Coolier - 新生・東方創想話

東方神魔譚(03)

2004/06/11 18:57:31
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注意)やっちまった。ちょっと、血生臭かったり、ダークっぽかったりしますんで






 東方シリーズ二次創作
『東方神魔譚』
 シナリオ3  『犯人と、戦闘と、死神と・・・』



 日が沈み、月が爛々と輝く夜。
 霊夢と魔理沙はそろって博麗神社へと向かっていた。
 なぜそうなったかと言うと・・・

『霊夢、悪いが今夜一晩泊めてくれ』

 の一言で現在の状況になった。

「それにしても、何で急に家に泊まるなんて言い出すのよ」
「今夜は一人になりたくないないだけだ。別に変な意味じゃないぜ。なんかピリピリとした嫌な感じがするんだ」
「そう・・・」

 正直な話、霊夢も嫌な予感は感じていた。その気配は、博麗神社と紅魔館の中心から広がっている気がする。どうにも落ち着かない。
 背後から何かに狙われているような感じだ。
 そういえば、帰りに覗いたテントの中には、わずかに血の跡が残っているだけで誰もいなかった。荷物がある程度片付けられていた事も気になる。

「どうでもいいけど、布団の用意は自分でしてよね」
「わかったぜ。それよりも・・・・・」
「そうね。目の前の障害の方が問題ね」

 空中に立ち、殺気を放っている帽子の少年。レミリアを襲った犯人。
 そして、黄色いテントの所有者。

「こんばんは、霊夢さん、魔理沙さん」
「物騒ね、羅刹。挨拶をするなら殺気を隠すべきよ」
「そうですね。でも、どうせばれているなら隠す必要は無いじゃないですか」
「私ら二人を同時に相手にするつもりか?」
「問題ありません」
「言ってくれるわね」

 懐から陰陽玉を取り出す霊夢。
 魔理沙の方もいつでも魔法を撃てる体勢になっている。

「戦う理由は無いぜ」
「僕の事を知られた・・・傷の所為で機嫌が悪い・・・それで十分です」
「一つは私達に関係ないんだけど・・・」
「些細な問題です。それでは・・・・いきます!」

 その場で両手を広げ、一回転する少年。両手が作り出した軌跡から、無数のガラスが零れ落ちてくる。そして破砕音と共に標的へと向かう。ほとんどランダムに進んでくるが、十分避ける余裕はある。

「この程度なの、羅刹?」

 正直言うと霊夢と魔理沙は不思議でならなかった。
 たしかに、どちらかと言えば強い部類だろう。だが、その程度でしかない。
 レーヴァテインで不意打ちをくらったスカーレット姉妹はともかく、咲夜が二度にわたって取り逃がすほどではない。
 まだ、力を隠しているのだろうか?
 だったら力尽くで引き出す。それにレミリアの言った事が本当か確かめてみたい。

「いくぜ!恋符『マスタースパーク』!!」

 魔法で作り出したレーザーが、一直線に標的へと向かう。小手調べで打った一撃だ、当然の様にかわされた。想像通りなら次に来るはず。

「お返しします。トレース!映符『マスタースパーク』!!」

 手は読めていた。だから難なく回避できる。

「本当にコピーしてきたわね」
「レミリアの情報どおりだったな。スペルは使わない方針でいこうぜ」
「了解」

 二人は散開して個々に攻撃を始める。霊夢の札、魔理沙の魔法が様々な角度から押し寄せる。だが相手も空中を疾走しながら巧みに避け続ける。
 機動力は向こうに分がある。だが、スペルを使わなければ大した事は無い。現に、相手は数箇所被弾した所為で、血を流している。

「このままでは不利ですね。隠し玉を一つ使わせていただきます」

 そう言って左手で印を切る。
 青白い文字が空中に浮かび上がり、術を編み上げる。

「光符『白色鏡』!!」

 その宣言と同時に、左右に一枚ずつ展開する2枚の白い鏡。
 鏡が急激に輝きを増していく。まるで周囲の光を吸収しているかの様な勢いだ。

「いきます・・・・撃てぇぇ!!」

 ガラスの欠片とは比べ物にならないほどの速度で撃ち出されたレーザー。一つは霊夢、もう一つは魔理沙に標準を合わせている。
 油断していた二人だが、回避は十分に間に合った。
 だが、スピードはかなり速い。止まると危険だろう、動き続けなければならない。

