1 レミリア・スカーレット
「……」
「何よ。どうしたの萃香」
稗田さんちのお手伝いを終えて漸くの晩御飯にありついていると、萃香が不思議そうな顔をして私を
見つめていた。まさに不思議、何かが疑問で疑問で仕方が無いって顔でいる。
「お賽銭少ないよね」
「そうね、ずっと少ないわね」
「ここ神社だよね?」
「他に何に見える?お寺?教会?」
「神社はほら、宮司が居て神主がいて巫女がいて祀ってある神がいて神社でしょ」
「……む、うん。そうね」
こう、あまり触れないで頂きたくない部分だ。
「この神社の維持費からアタシ達の食事に至るまで、ひっくるめると年間数千円はかかると思うの」
「う……」
いえない。収入がどこから来るかなんてとても告白出来ない。別に後ろめたい何かがある訳ではない
のだけど。
「まさか……魔理沙みたいに」
「ち、違うわ!断じて違うわ!私と博麗総代の名にかけて違うわ!」
「じゃあどこから……」
萃香はきのこソバをちゅるりと啜りながら斜め上を眺めて考え始める。是非とも今すぐ終わりにした
い話題だけれど、萃香は大分深い思考にまで入り込んでいるみたい。
「神主さん……まさか……霊夢ったら人妻!?」
「ぶふぅ」
啜っていたきのこソバの汁を盛大に噴出す。どーしてそんな考えになるのよ。
「ち、違うったら。私独身よ」
「そもそも幻想郷内に居ないのかな。なるほど、外と接しているこの博麗神社ならばそれもあるかぁ。
実質神主兼宮司さんは外の世界の人。巫女は此方にいる。収入はそちらのお賽銭や初穂料から来てる
んだっ」
「さ、さぁどうかしら。その昔は延喜式にも載ってる立派な神社だったらしいけど」
「位は?」
「か、官幣小社」
「あぁー。その場合途絶えたら衰退しちゃうかもねぇ。ふぅん」
「何よ」
「それはいいや。そういえば、霊夢って私が来る前はずっと一人だったの?」
「……えぇ、まぁ」
しょっちゅう人が来るから一人って感覚はなかったけれどね。
「霊夢は好きな人はいないの?」
「い、居ないわよ。どうしたの急に、子供みたいに聞きたがりになって」
「寂しくない?」
「寂しくないわ」
「でも、霊夢はなかなか人に心を開かない」
「大きなお世話よ」
「そうかい」
「そう」
納得したらしくどんぶりを持って流しへと消えて行く。
まったく、誰が人妻よ。
まぁ、堪の良い私からすると所々で嫁にされているようないないような気がするけど。
「大体、好きな人だって……」
どうも男女比率に偏りのある幻想郷は、圧倒的に女性が多いと思う。人里に行けばそこまで意識しな
いかもしれないけれど、変な奴可笑しな奴は大体女性だ。
しかも知り合いといえば皆女性であるし、男性の知り合いなんて霖之助さんくらいだし。
『失礼するわよ』
ぼーっとそんな事を考えていると、玄関になにやら侵入者が現れたらしい。失礼するわよ、と言って
いる所からして、もう上がりこんでいるのだろう。わざわざ迎えに行くのも癪なのでふてぶてしそう
にキノコ汁を啜って待つ。
「相変わらず貧相な御夕食ね」
「とんだ挨拶ね、レミリア」
玄関から入ってくるだけ魔理沙よりマトモだけれど、当人が招かれざる客である場合それも帳消しだ。
と、思いつつもなんだかんだ。座布団とお茶を用意する辺りが悲しい。
「紅茶なんて洒落たものはないの。玄米茶で我慢して。座布団もごわごわですけどどうぞ」
「私、ここの空気好きよ。色んな意味で新鮮で」
「それはそれは、よう御座いましたね、お嬢様」
「あん。もう、酷い扱いねぇ」
「何しに来たの?瀟洒なメイドはいないのね」
どうも咲夜の姿が見当たらない。あの女の事だから突如目の前に現れても可笑しくないけど。
「ふんじばって放置プレイ。今日は一人よ」
「もう夜になるっていうのに。私は貴女のような夜行生物じゃないのよ」
「だって、貴女の顔が見たくなったんだもの。理由はそれでは駄目かしら?」
なぁんて言って、傍まで寄ると腕にしがみ付いて上目遣いで私を見上げる。深紅の瞳がちょっとばか
り強烈だけれど、綺麗だとは思う。
それにしても細いわよね。何食べてるのかしら。あ、当然血よね。契約通りの。
となると紫もなかなか大変ね。外から見繕うの。意外に働いてるじゃない、あの三年寝女郎。
……もしかして式?全部式まかせ?それもあるかなぁ。
「ねぇ霊夢。ここは窮屈ではない?」
「あの空間いじったお屋敷に比べれば狭いわよ」
「別にこの神社を卑下している訳ではないわ。ただ、毎日私が通うのも面倒だなぁって」
「つまり、どうゆう事よ」
「鈍いわねぇ♪」
レミリアは、私が気がついていて硬直しているのを知っていながら後ろに回り、両肩を抱きしめるよ
うにする。あぁ、困っちゃうなぁこういうの。
きっとあれね、私が同性愛者なんじゃないかって言う風説が流布されているんだわ。だからこう、変
なのばっかり寄り付いてくる。しかもただの女性じゃなくて吸血鬼だし。金持ちだし。
「れ・い・む♪」
「止めて頂戴。私そんな気ないわよ」
「そんな気が少なくても一向に構わないわ。貴女は意志と運命と幸運が強すぎて、なかなか運命をい
じくれないけれど。ただ一回だけ、心を許してくれれば、後は幸せになれるわよ?」
「魔に気など許さない。別に貴女を嫌っている訳じゃないの。仲良く出来ればそれに越した平和はな
いし。でも、そういう関係はご免よ」
「ふふ。気丈ねぇ。手に入らないと想うとますます欲しくなる。直ぐ手に届くちゃぶ台に乗った柏餅
と、何重もの結界が張られて更に外の世界の技術でロックされた扉の向こうにある柏餅なら、後者の
方が断然手に入れたいでしょう?」
「その意見にだけは激しく同意出来るわ」
「ふふ。貴女って本当に美味しそうよね。だから……」
レミリアが何か言ったかと思うと、首筋に鋭い痛みを感じた。本当なら振り払って更に夢想封印でも
ぶちこんであげる所だけれど、なんだか今日はそんな気が起きなかった。
「味見だけ。ごめん、霊夢」
傷口を滑った舌で舐められて、私は総毛立つ。
なんというか、なんだか今日は可笑しいや。怒る気が起きない。
別段、レミリアを嫌っている訳でもないし、如何わしい真似はされているけど敵意はないし。
それより、むしろそこまで私が好かれる理由が気になって仕方が無かった。
「霊夢の味見も出来たし、今日は帰ろうかしら。その気になったら何時でも紅魔館にいらっしゃいね」
「丁重にお断りするわ。嫁いだ瞬間から咲夜に毎日命を狙われるもの」
「あら、なら咲夜は解雇ね」
どうやら私の発言で咲夜に雇用不安を与えてしまいそうだ。むしろ無職にしたのが私だとばれたらそ
れこそ命がないじゃない。文々。新聞のトップニュースを飾る猟奇殺人事件の被害者になるのはご免
被るわ。
「あら?」
「どうしたのよ」
縁側に出たレミリアが空を見上げて立ち尽くしている。
今日は綺麗な夕暮れだと思ったのだけれど。
「雨、ね」
何時の間にか天気は土砂降りへと変わっていた。
「やけに嬉しそうね」
「ちゃんとパチェに天気予想してもらったのよ。でも雨が降ったわ。今日は神社に泊まっていきなさ
いって言う、何かしらの者の意図ね。少し神様を信じる気になったわ。キリストでなく八百万」
「素敵なお賽銭箱なら向こうよ」
まったく止む気配の無い雨。雨如きでぶっ倒れる程弱いとも思えないレミリアだけれど、流石にぶす
ぶすと白煙を上げて灰になりながら帰らせる訳にもいかない。というか見たくないわよそんなB級ホ
ラー。
なので仕方なく、本当に仕方なく家に泊める事にする。
今日はもうする事もないし、寝てしまいましょうとレミリアが言うので布団は敷いたけれど、一向に
レミリアは寝る気配がない。というか、視線が痛いわ。
「霊夢、寝ないの?」
「貴女が寝たら寝るわ」
「それじゃ困る」
「困らないわよ」
「……解った、寝るわ」
「ふぅん?」
私はレミリアの寝ている布団から二メートルほど距離を取り、その周囲に敵国の指導者の写真をばら
撒くが如く御札をばら撒き、戦場の有刺鉄線の如く注連縄を張り巡らせた。
「その結界、些かばかり強力ね」
「三歩踏み込んだら蒸発するわよ」
「障害が大きいと燃えるわよねぇ……」
そんな熱っぽく言われても困ります。さっきだってお風呂覗いて腕が吹っ飛びそうになってたじゃな
い。まぁ自業自得なのだけれど。
兎も角私はその厳重な結界の中心に横たわって天井を見上げ始める。幾らなんでもこの中に入ってく
る御馬鹿は居ないと思う。思いたい。
「ところで、小鬼を見ないわね?」
そういえばそうだ。洗い物は済ませてあったし、たぶんミスティアの屋台で酒でもかっくらっている
のだろうとは思うけれど。最近天狗と仲が良いみたいだし。
「不思議ね。巫女と鬼が共同生活だなんて。バチカンのエクソシストと悪魔が同居するようなものよ」
「宗教観の違いよ。日本じゃ鬼だって神様になる事があるの。超排他宗教と同じにしちゃだめよ」
「……霊夢」
「何よ」
「貴女が紅魔館に乗り込んできた日の事覚えてる?」
「萃香の時?」
「いいえ、最初よ。あの時、貴女が本当に恐ろしかったわ。折角安住の地を手に入れたと思ったのに、
訳の解らない紅白が突然入ってきて片っ端から家の人間を倒して、私まで調伏して」
「悪かったわね」
「いいのよ。過去の事だし、今は今で快適だもの。それに、貴女は私を敵視する訳でなし、疎外する
訳でもなし。全体的に緩い空気のある幻想郷の中でも、貴女は更に特別に緩い」
「……」
「元敵でも受け入れてくれる。貴女、あまり心を開かない人間だけれど、懐は広いのね」
