東方シリーズ二次創作
『東方神魔譚』
シナリオ1 『出会いと、能力と、開幕と・・・』
人間界と幻想郷の境い目にある博麗神社。
春を迎えた神社で、博麗霊夢は掃除に精を出していた。といっても、どことなくいい加減な掃除の仕方だ。
「ふう、一段落したし、お茶でも飲もうかしら」
一段落には程遠い境内を気にする事無く、霊夢はお茶を淹れに台所へと向かう。手際よく準備を終え、いつものお茶と茶菓子を持って縁側へと向かう。
するとそこには、見慣れない光景が広がっていた。
広がっていたと言っても、そんな大げさなものではない。ただ、参拝客など来ない博麗神社の賽銭箱の前に、一人の人間が立っているだけだった。
「珍しいわね。結界の歪みをくぐって来たのかしら」
人間界と幻想郷とを分かつ、博麗大結界。過去は妖怪が人間界へ行くのを防ぐ為、今では人間が幻想郷に迷い込むのを防ぐ為のものである。だが、その結界も稀に歪みを造る。運悪くその歪みの中を通ってきた人間が、こうして博麗神社に辿り着くのだ。
そして霊夢は、博麗神社に辿り着いた人間を人間界へと追い返したり、妖怪が人間界へ行かない様に監視していたりする。
「ちょっと、あなた。ここで参拝しても御利益ないわよ」
「はい?」
霊夢は当然のように参拝者に声を掛ける。迷い込んだだけの普通の人間なら追い返す、それ以外だったら放っておく。
「ここの神社の方ですか?」
「ええ、そうよ。」
「でしたら少しお尋ねしたいのですけど・・・よろしいでしょうか?」
霊夢は、意外なほどの礼儀正しさに面を食らった。なにしろ幻想郷の連中は、礼儀と言うものに今一つ掛ける者達ばかりだからだ。
この礼儀正しい少年は、自分と同じ位の年だろうか(見た目年齢)。
少し長めの白髪。やや垂れ目で、人懐っこそうな紫の瞳。背は自分より10cmくらい大きいだろうか。そして、幻想郷では考えられない物腰の柔らかさ。最後に、よく解らない不思議な雰囲気。
とりあえず解った事は、初対面の者に良い印象を与えると言うことだ。
「いいわよ、答えられることなら」
「あのですね・・・・・ここは幻想郷なのでしょうか?」
「ええ、そうよ。ここから先が幻想郷」
少年の言葉から察するに、目的地はここなのだろう。見たところ何らかの力を持っている様だし、通しても問題ないと思う。
霊夢はそう判断して、会話を続ける。
「あなた、幻想郷に用があるの?」
「はい。しばらくは幻想郷で暮らしてみようかと思いまして」
今の今まで気付かなかったが、少年の足元には大きなバックが置かれている。おそらく日用品が入っているのだろう。
どうやらこの少年は、本気で幻想郷に居つくつもりらしい。
「しばらくって、どれくらい?」
「そうですね・・・・・とりあえず、答えが見つかるまで、ですかね」
「答え?」
「はい。人間の方に聞いても仕方が無いかと思いまして・・・ですから、今度は妖怪の方に聞いてみようかと」
「そうなの・・・」
これ以上は詮索するつもりは無い。したくはないし、されたくは無いだろうから。力を持った人間が幻想郷に来る理由は、そう多くは無いのだから。
「じゃあ、あなたは別に急いでいる訳じゃないのね」
「はい。とりあえずは腰を落ち着ける場所でも探そうかと思っています」
「だったらお茶に付き合わない?丁度休憩しようと思ってた所なの」
「よろしいんですか?」
「ええ。一人で飲むよりは退屈しないでしょ」
「・・・では、お言葉に甘えさせていただきます」
霊夢は、その返事に頷くと、少年の前をいつもの様に歩いていった。少年も、警戒することも無く黙ってついて行く。
「そうだわ。私の名前は霊夢、博麗霊夢。あなたは?」
「・・・羅刹。・・・響羅刹です」
「羅刹、ね。羅刹はこれから向かう所は決めてるの?」
「いいえ。適当に気の向くままに歩いて行って、日が暮れそうになったら雨風が凌げそうな所で野宿でもしようかと」
あんまりな返答に霊夢は愕然とした。
人を喰う妖怪で溢れている幻想郷で人間が野宿。まさに自殺行為といえる。
羅刹は霊夢の絶句から、その意味を読み取った。
「大丈夫ですよ。こう見えても、僕は強いんです」
「いくら強くても、幻想郷でそんな事したら喰われるわよ」
「そうなんですか?」
「ええ。おかしな吸血鬼姉妹に襲われるわよ。珍しい血だからって」
「吸血鬼も居るんですか・・・会ってみたいですね」
「会いたいの?」
「はい。長生きしている方のほうが、答えをくれそうな気がしまして」
吸血鬼に聞きたい事とは、一体何なのだろうか?
