<序 両儀、二律背反、光と翳>
存在は、
瑣末な事象の隙間に生ずる
「可能性」
の上に存在している。
丁度、
命が
奇跡とも言うべきバランスの上に
成り立っているように。
その際たるものが、
「自分」
である。
何よりも確かで、
それでいて何よりも希薄なもの。
自分の中に何が潜んでいるのかすら分からないまま、
そんな自分を真の「自分」であると認識しているその危うさ。
そして、その自分にも分からないものが、
もし何かのきっかけで
溢れ出たとしたら…。
これは、
その「可能性」が引き起こした、
不思議で暗く、
そして悲しい物語である。
自己同一性の崩壊 No.1―翳― フランドールの場合
Shadow.
I asked her to ,
“Who are you?”
Shadow.
She answers,
“I am you.”
翳は蠢く。
変化に触発され、
堰を切ったように。
自分の中に
押し込められ、
狂気という形で
抑えつけられていた物が、
気持ちが、
(お姉様と一緒にいたかった)
溢れ出す。
(もっとたのしくくらしていたかった)
流れ出す。
(ホントハコンナチカライラナカッタ)
その奔流は
時に狂おしく
時に悲しげで
それを映す翳は
さらに暗く
ヒトの形を成し
そして
名乗る。
「私が真のあなた。あなたの中に押し込められていた本当の―」
<起章 夢想、恐怖、胎動>
最近、日常に変化が現れた。
壊すしか遣い道がなかったモノが
“遊ぶ”事にも使われるようになった。
それは
私、フランドールが
495年間願い、叶わず、いつしか忘れてしまっていたもの。
屋敷の外へ出ようとすれば雨に降られ、
部屋を出ようとすれば何かに止められ。
その変化のきっかけを与えてくれたのは
あの白黒の……。
えー、名前なんだったっけ?
まあ、とにかく。
あの魔女が私のところに来てくれたおかげで
私は
495年間のやり直しができるようになった。
なったはずなのに、
何だろう。
この、言いようの無い「モヤモヤ」は……
「壊す事をやめたからよ」
声が聞こえる。
どこかで聞いた事のある、声だ。
「せっかく出してもらったんだから、495年分“遊ば”なくちゃ」
え?何?
「アイツトカ、アイツトカ、アイツニカリヲカエシテヤラナクチャ」
アイツって、誰?
て言うか、あなた誰?
「私は、…あなたよ。あなたの依って立つ真のフランドール。そうね……昔のあなたかしら?」
どういうこと?
「こう言う事よ」
途端、目の前に何かが現れた。
それは。
「え…!?」
ばらばらになった何かの山。
よく見ると、みんな。
人、人、人、ひと、ヒト。
倒れ伏したまま動かない。
そして、気がつくと、
手が血まみれ。
「あーあ、壊れちゃった……そんなところかしら?」
違う。
今の私はこんなんじゃない。
「昔のあなたはこれが平気だったけど」
違う。
そんな軽い気持ちなんかじゃない。
誰かと話がしたくて。
気持ちを伝えたくて。
気がついたら壊してただけ。
そんなんじゃない。
違う、違う、違う……
「今のあなたじゃ直視できないわよね」
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!!
「だってそうでしょう?今のあなたはもう……」
違うと言っているのに!!
……五月蠅い。
こいつ、なんなんだ!
くそっ、
「五月蠅ーーーーーーーーーいっ!!」
目が覚めた。
どうやら夢を見ていたようだ。
まだ夜は明けていないらしい。
しかし、あれは何だったのかしら。
そう思う私の脳裏を真っ先によぎったのは、
……夥しいヒトの山だった。
今考えると、恐ろしくてしょうがない。
(……ゴメンナサイ……)
涙が頬を伝う。
止まらない。
(……魔理沙…助けて……)
怖い。
なんだか、怖い。
……怖いから、また夢に逃げよう。
<承章 起点、即必然>
幻想郷は、相変わらず平和だった。
多少のいさかいや春の奪い合いや弾幕はあったものの、平和だった。
紅魔館でも、それは同じ。
「おーす、邪魔するぜー」
この声が、それを示していた。
声の主は、霧雨魔理沙。
今日もヴワル魔法図書館に押し入ったところだ。
「ああ、また来たのね…。今日は何を持っていくの?」
「ああ、そろそろ借りてたもん返そうかなって」
「一ヶ月もほったらかしにしといて、よく言うわね。変な奴」
「奇妙とか、奇怪って言ってくれ」
魔理沙は、両手に本を抱えていた。
ヴワル魔法図書館は、殆ど無限に近い蔵書を二人だけで管理している、ある意味異常とも言える図書館である。
そもそも幻想郷には、そんな言葉は無いに等しいのだが。
「一ヶ月借りっぱなしだったから、罰。自分で片付けてきなさい」
「へいへい」
特に悪びれる様子もなく、本の森へと消えていく魔理沙。
その後ろ姿に、パチュリーは溜息をひとつ。
疲れ、呆れ、感心、そして少しだけ、喜び。
さまざまな感情がミックスされたものである。
彼女―魔理沙がここに来るようになってから、暇をもてあますと言っても差し支えない日常が、変化を見せていた。
初めは少し。
今では、殆ど劇的に。
その「変化」を与えてくれた事には、感謝しているのだ。
「これで本を期日までに返してくれれば、言う事無しなのに…」
パチュリーは一人ごちる。もちろん、この広さもあって、聞こえよう筈も無い。
所変わって、魔理沙。
「くそっ…と、取れない…」
「歴史書」のカテゴリの本棚と格闘中であった。
精一杯手を伸ばしても、届かない。
そこで、本を数冊積み上げ、その上に乗って取ろうとしているのだ。
しかし、それでも届かない。
「ぬおおぉぉぉ…」
精一杯手を伸ばす。
すでにつま先立ちだ。
「~~~~」
そして。
(と、届い…)
その本―「魔法を人が使えない訳-歴史的観点から読む-」―に指先が引っかかる。
次の瞬間。
(たっ!?)
