Coolier - 新生・東方創想話

月下の眷属 (前)

2007/04/28 04:48:39
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500年前、某国―――

こつ、こつ、こつ、こつ、こつ・・・・・・こつ
然程急がず、散歩でもするかのようにゆったりと歩いていた。
つきあたり、目の前には一つの影が蝋燭の炎に揺れている。
翼を生やした男が一人、
私を見つめ額に頬に汗を流し、
しかしその表情は恐怖ではなく歓喜に歪んでいるように見えた。
「やっと追い詰めた。やっと捕らえた。
この眼に触れてしまえば、もう貴方は逃げる事も叶わない」
そこは館だった。
大雨の中、吹きすさぶ強風に揺らぎもしない巨大な館。
内部は暗く色らしき色もなく、
外観とは裏腹に、豪雨の続く今はまるで監獄の様。
その監獄で、私はようやっと彼を自分の攻撃範囲に捕捉する。
「ふふ、ふふふ、はははっ
やっとか、やっと追い詰めてくれたのか。
未完成な、未熟な、欠陥ばかりの吸血鬼よ」
私と彼の力量の比は3:1。
彼には万分の一の勝機もない。
にも関わらず、彼の者は笑う。
それがとても、気に食わない。
「ははっ、しかしよくよく見ても思う。美しい。
その銀色の細く長い髪など、
まるで世界中のありとあらゆるシルクのどれを競わせても同じ色は出せまい。
その美しく冷たい表情など、
この世界に有るどのような名匠ですら生み出せない芸術品だ。
その赤く澄んだ眼など、
現世のみならずどの世界に赴いても得ることの出来ぬ宝石だ。
何より、何よりも、未完成なのがいい。
未成熟なのがいい。
それをこの私が奪ったものだというのがたまらない」
「・・・吐き気がする。貴方に血を吸われた事によって、
私はこのように日の下も歩けなくなってしまった。
流水も渡れず、川の上一つ通るだけでも一苦労。
ガーリックなんて悪魔の食べ物と化したわね」
言いながら、それでも悪魔の私が食べられないのだから、
その言い方は変か、と思う。
「十字架はどうなのかね?聖儀式済みの銀製品は?」
「私は無神論者よ。そんなものでやられはしないわ」
「・・・くくっ、そうか、それは良い。
本当に君という吸血鬼は、
なんともまぁ、どこまでも吸血鬼らしくないのだ」
おどけている訳でも何でもない。
きっとこれが、こいつにとっての歓喜の表現なのだ。
そして気持ちの悪い事に、この男は、
これから自分の身に起こることを理解したうえで、
もう足掻きもせず、こうして私とのひと時に興じている。
「貴方に下僕と呼ばれるたびに吐き気がする。
貴方に愛していると囁かれるたびに吐き気がする。
貴方に褒め称えられるたびに吐き気がする。
何より、貴方に血を吸われ、心の無いゾンビではなく、
自我の有る吸血鬼となった事が許せない。自害したくなる」
「ならば日の下にでも出るかね?
塵も残さずに気化できる」
「とんでもない。
10も半ばの小娘がそんな痛みに耐えられると思えて?」
「ふふ、ならば流水の上に身を投ずれば良い。
痛みを感じる間もなく一瞬で消えられるぞ」
「冗談を。
私は生まれつき水が嫌いなのよ。かなづちなの」
「そうか、なら仕方ない、ガーリックを食べるかね?
命に関するほどの効果を求めるなら、あまり効き目は無いが」
「あんな臭いもの、見るだけで嫌だわ。
そんな事より、ずっと簡単な方法がある」
「ほぅ」
「勇気も何も要らない。
憎しみだけあればそれで十分叶うのよ。私が自分を殺す手は。
・・・自分をそのようにした主人一人、殺せばいいのだから」
「ふふっ、私をか?ツェペシュの末裔たる私をか?
下僕の君が。何故か未熟な、欠陥を持つ吸血鬼の君が」
「自称でしょう。それも」
「自称なものか。彼の者は人を呪い、己を呪い、悪魔と化したのだ。
血等繋がらずとも、この私の身体に宿る吸血鬼としての本能は、
まさに彼の者の遺志だろう。
ならば、それを継ぐ私は紛れも無く末裔だ」
「・・・こじつけに興味は無いわ。
第一、貴方にはそんなもの、勿体無い」
どちらかといえばそういう優雅な名乗りは、私にこそ相応しいと思う。
「しかし君は私の事を主としてしか呼べない」
「我が主よ、本当に憎たらしい。
どのように憎んでいようと、貴方の事は貴方としか呼べない」
「それはそうだ。私は君の主人なのだから。
さぁ我が愛しの姫君よ。深窓に眠りし令嬢よ。
私の為に舞っておくれ。私をもっと見つめておくれ」
「・・・・・・気色悪い」
もうそれ以上、話す事もないだろう。
何より本人が望んでいるのだ。
舞え、と。
「・・・っ」
翼は一瞬で開き、空気すら流れる間を許さず、主の元へと跳ぶ。
そして次の瞬間。

