Coolier - 新生・東方創想話

庭師と記者のお話

2007/04/15 03:04:00
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 麗らかな午前の小径。
 桜の花は柔らかな日差しに彩りを増し、散り行く花びらは弾幕のようにゆらゆらと広が
って、地へそっと降りて行く。
 季節は春。柳暗花明(リュウアンカメイ)の幻想郷で、誰もがこの季節の暖かみに身を
ゆだね、心穏やかにさせていた。

 今、小径を歩く少女も、例に漏れずその一人。緑色のスカートをひらひらと揺らして、
大きな人魂を引き連れた少女は、気持ちぶんだけ遅く歩いていく。そうして桜をゆっくり
と見て楽しんでいた。

 春ね。

 少女――魂魄妖夢は口には出さず、心の中でつぶやく。
 眠気を誘うような春光を浴び続けたせいか、妖夢は両手を口に当て、抑え切れないあく
びを漏らす。半身の人魂も、普段より一段とふわふわと軽く浮いているように見えた。こ
のままではのどやかな雰囲気に和まされて、成仏してしまいそうだ。
 妖夢はこれではだらしがないと思い、眠気を払おうと腕を伸ばし、しかし歩みは止めず
に、軽く背伸びを行う。歩きながら背伸びをすることもはしたないと気付いたものの、ど
うせ誰もいないし見ていないと気にせずに続けた。
 心地良い刺激が全身をまわる。彼女は我慢できずに眼を閉じ「んっ」と声を漏らした。
 背伸びを終え、眼を開く。すると、東風が花びらを巻き込んで妖夢へ強めに吹きつけた。
桃色の欠片に視界をさえぎられ、眼を細めて歩みを止める。若干の不快感を覚えたが、風
が止み、目をもう一度開いて桜を見れば、その不快感はすぐに消え去った。
 そのことに我ながら単純だと妖夢は苦笑した。もしあの方がこの場に居たら「妖夢は良
い意味でも悪い意味でも幼いわね」と言うに違いない。

 「あの方がこの場に居たら」と、ふと浮かんだだけだった。
 もしあの方がこの場に居たら、この小径の景色をもっと快良く感じていたかもしれない。
そう思うと、妖夢に花びらの一欠片ぶんの淋しさがこみ上げくる。こみ上げてくると不思
議なことに、桜風景も陽気な物から少し虚無感が漂うような、孤独感があるような、そん
な寂しい物に見えた。
 妖夢はその不思議な淋しさを否定することも肯定することせず、その気持ちをただ受け
入れて、桜を眺め続ける。
 東風が再び吹く。今度は優しく包まれるような風。だが、心が晴れるような気持ちには
ならない。それどころか、さらに静寂に包まれたような錯覚を感じて、視線を流すように
桜を見渡した。

「こ……」

 声が聞こえたので、視線を桜から外し、声をした方を見る。何者かの足がふわふわと浮
いているので、妖夢は顔を仰向いた。
 そこには見知った鴉天狗が、カメラを持って宙に浮いたまま、こちらを覗きこんでいた。
 その鴉天狗は漆黒のショートカットヘアをした女だ。外見は大人と言うよりは子供。女
性というよりは少女。しかし、それでも古くからずっと生きているらしいのだから不思議
なものだと妖夢は思った。
 鴉天狗の少女は「こ……」と発したまま、動かない。よく見れば彼女の頬は少々赤い。
さらには、口がずっと開いたままで、目も見開いて潤んでいる。
 つまり様子が変だった。うっとりしているような、驚いているような、なんとも例えが
たい様子。
 鴉天狗の少女は言葉を忘れたようにずっと無言なので、沈黙に耐えられなくなった妖夢
は怪訝に思って声をかけてみた。
 先ほどまで感じていた淋しさは、そのときはもう無くなっていた。

「何か御用ですか?」
「あっ」

 鴉天狗の少女は我に返り、手をわたわたと振りながら言葉を紡いだ。

「こ、ここんにちは! 文々。新聞、記者の射命丸文です! 取材の協力をお願いできま
せんか!?」

 よほど慌てていたらしく、文は妖夢と顔見知りの間柄にも関わらず、丁寧に名乗りあげ
る。どうしてそんなに慌てているのだろうかと疑問を感じながら、妖夢は話を進める。

「取材?」
「は、はい。え、えーと、最近ネタがないので、えーと、えーと」
「はあ」
「そのー、幼くてバカ正直な性格が災いして、多くの人々からからかわれて玩具になって
いる半人半霊の特集でも組もうかなー、な、なーんて思いまして……」

