幻想郷の境界に存在する、とある屋敷にて。
紫「・・・・・・・。」
『八雲 紫』は、空を見ていた。
紫「・・・・・・こんな時間に、目が覚めるなんてね。」
朝。
紫がこの時間に目覚めることは、まず無いはずだったが・・・。
紫「眩しいわね。」
空は、憎々しいくらいの快晴。
真夏の暑さは薄らいだとはいえ、それでも暑いのは確かである。
藍「あれ?紫様が起きてる?」
紫の式神『八雲 藍』が、洗濯物を抱えつつびっくりする。
紫「おはよう、藍。」
藍「おはようございます、紫様。今日は無駄に早起きですね。」
紫「春眠暁を覚えずだけど、残暑眠は朝の光を覚えたらしいわ。」
藍「紫様、日の光なんざ見てたら、眼が潰れますよ。・・・よいしょ。」
ドサ
藍は、すでに乾いた洗濯物を床に置く。
紫「私は土竜じゃないわ。たまには、日光浴も悪くないでしょ?」
藍「悪くないけど、暑いのは勘弁してほしいですよ。」
紫が普段、この時間帯に眼を覚ますことは無い。
一日十二時間睡眠、加えて夕方から夜にかけてしか行動しない。
まるで、夜行性の生物のようである。
夜行性の生物なのかもしれないが。
藍「紫様、朝食はどうします?」
紫「いただくわ。朝ごはんなんて、何ヶ月ぶりかしらね。」
藍「『何年』単位になるかと、記憶しておりますが。」
紫「そうだったかしら?」
藍「そうですよ。じゃ、作るからちょっと待って下さい。」
喋りながらも、洗濯物をたたむ藍。
相当、手馴れた様子である。
紫「・・・・・・ふぁ~・・・・・。」
藍「おや、もう一回寝られますか?」
紫「欠伸というのは、脳に新鮮な空気を送り込む行為よ。何か勘違いしてない?」
藍「してませんよ。それじゃあ、私は食事の準備しますから、これ、箪笥に片付けてください。」
紫「・・・私を使うなんて、あなたは何時からそんな自堕落になったのかしら?」
藍「自堕落とは心外な。運動不足な主人を気遣っての、式神の思いやりですよ。」
紫「ふう・・・。その思いやり、有難く受け取ろうかしら。」
藍「助かります。」
紫が洗濯物を片付け、藍は炊事場へ向かう。
藍「パンと米、どっちにします?」
紫「お米でお願い。」
藍「わかりました。」
グツグツ・・・・
米を炊く音がする。
紫「あら?お米はもう洗ったの?」
藍「玄米を水につけておいたやつを使ってます。」
紫「水につけておくと、どうなるの?」
藍「甘味が増して、美味しくなるんですよ。」
紫「ふうん。」
トントントン・・・・
野菜か何かを、包丁で切る音が響く。
紫「あなたの式は、元気かしら?」
藍「元気過ぎて困ってます。あいつは、いささか悪戯好きでして。」
紫「かわいい盛りね。」
藍「いやあ、まったくです。」
紫「そういえばあの子、昔のあなたによく似てるわね。」
藍「そうですか?」
紫「そうね。例えば、ヒトを驚かすのが大好きだったり、それとか・・・。」
藍「あ~!待って下さい、その先は言わなくていいです。」
紫「つまらないわね~。」
藍「もう・・・・。」
ジュ~・・・・・
何かを焼く音。
紫「ん~・・・。いい匂いね。」
藍「もうちょっと待って下さい。あと、つまみ食いは駄目ですよ。」
紫「そこまで飢えてはいないわ。」
そして待つこと、数分。
藍「出来ましたよ。」
紫「待ってました。」
藍が、出来たての朝食を運んでくる。
紫「それじゃあ、いただきます。」
藍「いただきます。」
手を合わせる二人。
紫「それにしても、お料理上手くなったわね。」
藍「何年、お仕えしてると思ってるんですか。」
紫「『何十年』どころじゃないと思うわ。」
藍「そういうことです。大体、夕食と夜食は毎日食べてるでしょうに。」
紫「あら、この玉子焼き、美味しい。」
藍「でしょう?稀少品の、『世にも珍しい怪鳥』の卵が手に入りまして。」
