔が、一瞬だけ真剣になる。
が、すぐに元に戻る。

      紫「まあ、そうね。こんな状態じゃ、朝も昼もおちおち寝てられないってやつかしら?」
      藍「じゃあ、何とかしますか?」
      紫「やだわよ。面倒くさい。他の誰かがやるわ。」
      藍「そうですねえ。」
      紫「それとも藍。あなたが行く?」
      藍「ははは、ご冗談を。」
      紫「本気よ。割と。」
      藍「嫌ですよ。洗濯物干さなきゃいかんですし、掃除もしなきゃ。」
      紫「それじゃあ、駄目ね。」
      藍「まあ、他の誰かに任せましょう。」

二人は、死活問題を他人事のように扱う。

      紫「ふあ~・・・・・。」
      藍「おや、脳の酸素が足りなくなりましたか?」
      紫「お腹一杯になったら、眠くなってきたの。」

紫は、その場にごろりと寝転がる。

      藍「ちょっと紫様、こんなところで寝ないでください。」
      紫「だって、お布団干すつもりでしょ?」
      藍「まあ・・・確かに。」
      紫「だから、『こんなところ』で我慢して寝るのよ。干した後のお布団は気持ちいいし。」
      藍「いや、そういう問題ではなく・・・・。」
      紫「おやすみ~・・・。」

それを最後に紫は、深い眠りへと堕ちた。

      藍「・・・・こんなとこで寝られると、掃除が出来ないんだよなあ・・・・。」
      紫「・・・す~・・・。」

式神の呟き。

      藍「月の異常か。紫様、ほんとに動かないつもりなのかな?」
      紫「・・・・らん~・・・・。」
      藍「?」
      紫「・・・お手~・・・・。」
      藍「・・・わたしゃ、犬か・・・。」
      紫「そうじ~・・・せんたく~・・・・・ん~・・・。」
      藍「はいはい。今やりますよ。」 
    
紫の寝言。

      藍「さて、と。布団でも干すか。」
      紫「・・・行くわよ・・・、月を戻しに・・・。」
      藍「・・・・・何ですと?」
      紫「ぐ~・・・・・。」
      藍「ああ、やっぱり寝言か。」
      紫「・・・・す~・・・・。」
      藍「・・・そうよねえ。紫様が自ら動くなんて、考えられないしなあ。」

紫が動くことはないだろうと勝手に思い、藍は仕事に戻る。
少々異常な、八雲藍の朝であった。

何気に、ほのぼの。

時期は、永夜抄の数日前くらいで。
この二人の日常って、案外こんな感じかなあと、妄想。まあこの話は、非日常的な話なんですけど・・・・。
あちこちで酷い目に遭ってる藍に、せめてもの救いを・・・。私も酷い目に遭わせてる一人ですが。

しかし、前回投稿したやつといい、この手のモノをよく書くようになった気がします。飢えてるのかなあ・・・・。
Piko
[email protected]
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.2510簡易評価
5.50名前が無い程度の能力削除
「何ですと?」が個人的にツボ。永夜抄で人気上がるといいなあ…
17.50nagishiro削除
何だかんだ言って想い合っている感じの二人ですね。そこはかとなくラブラブな感じもしたりしなかったり。・・・そういえば橙は・・・
60.100どどど削除
…いいw