「なんてスペルカード隠し持ってるのよ」
「霊夢、私が相殺するからその隙に羅刹に突っ込め。近づけばあのスペルは使えない」

 確かに配置の関係上その通りだろう。あの出力だと、接近した相手に撃つと自分も巻き込む可能性が高い。後はあのスペルをどうやって破壊するかだ。

「まかせるわよ」
「まかされたぜ」

 魔理沙はおそらくマスタースパークを撃つ。これ以上のコピーを防ぐ為に。
 自分は魔理沙のスペルに合わせて突進。後は夢想封印で吹き飛ばして終わりだ。コピーする暇なんて与えない。

「二発目行きます・・・撃てぇぇ!!」
「恋符『マスタースパーク』!!」

 2つのスペルが火を噴くのと同時に、霊夢は最大速度で前へ進む。白色鏡とマスタースパークが相殺し合っている時間は決して長くは無い。その間に相手の懐まで潜り込まなくてはならない。
 頭上で衝突するスペルの衝撃を無視して、前へ前へと進む。
 激しい火花が自分の姿を隠してくれるから、相手に気付かれずに辿り着いた。
 後は・・・

「夢想封・・・」
「残念でした」

 目の前に光る鏡。気が付いた時には遅かった。マスタースパークを防いでいるのは・・・いや、逸らしているのは一条のレーザー。最初からばれていたのだ。
 目の前の鏡から放たれる高速のレーザーを避ける術は無い。相手を甘く見すぎていた。くだらない油断さえしなければこんな事にはならなかったのに。

「さよなら、霊夢さん」

 ついに光が放たれる。
 人一人を飲み込むサイズのレーザーは、霊夢のいる空間を貫く。

「霊夢ーーー!!」

 魔理沙が、思わず声を張り上げる。
 頭では理解できている。あのタイミングでの回避は不可能。
 霊夢は・・・・

「かわいそうに・・・魔理沙さんの作戦に乗ったばかりに、命を落としてしまったんですね」

 その言葉が魔理沙に止めを刺す。今の魔理沙は自責の念に縛られているだけの哀れな人形。人形を殺すことは造作も無い。
 左手を一閃させると、白色鏡が魔理沙に標準を合わせる。

「さよなら、魔理沙さん」

 無慈悲に放たれる白色の光線。寸分の狂いも無く、その光は魔理沙を包み込んだ。
 当然、後には何も残らない。わずかな灰さえも・・・・・

「今日はこれ位にしておきましょうか。これ以上は目立ちますからね」

 スペルを消して帽子をなおすと、その場を後にしようと足を踏み出す。


「そうですね。もう十分に目立ってますし・・・。何より、これ以上目立つと死神に魅入られてしまいますからね」


 どこからとも無く響いた声。
 どこにいる・・・ヤツはどこにいる!

「どこを見ているんですか?神は人の上に経つ存在ですよ。たとえそれが死神でもね」

 上から全て見ていたのか。
 そしてあの二人を見捨てたと言うのか。
 頭上へと目を向ける。
 そこに居た。たしかに存在している。
 ヤツが・・・死神が・・・・・

「一つ忠告させていただきます。アナタの様な品格の無い人間が僕の口調を真似ても似合いませんよ。『歪んだ正義』さん」

 月光色に染まった白髪。禍々しくも神々しく光り輝く紫眼。
 番号持ちにとっては、最狂最悪の死神。
 現在の名を、響羅刹。

「けっ、てめえなんぞに言われたくねえよ。知り合いを見殺しにするような最低野郎だけにはな」

 もう、偽っても無駄だ。
 無駄な事に思考を削ぐ気は無い。

「霊夢さんと魔理沙さんの事ですか?一応、助け出しましたよ」

 初めて羅刹が両脇に荷物を抱えている事に気付いた。
 不満だらけといった顔をした霊夢と魔理沙だ。
 荷物のように持たれていたら誰だって機嫌を損ねるだろう。

「なっ!どうやって助けた!?」
「教える義務はありません。それより・・・」

 羅刹は高度を下げながらズボンの裾を捲る。
 足首付近に巻かれた血の滲む包帯が露になる。

「この傷、なんだかわかります?」

 後を付けられていた事は知っている。
 この傷の事が分からないなんて言わせない。

「ああ、たしかメイドにやられたヤツだろ?それがどうしたよ」
「この傷の原因を作ったのはアナタですよね。逆位置の11番さん?」
「あの吸血鬼姉妹のことだろ?当然じゃねえか。どいつもこいつも、こっちが手加減してりゃ、すぐに油断しやがる。最初から本気なら俺なんか相手じゃねえのによ。馬鹿みてえな奴らだぜ」

