いつからか
私は
笑うことを
…忘れた
いつからか
私は
泣くことを
…亡くした
いつからか
私は
思うことを
…やめた
中が空っぽの私を
代わりに埋めたのは
想うこと
哂うこと
叫ぶこと
そして、壊すこと。
成長とは
こういう事なのだろうか
問うことは許されても
答えは、無い。
それもそのはず。
だって、
答えてくれる人がいないんだから……
<幕間 開幕、そのちょっと前>
「おーす、霊夢ぅ!」
―パァン!
何の抵抗もなく襖が開き、小気味いい音を響かせる。
魔理沙は紅魔館を出た後で霊夢を訪ねた。
博麗神社は、いつものごとく寂れていたのだが、
今日はなんだかそれが気になった。
なんとなく。
いつもと何かずれている、そんな感じで。
「なーにー!?」
…遠くから、間延びした声。
「ちょっと聞きたいことがあるんだが、いいかー!?」
「ごめーん、今私ここを動けないのー!そっちから来てー!」
……動けない?
アイツ、いつも暇なんじゃなかったのか?
私は声のする方向へ向かう。
わざと足音を忍ばせて。
もちろん、理由はなんとなく。
一歩。
一歩。
一歩。……そして。
―パン。
襖を開ける。
中には霊夢がいた。
しかし、様子がおかしい。
「!?」
「う~……」
目の前の状況に、私はただ一言だけ。
「……馬鹿じゃねぇのか、お前?」
そうとしか言いようがないぜ、こいつは。
右足を押さえたままうめいていたのだから。
どうやらしびれているようだ。
「しょうが、ないでしょ、正座したままうたた寝しちゃったんだから」
……妙に器用だな。そういうところは。
と言うか、いつも正座してんのか、このお目出度い紅白は?
「で、聞きたいことって何?丹の実験台は勘弁よ」
「安心しろ、最近はやってないから。まあ、再開の日は近い、とだけ言っておくか」
「やめてほしいわ、ほんとに」
「まあ、聞きたいのはそんな軽いもんじゃないが」
かなり深刻だぜ、こいつは。
私の丹が小さくならないことよりもな。
「実はな……」
思いは、やがて呪いへと。
溜め込まれしその力、
狂気と幼さで抑えつけ、
運命(SADAME)のタガが
封をする。
その下は
暗き混沌
幼き願いの
裏返し
もがき、あがき、
求めるほどに
その暗さは
紅きを増し
やがて
「人間は、魔法を使えないだって?」
「ああ。私が使ってるのも“魔法”じゃない。言ってみれば……うん、一種の“技術”だな」
本を読んで、一個人の認識が確信に変わった。
それを説明しているのは、もちろん建前。
確かに、その確信も事実だけど。
本当にしたいのは、
“あの本”の不安を少しでも忘れることだった。
……っと、話を続けなくちゃ。
「人間は、幻想郷と今で言う人間界が繋がった一つの世界だった時から、物を論理的に捉えようとする嫌いがあった。
まあ、そうじゃなきゃ鉄の武装もブラウン管なんてもんもラジオなんていう代物も無いんだが。
論理的に理解できないものがあったら、無理にでも論理を作り、それを当てはめ、不可思議をそうではない別物へと変えてしまう。
それでも説明できないものは排除する。
ここは、そういう経緯で捨てたものなんだ、アチラさんにしてみりゃ」
「……」
黙って聞いている霊夢。
う~ん、よく分かんないのか?
「その時から、もう人間は物事を“知る”じゃなくて“識(し)る”ようになっていたわけだな。
で、アチラでもこちらでも人間の根底の定義そのものは変わらないから、アチラで魔法が使えないのだから私たちにも無理だ。
ほら、切り離されてるんじゃなくて、『隔てられてる』だろ?
