春、桜が咲き乱れる頃。
命の息吹が、各所に感じられる季節。
そして、別れの季節。
人との別れ。
大切な人との別れ。
自らとの別れ。
身体との別れ。
命との別れ。
幽香「ついたわ~。」
妖怪、幽香は、ある場所に来ていた。
彼女の、お気に入りの場所である。
さる丘。
そこには、1本の桜があった。
幽香「あ~、よく咲いてるわね。五月なのに。」
時は五月。
桜の花は散り、葉桜が最も綺麗な時期のはずだが。
幽香「まあ、どうでもいいか。」
細かいことなど、気にすることは無い。
今年もお気に入りの桜を拝めたのだ。
それでよいと、幽香は思う。
幽香「今年も、赤いわね。何年経っても、変わらない・・・・。」
桜の花。
桃色に咲き乱れるはずの桜の花。
だが、この桜の花は・・・・。
幽香「・・・・ふあ~~~ぁぁぁあ・・・・。」
五月半ばを過ぎたとはいえ、桜の咲く頃。
気温は、春そのものである。
心地のよさに、幽香は欠伸をする。
?「あらあら、こんなところに・・・・。」
幽香「・・・・ん?」
不意に、誰かの声。
?「綺麗な桜ね。いわく有りってところかしら?」
幽香「うん。私のお気に入り。」
?「あら、それはごめんなさい。邪魔しちゃったかしら?」
幽香「別にいいよ~。一人で花見も、最近飽きてきたし。」
?「そう?それじゃ、よっこいしょ。」
幽香「あ、そこは私の席よ。」
?「じゃあ、隣に。」
来客は(と言っても、桜は幽香の所有物ではないが)、幽香の席の横に腰を落ち着ける。
幽香「私は、幽香。よろしくね、新入りさん。」
幽々子「幽々子。西行寺幽々子よ。よろしく、先輩。」
幽香「あなた、幽霊さん?」
幽々子「そういうあなたは、妖怪さん?」
幽香「あ~、あいあむ、おりえんたるでーもん。」
幽々子「ん~・・・。さんきゅー、ばっと、あいきゃんとすぴーくえんぐりっしゅ。」
幽香「普通に言葉が通じるのね。よかった~。」
幽々子「幽霊語でも、あると思った?」
幽香「英語だったじゃん。」
幽々子「細かいことはいいのよ。それより。」
ドサ!
幽々子が、手荷物の中から、何かを取り出す。
幽々子「花見の肴、持ってきたけど、食べる?」
幽香「ありがたく、頂戴いたしますわ。」
幽々子「どーぞどーぞ。」
幽香「あ、おいし~。」
幽々子「うちの庭師が作ってくれたのよ。」
幽香「庭師なのに、料理?」
幽々子「中途半端だけど、便利な娘よ。」
幽香「いいなあ、そういうの。うちにも一個ほしいなあ。あ、それもう一個頂戴。」
幽々子「はい、どうぞ。」
仲の良い友人同士のようなやりとり。
桜と相まって、微笑ましく、幻想的。
あるべき場所に、あるべきモノがある。
そんな光景。
幽々子「この桜・・・・。」
幽香「ん?」
幽々子「埋まってるわね。」
幽香「うん。」
幽々子「二体・・・、いえ、もっと多く、か。」
幽香「そりゃあ、ねえ。」
幽々子「この桜、どんないわくがあるの?」
幽香「ん~とね・・・、確か・・・・。」
この丘に咲く桜の話。
幽香は、記憶をたどって、思い出す。
幽香「そう、自殺の名所だったのよ。ここ。」
幽々子「あら、物騒ですこと。」
幽香「遥か昔のことらしいけど。ここで心中した男女が、来世で、この桜の下で会おうって約束を。」
幽々子「青春ねえ。」
幽香「それ以来、釣られたように、後から後から、男女の二人組みが、同じような事を言いながら。」
幽々子「昇天。」
幽香「まあ、今となっては、そんなことは無いらしいけど。」
幽々子「幻想郷ができてから、かしら?」
幽香「私が知ってるのは、ここまで。それ以上は、知らない。」
幽々子「ふうん・・・・。」
幽香「・・・・・・・。」
幽々子「・・・・・・・。」
幽香「・・・・らない。」
幽々子「ん?」
幽香「自殺なんてね、くだらないことだって思った。」
幽々子「そのこころは?」
幽香「自らを殺す・・・。その行動に、如何程の価値があるか・・・。」
幽々子「・・・・・。」
幽香「考えたことは、無かったのかしら?この下の連中は。」
先の、呑気な口調からは考えられぬ、幽香の言葉。
幽々子は、それを黙って聞いてみることにした。
幽香「死ねば、それで終わり。自らそれを望むなど・・・、愚か。」
幽々子「・・・・・。」
幽香「あなたは、どう?」
幽々子「ん?」
幽香「愚かだと思わない?命を捨て去るなんて。」
幽々子「ん~・・・。まあ、それでも幽霊になれたら、こんな感じよ。」
幽香「変になる?」
幽々子「あ、ひど~い。」
幽香「ひどいついでに、次はあなたが話してみて。」