―ズドドド、ドガラガガラ、ドサドサドサッ!!
「うおあぁぁぁっ!?」
崩れた。
下が崩れれば、当然上に乗っているものは落ちてくる。
例え、それが人であっても。
一瞬見えた尻餅をつく魔理沙の姿は、上から降ってくる本に埋もれて見えなくなってしまった。
……しばしの間。
「……ぶはあっ!!」
魔理沙が顔を出す。
手には、さっきの本がしっかりと握られていた。
「ふぅ~、と、取れたぁ…」
本をかき分けかき分け、人一人分のスペースを作って立ち上がる。
「さーて、片付けますか、この本取るのに助力してくれた感謝を込めて…」
と。
その本の中に一冊、変な本を見つけた。
見かけは豪華なのだが、ちょっと異質な本であった。
雰囲気が違うと言うか、本にこめられた言葉の魔力の属性が違うと言うか。
いつもなら気にも留めていないのだが、今日はいつに無く、それが気になった。
何かに引き寄せられるように、その本を手に取る。
「題名が…ない?」
題名が書いていない。
小さく名前が箔押ししてあるだけで、それ以外は何も無い。
自然と表紙に指がかかる。
そして、右手の指先が表紙に触れたその瞬間。
―ぞくっ!!
「何か」が、彼女を侵食し始めた。
(表紙を開け)
「……な、なんだ?」
見てはいけない。
見てはいけない。
本能が警告する。
(表紙を開け)
それでも、「何か」は執拗に、魔理沙に本を開く事を強要する。
(表紙を開け)
本能が、また警告。
しかし、「何か」は、それをも上回る強さで、魔理沙に衝動を与えた。
この本が読みたい―と言う名の。
「何なんだ……この本は?」
心に生じる幽かなモヤモヤ。
それは、
(表紙を開け、)
次第に興味へと。
(表紙を開け!)
次第に衝動へと。
(表紙を開け!!)
こればかりは、本能も逆らえなかった。
そして、
魔理沙は、
パンドラの箱を、
―開けた。
そこに書かれていたのは、文字ではなかった。
文字で書かれてはいたが、記されていたのはそんな生半可なものでは、無かった。
視覚化された、「情報」。
魔理沙が文字を目で追うよりも速く、
理解するよりも早く。
それは魔理沙の頭へと直接、送り込まれてゆく。
そんな感じだった。
読むと言うより、「分かる」。
見ると言うより、「視る」。
猛烈なスピードで入ってくる情報は、予め整理された形で脳に収められ、自分で理解するより先に「理解させ」て行く。
それは、生々しい映像とでも言おうか。
あるいは阿鼻叫喚。
あるいは凄まじい弾幕。
あるいは悲しい葬送。
そして、見覚えのあるシルエット。
(何なんだ、この本は?)