「こんな狭い幻想郷でいがみ合ってなんて居られないわ。和をもって良しとなす。戦国武将もその精
神だったのよ。ほら、国土が狭いから近くに敵が居ても遠くに逃げられないでしょう」
「まぁ。欧州じゃ考えられないわね」
「みんな仲良くしたいのよ。だって、詰まらないじゃない。それに、酒飲み友達は沢山居た方がいいわ」
「ふふ」
「な、何よ」
「そういう事にしておくわ。お休み、霊夢」
なんだか含みのある言い方に、少しだけ苛立ちを覚える。けれどそれも五分で忘れる。彼女は別に私
に喧嘩を売っているのでもない。喧嘩する時は有無を言わさず弾幕だしね。
それにしても、萃香は雨に濡れたりしていないだろうか。
ずぶぬれで帰ってくるのも可哀想なので、私は一端布団を出て玄関に手ぬぐいを置いてからまた戻る。
今日はなんだかモヤモヤが晴れない。雨の所為かもしれない。早く寝て、早起きしてさっさとレミリ
アを追いだそう。
「夢想封印!」
「夢想妙珠!!」
「八方龍殺陣!!!」
「博麗弾幕結界!!!!」
「夢・想・天・生!!!!!」
その晩、五回ほどレミリアから襲撃を受けた。
2 霧雨 魔理沙
「お世話になったわね。今度は菓子折りを持ってくるわ」
「二度と来るな色情魔。アンタは吸血鬼じゃなく淫魔よ」
「ふふ、じゃあね」
まったく、眠れやしなかった。
そもそもあの結界を本当に越えようとする自体狂気を感じるわ。なんでスペルカード五発直撃食らっ
てピンピンしてるのかしら。常識を疑うわね。
「はぁ……寝なおそうかしら」
ぐったりです。
「おはスターダストレヴァリエ!!」
「封魔じーん」
「ぶべらっ」
こんなテンションで何故追い討ちをかけるように来るのよ貴女は。嫌がらせ?勘弁してよ。
「霊夢。ボディーブローはスペルカードじゃないんだぜ」
「肉弾幕を使用してはならない、なんてルールは無いわ」
「そうだな、重みのあるヘヴィーで美しい弾幕だったぜ」
「お褒めの言葉ありがと。それで何のようなのよ。私疲れてるんだから」
魔理沙を邪険に扱うつもりはないけれど、何せ昨日の今日だし。ちょっとは荒れるわよ。
「ほう。やっぱりか」
「何がやっぱりよ」
「レミリアが朝帰りだろ?霊夢の首筋にはきっついキスマークついてるし。疲れてるって言うし」
「なっ!!」
何たる不覚。これじゃあ勘違いされても無理ないわ……どうするべきかしら……消して、しまう?そ
れがいいかも知れない。魔理沙一人いなくなってもきっと皆驚かないわよ。
と、黒い思考を走らせていると、物凄いスピードで神社に何かが降り立った。
「スクープと聞いてとんできまぶぁっ」
「陰陽鬼神玉~」
鴉は一瞬の間に階段から転げ落ちて姿を見せなくなった。
「すごいな霊夢。あの鴉も一撃だぜ。世界狙わないか、そのブローで」
「貴女も食らう?」
「勘弁だぜ」
魔理沙ホールドアップ。
とりあえず誤解を解く為魔理沙を家に上げる。
何度言ってもバラすと利かないので、私も色々バラすと脅したら大人しくなって茶の間の隅で震えだした。
そうよね。手が早いものね、魔理沙は。バラされた瞬間から命を狙われる嵌めになりそうだもの。
私の私見ではまずアリス、それにパチュリー、そしてレミリアの妹に、更には霖之助さん辺りもかしら。
手が早くて何股もかけててしかも両刀だなんてバレたら幻想郷にはいられないかもね。
「霊夢、後生だから……」
「変な噂立てないなら私だって物言わぬ貝よ」
「助かるぜ。ロイヤルフレアはこりごりなんだ」
一度やられてるのね。
「それはそうと、魔理沙。貴女何しに来たのよ」
「そう、そうだった。別にデバガメしにきた訳じゃないんだぜ」
そう言って魔理沙は懐をごそごそと探り、取り出したモノをちゃぶ台に乗せて私へ寄越した。
「……綺麗ね、琥珀?」
「アンバーもアンバー。でっかいだろ」
本当に大きい。直径六センチはあろうかと言う琥珀だ。ちゃんと研かれていて、実に見目麗しい。
「霊夢にやる」
・
・
・
・
・
・
・
「何の冗談よ、嘘よ。貴女誰?妖怪?まさか、気配まで全部似せるなんて……」
「待て待て、構えるなって、私は私、霧雨魔理沙だぜ」
「この化け物、魔理沙を何処へやったの……!?」
ありえない。こんな高価そうなもの私に寄越すなんて。紫が昼寝しなくなって幽々子がご飯を食べな
くなるくらいありえない。
「じゃあ、本人か確かめるわ……昔の笑い方して」
「うふ、うふふふふ」
「魔、魔理沙だぁぁぁっ!!」
「恥かしいぜ畜生」
本当に魔理沙らしい。けれど何かしら。どうして突然?私、プレゼントなんて貰った事ないわよ。
あやしげなキノコやらクスリやらは貰った事はあるけれど、宝石なんて。
「それでどうしたのよ。まさか更に無償でなんて言わないわよね?」
「言う。貰っておいてくれ」
「ばっ……馬鹿、嘘……これ呪われてたりしない?装備したらデロデロデロデロデン、デロデンとか
鳴らない?」
「装備してみたけど教会に行く必要な無いみたいだぜ」
「ふ、ふぅんそう……」
不思議な事もあるものだ。明日は雪かはたまた槍か。隕石かもしれない。とはいえ、これだけ高価な
ものを貰えるのであれば、断る謂れなどないし。只より安いものなんてこの世には存在しないわ。
「あ、そうだ。お茶入れるわね。こんなものしか持成せないけれど」
「お構いなくだぜ」
とは言われるものの、お茶の一つも出さないのでは人としてどうかと思ったので、流しまで行ってお
湯を沸かす。
昨日からどうも色々と不自然でならない。
また変な異変でも起されているのか、とも思ったけれど、自分に降りかかる事ばかりだし。それでは
異変とも呼べない。
うーん。
純粋にただちょっとだけ周りに変化が起こっただけと考えるのが妥当かしら。強いて言えばレミリア
の所為ね。ほら、声をかけられただけで運命が変わってしまうかもしれないって言うし。
ここは深く考えず、純粋に魔理沙からのプレゼントを喜ぼう。
「ハイ、粗茶ですが」
「忝い」
サムライか。
と、次の瞬間。
「ふおぁっつっ!」
私から湯のみを受け取った魔理沙が、突如熱がって湯のみを手放してしまう。
「あ、何してるのよ、もう」
「良くそんな熱い湯のみ持てるな、手の皮厚くなるほど苦労してるのか?痛み入るぜ」
「そんな訳ないでしょ。火傷してない?」
私、そんな手の皮厚かったかしら。
「火傷はないぜ。ただ、服がびしょびしょだ」
「あー、ほら、服脱いで」
私はまるで子供の服を脱がすようにして魔理沙を剥く。
あいも変わらず幼い体よね。
「あ、あの木にいるの射命丸じゃないか?」
「!?」
それは丁度裸の魔理沙を正面に捉えているシーン。こんなところを写真に撮られたんじゃあ、明日か
ら幻想郷を歩けなくなっちゃう!
私は今後そこまで速く動く事はないだろうと云う速度で木の陰に向かって思い切り陰陽玉を投げつける。
けれど、そこは鴉天狗。寸での所で先に飛び立たれてしまった。
「ま、まずいかしら」
「うーん。その時の為に覚悟だけしておくといいぜ」
「随分と簡単に言ってくれるわね。貴女だって只じゃ済まないでしょうに」
「……お、追うぜ。何か服、服ー」
「私の着替えでよければ、はい」
「お、おう。あと霊夢」
「何よ」
「愛してる。お前は変人だが、私は奇人だからきっとお前を一番理解出来るぜ」
「そう、良かったわね」
「それじゃいってくらぁー」
魔理沙はもたもたと私の服に着替えて箒で飛んでいってしまう。これが後の腋魔女ね。私と萃香と魔
理沙でユニット組もうかしら。
……駄目ね、イタイわ。
私は魔理沙の服を干すと、改めて茶の間に戻り畳を拭き現状復帰に勤しんだ。
眠い体で無茶させてくれる辺り魔理沙らしいのだけれど、ここに魔理沙らしからぬモノが一つ。
「こんな大きな琥珀、どうしよう」
加工するにもそんな技師は知らないし、霖之助さんに預けたら出所を聞かれる。でも蔑ろにするのも
魔理沙に悪いから……。
とりあえず、神棚に飾る事にした。
二礼二拍手一礼
うん、これでいい。凄く神々しい。御神体にしようかしら。
結局、日が暮れるまで魔理沙は帰ってこなかった。妖怪の山にまで逃げ込まれたのかもしれない。私
も魔理沙もここでジエンドエンドかしら……。
特に魔理沙が。
とばっちりは受けたくない所ね。パチュリー苦手なのよ、弾幕が。というか紅魔館に住んでる人達の
弾は避け難いし安定した場所もないし、体感的にこう、被弾しやすいのよね。まったく。一番難しいわ。
なんだか更にどっと疲れてしまった。
今日も萃香は姿を見せないし、突然一人になるとこの部屋もなかなかに広いものね。狭い狭いなんて
良く言ってくれるものよ。一人酒は虚しい、もう寝てしまいましょう。
おやすみなさい
3 アリス・マーガトロイド
昨日寝れなかった分余計に寝たので、今日はとても調子が良い。なので昨日返しそびれた魔理沙の服
を届ける為に、今日は魔法の森まで赴いた。
本当に解り難い所に立っているものだから、何時もは探すのに苦労してしまう……のだけれど、今日
は一発で見つけることが出来た。
何せ、魔理沙の家に向かって真っ直ぐの一本道が出来ていたり、所々クレーターが出来ていたりする
んだもの。直ぐに解りますよそりゃあ。
どうみてもこの爪痕はマスタースパークね。所々に空いたクレーターの中心には人形の一部があるか
ら、たぶんアリスでしょう。それにこの一面焦土と化している部分はロイヤルフレアね。
やぁね。どろどろ愛憎劇?きっと「この泥棒……」
「この!泥棒猫おおぉぉぉぉぉぉっ!!!”咒詛「首吊り蓬莱人形」!!!!”」
って、私が標的!?