 吐き捨てるように言葉を放つ。
 悪態をついていないと、飲まれそうだ。

「ええ馬鹿みたいですね、この二人も・・・。最初から本気なら簡単に倒せたのでしょうね。でも、そんな事はどうでもいいんですよ」

 馬鹿と言われて暴れる二人。いい加減、疲れたのか羅刹は二人を解放する。
 最近、いらない気苦労を背負っている気がする。
 ストレスばかりが溜まっていく。ただでさえ夜は危険なのに。
 たまには発散しないといけない。

「誰よりもアナタが一番の馬鹿なんですから。よりによって僕の真似をするなんて・・・気でも狂いましたか?」
「そうでもねえよ。てめえの真似すりゃ、14番以降の襲撃を避けられるからな」
「っ!・・・・14番以降が、いたのですか?13番が最後だったのでは?」

 羅刹の顔が驚愕に染まる。そんな事はありえない。施設は完全に破壊したし、資料も全て燃やした。あそこはただの廃墟になったはずだ。

「あの狂人どもが施設破壊されたくらいで懲りるかよ。別の施設で14番から最終カード21番まで造られてるらしいぜ」
「最悪ですね・・・・・それで人の真似をしたと?」
「ああ。で、とりあえず嬢ちゃん達を襲って幻想郷からてめえを追い出そうとしたわけだ。そうすりゃ俺は、しばらくの間は安全だからな。しっかし、てめえの口調は肩凝るんだよ。よくこんなん地で行けんな、お前」
「生まれついての品格の差ですよ。品の無いあなたには辛いでしょうね」

 羅刹と『歪んだ正義』の間に走る緊張の糸は緩まない。二人共、引く気は全く無いようだ。
 霊夢と魔理沙にいたっては、完全に話に取り残されている。

「本気でやる気ですか?僕達一人一人にも勝てないアナタ如きが、三人を同時に相手をすると?」
「問題ねえよ。こんないいもの持ってるからな」

 『歪んだ正義』は、ジーパンのポケットから青いピルケースを取り出す。その中には一錠の赤いカプセルが入っているだけだ。
 嫌と言うほど見覚えがある。
 アレだ。アレを使う気だ。

「アナタ・・・死ぬ気ですか?」
「どの道、ここで負けりゃ殺されんだ。どっちでも同じだろ?」
「僕はそんな物とは縁を切りたいんですよ」
「俺達失敗作はこいつと縁を切れねえんだ。しょうがねえだろ」

 そう言って、『歪んだ正義』はカプセルを口内に放り込む。口の中で思いっきり噛み砕き、ゼラチン質の中身を一気に飲み込む。

「なんなの、あの薬?」
「はぁ、何といいますか・・・単純にいえば、能力増強剤といった所ですね」
「なんだそれ?」
「能力の限界値を無理やり引き上げる薬です。副作用として・・・・・色々ありすぎて言い切れませんね」

 実際はそんなに可愛いものではない。
 限界値を無理やり引き上げるわけじゃない。限界を壊すのだ。普段以上の力は確かに出る。その代わり理性が弱くなり、単純思考になってしまう。さらに痛覚も薄れる。
 それだけならまだいい。
 問題は体に負担が掛かりすぎることだ。限界を超えて体が動くのだから、当然その反動は相当なものだ。下手をすると身の破滅を引き起こす。
 そして、その後に訪れる地獄の苦痛。

「霊夢さん、魔理沙さん、手伝ってください。三人で一気に処理します。ああなった以上、僕一人では手に余ります」
「わかったわ。アレを何とかしないと帰れそうにないしね」
「よくわからないが、わかったぜ」
「それでは簡単な作戦から・・・・・」

 羅刹は手際よく、伝えていく。作戦といってもこれだけで仕留める訳ではない。これはあくまで初激をあてる為のものだ。後は、時の運と言ったところだ。

「死神!死ぬ前に一つ答えろ!10番は・・・運命の輪はどうした!?」
「運命の輪ですか・・・・・勝てたら教えて差し上げますよ」
「そうかい・・・・・ぶっ殺してやる・・・」