本を片付けるのも忘れ、「読み耽る」こと四半時。
「……さて、これで終わりだな」
ちゃんと終いまで読みきってから、周りに散らばった本を元通りに戻す。
そして本を「二冊」抱えてパチュリーの所へ戻った。
「あら、今日は一冊だけ?」
「?」
小脇に抱えた本を見てパチュリーが行った一言に、魔理沙は目を丸くした。
「え?いや、これ二冊に見えないか?」
持っている本を確認。
二冊ある。
「目でも疲れているんじゃない?どう見ても一冊よ」
「そ…そうか…」
「今度は必ず二週間以内に返しに来なさいよ」
「あ、ああ…」
顔が青ざめるのを隠すようにして、魔理沙はそそくさと図書館を後にした。
「どういうことだ?」
紅魔館ロビー。
今は昼休みなのか、誰もいない。
それをいいことに一人呟く。
1000ページもある本なのにも関わらず、パチュリーには認識されていなかった。
この本には、人間にしか見られないような仕掛けでも施されているのだろうか。
いや、だったらあんなところにあるはずが無い。
だとしたら。
「なぜ…私に見えた?」
何か見るために必要な物でもあるのだろうか。
現在の持ち物を確認。
移動用の箒(最近枝が開いてきた)、汎用魔符五枚、恋符が三枚。
あとは帽子と、いつもの服。
特別なものは何一つ持ち合わせていない。
「何なんだ、この本は?」
と。
「あら、なに独り言言ってるのかしら」
「うをぉっ!?」
背後から聞こえてきた、聞き覚えのある、それでいてあまり感情のこもっていない声に、魔理沙は飛び上がった。
十六夜咲夜。
幻想郷最強のメイドである。
……多分。
「どうしたの、いつもの魔理沙らしくも無い」
「私ゃいつでも普通だぜ」
「で、何?」
「あー?」
「なんか本について考えてたんじゃないの?」
「あー……、あぁ、これなんだよ」
先程のパチュリーに見えなかった本を見せた。
「ん?題名が無いわね…」
咲夜には見えているようだ。
咲夜に見えないように小さく溜息。
「グリモワールにしては厚すぎるし、何より大きいわね……中身は?」
「叙事詩……とでも言えばいいかな?」
「開けてみるわよ」
表紙を開く。
一瞬、咲夜のきれいな指に目が行き、そして。
「あれ?前書きなんてあったのか?」
さっきは目に入らなかった、前書きが出てきた。
字もここだけは手書きのようにも見える。
そして、かなりの達筆だ。
「読める?」
「ああ…」
初めて見る字のはずなのに、魔理沙はそれが読めた。
どう言う訳か、読めてしまった。
「この本を読むのなら、私は一つ、あなたに大事な事を伝えなければいけない。
それは、この本が『パンドラの箱』であると言う事だ。
この一言を聞いて、何らかのためらいが生じたなら、今すぐこの本を閉じる事をお勧めする。
そして、それを踏まえた上で敢えて読むのであれば、必ず途中で止めず、最後まで読んでもらいたい。
それにはいくつかの訳があるのだが……」
丁寧に説明されていた。
叙事詩の体裁をとってはいるが、これは歴史書であると言う事。
そして、スカーレット家の今までに判明している歴史が全て記されている事。
などなど。
「……そして、この本を最後まで読みきったなら、あなたの手にはきっと『希望』が握られている事だろう……」
「パンドラの箱だけに、か……」
「……レミリア・スカーレ……ット……」
「……レミリア……」
一瞬の間。
「「!?」」
そこに記されていた名前に、二人は驚く。
なんと。
現紅魔館の主の名だったのだ。
「レミリア様の名…!?」
「いったいこいつぁ……」
ということは、これはレミリアが過去に記したものであると言う事なのか。
まあ、彼女は少女とでも言うべきなりで500年も生きているのだから、本の一冊や二冊書いたって不思議ではない。
咲夜が来るまでは、きっと退屈な毎日があったのだろう。
その間に書いたものだと考えれば、一応の説明はつく。
しかし、である。
「なぁ」
「?」
「あいつが何か書いてるの、見た事あるか?」
「4、いや5回ぐらいかしら。あんまりお嬢様の書斎に入ることはないし…」
高が4、5回書いたぐらいでこんな厚い本が出来上がるはずが無い。
では、いつ?
と。
「あら?魔理沙じゃない。何時来たの?」
その「あいつ」が、やって来た。
…暗転。
―最近、体調が思わしくない。
そんなに心配するほどではないのだけど、なんだか体がだるくなる。
あの夢の日から、定期的に。
しばらくするとだるさは抜ける。
でも、日に日にその時間は長くなる。
その後、心に残るモヤモヤ。
まるで何かが抜け落ちたような感覚。
自分では何も考えていないのに、その穴を埋めようとする。
何が自分を突き動かしているのか、それは分からないけど。
なんなのだろう。
こうやってモヤモヤを抱えたまま生きる自分は。
一体、何が足りないと言うのだろう―
…暗転。
「あ、お嬢様…」
「パチェが愚痴ってたわ。もう、こっちにも挨拶に来ればよかっ……」
そして、魔理沙の持つ本に目を留める。
その目が、見開かれた。
「……その本、見えてるの?」
「ああ、一字一句もらさず、全てまるっとどこまでも、な」
少し厳しい顔になるレミリア。
機嫌が悪いと言うわけではないようだ。
言うか言わざるか、何かを迷っているような……。
そして、再び口を開く。
「フランドールの事、書いてあったでしょう?」
