小鳥は目の前でちょこちょこと動きまわっている。
で、私はそれを横目で見ながら服作り。
今日も隠れ家で小鳥と一緒。
前は毎日森で遊んでたけど、近頃はここに来るのが一番。
やっぱり小鳥を一人にしてたら不安だし、二人でいるとなんだか楽しいんだよね。
それに、ここには色んな物があるから退屈なんてしない。
今も小鳥がおはじきで遊んでたり。
私もいっしょにおはじきしたいけど我慢して服作り。
なんで服を作ってるのかっていうと、小鳥の成長がすごく早くてお人形さんの服が小さくなってきたの。
まあ、近頃はそれが嬉しくてしかたがないんだけど。
一昨日に一人で歩けるようになったばかりなのに今日はもうそこら辺を走りまわってたりして驚くばかり。
で、小さくなった服の代わりにって私が新しく服を作ってるの。
お人形さんの服をそのまま大きくしたような、同じかたちの服。
そのほうが小鳥もいいだろうって思ったから。
ちなみに、服を作るのは私のちょっとした特技。
前からお母さんのまねをして一緒に服を作ってたんだけど、いつのまにかお母さんよりうまくなってた。
私が今着てる服も普段お母さんが着てる服も今ではほとんどが私が作ったものなの。
続けているとやっぱりなれるものなんだよね。
新しく服を作った時には、お母さんは「立場がないわ」って笑いながら着てくれるの。
そんな感じでよく服は作ってるからこれもあんまり難しいことじゃない。
さすがに見るだけじゃわからないからお人形さんの服は私の手元にあるけどね。
代わりに小鳥にはハンカチを結んで服代わりにしてあげた。
他に合う服がなかったからちょっとかわいそうだなって思ったんだけど、意外とワンピースみたいになってて可愛いかった。
小鳥が走りまわるたびに端っこがひらひらって動いて。
だからこの服ができあがったら次はワンピースを作ってあげるつもり。もちろんひらひら付きの可愛いやつ。
ぴいぴい
あ、そろそろご飯かな。
太陽も高く上がってるし。
「もうすぐご飯だから今日も行ってくるね。」
って、こう言ってるとどっちが家だかわからないんだけど……今は私は小鳥のお母さんだから間違ってないかな。
小鳥は私の言ってることがわかってるようで、こくこくとうなずいて
ぴい
と鳴く。
多分行ってらっしゃいの意味なんじゃないかな。
ちゃんとご飯を食べて、倉へ戻る。
片手にはたけのこの皮で包んだ小さなおにぎり。
お母さんにはおやつの代わりって言ってある。
……そのおかげで近頃私のおやつはないんだけれどねー。
で、そのおにぎりを小鳥に食べさせながら私は服作りを再開。
最近は一人で食べれるようになって、ここでも成長を感じてる。
指が3本しかないから結構大変そうだけど、器用に掴んで食べるの。
ぴいぴい
食べ残しをたけのこの皮の上に戻して指についたご飯粒をついばんでいく。
私はその食べ残しを一口で食べて両手を合わせてごちそうさま。
「ほら、小鳥もごちそうさまって。」
そう言うと小鳥もちゃんと小さな手を合わせてごちそうさまってする。
やっぱりこういうことはちゃんと教えておかないといけないもんね。
「ふえー、やっと完成ー。この服難しかったよー。」
ぴいぴい
お疲れ様でしたって感じで小鳥が鳴いてくれる。
言葉じゃないけどそういう風に聞こえる。
「ん? ありがとうね。そだ、早速着てみようよ。」
ハンカチをほどいてやって服を着せてあげる。
服に袖を通して上着を着せて……
羽根を出してあげて帽子をかぶせてあげる。
「うん、やっぱりこれが一番かな?……ちょっと大きかったけど。」(汗
ぴい♪
ちょっとぶかぶかしてるけど、小鳥もこの服を気に入ってくれた様でくるくると片足で回ってる。
小鳥が回るたびにスカートがひらひらなびいていい感じ。
ぴいっ!?
あ、回りすぎてこけた。
この子ちょっと調子に乗りすぎる?
気がつけば今日ももう終わりになってた。
小鳥にちょっと早いおやすみを言ってから私は家に帰って一日を終える。
今日はちょっと特別な日。
友達と一緒におねえちゃんのところへ遊びに行く日なの。
村からちょっと離れたところに住んでるおねえちゃんはすごく物知りで色んな事を教えてくれる。
お母さんたちが知らないようなことまで教えてくれるんだよ?