幽々子「話って・・・?例えば?」
幽香「例えば、あなたがどういう経緯で幽霊になったか、とか。」
幽々子「そうねえ・・・・。」
幽香からの問い。
幽々子は、それに答える。
幽々子「私、元々人間だったのよね。多分。」
幽香「多分なの?」
幽々子「覚えてないもの。何で死んだとか、どうして幽霊やってるのかとかも、わからない。」
幽香「ふうん・・・・。」
幽々子「あなたが言う、自殺なんてくだらない方法で、死んだのかもしれないし、ね。」
幽香「・・・・・・・。」
幽々子「でも、それこそ、くだらない問いだと、思わない?」
幽香「そうかしら?」
幽々子「そうよ。過去にこだわって、何になる?過去が変わるのか、いえ、変わらない。」
幽香「変わらないわね。」
幽々子「そういうこと。今が存在すれば、それでいいじゃない。」
幽香「前向きね。亡霊なのに。」
幽々子「あら、亡霊は、前向きな存在ですわ。」
幽香「前を向いて考えられるのは、今と、未来。」
幽々子「まあ私は、明日の晩御飯が何かな~ってところまでしか考えられないけど。」
幽香「私は、明日の朝は何時に起きようかな~ってところまでしか考えられないわ。」
幽々子「・・・・・ふふ。」
幽香「あはは。」
笑いあう二人
幽香「ま、今は二人で、この赤い桜を満喫しましょってことで。」
幽々子「その方が、下の方々も本望でしょうね。」
幽香「あら?」
幽々子「どうしたの?」
幽香「花見の肴が、品切れ。」
幽々子「ふっふっふ・・・・。」
幽香「?」
幽々子「じゃ~ん!」
ドサ!
幽々子は、先と同じものを取り出す。
幽香「わ~。まだあったのね。」
幽々子「それと、コレ。」
ドン!
幽々子「銘酒『恋塚之桜』!」
幽香「お酒だなんて、粋だねぇ。」
幽々子「こっそり持ってきちゃった。見つかると、うちの庭師がうるさいのよ~。」
幽香「庭師なのに、お目付け役?」
幽々子「頑固さは、師匠譲り。」
幽香「それは、欲しくないなあ・・・・。」
ポン!
幽々子「ささ、一杯・・・。」
幽香「あ、ども。」
トクトク・・・・
幽香「ささ、お代官様・・・・。」
幽々子「うむ、苦しゅうない。」
トクトク・・・・
幽々子「それじゃあ・・・。」
幽香「かんぱ~い!」
幽々子「かんぱ~い!」
カキン!
幽香「(ごく!)。」
幽々子「(ごく!)。」
幽香「ぷは~。美味しいわね~。」
幽々子「この一杯のために、生きてるんだなあ~。」
幽香「死んでるじゃん。」
幽々子「ふ、若い者が、細かいこと気にしちゃ駄目よ。」
幽香「もう酔った?」
幽々子「酔った振りよ。振り。」
幽香「まあ、そういうことにしておきますわ。」
酒に肴に花。
花見は盛り上がる。
幽々子「それにしても・・・。」
幽香「何?」
幽々子「赤いわね。桜。」
幽香「ええ。」
幽々子「よいしょ。」
スク・・・
不意に幽々子が、立ち上がる。
幽香「ん?」
幽々子「ちょっと、舞でも披露させていただくわ。」
幽香「わ~。ぱちぱちぱち~。」
幽々子「酔ったわけじゃ、ないわよ?」
幽香「わかってるって。」
幽々子「それでは・・・・。」
バッ!
扇子を開き・・・。
幽々子「さくら、さくら、春に咲け。」
シャラン・・・
幽々子「さくら、さくら、赤き花。」
シャラン・・・
幽香「・・・・・・・。」
幽々子「死せる、者の、死を吸いて。」
シャラン・・・
幽々子「幽雅に咲かせ、恋塚の・・・・。」
シャララン・・・・
幽香「・・・・・・・。」
その光景、幽香はしばし見とれていた。
らしくないな、と思いながらも。
幽々子「・・・・・・・・お粗末様でした。」
幽香「いえいえ。結構なお手前で。その歌は・・・、即興かしら?」
幽々子「う~ん、何と言うか、舞っていると、勝手に頭の中に入ってくるのよ。」
幽香「ふ~ん。・・・・恋塚、か。」
幽々子「お酒の名前ね。」
幽香「いや、そうじゃなくて。この桜に、ぴったりの名前かと思って。」
幽々子「まあ、西行妖なんかより、百倍はいい名前かも。」
幽香「よいしょ。」
スク・・・・
幽香も立ち上がる。
幽々子「どうしたの?」
幽香「ちょっとね。一緒に舞いたくなっちゃった。」
幽々子「そう?」
幽香「日傘・・・でも、形にはなるわよね?」
幽々子「舞傘があればよかったんだけど、ま、いいか。」
幽香「舞は、即興だけど。」
幽々子「大丈夫。舞っていうのは、形よりも、空気の流れを読むことが大切だわ。」
幽香「ふうん。」
幽々子「流れに乗れば、動きは自然に舞となる。さあ、いくわよ。」
幽香「お~。」
バサ!
