ここは幻想郷の魔法の森。人が訪れる事がほとんど無い静寂に包まれた場所。
その森の中に隠れるように建つ一軒の家。
まるで人が来る事を拒むかの如く建てられた家には1人の少女が住んでいた。
彼女の名はアリス・マーガトロイド。
一見人間のようだが普通の人間には使えない「魔法」というものを使う事ができる「魔法使い」という種族である。
幻想郷には彼女のような「魔法使い」の他に妖怪や悪魔といった種族が存在し、お互い様々な交流が行われ共存している。
しかし彼女、アリスは自ら他の種族と交流をする事はほとんど無く家の中で自立人形の研究を続けていた。
そんな日々が続く中、同じく魔法の森にすんでいる霧雨魔理沙という少女に誘われアリスは博麗神社で行われた宴会に参加する事になった。
様々な種族が集まったその賑やかな宴を楽しんでいたアリスだったが
(ここに私はいていいのだろうか?)
と感じていた。
そんな中、魔理沙が
「そういえばアリスの家に最近遊びに行ってないな」
と言ったところ
「そもそも私はどこにあるか知らないし」
盃を傾けながら会場である博麗神社の主の博麗霊夢がややほろ酔い気味に答えた。
「ちょっと、まさかまた私の家を荒らすつもり?」
「いや、そんなことはないぜ。この前はちょっと面白そうなものがあったから見せてもらっただけだろ?」
「だからって勝手にマジックアイテムを起動しないでよ!私が気付いて止めなかったら大変な事になっていたんだから!」
「別に何もなかったんだからいいじゃないか」
「よくない!いつもこれなんだから…」
「魔理沙…、あんたパチュリーだけじゃなくアリスの所も荒らしているの?」
「いや、だから、面白そうな物があったんだからしかたなかったんだって。そうだ!霊夢も一度アリスの家に来てみれば分かるから」
「何が分かるのよ?まあ、たまにはお茶を出してもらうのも悪くないわね。いっつも誰かさんが入り浸ってるし」
「おいおい、暇そうだから話し相手に来てやってるんだろ。とにかくアリスの家に行くのは決まりだな」
「ちょっと、勝手に決めないでよ!」
「まあ、いいじゃないか。減るもんじゃないんだし」
「減るわよ!一体いくつマジックアイテムを駄目にしたと思ってるの?」
「えーと…、いくつだっけ?とにかく今度霊夢を連れて遊びに行くからケーキでも用意しておいてくれよ」
「私は和菓子の方がいいかな。久しぶりに羊羹食べたいのよね」
「あーもう、分かったわよ。来るなと言っても来るんだしちゃんと用意しておくから遅れずに来てよね」
そんなやり取りが行われた宴会が終わり数日後の約束の日。
アリスはキッチンに向かっていた。
「よし、あとはケーキが焼き上がるのを待つだけね。それじゃ、紅茶の用意も始めなくちゃ」
そう言いお気に入りのティーセットを戸棚から出しお湯を沸かし始める。
「霊夢には羊羹だから緑茶の方がいいわね。上海、急須と湯呑みを出しておいて」
その言葉に反応し彼女のそばを浮いていた上海人形が動き出し急須と湯呑みを持ってくる。
「さて、用意はできたし魔理沙と霊夢が来るのを待つだけね。でもちょっと用意するの早すぎたかしら?」
そう呟き時計に目をやると約束の時間よりも数時間も前であった。
「本でも読んで気長に待つしかないみたいね」
しばらく経つと空に雲がかかり元々薄暗い魔法の森が更に暗くなっていった。
そして雨が降り始め、その勢いは少しずつ強くなりついにはバケツをひっくり返したような雨となった。
そんな雨を見つめながらアリスは宴会の後、魔理沙が別れ際に言った事を思い出した。
(もし雨だったら霊夢が面倒とか言うだろうし行かないことにするぜ)
「こんな雨じゃ来てくれないよね…」
アリスは胸が締め付けられる思いがした。
魔理沙達が来ないだけではない。
雨は彼女に悲しい記憶を呼び覚ます物だからである。
それは彼女が幻想郷とは違う世界である魔界にいた頃の記憶である。
魔界、それは創造主である神綺に生み出された妖怪達が平和に暮らす場所であり、アリスが幼い頃過ごしていた場所である。
その頃のアリスは神綺の娘としてなに不自由なく暮らしていた。
欲しいものは全て手に入り、誰からも愛され、全てを愛していた。
神綺が魔界の創造主であったためあまり会う事ができず寂しかった事を除いては…。
そんなある日の事、
「お母様、どうしたの?急に部屋に来てだなんて」
「それはね、アリスちゃんにプレゼントがあるのよ」
「え、プレゼント!何々?」
「ふふ、それはね、この子よ」
そう言うと神綺は一体の人形を彼女に差し出した。
「うわ~、かわいいね。この子の名前はなんていうの?」
「この子はね、上海という名前なのよ」
「そっかー、私はアリス。よろしくね、上海」
神綺から上海を受け取ろうとした時、アリスは神綺の手に傷があることに気付いた。
「お母様、その手の傷は…」
「ああ、これは上海を作る時にちょっとね。夢子ちゃんに教えてもらったんだけど裁縫は妖怪みたいにうまくいかないわね」
そう言い神綺は手の傷にそっと触れた。
「私の為に…、ありがとう!お母様」
アリスは上海をぎゅっと抱きしめながら最高の笑顔を神綺に向けた。
「どういたしまして。2人とも仲良くするのよ」
「もちろん。私と上海は親友なったんだから」
そしてその日の夕食。アリスの隣には上海がいた。
「アリス様、食事中は人形を部屋に置いてきて下さい」
「人形じゃないわ、上海よ。私の親友だからいつも一緒なの」
「しかしですね…」
「まあまあ、夢子ちゃん。いいじゃないの」
「神綺様がそうおっしゃるのなら…」
夢子はやや不服そうな顔をしていたが納得をした。
そんな夢子を見た神綺はアリスに向かってそっと微笑み、アリスも神綺に向かって微笑んだ。
それからというものアリスは常に上海と一緒だった。
本を読む時も、遊びに行く時も、寝る時も。
彼女にとって上海は親友であるとともにもう1人の神綺であった。
人形を用意するだけなら夢子に作ってもらうだろうし、妖怪を作るのは魔界の創造主である神綺にとっては造作も無い事であるからである。
自分の為に手を怪我してまで作ってくれた上海には神綺の心が宿っている。アリスはそう感じていた。
そんな日々が続いたある日アリスは神綺達とピクニックに行く事になった。
神綺は創造主としての仕事が忙しい為、アリスと一緒に過ごす時間がほとんどないことに心を痛めていた。
上海がいてもアリスにはいつも寂しい思いさせてしまっている。
彼女の為に他に何かできないか?