「身の程を教えてあげますよ、歪んだ正義さん!」
「死をプレゼントしてやるぜ、対極の死神!」

 戦いの火蓋が切って落とされた。




魔理沙SIDE

「霊夢さん、魔理沙さん、手筈通りお願いします!」
「ええ!!」
「了解!!」

 霊夢と羅刹はそれぞれ上下に展開する。
 アイツは、予想通り最初からスペルカードを使う気らしい。
 左手で印をきっている。狙いは正面の私。
 これも予想通り。

「くらいな!光符『白色鏡』!!!」
「あまいぜ・・・・・恋符『マスタースパーク』!!」

 私の役割は最初に撃つであろうスペルカードの相殺。それが終わったら、相手の周囲を不規則に回りながらの撹乱攻撃。
 まずは相手のスペルにぶつける事は成功した。だが、先程とは比べ物にならないほど攻撃が重い。霊夢と羅刹が配置に付くまで何とか持たせられるか・・・




羅刹SIDE

 魔理沙さんはそう長くは持たないようですね。
 急いで準備をしなくてはなりませんね。
 配置場所の付近に来て早々、両手を使い大量のガラスを作り出す。
 まだ足りない。この数ではマスタースパークを囲いきれない。もっと多く作り出さないと霊夢さんを守りきれない。自分の役目は霊夢さんの盾を造る事なのだから。

「まったく、自分で提案しておきながら言うのもなんですが、準備に時間がかかる作戦ですね」

 こんなところで光学の知識が役立つとは、思っても見なかったですね。レーザー系は強力ですが、その分防ぎやすい。注意すべきはタイミングだけ。同じモノを二種類、早く創らなければ・・・・・




霊夢SIDE

 魔理沙は撹乱に回ったようね。羅刹の準備も順調にいっている。後は、私が羅刹を信じきれるかどうか。
 私に与えられた役目は、アイツに攻撃系のスペルカードを全力で打ち込む事。私の持っている最大の攻撃系スペルは夢想封印。
 私の準備は終わった。後は、敵の映符の的が私になるように祈るだけ。

「頼むわよ、羅刹。あたしの命はあんたに掛かってるんだから」

 正直泣きそう・・・・・




CROSS

 『歪んだ正義』は、魔理沙のマジックミサイルの的になっている。だが、薬で痛覚の薄れている体には何の効果もない。
 下では羅刹がガラスを大量に創り出している。上では霊夢がスペルカードの準備をしている。本来なら羅刹を最初に始末したいが、答えを聞く前に殺すわけにはいかない。それに、あのガラスは防御用だ。俺にはわかる。
 だから標的は・・・・・。

「トレース!映符『マスタースパーク』!!」

 霊夢へ向かって光の奔流が開放される。
 怯むな。羅刹を信じて指示に従えばいい。

「霊符『夢想封印 集』!!」

 七色に輝く七つの光球が、マスタースパークを避けて外から回り込む。
 霊夢さんは指示通りにしてくれたようですね。これで問題はない。スイッチはもう入れれた。後はオートで実行するように細工をしてある。
 霊夢さん、信じてくださってありがとうございます。




「な、なんでだ・・・なんでマスタースパークが当たらない!!」

 その場の全員が呆然としていた。そう、マスタースパークがたった2枚のプレートによって遮られていたのだ。
 そして、『歪んだ正義』は霊夢の放った夢想封印の直撃を受けていた。おそらく相殺するように撃っていたら、こう上手くはいかなかっただろう。

「偏光子と検光子って知ってますか?」
「なにそれ?」

 霊夢は、不思議そうに首をかしげている。魔理沙も同様だ。
 当然の事だろう、幻想郷にいたら一生縁のない単語だ。

「偏光子は、自然光を直線偏光に変える素子。検光子は偏光の有無、方位を調べる為の素子で、基本的には偏光子と同じ物を用います。今回はこの二つを直交ニコル・・・つまり、90度傾けた状態で配置しました。まず、偏光子を通過した光は直線偏光をします。この状態で検光子を当てると、その角度によって光強度・・・・簡単に言えば、光の透過率が変わるんですよ。そして直交ニコル状態の光強度は、ほぼゼロ。マスタースパークはレーザー・・・つまりは光でしかありません。光ならば直交ニコル状態の偏光子と検光子をこえる事は出来ません」

 霊夢と魔理沙の頭の上には大きな?が浮かんでいる。どうでもいいが、戦闘中なのを忘れているのだろうか。今攻撃されたら、あの二人は死んでしまうんでしょうね。
 そこまでは、責任取れませんよ。流石に・・・

「馬鹿言うな!そこらの光とは違うんだぞ!!」
「それを言ったら、僕の造った素子も普通じゃありませんよ。普通じゃない物同士なら問題は無いでしょう?」

 困惑している幻想郷コンビは、とりあえず放っておく。
 目の前の脅威のほうが問題だ。いっそ一人の方が都合もいいかもしれない。

「これで白色鏡、マスタースパーク共に封じましたね。アナタの脅威は全てなくなりました。では、そろそろ終わりましょうか」

 羅刹が腕を一閃させる。『歪んだ正義』も遅れたタイミングで腕を一閃する。
 零れ落ちるガラスの欠片。だが、羅刹の出した数の方が圧倒的に多い。
 双方がそれを飛ばす。数量に的に不利な『歪んだ正義』は、すぐに真下へ回り込む。
 二発目の準備をする為に頭上を見上げるが・・・・・・・・・誰もいない!!

