開店準備をしているときふと冷蔵庫を開けると、レティが入っていた。
「暑い~開けないで~」
僕はビックリして、思わず冷蔵庫のドアを閉めてしまった。
きっと今のは何かの見間違いであろうと思い直し、
再び冷蔵庫を開けると、なんとそこにはレティが体を折りたたんでぎゅうぎゅう詰めに入っていた。
「だから開けないでえ~」
僕は思わずドアを閉めたが、きっと疲れていて見えもしないものを見てしまったのだと思い直し、
覚悟を決めて、改めて冷蔵庫を開けた。
するとそこには、レティが体を折りたたんで、これでもかとパンパンに詰まっていた。
僕はビックリして、冷蔵庫のドアを閉めたが、きっと幻覚を見たに違いない、
最近あまり寝てないから、見えもしないものが見えてしまったのだと思い直し、
冷蔵庫を開けた。するとそこには
「開けるなつってんだろうが!」
「ぐほぁッ!!」
みぞおちに一発もらった。
引っ張りすぎたかもしれない。
レティはよろよろと冷蔵庫から出て立ち上がったが、
そのままばたりとその場に倒れこんだ。
「ああ…湖では魚に噛まれ、木陰ではルーミアに齧られ、冷蔵庫に入っていても邪魔されるなんて。
もう私の安住の地は無いのね。正月の頃が懐かしい…」
「暑いのはわかるけど、人の店の商品に勝手に住み着かないでくれよ」
「ちょっとくらい貸してくれてもいいのに。みんな冷たいわ…」
レティは冷蔵庫に頭を突っ込んで泣き出した。迷惑だ。
レティが春になると寒いところを求めて彷徨い歩くというのは、噂には聞いていたが、
まさか自分の所に来るとは思いも寄らなかった。
そう言えば昨日、霊夢が賽銭箱にレティが入っていたので追い出したって言ってたな。
そんなに寒いのか賽銭。
とりあえずこのままでは冷蔵庫が雪女臭くなってしまうので、足を掴んで引っ張る。
「ほらほら、出て出て。さっさと出て」
「いやあ~」
レティが冷蔵庫にしがみついて必死に抵抗する。
そのせいで冷蔵庫はゆっくりとこちらに傾き、倒れこんできた。
どしーん。
レティが完全に下敷きになった。
「ぎゃあああ」
「…なんてことだ」
僕は絶望して倒れた冷蔵庫を見た。
どう見ても一人で持ち上げられそうにない。
「痛い~痛い~」
「面倒なことになったな…」
もうすぐ開店なのに、倒れた大型冷蔵庫などあっては邪魔でしょうがない。
しかも店を横切るように倒れており、入り口とカウンターが完全に分断されている。
もし今魔理沙が来たら商品強奪し放題だ。
「早くどけて~」
「一人じゃ無理だよ。ちょっと待っててくれ、てこを使ってみるから」
とりあえず店の奥の方に金属バットがあった。使えそうだ。
「ちょっと上通るよ」
「ふんぎゃ!」
冷蔵庫の上を通って店の奥に行くと、レティが変な声を上げた。
「うう…もうちょっと優しく乗ってよ…」
「?まあいいや。とりあえず木の板があったからこれとバットで冷蔵庫持ち上げてみるよ。
少し持ち上がったら下からも押してみてくれ」
板を冷蔵庫の横に挿しこみ、バットを下に敷く。
「じゃあ行くよ」
板の反対側を踏むと、てこの原理で冷蔵庫が少し持ち上がった。
「おお、持ち上がりそうだ」
「やっと出られる…」
その途端、板がボキリと真ん中から割れて、冷蔵庫が勢い良くまた倒れた。
「痛てえ――――ッ!」
「あーあ。これは駄目だな」
板とバットを外に投げ捨てる。
そもそも柔らかそうな木だったし、ものは試しでやってみたが、やっぱり無理だったか。
「ちょっと!痛いのよ!痛いのよ!今ので余計床にめり込んでしまって痛いのよ!
ふざけてないで早く出してよ!」
「何だって!?」
それは大変だ。
ただでさえ客が少なくて金欠なのに、床に穴でも開いたら修繕費など出せない。
悩みながら戸口を見ると、リリーが店の外に立っていた。
「春ですよー」
「おお、良いところに来てくれた」
しかしなんだか変な格好をしている。
服の形状はそのままに柄だけが迷彩柄になっておりまるで戦場の兵士のようだ。
頭に巻かれたハチマキにはピンクの丸文字でこう書かれていた。
crush the winter ! (冬をぶち壊せ!)