バッ!
幽香が傘を開き、幽々子は扇子を開く。
そして・・・・
幽々子「さくら、さくら、春に咲け。」
シャラン・・・
幽香「さくら、さくら、赤く咲け。」
シャラン・・・
幽々子「死せる、者の。」
幽香「死を吸いて。」
シャラン・・・
シャラン・・・
二人「幽雅に咲かせ、恋塚の・・・・・・。」
シャララン・・・・・
幽香「・・・・・・・・・。」
幽々子「・・・・・・・・・。」
幽香「たまには、こういうのもいいかも。」
幽々子「たまには、ね・・・・・・。」
フラ・・・・
幽香「ん?」
ドサ
幽々子が、地面に倒れる。
幽香「大丈夫?」
幽々子「あ~・・・、ちょっと、お酒が回ってきたみたい~・・・・。」
幽香「ああ、結構動いたからね~。」
幽々子「ふにゅ~・・・。」
幽香「風邪引くわよ?」
幽々子「だいじょ~ぶ。お化けは死なないし、病気も何にも無いのよ~。」
幽香「もしもし~?」
幽々子「は~い、ゆゆこで~す。気分いいから、ちょっとお話しない~?」
どうやら、本格的に酔ったようだ。
酒に酔ったか、桜に魅せられて酔ったか・・・・。
幽香「ふう・・・。まあ、私も気分いいから。」
幽々子「桜・・・、綺麗ね・・・・。」
幽香「あ、うん。」
幽々子「この木の伝説・・・・。」
幽香「男女一組が、来世、ここで会おうって約束したやつね。」
幽々子「それって、私たちだったり~。なんて。」
幽香「私たちが、そんなんの転生?あ~、冗談じゃないわね~。」
幽々子「あら、そんなんも、結構素敵じゃない?」
幽香「やだわよ。無理心中カップルの転生体だなんて。」
幽々子「そう?」
幽香「そうよ。そんな自殺なんてくだらない死に方するくらいなら、もっと生を謳歌するわ。」
幽々子「幽霊も、結構いいもんですよ~。一回なってみる?」
幽香「遠慮しとく・・・。」
幽々子「残念ね~・・・・。」
幽香「・・・・・・。」
幽々子「・・・・・・。」
幽香「・・・・・・。」
幽々子「桜・・・・、綺麗ね・・・・。」
幽香「それ、さっきも聞いた。」
幽々子「・・・・でも、散るのよね・・・・。」
幽香「もう五月の終わりよ。この分だと、梅雨で、一気に散るわね。」
幽々子「それも・・・・、また、よし・・・・。」
幽香「いいの?」
幽々子「雨は、春を・・・、桜を惜しむ者の・・・、涙と・・・、なりて・・・。」
幽香「もしも~し?」
幽々子「ぐ~・・・・・・。」
幽香「寝ちゃった。」
幽々子「ぐ~・・・・・・。」
幽香「ふ~・・・・。私も、眠くなってきちゃった。お酒、回ってきたみたいね・・・。」
ドサ
幽香も、地面に倒れてみる。
幽香「涙で散る桜、それもまた、一興・・・・、か。」
幽々子「ん~・・・・。」
幽香「ふあ~~・・・・。お休み・・・・、亡霊の舞姫。」
心地よい日差しの中。
昼寝には、最高の気候。
二人は、一時の眠りを満喫する。
・
・
・
妖夢「幽々子様、幽々子様・・・・!」
幽々子「うみゅ~・・・・・。」
妖夢「起きてくださいって。」
幽々子「・・・・・んあ、ふああ~~~~ああああ・・・・・。」
幽々子お抱えの庭師、魂魄妖夢の起こされ、欠伸をしながら目覚める幽々子。
妖夢「あ~、ようやく起きた。」
幽々子「桜咲き 桜の散りし 梅雨の空 降りたる雨は 我の涙か ・・・ゆゆこ。」
妖夢「ああ、ちょっと雲行きが怪しくなってきましたね。」
幽々子「ん~・・・・?あら、ほんと。」
見れば、先程とは打って変わって、曇り空である。
妖夢「降らないうちに、さっさと帰りますよ。」
幽々子「むあ~・・・・。」
妖夢「ぶは!お酒臭い・・・・。幽々子様、お酒持ってくなって、あれほど・・・。」
幽々子「妖夢。急いで帰るんじゃなかったの?」
妖夢「ああ、そうでしたね。急いで帰りますよ。」
ぽつ・・・
ぽつ・・・
雨が、降り始めた。
妖夢「ああもう、今に大降りになりますよ?」
幽々子「妖夢、ネガティブな発想はいけないわ。」
妖夢「さっき、燕が低く飛んでるのを見たんですよ。」
幽々子「心配ないわ。私は、猫が顔を洗うのを見たし。」
妖夢「ますます大降りになるじゃないですか。さっさと帰りますよ。」
幽々子「わかったわかった。ほら、あなたも・・・。」
妖夢「誰に話してるんです?」
幽々子「うん?」
眠る前まで、そばに居たはずの幽香。
されど、彼女の姿は、すでになかった。