羅刹はいったい何を求めているのだろう。とりあえずは、『長生き』をしている相手の方が都合が良いらしいが、羅刹の雰囲気からは読み取れそうに無い。
それはともかくとして、追加のお茶の用意をしなくてはならない。
「そこで待ってて。今、お茶を持ってくるから」
「はい」
霊夢は縁側を指差して羅刹を誘導すると、台所へと向かった。
そこで初めて詮索深くなっていた事に気がついた。
らしくない・・・そう思いながら、お茶を手に縁側へ向かう。
そこには、羅刹が大人しく座っていた。やけにのんびりとした雰囲気が漂っている気がするが、おそらく錯覚ではないだろう。
「どうぞ。」
「ありがとうございます。ところで霊夢さん、この辺りで見晴らしの良い場所は無いでしょうか?ご存知でしたら方角を教えて頂きたいんですが」
「うーん、紅魔館の方向が湖になっていて見晴らしはいいんだけど・・・」
霊夢は紅魔館の方を指差す。
「さっき言った吸血鬼姉妹に襲われる可能性は否定できないわよ」
「大丈夫ですよ。危なくなったら逃げますから。こう見えても、逃げ足には自信があるんです。それに僕も人並みに強いですから」
「相手が人並みじゃないから言ってるんだけど・・・」
「心配してくれてありがとうございます。ですけど、ここに来た時点である程度のリスクは覚悟しています。それに、危険を冒さないと得られない物もありますから・・・」
「まあ、そこまで言うなら止めはしないけど・・・どうせだったら、その吸血鬼を紹介してもいいわよ。一応知り合いだし・・・」
霊夢はやたらと世話を焼きたがっているようだ。普段は面倒くさくてそんな事はしないのだが・・・たまにはこういうのも良いだろう。なにせ、久しぶりの人間の訪問者だ。正直、興味を引く対象ではある。おそらく幻想郷中の者が、そう思うだろう。
だが、逆に言えば非常に目立つ存在でもある。つまり、妖怪に襲われる可能性も十分に高い。
「大丈夫ですよ。巡り会う運命なら、どんな事があっても巡り会う。逆に出会わない運命ならどんな事をしても出会うことは無い。そして、争うべく運命なら争い、そうでなければ争わない。世の中はそう言うものです。だからとりあえずは、観光気分で適当にやりますよ」
「そうは言うけど・・・本当に強いの?」
「はい。研究所の方たちは『神に最も近い力を持っている』と言っていました」
「神に最も近い力?」
「はい。細かい事は企業秘密ということでお願いしますね」
羅刹はそう言って右手の人差し指を立てる。返答を期待していた霊夢は、いまいち納得がいかないようだ。
「まったく、教えてくれてもいいじゃない」
「相手にばれていないからこそ、能力が活きてくるんですよ。少なくとも霊夢さんは、僕と戦う時に警戒はするでしょ?中途半端に能力を教えられたから」
「ええ、そうね。もっとも、そんな事にならなければいいけどね。面倒くさいし」
「そうですね。でも、霊夢さんとはもう一度出会う気がします。その時、どういう関係になっているかは分かりませんけど。もしかしたら、愛の告白に来るかもしれませんね」
霊夢は、あきれ返って言葉を失った。その言葉を本気で受け取る気は無い。相手も冗談で言っているだけだ。それがハッキリと理解できる。
そして何より、目的がある以上、何を差し置いてもそれを優先しそうな気がする。
「照れるとか怒るとか、面白いリアクションを頂きたかったのですが・・・」
「だったら、もう少し本気っぽく言いなさいよ。幾らなんでも冗談だって分かるわよ」
「・・・はい」
「がんばりなさい」
