Coolier - 新生・東方創想話

東方奇翳譚III-転章(完結・結章に続く!)-

2004/06/12 23:58:33
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<作者注>
奇翳譚の続き物ですが、ここからは色々グロテスクな(と作者が判断する)場面が多数出てきます。
そういうの苦手な方には、あまりお勧めしません。
って、続き物なのに何言ってんだ、俺は(笑)
























<転章(前) 惨劇、開幕。>
再び、翳の俯瞰光景。
日が完全に沈み、十六夜月が舞台にスポットライトを当て始める頃。
動き出した。
この闇の中でなら、見つかることも無い。
事実、こうやって出てきても、私に気づくものは誰もいない。
というわけで。
「さぁて、」
―何して遊ぶか―


夜が、だんだんと紅に染まりはじめる。
つい一瞬前まで、命を持っていた肉塊が、
自らの持つただ一色の彩(iro)をばら撒き始める。
いくつも、いくつも。
あるいは池になり、
あるいは針で穴を開けたスプレー缶になり。
夜の黒を侵食し始める。

―見たものは、死へと引きずりこまれ



夜、私は紅魔館へと向かった。
別に何か理由があったわけじゃない。
いつものように、ただなんとなく。
いつものように、箒にまたがって。
いつものように、空を飛び。
快晴の夜は、何だか冷たい。
私は夜というものに対して好きだとか、嫌いだとか、
そんな感情を抱いたことは無い。
ただ、今日は違った。
「……痛い夜だな……」
一人呟いてみる。
星の瞬きと、
十六夜の光。
それ以外は、静かの深海に沈み、
静けさという寝息を立てつつ、
眠っていた。
なんだか、
その静けさが痛い。

なんだか。
喉元に刃を突きつけられているような。
そんな感覚。

紅魔館に到着。
そこにだけ、
灯りが点いていた。
……朱い、紅の灯りが。
不思議と驚きは無い。
―ああ、そうか。
ひとり納得。
なんとなくここに来たと思っていただけで。
その実、
目の前の“これ”を見に来ていたのか。



「……よぉ」
魔理沙は目の前の“彼女”に声をかける。
「それとも…こんばんはかな?」
“彼女”は、僅かに驚いたようだった。
誰にも見えていないと思っていたから。
「殺気丸出しだな。そんなんじゃ、ちょっと視える人にゃあバレバレだぜ?」
“彼女”は、今度は本格的に驚いた。
目の前の魔女―彼女はそう認識した―が、眉一つ動かさずに目の前のオブジェを見ていたから。
話したい。
そして、
―殺してしまいたい。
“彼女”は、そう欲した。
(体を作ってしまえ)
肉体のイメージ。
思い浮かぶのは、つい数時間前まで宿主だった、あの幼い身体だけ。
ええい、知ったことか。
まず頭、
次に体、
手、
足、
羽、
……服。
色は、黒と紅。
どうもソレしかイメージできない。
ええい、知ったことか。


目の前の闇が、水滴に映った景色のように歪む。
そして、現れる。
まず頭、
次に体、
手、
足、
羽、
……服。
色は、黒と紅。
七色の筈の羽は、深紅。
紅白のはずの服は、漆黒。
シルエットそのものは、アイツのモノだ。
しかし、色が壊滅的に違う。
「…センスねぇな…」
魔理沙は呟く。
黒と紅のツートンじゃ、目がちかちかするじゃないか。
やがて姿を完全に現した“彼女”は、
音も無く降り立った。
「お前は、誰だ?」
口から紡ぎ出されてきた言葉は、必要以上に暗い。
声は、アイツのものであったが。
「私か?私は博麗霊夢。巫女だぜ」
「…はじめまして、かな。霧雨魔理沙…」
ありゃ、名前を知っていたか。
小さく舌打ち。
(看護婦のほうがよかったか?)
そして、逆に訊く。
「お前は、何だ?」
「私か?……私は、翳、だな」
「?」
「歪みより生まれ出た、影ある幻影……」
「ほぉ?」
「それ以外は、私自身にもよく分からん」
そして。
無表情だった“彼女”―翳の唇の端が、ゆっくりと吊り上り始める。
「今、遊び相手を探している真っ最中だったんだっけな」
殺気。
魔理沙の本能が、危険を告げる。
「……いくら出す?」
戦闘体制。
箒を握る左手に、僅かに力がこもる。
「……コインいっこ」
「ほぉ、そりゃまた、……どうして?」
ぞくり。
デジャビュとともに、震え。
快感に近い。
「コイン一個じゃ、人命も買えないぜ?」
いい感じだ。
その高揚感に痺れそうになる魔理沙。
「お前が、」
虚空より、杖。
翳の右手に収まる。
「コンティニューできない」
その「い」を聞き終わる前に、魔理沙は地を蹴った。