道の途中に壁があったとしても、道は厳然として存在しているってのと同じだ」
「……最後のだけ、よく分かった」
言葉を聞きながら、自分の中に別な感情が生ずる。
……なんて空虚な時間を過ごしているんだ。
自分を殴りたくなった。
もっとやるべきことが、他にあるじゃないか。
何かが私を急かす。
それは、言い換えれば胸騒ぎだった。
…ああ、
そう言えば、
本当は、
人間も魔法を使えたんだったな。
時々働く、超越した感覚。
こればっかりは誰にも分からない。
そのトリガーも、
それがなぜ存在するのかも、
そして、
それがどの様な力を与えるのかも。
なんだか、
最後の聖域みたいで―
その後しばらく話してから、博麗神社を後にした。
話したのは、他愛も無いことばかり。
逆になんか沈んでしまう。
「人が魔法を使えないわけ、か。もしかしたら、」
ふと呟く。
「その理論が、既に高等な魔法なのかもな……」
もし、そうなら。
それ以上の魔法はいらない。
使える必要が無い。
それだけで、
全てが視え、
全てを識り、
全てを否定できるのだから……
陽は、もうその端を地平線につけようとしていた。
翳の眼下の俯瞰光景。
「……」
ただ、視る。
近くて、遠い闇の中。
彼女から抜け出せたはいいが、
さて、どうする。
「……」
いや、
そんな事より。
口の端が吊り上る。
「フフフ、」
自由。
そうだ、
私は自由なのだ。
「フフ、アハハ」
何をやっても抑えるものは無い。
あのフランドールとかいうやつにも。
「アハハハハ」
アイツは私を内に溜め込んでいたことを
狂気で隠していたのだ。
周りに、分からないように。
「ハハハハハハハハハハハハ、アハハハハハハハハハハハハ」
そんなことはどうでもいいか。
そうだ、今は笑っておくことにしよう。
495年分には遠く及ばないが、その内の幾分かにはなろう。
彼女の笑い声は、響くことは無い。
声を持たないから。
彼女の姿は、見られることは無い。
力そのもので、体が無いから。
そして、
彼女は、救われることが無い。
なぜなら
知らず、その道を踏み外していたから……
――そして、用意は整う。
舞台の高笑いは、翳の哄笑か。
あるいは……
私は
笑うことを
…忘れた
いつからか
私は
泣くことを
…亡くした
いつからか
私は
思うことを
…やめた
中が空っぽの私を
代わりに埋めたのは
想うこと
哂うこと
叫ぶこと
そして、壊すこと。
成長とは
こういう事なのだろうか
問うことは許されても
答えは、無い。
それもそのはず。
だって、
答えてくれる人がいないんだから……
<幕間 開幕、そのちょっと前>
「おーす、霊夢ぅ!」
―パァン!
何の抵抗もなく襖が開き、小気味いい音を響かせる。
魔理沙は紅魔館を出た後で霊夢を訪ねた。
博麗神社は、いつものごとく寂れていたのだが、
今日はなんだかそれが気になった。
なんとなく。
いつもと何かずれている、そんな感じで。
「なーにー!?」
…遠くから、間延びした声。
「ちょっと聞きたいことがあるんだが、いいかー!?」
「ごめーん、今私ここを動けないのー!そっちから来てー!」
……動けない?
アイツ、いつも暇なんじゃなかったのか?
私は声のする方向へ向かう。
わざと足音を忍ばせて。
もちろん、理由はなんとなく。
一歩。
一歩。
一歩。……そして。
―パン。
襖を開ける。
中には霊夢がいた。
しかし、様子がおかしい。
「!?」
「う~……」
目の前の状況に、私はただ一言だけ。
「……馬鹿じゃねぇのか、お前?」
そうとしか言いようがないぜ、こいつは。
右足を押さえたままうめいていたのだから。
どうやらしびれているようだ。
「しょうが、ないでしょ、正座したままうたた寝しちゃったんだから」
……妙に器用だな。そういうところは。
と言うか、いつも正座してんのか、このお目出度い紅白は?