そう考えた神綺が出した結論がピクニックであった。
元々反対していた夢子も魔界の現状を視察するという事で納得し了承をした。
そして迎えたピクニック当日。
神綺と初めてのピクニック。
その場にはアリスと神綺だけでなく夢子、そしてアリスの遊び相手のマイとユキが集まっていた。
見慣れたはずの魔界の風景。しかしアリスにとって今見るこの風景は何よりも輝いて見えた。
もっと甘えたかった、いつも一緒にいたかった。
でもできなかった。
そんな母、神綺と今日はずっと一緒にいられる。
この喜びが目に映るものすべて美しく見せていた。
永遠に続いて欲しい、そんな時間が流れとある小高い丘へと一行は辿り着いた。
ここは魔界を一望できるアリスが大好きな場所である。
この景色を神綺に見せたい。そんな思いがアリスの足を速めていき遂には走り出した。
「お母様、早く、早く」
「そんなに慌てないの。転んじゃうわよ」
「大丈夫よ。いつも来ているところだし…きゃっ」
そう言った矢先アリスは転んでしまい、抱いていた上海は彼女の腕の中から離れていった。
「いたた、あれ、上海は?」
転んだ時に擦りむいた膝の痛みをこらえながら当たりを見回すとそこには信じられないものが目に映った。
首取れてしまった上海である。
裁縫初心者であった神綺が作った上海はそれほど丈夫ではなかった。
その上アリスが常に連れていた為知らず知らずのうちに痛んでしまっていたのだった。
「しゃ、上海…、いやぁぁぁぁーーー!」
大切な親友である上海、神綺の思いが込められた上海、もう1人の母である上海。
そんなかけがえのない存在に自分がしてしまった事を直視できず我を忘れてしまいアリスの魔力は暴走してしまった。
本人はまだ上手くコントロールできないがその潜在能力は高く、神綺に迫る程であった。
「アリスちゃん、落ち着いて。大丈夫だから」
神綺が呼びかけるもののその声はアリスには届いていなかった。
「ごめんね、上海。私の…、私のせいで…。うわーーーん」
「神綺様、ここは危険です。一度お下がり下さい。マイ、ユキ、お前達も早く避難するんだ」
「わ、分かりました…」
「……はい…」
そう言うとマイとユキは逃げるようにその場から去っていった。
「神綺様も早く!」
「いえ、ここは私に任せてくれないかしら」
「そんな!危険過ぎます。暴走が収まるまで離れているべきですよ」
「夢子ちゃん、私はあの子の母なのよ。泣いている我が子を放っておける親なんていないでしょう」
そう言うやいなや、神綺はアリスの方へと走り出した。
暴走した魔力は容赦なく神綺を傷つけていく。
もし彼女が本来の力を使っていたならばこのような傷がつくことはなかったであろう。
しかし使わなかった。
その力を使う事は我が子であるアリスにその力を向けることであるからである。
今まで寂しい思いをさせて傷つけてきた。
これ以上傷つけたくない。
そんな思いが力を使う事を拒否していた。
神綺がやっとの思いでアリスの側に辿り着いた時、その体は傷だらけで今にも倒れそうな状態にだったがそんな事はものともせずアリスを優しく抱きしめてそっと語りかけた。
「大丈夫よ、アリスちゃん。アリスちゃんのせいじゃない。お母さんも上海も分かっているわ」
その言葉にアリスは我に返り魔力の暴走は収まった。
しかし涙は止まらず神綺の腕の中で泣き続けた。
「お母様、ごめんなさい。ごめんなさい…」
「いいのよ。落ち着くまでずっとこうしてあげるから、ね」
それからしばらくの時が流れ、泣き疲れてしまったのかアリスは静かに寝息をたて始めた。
その安らかな寝顔を見て安心した神綺は力が抜けてしまったのかその場にたおれこんでしまった。
「神綺様!」
夢子はそう叫ぶと神綺の元へ駆け寄った。
「やはり傷が…。早く治療をしなくては」
そう言ったものの手持ちの荷物には手当てに使えるものがないので神綺の屋敷へと運ばなければならない。
しかしアリスも放置しておける状態ではなくどうすればいいか夢子が悩んでいると不意に物音がした。
「誰だ!」
「わ、私は怪しい者じゃないですよ。物凄い音が聞こえたからちょっと見に来ただけで…って神綺様が!」
現れたのは魔界人のルイズ。
好奇心旺盛な彼女は面白半分でこの場に現れたのであった。
「怪我をしてしまって一刻も早く手当てしないといけない状態なんだ。私は神綺様を運ぶからお前はアリス様を運んでくれ」
「わ、分かりました」
答えるとルイズはアリスをおぶり神綺の屋敷へと一目散に飛んでいった。
その姿を見ながら神綺を抱きかかえて夢子は後を追い、誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。
「神綺様がこんなことになるなんて…」
震えたその声は何かに脅えているかのようでもあった。
それから数日後アリスはようやく目を覚ました。
まずその目に映ったのはまるであの出来事が無かったかのように傍らにいる上海であった。
夢であればよかったのに…。
そうアリスは強く思ったがあの時抱きしめてくれた神綺の暖かさがそれは現実であると証明している。
心地よい暖かさであったがそれ以上に自分の行ってしまった事への罪悪感が胸を痛めた。
神綺に謝らなくてはいけない。
そう思い神綺の所へと向かおうとすると夢子と鉢合わせた。
「アリス様、お目覚めになられましたか」
「ええ、お母様に会いたいのだけれど…」
「神綺様はまだ傷が癒えておらず安静にしていなければなりません。申し訳ないのですが今はちょっと…」
「そう、分かったわ…」
夢子の言葉を聞いて改めて自分の行ってしまった事を悔やみその場を重い足取りで去っていった。
目的地があるわけもなくただ、アリスは上海を連れ魔界を歩いていた。
そんな中アリスの頭に2人の少女の姿が浮かんだ。
マイとユキだ。
いつも一緒に遊んでいる二人にも謝らなければならない。
そう思い彼女達といつも遊んでいる場所へと向かった。
その場所にはやはり二人はいた。
アリスは二人に謝ろうと声をかけようとしたが躊躇した。
自分の行ってしまった事に対してどう言えばいいのか分からなかった。
もし許してくれなかったらどうすればいいのか。
もし拒絶されてしまったら…
そんな事を考えて声をかけられずにいると彼女達の会話が聞こえてきた。
「ねえ、ユキ。私達これからアリス様とどう接すればいいのかな?」
「正直、関わりたくないね、わがままだし神綺様にあれだけの怪我をさせるほど危険だし」
「ちょっとそれはさすがに言いすぎじゃ…。確かにあの力は危険だと思うけどさ…」
「神綺様の娘だからって調子に乗っていたんだからバチがあたったのさ。第一私達は神綺様に創られたのになんであいつだけ娘なの?」
「それは分からないけど、神綺様にも考えがあるんだし…」
「とにかくもう金輪際あいつの相手するつもりはない。マイも言ってたじゃない。相手にすると疲れるって」
「たしかに言ったけどそんなことしたら…」
「大丈夫、この場所に来ないようにすれば顔合わせる事も無いだろうし、万が一会ったとしても適当に言い訳すればなんとかなるでしょ」
「それもそうね。アリス様は単純な所あるし」
「じゃあとっとこんな場所から離れるか。そろそろ目を覚ましている頃だろうし」
そして二人は飛び立ってどこかへ行ってしまった。