紫「ふうん。その稀少品を、贅沢にも玉子焼きにしたのね。」
藍「こういうのは、素材の味を活かした調理法で食うべきですよ。」
紫「目玉焼きとか。」
藍「それもありですが、私はこっちの方が好きなんですよ。」
紫「生で。」
藍「稀少品を、一気に『ずる!』って飲むのも、味気ないでしょう。」
紫「殻ごと丸呑み。」
藍「蛇じゃないんですから。」
紫「ピータン。」
藍「珍品を珍味にしなくても・・・。」
紫「ところで、その『世にも珍しい怪鳥』って、具体的に何なの?」
藍「・・・・・さあ?」
会話とともに、食事も進む。
紫「ごちそ・・・・。」
藍「とと、待って下さい。まだ残ってるじゃないですか。ちゃんと残さず食べる。」
紫「え~・・・・。」
藍「そんな顔しても駄目です。」
紫「ふん。お料理は上手くなったけど、意地悪にもなったわね。」
藍「昔、ご飯は残さず食べなさいって言ったの、誰ですか?」
紫「それ、何百年前の話?もう・・・。」
渋々、残りのものを食べる紫。
紫「ごちそうさま。」
藍「はい、お粗末様でした。」
食事が終わる。
藍は食器を持って、再び炊事場へ向かう。
カチャカチャ・・・
食器を洗う音。
紫「・・・・・ふあ~ぁ・・・・・・。」
藍「おや、脳に新鮮な空気を送ってるんですか?」
紫「脳に酸素が足りないの。足りないと脳細胞が死滅してしまうわ。」
藍「それは一大事。遠慮なく、酸素を補充して下さい。」
紫「誰に遠慮する必要があるの?」
藍「植物でも置きますか?光合成で酸素が出ますよ。」
紫「そうねえ・・・。食人植物とか。」
藍「そんな物騒なもん、置かなくても。」
紫「マンドラコラは?」
藍「どっかの黒白が奪いに来るに決まってます。」
紫「ドリアードを飼うとか。」
藍「食費がかかりますから、駄目です。」
紫「世界樹。」
藍「家に置けない。」
紫「全部駄目じゃない。」
藍「もっと手間のかからない物にしてください。花とか。」
紫「ラフレシア。」
藍「だから・・・・。」
紫「私が世話するわよ。」
藍「絶対嘘だ・・・・。」
そうこうしているうちに、食器が洗い終わる。
トントン・・・・
そして、再び包丁の音。
紫「もうお昼ご飯?」
藍「さっき朝飯食べたばかりでしょう。食後のデザートです。」
紫「それは素敵な催しだわ。」
藍「催しってほどのもんじゃないですけど。」
藍が、何かを運んでくる。
紫「桃?」
藍「先日、『仙桃』のいいやつが手に入りまして。」
紫「美味しそうね。いただきます。」
桃を食す紫。
藍も手をつける。
紫「ん。よく冷えてるし、美味しい。」
藍「ええ。その辺の安物とは違うらしいですから。」
紫「何が違うのかしら?」
藍「・・・・・年代とか?」
紫「腐ったりは、してないわよね?」
藍「それは大丈夫です。きっと。」
紫「あら?最後の一切れ。」
藍「紫様。」
紫「ん?」
藍「・・・・ジャン、ケン!」
紫「ぽん!」
藍「・・・・負けた。」
紫「自分で挑んでおいて負けるなんて。」
藍「ジャンケンの勝率は、常に一定なんですよ。今回はたまたまです。」
紫「負け惜しみなんて、往生際が悪いわ。罰として・・・、あ~ん。」
藍「・・・?」
紫が、大きく口を開ける。
紫「ほら、あ~ん。」
藍「何のつもりです?」
紫「あ~ん。」
藍「・・・・・もう。」
藍は最後の一切れを、紫の口の中に入れる。
紫「ん~。ヒトに食べさせてもらうのも、たまにはいいわね。ごちそうさま。」
藍「ごちそうさま。」
炊事場に、皿を運ぶ藍。
少しして、戻ってくる。
藍「ふ~。」
紫「もう疲れたの?」
藍「まさか。ただ、紫様がこんな時間に目覚めるなど。」
紫「仕事が増えた、とでも言いたいのかしら?」
藍「やはり、昨今の異常な月のせいですか?」
紫「・・・・・・。」
紫の顔が、一瞬だけ真剣になる。
が、すぐに元に戻る。