―ガガガガガガガガッ!!

さっきまでいた所が、弾幕で焼かれる。
自分の反射神経に、感謝。
「phew♪」
空中で、反転。
相手を視界に捕らえざま、マスタースパーク。

―ゴウッ!

「……?」
しかし、手ごたえは無い。
そして、次の瞬間。
「!!」
後ろに気配。
自身のもてる最大限の力で、右へ1m。
左を見ると、振り下ろされた何かが、僅か50cm左の虚空を切り裂いていた。
髪が、風に揺れる。
振り向くと、翳の片手には、炎の剣。
「お前、面白いな~。今までの奴らより、手ごたえありそうだ」
嘲るような、嬉しそうな声。
はっきり言って、耳障りだった。
返答を待たず、再び剣を振るってくる。
「……」
紙一重で交わしつつ、スペルカードを準備。
剣を振り切ったのを見計らって、
「……っとぉ!!」
ミルキーウェイ。

―ズガガガガッ!!

今回は当てることは考えていない。
撃ち終わると同時に、撃った方向へと突っ込む。
翳は、そこに向かってもう一閃。
手ごたえがあった。
星屑が流れ去ってから、そこにあったのは。
「……人形、だと?」
紙のヒトカタだった。
そして、魔理沙は。
「……!!」
完全に後ろを取っていた。
ここで彼女は、
完全に勝利を確信していた。
しかし、ふと疑問に思った。
なぜだか分からないが。

―こんなに上手く行く筈がない。

そして、その疑問は。
次の瞬間、






―ドッ。






モノを斬ったにしてはあまりに軽い音と、
「……左手か……」



翳の左手に握られていたもう一本の剣が解決してくれた。
死という名の、解決を。

魔理沙の身体は、一瞬箒の上で停滞したあと、滑り落ちるように落下した。
落下の軌道を、紅が彩る。
それは、マリオネットの糸のように。





―ぐしゃり。





あまり聞きなれない音を、魔理沙は聞いた。
そう思った。
意識が、
……闇に落ちた。



<転章(中) 真/偽:∞(夢幻)ループ>
―自己証明論―
人は、
論理で自分の周りを固める癖がある。
それは、
はたから見ていると、
羽化しない蛹のようで
滑稽で
誰か
この一言を言わないものかと
いつも思う。

「早く羽化すればいいじゃない」

まあ、
言う人は
誰もいないだろう。
今ヒトゴミを作る
一人一人の中に
蝶は一匹も飛んでいないのだから




<紅い、赤い、朱い>
聞きなれない音で目を覚ました。

―ぐしゃり。

確か、そんな音じゃなかっただろうか。

何かが潰れるような、

何かが折れるような。

私は何故か、

地面に落ちて砕けた一本の棒のイメージが

思い浮かんで、

知らず、

そこへと足を運んでいた。



聴き慣れた音で目を覚ました。

―ぐしゃり。

ああ、

何かがこわれた。

かつて自分がそうしていたときのような、

そんな音だった。

違和感も無く、

その音は耳に入り。

気がつくと

その音の元へと

足が向かっていた。



紅魔館の扉が、静かに開く。
フランドールは、一歩庭へ足を踏み出して、


―余りの紅さに、我が目を疑った。


周りに転がる、数多の肉塊と、その肉塊が放ったと思われる彩り。
それは異様というより、無残というより。
―むしろ、綺麗だった。
夜の黒さも、
いつもは白をイメージさせながら漂っている妖の気配も、
たまに吹く風ですら。
その紅に塗りつぶされ、侵食され、敗北している。
頭が麻痺しそうな、甘美で冷たい匂いも、それに拍車をかけていた。
……ここは、紅の領域。
そんな言葉が、よく似合う。
そして、彼女は目の前に何かを見つけ、