幽々子「あれ?何処に行ったのかしら?」
妖夢「誰かいたんですか?」
幽々子「ええ・・・。先に帰っちゃったのかしら。」
妖夢「ん?幽々子様。あれは・・・・。」
幽々子「なあに?」
妖夢が、何かを見つける。
幽々子「傘・・・?」
妖夢「誰かさんの、持ち物ですか?おや、置手紙。」
幽々子「読んで。」
妖夢「自分で読んでくださいよ。」
幽々子「けちんぼ。ええと、『天気悪くなるみたいだから、貸したげる。今度返してね~。 幽香 』
幽香の傘。
この天気を予測して、のことらしいが。
妖夢「・・・いいお友達のようで。」
幽々子「そうでもないわ。」
妖夢「何でですか?」
幽々子「あの子、私が、明日の晩御飯のことまでしか考えられないって知ってるくせに。」
妖夢「もっと先を読んでくださいよ・・・・。」
幽々子「来年も来いって、言ってるのよ。」
妖夢「来ないんですか?」
幽々子「来れる自信が無いなあ・・・。覚えてられるかなあ・・・・。」
ザァ~・・・・
雨が、強くなった。
妖夢「うわ。土砂降りですよ、幽々子様。」
幽々子「じゃ、借りるわね。」
バサ!
幽々子が、傘を開く。
妖夢「幽々子様、早く中に入れてください。」
幽々子「あら妖夢。そんなに私と相合傘やりたいの?」
妖夢「も~、そんなこと言わないで・・・。」
幽々子「はいはい。」
妖夢「じゃ、帰りましょ。」
幽々子「おんぶ。」
妖夢「は?」
突然の申し出に、困惑する妖夢。
幽々子「おんぶして。」
妖夢「何言ってるんですか、いい歳した娘が。」
幽々子「飲酒運転は、危険よ。事故ったら大変。」
妖夢「あ~もう。わかりましたから、さっさと乗ってください。」
幽々子「わ~い。妖夢大好き。」
妖夢「こんなときだけ、調子いいんだから、もう・・・・。」
妖夢はしぶしぶ、幽々子を担ぐことにする。
妖夢「よいしょ・・・と。」
幽々子「ぶは~。」
妖夢「うわ!お酒臭いですってば!」
幽々子「えへへ~。」
妖夢「悪い子は、山に捨てて帰りますよ。」
幽々子「ごめんなさ~い。」
妖夢「まったく・・・。それじゃ、帰りますよ・・・・?」
幽々子「・・・・・・。」
妖夢「幽々子様?」
幽々子の視線は、桜にあった。
妖夢も、そちらを向く。
幽々子「桜に降る雨、惜しむ者の涙、季節は移り変わる。」
妖夢「・・・・・・。」
幽々子「この桜は、季節の変わり目の他に、様々な別れを見てきた・・・。」
妖夢「・・・・・・。」
幽々子「大切な人との、世界との、自らの身体との、そして、命との・・・、別れ・・・。」
妖夢「・・・・・・。」
幽々子「恋塚之桜。赤き色は、お前の悲しみか・・・。」
妖夢「・・・・・・。」
先程とは別人のように、何かにとり憑かれたかのように、幽々子は呟く。
だが妖夢は、別段驚いた様子も無い。
自分の主人は、こういうヒトであることを、よく知ってるからだ。
幽々子「梅雨空に 儚く散りし 赤き花 散らす涙は 誰が為なのか 」
妖夢「別れあれ されど出会いも あるだろう 季節は巡り 花はまた咲く 」
幽々子「さくらさくら 我らの出会いは 赤き色 桃の色へと 咲かせるものか 」
妖夢「咲かせよう 別れの数だけ 出会い有 血染めの花の 血の落ちしときまで 」
幽々子「血を吸いし 悲しき桜 ここにあり 来る年赤きの 薄くならんことを 」
歌。
自然と、二人の口から出る歌。
幽々子「・・・・・・まだまだ未熟ね。妖夢。」
妖夢「何の勝負ですか。幽々子様だって、お酒入ってるせいですか?いつものキレがありませよ。」
幽々子「ふ、この勝負、引き分けにしてやろう。」
妖夢「だから、勝負じゃありませんって。」
幽々子「ま、いいわ。帰りましょ。」
妖夢「そうですね。」
二人は、丘を去った。
幽々子は、きっと、来年もここに、来ることだろう。
昼寝をしに。
桜の色を見に。
そして。
桜の下で出会った友に会いに。
友とまた、語り合うために。
借りた物を返しに。
命の息吹が、各所に感じられる季節。
そして、別れの季節。
人との別れ。
大切な人との別れ。
自らとの別れ。
身体との別れ。
命との別れ。
幽香「ついたわ~。」
妖怪、幽香は、ある場所に来ていた。
彼女の、お気に入りの場所である。
さる丘。
そこには、1本の桜があった。
幽香「あ~、よく咲いてるわね。五月なのに。」