「・・・・・・っ」
「・・・くく」

何故か、勝負は決していた。
勿論必殺の一撃のつもりだった。
確かに相手の命は奪えた。
しかし・・・
「何故抵抗しない?抗えばまだ少しくらいは生きられたはず」
全く、全然、何一つ、完全に私の捕捉どおりの場所に、
私の腕は突き刺さっていた。
「何故?何故かって。可哀相な我が下僕よ。
私を殺したことによって、君は、一人で生きなければならないのだ。
ならば、愛する者がその行程を歩む事しかできぬのなら、
せめて私は、そこまでの道のりは楽に進ませてやりたいのだ。
親心という物さ」
その言葉は、狂った生物の世迷言にしか聞こえない。
「馬鹿な事を。貴様を殺せば私は消滅する。
吸血鬼とはそういうモノ」
「それは、吸血鬼と、吸血によって生まれたゾンビの関係だ。
君は私に血を吸われたが、その身体は未完成ながらにも吸血鬼となった。
なのに君は私を主人と呼ばなくてはならない。
その部分のみが、私の下僕としての君だ。
もうそれも消え去ったようだが。
君の身体は既に吸血鬼そのものであって、私の下僕ではないのだよ」
「・・・・・・」
何を言っているのだ、この男は?
「くくっ、しかしまぁ。なんという事だ。
最も愛しい我が娘よ。世界で最も美しい殺人鬼よ。
私をそこまで嫌うかね?
私の居ない世を望んで、
私を殺すという方法で自害しようとしてまで、私を嫌うかね?」
その際でまで流れるように独特の口調で言う彼に、
せめてもの情けだろうか、私は答えていた。
「・・・・・・方法が気に入らなかった。
それに、私は年下の方が好みなの」
きっと何年経っても、髭は趣味じゃない。
「そうか、それは、考えても居なかった。すまない」
全くこの男は。こんな時にまで、本当にすまなさそうな顔をするのだから。
「謝らないで頂戴。手遅れだし、きっと意味がない」
その言葉に、ニ、と笑って、吸血鬼は砂となって消滅した。
嫌いだけれど、嫌な奴ではなかった。
まぁ、これで、私もやっと、消えられる。

「半刻・・・か・・・・・・」
彼の者が消え去ってよりそれだけの時が過ぎたと言う事。
「何故・・・・・・消えない?どうして?」
そんなはずはない。
そんなに長く生きながらえるとは思わなかった。
「彼を、主人を殺したはずなのにっ
何故だ?私は消滅するんじゃないのか?」
主が滅びてしまえばその時点で下僕となっていた者も消滅する。
それは絶対の理の筈だ。
「灰となるか砂となるか気化するか塵となるかっ
どんな方法でもいいっ、少しくらい苦しむのは覚悟が出来てるっ
なのになんでっ、なんで私は生きてる!?」
そんなの、解っている。
私はゾンビなんて半端な物では無い。
吸血鬼なのだ。
ただ単に彼を主人と思い込み、
その様に接していただけだ。
憎しみながら、苦しみながら、嫌いながら。
それでも、私は己が正体を知らぬ時から彼が主人だと思い、
自分はそれに使役される存在だと思い込んでいたのだ。
「何故だ・・・何故・・・何故なんだ・・・」
解っていたとしても。
それでも、認めたくはなかった。
殺したいほど憎んでいたのに、
死んででも滅ぼしてしまいたいと思っていたのに、
自分だけ残ってしまえば、
彼の居ない今、こんなにも世界は広すぎて、
そして、余りにも孤独。