「後ろです」

 声が耳に届いた瞬間、首筋を激痛を伴う衝撃が襲ってきた。空中で蹴りをくらったのだ。足場を作れるからこそ出来る空中の格闘技。近づいてしまえば弾幕を張るより、はるかに速い。
 『歪んだ正義』は勢いよく、大地に叩きつけられる。
 落下した場所で土煙が舞い上がり、視界を遮る。
 まだだ。この隙に追い討ちを掛けなければならない。

「光符『白色鏡』」

 スペルカードの印を切る。青い文字で構成されるスペルは、『歪んだ正義』が使っていたスペルカードと同じものだ。しかし同じスペルの筈なのに、羅刹のものは左右に三枚ずつ計六枚の鏡が展開している。

「・・・バン・・・」

 外側から内側へ順にレーザーが撃ち出される。着弾点では大きな爆発が幾度も起こり、熱風を上空へと導く。同様のレーザーの照射を5回程繰り返すと、白色の鏡は発光を止め、羅刹を守る様に配置を換える。

「ちょっと、羅刹・・・今のスペルカード、アイツが使ってたのと同じ・・・・・」
「そんなことより大丈夫か?今の大出力で30連発だぞ・・・」
「大丈夫ですよ。周りに被害が出ないように焦点を絞ってますから。もっとも、着弾点の破壊力は格段に上がっていますが」
「いや、そうじゃなくて・・・生きてるのか?アイツは・・・」

 三人そろって砂煙の中心を見つめている。白色鏡は、霊夢と魔理沙も囲み始める。羅刹の計らいだろう。
 一瞬、砂煙が光を発した。
 気が付いた時には、レーザーで照射された後だった。
 だが、先程と違って弱弱しい。

「散乱現象ですかね。空気中の微粒子で光が乱反射して光その物が弱くなる。この分だとこっちから撃った物も、威力が落ちたんでしょうね」
「そうみてえだな。俺も閻魔に嫌われたらしいぜ」

 『歪んだ正義』はまだまだ健在の様だ。それなりにダメージは与えているのだが。
 やはり、あの薬は脅威ですね。
 仕方がありません。

「霊夢さん、魔理沙さん、少し下がっていてください。下手をすると、巻き込まれますから。いきますよ・・・」

 羅刹は右手で印を切る。
 今度は、赤い文字が浮かび上がり、術を編み上げる。

「煉符『咎人の断罪』」
「トレース!映符『咎人の断罪』!!」

 羅刹と『歪んだ正義』から黒い霧の様な物が吹き出てくる。なぜだろう気温が一気に下がった気がする。
 いずれにしても、新しいスペルを使うのは得策ではない。
 それではコピーされるだけだ。 
 なのになぜ・・・?

「映しましたね。あなたの負けです」

 黒い霧は、互いを狙ってゆっくりと移動していく。全く同じ様に・・・いや、違う。羅刹の出した霧は収束しているのに対して、『歪んだ正義』の霧は拡散している。
 このままぶつかれば・・・・・。

「馬鹿な!なんでスペルがコピーできない!!なんで、てめえのと違うんだ!!」
「いいえ、同じですよ。同じだけど、違う。それだけです」

 『歪んだ正義』は、スペルを中断して回避にまわるが、逃げ遅れた左半身は霧に包まれる。霧が触れた箇所が変質し始める。

「左手と左足はこれで使用不可。三途の川が見えますか?『歪んだ正義』さん」

 霧に包まれた左半身は、血塗れになっている。まるで無数の傷でも付いたかの様に左半身全体が悲鳴を上げている。

「アナタは左手でスペルを書いていましたからね。これでスペルは書けない。よしんば書けたとしても発動は圧倒的に遅くなりますね」
「殺す・・・ぶっ殺す!!」

 完全に理性の箍が外れた。こうなった冷静な判断ないかしていないだろう。行動の読めない奴を相手にしたら、どんな上等な作戦だって破綻する。
 でも利点はある。あの状態ではスペルカードは書けない筈だ。スペルをコピーされることもないだろう。