そうして二人で空を見上げる。春の青空は非常に心地よい日差しを与えてくれる。一人でいたら、間違いなく昼寝をしてしまっているだろう。
ふと、空に見慣れた黒い影がよぎった。その影はゆっくりと高度を落とし、こちらへと向かってくる。
「よう、霊夢。お茶を飲みに来てやったぜ」
「魔理沙・・・相変わらず、暇なのね」
「お知り合いの方ですか?」
「ええ。霧雨魔理沙、見ての通り魔法使いよ。魔理沙、こっちは響羅刹。久しぶりに人間界からやってきたお客さん」
「羅刹か・・・よろしく頼むぜ」
「はい。魔理沙さん、以後お見知りおきを」
「一応、幻想郷初心者だから何かあったら頼むわね」
霊夢は、魔理沙にも注意をするように言った。どうせ本人に言っても、意味は無いだろうから。さすがに出会ったばかりの人間の死体を見たいとは思わない。死体が残るか分からないが。
「わかったぜ。人間界の話と引き換えに引き受けるぜ」
「大丈夫だと言ってはいるんですけど・・・」
羅刹は、ため息を一つ吐く。自分の能力は間違いなく最強の部類に入る。研究所の人間はそう言っていたし、自分もそう自負している。少なくとも自分のスピードに付いて来れる者はいないだろう。
「では、僕はそろそろお暇いたします。色々見て回りたいので」
「そう・・・紅魔館の方向は覚えてる?」
「はい。のんびりと歩いていきます」
「紅魔館に行くのか?」
「そうです。正確には、付近の湖ですけど」
「吸血鬼に襲われるぜ」
「返り討ちです」
羅刹はそう言って一歩踏み出し、霊夢達の方へと向き直る。
「霊夢さん、ご馳走様でした。それと色々お世話になりました。魔理沙さんも、また出会うようなら人間界のお話をさせて頂きますね」
「ええ、またね」
「楽しみに待ってるぜ」
羅刹は頭を下げると、紅魔館に向かって歩いて行った・・・・・空中を・・・
「・・・霊夢、空を飛ぶんじゃなく、歩いている様に見えるのは私だけか?」
「安心して、魔理沙。少なくとも、私にもそう見えるから」
二人が唖然としている間にも、羅刹はどんどん上空へ歩いていっている。まるで階段でも上るかの様に、悠然と歩いている。もう少し近づけば、羅刹の足元が弱冠発光していることに気がついただろう。
「どういう能力だ、あれは・・・」
「本人曰く、『神に最も近い能力』だそうよ」
「神に近い程度の能力か」
「程度じゃない気もするけど・・・」
「あれが、紅魔館ですかね・・・」
湖のど真ん中に浮かぶ島。
そこに聳え立つ洋館。
おそらくはあれが目的の館だろう。
「さて、どうしましょうか」
館のネーミングと霊夢さんの話を総合すれば、あの館に吸血鬼姉妹が住んでいる可能性は高い。だからと言って、尋ねて行けば会って貰える訳でもなさそうだ。ともすれば、さし当たってする事は・・・
「テントでも広げますか」
羅刹はそう言って目立つ場所を探し、そこにテントを張った。こうすれば、向こうが気付いてくれるだろう。手間も省けて一石二鳥だ。
手際よくテントを張り終えた羅刹は、バックからビニールシートと持参した紅茶とお菓子を出して、一人でお茶を楽しみ始めた。
しばらく一人でのんびりとしていたが、急に立ち上がり荷物をまとめ始めた。そして、新しいお菓子をバックから取り出し、紅魔館の方へと歩を進める。当然のように空中を歩いている。
「近くに越してきたのに連絡も入れないのは良くないですよね。とりあえず、挨拶だけでもしておきましょう」
空を歩けば紅魔館まではすぐだ。辿り着いた第一印象は、とにかく大きな館で、色々弄くりまわした後がある。それだけだ・・・