「春を伝えにきました!」
にっこりと笑いながらリリーは腰のリボルバーを取り出すと、手馴れた動作で弾丸を装填した。
良かった、2人なら持ち上げられるかもしれない。
「レティ、良いニュースだ。リリーが冷蔵庫を持ち上げるのを手伝ってくれるらしいよ」
「やったー…て、いやあああああああッ!」
「それじゃ手伝ってもらえるかな?」
リリーは帽子を持ち上げて頭の上の手榴弾を取り出しながら言った。
「はい!」
「いいやああああああ!!リリーは駄目!リリーは絶対駄目だってばあッ!!!」
「それじゃそっち側もって」
「はい。レティさんもあと少しですから我慢してくださいね」
「殺されるううううッ!!」
何か知らないが叫びまくるレティはほっといて、リリーと両側から冷蔵庫の頭の方を持つ。
「それじゃ持ち上げるよ」
「はい」
2人で力を入れる。
全力でやっているのだが、それでも持ち上がらない。
何だか…重くなってないか?
「レティさん、冷蔵庫引っ張っちゃ駄目ですよー。もう春なんですから。
自分の運命は受け入れないと」
「その武器を捨てたら考えてもいいわ」
これでは2人では持ち上がりそうに無い。
せめてもう一人必要だ。
その時、店の入り口から勢い良くチルノが飛び込んできた。
「レティ!」
かなり急いでいたようで服のあちこちに小枝や葉っぱがくっついている。
「おや、チルノか。何しに来たんだい?」
「ここにレティが居るって聞いたんだけど!」
「そこの下に居るよ」
チルノはすぐに冷蔵庫の側に駆け寄った。
レティのか細い声が聞こえる。
「チルノ、そこにいるの?」
「レティ!」
「何しに来たのよ」
「えっと…もう春だから。会えなくなる前におみやげ渡そうかなって…」
「別にあなたのおみやげなんて要らないわ。どうせまたカエルとかでしょ」
「話を聞いてよレティ!」
いつも仲が良いのに、今日はなにやら険悪な雰囲気だ。
何かあったのだろうか?
「リリー、チルノはレティと喧嘩でもしてるのかい?」
「ああ、それはですね。私、この前チルノちゃんをお花見に誘った時に、
レティさんにも来てもらいたいなと思って伝えておくように頼んだんですよ。
そしたらレティさんすごく怒っちゃったみたいで…」
成る程。雪女に桜を見に行こうなんていったらそりゃ怒るよな。
「それからずっと喧嘩してるみたいなんです。チルノちゃんは悪くないのに、
まさかこんなことになるなんて…私思いもしなかった!」
リリーは冷蔵庫に勢い良く突っ伏してわっと泣き出した。
レティがげふぅと唸り声を上げる。
「落ち着けリリー。君は悪くないさ」
「ですよね。それよりこれで3人ですから、冷蔵庫も動くんじゃないでしょうか」
「そうだな、チルノ、手伝ってくれ」
「何するの?」
チルノが不思議そうに首を傾げる。
「冷蔵庫をどけるんだよ。レティも、君と直接会えばきっと許してくれるさ。
手伝ってくれるかい?」
「わかったわ」
3人で冷蔵庫を持ち上げる。
それでも動かない。レティがしがみついているらしい。
「だから、ほっといてって…言ってるでしょおおおおお!!」
「くそ…何て重さだ!」
「失礼ね!」
「しかし、これは弱ったぞ。3人でも動かないとなると…もうすぐ開店の時間だし…」
「霖之助さん、私に良い考えがあるんですけど」
「なんだい?」
「引いて駄目なら、押してみろです!」
早速僕とリリーとチルノは冷蔵庫の上に乗った。
「イタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━イ!!!!!」
「うるさいなあ」
ついにレティが声にならない声を上げ出した。
どうやら相当精神が錯乱しているらしい。春だからしょうがないか。
「オモイノヨー」
「よし、3人乗ったな」
「あれ、でも持ち上がんないよ?」
「オモイッテバー」
「これでも持ち上がらないなんて…」
「持ち上げなくていいのよお!もうほっといて!」
僕は悩んだ。
そしてある結論に至った。
「どうします?」
「よし、ジャンプしよう」
「
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─( ゚ ∀ ゚ )< じゃんぷじゃんぷ!
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∩ ∧ ∧ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\∩ ∧ ∧ \( ゚∀゚)< じゃんぷじゃんぷじゃんぷ!