 会って早々そんなこと言うかと、妖夢の口がヒクリと動く。最近は色んな人に会うたび
にからかわれている気がするが、被害妄想だろうか?と少し凹む。それは片隅に置くとし
て、果たしてどうしてなのか、今日の文の声はしどろもどろな感じで声も若干小さい。そ
れが、遠慮がちに嫌味を言われているようで余計に腹が立った。だからといって、どこか
の誰がするような、軽快なからかい方が良いというわけではないが。
 文も自分の声がいつもと違うことに気付いたようで、わたわたに拍車がかかっている。

「ほう。つまり貴女は喧嘩を売りに来た、というわけね」

 妖夢が右手を剣の柄に置き、小さな声に合わせるかのように静かな怒気を放つ。
 普段ならば、ここで文がケラケラと笑って自慢の速さで逃げるのだが、今の文は相変わ
らず変で、今度は逃げることを忘れたかのようにオロオロとしている。調子狂うなぁと妖
夢は剣を抜かず、手を柄に触れたまま様子を窺う。
 やがて、その手は離した。文の様子が不可解で気味が悪かった。気味が悪くて悪くてす
ぎて、怒りも萎えてしまった。もうどうでもいいと結論づけた妖夢は「失礼します」と文
の横を通り過ぎる。
 そのとき、文はようやく落ち着きを取り戻したようで、何かをひらめいた様にハッと顔
をあげ、待ってくださいと急いで妖夢の横にくっついた。
 一体何なのよと妖夢は内心困りつつ、その応対をする。

「バカにされるような取材はお断りです」
「すみませんでした。でも、今度はふざけているのではなく、真剣に取材、いえ、写真を
撮らせて欲しいのです」

 「結局それか」と妖夢は立ち止まり、さっさと断わって帰ろうと文へ振り向く。
 しかし振り向いたその瞬間、びくっと妖夢の身体が震えて驚いた。文が真顔で、一点の
曇りもなくこちらを見つめていたからだ。
 文は言葉を続ける。

「正直に言いますと、声をかけた瞬間までは冗談の暇つぶしでした。ですが、先ほど考え
が変わりました。あなたを、本気で記事にしたくなりました!」

 文の肝胆を砕く勢いに押され、妖夢は消極的な気持ちになりつつも聞いてみる。

「は、はあ。私を記事にするというのは、具体的にどのような記事を?」
「先ほど見た、一瞬のあの姿。それを写真に撮り、記事として新聞に載せたいのです」
「一瞬のあの姿って何なの?」
「あの姿とは、あなたの姿です」
「いや、だから、どういう姿なのか」
「しょうがないですね……。説明するのがめんどうですが、一から教えてあげます」

 やはり叩き斬ろうかと思う妖夢のことはつゆ知らず、文はコホンと咳払いをし

「静かに散る桜の花びらと、あなたのアンニュイな表情が合っていてとてもよかったんで
す。幻想郷では滅多にお目にかかれないでないであろう、淋しさと切なさを混ぜたような
雰囲気。私はピーンときました。これこそ、いま私が追い求めていたものだと!」

 そして文は少しだけ声を大きくさせて

「なんたって、私がそれに目を奪われて見惚れてしまったんですから!綺麗だなーって!」
「見惚れて?綺麗だなー?」

 聞きなれない言葉に妖夢はハテナを浮かべていたが、少しづつその意味を解釈するにし
たがって、頬がほんのりと赤く染まっていく。つまりは、目を奪われるぐらい自分が綺麗
な人に見えたということ。
 では文の様子が変だったのはもしや、いやまさかと、おそるおそる聞いてみた。

「さっき様子が変というか、ボーと浮いていたり慌てたりしたのは、その……」
「様子が変?」

 キョトンとするしぐさを見せた文だったが

「ああ、そうですよね、声かけたとき、私って変でしたよね。なんだかもう、絵になるよ
うな艶姿だったので、しばらく頭の回転が止まっていたみたいで」

 頭をコツンと軽く叩き、舌を出す。
 妖夢は顔から火が出そうになった。「綺麗」。「絵になるような」。そのような誉めら
れ方に妖夢はまったく慣れていない。もし、近くに穴があったらすぐにでも入ってしまう
だろう。人魂も恥ずかしさに悶えてふるふると震えている。
 妖夢はあまりにも恥ずかしくて、気を紛らわせようと、頬を染めたまま文をにらみつけ
た。