「あー?“溜め込まれしその力、狂気と幼さで縛りつけ……”ってくだりかい?」
「ええ、それよ」
「ありゃあ、アイツの事だったのか。だったら……大変だな」
その言葉を聴くと、今度はほっとしたような顔をする。
「相談相手ができて、助かったわ。実は……」
そして、魔理沙に耳打ち。
今度は、魔理沙が驚きに目を見開いた。
「―――なのよ」
「……なんだって!?それじゃ、私がそのきっかけを?」
「ええ。だって――――――なんですもの」
「ま、マジかよ……それじゃ、急いで善後策を…」
「今のところその兆しはないから、何とも言えないし、動きようがないわ」
「でも、そりゃあまずいだろ……」
「まぁ、ね」
咲夜は話についてこれていない。
「どうしたの?なんかいろいろゴニョゴニョと……」
「あー、」
ちらりとレミリアを見る。
彼女が頷いたのを確認してから、
「フラン、最近調子悪い事が多いんだとさ」
言った。
「え?」
そんな事知らない。
咲夜の目が、そう語る。
魔理沙がまた口を開く。
その目の意味は知ってか知らずか。
「まぁ、風邪かなんかだろ。吸血鬼が本格的に病気する事はそれこそ病的に少ないからな」
「矛盾してない?」
「まぁ、気にすんな」
そう言う魔理沙の目が、ほんの一瞬、ほんの僅か泳いだのを、咲夜は見逃さなかった。
「150年前!?」
「ええ。ちょっとお遊びで書いてみたものなんだけど……」
レミリアも加え、三人で歓談を開始。
咲夜はさっきからちらちらと魔理沙に視線を送っている。
対象は気づいていないが。
「お遊びにしちゃあ厚いぜ、持ち運びにも苦労する」
「だから“お遊び”なの」
とんだ遊びだぜ。
魔理沙は肩をすくめる。
単純計算、350年間である。
物を書けるようになるまでの時間は少々あった筈だから、
いくらか差し引いても、それだけの長さの文章を書く事は、そんなに簡単ではない。
「まあ、パチェが来るまでは暇な時間も多かったし、その間に書き溜めていたものを纏めただけなんだけど」
(それにしては深刻すぎるぜ…内容がな)
「でも、何を書かれていらしたのですか?」
「歴史よ。350年分……いや、345年かしらね」
「随分と暇を持て余してたようだな」
「ええ……」
ちょっとため息。
思い出さるるは穴だらけの過去。
まぁ、過去に執着するたちでもないし、それを思い出しても何の感傷もわかないのだが。
「それにしても達筆な字だなぁ、これ。お前にこんな腕があるとは思わなかっ……」
―ドガン。
本が、読者に逆襲。
1000ページの威力はさすがに強烈だったようで。
魔理沙はテーブルに突っ伏した。
「なんか言ったかしら?」
……言ってません、言ってませんよ、何にもな……。
口の中で毒づく。
気付かれないように、気をつけつつ。
「それにしても、なぜそんなものを?」
「そりゃあ、暇潰しに決まってるじゃない。私は文章を書くのは好きじゃないの」
……咲夜は、それ以上聞くのをやめた。
去り際、魔理沙はレミリアに呼び止められた。
咲夜は仕事に戻ったため、ここには二人きりである。
「魔理沙……」
「…あー、この事なら心配すんな。この文字が読めるのは私とアリスぐらいのもんだ。ほかの奴にはわからねぇ」
「もしコトが起こったら……」
「そん時は、」
箒にまたがる。
そして振り向いた顔は、真顔。
「私がなんとかする」
そして、飛び去っていった。
背中が、なんだか悲壮な決意を思わせる……なんだかそんな感じで。
レミリアも一度だけ嘆息すると、踵を返した。
<幕間 現出>
影より暗き、翳の体
今、外へ出ようとあがき
熱い。
熱い。
熱い。
それは、いきなり私を襲った。
何かが私の中で暴れている。
影より暗き、翳の体
今、外へ這い出し
何かが、私から急速に失われていく。
感じるのは。
僅かの驚きと。
僅かの恐れと。
僅かの安心感と。
残った分の
……戸惑い。
影より暗き、翳の体
今、ヒトの形を成し
足元がはっきりしない。
ふわふわ浮いているような感覚。
「フランドール!?」
ああ、姉さまの声が聞こえる。
ねえ、教えて
わたし、
いま、
なにをしてるの?
影より暗き、翳の体
今、闇に潜み
運命は、時に残酷だ。
こんな形でモーメントを生み出し
ヒトは
その渦に
ただ
飲み込まれてゆくばかり。
レミリアは、焦った。
フランドールを抱え、部屋へと走る。
「誰かいる!?」
叫びに答えるものは、ない。
それもその筈だ。
自分では言ったつもりだったが、
声になっていなかったのだから……
果たして、
フランドールは、役者に仕立て上げられた。
そして、
いまだ出ぬ月は
劇場の舞台を
用意した。
――舞台の幕が、上がる。
舞台に足を踏み入れるは、モノクロの魔術師。
存在は、
瑣末な事象の隙間に生ずる
「可能性」
の上に存在している。
丁度、
命が
奇跡とも言うべきバランスの上に
成り立っているように。
その際たるものが、
「自分」
である。
何よりも確かで、
それでいて何よりも希薄なもの。
自分の中に何が潜んでいるのかすら分からないまま、
そんな自分を真の「自分」であると認識しているその危うさ。
そして、その自分にも分からないものが、
もし何かのきっかけで
溢れ出たとしたら…。
これは、
その「可能性」が引き起こした、
不思議で暗く、
そして悲しい物語である。
自己同一性の崩壊 No.1―翳― フランドールの場合
Shadow.