二人の会話を聞いたアリスはその場で立ち尽くしてしまっていた。
いつも無口なユキがあれほど喋るのを聞いたことは一度もなく、心の中では自分を嫌っていた。
対照的に色々とおしゃべりなマイも実は煩わしく思っていた。
友達と思っていたその関係は偽りだった。
まるで心に穴が開いたような感じで何も考えられなかった。
それからしばらく時が流れ
「帰ろうか、上海…」
そう言うとふらふらと屋敷の方へと歩き出した。
気が付いた時には神綺の部屋の前にいた。
夢子から言われて会えない事はわかっている。
でも神綺に会いたい。
そう思い扉に手が触れようとすると神綺と夢子の話し声が聞こえてきた。
「神綺様、安静にと言ったでしょう。上海の修理は私がすると言っていたのに…」
「それじゃ駄目なのよ、私が原因なんだから上海の手当ては私がしないといけないの」
「だからって!そもそのアリス様は元は人間、娘ではないじゃないですか!」
「確かに血の繋がりは無いかもしれない。でもあの子は私にとって愛する娘である事に変わりはないの」
「しかし!そのことが魔界の住人に知れれば神綺様の威厳にも関わるのですよ!」
「構わないわ。これ以上あの子を傷つけることがないのなら」
アリスには信じられなかった。
自分が神綺の子供ではない事。
元々人間であった事。
自分の存在が神綺を苦しめている事。
知りたくなかった。
受け入れたくなかった。
嘘であって欲しかった。
きっとこれは夢だ。
悪い夢を見ているに違いない。
そう思いその場にうずくまり嗚咽を漏らした。
その泣き声に部屋の中にいる二人にも届き夢子が扉を開けると泣きじゃくっているアリスがそこにいた。
「アリスちゃん…」
「アリス様…」
神綺と夢子は会話がアリスに聞かれてしまったことに対して狼狽しそれ以上の言葉が出なかった。
そんな重苦しい空気の中アリス搾り出すように声を発した。
「私はお母様の本当の子供じゃないの?」
その言葉はまるでナイフのように神綺の心に突き刺さった。
「ごめんさない、今まで黙ってて…。でも…」
「もういい!それ以上言わないで!私なんて…、私なんて…」
大粒の涙を流しアリスはその場から立ち去ってしまった。
「まって、アリスちゃん話を…、痛っ」
アリスを追いかける為に神綺はベットから出ようとするものの傷が癒えておらずまともに動ける状態ではない。
「駄目です!そんな状態で動いたら傷に障ります。私が行きますから」
夢子は一目散にアリスが去っていった方向へと駆け出した。
アリスは走り続けた。
空を飛べば息が切れることも無い。
そんなことを考える余裕も無かった。
この悪夢から逃げ出したかった。
そのことだけを考えていた。
しかしその幼い体走り続けることができず立ち止まってしまう。
息が苦しい。
足が痛い。
でも立ち止まりたくない。
そんな気持ちでアリスはゆっくりと歩き始めた。
気が付けば空は彼女の心のように曇っており、次第に雨が降り出してきた。
その雨は次第に強くなりまるでバケツをひっくり返したほど激しくなっていった。
冷たい雨がアリスの体温を容赦なく襲う。
まるで心まで冷たくなっていくかのような感覚。
全てがどうでもよくなってしまう感じ。
あてもなく歩き続け辿り着いた先は魔界の門。
この場所は他の世界に繋がる場所。
絶対に来てはいけない。
神綺から何度も言われていた。
だが今はこの世界から逃げ出せるなら構わない。
そんな気持ちで門へと近づくと不意に誰かに声をかけられた。
「こら!何をしてるんだ!」
門番のサラだった。
その問いかけにアリスは何も答えず門をじっと見ているとサラはアリスに近づいてきた。
「ここは危険だから早くかえ…ってアリス様!?一体どうしてこんな所に?それにその格好は…」
「と、とにかく屋敷へ帰りましょう。神綺様も心配しています」
神綺という言葉を聞いた瞬間アリスはサラを睨み付けた。
「やっぱりお母様なのね!誰も私を見てくれない!」
そう叫びゆっくりと魔界の門を開けてしまった。
「この世界に私の居場所は無い…。だったら…」
まるで何かに吸い込まれるかのように門の向こうへと歩き出すアリスの腕をサラは必死に掴み声を上げた。
「そんなことありません!アリス様の居場所はこの魔界です。みんなアリス様のことを愛しています!」
「そんな訳ない!みんな私がお母様の娘ということで偽っているだけ!放して!」
アリスの持つ強大な魔力がサラにぶつけられる。
神綺ですら傷つけるその力にサラは10数メートルほど吹き飛ばされてしまった。
アリスはそんなサラを見つめ、涙を流しながらこの世界に別れを告げるように
「さようなら、お母様。さようなら、みんな…」
と魔界の門をくぐりこの世界から消えていった。
その姿を信じられ無いといった表情で見つめていたサラは去っていってしまったアリスの名を呼び続けた。
しかしその声は届く事は無い。
もうアリスは魔界にはいないのだから。
魔界の門の向こう側。
そこは遥か彼方まで草原が広がっており静かに風が吹いていた。
初めて訪れる場所。
だが不安や恐怖は感じないかった。
どうせ自分の居場所はどこにもない。
今、ここで死んでしまっても誰も悲しまないだろう。
そんな事を考えその場に座り込み上海をじっと見つめた。
すると不意に周りの空気が禍々しいものになり目の前の空間の裂け目が生じた。
一体何が…。
今まで感じた事の無い感覚にアリスは身構えた。
裂け目がら現れたのはドレスに身を包み日傘を差した女性だった。
「あらあら、凄い力が感じられると思ってきてみたらこんな娘がいるなんてね、驚いたわ」
女性が発した言葉は冷静で驚いているとは微塵も感じられなかった。
「貴女は、誰?」
「私はただのすきま妖怪。それよりも貴女こそ誰なの?幻想郷の住人じゃないみたいだけど」
すきま妖怪。
幻想郷。
初めて聞く言葉だったがアリスにとってはどうでもいいことで
「誰でもいいでしょう!どうせここにも私の居場所なんてないんだから!」
「ここも…。まさか貴方は魔界人?あそこで何があったか知らないけどここはそんな所じゃないわよ」
「そんなの嘘よ!どこだって同じ!早くどこかに行ってよ!」
「嫌よ。何で私が貴女に指図されなきゃならないの?」
「だったら嫌でもここからいなくなってもらうわ」
アリスの手から放たれた魔力がすきま妖怪に向かって飛んでいき大きな爆発を起こす。
「何よ、たいした事ないじゃない」
爆発の起こった場所には人影は全く残っていなかった。
「それなりに魔力はあるみたいだけど私に敵うと思って?」
その声は背後から聞こえた。
ありえない。
いくら早く動いたとしてもあの爆発で無事なわけが無い。
恐る恐る振り返るとそこにはまるで何事も無かったかのようにすきま妖怪が笑顔で空間の裂け目に腰掛けていた。
「おいたをする子にはお仕置きをしないとね」
そう言うとアリスを見る目は信じられないほど残忍なものになった。
同時に数え切れないほど多くの空間の裂け目が現れアリスを取り囲んだ。
怖い。
逃げなければ殺される。
そう思ったが腰が抜けて動く事ができない。
そんなアリスを見下ろしながらゆっくりとすきま妖怪は近づき手をかざした。
「私に逆らった事を後悔なさい」
もう駄目だ。
上海を強く抱きしめ目を瞑ると死を覚悟した。
しかしアリスの予想とは違いおでこに何かが当たる感覚がしただけだった。
デコピン?