何年かは動く気が起きず、ずっと伏していた。
その館は、かつて私を吸血鬼にしたモノの棲家だった。
棺はとても重厚で、窓から日が差したとしても、
その中には僅かな射し日すら通す事がない。
快適と言えば快適なベッドだった。
何も考えたくなくて、ひたすら眠り続けていた。

男はその地の貴族であり、私の家とは先祖の代から付き合いのあった間柄だった。
どういった経緯かは知らない。
ただある時男は狂い、
この時代では禁忌とされた『まほう』に手を出したのだという。
それは周囲にとっては不幸な事に、
本人にとっては幸福な事に成功してしまい、
そして彼は、何の前触れも無く吸血鬼となってしまう。
彼がそのようになったのは、私という小娘に魅入られたからだというが、
私が初めてその事を聞いたのは既に彼がそのように血に狂った後だったので、
狂ってからそのようになったのか、元々狂っていたのか、
本当に私が原因なのか、何も解らない。
とりあえず、迷惑な話だった。
ただ普通に生きていただけなのに、
吸血鬼化した彼に襲われ、血の一滴も残さず吸い尽くされ、
死んでしまったのだ。
それでも、そのまま死んだままで居てくれていればまだ話は綺麗に悲劇で済んだのに、
私は吸血鬼として蘇ってしまった。
悲劇のヒロインから、ホラーの主役への転身だ。
そのようになって初めて、彼と会話らしい会話をしたのだが、
吸血鬼として生きる術や、人の襲い方等も教わったりしたのだが、
そうやって、次第に自分が人とは違うイキモノなのだと思わされると、
余計に彼の事が憎々しく思えた。
偏愛とも思える異常な執着を、許せなく感じていた。

何で私にそのような感情を抱いたのか解らない。
ただ、私は歳相応の娘らしく生きてきたつもりだし、
別に他者を誘惑した事もなければ、媚びた態度をとった事もない。
そもそもそんな事が出来るような歳でもなかった。
ただ普通に生きていただけだった。
それが途端に世界を変えられたのだ。
夜しか出歩けない、流水も渡れない、
おまけにガーリックも苦手な、そんな化け物となってしまったのだ。
私程度の人生経験のない小娘に、それがどれくらいの苦痛だっただろう。
それこそ、有態に言えば、人生の楽しいことをろくに経験もせず、
私の人生というものは終わりを告げてしまった。
ただ人とは違うのは、その終わった後もまだ、
私は人外として生き続けている、ということなのだけれど。


現実から目を背け続けること二年。
いい加減眠り続けるのに飽き、とある夜、また動き出した。
そうすると私の存在と名は次第に知れ渡り、
駆逐しようという者と対峙したことも一度や二度ではなかった。
そのことごとくを退けていたある日、ふ、と、
暴れることに飽きてしまった。
人を襲い、血を吸うのは別に吸血鬼として当然の事だけれど、
私は元々小食なのだ。
吸血鬼となってからもそれは変わらない。
解りやすく考えるなら、相手を殺すほどに血を吸うことは無い。
別に血さえ吸えれば暴れる必要もないし、
その事を解らせれば、何も事を荒立てる必要はないのではないか。
第一、空腹で欲望のままに暴れているように見られるのはなんというか、
あまり外面的に良くない気がする。

そう思い行動に移す様になってから幾月か経過し、
人と和解とはいかないまでも、無駄に警戒される事もなくなった。
私に挑んでくるのは向こう見ずな狂信者か、
腕試しをしたいという者位になり、比較的平穏になったように感じた。
その頃の私は、長生きなんだろうしどうせなら、と、
この世界に在る様々な事に興味を持ち始めた。
単純にして難解な数学から、高尚な哲学、
それに未発達ながらも先の楽しみな経済学という物にも目は向いた。
だが、それらよりも何よりも私の興味を惹いたのは、
錬金術という学術だった。

錬金術とは、
金を始めとするありとあらゆる存在を無から生成する為の術である。
金を、と聞けばペテンと思うか、
欲深い者なら金になると飛びつきそうになるかもしれないが、
その技術を得るために様々な実験や考証をし、
幾千、幾万という膨大なデータを検証し、
それを元に更なる実験に取り組む、という、
とても緻密で気の長い、人の生ではあまりにも足りなさ過ぎる、
どの学問・学術よりも長い年数を要する学術だという点に、
魅力を感じた。
何より、失敗してもまた、その失敗により何かしらが得られるというのが良い。
私はどんどんその魅力にはまっていき、
しかし、自分では手は出さず、
そのように研究するものと交流を深めるという方法で、
錬金術を愉しんでいた。