「くっ!」
迫り来る弾幕をひょいひょいと交し、鬼の形相でいるアリスの正面に出る。
相当頭に来ているのか、どうも話が通じそうにないわ。
「あああぁぁ、アンタ、ままま、魔理沙に何したの!」
どうやら、あの天狗はもう写真を号外としてばら撒いているみたい。焼き鳥だわ、絶対焼き鳥。
「あの鴉天狗がまともな記事書くわけないでしょ。少し冷静になりなさいよ」
「でもあの写真、どう見ても、その。あのっ!」
「情事にしか見えないって?」
「そうよっ」
「私と魔理沙がもし本当に、そんな事してたら、その事実は貴女に何か関係あるの?」
「う、ぐっ……」
あ、いけない。調子にのって愛憎劇のルートにホイホイ乗っちゃった……駄目ね、中毒性があるのかも。
「ぐす……ふぇぇぇぇぇん……」
な、泣いちゃったよ……。
「ま、まぁまぁアリス、落ち着いて頂戴。ね、一端貴女の家に戻りましょう、話はそれから」
「ぐずっ……うっ……うぅぅ……」
スケープゴートねぇ。まぁ、そんな所が馬鹿で一人上手でも可愛くもあるのだけれど。嫌いじゃない
のよ、別に。
取り乱すアリスを宥めて、気持ちを落ち着かせる。結局こんなとばっちりを食う嵌めになるのね。幸
運は一体どこにいったのかしら。
「落ち着いた?」
「えぇ……」
「じゃあ、結論から言うわ。私は魔理沙となんともない。魔理沙がお茶を溢したから、着替えを手伝
っただけなの。これ、魔理沙の服。何?あの子が私の服を着ていたから驚いた?」
「お、驚くわよ……一体どんなプレ……いえ、どんな所まで進展しちゃってるのかって」
ひ、人に自分の服着せて行為に至る人なんて聞いた事ないわよ。
「まったく、あの鴉も人騒がせね。魔理沙はどうしたの?」
「パチュリーに追われて逃げてたけれど、最後に爆音がしたから、賢者の石でも食らったのかも」
災難ね。いえ、自業自得ね。あっちこっち手を出すからそうなるのよ。
「ぐす……ねぇ霊夢ぅ……私、こんな昼メロ生き抜いて行く自信ないわよぉ……」
「奇遇ね、私もないわ」
「やっぱり魔理沙はちょっとハードル高いのかしら……」
さりげなくカミングアウト発言ね。でもその答えは正しいと思うわ。あの魔理沙が一人二人で満足す
るとは思えないし、一つに縛らせそうに無いわね。その辺りは共感出来るけれど。
私縛られるのは嫌いだし。
「そうねぇ。妥協点を見つけてみたら?」
「妥協点?」
「他に良い人はいないの?」
「ぐす……んぐっ……うぅぅ」
しまった、地雷でした。友達少ないものね……。なんだかちょっと同情しちゃう。
「霊夢」
「何?」
「霊夢」
あー……あー……、二段階の地雷なのね、これ。
今の私にトラップを仕掛けたならばきっと囮トラップ含めて全部掛かる自信があるわ。
「霊夢ぅ……私寂しいよぉう」
「わー、駄目、抱きついたりしたらまた写真とられちゃうからっ」
「霊夢は私の事嫌いかしら?私ね、私だって別に嫌いな人に差し入れを持っていったり気まぐれにお
賽銭を入れたり、こっそり境内の掃除を手伝ったりしないのよ?霊夢だからこそするのよ?」
そんな告白されても困る。
潤んだ瞳でそんなに見つめられたら、同性でもドキドキしちゃうじゃない。ちょっと自重なさいよ。
うーん、とは言え私も鬼ではないし。この場で慰めの言葉をかける位はしないと後味が悪すぎる……。
「れい……んぶぁっ」
突然どーんとアリスに押し倒される。私はアリスの手が衣服にかかったまま倒れたのであられもない
姿で横になり、アリスはその上に跨る形になってしまった。
……嫌な予感がするのよね。
本当に、誰かの意図なんじゃないかしら?
一昨日からどうも、人に接する機会が多すぎるし、あまつさえ今なんて普段全くもって行かないアリ
スの家で、しかも押し倒されてるし。
でも何の為に?これは不幸ではないけれど、迷惑の類かもしれない。
「アリス、ちょっと退いて頂戴」
「ふぃー、まったく酷い目にあったぜぇ………………………………………………………………は?」
「ハッ、いやあの。今誰かに押されたせいで……でも誰かしら?」
「は……これは、酷いわねぇ」
やっぱり予感的中。突如感さえまくり。
今ならどんな弾も見える、そこぉ、ズキューンって交しながら打てるわ。
「れ、れいむ。お前何時からアリスと出来て……」
「説明するのも面倒になってきた所よ」
「ふぇぇぇん……もう愛憎劇いやぁぁ……」
流石にもうこれ以上増えないでほしいなぁ。何故こんな事になってしまったのかしら。私にはわかり
ません。
どうかこの謎を解いてほしいのですが、きっと祟りでも何でもないんでしょうねぇ。
「あら、まぁまぁ。みんなよってたかって私の可愛い霊夢を慰み者に?」
「げ、スキマ妖怪」
さぁ、本格的に可笑しくなってまいりました。
4 伊吹 萃香
「駄目よ、人形師も魔法使いも。霊夢は私のなんだからぁ」
「いつから私がアンタの所有物になったのよ」
「馬鹿ねぇ。生まれたときからずっとに決まってるじゃない。博麗の子は私の子に相違ないわ」
ゆかりん傲慢ねぇ。確かに、結界師としても未熟でかなり紫に頼っている部分があるかもしれないけ
れど、勝手に所有物にされては堪らない。
「それで?どうするの?続ける?大人のお遊び」
「しないわよ」
「えっ……」
なんでそこでアリスががっかりするのよ。
「衝撃だぜ。霊夢はレミリアと一晩過ごした挙句アリスと一緒でしかも紫の所有物なのか、流石の魔
理沙様も吃驚仰天阿鼻叫喚土留色マスタースパーク乱れ撃ちだぜ」
「あら、あの吸血鬼も?霊夢、ちょっとは節操をつけなさいって教育したでしょう?」
「皿に残った黄粉ほども教育を受けた覚えはないわ」
えぇい、もう収集がつかないわ。このままじゃ本当にそして誰もいなくなった状態の殺人事件よ。
私はアリスを捕まえて退けるとスクッと勢い良く立ち上がり……。
「夢想封印!!!………………騙!!」
と叫ぶ。
「「「!!!!」」」
全員が突然の事に怯んだ隙に、私は全力で逃げ出した。
遠くでは何やら爆音が響いているけれど、私は気にしない。魔理沙が乱心したのか、アリスが壊れた
のか、判断をつけるのも面倒だ。
空を飛べるって自由ね。
先ほどの束縛が嘘のよう。
人に好かれるのは嫌いじゃないけれど、あんまりくっつかれるのも苦手だなぁ。
あんまり束縛されすぎたら、その内飛べなくなったりして。ありそうで恐いわ。
アリスの家から逃げ出してから約半刻。
私は取敢えず人のこなさそうな湖の辺にたどり着いた。
見渡す限りは湖。霧が掛かっているお陰で視界も悪い。隠れるなら好都合だ。
何か遠くの方で「あたいったら最強」などと聴こえた気がするけれど妖精の戯言だと思う⑨
「それにしてもー……これはドー考えても、うーん、恐らくー」
萃香の所為だと思う。
一体どのあたりに私に嫌がらせする要因があったのだろうかと振り返るも、あまり思いつかない。萃
香とはなかなか良い関係だと思う。
鬼と巫女が一緒に暮らす事へ違和感のある人もいるようだけれど、それについて萃香が何かしらの迫
害を受けた記憶もないし、私自身なんとも言われてはいない。
ギブANDテイク精神で、一緒に暮らしているだけ。
彼女は萃める力を使って掃除などしてくれるし、私は私で炊事洗濯その他事務はこなしているし。
彼女だけ不利益を被るような真似はしていない。
「鬼の考えは深遠ね」
「解らないわねぇ……って、あーもー、スキマから逃げてもやっぱり意味ないかぁ」
「ふふふ」
不気味なスキマからにゅるりと出てきた妖怪は、私の隣りに陣取り、一緒に静かな湖面を眺める。
鬼の考えより私はアンタの考えの方がよっぽど解らないわよ。
ホント、妖怪とは話が噛み合わないわ。
「どの程度まで、あの鬼の意図を汲み取っているの?」
「さっぱりよ。ていうか今までずっと私のこと見てたでしょう」
「一部始終。レミリアが現れる前の、キノコソバを食べている頃からずっとよ。しかも2視点同時に」
「便利ネェ。私にもそのスキマちょっと寄越しなさいよ」
「貴女が人間を止めるというなら考えなくも無いわ、霊夢」
人間を止めるのかぁ。きっと変な石仮面とか被らされるのね。
「WRYYYY」
「五月蝿いわ」
「はい」
「それで、どの辺りで鬼がやっているって気がついたの?」
「それが、なかなか堪が働かなかったのよ。逆にそれで可笑しいと感じたわ」
「注意力を散らされたのね」
「まずはレミリア。晴れていた空が突然雨雲に覆われて雨が降った」
「雲を萃めたのね」
「魔理沙にレミリア朝帰りを目撃されて」
「魔理沙を萃めて」
「渡したお茶が突然熱くなって」
「熱を萃めて」
「しかも鴉天狗まで呼んで既成事実作ろうとするし」
「鴉まで萃めて」
「アリスが突然ふっとんで、私に覆い被さってきたの」
「気圧か、それとも自分が霧になってつきとばしたのねぇ」
「それで、どうしてこんな事をするのか、と考えているのだけれど、先ほどから全然纏まらないのよ」
「思考も散らされてるのね。いいわ、ほら」
紫が何かしら指を振って、私の前にスキマを出現させる。
ちりじりで、まとまりの無い露が、一筋になって地面に落ちるような感覚が走る。
人に色々といじられるのは癪だけれど、今は仕方が無い。
「さぁ、出てらっしゃい鬼」
「え、なに?いるの?って……あぁ、そうかぁ」
紫に思考を元に戻してもらったお陰でやっと気がついた。
この湖面の霧は、萃香だ。
「………………」
萃香が、本当に申し訳なさそうにして、私の前に現れる。
あんまりにもしょげているので、此方が悪い気がして来た。
「すい……」
「ごめんなさい、霊夢」
「まったく。私の子の頭のなか、勝手にいじくったら駄目でしょう?スキマに落とすわよ?」
「ご、ごめんなさい……」
大きな角を揺らして、何度も何度も頭を下げる。
いたずらした子供が、本当に反省しているように何度も何度も。
「いいのよ、萃香。紫、うちの家人をあまりいじめないで」
「あん、霊夢のいけず」
「意味わかんないわ」
散らされていた思考が元に戻ったので、やっと萃香の意図がわかった。
答えは全部、キノコソバを食べていた時にあったんだ。
「萃香。貴女、私と誰かをくっ付けようとしていたのね?」
「う、うん」
「そりゃあ……うん。訂正するわ。私は人にあまり心を開かないし、その所為で寂しさを覚える事も
ある。けれど、そこまでして誰かと一緒になりたいなんて、私は思わないわ」
「余計なお世話だったね。でも、霊夢、あたしはやっぱり賑やかな方がいいと思うし、ここぞって時
に悩みを打ち明けられる人がいる方が、辛くないんじゃないかと思ったんだ」
「つまり?」
「普段は陽気な振りをしているけれど、霊夢は意外と冷めてる。でも違うの。もっと深い部分では皆
と繋がりたいって思っていても、その中ほどの中途半端な本音が回りの皆に漏れて伝わっていたのか
なって思って」
中途半端な本音?私の他愛ない、つまらない考えが皆に伝わってる?