そっと目を開けるとすきま妖怪が悪戯っぽい笑みで
「なーんちゃってね。驚いた?」
とくすくす笑っていた。
その顔を見ていると気が抜けてしまい今までの疲れがどっと押し寄せてその場に倒れ気を失ってしまった。
頭に柔らかな感触がして目を覚ますとそこにはアリスを見つめる優しい眼差しがあった。
「目を覚ましたわね。私が自分の式神以外に膝枕してあげるのは貴女が初めてなんだから感謝しなさいよ」
「…うん、ありがとう」
恥ずかしそうに答た。
そのままお互い無言のまま時が流れ突然すきま妖怪が口を開いた。
「ねえ、貴女自分の居場所がないって言っていたけど本当にそうなの?その人形を見てるとそうは思えないわね」
「上海が…」
「その人形には貴女の事を強く思っている者の気持ちが強く込められているわ。それだけ愛されているって幸せな事よ」
「お母様は私の事を…」
「まあ、魔界に帰りたくないのならここで暮らしても構わないわ。幻想郷は全てを受け入れる。例え誰であってもね」
その言葉にアリスは立ち上がり真剣な眼差しで
「ここには私の居場所はあるの?」
と質問をした。
その問に対し
「居場所はね、自分で作るものなの。ここに残るか魔界に帰るかはあなた自身で決める事よ」
「まあ、少し考える時間は必要ね。このままほったらかしってのも可哀想だしちょっと来なさい」
「え…、わかった」
そのまま二人は草原のそばにある森に入っていった。
薄暗い森で不気味だったがこの妖怪は信じてもいい、そう直感的に感じられた。
そうして辿り着いたのは小さな洋館であった。
「ここは…」
「かつてある人形遣いが住んでいたのよ。でも今は誰もいない。とりあえず寝起きする場所ぐらいはないとね」
そういうと指をならし空間の裂け目を出すとそこから数日分ほどの食料が出てきた。
「さて、食べるものも用意したしここでお別れね。これはあなた自身の問題。私がどうこう言う事じゃないわ」
そう言うと彼女はアリスに背を向けた。
「ありがとう。ねえ、また会えるかな?」
「貴女が会いたいと思うならまたいつか会うかもしれないわね。さて、あまり遅いと藍がうるさいしこの辺で失礼するわね」
空間の裂け目から消えていった彼女を名残惜しそうに見ていたアリスは洋館の中へと入った。
そこはこじんまりとしているものの整理されていて人形を作るための道具がたくさん置いてあり、様々な本も山積みでその中の本の1つをアリスは手に取り読み始めた。
その中身は自ら意思を持ち行動する自立人形について述べられていたがそれは雲を掴むような内容であった。
しかしその内容はアリスにとって大変興味深いものであり、ふと上海を見るともし彼女が、親友でありもう1人の神綺である彼女と話ができたらと考えた。
また、自立人形を作ることが出来れは神綺と同じ命を生み出す存在になれる。
そうすればきっと魔界でも自分の存在を認めてくれる。
神綺と本当の意味で親子になれる。
そんな気がしてアリスはこの世界、幻想郷で生きていく決心をした。
その頃魔界にある神綺の屋敷にはサラが血相を変えて飛び込んできた。
「大変です。神綺様。アリス様が魔界から出て行ってしまいました!」
その言葉に神綺は血の気が引いていき搾り出すような声
「知らせてくれてありがとう、サラ。悪いけど一人にしてくれないかしら…」
その言葉の意味を理解しサラが部屋から出て行くと一人になった部屋で神綺は泣き続けた。
魔界と幻想郷は干渉してはならない世界。
無闇に関わるとお互いの世界の住人同士が争う事になる。
それだけは避けなければならない。
いくらアリスを愛していたとしても自分の立場を考えればどうしようもないことであるのだから。
それから長い長い年月が流れた。
魔界は何事もなく平和な日々が続いている。
神綺はどんなに忙しくてもアリスの事を片時も忘れなかった。
絶対に生きている。
きっと魔界に帰って来てくれる。
その時までアリスの帰る場所を守り続けなければならない。
そんな想いを胸に日々創造主としての仕事に取り組んでいた。
一方アリスは成長し、人形遣いとなって様々な人形を作り出していた。
だが自立人形はそんな日々が続く中アリスは二人の人間と出会った。
白黒の魔法使いと紅白の巫女。
それまで自立人形を作ることに全てを奉げてきて誰とも関わりを持とうとしなかった。
自立人形が完成すれば去る世界に居場所は必要ない。
そう考えていた。
でもこの二人と接しているうちに何か大切な事を思い出してく感じがする。
そんな穏やかな日々も悪くない。
昔の事を思い出し涙が出そうになっているとさっきまで激しく降り続けた雨が突然やんだ。
何事と思い戸惑っていると不意に聞きなれた声が聞こえた。
「おーいアリス、来てやったぜ。早く開けてくれー」
魔理沙の声だ。
その声を聞きアリスは駆け出した。
ドアを開けるといつもの笑顔で魔理沙と霊夢、気だるそうなパチュリーが立っていた。
「なんだ、泣いてるのか?私達が来ないと思って寂しかったとか」
「そんなわけないでしょ!眠くて欠伸がでただけよ。さっきまで雨降ってたし来ないかと思ってたのに」
「おいおい、そんな言い方はないだろ。雨降ると思ってゲストも用意したんだぜ」
そういうと魔理沙はパチュリーの背中をポンと押した。
「ちょっと、何言ってるの?急に人の事連れ出したと思ったら雨を止ませろだなんて…」
「まあまあ、気にするな。前から言っていたじゃないか。アリスと一度話しをしてみたいって」
「そりゃあ言ったけど、そんな急に…」
「善は急げって言うしいいじゃないか。ほら、アリスもちゃんとお礼を言えよ」
「な、なんで私が!?魔理沙が勝手に連れて来たんでしょ」
「そうは言うがなアリス、パチュリーがいなかったら私達は来れなかったんだぜ。つまりせっかく用意したお茶が無駄になるってことだ」
「わ、分かったわよ。あ、あの…、ありがとう、せっかく来たんだからゆっくりしていってね」
「構わないわ、一度貴女とお話してみたかったし」
「おーい、二人とも私と比べて明らかに態度が違くないか?」
「それは日ごろの行いのせいでしょ。それよりもお腹が空いたわね。いい加減中に入らない?」
そんな三人を呆れ顔で見た霊夢はそう言うとそそくさと中に入っていった。
「そこ!勝手に入らないでよ。仕方ないわね、ほら二人ともさっさと入って」
そんな感じで始まったお茶会。
魔理沙の発言にアリスがムキになって反論し霊夢が諭す。
三人に対してさりげなく的確なツッコミを入れるパチュリー。
楽しい時間が過ぎていった。
大切な友達と過ごす事ができる幻想郷。
ここには自分の居場所があった。
確かに神綺のいる魔界に未練がないわけではない。
けど今はこの瞬間を大切にしたい。
自立人形が完成するその時まで今はこの時を楽しみたい。
決断を下すのはその時でもいいはずだ。
そんな事を考えながらアリスは心から笑った。
そんなアリスを見た三人も一緒になって笑った。
四人の楽しそうな笑い声はいつまでも途切れずに洋館の中に響き渡っていた。
その森の中に隠れるように建つ一軒の家。
まるで人が来る事を拒むかの如く建てられた家には1人の少女が住んでいた。
彼女の名はアリス・マーガトロイド。
一見人間のようだが普通の人間には使えない「魔法」というものを使う事ができる「魔法使い」という種族である。
幻想郷には彼女のような「魔法使い」の他に妖怪や悪魔といった種族が存在し、お互い様々な交流が行われ共存している。
しかし彼女、アリスは自ら他の種族と交流をする事はほとんど無く家の中で自立人形の研究を続けていた。
そんな日々が続く中、同じく魔法の森にすんでいる霧雨魔理沙という少女に誘われアリスは博麗神社で行われた宴会に参加する事になった。
様々な種族が集まったその賑やかな宴を楽しんでいたアリスだったが
(ここに私はいていいのだろうか?)