その交流のある者の中でも、
特に造詣の深い者に、
パチュリー=ノーレッジという女錬金術師が居た。
パチュリーはとても気難しい性格をしていたが、
若輩ながらも知恵に優れ、努力を好んだ。
人としての己の限界を理解し、
自分だけで無闇に高みを目指すのではなく、
その後の者に継いでいき、
そうやっていつか到達できればそれで良い、
それまでの間、できるだけの努力をする。
それが彼女の考え方だった。

「あらお嬢様、また来たのね」
私が夜分、彼女の屋敷を訪れると、
パチュリーはいつもの様に、こちらを向きもせずそんな事を言う。
「久しぶりねパチュリー。何年ぶりかしら?」
「先月来たばかりだわ。あなた暦も読めないの?」
嫌味にしか聞こえないけれど、むしろ彼女にとっては心配している部類なのだろう。
「あらそう?ごめんなさい。
吸血鬼になってからは寝るか起きるかの二つしかないから、
時間の感覚なんて当の昔に消え去っていたわ」
「・・・良く言うわ。
なってからまだ、十年も経っていないでしょうに」
そうやって憎まれ口を叩くのも彼女らしい。
「研究はどうなの?」
「ん・・・これを見なさい」
「・・・これは?」
初めてこちらを向いてくれる。
その手に持った小皿には、小さな緑色の物体がぴょこぴょこと跳ねていた。
「私のかねてからの研究の成果よ」
「ホムンクルス・・・ね」
ホムンクルス――
植物を原基とし、
生物的に活動するように特殊な培養液に漬け育成した人工生物の事を指す。
使い魔のようなモノかと聞けばそうではなく、
あくまでも自身の意思で活動し、
その内容もある程度人に近く思考し、
行動していなければそのように定義する事ができないらしい。
当然外見も人に近く成長することが多く、
その体内には人と同じく血や心や魂が宿る。
幾度か彼女からそれらに関する話を聞き、
彼女が最も深く強く時間を費やしている分野であるらしい事も知っていた。
「今はまだこんななりだけれど、
成長すれば・・・そうね、貴方の半分くらいの背丈にはなるわ」
「成長・・・するの?それが」
どう考えても、この緑色の虫みたいなのが幼児程のサイズになるとは思えない。
というか、なったらそれはそれで怖いものになりそうな気がする。
「やっと・・・やっとこの分野に置いて、私は先人の域に達したわ。
多分、以降の私の人生は、この研究の昇華に始終するでしょうね」
「ふーん・・・」
まぁ、そんな化け物のようなものでも、人の手でそれが作れるのなら、
それは確かに大したものだと思う。
無から有を作り出すのは、それほどの莫大な知恵と知識の浪費が必要なのだから。
「まぁ・・・楽しみにしているわ。それよりそろそろお茶にしない?」
「そうね、私も最近、貴方とお茶を飲むのが愉しみになってきたわ」
「それは結構な事」
パチュリー本人としてもこの時間帯の訪問は、
根の詰め過ぎにならなくていい目安になる、
と大歓迎らしいというのも、前に聞いた。