「霊夢はすごく、すごく良い子。普段はだらけてるけど、何か起こったら解決にちゃんと向かうし、
真剣に悩んでいる人がいれば、恥かしそうに助言もするし。霊夢は良い子なんだよ。だから、それを
もっともっと皆にも知ってもらいたい。その取っ掛かりとして、親しい人を作ればいいんじゃないか
って思って……言い訳だけれど……ごめんなさい」
そう、図星を突かれた。
必死にひた隠している部分。あまり知られたくない部分。
なんだか、その事実を目の前に突きつけられると、ムネがもやもやする。
「あら……、まぁ」
紫が変な声を漏らした。
視界が悪くて良く見えない。
―――それは自分の涙で見えないのだと解って、余計悲しくなった。
「あれ、あれれ?」
涙が止まらない。
萃香もなんだかぼやけてしまって、むしょうに悔しくなる。泣いている事に更に腹がたってしまう。
「あぁ、どうしよう。紫、あたし霊夢泣かせちゃった……追い出されちゃう……宿無しは困るかも」
「だいじょうぶよ。普段気丈に振舞ってる分、火がつくと燃えやすいの。一時的よ」
「うっさい、馬鹿。ぐすっ……なによ、もう……萃香の阿呆……間抜け……腋鬼……キャラ被るのよ」
意味の無い言葉の羅列が、もっと腹立たしい。私は別に萃香を罵倒したい訳ではないのに、勝手に出
て来てしまう。
……本当に素直じゃない。
「あ、居たぞおい。みつけたぞーアリスーレミリアー」
「まぁ!霊夢ったら泣いちゃって!もぉ可愛いったらありゃしないわ」
「魔理沙、魔理沙、射命丸呼んできて。写真、写真ー」
「おおぉう……これは鬼の仕業じゃぁ……」
なんだか知らないけれど、みんなが集まってきた。なんでレミリアまでいるのよ。
非常に余計だと思う。
こんな恥かしい姿見られたら、もうみんなの前に顔向け出来ないじゃない……。
「ぐす……ふぁぁぁん……みんな嫌い嫌い嫌いぃぃ……ううぅぅ……」
「突然嫌われちまったぜ」
「霊夢」
「何よ、紫……ぐすっ」
精一杯睨みつけてやったら、紫の奴、私の事抱きしめたりする。
もっと悔しい。こんな弱い自分、もっともっと悔しい。
でも何かに、すごく縋りたい気分だったから、紫の胸に顔を埋めて、思いっきり服を涙でぬらしてやる。
「萃香」
「あ……うん。あの、皆聞いて欲しいんだけれど」
「あら小鬼。どこに隠れてたのよ」
「それはいいから。あ、あのね。霊夢なんだけど……」
また、この鬼は本当に余計だわ。私がもやもやしてるの知っててやってるのかしら。
うぅぅぅ……。
「こ、これからも、霊夢と仲良くしてほしいの。霊夢ね、本当はもっともっと優しい子なんだけれど、
究極的な恥かしがり屋なんだ。だから、その。変に突き放すような言い方しても、絶対本心なんかじゃ
ないから。あのその、ええっとぉ」
「萃香、もういいわ」
「あ、うー」
また、勝手な事言って。
私は紫の胸から顔を上げて、皆を見る。
「素直じゃない霊夢、私は大好きよ。解ってるもの。私を誰だと思っているのよ。伊達に五百年生きて
ないわ」
「そうだぜ。改めて言われるほどの事じゃないさ。嫌いなら誰があんなしみったれた神社に行くんだ?」
「さ、さっきはごめんなさいね。取り乱して。その、私も霊夢の事好きよ?」
「あ、あの。今回はこんな事になっちゃったけど。本当は恩返しがしたかったの。鬼って退治されると
首をスパーンって飛ばされちゃうでしょう?でも、霊夢はそんなことしないし、ましてやあたしみたい
な変なのと一緒に暮らしてくれるし、すごく感謝してるの。だから、また今度改めて、ちゃんとしたお
礼をしたいな。今度は迷惑をかけないように」
「……ふふ。困ったわ。変なのに好かれるわね、博麗霊夢」
皆は本物の馬鹿だと思う。
だってこんな、こんな変な、空とぶし、守銭奴だし、服装へんだし、巫女だし。こんな人間に好きなんて
いうんだから、みんな絶対変だ。
「ぐす……うあぁぁぁぁぁん!みんなばかぁぁぁ!!嫌いぃぃうぅぅぅ……」
「ああ!霊夢がまた泣いたぜ!?どうする!?弾幕か!弾幕だな!まかせろ恋色マスターへぶぅ」
「魔法少女気取りは黙ってなさい。さぁ霊夢。そんな年増なんかじゃなくてこのれみりへぶぅ」
「れ、霊夢。私ちょっと貴女のこと、いえ……今夜そっちにお邪魔してもいいかしへぶぅ」
「まてよぅ。霊夢を勝手に自分のものにするなよみんなっ。なんかちがうよぅ」
「ゆかりん☆マジック」
涙で顔がぐちゃぐちゃな私は、本当に恥かしくて。
いつもなら拒否するスキマに自ら逃げ込んだ。
落ちた先は、自分の部屋。まったく、紫にしては気が利いてる。これも悔しい。
―――本当に本当に、みんないいやつで。本当に馬鹿だ。馬鹿よ。馬鹿だわ……ぐすっ。
* 八雲 紫
「あーあ。いいのかしらこれで。きっといいのよね。ふふ」
本当は、もっと遅くともよかった。
彼女は彼女なりに成長して、自分の感情を巧く制御出来るようになればよかった。
……けれど、やっぱりイレギュラーは存在するのね。
伊吹萃香。
久々に舞い戻ってきた鬼。
そもそも、この突如戻ってきたって部分に必然性を感じる。
私はもう少し、不器用な霊夢を見ていたかったのだけれど。
霊夢ったら、泣いても可愛いのね。ほしいわねぇ。
まぁ、実質的に彼女を支配、いいえ、幻想郷を支配しているのは私なのだし、何も欲しい欲しくないの
問題で割り切る必要なんかないわ。
本当にいい子。強くて、強がりで、でも心の奥には硝子細工のように繊細な心があって。
まるで芸術品。
幻想郷の宝ね。
ああいう少女が育つのも、大結界あってこそなのかしら。
だとしたら、やっぱり外と別けたのは、大正解ね。
「萃香」
「何」
「貴女ったらホント余計よ」
「うー……」
「ふふ、まぁいいわ。ほらみて、あの子」
「可愛らしいね」
「まったくもって同意よ」
「紫はなんで、そこまで霊夢に肩入れするの?」
「『人生とは如何に暇を潰すかである』暇つぶしよ。かなり面白い暇つぶし」
「人生って、お前は妖怪じゃないか」
「人の形をしているから、いいのよ人生で」
―――ああもうほんと、霊夢は可愛い。
―――強敵は、この鬼と、吸血鬼。
―――ダークホースに魔女ッ子ね。
―――え、アリス?
