霊夢とアリスの立場が逆ですが、ためしにやって見たかっただけです。
こんなの霊夢じゃねえと言われようとも、ある程度好き勝手できるのが二次創作ですし。
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「こんな物作って見たんだけど」
そう言って一つの人形を取り出した旧友を前に霊夢は、
「あ、やっぱ人形なのね」
分かりきっていたようにそう返した。
「もしかして、私が人形作る以外能が無いと思ってるのかな?」
「違うの?」
「間違っちゃいないけど」
否定しないのか。
そう突っ込もうとしたが止めた。何せ「悩みが少なそう」と言われて「悩みなんて無いわ!」と言い放つ、アリス・マーガトロイドその人である。
「でもこの人形はちょっと違うのよ。知り合いの子をモデルにして見たんだけどね」
それは腕を両側に広げた十字架の真似をした少女の人形だった。三頭身ぐらいにディフォルメされており、中々可愛らしいマスコットだった。
そして霊夢も知っている人物である。
「これルーミアじゃない」
「え、そうだけど。霊夢も知ってるんだ」
「まあね。んで、これがどうしたの。まあ可愛いとは思うけど、それだけ?」
思った通り正直に人形の感想を告げただけなのだが、アリスは褒められたのが嬉しいようだった。
先ほどより少し弾んだ声で、
「そう焦りなさんな。人差し指出して、この子の口に突っ込んで頂戴」
「はあ? 喰われやしないでしょうね」
「しないしない。さ、どうぞ」
そう言うとアリスは人形を抱えて持ち上げ、善は急げと言わんばかりにこちらへ突き出してきた。
「はいはい……分かったわよ」
言われるままに左手の人差し指をルーミア人形に銜えさせた。
「あ、何か余計可愛い」
元々幼い容姿のルーミアをディフォルメしたマスコットは、本物の通り八重歯を覗かせつつ満面の笑みを湛えており、見ているとこちらまで笑顔になりそうな魅力があった。
「うん、この子は可愛い。しかし闇の妖怪だってのに元気なもんだね」
「いや、本物は別に可愛くない」
「そうかな?」
私は可愛いと思うけどなぁ。
アリスは首を傾げつつ言った。
「んで指入れたらどうすんの」
「そうだったそうだった。それでね、そのまま何か本当のことを言って頂戴」
「本当の事?」
「嘘じゃなきゃいいから、適当に」
「んー、じゃあ……」
霊夢は数秒考え、何もひねらずにこう言った。
「私の名前は博霊霊夢である」
すると。
人形の頭の辺りから突然『そーなのかー』と、あのルーミアの気の抜けた声が聞こえてきた。
「……何これ?」
「平たく言えば、真偽判別器よ」
「真偽判別器?」
アリスの説明をまとめるとこういう事である。
指を突っ込んだ者が真実を言えば『そーなのかー』と言い、間違ったを言えば『あなたは食べてもいい人類?』と言いながら指を噛む。
噛むといってもいわゆる甘噛みで、くすぐったい以上の害は無いらしい。
「試してもいいかしら」
「ご自由に」
「『魔理沙は箒のスピードを抑え切れずに弾にぶつかる事がある』」
『そーなのかー』。
ルーミア人形の声が響いた。
「あはは、魔理沙の奴ルーミアにも言われてやんの」
「言わせたのはアンタじゃないかい?」
「んじゃあ今度は『魔理沙の帽子の下は実はハゲ』」
『あなたは食べても良い人類?』。
今度は否定の合図と共に、指にそこばゆい感触を覚えた。
「考えて見れば魔理沙って一度帽子取ってるわね。つまらん事聞いたわ」
「お? 何か面白そうなことやってるぜ……って滅多に来ない奴もいるな」
「丁度良いわ魔理沙、面白いから来なさい」
そこに来たのは当の魔理沙であった。
すかさず霊夢が人形の説明をすると、案の定魔理沙も目を輝かせ始めた。
「後からレミリアと咲夜も来るぜ」
「じゃあその前に聞きにくい事聞いちゃった方が言いわね。『レミリアの下着は動物のアップリケつき』」
「いくら何でもそりゃないと思うぜ」
『そーなのかー』
「おいおいおいおいっ! マジかこれ」
「設計に間違いが無ければマジの筈よ。レミリアって言うのが誰か知らないけど」
「あははははっ、レミリアが、レミリアが熊さんぱんつー」
笑いが止まらないらしい霊夢と、意外な真実に呆然としている魔理沙。
やがて魔理沙も大声で笑い始めた。
「これは今度行ったら探して見ないとな」
「……これ持ってきた私が言うのも何なんだけど、他人のプライバシー詮索するのは止めた方が良いわよ」
「大丈夫よ、本人たちにばれなきゃ」