―その目が、驚愕と、
その他諸々の、
言葉ではできない何かに、
見開かれた。


「……魔理沙?」

見覚えのある、白と黒。
つい一瞬前まで霧雨魔理沙であった物の名を呼ぶ。
返事は、無い。
「……なんで?」
誰にとも無く呟く。
いや、その問いは、
目の前の翳に向けられていたのかもしれない。
「お前が望んでいた事をした。ただそれだけの事だ」

―望んでいた事?
これが?
生まれて初めての、遊び相手を、
「殺す事を?」
何かが湧き上がってくる。
生まれてこの方感じた事の無いそれは、いわゆる「怒り」。
「そんな事を?」
「お前だって、分かっているのだろう?
こいつは所詮人間。お前は悪魔。違うものが相容れるなど、」
翳が杖を振り上げる。
「有り得ない事だとな」
振り下ろし、

―ザクッ

もう一度、

―ザクッ

…え?

―ザクッ

何をしている、
刺している、
遊び相手だったモノを、
今はすでに肉塊の

―ザクッ、ザクッ

誰が、
そこで気付く、
私の姿をしたものが、
魔理沙をメッタ刺しに、

―ザクッザクッザクッザクッザクッザクッ

あれは私か?
いや違う、
しかし、
姿も、
言葉も、
している事まで、
私と同じで、
じゃあ、
違う事などないじゃないか。

―ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク

でも、
私はここにいる、
刺しているのも私で、
それを否定するのも私で、
じゃあ、
私って何だ、
分からない、
分からない、
分からない分からない分からない分からない分からない分からない
ああ、
私が
私に
虚ろな笑顔を
(自分が)
どっちが本当の私なんだ、
(自分じゃ)
分からない分からない分からない分からない分からない
(なくなる!)
分からな

「―やめろ」

とめどない思考を断ち切るために、
無理やり出した声は、
自分の声じゃないようだった。


怒りが破壊の衝動へと変わるのに、そう時間はかからなかった。
フランドールは杖に炎を纏わせる。
炎の色は、いつもより暗い。
振り上げる。
「…許さない…!」
……思考停止。
振り下ろす。

―ボンッ!

炎と炎がぶつかり合い、火の粉を撒き散らす。
「かつての宿主も、大切なものを知ってしまっては、か……」
翳が呟く。
嘲る響きが、耳障り。
かまわずもう一撃。
「……五月蠅い!」
今までよりも、さらに凶暴な感情が、フランドールの心を満たす。
「壊してやる。それこそ、血の一滴も、
僅かの血煙も残さないぐらいね!!」



<舞台裏 希薄なもの>
―「ヒトって、そうやらないと自分てモノを認識できないのよ」
……そういやアイツ、そんな事言っていたっけか。
今思えば、夕日がバックのあの会話も、
必然だったのかな?
どこぞの誰かさんみたいに。
「ほら、自分の体がもし他人のものだったら、て言うあれよ」
「考えたくない事だな」
霊夢は、こういう所だけは鋭い。
アイツの言葉は意味のない言葉の羅列のようでいて、
その実、しっかり本質を突いている。
「ええ。だから、自分の周りを論理という壁で固めて、
すぐにでも流れ出して消えてしまいそうな自分と言う液体を守っている」
「自分が自分である事の証明はどうするんだ?
論理で固めるのなら、そこまでしないとだめだろ」
「未だにそれを成し遂げた人ってのはいないでしょうね。
できてもそれはあくまで主観的な話。
まあ、自分と言う定義そのものが主観的なものだから、
半永久的に無理ね」
こいつ、パチュリーみたいなこと言ってやがる。
「で、総じて主観的なものは弱い。
だから、人形ってモノがありえるわけ」
「?」
「例えば、Aを知らない人が、Bを見せられて
『これはAだ』
って言われたら?」
「当然、それをAって認識するだろうな。それしか方法がない」
「それと同じよ」
―偽物だって、本物と認識させさえすれば。