ある程度近づいたら、一度地上に降りて徒歩で館の方へと向かう。門に近づくにつれて、一人の妖怪の存在に気がついた。だが、とにかく気にせず前に進む。
「でも、門前払いをされても困りますね」
羅刹は、屋敷内と目の前の空間に力を行使した。すると目の前に、微かに発光する空間が出来上がる。羅刹はその空間へと、躊躇い無く歩を進める。
目の前の光り輝く空間を超えると、そこは紅魔館の庭だった。門番らしき人物には、気付かれてはいない。当然だろう、自分のスピードに付いて来れる者などいない。
「さて、中に入りましょうか」
お世辞にも礼儀正しいとはいえない。何しろ、偶然開いていた窓からの不法侵入。物腰の柔らかさと、礼儀とはあまり関係が無いようだ。
「中も広いですね。お掃除のしがいがあります」
おそらく、空間を少しばかり弄くったのだろう。外観からは想像できないほど広い。やはり、掃除の時は元の大きさに戻してしまうのだろうか。
「お掃除のしがいはあるわよ。でもね、あなたみたいな侵入者を探すのが面倒なの」
「やはり、堂々と玄関を叩くべきでしたか?」
「そうね。そうすれば追い返されるだけですんだわ」
振り向くとそこには・・・メイドさんがいた。正直、珍しい存在だと思う。少なくとも人間界にいた時に見たことは無い。
「追い返されない為に侵入したんですよ」
羅刹はそう言って、その場に正座をした。戦闘になるかと思っていたメイドは、肩透かしをくらった気分だ。だが、警戒を緩めることはしない。擬態の可能性があるから。
「侵入した理由が読めないわね」
「いえ、本日付で幻想郷の一員となりましたので、ご挨拶もかねてお菓子などを持ってまいりました」
「・・・あなた、人間ね。何故人間が幻想郷に」
「あなたも人間なら分かると思いますが・・・人間が幻想郷に来る理由なんてそう多くはありません」
羅刹は手に持った菓子折りを、目の前のメイドに差し出す。
「この屋敷の主人に渡してください。本来ならば、もう少しちゃんとした物を用意すべきかと思いましたが、なにぶん博麗神社と紅魔館しか知らないもので」
「これはどうも、ご丁寧に」
メイドは菓子折りを受け取り、礼をいう。とりあえずの用件は終わった。このメイドさんは、おそらく強いだろう。無駄な体力を消耗したくはないし、戦う理由も無い。だったら、相手を刺激する前にさっさと消える。これが一番だろう。
「それでは、用件は済んだのでお暇いたします。それと、今夜一晩くらいは湖の畔にいると思うので、何かご用件があったらそちらへお願いいたします。では・・・」
「待ちなさい。そう簡単に帰れると思っているのかしら?」
「あなたの様な美しい女性に引き止められるのは嬉しいのですが、夕飯を探すという重大な使命がありまして」
メイドさんは何処からとも無く、沢山のナイフを取り出した。少なくとも、その瞬間は見えなかった。早すぎるのか、能力の一環か。
「敵意が無いのは認めるわ。だからと言って、はいそうですかと帰す訳にはいかない。門番はどうしたの?」
「健在のはずですが・・・」
「それなら言い換えるわ。どうやって門番に気付かれずに入ってきたの?」
「企業秘密ということで」
「言う気は無いわけね。能力如何によってはスカウトの線もあったけど・・・なら、力尽くで引き出すまで」
「何でそう好戦的なんですか?霊夢さんたちは非常に良くしてくれたのですが・・・」
霊夢の名前が出た瞬間、メイドの眉が動いたのを見逃さなかった。
何か気に障ることだったのでしょうか?