――― 一人上手がお似合いよ。
博麗さんちの霊夢さん end
「……」
「何よ。どうしたの萃香」
稗田さんちのお手伝いを終えて漸くの晩御飯にありついていると、萃香が不思議そうな顔をして私を
見つめていた。まさに不思議、何かが疑問で疑問で仕方が無いって顔でいる。
「お賽銭少ないよね」
「そうね、ずっと少ないわね」
「ここ神社だよね?」
「他に何に見える?お寺?教会?」
「神社はほら、宮司が居て神主がいて巫女がいて祀ってある神がいて神社でしょ」
「……む、うん。そうね」
こう、あまり触れないで頂きたくない部分だ。
「この神社の維持費からアタシ達の食事に至るまで、ひっくるめると年間数千円はかかると思うの」
「う……」
いえない。収入がどこから来るかなんてとても告白出来ない。別に後ろめたい何かがある訳ではない
のだけど。
「まさか……魔理沙みたいに」
「ち、違うわ!断じて違うわ!私と博麗総代の名にかけて違うわ!」
「じゃあどこから……」
萃香はきのこソバをちゅるりと啜りながら斜め上を眺めて考え始める。是非とも今すぐ終わりにした
い話題だけれど、萃香は大分深い思考にまで入り込んでいるみたい。
「神主さん……まさか……霊夢ったら人妻!?」
「ぶふぅ」
啜っていたきのこソバの汁を盛大に噴出す。どーしてそんな考えになるのよ。
「ち、違うったら。私独身よ」
「そもそも幻想郷内に居ないのかな。なるほど、外と接しているこの博麗神社ならばそれもあるかぁ。
実質神主兼宮司さんは外の世界の人。巫女は此方にいる。収入はそちらのお賽銭や初穂料から来てる
んだっ」
「さ、さぁどうかしら。その昔は延喜式にも載ってる立派な神社だったらしいけど」
「位は?」
「か、官幣小社」
「あぁー。その場合途絶えたら衰退しちゃうかもねぇ。ふぅん」
「何よ」
「それはいいや。そういえば、霊夢って私が来る前はずっと一人だったの?」
「……えぇ、まぁ」
しょっちゅう人が来るから一人って感覚はなかったけれどね。
「霊夢は好きな人はいないの?」
「い、居ないわよ。どうしたの急に、子供みたいに聞きたがりになって」
「寂しくない?」
「寂しくないわ」
「でも、霊夢はなかなか人に心を開かない」
「大きなお世話よ」
「そうかい」
「そう」
納得したらしくどんぶりを持って流しへと消えて行く。
まったく、誰が人妻よ。
まぁ、堪の良い私からすると所々で嫁にされているようないないような気がするけど。
「大体、好きな人だって……」
どうも男女比率に偏りのある幻想郷は、圧倒的に女性が多いと思う。人里に行けばそこまで意識しな
いかもしれないけれど、変な奴可笑しな奴は大体女性だ。
しかも知り合いといえば皆女性であるし、男性の知り合いなんて霖之助さんくらいだし。
『失礼するわよ』
ぼーっとそんな事を考えていると、玄関になにやら侵入者が現れたらしい。失礼するわよ、と言って
いる所からして、もう上がりこんでいるのだろう。わざわざ迎えに行くのも癪なのでふてぶてしそう
にキノコ汁を啜って待つ。
「相変わらず貧相な御夕食ね」
「とんだ挨拶ね、レミリア」
玄関から入ってくるだけ魔理沙よりマトモだけれど、当人が招かれざる客である場合それも帳消しだ。
と、思いつつもなんだかんだ。座布団とお茶を用意する辺りが悲しい。
「紅茶なんて洒落たものはないの。玄米茶で我慢して。座布団もごわごわですけどどうぞ」
「私、ここの空気好きよ。色んな意味で新鮮で」
「それはそれは、よう御座いましたね、お嬢様」
「あん。もう、酷い扱いねぇ」
「何しに来たの?瀟洒なメイドはいないのね」
どうも咲夜の姿が見当たらない。あの女の事だから突如目の前に現れても可笑しくないけど。
「ふんじばって放置プレイ。今日は一人よ」
「もう夜になるっていうのに。私は貴女のような夜行生物じゃないのよ」
「だって、貴女の顔が見たくなったんだもの。理由はそれでは駄目かしら?」
なぁんて言って、傍まで寄ると腕にしがみ付いて上目遣いで私を見上げる。深紅の瞳がちょっとばか
り強烈だけれど、綺麗だとは思う。
それにしても細いわよね。何食べてるのかしら。あ、当然血よね。契約通りの。
となると紫もなかなか大変ね。外から見繕うの。意外に働いてるじゃない、あの三年寝女郎。
……もしかして式?全部式まかせ?それもあるかなぁ。
「ねぇ霊夢。ここは窮屈ではない?」
「あの空間いじったお屋敷に比べれば狭いわよ」
「別にこの神社を卑下している訳ではないわ。ただ、毎日私が通うのも面倒だなぁって」
「つまり、どうゆう事よ」
「鈍いわねぇ♪」
レミリアは、私が気がついていて硬直しているのを知っていながら後ろに回り、両肩を抱きしめるよ
うにする。あぁ、困っちゃうなぁこういうの。
きっとあれね、私が同性愛者なんじゃないかって言う風説が流布されているんだわ。だからこう、変
なのばっかり寄り付いてくる。しかもただの女性じゃなくて吸血鬼だし。金持ちだし。
「れ・い・む♪」
「止めて頂戴。私そんな気ないわよ」
「そんな気が少なくても一向に構わないわ。貴女は意志と運命と幸運が強すぎて、なかなか運命をい
じくれないけれど。ただ一回だけ、心を許してくれれば、後は幸せになれるわよ?」
「魔に気など許さない。別に貴女を嫌っている訳じゃないの。仲良く出来ればそれに越した平和はな
いし。でも、そういう関係はご免よ」
「ふふ。気丈ねぇ。手に入らないと想うとますます欲しくなる。直ぐ手に届くちゃぶ台に乗った柏餅
と、何重もの結界が張られて更に外の世界の技術でロックされた扉の向こうにある柏餅なら、後者の
方が断然手に入れたいでしょう?」
「その意見にだけは激しく同意出来るわ」
「ふふ。貴女って本当に美味しそうよね。だから……」
レミリアが何か言ったかと思うと、首筋に鋭い痛みを感じた。本当なら振り払って更に夢想封印でも
ぶちこんであげる所だけれど、なんだか今日はそんな気が起きなかった。
「味見だけ。ごめん、霊夢」
傷口を滑った舌で舐められて、私は総毛立つ。
なんというか、なんだか今日は可笑しいや。怒る気が起きない。
別段、レミリアを嫌っている訳でもないし、如何わしい真似はされているけど敵意はないし。
それより、むしろそこまで私が好かれる理由が気になって仕方が無かった。
「霊夢の味見も出来たし、今日は帰ろうかしら。その気になったら何時でも紅魔館にいらっしゃいね」
「丁重にお断りするわ。嫁いだ瞬間から咲夜に毎日命を狙われるもの」
「あら、なら咲夜は解雇ね」
どうやら私の発言で咲夜に雇用不安を与えてしまいそうだ。むしろ無職にしたのが私だとばれたらそ
れこそ命がないじゃない。文々。新聞のトップニュースを飾る猟奇殺人事件の被害者になるのはご免
被るわ。
「あら?」
「どうしたのよ」
縁側に出たレミリアが空を見上げて立ち尽くしている。
今日は綺麗な夕暮れだと思ったのだけれど。
「雨、ね」
何時の間にか天気は土砂降りへと変わっていた。
「やけに嬉しそうね」
「ちゃんとパチェに天気予想してもらったのよ。でも雨が降ったわ。今日は神社に泊まっていきなさ
いって言う、何かしらの者の意図ね。少し神様を信じる気になったわ。キリストでなく八百万」
「素敵なお賽銭箱なら向こうよ」
まったく止む気配の無い雨。雨如きでぶっ倒れる程弱いとも思えないレミリアだけれど、流石にぶす
ぶすと白煙を上げて灰になりながら帰らせる訳にもいかない。というか見たくないわよそんなB級ホ
ラー。
なので仕方なく、本当に仕方なく家に泊める事にする。
今日はもうする事もないし、寝てしまいましょうとレミリアが言うので布団は敷いたけれど、一向に
レミリアは寝る気配がない。というか、視線が痛いわ。
「霊夢、寝ないの?」
「貴女が寝たら寝るわ」
「それじゃ困る」
「困らないわよ」
「……解った、寝るわ」
「ふぅん?」
私はレミリアの寝ている布団から二メートルほど距離を取り、その周囲に敵国の指導者の写真をばら
撒くが如く御札をばら撒き、戦場の有刺鉄線の如く注連縄を張り巡らせた。
「その結界、些かばかり強力ね」
「三歩踏み込んだら蒸発するわよ」
「障害が大きいと燃えるわよねぇ……」
そんな熱っぽく言われても困ります。さっきだってお風呂覗いて腕が吹っ飛びそうになってたじゃな
い。まぁ自業自得なのだけれど。
兎も角私はその厳重な結界の中心に横たわって天井を見上げ始める。幾らなんでもこの中に入ってく
る御馬鹿は居ないと思う。思いたい。
「ところで、小鬼を見ないわね?」
そういえばそうだ。洗い物は済ませてあったし、たぶんミスティアの屋台で酒でもかっくらっている
のだろうとは思うけれど。最近天狗と仲が良いみたいだし。
「不思議ね。巫女と鬼が共同生活だなんて。バチカンのエクソシストと悪魔が同居するようなものよ」
「宗教観の違いよ。日本じゃ鬼だって神様になる事があるの。超排他宗教と同じにしちゃだめよ」
「……霊夢」
「何よ」
「貴女が紅魔館に乗り込んできた日の事覚えてる?」
「萃香の時?」
「いいえ、最初よ。あの時、貴女が本当に恐ろしかったわ。折角安住の地を手に入れたと思ったのに、
訳の解らない紅白が突然入ってきて片っ端から家の人間を倒して、私まで調伏して」
「悪かったわね」
「いいのよ。過去の事だし、今は今で快適だもの。それに、貴女は私を敵視する訳でなし、疎外する
訳でもなし。全体的に緩い空気のある幻想郷の中でも、貴女は更に特別に緩い」
「……」
「元敵でも受け入れてくれる。貴女、あまり心を開かない人間だけれど、懐は広いのね」
「こんな狭い幻想郷でいがみ合ってなんて居られないわ。和をもって良しとなす。戦国武将もその精
神だったのよ。ほら、国土が狭いから近くに敵が居ても遠くに逃げられないでしょう」
「まぁ。欧州じゃ考えられないわね」
「みんな仲良くしたいのよ。だって、詰まらないじゃない。それに、酒飲み友達は沢山居た方がいいわ」
「ふふ」
「な、何よ」
「そういう事にしておくわ。お休み、霊夢」
なんだか含みのある言い方に、少しだけ苛立ちを覚える。けれどそれも五分で忘れる。彼女は別に私
に喧嘩を売っているのでもない。喧嘩する時は有無を言わさず弾幕だしね。
それにしても、萃香は雨に濡れたりしていないだろうか。
ずぶぬれで帰ってくるのも可哀想なので、私は一端布団を出て玄関に手ぬぐいを置いてからまた戻る。
今日はなんだかモヤモヤが晴れない。雨の所為かもしれない。早く寝て、早起きしてさっさとレミリ
アを追いだそう。
「夢想封印!」
「夢想妙珠!!」
「八方龍殺陣!!!」
「博麗弾幕結界!!!!」
「夢・想・天・生!!!!!」
その晩、五回ほどレミリアから襲撃を受けた。
2 霧雨 魔理沙
「お世話になったわね。今度は菓子折りを持ってくるわ」
「二度と来るな色情魔。アンタは吸血鬼じゃなく淫魔よ」
「ふふ、じゃあね」
まったく、眠れやしなかった。
そもそもあの結界を本当に越えようとする自体狂気を感じるわ。なんでスペルカード五発直撃食らっ
てピンピンしてるのかしら。常識を疑うわね。
「はぁ……寝なおそうかしら」
ぐったりです。
「おはスターダストレヴァリエ!!」
「封魔じーん」
「ぶべらっ」
こんなテンションで何故追い討ちをかけるように来るのよ貴女は。嫌がらせ?勘弁してよ。
「霊夢。ボディーブローはスペルカードじゃないんだぜ」