だから私たちは一週間に一度のこの日を楽しみにしてるの。
小鳥には悪いけど今日はお母さんはお休み。
とりあえずきちんと留守番してるように言っておいたし大丈夫だよね。
「美咲は今日の質問考えたー?」
「うん。今日はこれがなにか聞いてみる。」
「わ、真っ黒。」
「なんだそれ?炭じゃないの?」
「うん……炭みたいなんだけどすごく固くてなんだかわかんないの。」
「それどこで見つけたの?」
「うーんとね、裏山の杉林の……」
そんな感じで友達と話ながらおねえちゃんの家へいくの。
で、おねえちゃんから色々教えてもらった後は私たちの質問の時間。
みんなが順番に色々聞いていくの。
一人一個って決まりでね。
「で、かすみは今日は何を聞きたいんだ?」
「えっとね、この本のこと教えて欲しいの。」
私の持ってきた質問は倉においてあったあの本のこと。
おねえちゃんはパラパラと本をめくったあと、うーんとちょっと困った顔。
「どうしたの?読めないの?」
「そんなことはないが……時間はかかる。これは外国の言葉なんだ。」
「なるほどー。……その線って言葉だったんだね。」
「ああそうだ。読める様にしておくが、来週までかかるぞ。」
「いまは無理?」
「さすがにそれは無理だ。」
「うーん、残念。……そうだ!じゃあそのローレライって何かはわかる?」
「ああ、それは外国のほうの歌に出てくる人の名前だ。美しい歌声と姿で船乗りを魅了し事故を起こすといわれている。」
「この本はそのローレライについて書かれてるってことかな?」
「多分な。ちゃんと訳しておくから内容はそれまで待っていろ。」
「うん。約束ね。」
おねえちゃんの家を出てみんなと別れて、小鳥の様子を見に行く。
お昼ご飯もあげてなかったから多分おなかすかせてるだろうな。
お、ちょうどいいところにさくらんぼ。
私が食べる分もあわせていくつか採っていく。
倉に着いて驚いた。
何に驚いたかっていうとまず、小鳥って私より木の実探したりするのうまいんだなって。
そう、部屋には木の実や果物がいっぱい置いてあった。
私の採ってきたさくらんぼもすでに部屋の中に小高く積んである。
ぴい
お帰りという感じで一鳴き。
で、私はただいまと返すことも出来ないほど驚いてた。
二つめに驚いたことは小鳥が空に浮いてるからなのだ。
背中の羽はせわしなくパタパタと動いている。
ほんとにぼーぜん。
採ってきたさくらんぼも畳の上をころころと転がっている
「小鳥っていつの間に飛べるようになったの?」(汗
ぴい♪
得意げに胸を張って一鳴き。
多分驚かそうと思って練習してたんだろう。
私が家に帰ったあとに。
その風景を思い浮かべると小鳥がいつもに増してかわいく見える。
「すごいすごい!やったね小鳥!いいなーいいなー空飛べるのかー!」
私は小鳥を思いっきり抱きしめてほおずりして。
うらやましかったり、うれしかったり。
お母さんが私をぎゅーってするときはこんな気持ちなんだなぁってすごくわかった。
そしてまた驚くことが……
ありがと
思わずほおずりしてた顔を離して小鳥を見なおす。
「ありがとう……おかあさん。」
やっぱりすごく、うれしくて
思わず、小鳥を力いっぱい抱きしめた
反省。
力いっぱい抱きしめちゃったせいで小鳥ぐったりしちゃった。
落ち着いてから、ためしにと思っていろいろ言葉を教えてあげてみたんだけど、だいたいすぐ覚えてくれた。
「小鳥、頭いいんだねぇ……」
すごく意外。
これまでぴいしか言わなかったし。
実はちゃんと私の言ってることがわかってたんだね。
ともかく、明日からは言葉もちゃんと教えてあげよう。
あ、文字も読めたほうがいいよね。ここせっかく本がおいてあるんだし。
うん、今日もまた新しい目標が出来たなぁ。
「でも、ほんと早いところ名前決めて……って、お姉ちゃんに聞いてみるの忘れたー!」
うわー、私ボケてるよーと自己嫌悪。
どうしようと頭を抱えてると耳に聞こえてくる歌声。
窓際でぴいぴいって小鳥が歌ってる。
ああ、何か安らぐなぁ。思わず聞きほれちゃう。
きれいな歌声。
「そうだ!」
いきなり大声あげたから小鳥がびっくりしてこっち見てる。
「あ、ごめんね驚かせちゃったか。ま、ちょうどいいか。ねぇ、聞いて聞いて小鳥の名前思い浮かんだの。」
「なまえ……?」
首をかしげる小鳥。
「そう。あなたの名前、ローレライよ。」
やっぱり首をかしげる小鳥。
「小鳥きれいな声で歌うでしょ? ローレライって人もきれいな声で歌うんだって今日おねえちゃんから聞いたの。だから、小鳥の名前はローレライ。」
「ろーれらい……なまえ?」
舌たらずな言葉で繰り返す。
「うん。……気に入らない?」
すると小鳥は
「ろーれらい。わたしのなまえ!ろーれらい!」
元気に笑顔で繰り返してくれた。
私も笑顔
ローレライも笑顔
今日はうれしいことがすごくいっぱいあった