そうは言うものの、やはり良い気分では無かった。
しかし二人が凄く楽しそうだったから、少し目を瞑る事にした。それにこの二人なら、取り返しのつかないことはしないだろうと言う信頼もある。
「霊夢、私もやって良いか?」
「何聞くの?」
「前からもしかしてと思ってたんだが、『咲夜はパチュリーより胸が小さい』」
『そーなのかー』
その答えは魔理沙の予想をあっさりと裏付けてしまった。
「パチュリー以下。メイド長はもやしっ子以下!」
「わ、私らだってもう少しあるよな……」
二人は笑うというよりも少し悲しげな目をしていた。
同時に、自分の作品に娘のように思い入れるアリスにとって、これ以上人の秘密が暴くような事に使って欲しくない思いが先ほどよりも強くなった。
こんな機能を付けたのだって、ただモデルの少女の口癖から思い付いただけであって、自分の娘を悪用する気など全く無いのだ。
「はいお終い。もう良いわよね」
少し乱暴にルーミア人形を取り上げて、持参の箱に仕舞い始める。
仕草からアリスの心証を悟ったのか、魔理沙は少し罰の悪い顔をした。
その時。
「あっ!」
霊夢が思い出したかのように突然声を上げた。
「おぉう吃驚」
「どうした霊夢?」
「もうちょっと借りるわ」
言うや否や、先ほど以上に乱暴にアリスの手から人形をむしり取り、奥の部屋へ駆け込んでいった。
「……何よあれ」
「くっくっくっ」
「何笑ってるのよ気持ち悪い」
「許してやってくれ。お前が久し振りに来たもんだからな」
明らかに不機嫌になった――後から自分で思い出してもそう思うだろう――アリスを、魔理沙は含み笑いを堪えながら宥めた。
「すぐに帰って欲しくないからだぜ。ああ見えて結構お前の事は気に入ってるらしい」
「……あれが?」
「賭けてもいいが、霊夢は好きな相手ほど素っ気無いなるんだ。照れ隠しって奴だぜ。お前は新作見せるだけ見せたらすぐ帰るし、寂しいんじゃ無いのか?」
言われるままに今までの霊夢の反応を思いだして見る。
しかし、どう考えても素っ気無いを通り越して「早く帰れ」と言わんばかりの態度に思えてならない。
「嘘だ」
「ホントだぜ。少し霊夢と親しい奴ならあの反応で分かりそうだけどな」
「嘘嘘」
「ホントホント。お前もしかして人形の事しか興味ないだろ」
そこで魔理沙はわざとらしく言葉を切った。
真正面からアリスを見据えて、こう告げた。
「人形ってのは読んで字の如く、人の姿を模るんだろ。なら少しは人の気持ちも汲み取れないと、人形師として良い仕事出来ないかもしれないぜ?」
その頃襖一枚挟んだ向こう側。
霊夢はかつてない真剣な眼差しでルーミア人形を見つめていた。
指は既に人形の口に収まっており、後は質問をすれば良いだけだった、のだが。
「アリスは、アリスは私の事が……す、す……」
顔は茹ったように真っ赤で、最後の一節がどうしても言い切れない。
「ああああああっ、やっぱり……怖い……」
畳に突っ伏した霊夢は、頬に畳表の冷たさを感じながら考えていた。
もっと楽に言える質問の方法は無いだろうかと。
「はあ……」
少しだけ理性を取り戻して改めて考えると、もしかしたらアリスは人形以外見向きもしないのではないだろうか。
自分の事を考えてもらう余地など、少しも無いのかも知れない。
「……せめてそれだけでも確かめようかなぁ?」
上体を起こし深呼吸。
掌に人と言う字を書いて飲み込み。
空気を勢い良く飲み込みすぎて咳き込み、もう一度深呼吸から。
何セットかそれを繰り返し、改めて人形に指を差し込んだ。
「『アリスは……
「じゃあ、私帰るわ」
結局アリスは人形のお披露目だけやって帰る事となった。
「あー、レミリアにも一度会わせたいんだが」
「またの機会にするわ」
魔理沙との数言のやり取りの後、霊夢に向き直った。
少し後ろで俯いている霊夢に普通に別れの言葉を告げようとして、魔理沙の言葉が思い出された。
(人の気持ちか……私にはこんな事しか言えないけど)
それは結局人形の事になるし、言って良いのかどうか迷った。
しかし、今のアリスにはそれしか言葉が無かった。
それは始めて、人の気持ちを考えて紡いだ言葉……彼女の精一杯だった。
「今度、人形のモデルになってくれる?」
霊夢が打たれたように顔を上げた。
信じられないといった表情。横では魔理沙も同じように驚いていた。
そして。
明るい笑顔と共に返事が帰ってきた。
と、いらない話はこれくらいにして、
こういう霊夢もいいんじゃないでしょーか。
いつも超然としてるばっかりでも疲れますし(笑)