時は五月。
桜の花は散り、葉桜が最も綺麗な時期のはずだが。
幽香「まあ、どうでもいいか。」
細かいことなど、気にすることは無い。
今年もお気に入りの桜を拝めたのだ。
それでよいと、幽香は思う。
幽香「今年も、赤いわね。何年経っても、変わらない・・・・。」
桜の花。
桃色に咲き乱れるはずの桜の花。
だが、この桜の花は・・・・。
幽香「・・・・ふあ~~~ぁぁぁあ・・・・。」
五月半ばを過ぎたとはいえ、桜の咲く頃。
気温は、春そのものである。
心地のよさに、幽香は欠伸をする。
?「あらあら、こんなところに・・・・。」
幽香「・・・・ん?」
不意に、誰かの声。
?「綺麗な桜ね。いわく有りってところかしら?」
幽香「うん。私のお気に入り。」
?「あら、それはごめんなさい。邪魔しちゃったかしら?」
幽香「別にいいよ~。一人で花見も、最近飽きてきたし。」
?「そう?それじゃ、よっこいしょ。」
幽香「あ、そこは私の席よ。」
?「じゃあ、隣に。」
来客は(と言っても、桜は幽香の所有物ではないが)、幽香の席の横に腰を落ち着ける。
幽香「私は、幽香。よろしくね、新入りさん。」
幽々子「幽々子。西行寺幽々子よ。よろしく、先輩。」
幽香「あなた、幽霊さん?」
幽々子「そういうあなたは、妖怪さん?」
幽香「あ~、あいあむ、おりえんたるでーもん。」
幽々子「ん~・・・。さんきゅー、ばっと、あいきゃんとすぴーくえんぐりっしゅ。」
幽香「普通に言葉が通じるのね。よかった~。」
幽々子「幽霊語でも、あると思った?」
幽香「英語だったじゃん。」
幽々子「細かいことはいいのよ。それより。」
ドサ!
幽々子が、手荷物の中から、何かを取り出す。
幽々子「花見の肴、持ってきたけど、食べる?」
幽香「ありがたく、頂戴いたしますわ。」
幽々子「どーぞどーぞ。」
幽香「あ、おいし~。」
幽々子「うちの庭師が作ってくれたのよ。」
幽香「庭師なのに、料理?」
幽々子「中途半端だけど、便利な娘よ。」
幽香「いいなあ、そういうの。うちにも一個ほしいなあ。あ、それもう一個頂戴。」
幽々子「はい、どうぞ。」
仲の良い友人同士のようなやりとり。
桜と相まって、微笑ましく、幻想的。
あるべき場所に、あるべきモノがある。
そんな光景。
幽々子「この桜・・・・。」
幽香「ん?」
幽々子「埋まってるわね。」
幽香「うん。」
幽々子「二体・・・、いえ、もっと多く、か。」
幽香「そりゃあ、ねえ。」
幽々子「この桜、どんないわくがあるの?」
幽香「ん~とね・・・、確か・・・・。」
この丘に咲く桜の話。
幽香は、記憶をたどって、思い出す。
幽香「そう、自殺の名所だったのよ。ここ。」
幽々子「あら、物騒ですこと。」
幽香「遥か昔のことらしいけど。ここで心中した男女が、来世で、この桜の下で会おうって約束を。」
幽々子「青春ねえ。」
幽香「それ以来、釣られたように、後から後から、男女の二人組みが、同じような事を言いながら。」
幽々子「昇天。」
幽香「まあ、今となっては、そんなことは無いらしいけど。」
幽々子「幻想郷ができてから、かしら?」
幽香「私が知ってるのは、ここまで。それ以上は、知らない。」
幽々子「ふうん・・・・。」
幽香「・・・・・・・。」
幽々子「・・・・・・・。」
幽香「・・・・らない。」
幽々子「ん?」
幽香「自殺なんてね、くだらないことだって思った。」
幽々子「そのこころは?」
幽香「自らを殺す・・・。その行動に、如何程の価値があるか・・・。」
幽々子「・・・・・。」
幽香「考えたことは、無かったのかしら?この下の連中は。」
先の、呑気な口調からは考えられぬ、幽香の言葉。
幽々子は、それを黙って聞いてみることにした。
幽香「死ねば、それで終わり。自らそれを望むなど・・・、愚か。」
幽々子「・・・・・。」
幽香「あなたは、どう?」
幽々子「ん?」
幽香「愚かだと思わない?命を捨て去るなんて。」
幽々子「ん~・・・。まあ、それでも幽霊になれたら、こんな感じよ。」
幽香「変になる?」
幽々子「あ、ひど~い。」
幽香「ひどいついでに、次はあなたが話してみて。」
幽々子「話って・・・?例えば?」
幽香「例えば、あなたがどういう経緯で幽霊になったか、とか。」
幽々子「そうねえ・・・・。」
幽香からの問い。
幽々子は、それに答える。