「人形も、本当の体に見える、か……」
そう呟く声は、
確かに彼女のものだった。


<空箱、人形、翳の定義>
十六夜の舞台へと戻る。
「はあ、はあ、はあ……今度はどうだ?」
もう何度目か、数えるのも忘れ、
フランドールは再びレーヴァテインを振り下ろす。
オブジェと化していた数多の肉塊の彩る舞台は、
今までの切った張ったで、
すでに、修羅場と化していた。
もうあの魔術師のそれも、メッタ刺しの上に焼き尽くされて、
見る影もない。
もう何度振ろうと、
焼かれるのは、空気だけ。
手ごたえなど、ほんの少しもありゃしない。
「もう疲れたか?」
また耳障りな声が響く。
「まあ、無理もないか」
風が、舞う。

―ガァン!

「うっ…くっ……」
かろうじて受け止める。
翳が口を開く。
「今まで異常だったものが正常なものへと戻ろうとしているのだからな。
……大切なものが生じると、総じて弱くなる」
「……え?」
「いろいろな物について考え出すからな。
そして、自らの過去に犯した罪を見つめ、嫌悪し、
それを排除しようと試みる。
例えそれが、力であっても。
その過程で捨てられたのが、私だ」

―ブォン!

二本目が、不規則な軌道を描いてフランドールに迫る。
「くっ!」
地を蹴り、逃れる。
しかし。
「……だから」
それより速いスピードで彼女より上に出る翳。
「私には勝てない」

―ズドン!

ものすごいスピードで、地面へと叩きつけられる。
「うぐっ!」
「だから、私が正常になればいい。
今まで通り、壊す毎日に戻れば良いのだ」
「……うる…さ……」
魔理沙、ごめんね。
確かに壊したいって思ったこともあった。
フランドールは声にならない声で懺悔する。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
「…ごめん…なさい……」
かろうじて絞り出された声は、
必要以上に暗かった。
地面に音もなく舞い降りた翳は、
虚ろな笑みを浮かべ、
杖を振り上げ、
そして



「待て待て待て待て待て待て待てえぇぇァっ!!」



―目の前を、白い翼が走り抜けた。




<幕間 飛び入り>
「お嬢様、いったい何を急いで!?」
「いいから、早く!!」

レミリアと咲夜が走る。
頼りにしているのは、一つの事実だけ。

……フランドールが、いない。

聞き慣れない音で目を覚ましたレミリアは、妹の部屋へと向かった。
そして、そこでがら空きの部屋を見てしまったのだ。

「いったい何が、どうなっているのですか?」
「それは、後で話す!」

走る、
走る、
走る。
紅魔館の扉は、なんだか重かった。


扉が、静かに開く。



二人は、一歩庭へ足を踏み出して、




―余りの眩しさに、我が目を疑った。





<転章(後) 空になった箱>
聴き覚えのある声だった。
その声だけで、
自分が考えていたことが
一気にひっくり返った。
フランドールは、自らの顔が綻んでいくのを抑えることができなかった。
翳は、自らの顔が驚愕の表情に支配されていくのを抑えることができなかった。
「七回は……無理があると思うわ……」
「ん?ずっと言い続けてた方が良かったか?」
その声の主は。
モノクロの、魔術師。
さっきの風圧でちょっとずれた帽子を直しつつ、
「こんばんは、フラン」
なんていう彼女は。
翼を背負い、
ヘキサグラフを展開させている彼女は。
モノクロの、魔術師。
「ふぅ、さっきのは効いたぜ~、ええ?翳とやら」
「さっき……確かに……?」
「ああ?それって、」
魔理沙は、左手を見せる。
「これのことかい?」
月明かりに反射して姿を現したのは、
銀の、指貫。
それと、どこかへ伸びる糸。
「いつから……?」
入れ替わったのだ、という言葉を終いまで聞かずに、
「さあ、いつからかな?
……もし初めからだとしたら、どうする?」
根底から打ち崩す一言。
翳の表情が、驚愕から、形容しがたい何かへと変わる。
「いやー、しっかし驚いたぜ。
まさか夕方話したことをその日の夜のうちに実践して、
それがあっさり通用しちまうんだもんな」
魔理沙は、余裕の表情を崩さない。
「……そっか、あの本は『可能性』そのものだったんだな。
だから、それを『可能性』として認識できないものには見えない。
……U.N.オーエンは、フランじゃなくてアイツだったってことか……」
一人したり顔で呟く魔理沙に、翳が迫る。
「何の話だ?」
声だけは普通に。
「ああ、」
かわす。
翳、もう一撃。
「こっちの話」
またかわす。
さらに、倒れているフランのもとへと駆け寄る。
そして、落ちている杖を拾い上げた。
「?」
「悪ぃ。ちょっと、こいつ借りるぞ」
「でも、魔理沙じゃ……」
「ああ、心配すんな」