「そんなこと言って!また私をからかっているのね!」
「からかってなんていません!」

 文は妖夢の肩をガッシリと掴むと、ぐいっと自分の顔に近づけた。妖夢の顔に文の吐息
が降りかかる。少しくすぐったかった。

「お願いします。撮らせて下さい。記事にさせてください」
「え、い、いやー。う、うーん」

 普段のぶらぶらしている彼女からは想像がつかないほど、真剣だ。その真剣さに妖夢は
感じていた恥ずかしさを一瞬で吹き飛ばされ、今度はたじたじとなってしまう。
 からかっているのではなく、本気で言っていることは分かった。しかし、それでも妖夢
は首を縦に振れなかった。
 実のところ、見せるための写真を撮られることはあまり気が進まないからだ。恥ずかし
いし、なにより写真を見た人らから何を思われるか分からない。それが嫌だった。
 いつもならばっさり断れるのだが、ここまで真剣に言われると躊躇ってしまう。そんな
妖夢の心境に気付いたのか、さらに押すようにぐぐっと近づいてくる文の顔。妖夢は逃げ
るように身体を反らし

「い、いや、でも、私はそんなに写真映りが良いとは」
「お願いします」
「わ、私よりこういう景色が似合う綺麗な方は、他にたくさんおられますし」
「私はあなたを撮りたいんです。お願いします」
「そ、そ、それに写真ってどちらかと言えば苦手で」
「最近はどうでも良いことしか見つけられず、つまらない記事しか書けませんでしたが、
これなら良い記事が書けそうなんです」

 文は妖夢から手を離した。

「お願いします」

 文の瞳が真剣な眼差しから、懇願の涙目に変わり、あわせた両手を突き出して、頭を下
げる。
 負けた。妖夢は降参と手を上げた。

「分かりましたよ。ご協力します」

 最後に「そこまで熱意があるのなら」と付けたす。
 文は起き上がると、パッと笑顔を弾けさせた。





 六回目のシャッター音が聞こえたあと、文は困ったように唸った。

「ダメねぇ」
「すみません」

 妖夢は何となく謝らなければならないように感じて謝った。なぜ謝らなくちゃならない
んだと苛立ちも芽生るが、しかし律儀で真面目な妖夢は、承諾した自分が悪いとそれを顔
には出すことはなかった。
 六回目のシャッターということは、あれから六枚ほど撮られたことになる。しかし、文
はどの写真も納得できないらしい。

「カメラを意識しないで、いつもの自然体で。自然体でなおかつ、先ほどの気持ちを思い
出してください」
「そうは言われても」

 困った妖夢は躊躇わずに話す。躊躇いがなかったのは苛立ちがあったせいかもしれない。

「だいたい、先ほどの気持ちとか言われても、人に言われてそんな簡単に沸き出るような
気持ちではなかったし、仮に思い出したとしても、あなたが納得出来るようなものになる
自信なんてないわ」
「むー、そうですか」

 文はがっくしと肩を落とす。
 「また私が悪いのか?」と妖夢は意味もなく慌て、文の雰囲気を打開する言葉を必死に
探し

「少し休憩すれば、もしかしたら、大丈夫かも」

 この場しのぎだけで、墓穴を掘っているような気がしたが、どうしようもなかった。
 文はその言葉で気持ちを切り替えたように、きょろきょろとあたりを見渡し

「じゃあ、あそこに座って休憩しましょう」

 小径からちょっと外れた、半分ほど地中に埋まっている巨岩を指して、そこに飛んで向
かう。妖夢も人魂と共に巨岩まで歩くとその上に座った。陽が当たっていたせいか、座っ
たお尻の下から微かな暖かさが伝わってくる。

「お腹も少々空きましたし、ついでにこれもどうですか?」

 どこに持っていたのか、文はおむすびと竹の水筒を2個ずつ取り出し、そのうちの1つ
ずつを妖夢に渡した。

「どうも」

 鴉天狗も人間らしい物を食べることを知り、新たな無駄知識を増やしつつ、手渡された
おむすびを見る。お世辞にも綺麗な形ではないが、手作り感が伝わってきて、とても美味
しそうだった。