「で、聞きたいことって何?丹の実験台は勘弁よ」
「安心しろ、最近はやってないから。まあ、再開の日は近い、とだけ言っておくか」
「やめてほしいわ、ほんとに」
「まあ、聞きたいのはそんな軽いもんじゃないが」
かなり深刻だぜ、こいつは。
私の丹が小さくならないことよりもな。
「実はな……」
思いは、やがて呪いへと。
溜め込まれしその力、
狂気と幼さで抑えつけ、
運命(SADAME)のタガが
封をする。
その下は
暗き混沌
幼き願いの
裏返し
もがき、あがき、
求めるほどに
その暗さは
紅きを増し
やがて
「人間は、魔法を使えないだって?」
「ああ。私が使ってるのも“魔法”じゃない。言ってみれば……うん、一種の“技術”だな」
本を読んで、一個人の認識が確信に変わった。
それを説明しているのは、もちろん建前。
確かに、その確信も事実だけど。
本当にしたいのは、
“あの本”の不安を少しでも忘れることだった。
……っと、話を続けなくちゃ。
「人間は、幻想郷と今で言う人間界が繋がった一つの世界だった時から、物を論理的に捉えようとする嫌いがあった。
まあ、そうじゃなきゃ鉄の武装もブラウン管なんてもんもラジオなんていう代物も無いんだが。
論理的に理解できないものがあったら、無理にでも論理を作り、それを当てはめ、不可思議をそうではない別物へと変えてしまう。
それでも説明できないものは排除する。
ここは、そういう経緯で捨てたものなんだ、アチラさんにしてみりゃ」
「……」
黙って聞いている霊夢。
う~ん、よく分かんないのか?
「その時から、もう人間は物事を“知る”じゃなくて“識(し)る”ようになっていたわけだな。
で、アチラでもこちらでも人間の根底の定義そのものは変わらないから、アチラで魔法が使えないのだから私たちにも無理だ。
ほら、切り離されてるんじゃなくて、『隔てられてる』だろ?
道の途中に壁があったとしても、道は厳然として存在しているってのと同じだ」
「……最後のだけ、よく分かった」
言葉を聞きながら、自分の中に別な感情が生ずる。
……なんて空虚な時間を過ごしているんだ。
自分を殴りたくなった。
もっとやるべきことが、他にあるじゃないか。
何かが私を急かす。
それは、言い換えれば胸騒ぎだった。
…ああ、
そう言えば、
本当は、
人間も魔法を使えたんだったな。
時々働く、超越した感覚。
こればっかりは誰にも分からない。
そのトリガーも、
それがなぜ存在するのかも、
そして、
それがどの様な力を与えるのかも。
なんだか、
最後の聖域みたいで―
その後しばらく話してから、博麗神社を後にした。
話したのは、他愛も無いことばかり。
逆になんか沈んでしまう。
「人が魔法を使えないわけ、か。もしかしたら、」
ふと呟く。
「その理論が、既に高等な魔法なのかもな……」
もし、そうなら。
それ以上の魔法はいらない。
使える必要が無い。
それだけで、
全てが視え、
全てを識り、
全てを否定できるのだから……
陽は、もうその端を地平線につけようとしていた。
翳の眼下の俯瞰光景。
「……」
ただ、視る。
近くて、遠い闇の中。
彼女から抜け出せたはいいが、
さて、どうする。
「……」
いや、
そんな事より。
口の端が吊り上る。
「フフフ、」
自由。
そうだ、
私は自由なのだ。
「フフ、アハハ」
何をやっても抑えるものは無い。
あのフランドールとかいうやつにも。
「アハハハハ」
アイツは私を内に溜め込んでいたことを
狂気で隠していたのだ。
周りに、分からないように。
「ハハハハハハハハハハハハ、アハハハハハハハハハハハハ」
そんなことはどうでもいいか。
そうだ、今は笑っておくことにしよう。
495年分には遠く及ばないが、その内の幾分かにはなろう。
彼女の笑い声は、響くことは無い。
声を持たないから。
彼女の姿は、見られることは無い。
力そのもので、体が無いから。
そして、
彼女は、救われることが無い。
なぜなら
知らず、その道を踏み外していたから……
――そして、用意は整う。
舞台の高笑いは、翳の哄笑か。
あるいは……
まぁ、次に期待ということで(^^;
転章、結章まで読んで初めて分かるようなものを独立させといたのがいけなかったのかも……
すまんです。
でも、ちゃんと最後まで付き合ってくださいよ!?