Coolier - 新生・東方創想話

すずめすずめ -5-

2004/06/11 02:28:32
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「秋は夕暮れっていう言葉があるけど本当にそうだなぁ……」
と思いながら私は森の道をローレライと歩いていた。
今日も一日滝で過ごして、今はその帰り道の途中。
辺りには秋らしくアキアカネが水辺を探して飛びまわっている。
何匹いるかローラレイと数えていたけど、結局わからなくなって途中でやめてしまった。
といっても、これもただの暇つぶしというか……数百数千はいそうだからはじめから数えれるなんて思ってないし。
ともかく、夕日に照らされた赤とんぼで紅く染まる道をローラレイと歩いていた。

「相変わらずすんごい数だね。ずっと先までとまってるよ。」
「うーん。こんだけいると……食欲そそられるねー。」
「……とりあえず、私のいる前では食べないでね。」(汗
とんぼを踊り食いしてるローラレイなんて見たくないし。
「でも、夜になったらいなくなっちゃうしなぁ。殺るなら今しか……」(ぎらり
「あー、そんなこといってると置いて帰っちゃうよ。今日はちょっと疲れてんだから。」
「えー?一緒に捕まえようよー。そうすれば蔵で食べれるし。」
「……置いてく。」
そう言ってちょっと歩調を速める私。
だって、捕まえるってことは……ねぇ?
「あーん、まってよー。」
私の腰にしがみついてくるローレライ。
ずるずると私の歩調は遅くなる。
「だって、捕まえるって……そのあとはどうする?」

「……飛んでかないように羽根をもぎ取る。」

やっぱり。
無言で歩調を速める。
「まってってばー!」
「えーい、寄るな寄るな!私は気持ち悪いの嫌いなの!」
そんな感じで歩いていく私とローレライ。


「今日ってそんなに疲れた?」
「まあ、そりゃあ一日中ほとんど踊ってたし。」
今日はローレライの歌に合わせて二人で踊ったり遊びまわったりと……いつもの2倍は動きまわった気がする。
「でも歌の勉強もしたじゃない?」
「それでもいつもより遊びまわったよ?」
そう、歌のほうも進んだ。
残っているのはあと三分の一くらい。
まあ、それくらい進んだから今日は後は遊ぼうなんてことになって酷く疲れてるんだけど……
「疲れるのも悪くないけどね。ご飯は美味しく食べられるし、よく寝れるし。……ただ、お母さんにやっぱり子供ねって言われるのが癪だけど。」
「……子供じゃん。」
「子供の子供が何を言う。」
「まあ、それはおいといて、って倉着いたよ。」
ローラレイと話してると滝からの道も凄く短く感じられる。
それだけ楽しいってことかもしれない。

「んじゃ、また明日ね。」
「うん、また明日。」





――――

――――――

―――――


夜中に私は目がさめた。
何でだろう?
今日は疲れたからよく寝れると思ったのに。
もう一度寝ようと思っても眠れない。
横にいるお母さんは普通に寝てるのに。
仕方がないので水でも飲もうと井戸に行くことにする。


―――

――――――


水をくみ上げて、口に含んだところで気づいた。
「何か……聞こえる?」
気のせいかとも思ったけど、違和感が離れない。
何かが……微かにだけど、聞こえる気がする。

どうせ眠れないんだ、気になるんだから探してみよう。
いつもは夜に外に出ようとするとお母さんに止められるし、考えてみればこれほど好都合な状況はないように思える。
今日は満月。
月明かりで道は照らされている。



舟は――乱して――

霧に迷――――

――聞き入って―――――


だんだん歌は聞こえるようになってくる。
――やっぱり
私は駆け足になってそこへ急ぐ。

そこは、あの滝だ



霧は漂うだけなのに

私は歌っただけなのに

舟は舵を乱して沈む


そこにいたのはローレライ。
夜霧が立ち込める中、いつものように岩に座って歌を歌ってる。
予想通りだね。
ローレライの歌ってる詩。
これは……あの本の『霧の歌姫』だったかな?