と感じていた。
そんな中、魔理沙が
「そういえばアリスの家に最近遊びに行ってないな」
と言ったところ
「そもそも私はどこにあるか知らないし」
盃を傾けながら会場である博麗神社の主の博麗霊夢がややほろ酔い気味に答えた。
「ちょっと、まさかまた私の家を荒らすつもり?」
「いや、そんなことはないぜ。この前はちょっと面白そうなものがあったから見せてもらっただけだろ?」
「だからって勝手にマジックアイテムを起動しないでよ!私が気付いて止めなかったら大変な事になっていたんだから!」
「別に何もなかったんだからいいじゃないか」
「よくない!いつもこれなんだから…」
「魔理沙…、あんたパチュリーだけじゃなくアリスの所も荒らしているの?」
「いや、だから、面白そうな物があったんだからしかたなかったんだって。そうだ!霊夢も一度アリスの家に来てみれば分かるから」
「何が分かるのよ?まあ、たまにはお茶を出してもらうのも悪くないわね。いっつも誰かさんが入り浸ってるし」
「おいおい、暇そうだから話し相手に来てやってるんだろ。とにかくアリスの家に行くのは決まりだな」
「ちょっと、勝手に決めないでよ!」
「まあ、いいじゃないか。減るもんじゃないんだし」
「減るわよ!一体いくつマジックアイテムを駄目にしたと思ってるの?」
「えーと…、いくつだっけ?とにかく今度霊夢を連れて遊びに行くからケーキでも用意しておいてくれよ」
「私は和菓子の方がいいかな。久しぶりに羊羹食べたいのよね」
「あーもう、分かったわよ。来るなと言っても来るんだしちゃんと用意しておくから遅れずに来てよね」
そんなやり取りが行われた宴会が終わり数日後の約束の日。
アリスはキッチンに向かっていた。
「よし、あとはケーキが焼き上がるのを待つだけね。それじゃ、紅茶の用意も始めなくちゃ」
そう言いお気に入りのティーセットを戸棚から出しお湯を沸かし始める。
「霊夢には羊羹だから緑茶の方がいいわね。上海、急須と湯呑みを出しておいて」
その言葉に反応し彼女のそばを浮いていた上海人形が動き出し急須と湯呑みを持ってくる。
「さて、用意はできたし魔理沙と霊夢が来るのを待つだけね。でもちょっと用意するの早すぎたかしら?」
そう呟き時計に目をやると約束の時間よりも数時間も前であった。
「本でも読んで気長に待つしかないみたいね」
しばらく経つと空に雲がかかり元々薄暗い魔法の森が更に暗くなっていった。
そして雨が降り始め、その勢いは少しずつ強くなりついにはバケツをひっくり返したような雨となった。
そんな雨を見つめながらアリスは宴会の後、魔理沙が別れ際に言った事を思い出した。
(もし雨だったら霊夢が面倒とか言うだろうし行かないことにするぜ)
「こんな雨じゃ来てくれないよね…」
アリスは胸が締め付けられる思いがした。
魔理沙達が来ないだけではない。
雨は彼女に悲しい記憶を呼び覚ます物だからである。
それは彼女が幻想郷とは違う世界である魔界にいた頃の記憶である。
魔界、それは創造主である神綺に生み出された妖怪達が平和に暮らす場所であり、アリスが幼い頃過ごしていた場所である。
その頃のアリスは神綺の娘としてなに不自由なく暮らしていた。
欲しいものは全て手に入り、誰からも愛され、全てを愛していた。
神綺が魔界の創造主であったためあまり会う事ができず寂しかった事を除いては…。
そんなある日の事、
「お母様、どうしたの?急に部屋に来てだなんて」
「それはね、アリスちゃんにプレゼントがあるのよ」
「え、プレゼント!何々?」
「ふふ、それはね、この子よ」
そう言うと神綺は一体の人形を彼女に差し出した。
「うわ~、かわいいね。この子の名前はなんていうの?」
「この子はね、上海という名前なのよ」
「そっかー、私はアリス。よろしくね、上海」
神綺から上海を受け取ろうとした時、アリスは神綺の手に傷があることに気付いた。
「お母様、その手の傷は…」
「ああ、これは上海を作る時にちょっとね。夢子ちゃんに教えてもらったんだけど裁縫は妖怪みたいにうまくいかないわね」
そう言い神綺は手の傷にそっと触れた。
「私の為に…、ありがとう!お母様」
アリスは上海をぎゅっと抱きしめながら最高の笑顔を神綺に向けた。
「どういたしまして。2人とも仲良くするのよ」
「もちろん。私と上海は親友なったんだから」
そしてその日の夕食。アリスの隣には上海がいた。
「アリス様、食事中は人形を部屋に置いてきて下さい」
「人形じゃないわ、上海よ。私の親友だからいつも一緒なの」
「しかしですね…」
「まあまあ、夢子ちゃん。いいじゃないの」
「神綺様がそうおっしゃるのなら…」
夢子はやや不服そうな顔をしていたが納得をした。
そんな夢子を見た神綺はアリスに向かってそっと微笑み、アリスも神綺に向かって微笑んだ。
それからというものアリスは常に上海と一緒だった。
本を読む時も、遊びに行く時も、寝る時も。
彼女にとって上海は親友であるとともにもう1人の神綺であった。
人形を用意するだけなら夢子に作ってもらうだろうし、妖怪を作るのは魔界の創造主である神綺にとっては造作も無い事であるからである。
自分の為に手を怪我してまで作ってくれた上海には神綺の心が宿っている。アリスはそう感じていた。
そんな日々が続いたある日アリスは神綺達とピクニックに行く事になった。
神綺は創造主としての仕事が忙しい為、アリスと一緒に過ごす時間がほとんどないことに心を痛めていた。
上海がいてもアリスにはいつも寂しい思いさせてしまっている。
彼女の為に他に何かできないか?