紫「まあ、そうね。こんな状態じゃ、朝も昼もおちおち寝てられないってやつかしら?」
藍「じゃあ、何とかしますか?」
紫「やだわよ。面倒くさい。他の誰かがやるわ。」
藍「そうですねえ。」
紫「それとも藍。あなたが行く?」
藍「ははは、ご冗談を。」
紫「本気よ。割と。」
藍「嫌ですよ。洗濯物干さなきゃいかんですし、掃除もしなきゃ。」
紫「それじゃあ、駄目ね。」
藍「まあ、他の誰かに任せましょう。」
二人は、死活問題を他人事のように扱う。
紫「ふあ~・・・・・。」
藍「おや、脳の酸素が足りなくなりましたか?」
紫「お腹一杯になったら、眠くなってきたの。」
紫は、その場にごろりと寝転がる。
藍「ちょっと紫様、こんなところで寝ないでください。」
紫「だって、お布団干すつもりでしょ?」
藍「まあ・・・確かに。」
紫「だから、『こんなところ』で我慢して寝るのよ。干した後のお布団は気持ちいいし。」
藍「いや、そういう問題ではなく・・・・。」
紫「おやすみ~・・・。」
それを最後に紫は、深い眠りへと堕ちた。
藍「・・・・こんなとこで寝られると、掃除が出来ないんだよなあ・・・・。」
紫「・・・す~・・・。」
式神の呟き。
藍「月の異常か。紫様、ほんとに動かないつもりなのかな?」
紫「・・・・らん~・・・・。」
藍「?」
紫「・・・お手~・・・・。」
藍「・・・わたしゃ、犬か・・・。」
紫「そうじ~・・・せんたく~・・・・・ん~・・・。」
藍「はいはい。今やりますよ。」
紫の寝言。
藍「さて、と。布団でも干すか。」
紫「・・・行くわよ・・・、月を戻しに・・・。」
藍「・・・・・何ですと?」
紫「ぐ~・・・・・。」
藍「ああ、やっぱり寝言か。」
紫「・・・・す~・・・・。」
藍「・・・そうよねえ。紫様が自ら動くなんて、考えられないしなあ。」
紫が動くことはないだろうと勝手に思い、藍は仕事に戻る。
少々異常な、八雲藍の朝であった。
紫「・・・・・・・。」
『八雲 紫』は、空を見ていた。
紫「・・・・・・こんな時間に、目が覚めるなんてね。」
朝。
紫がこの時間に目覚めることは、まず無いはずだったが・・・。
紫「眩しいわね。」
空は、憎々しいくらいの快晴。
真夏の暑さは薄らいだとはいえ、それでも暑いのは確かである。
藍「あれ?紫様が起きてる?」
紫の式神『八雲 藍』が、洗濯物を抱えつつびっくりする。
紫「おはよう、藍。」
藍「おはようございます、紫様。今日は無駄に早起きですね。」
紫「春眠暁を覚えずだけど、残暑眠は朝の光を覚えたらしいわ。」
藍「紫様、日の光なんざ見てたら、眼が潰れますよ。・・・よいしょ。」
ドサ
藍は、すでに乾いた洗濯物を床に置く。
紫「私は土竜じゃないわ。たまには、日光浴も悪くないでしょ?」
藍「悪くないけど、暑いのは勘弁してほしいですよ。」
紫が普段、この時間帯に眼を覚ますことは無い。
一日十二時間睡眠、加えて夕方から夜にかけてしか行動しない。
まるで、夜行性の生物のようである。
夜行性の生物なのかもしれないが。
藍「紫様、朝食はどうします?」
紫「いただくわ。朝ごはんなんて、何ヶ月ぶりかしらね。」
藍「『何年』単位になるかと、記憶しておりますが。」
紫「そうだったかしら?」
藍「そうですよ。じゃ、作るからちょっと待って下さい。」
喋りながらも、洗濯物をたたむ藍。
相当、手馴れた様子である。
紫「・・・・・・ふぁ~・・・・・。」
藍「おや、もう一回寝られますか?」
紫「欠伸というのは、脳に新鮮な空気を送り込む行為よ。何か勘違いしてない?」
藍「してませんよ。それじゃあ、私は食事の準備しますから、これ、箪笥に片付けてください。」
紫「・・・私を使うなんて、あなたは何時からそんな自堕落になったのかしら?」
藍「自堕落とは心外な。運動不足な主人を気遣っての、式神の思いやりですよ。」