「肉弾幕を使用してはならない、なんてルールは無いわ」
「そうだな、重みのあるヘヴィーで美しい弾幕だったぜ」
「お褒めの言葉ありがと。それで何のようなのよ。私疲れてるんだから」
魔理沙を邪険に扱うつもりはないけれど、何せ昨日の今日だし。ちょっとは荒れるわよ。
「ほう。やっぱりか」
「何がやっぱりよ」
「レミリアが朝帰りだろ?霊夢の首筋にはきっついキスマークついてるし。疲れてるって言うし」
「なっ!!」
何たる不覚。これじゃあ勘違いされても無理ないわ……どうするべきかしら……消して、しまう?そ
れがいいかも知れない。魔理沙一人いなくなってもきっと皆驚かないわよ。
と、黒い思考を走らせていると、物凄いスピードで神社に何かが降り立った。
「スクープと聞いてとんできまぶぁっ」
「陰陽鬼神玉~」
鴉は一瞬の間に階段から転げ落ちて姿を見せなくなった。
「すごいな霊夢。あの鴉も一撃だぜ。世界狙わないか、そのブローで」
「貴女も食らう?」
「勘弁だぜ」
魔理沙ホールドアップ。
とりあえず誤解を解く為魔理沙を家に上げる。
何度言ってもバラすと利かないので、私も色々バラすと脅したら大人しくなって茶の間の隅で震えだした。
そうよね。手が早いものね、魔理沙は。バラされた瞬間から命を狙われる嵌めになりそうだもの。
私の私見ではまずアリス、それにパチュリー、そしてレミリアの妹に、更には霖之助さん辺りもかしら。
手が早くて何股もかけててしかも両刀だなんてバレたら幻想郷にはいられないかもね。
「霊夢、後生だから……」
「変な噂立てないなら私だって物言わぬ貝よ」
「助かるぜ。ロイヤルフレアはこりごりなんだ」
一度やられてるのね。
「それはそうと、魔理沙。貴女何しに来たのよ」
「そう、そうだった。別にデバガメしにきた訳じゃないんだぜ」
そう言って魔理沙は懐をごそごそと探り、取り出したモノをちゃぶ台に乗せて私へ寄越した。
「……綺麗ね、琥珀?」
「アンバーもアンバー。でっかいだろ」
本当に大きい。直径六センチはあろうかと言う琥珀だ。ちゃんと研かれていて、実に見目麗しい。
「霊夢にやる」
・
・
・
・
・
・
・
「何の冗談よ、嘘よ。貴女誰?妖怪?まさか、気配まで全部似せるなんて……」
「待て待て、構えるなって、私は私、霧雨魔理沙だぜ」
「この化け物、魔理沙を何処へやったの……!?」
ありえない。こんな高価そうなもの私に寄越すなんて。紫が昼寝しなくなって幽々子がご飯を食べな
くなるくらいありえない。
「じゃあ、本人か確かめるわ……昔の笑い方して」
「うふ、うふふふふ」
「魔、魔理沙だぁぁぁっ!!」
「恥かしいぜ畜生」
本当に魔理沙らしい。けれど何かしら。どうして突然?私、プレゼントなんて貰った事ないわよ。
あやしげなキノコやらクスリやらは貰った事はあるけれど、宝石なんて。
「それでどうしたのよ。まさか更に無償でなんて言わないわよね?」
「言う。貰っておいてくれ」
「ばっ……馬鹿、嘘……これ呪われてたりしない?装備したらデロデロデロデロデン、デロデンとか
鳴らない?」
「装備してみたけど教会に行く必要な無いみたいだぜ」
「ふ、ふぅんそう……」
不思議な事もあるものだ。明日は雪かはたまた槍か。隕石かもしれない。とはいえ、これだけ高価な
ものを貰えるのであれば、断る謂れなどないし。只より安いものなんてこの世には存在しないわ。
「あ、そうだ。お茶入れるわね。こんなものしか持成せないけれど」
「お構いなくだぜ」
とは言われるものの、お茶の一つも出さないのでは人としてどうかと思ったので、流しまで行ってお
湯を沸かす。
昨日からどうも色々と不自然でならない。
また変な異変でも起されているのか、とも思ったけれど、自分に降りかかる事ばかりだし。それでは
異変とも呼べない。
うーん。
純粋にただちょっとだけ周りに変化が起こっただけと考えるのが妥当かしら。強いて言えばレミリア
の所為ね。ほら、声をかけられただけで運命が変わってしまうかもしれないって言うし。
ここは深く考えず、純粋に魔理沙からのプレゼントを喜ぼう。
「ハイ、粗茶ですが」
「忝い」
サムライか。
と、次の瞬間。
「ふおぁっつっ!」
私から湯のみを受け取った魔理沙が、突如熱がって湯のみを手放してしまう。
「あ、何してるのよ、もう」
「良くそんな熱い湯のみ持てるな、手の皮厚くなるほど苦労してるのか?痛み入るぜ」
「そんな訳ないでしょ。火傷してない?」
私、そんな手の皮厚かったかしら。
「火傷はないぜ。ただ、服がびしょびしょだ」
「あー、ほら、服脱いで」
私はまるで子供の服を脱がすようにして魔理沙を剥く。
あいも変わらず幼い体よね。
「あ、あの木にいるの射命丸じゃないか?」
「!?」
それは丁度裸の魔理沙を正面に捉えているシーン。こんなところを写真に撮られたんじゃあ、明日か
ら幻想郷を歩けなくなっちゃう!
私は今後そこまで速く動く事はないだろうと云う速度で木の陰に向かって思い切り陰陽玉を投げつける。
けれど、そこは鴉天狗。寸での所で先に飛び立たれてしまった。
「ま、まずいかしら」
「うーん。その時の為に覚悟だけしておくといいぜ」
「随分と簡単に言ってくれるわね。貴女だって只じゃ済まないでしょうに」
「……お、追うぜ。何か服、服ー」
「私の着替えでよければ、はい」
「お、おう。あと霊夢」
「何よ」
「愛してる。お前は変人だが、私は奇人だからきっとお前を一番理解出来るぜ」
「そう、良かったわね」
「それじゃいってくらぁー」
魔理沙はもたもたと私の服に着替えて箒で飛んでいってしまう。これが後の腋魔女ね。私と萃香と魔
理沙でユニット組もうかしら。
……駄目ね、イタイわ。
私は魔理沙の服を干すと、改めて茶の間に戻り畳を拭き現状復帰に勤しんだ。
眠い体で無茶させてくれる辺り魔理沙らしいのだけれど、ここに魔理沙らしからぬモノが一つ。
「こんな大きな琥珀、どうしよう」
加工するにもそんな技師は知らないし、霖之助さんに預けたら出所を聞かれる。でも蔑ろにするのも
魔理沙に悪いから……。
とりあえず、神棚に飾る事にした。
二礼二拍手一礼
うん、これでいい。凄く神々しい。御神体にしようかしら。
結局、日が暮れるまで魔理沙は帰ってこなかった。妖怪の山にまで逃げ込まれたのかもしれない。私
も魔理沙もここでジエンドエンドかしら……。
特に魔理沙が。
とばっちりは受けたくない所ね。パチュリー苦手なのよ、弾幕が。というか紅魔館に住んでる人達の
弾は避け難いし安定した場所もないし、体感的にこう、被弾しやすいのよね。まったく。一番難しいわ。
なんだか更にどっと疲れてしまった。
今日も萃香は姿を見せないし、突然一人になるとこの部屋もなかなかに広いものね。狭い狭いなんて
良く言ってくれるものよ。一人酒は虚しい、もう寝てしまいましょう。
おやすみなさい
3 アリス・マーガトロイド
昨日寝れなかった分余計に寝たので、今日はとても調子が良い。なので昨日返しそびれた魔理沙の服
を届ける為に、今日は魔法の森まで赴いた。
本当に解り難い所に立っているものだから、何時もは探すのに苦労してしまう……のだけれど、今日
は一発で見つけることが出来た。
何せ、魔理沙の家に向かって真っ直ぐの一本道が出来ていたり、所々クレーターが出来ていたりする
んだもの。直ぐに解りますよそりゃあ。
どうみてもこの爪痕はマスタースパークね。所々に空いたクレーターの中心には人形の一部があるか
ら、たぶんアリスでしょう。それにこの一面焦土と化している部分はロイヤルフレアね。
やぁね。どろどろ愛憎劇?きっと「この泥棒……」
「この!泥棒猫おおぉぉぉぉぉぉっ!!!”咒詛「首吊り蓬莱人形」!!!!”」
って、私が標的!?
「くっ!」
迫り来る弾幕をひょいひょいと交し、鬼の形相でいるアリスの正面に出る。
相当頭に来ているのか、どうも話が通じそうにないわ。
「あああぁぁ、アンタ、ままま、魔理沙に何したの!」
どうやら、あの天狗はもう写真を号外としてばら撒いているみたい。焼き鳥だわ、絶対焼き鳥。
「あの鴉天狗がまともな記事書くわけないでしょ。少し冷静になりなさいよ」
「でもあの写真、どう見ても、その。あのっ!」
「情事にしか見えないって?」
「そうよっ」
「私と魔理沙がもし本当に、そんな事してたら、その事実は貴女に何か関係あるの?」
「う、ぐっ……」
あ、いけない。調子にのって愛憎劇のルートにホイホイ乗っちゃった……駄目ね、中毒性があるのかも。
「ぐす……ふぇぇぇぇぇん……」
な、泣いちゃったよ……。
「ま、まぁまぁアリス、落ち着いて頂戴。ね、一端貴女の家に戻りましょう、話はそれから」
「ぐずっ……うっ……うぅぅ……」
スケープゴートねぇ。まぁ、そんな所が馬鹿で一人上手でも可愛くもあるのだけれど。嫌いじゃない
のよ、別に。
取り乱すアリスを宥めて、気持ちを落ち着かせる。結局こんなとばっちりを食う嵌めになるのね。幸
運は一体どこにいったのかしら。
「落ち着いた?」
「えぇ……」
「じゃあ、結論から言うわ。私は魔理沙となんともない。魔理沙がお茶を溢したから、着替えを手伝
っただけなの。これ、魔理沙の服。何?あの子が私の服を着ていたから驚いた?」
「お、驚くわよ……一体どんなプレ……いえ、どんな所まで進展しちゃってるのかって」
ひ、人に自分の服着せて行為に至る人なんて聞いた事ないわよ。
「まったく、あの鴉も人騒がせね。魔理沙はどうしたの?」
「パチュリーに追われて逃げてたけれど、最後に爆音がしたから、賢者の石でも食らったのかも」
災難ね。いえ、自業自得ね。あっちこっち手を出すからそうなるのよ。
「ぐす……ねぇ霊夢ぅ……私、こんな昼メロ生き抜いて行く自信ないわよぉ……」
「奇遇ね、私もないわ」
「やっぱり魔理沙はちょっとハードル高いのかしら……」
さりげなくカミングアウト発言ね。でもその答えは正しいと思うわ。あの魔理沙が一人二人で満足す
るとは思えないし、一つに縛らせそうに無いわね。その辺りは共感出来るけれど。
私縛られるのは嫌いだし。
「そうねぇ。妥協点を見つけてみたら?」
「妥協点?」
「他に良い人はいないの?」
「ぐす……んぐっ……うぅぅ」
しまった、地雷でした。友達少ないものね……。なんだかちょっと同情しちゃう。
「霊夢」
「何?」
「霊夢」
あー……あー……、二段階の地雷なのね、これ。
今の私にトラップを仕掛けたならばきっと囮トラップ含めて全部掛かる自信があるわ。
「霊夢ぅ……私寂しいよぉう」
「わー、駄目、抱きついたりしたらまた写真とられちゃうからっ」
「霊夢は私の事嫌いかしら?私ね、私だって別に嫌いな人に差し入れを持っていったり気まぐれにお
賽銭を入れたり、こっそり境内の掃除を手伝ったりしないのよ?霊夢だからこそするのよ?」
そんな告白されても困る。
潤んだ瞳でそんなに見つめられたら、同性でもドキドキしちゃうじゃない。ちょっと自重なさいよ。
うーん、とは言え私も鬼ではないし。この場で慰めの言葉をかける位はしないと後味が悪すぎる……。
「れい……んぶぁっ」
突然どーんとアリスに押し倒される。私はアリスの手が衣服にかかったまま倒れたのであられもない
姿で横になり、アリスはその上に跨る形になってしまった。
……嫌な予感がするのよね。
本当に、誰かの意図なんじゃないかしら?