I asked her to ,
“Who are you?”
Shadow.
She answers,
“I am you.”
翳は蠢く。
変化に触発され、
堰を切ったように。
自分の中に
押し込められ、
狂気という形で
抑えつけられていた物が、
気持ちが、
(お姉様と一緒にいたかった)
溢れ出す。
(もっとたのしくくらしていたかった)
流れ出す。
(ホントハコンナチカライラナカッタ)
その奔流は
時に狂おしく
時に悲しげで
それを映す翳は
さらに暗く
ヒトの形を成し
そして
名乗る。
「私が真のあなた。あなたの中に押し込められていた本当の―」
<起章 夢想、恐怖、胎動>
最近、日常に変化が現れた。
壊すしか遣い道がなかったモノが
“遊ぶ”事にも使われるようになった。
それは
私、フランドールが
495年間願い、叶わず、いつしか忘れてしまっていたもの。
屋敷の外へ出ようとすれば雨に降られ、
部屋を出ようとすれば何かに止められ。
その変化のきっかけを与えてくれたのは
あの白黒の……。
えー、名前なんだったっけ?
まあ、とにかく。
あの魔女が私のところに来てくれたおかげで
私は
495年間のやり直しができるようになった。
なったはずなのに、
何だろう。
この、言いようの無い「モヤモヤ」は……
「壊す事をやめたからよ」
声が聞こえる。
どこかで聞いた事のある、声だ。
「せっかく出してもらったんだから、495年分“遊ば”なくちゃ」
え?何?
「アイツトカ、アイツトカ、アイツニカリヲカエシテヤラナクチャ」
アイツって、誰?
て言うか、あなた誰?
「私は、…あなたよ。あなたの依って立つ真のフランドール。そうね……昔のあなたかしら?」
どういうこと?
「こう言う事よ」
途端、目の前に何かが現れた。
それは。
「え…!?」
ばらばらになった何かの山。
よく見ると、みんな。
人、人、人、ひと、ヒト。
倒れ伏したまま動かない。
そして、気がつくと、
手が血まみれ。
「あーあ、壊れちゃった……そんなところかしら?」
違う。
今の私はこんなんじゃない。
「昔のあなたはこれが平気だったけど」
違う。
そんな軽い気持ちなんかじゃない。
誰かと話がしたくて。
気持ちを伝えたくて。
気がついたら壊してただけ。
そんなんじゃない。
違う、違う、違う……
「今のあなたじゃ直視できないわよね」
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!!
「だってそうでしょう?今のあなたはもう……」
違うと言っているのに!!
……五月蠅い。
こいつ、なんなんだ!
くそっ、
「五月蠅ーーーーーーーーーいっ!!」
目が覚めた。
どうやら夢を見ていたようだ。
まだ夜は明けていないらしい。
しかし、あれは何だったのかしら。
そう思う私の脳裏を真っ先によぎったのは、
……夥しいヒトの山だった。
今考えると、恐ろしくてしょうがない。
(……ゴメンナサイ……)
涙が頬を伝う。
止まらない。
(……魔理沙…助けて……)
怖い。
なんだか、怖い。
……怖いから、また夢に逃げよう。
<承章 起点、即必然>
幻想郷は、相変わらず平和だった。
多少のいさかいや春の奪い合いや弾幕はあったものの、平和だった。
紅魔館でも、それは同じ。
「おーす、邪魔するぜー」
この声が、それを示していた。
声の主は、霧雨魔理沙。
今日もヴワル魔法図書館に押し入ったところだ。
「ああ、また来たのね…。今日は何を持っていくの?」
「ああ、そろそろ借りてたもん返そうかなって」
「一ヶ月もほったらかしにしといて、よく言うわね。変な奴」
「奇妙とか、奇怪って言ってくれ」
魔理沙は、両手に本を抱えていた。
ヴワル魔法図書館は、殆ど無限に近い蔵書を二人だけで管理している、ある意味異常とも言える図書館である。
そもそも幻想郷には、そんな言葉は無いに等しいのだが。
「一ヶ月借りっぱなしだったから、罰。自分で片付けてきなさい」
「へいへい」
特に悪びれる様子もなく、本の森へと消えていく魔理沙。
その後ろ姿に、パチュリーは溜息をひとつ。
疲れ、呆れ、感心、そして少しだけ、喜び。
さまざまな感情がミックスされたものである。
彼女―魔理沙がここに来るようになってから、暇をもてあますと言っても差し支えない日常が、変化を見せていた。
初めは少し。
今では、殆ど劇的に。
その「変化」を与えてくれた事には、感謝しているのだ。
「これで本を期日までに返してくれれば、言う事無しなのに…」
パチュリーは一人ごちる。もちろん、この広さもあって、聞こえよう筈も無い。
所変わって、魔理沙。
「くそっ…と、取れない…」
「歴史書」のカテゴリの本棚と格闘中であった。
精一杯手を伸ばしても、届かない。
そこで、本を数冊積み上げ、その上に乗って取ろうとしているのだ。
しかし、それでも届かない。
「ぬおおぉぉぉ…」
精一杯手を伸ばす。
すでにつま先立ちだ。
「~~~~」
そして。
(と、届い…)
その本―「魔法を人が使えない訳-歴史的観点から読む-」―に指先が引っかかる。
次の瞬間。
(たっ!?)