まだローレライはこっちに気づいてないみたい。
よーし、ここは驚かせてあげよう。
そろりそろりとローレライの背中に近づいていって……
「こんな時間に何してるの!」
「あわっ――わひゃああ!!」
ざばーん
ローレライは吃驚しすぎて小川に落ちちゃった。
……やりすぎた(汗
「ご、ごめんごめん!ほら、つかまって。」
「あうー……驚かせないでよ、ってお母さん!?」
とりあえず、ローレライを起きあがらせる。
あちゃー、服びしょびしょだぁ。
「なんでこんな時間に?」
服を一生懸命搾りながらローレライが聞く。
「んーとね、ローレライの歌が聞こえたのよ。なぜか。」
「それで起きちゃったからここへ来たと?……なぜか。」
「そうそう。」
ローレライはちょっと呆れ顔で
「ばか」

「……うるさい」



「たまにね、こうやって練習してるの。夜も朝と一緒で人は来ないでしょ?」
「なるほどねー。しかし、ここって夜でも霧出てるのね……」
辺りは薄く視界が霞んでいる。
凄い霧だ。
「滝があるからかな? でも、これのおかげで自分がローレライって気がするんだよね。」
「霧が出てるから?」
「それもそうだけど、歌がうまく聞こえる気もするの。ほら、私って気分から入るほうだから」(笑
「んじゃ、私はそのローレライの美声に惹かれてやってきた哀れな舟ってところかな?」(笑
二人してくすくす笑いあう。
と、

くしゅん!

「あ、濡れたままだったね、服。」
「うん、でも我慢できるし大丈夫だよ。」
そう言うローレライはちょっとだけど震えてた。
当たり前じゃない。
私でもちょっと寒いくらいなのに。
「ダメダメ! 服取ってくるから、ローレライはここで待ってて。」
「う……じゃあ、お願いします。」
「よしよし。お母さんを待ってなさい。すぐ帰ってくるよ。」
ローレライは頭をナデナデしてあげるとちょっと恥ずかしそうに顔を下げた。
さあ、さっさと行こう。
早くしなきゃローレライが風邪ひいちゃうし。
私は駆け足で森に、倉の方に向かった。




ふう、ふう……おかしいな……
もうとっくの昔についてもいいのに、まだ倉にはつかない。
早くしないとローレライ風邪ひいちゃうじゃない。
―――あーもう、これもこの霧の所為だよ!
夜なのにこんなに出なくてもいいじゃない!


――――道間違えちゃったんだよね……多分……
ほんとはもっと前に気づいてたけど……
改めて考えると心細いなぁ……


ローレライが待ってるのに……
あはは……自分の心配しなきゃいけないのかな、こういう場合。
――――道……わからないや。

そんなふうに考えながら、迷って、次に足を踏み出した先には

道は、なかった


軽く、上に引っ張られる感覚。
――――ああ、これで私終わりなんだななんて考えてる自分がいる。
口からは絞り出すような声が出てるのに、やけに頭の中すっきりしてる。

私は、衝撃が来る前に意識の糸を手放した。





――――――!

――――

―――!


あ、なんか泣き声が聞こえる。
お母さん?
ローレライ?
だめ……わたし、まだ眠い……





目を覚ますと、ローレライがわたしを覗きこんでいた。
「あ! 目、覚ましたよ!」
なんでローレライが上に?……ああ、わたし寝てるんだ。
首を回して辺りを見る。
使いこまれたような机、棚に溢れるほど詰めこまれた本、巻物。
古い紙の匂い、墨の匂い、温められる牛乳の匂い。
そこはおねえちゃんの家だった。
「気がついたか。」
おねえちゃんがカップを片手に奥の部屋からやってくる。
「ほら、飲んでおけ。」
ああ、わたしのだったのか。
おねえちゃんからカップを受け取り口をつける。
……ちょっと熱い。
吹いて冷ましながら、ちびちびと飲む。
「危ないところだったぞ。私がいなかったらおまえは今ごろ谷の底だ。」