そう考えた神綺が出した結論がピクニックであった。
元々反対していた夢子も魔界の現状を視察するという事で納得し了承をした。
そして迎えたピクニック当日。
神綺と初めてのピクニック。
その場にはアリスと神綺だけでなく夢子、そしてアリスの遊び相手のマイとユキが集まっていた。
見慣れたはずの魔界の風景。しかしアリスにとって今見るこの風景は何よりも輝いて見えた。
もっと甘えたかった、いつも一緒にいたかった。
でもできなかった。
そんな母、神綺と今日はずっと一緒にいられる。
この喜びが目に映るものすべて美しく見せていた。
永遠に続いて欲しい、そんな時間が流れとある小高い丘へと一行は辿り着いた。
ここは魔界を一望できるアリスが大好きな場所である。
この景色を神綺に見せたい。そんな思いがアリスの足を速めていき遂には走り出した。
「お母様、早く、早く」
「そんなに慌てないの。転んじゃうわよ」
「大丈夫よ。いつも来ているところだし…きゃっ」
そう言った矢先アリスは転んでしまい、抱いていた上海は彼女の腕の中から離れていった。
「いたた、あれ、上海は?」
転んだ時に擦りむいた膝の痛みをこらえながら当たりを見回すとそこには信じられないものが目に映った。
首取れてしまった上海である。
裁縫初心者であった神綺が作った上海はそれほど丈夫ではなかった。
その上アリスが常に連れていた為知らず知らずのうちに痛んでしまっていたのだった。
「しゃ、上海…、いやぁぁぁぁーーー!」
大切な親友である上海、神綺の思いが込められた上海、もう1人の母である上海。
そんなかけがえのない存在に自分がしてしまった事を直視できず我を忘れてしまいアリスの魔力は暴走してしまった。
本人はまだ上手くコントロールできないがその潜在能力は高く、神綺に迫る程であった。
「アリスちゃん、落ち着いて。大丈夫だから」
神綺が呼びかけるもののその声はアリスには届いていなかった。
「ごめんね、上海。私の…、私のせいで…。うわーーーん」
「神綺様、ここは危険です。一度お下がり下さい。マイ、ユキ、お前達も早く避難するんだ」
「わ、分かりました…」
「……はい…」
そう言うとマイとユキは逃げるようにその場から去っていった。
「神綺様も早く!」
「いえ、ここは私に任せてくれないかしら」
「そんな!危険過ぎます。暴走が収まるまで離れているべきですよ」
「夢子ちゃん、私はあの子の母なのよ。泣いている我が子を放っておける親なんていないでしょう」
そう言うやいなや、神綺はアリスの方へと走り出した。
暴走した魔力は容赦なく神綺を傷つけていく。
もし彼女が本来の力を使っていたならばこのような傷がつくことはなかったであろう。
しかし使わなかった。
その力を使う事は我が子であるアリスにその力を向けることであるからである。
今まで寂しい思いをさせて傷つけてきた。
これ以上傷つけたくない。
そんな思いが力を使う事を拒否していた。
神綺がやっとの思いでアリスの側に辿り着いた時、その体は傷だらけで今にも倒れそうな状態にだったがそんな事はものともせずアリスを優しく抱きしめてそっと語りかけた。
「大丈夫よ、アリスちゃん。アリスちゃんのせいじゃない。お母さんも上海も分かっているわ」
その言葉にアリスは我に返り魔力の暴走は収まった。
しかし涙は止まらず神綺の腕の中で泣き続けた。
「お母様、ごめんなさい。ごめんなさい…」
「いいのよ。落ち着くまでずっとこうしてあげるから、ね」
それからしばらくの時が流れ、泣き疲れてしまったのかアリスは静かに寝息をたて始めた。
その安らかな寝顔を見て安心した神綺は力が抜けてしまったのかその場にたおれこんでしまった。
「神綺様!」
夢子はそう叫ぶと神綺の元へ駆け寄った。
「やはり傷が…。早く治療をしなくては」
そう言ったものの手持ちの荷物には手当てに使えるものがないので神綺の屋敷へと運ばなければならない。
しかしアリスも放置しておける状態ではなくどうすればいいか夢子が悩んでいると不意に物音がした。
「誰だ!」
「わ、私は怪しい者じゃないですよ。物凄い音が聞こえたからちょっと見に来ただけで…って神綺様が!」
現れたのは魔界人のルイズ。
好奇心旺盛な彼女は面白半分でこの場に現れたのであった。
「怪我をしてしまって一刻も早く手当てしないといけない状態なんだ。私は神綺様を運ぶからお前はアリス様を運んでくれ」
「わ、分かりました」
答えるとルイズはアリスをおぶり神綺の屋敷へと一目散に飛んでいった。
その姿を見ながら神綺を抱きかかえて夢子は後を追い、誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。
「神綺様がこんなことになるなんて…」
震えたその声は何かに脅えているかのようでもあった。
それから数日後アリスはようやく目を覚ました。
まずその目に映ったのはまるであの出来事が無かったかのように傍らにいる上海であった。
夢であればよかったのに…。
そうアリスは強く思ったがあの時抱きしめてくれた神綺の暖かさがそれは現実であると証明している。
心地よい暖かさであったがそれ以上に自分の行ってしまった事への罪悪感が胸を痛めた。
神綺に謝らなくてはいけない。
そう思い神綺の所へと向かおうとすると夢子と鉢合わせた。
「アリス様、お目覚めになられましたか」
「ええ、お母様に会いたいのだけれど…」
「神綺様はまだ傷が癒えておらず安静にしていなければなりません。申し訳ないのですが今はちょっと…」
「そう、分かったわ…」
夢子の言葉を聞いて改めて自分の行ってしまった事を悔やみその場を重い足取りで去っていった。
目的地があるわけもなくただ、アリスは上海を連れ魔界を歩いていた。
そんな中アリスの頭に2人の少女の姿が浮かんだ。
マイとユキだ。
いつも一緒に遊んでいる二人にも謝らなければならない。
そう思い彼女達といつも遊んでいる場所へと向かった。
その場所にはやはり二人はいた。
アリスは二人に謝ろうと声をかけようとしたが躊躇した。
自分の行ってしまった事に対してどう言えばいいのか分からなかった。
もし許してくれなかったらどうすればいいのか。
もし拒絶されてしまったら…
そんな事を考えて声をかけられずにいると彼女達の会話が聞こえてきた。
「ねえ、ユキ。私達これからアリス様とどう接すればいいのかな?」
「正直、関わりたくないね、わがままだし神綺様にあれだけの怪我をさせるほど危険だし」
「ちょっとそれはさすがに言いすぎじゃ…。確かにあの力は危険だと思うけどさ…」
「神綺様の娘だからって調子に乗っていたんだからバチがあたったのさ。第一私達は神綺様に創られたのになんであいつだけ娘なの?」
「それは分からないけど、神綺様にも考えがあるんだし…」
「とにかくもう金輪際あいつの相手するつもりはない。マイも言ってたじゃない。相手にすると疲れるって」
「たしかに言ったけどそんなことしたら…」
「大丈夫、この場所に来ないようにすれば顔合わせる事も無いだろうし、万が一会ったとしても適当に言い訳すればなんとかなるでしょ」
「それもそうね。アリス様は単純な所あるし」
「じゃあとっとこんな場所から離れるか。そろそろ目を覚ましている頃だろうし」
そして二人は飛び立ってどこかへ行ってしまった。