―ズドドド、ドガラガガラ、ドサドサドサッ!!
「うおあぁぁぁっ!?」
崩れた。
下が崩れれば、当然上に乗っているものは落ちてくる。
例え、それが人であっても。
一瞬見えた尻餅をつく魔理沙の姿は、上から降ってくる本に埋もれて見えなくなってしまった。
……しばしの間。
「……ぶはあっ!!」
魔理沙が顔を出す。
手には、さっきの本がしっかりと握られていた。
「ふぅ~、と、取れたぁ…」
本をかき分けかき分け、人一人分のスペースを作って立ち上がる。
「さーて、片付けますか、この本取るのに助力してくれた感謝を込めて…」
と。
その本の中に一冊、変な本を見つけた。
見かけは豪華なのだが、ちょっと異質な本であった。
雰囲気が違うと言うか、本にこめられた言葉の魔力の属性が違うと言うか。
いつもなら気にも留めていないのだが、今日はいつに無く、それが気になった。
何かに引き寄せられるように、その本を手に取る。
「題名が…ない?」
題名が書いていない。
小さく名前が箔押ししてあるだけで、それ以外は何も無い。
自然と表紙に指がかかる。
そして、右手の指先が表紙に触れたその瞬間。
―ぞくっ!!
「何か」が、彼女を侵食し始めた。
(表紙を開け)
「……な、なんだ?」
見てはいけない。
見てはいけない。
本能が警告する。
(表紙を開け)
それでも、「何か」は執拗に、魔理沙に本を開く事を強要する。
(表紙を開け)
本能が、また警告。
しかし、「何か」は、それをも上回る強さで、魔理沙に衝動を与えた。
この本が読みたい―と言う名の。
「何なんだ……この本は?」
心に生じる幽かなモヤモヤ。
それは、
(表紙を開け、)
次第に興味へと。
(表紙を開け!)
次第に衝動へと。
(表紙を開け!!)
こればかりは、本能も逆らえなかった。
そして、
魔理沙は、
パンドラの箱を、
―開けた。
そこに書かれていたのは、文字ではなかった。
文字で書かれてはいたが、記されていたのはそんな生半可なものでは、無かった。
視覚化された、「情報」。
魔理沙が文字を目で追うよりも速く、
理解するよりも早く。
それは魔理沙の頭へと直接、送り込まれてゆく。
そんな感じだった。
読むと言うより、「分かる」。
見ると言うより、「視る」。
猛烈なスピードで入ってくる情報は、予め整理された形で脳に収められ、自分で理解するより先に「理解させ」て行く。
それは、生々しい映像とでも言おうか。
あるいは阿鼻叫喚。
あるいは凄まじい弾幕。
あるいは悲しい葬送。
そして、見覚えのあるシルエット。
(何なんだ、この本は?)