それはともかく、逃げなくてはなりませんね。
「私は、紅魔館のメイド長、十六夜咲夜。あなたは?」
「僕は、紅魔館の侵入者、響羅刹。よろしくお願いいたします」
あまりにもふざけた返答。だが、二人の間には一触即発の不穏な空気が漂っている。その空気を発しているのは、一人だけだが・・・。
「いくわよ。奇術『エターナルミーク』!」
「・・・・・」
高速で向かってくる無数の弾。羅刹はそれを見つめたままで動こうとはしない。そして当然のように弾幕が羅刹に当たる。
だが、その瞬間、咲夜の予想だにしない事が起こった。
「無駄ですよ」
「そ、そんな!」
なんと、打ち出した弾丸の全てが、直撃する寸前に羅刹から遠ざかっていく。まるで当たる事を拒否するかの様に・・・
「なんで・・・」
「簡単なことですよ。当たるべき運命の物は何をしても当たる。そうでない物は何をしても当たらない。それだけです・・・」
「まさかあなた、お嬢様と同じ運命を操る能力を・・・」
「持ってませんよ。僕の能力は『神に最も近い力』です。では、次はこちらの番です」
羅刹は、右手素早くで印を切る。
その軌跡が光を放ち、何かの文字が浮かび上がる。
「暗符『黒塗りの刃』」
スペルカードが発動した瞬間、おぼろげな黒い刃が大量に現れた。その全てが思い思いの方向へと撃ち出され、その一部が咲夜へ向かってルートを変える。
「くっ、この程度!」
咲夜はその弾丸を、様々な方向へと動いてやり過ごす。だが、時間が経つにつれ、余裕がなくなってくる。何度か刃がかすり、服を刻んでゆく。
「もう後がありませんよ。頑張って避けてください」
「ふざけるなぁぁぁぁ!!」
咲夜はついに時間を操ってまで刃を避け始めた。時間の経過を遅くし、何とか刃の嵐を潜り抜ける。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
「よく出来ました。それにしても・・・途中で動きが早くなった様な気がしましたが、何かの能力でしょうか?」
「どうでもいいでしょ」
「そうですね。しかし、予想以上の強さでしたが、誤差の範囲内ですね。この程度なら危険視する必要はありませんね」
その一言が咲夜の感情に火をつけた。予想以上の強敵だ。手を抜きながら勝てる相手ではない。この局面をひっくり返せるのは・・・
「そんなに余裕なら、これも避けきってみなさい!メイド秘技『操りドール』!!」
その声と同時に無数のナイフが、羅刹に向かって投擲される。そしてそれらは、咲夜の思い通りの軌跡を描きながら標的へと向かう・・・・・筈だった・・・
「無駄なんですけど」
その声は咲夜の後ろから聞こえた。
なぜ?ナイフを投げる瞬間まで、間違いなく自分の目の前にいた。視界から外したわけでもない。なのにいつ移動したか全く分からなかった。そう、まるで初めから後ろに居たかの様だ・・・
「羅刹といったわね。まさかとは思うけど、時間を操るの?」
「それもハズレです。そんな大それた事は出来ませんよ」
「今日は見逃すわ。勝ち目もなさそうだし・・・」
「ありがとうございます。では、ご縁があればまた・・・」
羅刹はそう言い残すと、屋敷内に入った時と同じ様に窓から外へ出て行った。咲夜はその後姿を恨めしげに見つめている。
正直、舐めてかかっていたという自覚はある。でも、あそこまで簡単にあしらわれるとは思っていなかった。おそらく能力的な問題だろう。弾は羅刹を避け、一瞬で自分の背後まで回りこんだ。運命を操るでも、時を操るでもない。正体不明の能力だ。
「ふぅ、とにかくお掃除を終えるのが先ね」
何か、嫌な予感がする。また、大きな異変が始まるのだろうか。自分達が引き起こした霧、幻想郷から失われた春。次は何が起こるのだろう。
「考えても無駄ね。でも・・・嵐が来る気がする。途轍もなく大きな嵐が・・・」
「意外と強い方でしたね。十六夜咲夜さんでしたっけ、覚えておきましょう」