二人の会話を聞いたアリスはその場で立ち尽くしてしまっていた。
いつも無口なユキがあれほど喋るのを聞いたことは一度もなく、心の中では自分を嫌っていた。
対照的に色々とおしゃべりなマイも実は煩わしく思っていた。
友達と思っていたその関係は偽りだった。
まるで心に穴が開いたような感じで何も考えられなかった。
それからしばらく時が流れ
「帰ろうか、上海…」
そう言うとふらふらと屋敷の方へと歩き出した。
気が付いた時には神綺の部屋の前にいた。
夢子から言われて会えない事はわかっている。
でも神綺に会いたい。
そう思い扉に手が触れようとすると神綺と夢子の話し声が聞こえてきた。
「神綺様、安静にと言ったでしょう。上海の修理は私がすると言っていたのに…」
「それじゃ駄目なのよ、私が原因なんだから上海の手当ては私がしないといけないの」
「だからって!そもそのアリス様は元は人間、娘ではないじゃないですか!」
「確かに血の繋がりは無いかもしれない。でもあの子は私にとって愛する娘である事に変わりはないの」
「しかし!そのことが魔界の住人に知れれば神綺様の威厳にも関わるのですよ!」
「構わないわ。これ以上あの子を傷つけることがないのなら」
アリスには信じられなかった。
自分が神綺の子供ではない事。
元々人間であった事。
自分の存在が神綺を苦しめている事。
知りたくなかった。
受け入れたくなかった。
嘘であって欲しかった。
きっとこれは夢だ。
悪い夢を見ているに違いない。
そう思いその場にうずくまり嗚咽を漏らした。
その泣き声に部屋の中にいる二人にも届き夢子が扉を開けると泣きじゃくっているアリスがそこにいた。
「アリスちゃん…」
「アリス様…」
神綺と夢子は会話がアリスに聞かれてしまったことに対して狼狽しそれ以上の言葉が出なかった。
そんな重苦しい空気の中アリス搾り出すように声を発した。
「私はお母様の本当の子供じゃないの?」
その言葉はまるでナイフのように神綺の心に突き刺さった。
「ごめんさない、今まで黙ってて…。でも…」
「もういい!それ以上言わないで!私なんて…、私なんて…」
大粒の涙を流しアリスはその場から立ち去ってしまった。
「まって、アリスちゃん話を…、痛っ」
アリスを追いかける為に神綺はベットから出ようとするものの傷が癒えておらずまともに動ける状態ではない。
「駄目です!そんな状態で動いたら傷に障ります。私が行きますから」
夢子は一目散にアリスが去っていった方向へと駆け出した。
アリスは走り続けた。
空を飛べば息が切れることも無い。
そんなことを考える余裕も無かった。
この悪夢から逃げ出したかった。
そのことだけを考えていた。
しかしその幼い体走り続けることができず立ち止まってしまう。
息が苦しい。
足が痛い。
でも立ち止まりたくない。
そんな気持ちでアリスはゆっくりと歩き始めた。
気が付けば空は彼女の心のように曇っており、次第に雨が降り出してきた。
その雨は次第に強くなりまるでバケツをひっくり返したほど激しくなっていった。
冷たい雨がアリスの体温を容赦なく襲う。
まるで心まで冷たくなっていくかのような感覚。
全てがどうでもよくなってしまう感じ。
あてもなく歩き続け辿り着いた先は魔界の門。
この場所は他の世界に繋がる場所。
絶対に来てはいけない。
神綺から何度も言われていた。
だが今はこの世界から逃げ出せるなら構わない。
そんな気持ちで門へと近づくと不意に誰かに声をかけられた。
「こら!何をしてるんだ!」
門番のサラだった。
その問いかけにアリスは何も答えず門をじっと見ているとサラはアリスに近づいてきた。
「ここは危険だから早くかえ…ってアリス様!?一体どうしてこんな所に?それにその格好は…」
「と、とにかく屋敷へ帰りましょう。神綺様も心配しています」
神綺という言葉を聞いた瞬間アリスはサラを睨み付けた。
「やっぱりお母様なのね!誰も私を見てくれない!」
そう叫びゆっくりと魔界の門を開けてしまった。
「この世界に私の居場所は無い…。だったら…」
まるで何かに吸い込まれるかのように門の向こうへと歩き出すアリスの腕をサラは必死に掴み声を上げた。
「そんなことありません!アリス様の居場所はこの魔界です。みんなアリス様のことを愛しています!」
「そんな訳ない!みんな私がお母様の娘ということで偽っているだけ!放して!」
アリスの持つ強大な魔力がサラにぶつけられる。
神綺ですら傷つけるその力にサラは10数メートルほど吹き飛ばされてしまった。
アリスはそんなサラを見つめ、涙を流しながらこの世界に別れを告げるように
「さようなら、お母様。さようなら、みんな…」
と魔界の門をくぐりこの世界から消えていった。
その姿を信じられ無いといった表情で見つめていたサラは去っていってしまったアリスの名を呼び続けた。
しかしその声は届く事は無い。
もうアリスは魔界にはいないのだから。
魔界の門の向こう側。
そこは遥か彼方まで草原が広がっており静かに風が吹いていた。
初めて訪れる場所。
だが不安や恐怖は感じないかった。
どうせ自分の居場所はどこにもない。
今、ここで死んでしまっても誰も悲しまないだろう。
そんな事を考えその場に座り込み上海をじっと見つめた。
すると不意に周りの空気が禍々しいものになり目の前の空間の裂け目が生じた。
一体何が…。
今まで感じた事の無い感覚にアリスは身構えた。
裂け目がら現れたのはドレスに身を包み日傘を差した女性だった。
「あらあら、凄い力が感じられると思ってきてみたらこんな娘がいるなんてね、驚いたわ」
女性が発した言葉は冷静で驚いているとは微塵も感じられなかった。
「貴女は、誰?」
「私はただのすきま妖怪。それよりも貴女こそ誰なの?幻想郷の住人じゃないみたいだけど」
すきま妖怪。
幻想郷。
初めて聞く言葉だったがアリスにとってはどうでもいいことで
「誰でもいいでしょう!どうせここにも私の居場所なんてないんだから!」
「ここも…。まさか貴方は魔界人?あそこで何があったか知らないけどここはそんな所じゃないわよ」
「そんなの嘘よ!どこだって同じ!早くどこかに行ってよ!」
「嫌よ。何で私が貴女に指図されなきゃならないの?」
「だったら嫌でもここからいなくなってもらうわ」
アリスの手から放たれた魔力がすきま妖怪に向かって飛んでいき大きな爆発を起こす。
「何よ、たいした事ないじゃない」
爆発の起こった場所には人影は全く残っていなかった。
「それなりに魔力はあるみたいだけど私に敵うと思って?」
その声は背後から聞こえた。
ありえない。
いくら早く動いたとしてもあの爆発で無事なわけが無い。
恐る恐る振り返るとそこにはまるで何事も無かったかのようにすきま妖怪が笑顔で空間の裂け目に腰掛けていた。
「おいたをする子にはお仕置きをしないとね」
そう言うとアリスを見る目は信じられないほど残忍なものになった。
同時に数え切れないほど多くの空間の裂け目が現れアリスを取り囲んだ。
怖い。
逃げなければ殺される。
そう思ったが腰が抜けて動く事ができない。
そんなアリスを見下ろしながらゆっくりとすきま妖怪は近づき手をかざした。
「私に逆らった事を後悔なさい」
もう駄目だ。
上海を強く抱きしめ目を瞑ると死を覚悟した。
しかしアリスの予想とは違いおでこに何かが当たる感覚がしただけだった。
デコピン?