本を片付けるのも忘れ、「読み耽る」こと四半時。
「……さて、これで終わりだな」
ちゃんと終いまで読みきってから、周りに散らばった本を元通りに戻す。
そして本を「二冊」抱えてパチュリーの所へ戻った。
「あら、今日は一冊だけ?」
「?」
小脇に抱えた本を見てパチュリーが行った一言に、魔理沙は目を丸くした。
「え?いや、これ二冊に見えないか?」
持っている本を確認。
二冊ある。
「目でも疲れているんじゃない?どう見ても一冊よ」
「そ…そうか…」
「今度は必ず二週間以内に返しに来なさいよ」
「あ、ああ…」
顔が青ざめるのを隠すようにして、魔理沙はそそくさと図書館を後にした。
「どういうことだ?」
紅魔館ロビー。
今は昼休みなのか、誰もいない。
それをいいことに一人呟く。
1000ページもある本なのにも関わらず、パチュリーには認識されていなかった。
この本には、人間にしか見られないような仕掛けでも施されているのだろうか。
いや、だったらあんなところにあるはずが無い。
だとしたら。
「なぜ…私に見えた?」
何か見るために必要な物でもあるのだろうか。
現在の持ち物を確認。
移動用の箒(最近枝が開いてきた)、汎用魔符五枚、恋符が三枚。
あとは帽子と、いつもの服。
特別なものは何一つ持ち合わせていない。
「何なんだ、この本は?」
と。
「あら、なに独り言言ってるのかしら」
「うをぉっ!?」
背後から聞こえてきた、聞き覚えのある、それでいてあまり感情のこもっていない声に、魔理沙は飛び上がった。
十六夜咲夜。
幻想郷最強のメイドである。
……多分。
「どうしたの、いつもの魔理沙らしくも無い」
「私ゃいつでも普通だぜ」
「で、何?」
「あー?」
「なんか本について考えてたんじゃないの?」
「あー……、あぁ、これなんだよ」
先程のパチュリーに見えなかった本を見せた。
「ん?題名が無いわね…」
咲夜には見えているようだ。
咲夜に見えないように小さく溜息。
「グリモワールにしては厚すぎるし、何より大きいわね……中身は?」
「叙事詩……とでも言えばいいかな?」
「開けてみるわよ」
表紙を開く。
一瞬、咲夜のきれいな指に目が行き、そして。
「あれ?前書きなんてあったのか?」
さっきは目に入らなかった、前書きが出てきた。
字もここだけは手書きのようにも見える。
そして、かなりの達筆だ。
「読める?」
「ああ…」
初めて見る字のはずなのに、魔理沙はそれが読めた。
どう言う訳か、読めてしまった。
「この本を読むのなら、私は一つ、あなたに大事な事を伝えなければいけない。
それは、この本が『パンドラの箱』であると言う事だ。
この一言を聞いて、何らかのためらいが生じたなら、今すぐこの本を閉じる事をお勧めする。
そして、それを踏まえた上で敢えて読むのであれば、必ず途中で止めず、最後まで読んでもらいたい。
それにはいくつかの訳があるのだが……」
丁寧に説明されていた。
叙事詩の体裁をとってはいるが、これは歴史書であると言う事。
そして、スカーレット家の今までに判明している歴史が全て記されている事。
などなど。
「……そして、この本を最後まで読みきったなら、あなたの手にはきっと『希望』が握られている事だろう……」
「パンドラの箱だけに、か……」
「……レミリア・スカーレ……ット……」
「……レミリア……」
一瞬の間。
「「!?」」
そこに記されていた名前に、二人は驚く。
なんと。
現紅魔館の主の名だったのだ。
「レミリア様の名…!?」
「いったいこいつぁ……」
ということは、これはレミリアが過去に記したものであると言う事なのか。
まあ、彼女は少女とでも言うべきなりで500年も生きているのだから、本の一冊や二冊書いたって不思議ではない。
咲夜が来るまでは、きっと退屈な毎日があったのだろう。
その間に書いたものだと考えれば、一応の説明はつく。
しかし、である。
「なぁ」
「?」
「あいつが何か書いてるの、見た事あるか?」
「4、いや5回ぐらいかしら。あんまりお嬢様の書斎に入ることはないし…」
高が4、5回書いたぐらいでこんな厚い本が出来上がるはずが無い。
では、いつ?
と。
「あら?魔理沙じゃない。何時来たの?」
その「あいつ」が、やって来た。
…暗転。
―最近、体調が思わしくない。
そんなに心配するほどではないのだけど、なんだか体がだるくなる。
あの夢の日から、定期的に。
しばらくするとだるさは抜ける。
でも、日に日にその時間は長くなる。
その後、心に残るモヤモヤ。
まるで何かが抜け落ちたような感覚。
自分では何も考えていないのに、その穴を埋めようとする。
何が自分を突き動かしているのか、それは分からないけど。
なんなのだろう。
こうやってモヤモヤを抱えたまま生きる自分は。
一体、何が足りないと言うのだろう―
…暗転。
「あ、お嬢様…」
「パチェが愚痴ってたわ。もう、こっちにも挨拶に来ればよかっ……」
そして、魔理沙の持つ本に目を留める。
その目が、見開かれた。
「……その本、見えてるの?」
「ああ、一字一句もらさず、全てまるっとどこまでも、な」
少し厳しい顔になるレミリア。