じゃんぷ~~~! >( ゚∀゚ )/ | / \__________
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 ̄ / /
」
3人で冷蔵庫の上で飛び跳ねる。
「てい!てい!」
「春ですよー!春ですよー!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「駄目だ、3人の息が合わない!3人一緒にジャンプしよう」
3人が中央に寄る。
「それじゃあ行くよ、いっせーのーで」
「やあ!」
「エターナルフォースフリーザー3人で上の冷蔵庫ごと私を踏みつける私は死ぬ」
「まだ揃わないな」
「今度は手を繋いでじゃんぷしてみましょう」
「とう!」
「フ…上等だ…私も一つ言っておくことがある。この私に氷精の友達がいるような気が
していたが別にそんなことはなかったぜ!」
「今度は勢いが足りないな。よし、今度は音楽をかけるからリズムに乗りながらジャンプしてくれ。
ミュージックスタート!」
「ボンバヘッ!ボンバヘッ!アオーサー!」
「燃っえだっすよーなー!あっついきもっちー!」
「GET DOWN!」
「ぎゃああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああぽげらるご」
ついにレティの声が聞こえなくなった。
しかしいくらジャンプをしても、冷蔵庫が動くことは無かった。
「なんで…なんで!なんで動かないのよッ!!」
チルノが握った拳を震わせる。
「まあ…仕方ないのかもしれないね」
「ですよね…」
普通に考えて下向きに力を加えて冷蔵庫が持ち上がるわけがない。
わかってはいたのだが男は度胸、何でもやってみようと思ったわけだが、
やっぱり駄目だったか。当然だよな。
「レティ…私ね、レティに渡すものがあるの」
そう言うとチルノは氷の塊を取り出した。
中にはアメンボが入っている。
「レティ、カエル嫌いだったよね。だから今回は、ちょっと趣向を変えて虫を凍らせてみたの。
いっぱいあるのよ。アメンボとか、トンボとか、ゴキブリとか、リグルとか、ムシキングとか…」
レティは答えない。
確かにチルノはひどいことを言ったかもしれない。
それでもあれだけ懐いているチルノにまだ冷たい態度を取り続けるレティが、僕は許せなかった。
「仕方ない。リリー。あれを使おう」
「良いんですか?店が壊れちゃいますよ?」
「こんなところ見せられて、黙ってられる奴は男じゃないさ。レティも、実際に顔をあわせれば
チルノが反省してることくらいわかる。早く対面させてあげないとな」
リリーはクスリと可愛らしく微笑むと、さっきの手榴弾を取り出した。
「マークⅡ手榴弾です。爆発有効範囲は5~10ヤード。
3個あるから、全部使っちゃいましょう」
「OK。これだけあれば冷蔵庫なんて木っ端微塵だろう。僕も手伝うよ、1個貸してくれ」
「危ないから気をつけてくださいね」
「あたいもやる!」
突然チルノが名乗りを上げた。
「危ないですよ?」
「あたいもレティ助ける!」
「いいじゃないか。使い方を教えてやってくれ」
3人で一つずつ手榴弾を持ち、店の外に立つ。
「いいですか、ピンを抜いたら必ずすぐに投げて、近くの木の陰に隠れてください。
記録によると、飛んできた破片で50ヤード離れた人間が死んだこともあるそうです」
「すごい威力だな」
「私が合図するので、それに合わせて始めてくださいね」
リリーが腕を真っ直ぐ上に突き出す。
3人に緊張が走る。
「FIRE!」
リリーが腕を振り下ろすと、3人は一斉に手榴弾のピンを外し、
店内の冷蔵庫の近くに投げ込んだ。
いいぞ、完璧なタイミングだ。
「早く隠れてください!」
大きな爆発音が起こる。
音がやんだあと、そろそろと木の陰から出て店を見ると、あちこちの壁にひびが入っていた。
店内は爆発の煙で中の様子が全くわからない。
「レティ!」
チルノが真っ先に飛び出す。
それに続いて僕とリリーが店内に入ると、冷蔵庫は見る影もなくバラバラに飛び散っていた。
どうやら、手榴弾が上手く冷蔵庫の下に入り込んで爆発したおかげで、
威力が最大限に伝わったらしい。
「レティ!どこ!?」
「居ないな…吹き飛ばされたのか?」
「あっ!見てくださいこれ!」
レティは、居なかった。
かわりに残っていたのは水溜り。
それはかすかにレティの香りがした。
「レティ…溶けちゃった」
チルノがしょんぼりと頭を垂れる。
かける言葉が無い。
その時、床に何か書かれているのを見つけた。
「何だこれ?」
かすれてほとんど消えていたが、赤い字でこう書かれているのは読めた。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
「チルノ、これを見てごらん」
チルノは床の文字を見た。
「チルノ。レティは本当は君に謝りたかったんだよ」
「…」
「レティはきっと来年の冬も君に会いに来るさ」
「レティ…私ひどいこと言ったのに…」
チルノの瞳から涙が溢れだす。
「レティ…」
チルノはすぐに涙をぬぐって、真っ直ぐ外を見た。
暖かい日光に桜の白さが眩しい。
チルノの瞳には、今までには無かった強さが宿っていた。
チルノは空に向かって叫んだ。
「私待ってるから!次はもっと大きいカエル凍らせて待ってるから!」
爽やかな春風が吹き込む香霖堂の、ちょっとだけいい話である。
レティと霖之助の絡みってのも珍しい。
そして何よりも後書きにふいた
このあたりは読み手の好みによるものが大きいので、特に気にかけるほどのことではないのかもしれませんが……
とても純粋で素敵なおばかさんで大好きですwww
店が吹っ飛ばずに済んで何よりですな。
途中までは面白かったので。
後半ちょっと強引すぎかなとか、ちらっと思いましたが