「あなたが作ったの?」
「はいっ」

 文はにっこり笑うと、ぱくぱくと食べ始めた。妖夢も口につけてみる。特に感想は漏ら
さなかったが、温かみがある味だった。

「水筒の水は山奥の澄んだ冷たい湧き水ですから、さっぱりしますよ。竹の匂いも若干つ
いているかもしれませんが」

 文に言われて飲んでみたが、思っていたより匂いはついてなかった。透き通ったような
冷たさが心地良い。
 妖夢はおむすびをほお張り、特に会話をする気もなかったので、周囲の景色を見ること
にした。
 こうして座って見ていると、ここの桜は屋敷の桜を思い出させてくれる。偶然なのか奇
怪現象なのか、桜は道に沿うように生え、多すぎず、少なすぎず、適度な間隔。良いバラ
ンス。妖夢は水をコクっと飲み、おむすびをまた口へ入れようとしたとき、桜の花びらが
ゆらりと一枚降りてきて、おむすびについたことに気付き、なかなかの風情だと、しみじ
みと感じた。
 そして、そのまま続きの言葉を口に漏らした。

「お花見しているみたいね」

 文もおむすびを持った手を止め、視界に広がる桜を見ながら

「そうですね。でも、二人だけだとちょっと静かすぎて淋しいですね。いつもならもっと
たくさん集って」
「あれやこれやのどんちゃん騒ぎ。歌うわ喧嘩するわ木登りするわ裸になるわ、とんでも
ないお花見だわ」

 頭が痛くなると、妖夢が頭を抱えた。文は苦笑いをして「そういえば」とふと浮かんだ
疑問を問う。

「どうして一人でこんなところに?」
「主人のおつかいのはずでした」
「はずでした?」

 変な言葉に文は首をかしげる。妖夢はとほほと頭を垂らし、話を続けた。

「香霖堂に注文した物があるからそれを受け取ってきてとおつかいを頼まれ、行って来た
ものの、そんな注文は受けてないと言われ、冥界へ帰る途中でした」
「それはまたおかしな話で。うーん、何かの手違いでは?」
「いやー、屋敷から出るとき、なんだか追い出されるような形でしたし、注文した品物が
どういうものかも聞いておりません。きっと注文した云々の話は嘘でしょう」
「どうしてまたそんなことを」

 文は顎に手を置き、しかめ面で思考を巡らす。妖夢はいやいやと手を振り

「考えるだけ骨折り損ですよ。あの方は……幽々子様は、ときおり何を考えているのかよ
く分からない所がありますからね。まぁ、帰ったら即刻問い詰めるつもりではいますが」
「大変ですねえ。仕えていて、嫌になることはないんですか?」

妖夢はそうですねー、と言葉を返すと顔を仰向かせて、空と桜が入り混じった穏やかな光
景を眺めた。文もそれにつられて、妖夢から視線を外し、桜を眺める。
 妖夢は嫌になったことはあっただろうかと、幽々子との日々を思い出していく。そして、
小さく淋しそうに笑みを零し

「ときどき嫌になることはありますよ。でも本気で嫌になったことはないです」

 静かに語った。

「仕えている私が言うのは身分不相応ですが、あの方は私がいないとダメです。幽々子様
は日ごろからぽけーと漂ってますから、しっかり見ていないと誰もいないような遠い所ま
で、それはもう幻想郷の果てまで、身体も心も漂って行ってしまうかもしれません。あの
方の力はそのくらい強大なんです。それに、私以外の者では、きっとあの掴み所のない浮
いた性格に絡み取られて、一緒にどこかへ行ってしまうでしょうしね。だから私がしっか
り見てあげないと」
「主人のこと、しっかり見ていらっしゃるんですね」

 文は桜から妖夢へ視線を移す。直後、妖夢の表情を映した文の瞳が大きく見開いた。そ
して急いで、しかし気付かぬようこっそりとカメラの準備を始めた。

「私だけじゃなく、主人も私のことを一番見ていると思います。きっとお互いに相手の性
格を一番知っている仲だろうなあ」

 妖夢はあははと笑う。しかしその笑いが終わると、

「例えばこの景色。幽々子様はこんな桜景色が好き。もちろん」

 再び淋しそうな、潤んだ瞳で桜を見渡し

「私も好きです。大好きです。とても綺麗だもの。でも」

 文はカメラを構え、シャッターに指を置く。妖夢の人魂は邪魔にならないよう、文の後
ろへ音もなく回り込んだ。
 妖夢はただ溢れてきた淋しさを、ただ受け止めるように、消え入りそうな声で