……炎が、杖に灯る。
それは、眩しい白の炎。

「技を盗むのは、私の得意分野だぜ」
空へと舞上がる。
白い軌跡は、さながら星屑の流れのようでもあり、
舞い散る羽のようでもあった。

「心配すんな、レミリア。
パンドラの箱の中身は、既に空だ。
希望も、しっかり取り出させて頂いたぜ」

その声が、本当にレミリアに届いていたとは、
きっと魔理沙も思わなかっただろう。 


第3ラウンドの幕開けは、
必要以上に眩しかった。


「お前、いったい何者だ!?」

―ドバアアァッ!

弾幕。
炸裂。
視界を埋め尽くしていく。
しかし、魔理沙は動じない。

……弾幕を視る。
右斜め前方に一本、細い道。

それこそ、糸のような。
しかし、その糸は手繰り寄せられていく。
切れる寸前で手繰り寄せ、
そしてまた遠ざかる。
少し焦げ付く臭いはしたが、構わず抜ける。
「……ふうっ!!」
大きく息を一つ。
視界が晴れる。
次の瞬間に目に入ったのは、
炎の剣。
「うおっ!?」
知らず、声が漏れる。
そして、
第六感が働いたようにも見えた、
一瞬のスローモーション。
か、
わ、
すっ、
「!!!」
身を後方に10cm。
目の前を焔がかすめる。
髪が風に揺れる。
そして、
左肩に走る痛み。
「……つっ……」
引きが甘かったか。
左肩から急速に血の気が失せていく感触を楽しみつつ、
小さく舌打ち。
そのまま反撃に転じる。
「ああ、そうさ。お前がさっきぶった斬ったのは、
間違いなく私だ」
魔符を空中に固定。
口の中で、カウントダウン開始。
(…9……8…)
白い軌跡を描きつつ、
大きく弧を描いて翳に迫る。
「ただし、お前にとっての、だがな」
(7、)
間合いが一瞬で詰まる。
(6、)
剣を振るう。
焔が、美しい軌跡を描く。
(5、)
―一撃。
光が飛び散る。
(4、)
翳は防御する間も無く、
弾き飛ばされる。
(3、)
そして、その先には。
(2、)
魔符が、あった。
魔理沙は左手を高く挙げ、
指を、
(1、)
―パチン。
(……0)

炸裂。
星屑が、翳のいるところを中心に拡散。
翳は、その光の暴風に飲み込まれるが、
「なめるなああぁっ!!」
……どうにか抜け出したようだ。
魔理沙は、小さく溜め息。
「しぶといな、あいつ……」
左肩の白が、じわじわと紅くなってゆく。
痺れも始まっていた。
これでは、そう長くは持たない。
早めに決着をつけることを考えつつ、
剣を構えなおした次の瞬間。
後ろから、
殺気、
殺気、
サッキ!!
「っなっ!?」

―パァン!

左肩に、激しい衝撃。
一気に左腕の感覚がなくなる。
紅が、裂けた服の肩から決壊。
出血量はそれ程でもないが、
吹き飛び方が壮絶で、暫しその美しさに見とれてしまうほどだった。
「……ほぉ…」
余裕の表情は崩さず、今の状況を確認。
「お前の手札はフォーカードと、まぁそんなところか……」
左腕は、感覚はないが、なんとか動く。
敵影は、
……4つ。
『誰が本物か、お前に分かるか?』
ガラス一枚隔てたような声が聞こえた後、
4つの翳が、
一斉に弾幕を放つ。
足をかすめる、
手をかすめる、
顔をかすめる。
「うひょう♪」
幅にして僅か20cmの動きで、魔理沙は自身を焼き尽くそうとする弾幕から逃れる。
しかし。