機嫌が悪いと言うわけではないようだ。
言うか言わざるか、何かを迷っているような……。
そして、再び口を開く。
「フランドールの事、書いてあったでしょう?」
「あー?“溜め込まれしその力、狂気と幼さで縛りつけ……”ってくだりかい?」
「ええ、それよ」
「ありゃあ、アイツの事だったのか。だったら……大変だな」
その言葉を聴くと、今度はほっとしたような顔をする。
「相談相手ができて、助かったわ。実は……」
そして、魔理沙に耳打ち。
今度は、魔理沙が驚きに目を見開いた。
「―――なのよ」
「……なんだって!?それじゃ、私がそのきっかけを?」
「ええ。だって――――――なんですもの」
「ま、マジかよ……それじゃ、急いで善後策を…」
「今のところその兆しはないから、何とも言えないし、動きようがないわ」
「でも、そりゃあまずいだろ……」
「まぁ、ね」
咲夜は話についてこれていない。
「どうしたの?なんかいろいろゴニョゴニョと……」
「あー、」
ちらりとレミリアを見る。
彼女が頷いたのを確認してから、
「フラン、最近調子悪い事が多いんだとさ」
言った。
「え?」
そんな事知らない。
咲夜の目が、そう語る。
魔理沙がまた口を開く。
その目の意味は知ってか知らずか。
「まぁ、風邪かなんかだろ。吸血鬼が本格的に病気する事はそれこそ病的に少ないからな」
「矛盾してない?」
「まぁ、気にすんな」
そう言う魔理沙の目が、ほんの一瞬、ほんの僅か泳いだのを、咲夜は見逃さなかった。
「150年前!?」
「ええ。ちょっとお遊びで書いてみたものなんだけど……」
レミリアも加え、三人で歓談を開始。
咲夜はさっきからちらちらと魔理沙に視線を送っている。
対象は気づいていないが。
「お遊びにしちゃあ厚いぜ、持ち運びにも苦労する」
「だから“お遊び”なの」
とんだ遊びだぜ。
魔理沙は肩をすくめる。
単純計算、350年間である。
物を書けるようになるまでの時間は少々あった筈だから、
いくらか差し引いても、それだけの長さの文章を書く事は、そんなに簡単ではない。
「まあ、パチェが来るまでは暇な時間も多かったし、その間に書き溜めていたものを纏めただけなんだけど」
(それにしては深刻すぎるぜ…内容がな)
「でも、何を書かれていらしたのですか?」
「歴史よ。350年分……いや、345年かしらね」
「随分と暇を持て余してたようだな」
「ええ……」
ちょっとため息。
思い出さるるは穴だらけの過去。
まぁ、過去に執着するたちでもないし、それを思い出しても何の感傷もわかないのだが。
「それにしても達筆な字だなぁ、これ。お前にこんな腕があるとは思わなかっ……」
―ドガン。
本が、読者に逆襲。
1000ページの威力はさすがに強烈だったようで。
魔理沙はテーブルに突っ伏した。
「なんか言ったかしら?」
……言ってません、言ってませんよ、何にもな……。
口の中で毒づく。
気付かれないように、気をつけつつ。
「それにしても、なぜそんなものを?」
「そりゃあ、暇潰しに決まってるじゃない。私は文章を書くのは好きじゃないの」
……咲夜は、それ以上聞くのをやめた。
去り際、魔理沙はレミリアに呼び止められた。
咲夜は仕事に戻ったため、ここには二人きりである。
「魔理沙……」
「…あー、この事なら心配すんな。この文字が読めるのは私とアリスぐらいのもんだ。ほかの奴にはわからねぇ」
「もしコトが起こったら……」
「そん時は、」
箒にまたがる。
そして振り向いた顔は、真顔。
「私がなんとかする」
そして、飛び去っていった。
背中が、なんだか悲壮な決意を思わせる……なんだかそんな感じで。
レミリアも一度だけ嘆息すると、踵を返した。
<幕間 現出>
影より暗き、翳の体
今、外へ出ようとあがき
熱い。
熱い。
熱い。
それは、いきなり私を襲った。
何かが私の中で暴れている。
影より暗き、翳の体
今、外へ這い出し
何かが、私から急速に失われていく。
感じるのは。
僅かの驚きと。
僅かの恐れと。
僅かの安心感と。
残った分の
……戸惑い。
影より暗き、翳の体
今、ヒトの形を成し
足元がはっきりしない。
ふわふわ浮いているような感覚。
「フランドール!?」
ああ、姉さまの声が聞こえる。
ねえ、教えて
わたし、
いま、
なにをしてるの?
影より暗き、翳の体
今、闇に潜み
運命は、時に残酷だ。
こんな形でモーメントを生み出し
ヒトは
その渦に
ただ
飲み込まれてゆくばかり。
レミリアは、焦った。
フランドールを抱え、部屋へと走る。
「誰かいる!?」
叫びに答えるものは、ない。
それもその筈だ。
自分では言ったつもりだったが、
声になっていなかったのだから……
果たして、
フランドールは、役者に仕立て上げられた。
そして、
いまだ出ぬ月は
劇場の舞台を
用意した。
――舞台の幕が、上がる。
舞台に足を踏み入れるは、モノクロの魔術師。
続きに期待……続きますよね?
・・・ここにこんなもの(横バー)は無かったと思いますよ。
まぁ、仕様なら取り消しますか。
本文ですが、結構新鮮な感じですね。フランはそれなりに悪な描き方が出来るんですが、実際書いたのはあまり…
期待してますー