「死ねぇぇぇ!!!」

 創り出される無数のガラス。既に数量は羅刹の物を大きく上回った。相殺しても防ぎきれる量ではない。となればセオリー通り避けながら戦うしかない。
 今の状態のヤツが相手では手に負えない。先程の攻撃も、相手が予想通りに動いてくれたから出来たのだ。

 まったく・・・・・殺したくなっちゃうじゃないですか。




 それからは何がなんだか分からなかった。
 気付いた時には地面に叩きつけられたのだから。
 理解できたのは、奴の瞳が縦に裂けたこと。どうしようもなく怖かったこと。『死神』と言う言葉の真の意味を知ったこと。
 アイツは間違いなく、死という名の終わりを司る神なんだ。

「どうしました?まだ左腕が千切れとんだだけじゃないですか。他の方達はその程度では諦めませんでしたよ。もっと楽しませてください、もっと逃げ回ってください。生きることを諦めた命には、何の価値すらないんですから」

 奴の目には、俺以外は映っていないんだろう。自分が助けた者達の姿さえ、その瞳は映していない。
 羅刹は、腕を振るい左右四本ずつ計八本の錐を出した。番号持ちの間では、神の槍と呼ばれているものだ。そんな大層な能力を持っているわけではないが・・・

「さあ、死んでください。神の焔に焼かれて地獄に落ちてください。アナタ専用の片道切符は用意してありますから」

 八本の錐が、『歪んだ正義』の方を向く。
 『神の焔』何の皮肉なのだろうか?自分には『地獄の業火』に見える。
 ふと思った。昼間の奴とは違いすぎる事に。
 擬態なんてレベルじゃない。
 まるで別人、しかもこれは・・・・・

「ふっ、ふふ・・・ははっ、あっははははははははっ!!!」
「?・・・気でも狂いましたか?」
「そうか、そうだったのか!こりゃあ傑作だぜ!なんだかんだ言ってお前が一番囚われてるじゃねえか!!」

 『歪んだ正義』は狂ったように笑い続ける。
 そして霊夢達を同情したような視線で見つめる。

「お嬢ちゃん達よ。こいつとは早く縁を切った方がいいぜ。こいつはケチの付けようが無いほど完璧な死神だよ。隙見せたら後ろからざっくりと切られちまうぜ」
「しませんよ」
「いいや、絶対やるね。お前がよく言ってただろ。運命ってやつだよ」
「達者な口ですね」

 その一言で一本の錐が落ちてくる。
 響き渡る悲鳴。
 『歪んだ正義』の右太腿に刺さった錐は、肉の焼ける様な臭いを発し始めた。

「もう終わりにしましょう。無駄話に耳を傾ける時間はありません」

 錐の先端が赤熱する。
 これが『神の焔』の正体。
 超高温のガラス。貫いた対象を容赦なく攻め立てる最悪の武器。
 羅刹の手が上がった、振り下ろされた瞬間が『歪んだ正義』の最後。
 だが、

「まちなさい、羅刹」

 その手が振り下ろされることは無かった。

「それ以上やるつもりなら、私が相手になるわよ」
「何言ってるんですか、霊夢さん?これが事の原因。こいつの所為で、いらない怪我までしたんですよ?」
「それでも止めなさい。明らかにやりすぎよ」
「私も霊夢に賛成だ。これ以上やるなら私は全力で止めるぜ」

 三人の間に緊迫した空気が流れる。
 睨み合いを続ける三人だが、その終わりは意外と早かった。

「わかりました。他ならぬお二人の頼みなら、無下に出来ませんからね。そう言う訳で『歪んだ正義』さん、今は見逃して差し上げます。ただし、同じ事を繰り返すようでしたら、その時は・・・・・」

 残った錐が羅刹の見ている木に突き刺さる。赤熱したガラスを押し付けられた樹木は、火を噴いて燃え上がる。

「こうなっていただきます。では、ごきげんよう」

 いつもの様に空を歩いて上る羅刹。
 霊夢達も慌ててその後を付いていく。
 その場に残された『歪んだ正義』は何を思ってその姿を見ていたのだろう・・・・




「すみませんでした、霊夢さん、魔理沙さん」

 羅刹の謝罪。ここまで真剣なものは想像できなかった。
 口調は丁寧だが、人と距離を取るのが上手い。そんな印象が強かったからだ。

「いつもこうなんですよね。戦ってると頭の中がおかしくなってしまうんです。自分でも制御できなくて・・・すぐ、あの様になってしまうんです」
「それで、咲夜から逃げてたのね」
「はい。長時間続けば続くほど、どんどん理性が弱くなるんです。それで、最後はあのように・・・・・」
「なんだか、困った性格だな」