そっと目を開けるとすきま妖怪が悪戯っぽい笑みで
「なーんちゃってね。驚いた?」
とくすくす笑っていた。
その顔を見ていると気が抜けてしまい今までの疲れがどっと押し寄せてその場に倒れ気を失ってしまった。
頭に柔らかな感触がして目を覚ますとそこにはアリスを見つめる優しい眼差しがあった。
「目を覚ましたわね。私が自分の式神以外に膝枕してあげるのは貴女が初めてなんだから感謝しなさいよ」
「…うん、ありがとう」
恥ずかしそうに答た。
そのままお互い無言のまま時が流れ突然すきま妖怪が口を開いた。
「ねえ、貴女自分の居場所がないって言っていたけど本当にそうなの?その人形を見てるとそうは思えないわね」
「上海が…」
「その人形には貴女の事を強く思っている者の気持ちが強く込められているわ。それだけ愛されているって幸せな事よ」
「お母様は私の事を…」
「まあ、魔界に帰りたくないのならここで暮らしても構わないわ。幻想郷は全てを受け入れる。例え誰であってもね」
その言葉にアリスは立ち上がり真剣な眼差しで
「ここには私の居場所はあるの?」
と質問をした。
その問に対し
「居場所はね、自分で作るものなの。ここに残るか魔界に帰るかはあなた自身で決める事よ」
「まあ、少し考える時間は必要ね。このままほったらかしってのも可哀想だしちょっと来なさい」
「え…、わかった」
そのまま二人は草原のそばにある森に入っていった。
薄暗い森で不気味だったがこの妖怪は信じてもいい、そう直感的に感じられた。
そうして辿り着いたのは小さな洋館であった。
「ここは…」
「かつてある人形遣いが住んでいたのよ。でも今は誰もいない。とりあえず寝起きする場所ぐらいはないとね」
そういうと指をならし空間の裂け目を出すとそこから数日分ほどの食料が出てきた。
「さて、食べるものも用意したしここでお別れね。これはあなた自身の問題。私がどうこう言う事じゃないわ」
そう言うと彼女はアリスに背を向けた。
「ありがとう。ねえ、また会えるかな?」
「貴女が会いたいと思うならまたいつか会うかもしれないわね。さて、あまり遅いと藍がうるさいしこの辺で失礼するわね」
空間の裂け目から消えていった彼女を名残惜しそうに見ていたアリスは洋館の中へと入った。
そこはこじんまりとしているものの整理されていて人形を作るための道具がたくさん置いてあり、様々な本も山積みでその中の本の1つをアリスは手に取り読み始めた。
その中身は自ら意思を持ち行動する自立人形について述べられていたがそれは雲を掴むような内容であった。
しかしその内容はアリスにとって大変興味深いものであり、ふと上海を見るともし彼女が、親友でありもう1人の神綺である彼女と話ができたらと考えた。
また、自立人形を作ることが出来れは神綺と同じ命を生み出す存在になれる。
そうすればきっと魔界でも自分の存在を認めてくれる。
神綺と本当の意味で親子になれる。
そんな気がしてアリスはこの世界、幻想郷で生きていく決心をした。
その頃魔界にある神綺の屋敷にはサラが血相を変えて飛び込んできた。
「大変です。神綺様。アリス様が魔界から出て行ってしまいました!」
その言葉に神綺は血の気が引いていき搾り出すような声
「知らせてくれてありがとう、サラ。悪いけど一人にしてくれないかしら…」
その言葉の意味を理解しサラが部屋から出て行くと一人になった部屋で神綺は泣き続けた。
魔界と幻想郷は干渉してはならない世界。
無闇に関わるとお互いの世界の住人同士が争う事になる。
それだけは避けなければならない。
いくらアリスを愛していたとしても自分の立場を考えればどうしようもないことであるのだから。
それから長い長い年月が流れた。
魔界は何事もなく平和な日々が続いている。
神綺はどんなに忙しくてもアリスの事を片時も忘れなかった。
絶対に生きている。
きっと魔界に帰って来てくれる。
その時までアリスの帰る場所を守り続けなければならない。
そんな想いを胸に日々創造主としての仕事に取り組んでいた。
一方アリスは成長し、人形遣いとなって様々な人形を作り出していた。
だが自立人形はそんな日々が続く中アリスは二人の人間と出会った。
白黒の魔法使いと紅白の巫女。
それまで自立人形を作ることに全てを奉げてきて誰とも関わりを持とうとしなかった。
自立人形が完成すれば去る世界に居場所は必要ない。
そう考えていた。
でもこの二人と接しているうちに何か大切な事を思い出してく感じがする。
そんな穏やかな日々も悪くない。
昔の事を思い出し涙が出そうになっているとさっきまで激しく降り続けた雨が突然やんだ。
何事と思い戸惑っていると不意に聞きなれた声が聞こえた。
「おーいアリス、来てやったぜ。早く開けてくれー」
魔理沙の声だ。
その声を聞きアリスは駆け出した。
ドアを開けるといつもの笑顔で魔理沙と霊夢、気だるそうなパチュリーが立っていた。
「なんだ、泣いてるのか?私達が来ないと思って寂しかったとか」
「そんなわけないでしょ!眠くて欠伸がでただけよ。さっきまで雨降ってたし来ないかと思ってたのに」
「おいおい、そんな言い方はないだろ。雨降ると思ってゲストも用意したんだぜ」
そういうと魔理沙はパチュリーの背中をポンと押した。
「ちょっと、何言ってるの?急に人の事連れ出したと思ったら雨を止ませろだなんて…」
「まあまあ、気にするな。前から言っていたじゃないか。アリスと一度話しをしてみたいって」
「そりゃあ言ったけど、そんな急に…」
「善は急げって言うしいいじゃないか。ほら、アリスもちゃんとお礼を言えよ」
「な、なんで私が!?魔理沙が勝手に連れて来たんでしょ」
「そうは言うがなアリス、パチュリーがいなかったら私達は来れなかったんだぜ。つまりせっかく用意したお茶が無駄になるってことだ」
「わ、分かったわよ。あ、あの…、ありがとう、せっかく来たんだからゆっくりしていってね」
「構わないわ、一度貴女とお話してみたかったし」
「おーい、二人とも私と比べて明らかに態度が違くないか?」
「それは日ごろの行いのせいでしょ。それよりもお腹が空いたわね。いい加減中に入らない?」
そんな三人を呆れ顔で見た霊夢はそう言うとそそくさと中に入っていった。
「そこ!勝手に入らないでよ。仕方ないわね、ほら二人ともさっさと入って」
そんな感じで始まったお茶会。
魔理沙の発言にアリスがムキになって反論し霊夢が諭す。
三人に対してさりげなく的確なツッコミを入れるパチュリー。
楽しい時間が過ぎていった。
大切な友達と過ごす事ができる幻想郷。
ここには自分の居場所があった。
確かに神綺のいる魔界に未練がないわけではない。
けど今はこの瞬間を大切にしたい。
自立人形が完成するその時まで今はこの時を楽しみたい。
決断を下すのはその時でもいいはずだ。
そんな事を考えながらアリスは心から笑った。
そんなアリスを見た三人も一緒になって笑った。
四人の楽しそうな笑い声はいつまでも途切れずに洋館の中に響き渡っていた。
話の都合上どうしても辛い展開は避けられなかったのでその分これからは幸せになって欲しいと願いが表せたみたいでなによりです。
とりあえず、「魔理沙」な!>
誤字大変失礼いたしました。
訂正をしておきました。
ともかくGJといわせてください。
ただ、ユキとマイがごっちゃになっているような・・・