どうやら、助けてくれたのはおねえちゃんらしかった。

ふらふらと歩く私を見つけた時にはもう落ちる瞬間で、なんとかギリギリで引っ張り上げたという話だった。
ローレライとは私をここに運ぶ途中で、私の帰りが遅いのを心配して探し回っていた所を見つけたらしい。

空っぽになったカップを見つめる。
「まだ要るか?お代わりはまだあるぞ?」
「ん……もういいよ。」
眠ったことと、牛乳を飲んだことで、十分体は休まっていた。
「そろそろ、家に帰らないとまずいよね?」
「いや、ここで寝ててもいいが……」
「おねえちゃんの寝る場所がなくなるでしょ? 私はもう大丈夫だから、家に帰るよ。」
「そうか。まあ、ローレライも一緒なら大丈夫だろう。」
それは、多分妖怪に襲われるとかそういうことなんだろう。
おねえちゃんがこう言うってことはローレライはもう強い妖怪なのかもしれない。




森の中は暗いけど、霧は大分引いたようでだいぶ視界はよくなって

ごん

「お母さん、大丈夫?」
「うー……痛い。」
うーん、まだ本調子じゃないみたい。

「いや、ほんとは大丈夫なんだよ?」
「強がり言っちゃって。ほんとは暗くて、目がほとんど見えないんでしょ?」

「そう…………霧が出てるみたいに。」


………え?


「靄がかかったようで自分が今どこに居るかも、はっきりとはわからないでしょ?」

そう言っているローレライは、私が見たことがないような―――

「わかるわけないよね? ふふっ、おねえちゃんも意外と抜けてるよねー。」

―――ローレライ……だよね。

「なんで自分がこんなことになってるのか、もうわかってるんじゃない?」

―――やめて

「わかってるよね。」

―――いや


「私が原因だよ。お母さん。」


「……嘘、そんなこと――」
ある訳ない、と言う前にローレライは否定を下す。

「嘘なんかじゃないよ。私の歌は―――夜雀の歌はね、人の目を見えなくするの……」
ローレライは歌いながらつぶやく。


哀れな人は踊らされる


「そう、霧がかかったみたいに……」


それはあなた?それは私?


「歌は獲物を引き寄せて、それを私は、食べるのよ……」


霧の歌姫は嘆き悲しむ


「ほら、だんだん見えなくなってくるでしょ?」
すでに私には、ローレライの顔もおぼろげにしか見えない。


神は私で遊んでいるのか


「夜雀は託卵されるのよね。ほら、カッコウとかと一緒。滑稽よね。」


哀れな私をあざ笑うのか


「うふふ、お母さんは、いいお母さんだったよ。」
もう目は何も映さないのに、ぽろぽろと涙が流れる。


涙は霧の中に散る


「―――さようなら」
ころん

すべてを、暗闇が侵す


「そこまでだ。人に仇為す妖怪め。」
突然響いてきたその声は、おねえちゃんの声。
でも、私には見えない。

「――っ! なんであんたがここに!」
ローレライの声は、震えている。
「私が気づいていないと思っていたか? 大人しく人に紛れていればよかったものを……」
「ちっ!」

私の体はローレライの腕に突き飛ばされる。
ごつっという音。
ああ、ほんと今日は気を失ってばっかだ。
もういいよ……このまま覚めないでよ……





「気がついたか。」
ああ、おねえちゃんの声だ。
さっきと同じだね。
じゃあこれは、夢だったのかな?