羅刹は自分のテントが張られている場所で、再び一人だけのお茶会を始めた。
彼女はおそらく本気ではなかった。こちらも本気ではなかったが、相手が本気を出していたら能力がばれてしまったかもしれない。
これから幻想郷で暮らすのだ、出来る限り能力は隠しておきたい。未知の能力は何よりのアドバンテージになる。
「咲夜さんは、おそらく時間に関する能力を持っている。警戒する必要は十分過ぎるほどありますね」
不思議なタイミングの加速、黒い刃の減速。そしてなにより、時間を一瞬だけ止めた様な気がする。普通なら気が付かない程度の違和感だが、あきらかに妙だった。最後のスペルカード、一瞬で大量のナイフを投擲できるはずが無い。あらかじめ、止めた時間の中で投擲した可能性がある。
「考えても始まりませんね。とりあえずは、噂の吸血鬼姉妹を待ちましょう」
その言葉を最後に、羅刹は一切言葉を口にしなくなった。ただ、そよ風に身を任せ、幻想郷の風景とお茶を楽しんでいた。
まるで、自分も風景の一つであるかの様に・・・
「まさか、咲夜が簡単にあしらわれるとはね。幻想郷も物騒になったものね」
「でも、お姉様。そいつはどんな能力を持ってるのかな?弾を曲げたり、瞬間移動したりしたんでしょ?」
完全に日も沈み、夜になった幻想郷。その夜空を、博麗神社へ向かって飛行する吸血鬼姉妹、レミリアとフランドールだ。
二人の話題になっているのは、咲夜が相対した侵入者のようだ。
「そうね。まあ、本人には戦う気がほとんど無かったらしいから、危険視する必要は無いわね」
「えー。私も侵入者と遊びたかったのにー」
もしフランドールが、件の侵入者と弾幕ごっこを始めたら屋敷はどうなるだろうか?
弾が当たらない→フランドールが怒る→屋敷が最低でも半壊。
背中から寒気が駆け上がってきた。
「あ、あきらめなさい・・・・・」
さすがに屋敷の半壊は、容認できない。妹が機嫌を損ねる前に、博麗神社へ辿り着けるように速度を上げよう。魔理沙に会えば、しばらくの間は気が紛れるだろう。
「フランドール・・・」
「代わりといっては、なんですが・・・・」
妹と先を急ごうとした瞬間、前方から聞きなれない声が響いてきた。つい先ほどまで、そこには誰もいなかった筈だ。
「僕の質問に答えて頂けないでしょうか?答えの如何によっては、遊び相手になって差し上げますよ」
「あなた・・・・・誰?」
レミリアは、突然現れた謎の少年に警戒心を持つ。少年は帽子を深く被っているので、その顔はハッキリと確認できない。
だが、その少年から非常に強いプレッシャーを感じる。油断は一切出来ない。
「僕もそれが聞きたいんですよ。でも、その様子ですと・・・貴女も僕の事を知らないみたいですね」
「当然でしょ。あなたの顔なんて見た事もないわ」
「そうですか・・・それじゃ、そちらの金髪のお嬢さん。約束どおり、一緒に遊びましょう」
「いいの!?」
話に参加できず不貞腐れていたフランドールは、目を輝かせて目の前の少年を見る。
確かにお姉様の言ったとおり、見たことの無い人間だ。
でも遊んでくれるなら、そんな事関係ない。
「ええ、かまいませんよ。夜はまだ長いですからね」
少年は、帽子を被りなおす。
その動作で少年の戦闘準備が終わった様な気がした。
レミリアの背中を正体不明の悪寒が駆け上がる。
「そう・・・狂乱の夜は、始まったばかりです・・・・・」
釘をさすようなのですが、ただ気になることが一つ。
オリキャラ最強ってのは勘弁してくださいね^^;
これをやるとほぼ世界観が崩れるんで。
これからどうなる事やら。ゆっくりと続きを書いてくださいな。
あと、一応誤字指摘。
吸血鬼の襲われるぜ<魔理沙、と、最後の方でレミリアがエミリアに…。
ありがちですけど「意外」と「以外」の区別を気をつけましょう。
あと、他の方々の指摘に加えて、「発行」と「秘儀」も誤変換なので。
私も一応誤字指摘を。
最後の方の「フライドールが怒る」はフランドールの誤りですね…