幽々子「私、元々人間だったのよね。多分。」
幽香「多分なの?」
幽々子「覚えてないもの。何で死んだとか、どうして幽霊やってるのかとかも、わからない。」
幽香「ふうん・・・・。」
幽々子「あなたが言う、自殺なんてくだらない方法で、死んだのかもしれないし、ね。」
幽香「・・・・・・・。」
幽々子「でも、それこそ、くだらない問いだと、思わない?」
幽香「そうかしら?」
幽々子「そうよ。過去にこだわって、何になる?過去が変わるのか、いえ、変わらない。」
幽香「変わらないわね。」
幽々子「そういうこと。今が存在すれば、それでいいじゃない。」
幽香「前向きね。亡霊なのに。」
幽々子「あら、亡霊は、前向きな存在ですわ。」
幽香「前を向いて考えられるのは、今と、未来。」
幽々子「まあ私は、明日の晩御飯が何かな~ってところまでしか考えられないけど。」
幽香「私は、明日の朝は何時に起きようかな~ってところまでしか考えられないわ。」
幽々子「・・・・・ふふ。」
幽香「あはは。」
笑いあう二人
幽香「ま、今は二人で、この赤い桜を満喫しましょってことで。」
幽々子「その方が、下の方々も本望でしょうね。」
幽香「あら?」
幽々子「どうしたの?」
幽香「花見の肴が、品切れ。」
幽々子「ふっふっふ・・・・。」
幽香「?」
幽々子「じゃ~ん!」
ドサ!
幽々子は、先と同じものを取り出す。
幽香「わ~。まだあったのね。」
幽々子「それと、コレ。」
ドン!
幽々子「銘酒『恋塚之桜』!」
幽香「お酒だなんて、粋だねぇ。」
幽々子「こっそり持ってきちゃった。見つかると、うちの庭師がうるさいのよ~。」
幽香「庭師なのに、お目付け役?」
幽々子「頑固さは、師匠譲り。」
幽香「それは、欲しくないなあ・・・・。」
ポン!
幽々子「ささ、一杯・・・。」
幽香「あ、ども。」
トクトク・・・・
幽香「ささ、お代官様・・・・。」
幽々子「うむ、苦しゅうない。」
トクトク・・・・
幽々子「それじゃあ・・・。」
幽香「かんぱ~い!」
幽々子「かんぱ~い!」
カキン!
幽香「(ごく!)。」
幽々子「(ごく!)。」
幽香「ぷは~。美味しいわね~。」
幽々子「この一杯のために、生きてるんだなあ~。」
幽香「死んでるじゃん。」
幽々子「ふ、若い者が、細かいこと気にしちゃ駄目よ。」
幽香「もう酔った?」
幽々子「酔った振りよ。振り。」
幽香「まあ、そういうことにしておきますわ。」
酒に肴に花。
花見は盛り上がる。
幽々子「それにしても・・・。」
幽香「何?」
幽々子「赤いわね。桜。」
幽香「ええ。」
幽々子「よいしょ。」
スク・・・
不意に幽々子が、立ち上がる。
幽香「ん?」
幽々子「ちょっと、舞でも披露させていただくわ。」
幽香「わ~。ぱちぱちぱち~。」
幽々子「酔ったわけじゃ、ないわよ?」
幽香「わかってるって。」
幽々子「それでは・・・・。」
バッ!
扇子を開き・・・。
幽々子「さくら、さくら、春に咲け。」
シャラン・・・
幽々子「さくら、さくら、赤き花。」
シャラン・・・
幽香「・・・・・・・。」
幽々子「死せる、者の、死を吸いて。」
シャラン・・・
幽々子「幽雅に咲かせ、恋塚の・・・・。」
シャララン・・・・
幽香「・・・・・・・。」
その光景、幽香はしばし見とれていた。
らしくないな、と思いながらも。
幽々子「・・・・・・・・お粗末様でした。」
幽香「いえいえ。結構なお手前で。その歌は・・・、即興かしら?」
幽々子「う~ん、何と言うか、舞っていると、勝手に頭の中に入ってくるのよ。」
幽香「ふ~ん。・・・・恋塚、か。」
幽々子「お酒の名前ね。」
幽香「いや、そうじゃなくて。この桜に、ぴったりの名前かと思って。」
幽々子「まあ、西行妖なんかより、百倍はいい名前かも。」
幽香「よいしょ。」
スク・・・・
幽香も立ち上がる。
幽々子「どうしたの?」
幽香「ちょっとね。一緒に舞いたくなっちゃった。」
幽々子「そう?」
幽香「日傘・・・でも、形にはなるわよね?」
幽々子「舞傘があればよかったんだけど、ま、いいか。」
幽香「舞は、即興だけど。」
幽々子「大丈夫。舞っていうのは、形よりも、空気の流れを読むことが大切だわ。」
幽香「ふうん。」
幽々子「流れに乗れば、動きは自然に舞となる。さあ、いくわよ。」
幽香「お~。」
バサ!