「ローレライ、は……?」
おねえちゃんは黙って答えない。

「ローレライは……どうしたの?」
少しの空白の後

「……人に害を為す妖怪は――」
「はっきりと言って!」


「…………殺した。」


夢なんて………わかってたのに

「目が見えるようになる前に……いなくなって。」
「…………」





目はとっくの昔に見えるようになってた。
でも、私はここから動くことができないでいる。
山の影から朝日が顔を出し始める。
辺りを照らし始め、木にもたれかかったままの私も照らしていく。

きらり

何かが光った

私はゆっくりと体を動かし、それを手にとってみる。





「お母さん、大丈夫かな?」
「あの子なら……立ち直る。私は嫌われただろうけどな。」
「……ごめんなさい。」
「謝ることはない。ああでもしなければ、今度こそ命を落とすことになっていただろう。」
「……うん、そうだよね。……私、名前なくしちゃったなぁ。」
「ん?」
「もう私、ローレライなんて名乗れないもの。」
「そうか………あの歌の最後の文節でいいんじゃないか? 名前を両方名乗ることなんてまずないだろう。」
「でも……」
「あの子は利口だ。すぐに気付く。」
「……じゃあ、それで。」





私は、気付いた
自分のおろかさに
それを握り締めて、泣いた





「お母さんのペンダントって綺麗だよねー。私もそんなの欲しいなー。」
「だめよ紗霧。これはお母さんの大切なものなの。大切なものはね、その人が持ってるから凄く綺麗なものに見えるのよ。」
「そうなの?」
「うん、そうよ。ほんとはね、これは雀の涙なの。」
「すずめのなみだ?」
「そう。紗霧にも教えてあげる……」



雀の涙はすごく少なくて無いようなものだっていうよね
でもね、それじゃちょっと説明が足りないの

雀の涙は
少ないだけじゃない
それはとても美しく
掛け替えのなく大切なもの

ローレライは何も言いはしなかった
どんな顔をしてるかもわからなかった

でも、これだけで全部わかった

この雀の涙は、霧の中の歌姫の
大切な大切な、私のもう一人の娘の
掛け替えのない涙




やっとこさ完結です。
私の文章力はこんなもんなんだよ。
とか言ってみたくなりますね。
悪かったでも良かったでも言って下さい。喜びます。

とりあえず、私の中のミスティアはこんな感じで今に至ってます。
あえて、人をからかいに行こうと言うところとか、やっぱりそういうところがあるんじゃないかなと。

あ、人狩りサービスタイムとか言ってる(汗
秋霞
http://www.cronos.ne.jp/~syuka/
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コメント



0.1020簡易評価
4.無評価IC削除
出会いと別れを繰り返して、子供は大人になっていく。
切ないです。(つд`)

いいお話でした。お疲れ様です~。
8.無評価名前が無い程度の能力削除
こういった話で(汗 とかは使わないほうがいいと思いますよ?
せっかくのいい話が、それだけで雰囲気が壊れてしまいます。
9.70名前が無い程度の能力削除
これは切ない。面白かったです。
11.60いち読者削除
そう来ましたか。黒い展開ばかり想像していた自分に反省。いやまあ、黒くなりそうな場面で、思わず画面をスクロールさせる手が止まっていたりもしたんですが(←小心者)。
「お母さん」を食べようとしていたローレライは、どんな表情をしていたんでしょうね。笑っていたのか、泣いていたのか。はたまたその両方か。

切ないけれど、前向きな話で良かったです。5話に渡るお話、お疲れ様でした。
12.無評価秋霞削除
おおう、なんかいっぱい来てる!
読んでいただきありがとうございますー。

>こういった話で(汗 とかは使わないほうがいいと思いますよ?
なるほど。確かにシリアスな話には合わないかも(汗

>黒い展開ばかり想像していた自分に反省
あなたのおかげで黒い展開が少し前に出て来ましたヨー。
感謝感謝。
17.80鉛筆削り削除
話の運びが上手いなぁ。夜雀の性格も自分のなかで原作とぴったり合っていました。
結末については言う事ありません。いいお話でした。
27.無評価自転車で流鏑馬削除
けーねもみすちーも大好きだぁー!!!
28.100自転車で流鏑馬削除
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