 そうかもしれない。ただ二人に嘘を付いたとすれば、それが戦闘中だけに起こるわけではないと言うこと。

「もう夜も遅いですね。よかったら送りますけど?」
「大丈夫よ。神社はすぐそこだし、魔理沙も今日は神社に泊まるらしいから」
「わかりました。本当にご迷惑をおかけしました。それでは、良い夜を」
「おやすみ」
「また、明日な」

 湖の方へ向かって歩く羅刹。
 その後姿を見ながら先ほどの事を思い出す。

「まるで別人ね。あの時と・・・・」
「そうだな。久しぶりに寒気がしたぜ」

 アイツは羅刹のことを死神と呼んでいた。
 まさにその通りだと思う。血に染まる事をなんとも思わず、ただ作業のように攻撃をする。そして、急に攻撃の手を止め、楽しそうに笑うのだ。

「羅刹にも色々あるのね」
「だな。帰って寝ようぜ。もうくたくただ」
「そうね」

 霊夢と魔理沙も神社へ向かう。
 とにかく色々あったのだ。早く寝てしまおう。




「はぁ、はぁ、はぁ」

 体中が悲鳴を上げている。薬の副作用の所為で体中が痛みで支配される。しかも、戦闘時に負った傷が熱を持ち、思考を鈍らせる。

「・・・いてぇ」

 どの場所よりも痛むのが左腕だ。コピーする事が出来なかった黒霧のスペル。体の内側から破壊された気分だ。

「とりあえず、人間界に逃げるしかねえか・・・」

 ここでは、死神に怯えながら生きなければならない。今回は、嬢ちゃん達のお陰で命拾いしたが、次に出会ったら殺される。あいつは、そういうヤツだ。
 あいつは変わっちまったんだから・・・・・

「しかし、保護も頼めねえのに、どこ行くってんだよ」

 あの狂人どもに捕まったら、処分されるか、実験動物扱いを受けるかのどちらか。いずれにしろ安全な場所など無い。

「教えて差し上げますよ。アナタが行くべき場所を・・・」

 最悪のタイミング。いや、わかってた事だ。アイツがチャンスを逃す所を見た事が無い。こんな傷だらけの奴を殺すなんて誰にでも出来る。

「別にかまわねえよ。どうせ『地獄です』とか言うんだろ?」
「そうですよ。それと冥土のお土産に『運命の輪』さんの事を教えて差し上げようかと思いましてね」

 『歪んだ正義』の体が反応する。
 当然だろう血の繋がった本当の姉弟なのだから。

「彼女は、死にました。だいたい二週間前ですかね」
「な、なんでだ・・・なんで死んだんだ!答えろ、死神!!」

 羅刹が微笑む。どこか感情が欠落したような笑顔。
 まるで人形が笑っているかの様だ。

「決まってるじゃないですか。僕が、この手で、彼女を、殺しました」
「・・・は?何言ってんだよ・・・アイツは、姉貴はお前のことを・・・」
「僕に恋慕の情を持っていたのでしょう。そんなの知っていますよ、あくまで知識としてですがね」

 こいつは全て知っていて、その上で姉貴を殺したと言うのか。なぜそんな事が出来るんだ。あんなに仲も良かったのに。
 目の前のヤツが、別世界の住人のように見えてきた。

「まあ、おそらくはヘルシンキ症候群でしょうね。極度の緊張状態の所為で普通の神経がおかしくなってしまったんですよ。もっとわかりやすく言えば、ただの錯覚ですね。それに女性の被検体は強い個体と子をなす様に細工されていた筈ですから、その所為ではないかと思いますよ。もっとも、彼女と僕とでは、子は残せませんがね」
「じゃあ、なんだよ・・・あの巫女となら子を残せるとでも言うのか?あの魔法使いとなら子を残せるのか!?」

 もう、何がなんだかわからない。
 価値観の違いじゃない。育ってきた環境でもない。アレの所為でもない。
 根っこから違うんだ、こいつと俺は。

「それも無理ですね。それと霊夢さん達は大切なお友達ですから、あんな失敗作と一緒にしないでください」
「・・・・・キサマァァァァ!!!!!」

 『歪んだ正義』の中で何かが切れた。勝てる勝てないは関係ない。ただ目の前の奴を殴りたかった、殺したかった。それだけが彼を突き動かしていた。
 だが、もともと勝てる筈も無い。