一昨日からどうも、人に接する機会が多すぎるし、あまつさえ今なんて普段全くもって行かないアリ
スの家で、しかも押し倒されてるし。
でも何の為に?これは不幸ではないけれど、迷惑の類かもしれない。
「アリス、ちょっと退いて頂戴」
「ふぃー、まったく酷い目にあったぜぇ………………………………………………………………は?」
「ハッ、いやあの。今誰かに押されたせいで……でも誰かしら?」
「は……これは、酷いわねぇ」
やっぱり予感的中。突如感さえまくり。
今ならどんな弾も見える、そこぉ、ズキューンって交しながら打てるわ。
「れ、れいむ。お前何時からアリスと出来て……」
「説明するのも面倒になってきた所よ」
「ふぇぇぇん……もう愛憎劇いやぁぁ……」
流石にもうこれ以上増えないでほしいなぁ。何故こんな事になってしまったのかしら。私にはわかり
ません。
どうかこの謎を解いてほしいのですが、きっと祟りでも何でもないんでしょうねぇ。
「あら、まぁまぁ。みんなよってたかって私の可愛い霊夢を慰み者に?」
「げ、スキマ妖怪」
さぁ、本格的に可笑しくなってまいりました。
4 伊吹 萃香
「駄目よ、人形師も魔法使いも。霊夢は私のなんだからぁ」
「いつから私がアンタの所有物になったのよ」
「馬鹿ねぇ。生まれたときからずっとに決まってるじゃない。博麗の子は私の子に相違ないわ」
ゆかりん傲慢ねぇ。確かに、結界師としても未熟でかなり紫に頼っている部分があるかもしれないけ
れど、勝手に所有物にされては堪らない。
「それで?どうするの?続ける?大人のお遊び」
「しないわよ」
「えっ……」
なんでそこでアリスががっかりするのよ。
「衝撃だぜ。霊夢はレミリアと一晩過ごした挙句アリスと一緒でしかも紫の所有物なのか、流石の魔
理沙様も吃驚仰天阿鼻叫喚土留色マスタースパーク乱れ撃ちだぜ」
「あら、あの吸血鬼も?霊夢、ちょっとは節操をつけなさいって教育したでしょう?」
「皿に残った黄粉ほども教育を受けた覚えはないわ」
えぇい、もう収集がつかないわ。このままじゃ本当にそして誰もいなくなった状態の殺人事件よ。
私はアリスを捕まえて退けるとスクッと勢い良く立ち上がり……。
「夢想封印!!!………………騙!!」
と叫ぶ。
「「「!!!!」」」
全員が突然の事に怯んだ隙に、私は全力で逃げ出した。
遠くでは何やら爆音が響いているけれど、私は気にしない。魔理沙が乱心したのか、アリスが壊れた
のか、判断をつけるのも面倒だ。
空を飛べるって自由ね。
先ほどの束縛が嘘のよう。
人に好かれるのは嫌いじゃないけれど、あんまりくっつかれるのも苦手だなぁ。
あんまり束縛されすぎたら、その内飛べなくなったりして。ありそうで恐いわ。
アリスの家から逃げ出してから約半刻。
私は取敢えず人のこなさそうな湖の辺にたどり着いた。
見渡す限りは湖。霧が掛かっているお陰で視界も悪い。隠れるなら好都合だ。
何か遠くの方で「あたいったら最強」などと聴こえた気がするけれど妖精の戯言だと思う⑨
「それにしてもー……これはドー考えても、うーん、恐らくー」
萃香の所為だと思う。
一体どのあたりに私に嫌がらせする要因があったのだろうかと振り返るも、あまり思いつかない。萃
香とはなかなか良い関係だと思う。
鬼と巫女が一緒に暮らす事へ違和感のある人もいるようだけれど、それについて萃香が何かしらの迫
害を受けた記憶もないし、私自身なんとも言われてはいない。
ギブANDテイク精神で、一緒に暮らしているだけ。
彼女は萃める力を使って掃除などしてくれるし、私は私で炊事洗濯その他事務はこなしているし。
彼女だけ不利益を被るような真似はしていない。
「鬼の考えは深遠ね」
「解らないわねぇ……って、あーもー、スキマから逃げてもやっぱり意味ないかぁ」
「ふふふ」
不気味なスキマからにゅるりと出てきた妖怪は、私の隣りに陣取り、一緒に静かな湖面を眺める。
鬼の考えより私はアンタの考えの方がよっぽど解らないわよ。
ホント、妖怪とは話が噛み合わないわ。
「どの程度まで、あの鬼の意図を汲み取っているの?」
「さっぱりよ。ていうか今までずっと私のこと見てたでしょう」
「一部始終。レミリアが現れる前の、キノコソバを食べている頃からずっとよ。しかも2視点同時に」
「便利ネェ。私にもそのスキマちょっと寄越しなさいよ」
「貴女が人間を止めるというなら考えなくも無いわ、霊夢」
人間を止めるのかぁ。きっと変な石仮面とか被らされるのね。
「WRYYYY」
「五月蝿いわ」
「はい」
「それで、どの辺りで鬼がやっているって気がついたの?」
「それが、なかなか堪が働かなかったのよ。逆にそれで可笑しいと感じたわ」
「注意力を散らされたのね」
「まずはレミリア。晴れていた空が突然雨雲に覆われて雨が降った」
「雲を萃めたのね」
「魔理沙にレミリア朝帰りを目撃されて」
「魔理沙を萃めて」
「渡したお茶が突然熱くなって」
「熱を萃めて」
「しかも鴉天狗まで呼んで既成事実作ろうとするし」
「鴉まで萃めて」
「アリスが突然ふっとんで、私に覆い被さってきたの」
「気圧か、それとも自分が霧になってつきとばしたのねぇ」
「それで、どうしてこんな事をするのか、と考えているのだけれど、先ほどから全然纏まらないのよ」
「思考も散らされてるのね。いいわ、ほら」
紫が何かしら指を振って、私の前にスキマを出現させる。
ちりじりで、まとまりの無い露が、一筋になって地面に落ちるような感覚が走る。
人に色々といじられるのは癪だけれど、今は仕方が無い。
「さぁ、出てらっしゃい鬼」
「え、なに?いるの?って……あぁ、そうかぁ」
紫に思考を元に戻してもらったお陰でやっと気がついた。
この湖面の霧は、萃香だ。
「………………」
萃香が、本当に申し訳なさそうにして、私の前に現れる。
あんまりにもしょげているので、此方が悪い気がして来た。
「すい……」
「ごめんなさい、霊夢」
「まったく。私の子の頭のなか、勝手にいじくったら駄目でしょう?スキマに落とすわよ?」
「ご、ごめんなさい……」
大きな角を揺らして、何度も何度も頭を下げる。
いたずらした子供が、本当に反省しているように何度も何度も。
「いいのよ、萃香。紫、うちの家人をあまりいじめないで」
「あん、霊夢のいけず」
「意味わかんないわ」
散らされていた思考が元に戻ったので、やっと萃香の意図がわかった。
答えは全部、キノコソバを食べていた時にあったんだ。
「萃香。貴女、私と誰かをくっ付けようとしていたのね?」
「う、うん」
「そりゃあ……うん。訂正するわ。私は人にあまり心を開かないし、その所為で寂しさを覚える事も
ある。けれど、そこまでして誰かと一緒になりたいなんて、私は思わないわ」
「余計なお世話だったね。でも、霊夢、あたしはやっぱり賑やかな方がいいと思うし、ここぞって時
に悩みを打ち明けられる人がいる方が、辛くないんじゃないかと思ったんだ」
「つまり?」
「普段は陽気な振りをしているけれど、霊夢は意外と冷めてる。でも違うの。もっと深い部分では皆
と繋がりたいって思っていても、その中ほどの中途半端な本音が回りの皆に漏れて伝わっていたのか
なって思って」
中途半端な本音?私の他愛ない、つまらない考えが皆に伝わってる?