バッ!
幽香が傘を開き、幽々子は扇子を開く。
そして・・・・
幽々子「さくら、さくら、春に咲け。」
シャラン・・・
幽香「さくら、さくら、赤く咲け。」
シャラン・・・
幽々子「死せる、者の。」
幽香「死を吸いて。」
シャラン・・・
シャラン・・・
二人「幽雅に咲かせ、恋塚の・・・・・・。」
シャララン・・・・・
幽香「・・・・・・・・・。」
幽々子「・・・・・・・・・。」
幽香「たまには、こういうのもいいかも。」
幽々子「たまには、ね・・・・・・。」
フラ・・・・
幽香「ん?」
ドサ
幽々子が、地面に倒れる。
幽香「大丈夫?」
幽々子「あ~・・・、ちょっと、お酒が回ってきたみたい~・・・・。」
幽香「ああ、結構動いたからね~。」
幽々子「ふにゅ~・・・。」
幽香「風邪引くわよ?」
幽々子「だいじょ~ぶ。お化けは死なないし、病気も何にも無いのよ~。」
幽香「もしもし~?」
幽々子「は~い、ゆゆこで~す。気分いいから、ちょっとお話しない~?」
どうやら、本格的に酔ったようだ。
酒に酔ったか、桜に魅せられて酔ったか・・・・。
幽香「ふう・・・。まあ、私も気分いいから。」
幽々子「桜・・・、綺麗ね・・・・。」
幽香「あ、うん。」
幽々子「この木の伝説・・・・。」
幽香「男女一組が、来世、ここで会おうって約束したやつね。」
幽々子「それって、私たちだったり~。なんて。」
幽香「私たちが、そんなんの転生?あ~、冗談じゃないわね~。」
幽々子「あら、そんなんも、結構素敵じゃない?」
幽香「やだわよ。無理心中カップルの転生体だなんて。」
幽々子「そう?」
幽香「そうよ。そんな自殺なんてくだらない死に方するくらいなら、もっと生を謳歌するわ。」
幽々子「幽霊も、結構いいもんですよ~。一回なってみる?」
幽香「遠慮しとく・・・。」
幽々子「残念ね~・・・・。」
幽香「・・・・・・。」
幽々子「・・・・・・。」
幽香「・・・・・・。」
幽々子「桜・・・・、綺麗ね・・・・。」
幽香「それ、さっきも聞いた。」
幽々子「・・・・でも、散るのよね・・・・。」
幽香「もう五月の終わりよ。この分だと、梅雨で、一気に散るわね。」
幽々子「それも・・・・、また、よし・・・・。」
幽香「いいの?」
幽々子「雨は、春を・・・、桜を惜しむ者の・・・、涙と・・・、なりて・・・。」
幽香「もしも~し?」
幽々子「ぐ~・・・・・・。」
幽香「寝ちゃった。」
幽々子「ぐ~・・・・・・。」
幽香「ふ~・・・・。私も、眠くなってきちゃった。お酒、回ってきたみたいね・・・。」
ドサ
幽香も、地面に倒れてみる。
幽香「涙で散る桜、それもまた、一興・・・・、か。」
幽々子「ん~・・・・。」
幽香「ふあ~~・・・・。お休み・・・・、亡霊の舞姫。」
心地よい日差しの中。
昼寝には、最高の気候。
二人は、一時の眠りを満喫する。
・
・
・
妖夢「幽々子様、幽々子様・・・・!」
幽々子「うみゅ~・・・・・。」
妖夢「起きてくださいって。」
幽々子「・・・・・んあ、ふああ~~~~ああああ・・・・・。」
幽々子お抱えの庭師、魂魄妖夢の起こされ、欠伸をしながら目覚める幽々子。
妖夢「あ~、ようやく起きた。」
幽々子「桜咲き 桜の散りし 梅雨の空 降りたる雨は 我の涙か ・・・ゆゆこ。」
妖夢「ああ、ちょっと雲行きが怪しくなってきましたね。」
幽々子「ん~・・・・?あら、ほんと。」
見れば、先程とは打って変わって、曇り空である。
妖夢「降らないうちに、さっさと帰りますよ。」
幽々子「むあ~・・・・。」
妖夢「ぶは!お酒臭い・・・・。幽々子様、お酒持ってくなって、あれほど・・・。」
幽々子「妖夢。急いで帰るんじゃなかったの?」
妖夢「ああ、そうでしたね。急いで帰りますよ。」
ぽつ・・・
ぽつ・・・
雨が、降り始めた。
妖夢「ああもう、今に大降りになりますよ?」
幽々子「妖夢、ネガティブな発想はいけないわ。」
妖夢「さっき、燕が低く飛んでるのを見たんですよ。」
幽々子「心配ないわ。私は、猫が顔を洗うのを見たし。」
妖夢「ますます大降りになるじゃないですか。さっさと帰りますよ。」