「こんばん―――」
「見て頂戴お嬢様っ、この子達をっ」
それから幾月か経過したまたある日、
いつものように夜分、パチュリーの屋敷に行くと、
彼女らしくなく、私を正面玄関から待ち構えていた。
その顔は、歓喜に満ちていた。
「きゃっ・・・え?な、何ごと・・・?」
予想外の事に驚いていると、
ちょこちょことパチュリーの横から私の方へと歩いてくる二人の・・・
子供が居た。
「パチュリー・・・貴方」
「どう?驚いたでしょう?」
興奮気味にどうだ、とばかりに無い胸を逸らす。
のはいいのだけれど・・・
「一体いつ子供なんて産んだのよ」
「なっ、ちがっ・・・あなたねぇっ」
「まさか実験に使うのによそからさらったとか?
いくら目的の為とは言え、あまり非道なのは支持できないな・・・」
「そうじゃなくてっ、この子達っ、ほらっ、見覚えない?」
「・・・?」
言われて、じ・・・っと見るが、
どこからどう見ても二人とも見覚えのある顔ではない。
「ホムンクルスよ」
「・・・は?」
「この間見せたでしょう?その子達があの時のホムンクルスよ」
「何を言っているのパチュリー。
どこからどう見てもあんな緑のとは似ても似つかないわ」
「ああもうっ、あれはまだ種の状態だったのよっ
でもそうね、お嬢様はその時しか見ていないものね。
仕方ないといえば仕方ないわ」
等と、騒々しく勝手に騒いで勝手に納得している。
正直、不気味だ。
「ほら、挨拶なさい。こんばんは、って」
「・・・・・・」
紫色の髪の子は黙りこくっていた。
「もう、この子は人見知りが激しいわね。
ほら、あなたも、こちらに挨拶」
「・・・・・・」
金色の髪の子も黙りこくっている。
「・・・・・・なんで黙ってるのよ~」
創造主殿は泣きそうになっている。
なんだか見ていて不憫だ。
「こ、こほん・・・とにかくね、ホムンクルスは成長が早いの。
勿論その分寿命も短いし、身体はとてもデリケートだから、
身体に合った安定した空間でないと、
肉体を維持する能力が低下してしまって、大変な事になるわ」
「ふぅん・・・そうなの。大変な事、というと?」
「死ぬわ」
全く何にも包まずにストレートに言う。
「・・・名前は?」
「え?」
「この子達の名前は?」
「あっ、えーっと・・・そういえば考えて無かったわ」
「はぁ・・・」
溜息が出る。
今日日、ペットにすら名前がつけられる時代だというのに。
「貴方は、錬金術師としては最高でも、人としては無能ね」
きっと子供が出来ても、
産まれた事は誇っても名前は付け忘れるんだろう。
何ヶ月も。
「ほっといて頂戴」
ぷっ、とむくれる彼女。
きっとその時も、そういう表情をするんだろう。
しかし今はそれに何か言う事はせず、
ホムンクルスの二人を見つめる。
「そうね・・・紫色の子は、どことなく貴方に似ている気がするわ」
「ん?そうかしら?」
「ええ、そうよ。パチュリーと名づけましょう」
「ええっ、じゃあ私はどうなるの?」
「パチェ、と呼ぶわ」
「・・・そ、ま、良いわ」
それで納得してしまうのだから、
きっとそこまで気に入っている名前でもなかったのだろう。
「金色の子は・・・髪の毛が綺麗ね」
「顔立ちはあなたに似ているでしょう?
貴方の髪の毛を拝借して培養液の材料にしてみたのよ」
・・・勝手な事を。
「成長すれば、きっともっと美しくなるわ」
でもまぁ、その言葉に機嫌は良くなったので、許した。
「この美しい髪はまるでフランス人形みたいね・・・
フラン・・・フランドールにしましょう」
「さっきから安直ね」
「お黙りなさい。
名前すらつけようとしなかった大罪人に言われたくないわ」
「む・・・むぅ」
そう言われると返せないのか、むっと黙りこくってしまう。
それも気にせず、二人の眼を交互に見つめて、呟く。
「あなたはパチュリー。そして、あなたはフランドールよ。
よろしくね。私はレミリア。レミリア=スカーレットよ」
「ぱちゅ・・・りー?」
「ふりゃんどーる・・・?」
「えっ・・・」
口を開く二人に、パチェは驚きの声を隠せないようだった。
「フランドール。言ってみなさい」
上手く発音できなかったその子に、
顔を近づけ、再度、あまり強くないように気をつけて、言う。
「ふりゃん・・・ふらんどーる」
「くす・・・そうよ」
何時振りにか、私の心の中に、暖かいものが生まれた気がした。
母愛、とでも言うのだろうか。
自分で作ったわけでも、自分で育てたわけでもないのに、
どうしてか、この二人が弱々しく、
それでいてかけがえの無いものに感じる。
「よろしくね」
二度目、挨拶をした。
二人は笑顔で
「「よぉしくねっ」」
私の事を認めてくれた。

(続く)
えー、初めましての方初めまして、小悪亭・斎田という者です。

前作のラストでの事もありまして、
もうお前の作品なんてみねぇよと思う方も居るかと思いますが、
そのような中見ていただいてありがとうございます。

本当は一話完結の話なのですが、
あまりにも長くなりすぎてしまったので、
前後に分けて投稿させていただきます。
それでも長いのですが。

とりあえずここで長話もなんですので、続きは後半にて。
それではでは。
小悪亭・斎田
http://www.geocities.jp/b3hwexeq/mein0.html
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