「遅すぎですね」

 『歪んだ正義』の背中から突き出る羅刹の右腕。その腕は透明なガラスに覆われていて、禍々しい凶器になっている。
 そして、その手の中に握られているのは・・・・・

「不思議ですよね・・・ここまで人間離れしているのに血は赤く、心臓は変わらずに脈打っている。本当にバケモノの血が入っているのか疑ってしまいますよ」
「て・・め・・・・」
「でも、変えようの無い事実なんですよね」

 羅刹は腕を引き抜くと、手の中のモノを興味深そうに観察する。様々な角度から観察しているうちに血液が付着したのだろう、普段なら無邪気に見える表情が、何よりも恐ろしく映る。

「か、かえ・・・・」
「まだ生きてるんですか。やっぱりバケモノの血は、ある意味すばらしいですね。それはともかく、返しても幻想郷では処置できませんよ。それに変なものに感染している可能性が高いと思うんですよ、コレ」

 『歪んだ正義』は胸に手を当てる。胸には風穴が開けられていて、本来なら聞こえてくる筈の鼓動が聞こえない。

「コレは処分しますね」

グシャ!

 無造作にソレを握りつぶす。
 腕を血液が伝って滴り落ち、足元に赤い水溜りを作る。

「僕の邪魔さえしなければ、死ぬことは無かったんですけどね。それでは、さようなら」

 腕を上から振り下ろし、付着した血液を飛ばす。
 それと同時に、上空から『歪んだ正義』に向かって落ちて来る大質量。
 地面と衝突した際の爆音で、潰れる音は一切聞こえなかった。

「映画『狂乱の夜』は、これにて幕引きとなります。観客席の方々は、くれぐれもお忘れ物の無きよう、ご注意ください。なお、次回の公演は未定となっておりますが、皆様方の期待を裏切らぬよう、よりご満足いただける作品を提供したいとスタッフ一同心より思っております」

 最高に気の利いた皮肉ですね。
 ふぅ・・・大質量を創るのは疲れるんですよね。
 さて、帰って寝ましょう・・・・・

 はい。これを0話から読んで下さった方々が、最初に何を思ったかは分かります。『お前、次の更新は一週間先じゃないのかよ』と言った感じなんでしょうね。
 今回は、やっちまいました。フリーフォール並みに評価が下がるんだろうな・・・・。でも、ちょっと満足してます。『やりたかった事シリーズ』その1が出来ました。戦闘開始の合図のとこですね(上手くいかなかったけど)
 ともかくやっと一段落。後は本筋に入るだけ。大体後4、5話で終わりかな。これから先は、本当に中々更新されないと思います(テスト近いんでかなりマジ)。
 あと、コメント(ひょっとしたら本文も・・・)はその時のテンションなどにかなり左右されますので、『お前別人だろ』という突っ込みは無しの方向でお願いします。
 次回は、ほのぼのに戻ろうかな・・・・・多分無理だけど
黒魔法音楽堂
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コメント



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7.80裏鍵削除
いえ、結構うれしいですよw>早い更新
まぁ、なんというか

羅刹かっちょいいいいいいいいいいいいいいいいいいい(壊
偽善というかそーいう二重属性が堪らなく好きです、私。テンポとテキストは相変わらず良くて、感心します。
にしてもタローカードですか…何か最近流行ってません?w
あ、でもXXSideは要りませんかな。内容から見れば誰が何をするのは十分わかりますし、「---」とか「***」で分隔すればいいのでは、と私は思いますね(汗
8.無評価裏鍵削除
補足。
戦闘は必殺の一撃、増して3対1なら尚更。簡潔尚迫力ある戦闘シーンに気に入りました。本当、戦闘描くのうまいですねー
10.無評価いち読者削除
もはやほのぼのなんて無理なので、もっと黒い成分を(笑)。

…で、めっさ細かいんですが、直「交」ニコルでは。英語だとcross nicolとかいうはずなので。手元に資料がないので、ご自分で調べてみて下さい(無責任)。それにしても偏光板2枚でマスタースパーク防げたらヤだなあ。
この調子でいくと、のちのち副○折とかもやります?(謎)
18.30名前が無い程度の能力削除
おもしろい!おもしろいんですけど・・・。
やっぱりオリジナルが最強ってのはどんなもんでしょう・・・。
すでに別世界のような感じ。