紫「ふう・・・。その思いやり、有難く受け取ろうかしら。」
藍「助かります。」
紫が洗濯物を片付け、藍は炊事場へ向かう。
藍「パンと米、どっちにします?」
紫「お米でお願い。」
藍「わかりました。」
グツグツ・・・・
米を炊く音がする。
紫「あら?お米はもう洗ったの?」
藍「玄米を水につけておいたやつを使ってます。」
紫「水につけておくと、どうなるの?」
藍「甘味が増して、美味しくなるんですよ。」
紫「ふうん。」
トントントン・・・・
野菜か何かを、包丁で切る音が響く。
紫「あなたの式は、元気かしら?」
藍「元気過ぎて困ってます。あいつは、いささか悪戯好きでして。」
紫「かわいい盛りね。」
藍「いやあ、まったくです。」
紫「そういえばあの子、昔のあなたによく似てるわね。」
藍「そうですか?」
紫「そうね。例えば、ヒトを驚かすのが大好きだったり、それとか・・・。」
藍「あ~!待って下さい、その先は言わなくていいです。」
紫「つまらないわね~。」
藍「もう・・・・。」
ジュ~・・・・・
何かを焼く音。
紫「ん~・・・。いい匂いね。」
藍「もうちょっと待って下さい。あと、つまみ食いは駄目ですよ。」
紫「そこまで飢えてはいないわ。」
そして待つこと、数分。
藍「出来ましたよ。」
紫「待ってました。」
藍が、出来たての朝食を運んでくる。
紫「それじゃあ、いただきます。」
藍「いただきます。」
手を合わせる二人。
紫「それにしても、お料理上手くなったわね。」
藍「何年、お仕えしてると思ってるんですか。」
紫「『何十年』どころじゃないと思うわ。」
藍「そういうことです。大体、夕食と夜食は毎日食べてるでしょうに。」
紫「あら、この玉子焼き、美味しい。」
藍「でしょう?稀少品の、『世にも珍しい怪鳥』の卵が手に入りまして。」
紫「ふうん。その稀少品を、贅沢にも玉子焼きにしたのね。」
藍「こういうのは、素材の味を活かした調理法で食うべきですよ。」
紫「目玉焼きとか。」
藍「それもありですが、私はこっちの方が好きなんですよ。」
紫「生で。」
藍「稀少品を、一気に『ずる!』って飲むのも、味気ないでしょう。」
紫「殻ごと丸呑み。」
藍「蛇じゃないんですから。」
紫「ピータン。」
藍「珍品を珍味にしなくても・・・。」
紫「ところで、その『世にも珍しい怪鳥』って、具体的に何なの?」
藍「・・・・・さあ?」
会話とともに、食事も進む。
紫「ごちそ・・・・。」
藍「とと、待って下さい。まだ残ってるじゃないですか。ちゃんと残さず食べる。」
紫「え~・・・・。」
藍「そんな顔しても駄目です。」
紫「ふん。お料理は上手くなったけど、意地悪にもなったわね。」
藍「昔、ご飯は残さず食べなさいって言ったの、誰ですか?」
紫「それ、何百年前の話?もう・・・。」
渋々、残りのものを食べる紫。
紫「ごちそうさま。」
藍「はい、お粗末様でした。」
食事が終わる。
藍は食器を持って、再び炊事場へ向かう。
カチャカチャ・・・
食器を洗う音。
紫「・・・・・ふあ~ぁ・・・・・・。」
藍「おや、脳に新鮮な空気を送ってるんですか?」
紫「脳に酸素が足りないの。足りないと脳細胞が死滅してしまうわ。」
藍「それは一大事。遠慮なく、酸素を補充して下さい。」
紫「誰に遠慮する必要があるの?」
藍「植物でも置きますか?光合成で酸素が出ますよ。」
紫「そうねえ・・・。食人植物とか。」
藍「そんな物騒なもん、置かなくても。」
紫「マンドラコラは?」
藍「どっかの黒白が奪いに来るに決まってます。」
紫「ドリアードを飼うとか。」
藍「食費がかかりますから、駄目です。」
紫「世界樹。」
藍「家に置けない。」
紫「全部駄目じゃない。」
藍「もっと手間のかからない物にしてください。花とか。」
紫「ラフレシア。」