―ぐらり。


目眩。
(……嘘!?)
肩からの多量の出血に、
体が警告を発し始めた。
そして、それでリズムが一気に狂う。

1発当たる。

2発当たる。

後はもう簡単だった。
魔理沙は弾幕に翻弄されていく。
意識も、だんだん怪しくなってきた。
(く、そ、このまま、じゃ……)
フランを、助けられない。
その結果になることが、
本当に許せなかった。
自分でやると、
言った
のに。



その時。
運命とは、本当に気まぐれなものだ。


僅かな綻びが、



魔理沙に、
…………………一筋の光明を…………
……………………………与えた。



魔理沙は高度を一気に上げる。
一時的にではあるが、弾幕の束縛から逃れることができた。
「……よし、見えた!!」
半ば朦朧としている意識で、
道を視る。
いや、だからこそ視えたのかもしれない。


誰が本物かなんて、関係ない。
認識さえしなければ、どれも本物なのだ。


突っ込んで剣をたたき込む、そう決めた。
おもむろに握りなおす。
いや、おもむろにとは言ったが、周りにとっては一瞬だったろう。
「…いくぜ…!」
剣を構え、
加速、
突進。
向かってくる3つの翳を走り抜けざまに横に切り払う。
これに対して(おそらく本体の)翳は、
弾幕を浴びせかけてきた。
高密度の弾幕は、
容赦なく魔理沙を襲う。
服が燃え、
皮膚が、
髪が焦げつく臭いがする。
だが、魔理沙は意に介さなかった。
「うぉぉおぉおおおおおっっっ!!!!」
雄叫びと共に突っ込む。
その軌跡は、
まさしく、
天の川
―“Milkyway”だった。



弾幕を抜ける。


視界が晴れる。


目の前に、翳の姿。


翳は、炎の剣を振るう。


手ごたえ。


爆炎。


飛び散る血液。


そして、視界が晴れる。


そこにあったのは、


左腕を根元から失った、


魔理沙の姿と


勝ち誇った笑顔だった。


「私の、勝ちだぜ」


その声が、ひどく静かな夜に、
長く
残響した。


右腕ごと光の柱になったと見紛うほど、強い光を湛えた剣が、
振り下ろされる。
その刃は翳の眉間に突き立ち、
永遠とも思えるほど永い一瞬の後、

―下へと突き抜けた。

「、、、、、、、、」
翳の断末魔。
叫びなのか、泣き声なのか、
はたまた叫びなのか。
もしかしたら、声というものでも、
音という物でさえもなかったかもしれない。
しかし、この場にいる全員が、
その怨嗟を
「聞いた」。


―翳は、
何も残さずに、
………………
消えた。



魔理沙は、地面へと舞い降りる。
翼も、ヘキサグラフも、
剣の焔も、
地面に降り立つと同時に消え去った。
足元は、血溜り。
それが他人の血ではないことは、
魔理沙自身よく分かっていた。
そして、
その認識は、
もろに体に来た。
がくりと、血溜りに膝をつく。
「魔理沙あああぁっ!!」
フランドールが駆け寄る。
顔はもう、涙でクシャクシャであった。
「私、私……」
動くこともままならないはずなのに、
しかし、
魔理沙は
片方しかない腕で
フランドールを抱きしめる。
杖が、血溜りに落ちて小さく音をたてる。
「……何も言うな……」
「え?」
「お前が誰かなんて、関係ないんだ。
お前、自分の名前、言えるか?」
「…フランドール・スカーレット…」
「それで充分だ。
自分という存在を考えてループに陥るのは、
人間だけでいいんだ……
…人間……
……だけで……」
「…魔理沙…?」
「……」
「…魔理沙…?」



急に魔理沙の体の重さが、増した。
それが何であるか知った時、
知ってしまった時、
フランドールは、
叫んだ。


「魔理沙ああああああああああぁあああああぁっ!!」


そして、
その声は、空しく残響した。
転章完結!!

ふぅ、長かったぁ~。
え?
どうしてこんなに明るいのかって?

結章では、更にどんでん返しがあります!!
だからです!!
斑鳩
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