「私だけこの桜を見るのは、少し淋しい」

 ぽつりと呟いた。






 次の日、白玉楼に妖夢の声が響き渡った。

「ゆ、ゆゆゆゆゆゆゆ幽々子様!?」
「どうしたの妖夢。そんなに慌てて」
「ど、どうして台所でお料理など!」

 包丁を休めずに、トントンとテンポの良い音を立てながら幽々子は答える。

「あら、いけないかしら?」
「ダメです危ないです!」
「大丈夫よ。私は亡霊なんだから、火傷もしないし包丁で指を切ることもないわよ」

 その直後「いたっ」と幽々子が一瞬震える。左手を上げて見ると、指から赤くうっすら
としたものがにじみ出てきていた。

「切ってるじゃないですか!」
「妖夢のせいよ。妖夢が騒がしいから」
「あ、すみません……そうじゃなくて!」
「妖夢」

 幽々子は切った箇所をペロペロと舐め、真顔で妖夢へ振り向いた。

「命令よ。静かにしなさい。居間で煎餅でもかじりながら大人しくしてなさい」

 妖夢は複雑な表情を浮かべ、何も言えなくなる。しかし直後に幽々子はにんまりと笑い

「そうすれば、良いことが起こるわ」
「良いことですか?」
「そう、良いことよ。さぁ、居間へ」

 妖夢は心配そうに幽々子を見つつ、人魂と一緒にしぶしぶ台所から出て行った。


 それを見送った幽々子は料理を再開する。昨日、練習してみようと一回作ってみたのだ
から自信は満々だ。満々にならなければ、嘘のおつかいまでさせて妖夢を追い出した甲斐
が無いというもの。
 どうして料理を振るうことになったのか、それはただの気まぐれだ。
 日頃の労いをしてやろう。料理を振舞ってやろう。そしてびっくりして大げさに思える
ほど感激する妖夢を見てやろう。真面目な彼女のことだ、きっと面白い一面を見せてくれ
るに違いない。
 ふとそう思いついただけだった。
 その気まぐれは、今日、花見をするために料理を作ってやろうという気まぐれに急遽変
わった。花見の場所は妖夢が案内してくれる。まだ本人は知らないだろうけど。
 果てさて、どんなところだろうかと躍る心を抑え、幽々子は重箱を棚から取り出した。







 屋敷の立派な庭と隣接する回廊には、幽々子が気まぐれで読んだ新聞が置いてあった。
「文々。新聞」と書かれたそれは、誰もが惹きこまれてしまうような少女の写真と、記者
の文章がこう添えてある。




 桜を見ながら、彼女は仕える主人について、話をしてくれた。彼女にとって主人はたい
へん大切な方のようだ。
 どれほど大切に思っているか。それは隣の写真を見ていただければお分かりになるだろ
う。彼女は主人と一緒に、今見ている桜を見たいらしい。こんな表情を浮かべてしまって
いるのは、そのせいのようだ。

 その願いが叶えば、もうこのような良い写真は撮れなくなるだろう。しかしもし叶った
そのときは、彼女にはどんな表情が溢れているだろうか。どんな写真を撮ることが出来る
だろうか。


 私は彼女の願いが叶うことを祈る。


 写真の半人半霊名前―――匿名希望。
 桜の小径にて撮影。
誤字脱字、言葉の誤用、東方の世界観の間違いを発見した方。
及び「こんなの○○タンじゃねえ!」と思われた方へ。

ゴメンナサイ。
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コメント



0.740簡易評価
11.80名前が無い程度の能力削除
なんといいますか・・・綺麗でした。いろいろと。
しっかし・・・幽々子が自身で料理ですか~作っているそばから食べちゃいそうですねw
最後に・・・綺麗な妖夢に乾杯!
14.無評価名前が無い程度の能力削除
いい話だなぁ 騒動起こさない文もステキなのね
17.100時空や空間を翔る程度の能力削除
1人桜を見つめる妖夢の姿・・・・・・
脳裏に浮かんできました・・・・・・・

ソレは女性でも少女でもなくただ1人の
妖夢の姿が・・・・・・