藍「だから・・・・。」
紫「私が世話するわよ。」
藍「絶対嘘だ・・・・。」
そうこうしているうちに、食器が洗い終わる。
トントン・・・・
そして、再び包丁の音。
紫「もうお昼ご飯?」
藍「さっき朝飯食べたばかりでしょう。食後のデザートです。」
紫「それは素敵な催しだわ。」
藍「催しってほどのもんじゃないですけど。」
藍が、何かを運んでくる。
紫「桃?」
藍「先日、『仙桃』のいいやつが手に入りまして。」
紫「美味しそうね。いただきます。」
桃を食す紫。
藍も手をつける。
紫「ん。よく冷えてるし、美味しい。」
藍「ええ。その辺の安物とは違うらしいですから。」
紫「何が違うのかしら?」
藍「・・・・・年代とか?」
紫「腐ったりは、してないわよね?」
藍「それは大丈夫です。きっと。」
紫「あら?最後の一切れ。」
藍「紫様。」
紫「ん?」
藍「・・・・ジャン、ケン!」
紫「ぽん!」
藍「・・・・負けた。」
紫「自分で挑んでおいて負けるなんて。」
藍「ジャンケンの勝率は、常に一定なんですよ。今回はたまたまです。」
紫「負け惜しみなんて、往生際が悪いわ。罰として・・・、あ~ん。」
藍「・・・?」
紫が、大きく口を開ける。
紫「ほら、あ~ん。」
藍「何のつもりです?」
紫「あ~ん。」
藍「・・・・・もう。」
藍は最後の一切れを、紫の口の中に入れる。
紫「ん~。ヒトに食べさせてもらうのも、たまにはいいわね。ごちそうさま。」
藍「ごちそうさま。」
炊事場に、皿を運ぶ藍。
少しして、戻ってくる。
藍「ふ~。」
紫「もう疲れたの?」
藍「まさか。ただ、紫様がこんな時間に目覚めるなど。」
紫「仕事が増えた、とでも言いたいのかしら?」
藍「やはり、昨今の異常な月のせいですか?」
紫「・・・・・・。」
紫の顔が、一瞬だけ真剣になる。
が、すぐに元に戻る。
紫「まあ、そうね。こんな状態じゃ、朝も昼もおちおち寝てられないってやつかしら?」
藍「じゃあ、何とかしますか?」
紫「やだわよ。面倒くさい。他の誰かがやるわ。」
藍「そうですねえ。」
紫「それとも藍。あなたが行く?」
藍「ははは、ご冗談を。」
紫「本気よ。割と。」
藍「嫌ですよ。洗濯物干さなきゃいかんですし、掃除もしなきゃ。」
紫「それじゃあ、駄目ね。」
藍「まあ、他の誰かに任せましょう。」
二人は、死活問題を他人事のように扱う。
紫「ふあ~・・・・・。」
藍「おや、脳の酸素が足りなくなりましたか?」
紫「お腹一杯になったら、眠くなってきたの。」
紫は、その場にごろりと寝転がる。
藍「ちょっと紫様、こんなところで寝ないでください。」
紫「だって、お布団干すつもりでしょ?」
藍「まあ・・・確かに。」
紫「だから、『こんなところ』で我慢して寝るのよ。干した後のお布団は気持ちいいし。」
藍「いや、そういう問題ではなく・・・・。」
紫「おやすみ~・・・。」
それを最後に紫は、深い眠りへと堕ちた。
藍「・・・・こんなとこで寝られると、掃除が出来ないんだよなあ・・・・。」
紫「・・・す~・・・。」
式神の呟き。
藍「月の異常か。紫様、ほんとに動かないつもりなのかな?」
紫「・・・・らん~・・・・。」
藍「?」
紫「・・・お手~・・・・。」
藍「・・・わたしゃ、犬か・・・。」
紫「そうじ~・・・せんたく~・・・・・ん~・・・。」
藍「はいはい。今やりますよ。」
紫の寝言。
藍「さて、と。布団でも干すか。」
紫「・・・行くわよ・・・、月を戻しに・・・。」
藍「・・・・・何ですと?」
紫「ぐ~・・・・・。」
藍「ああ、やっぱり寝言か。」
紫「・・・・す~・・・・。」
藍「・・・そうよねえ。紫様が自ら動くなんて、考えられないしなあ。」
紫が動くことはないだろうと勝手に思い、藍は仕事に戻る。
少々異常な、八雲藍の朝であった。