幽々子「わかったわかった。ほら、あなたも・・・。」
妖夢「誰に話してるんです?」
幽々子「うん?」
眠る前まで、そばに居たはずの幽香。
されど、彼女の姿は、すでになかった。
幽々子「あれ?何処に行ったのかしら?」
妖夢「誰かいたんですか?」
幽々子「ええ・・・。先に帰っちゃったのかしら。」
妖夢「ん?幽々子様。あれは・・・・。」
幽々子「なあに?」
妖夢が、何かを見つける。
幽々子「傘・・・?」
妖夢「誰かさんの、持ち物ですか?おや、置手紙。」
幽々子「読んで。」
妖夢「自分で読んでくださいよ。」
幽々子「けちんぼ。ええと、『天気悪くなるみたいだから、貸したげる。今度返してね~。 幽香 』
幽香の傘。
この天気を予測して、のことらしいが。
妖夢「・・・いいお友達のようで。」
幽々子「そうでもないわ。」
妖夢「何でですか?」
幽々子「あの子、私が、明日の晩御飯のことまでしか考えられないって知ってるくせに。」
妖夢「もっと先を読んでくださいよ・・・・。」
幽々子「来年も来いって、言ってるのよ。」
妖夢「来ないんですか?」
幽々子「来れる自信が無いなあ・・・。覚えてられるかなあ・・・・。」
ザァ~・・・・
雨が、強くなった。
妖夢「うわ。土砂降りですよ、幽々子様。」
幽々子「じゃ、借りるわね。」
バサ!
幽々子が、傘を開く。
妖夢「幽々子様、早く中に入れてください。」
幽々子「あら妖夢。そんなに私と相合傘やりたいの?」
妖夢「も~、そんなこと言わないで・・・。」
幽々子「はいはい。」
妖夢「じゃ、帰りましょ。」
幽々子「おんぶ。」
妖夢「は?」
突然の申し出に、困惑する妖夢。
幽々子「おんぶして。」
妖夢「何言ってるんですか、いい歳した娘が。」
幽々子「飲酒運転は、危険よ。事故ったら大変。」
妖夢「あ~もう。わかりましたから、さっさと乗ってください。」
幽々子「わ~い。妖夢大好き。」
妖夢「こんなときだけ、調子いいんだから、もう・・・・。」
妖夢はしぶしぶ、幽々子を担ぐことにする。
妖夢「よいしょ・・・と。」
幽々子「ぶは~。」
妖夢「うわ!お酒臭いですってば!」
幽々子「えへへ~。」
妖夢「悪い子は、山に捨てて帰りますよ。」
幽々子「ごめんなさ~い。」
妖夢「まったく・・・。それじゃ、帰りますよ・・・・?」
幽々子「・・・・・・。」
妖夢「幽々子様?」
幽々子の視線は、桜にあった。
妖夢も、そちらを向く。
幽々子「桜に降る雨、惜しむ者の涙、季節は移り変わる。」
妖夢「・・・・・・。」
幽々子「この桜は、季節の変わり目の他に、様々な別れを見てきた・・・。」
妖夢「・・・・・・。」
幽々子「大切な人との、世界との、自らの身体との、そして、命との・・・、別れ・・・。」
妖夢「・・・・・・。」
幽々子「恋塚之桜。赤き色は、お前の悲しみか・・・。」
妖夢「・・・・・・。」
先程とは別人のように、何かにとり憑かれたかのように、幽々子は呟く。
だが妖夢は、別段驚いた様子も無い。
自分の主人は、こういうヒトであることを、よく知ってるからだ。
幽々子「梅雨空に 儚く散りし 赤き花 散らす涙は 誰が為なのか 」
妖夢「別れあれ されど出会いも あるだろう 季節は巡り 花はまた咲く 」
幽々子「さくらさくら 我らの出会いは 赤き色 桃の色へと 咲かせるものか 」
妖夢「咲かせよう 別れの数だけ 出会い有 血染めの花の 血の落ちしときまで 」
幽々子「血を吸いし 悲しき桜 ここにあり 来る年赤きの 薄くならんことを 」
歌。
自然と、二人の口から出る歌。
幽々子「・・・・・・まだまだ未熟ね。妖夢。」
妖夢「何の勝負ですか。幽々子様だって、お酒入ってるせいですか?いつものキレがありませよ。」
幽々子「ふ、この勝負、引き分けにしてやろう。」
妖夢「だから、勝負じゃありませんって。」
幽々子「ま、いいわ。帰りましょ。」
妖夢「そうですね。」
二人は、丘を去った。
幽々子は、きっと、来年もここに、来ることだろう。
昼寝をしに。
桜の色を見に。
そして。
桜の下で出会った友に会いに。
友とまた、語り合うために。
借りた物を返しに。
コメディも良いけれど、私はこの作品が好きかもです。