「霊夢はすごく、すごく良い子。普段はだらけてるけど、何か起こったら解決にちゃんと向かうし、
真剣に悩んでいる人がいれば、恥かしそうに助言もするし。霊夢は良い子なんだよ。だから、それを
もっともっと皆にも知ってもらいたい。その取っ掛かりとして、親しい人を作ればいいんじゃないか
って思って……言い訳だけれど……ごめんなさい」
そう、図星を突かれた。
必死にひた隠している部分。あまり知られたくない部分。
なんだか、その事実を目の前に突きつけられると、ムネがもやもやする。
「あら……、まぁ」
紫が変な声を漏らした。
視界が悪くて良く見えない。
―――それは自分の涙で見えないのだと解って、余計悲しくなった。
「あれ、あれれ?」
涙が止まらない。
萃香もなんだかぼやけてしまって、むしょうに悔しくなる。泣いている事に更に腹がたってしまう。
「あぁ、どうしよう。紫、あたし霊夢泣かせちゃった……追い出されちゃう……宿無しは困るかも」
「だいじょうぶよ。普段気丈に振舞ってる分、火がつくと燃えやすいの。一時的よ」
「うっさい、馬鹿。ぐすっ……なによ、もう……萃香の阿呆……間抜け……腋鬼……キャラ被るのよ」
意味の無い言葉の羅列が、もっと腹立たしい。私は別に萃香を罵倒したい訳ではないのに、勝手に出
て来てしまう。
……本当に素直じゃない。
「あ、居たぞおい。みつけたぞーアリスーレミリアー」
「まぁ!霊夢ったら泣いちゃって!もぉ可愛いったらありゃしないわ」
「魔理沙、魔理沙、射命丸呼んできて。写真、写真ー」
「おおぉう……これは鬼の仕業じゃぁ……」
なんだか知らないけれど、みんなが集まってきた。なんでレミリアまでいるのよ。
非常に余計だと思う。
こんな恥かしい姿見られたら、もうみんなの前に顔向け出来ないじゃない……。
「ぐす……ふぁぁぁん……みんな嫌い嫌い嫌いぃぃ……ううぅぅ……」
「突然嫌われちまったぜ」
「霊夢」
「何よ、紫……ぐすっ」
精一杯睨みつけてやったら、紫の奴、私の事抱きしめたりする。
もっと悔しい。こんな弱い自分、もっともっと悔しい。
でも何かに、すごく縋りたい気分だったから、紫の胸に顔を埋めて、思いっきり服を涙でぬらしてやる。
「萃香」
「あ……うん。あの、皆聞いて欲しいんだけれど」
「あら小鬼。どこに隠れてたのよ」
「それはいいから。あ、あのね。霊夢なんだけど……」
また、この鬼は本当に余計だわ。私がもやもやしてるの知っててやってるのかしら。
うぅぅぅ……。
「こ、これからも、霊夢と仲良くしてほしいの。霊夢ね、本当はもっともっと優しい子なんだけれど、
究極的な恥かしがり屋なんだ。だから、その。変に突き放すような言い方しても、絶対本心なんかじゃ
ないから。あのその、ええっとぉ」
「萃香、もういいわ」
「あ、うー」
また、勝手な事言って。
私は紫の胸から顔を上げて、皆を見る。
「素直じゃない霊夢、私は大好きよ。解ってるもの。私を誰だと思っているのよ。伊達に五百年生きて
ないわ」
「そうだぜ。改めて言われるほどの事じゃないさ。嫌いなら誰があんなしみったれた神社に行くんだ?」
「さ、さっきはごめんなさいね。取り乱して。その、私も霊夢の事好きよ?」
「あ、あの。今回はこんな事になっちゃったけど。本当は恩返しがしたかったの。鬼って退治されると
首をスパーンって飛ばされちゃうでしょう?でも、霊夢はそんなことしないし、ましてやあたしみたい
な変なのと一緒に暮らしてくれるし、すごく感謝してるの。だから、また今度改めて、ちゃんとしたお
礼をしたいな。今度は迷惑をかけないように」
「……ふふ。困ったわ。変なのに好かれるわね、博麗霊夢」
皆は本物の馬鹿だと思う。
だってこんな、こんな変な、空とぶし、守銭奴だし、服装へんだし、巫女だし。こんな人間に好きなんて
いうんだから、みんな絶対変だ。
「ぐす……うあぁぁぁぁぁん!みんなばかぁぁぁ!!嫌いぃぃうぅぅぅ……」
「ああ!霊夢がまた泣いたぜ!?どうする!?弾幕か!弾幕だな!まかせろ恋色マスターへぶぅ」
「魔法少女気取りは黙ってなさい。さぁ霊夢。そんな年増なんかじゃなくてこのれみりへぶぅ」
「れ、霊夢。私ちょっと貴女のこと、いえ……今夜そっちにお邪魔してもいいかしへぶぅ」
「まてよぅ。霊夢を勝手に自分のものにするなよみんなっ。なんかちがうよぅ」
「ゆかりん☆マジック」
涙で顔がぐちゃぐちゃな私は、本当に恥かしくて。
いつもなら拒否するスキマに自ら逃げ込んだ。
落ちた先は、自分の部屋。まったく、紫にしては気が利いてる。これも悔しい。
―――本当に本当に、みんないいやつで。本当に馬鹿だ。馬鹿よ。馬鹿だわ……ぐすっ。
* 八雲 紫
「あーあ。いいのかしらこれで。きっといいのよね。ふふ」
本当は、もっと遅くともよかった。
彼女は彼女なりに成長して、自分の感情を巧く制御出来るようになればよかった。
……けれど、やっぱりイレギュラーは存在するのね。
伊吹萃香。
久々に舞い戻ってきた鬼。
そもそも、この突如戻ってきたって部分に必然性を感じる。
私はもう少し、不器用な霊夢を見ていたかったのだけれど。
霊夢ったら、泣いても可愛いのね。ほしいわねぇ。
まぁ、実質的に彼女を支配、いいえ、幻想郷を支配しているのは私なのだし、何も欲しい欲しくないの
問題で割り切る必要なんかないわ。
本当にいい子。強くて、強がりで、でも心の奥には硝子細工のように繊細な心があって。
まるで芸術品。
幻想郷の宝ね。
ああいう少女が育つのも、大結界あってこそなのかしら。
だとしたら、やっぱり外と別けたのは、大正解ね。
「萃香」
「何」
「貴女ったらホント余計よ」
「うー……」
「ふふ、まぁいいわ。ほらみて、あの子」
「可愛らしいね」
「まったくもって同意よ」
「紫はなんで、そこまで霊夢に肩入れするの?」
「『人生とは如何に暇を潰すかである』暇つぶしよ。かなり面白い暇つぶし」
「人生って、お前は妖怪じゃないか」
「人の形をしているから、いいのよ人生で」
―――ああもうほんと、霊夢は可愛い。
―――強敵は、この鬼と、吸血鬼。
―――ダークホースに魔女ッ子ね。
―――え、アリス?
――― 一人上手がお似合いよ。
博麗さんちの霊夢さん end
>収入がどこから来るかなんてとても告白出来ない
で、それは実際なんなのかとても気になりますw
その気持ちわかります、凄くww
全編にやにや所々で吹き出しかけたりしながら楽しめましたww
>>博霊総代の名にかけて
こことか、博麗と博霊が混在している気がしないでもなかったり。
あと勝手に名をつかっちゃダメだよ霊夢(笑)…っていうかいたんだ総代、っていうか氏子orz
>まるで芸術品。
>幻想郷の宝ね。
でも、こちらの世界で「キレイな物語」が育ちきりにくいのはなぜでしょう?
世の中にはこんなにも物語りが溢れているのに。むしろ消費されてるだけとも謂いますけど感情も生活も物語も。
なんにしても、一人上手が似合うアリスって・・・・・
霊夢かわいいよ霊夢
後両刀使いかよww
霊夢の服着た魔理沙ああ!
氏子は私達なんですきっと。素敵なお賽銭箱どこですかね。
いえお賽銭と言わず養ってあげたいです。
>社格制度とか。
資本主義恐るべしです……。でも紅魔館って収入源なんでしょうね?
>「キレイな物語」
人間って素敵です。こんな東方なんて世界も作ってしまうのですから。
これは紫さんの霊夢贔屓かもしれないのです。あんあん。
>霊夢かわいいよ霊夢
奇々○界とか式神の○とか、ホントもう人生巫女です。
幼馴染は巫女さんです。でもあってません。現実は辛いです。
>霊夢の服着た魔理沙ああ!
私と一緒にお酒飲みません?
ご評価頂き有難う御座います、泣いちゃいそうです。
誤字指摘は改めて感謝いたします。
こんなお話でも読んでくださって、皆さんは優しいですね。
おぉぉ……社格制度が社会格差にみえた私って、毒されてるんでしょうか……。
何度も一人ですみません……。
>「この神社の維持費からアタシ達の食事に至るまで、ひっくるめると年間数千円はかかると思うの」
少な過ぎませんか?
終始頬緩みっぱなしでしたよ。
誤字?
>感の良い私からすると所々で~
勘の良い~ でしょうか?
下の方
>少な過ぎませんか?
恐らく、ですが明治中期辺りの物価
当時の1円/現25000~30000円辺りで計算さされてるのではないかと。
1円/5000~7000円ぐらいか。
なんていう百合臭。 このSSは萌える。
天狗の仕業じゃ。文にゃん自重。
>少な過ぎ
昔の物価かもです、にんにん。
>なんていう百合臭
五百歳でも少女臭。譲れませんね。
誤字修正しました。泣けます。ありがとうございまうす。
>ジエンドエンド
コピペミスかと
>感が働かなかった
誤変換かと
>あたしみない
入力ミスかと
>アリスの押し倒される
「突然どーんとアリスの押し倒される」は「突然どーんとアリスに押し倒される」でしょう。
幻想郷の男女比率が崩れているという表記に違和感。
いくらなんでも二次設定に毒されすぎでしょう。
魔理沙の女癖が悪いのもしかり。
そんなことは置いておいて。
霊夢を味見するお嬢様にはうぎぎぎぎ。
あっさりと抹殺される文々。には涙が止まらない。
>「じゃあ、本人か確かめるわ……昔の笑い方して」
>「うふ、うふふふふ」
ちょww
後ろの作品から先に読んだのですが、ああ、だから神棚に琥珀があったんだなと納得。
思い込みの激しいアリスはたまらん。
何気に大胆なのも良い。
とにかくアリスは良い。
ええ、お前の好みなんか聞いてないって。
どうもすみません。私もアリス好きなんで。
それはともかく、萃香が良い娘で可愛らしいですな。
人恋しさに涙する霊夢も可愛らしい。
実にほのぼのする良い作品でした。
また貴方の作品を読んでみたいですね。
いやはや、なんとも。新参の悪癖とでもいいますか、申し訳ないです。
以後気をつけたいと思います。
良質のご批評、感謝感謝の天アラレであります。
誤字指摘してくださった方々も本当に有難う御座いました。泣けます。
嬉しくて。
私もこんな言葉知ってますよ。
「人生は暇潰しである。」
所さんの名言です。
でも、アリスが不憫……
隕石はともかく、要石なら十分ありうる