Coolier - 新生・東方創想話

魔理沙幻想曲5

2007/04/04 03:39:17
最終更新
サイズ
11.87KB
ページ数
1
閲覧数
629
評価数
1/9
POINT
340
Rate
7.30

かりかりかりかりかりかりかりかりかりかりかり―――
「ぅ、ん・・・?」
白黒し、少しずつ世界が安定する。
目が・・・覚める。まず最初に思ったのは見覚えの無い場所だという事。
記憶どおりなら、私は竹林に居た。
そこで、角の妖怪と出くわし、そして―――
かりかり、かり―――
と、それまで聞こえていた音が止まる。
入っていた布団を出、音の元を探していた私は、
そこに女の後姿がある事に気づく。
「む・・・?ああ、目が覚めたか」
女は振り向いて嬉しそうに微笑む。あくまで口調は淡々と。
「外傷はさほどもないようだし、
寝かせていれば治るものだと思っていたが。
しかし3日間も寝ているとは思わなかった。調子はどうだ?」


第五話[擦り切れた心に住まうハクタクⅡ]


「え・・・?」
その顔は、竹林で戦った妖怪そのままの生き写しのようだった。
しかし、この女には角は生えて居ないし、
良くは見えなかったが髪の色もこんなんじゃなかった気がする。
しかし、この女は私の事を知っている。
「ん?」
まるで私の顔に何かついているのか、とでも言わんばかりに、
ぐるぐると思考をめぐらす私の顔を見る。
「あ、いゃ、でもな・・・うーん・・・」
「変な奴だ。まぁいい。しかしあんな所で何をやっていたんだ?」
「あんな所・・・?」
それは、竹林の事だろうか?
確かに竹林には居たはずだ。
けれど、それを知っているからとこの女があの妖怪だとは確定できないじゃぁないか。
「竹林の事だ。あそこは昼間ですら妖怪の現れやすい地域だ。
あのように夜更けであるならば余計にな」
「そうなのか・・・ここは?」
「ここは人里。名などは無いが、まぁ安全なところだな」
「そう・・・」
「それにしても驚いたぞ、いきなり炎を繰り出したと思えば、
すぐに意識を失ってぱたりと倒れてしまう。
思うにあの炎を繰り出すのは、
お前の精神面に相当負担の掛かる技なのではないか?
もしそうなら多用は禁物だぞ」
その言葉に、それまで薄ら内面にだけ出していた警戒が、
外にも飛び出る。
「っ・・・やっぱりお前がっ」
後ずさりし、いつ襲われてもいいように相手の一挙一動は見落とさない。
「落ち着け。私は妖怪じゃない」
ため息をつきながら強さを変えないその言葉が、
どういう意味を指すのかは知らない。
しかし、それだけで警戒を解くのはできない。
「ふむ・・・信じてもらえないか。それもそうか、見ず知らずだしな。
何よりあの姿を見られては、信じろというのも難しいか」
なのになんでか、この目の前の者は襲う様子も無く
「今は確かに人の姿だけれど、
あの時みたお前は人の持つそれではなかったっ
あの角がどこに消えたのかは知らない。
けど、お前を人間と思う事は・・・」
少し哀しそうなその表情に、私ははっとしてしまう。
何故、そんな哀しそうなんだ?
「・・・そうだろうな。
失礼。自己紹介が遅れた。
私は上白沢 慧音と言う。ワーハクタクだ」
何を思ったのか、急に自己紹介なんかを始める。
机の上の紙に、何か書いていると思えば私に見せ、
それが彼女の名前の漢字だというのがわかった。
そして、そんなことは聞くつもりはないのに、
聞きなれない言葉に興味を持ってしまう私が居た。
「ワー・・・?」
「ハクタクだ。歴史をつかさどる妖獣の事を言う」
「半分は人間なのか?」
「うむ。始めは普通の人間だったのだがな。
だが今は後悔していない。私は望んであの姿になったのだ」
「・・・そうか」
警戒心が薄れていくのが解る。
それと同時に、この人に対して酷い言葉を浴びせてしまった自分が、
とても悪い奴だと思った。
自分が差別された時は激昂した癖に、他人には平気で言えるのかと、
自分で自分を侮蔑したくなる。
「あの場に居たのも、
妖怪達が問題を起こしていないか心配で巡回していただけなのだ。
危害を加えるつもりはなかった。
最近は生徒達も夜を恐れているらしいから・・・な」
「生徒・・・?」
「ああ、私は寺小屋で子供に勉学を教えているんだ」
「寺小屋の・・・」
行った事は無いが、貧しい子供達に勉学を教える場所だというのは知っている。
雰囲気が落ち着いていると思ったが、
そういう事なら納得できるかもしれない。
「今書いているものも、ほら、こんな感じに、
難しく書かれた本を子供にわかりやすく翻訳していてな」
淡々と話していたのが、急に楽しそうに微笑みながら説明する。
「ふーん・・・面白そうだな」
それを見て、きっと好きでやっていることなのだと思い、
羨ましくなった。
私にはそういう事は一切無い。
「・・・・・・お前も来るか?」
「え・・・?」
急に慧音から出たその言葉に、不意を打たれた。
「この幻想郷は、人と獣と妖怪の同居する世界だ。
恐らくはお前の元いた世界とは全く違う。
慣れるまでは、人里に、私の元に居るほうがいいかもしれない」
「・・・寺子屋には興味ない。
これでも私は田舎娘等比較にもならない程度には教養は積んでいる」
「そうか・・・」
「でも、お前の・・・その、どんな教え方をするのかは気になる。
興味がある。行ってもいいのか?」
「ああっ、勿論だ。
それに人里に住むなら住居が居るな。
まぁでも、それは私の家に居れば問題ないか」
「良いのか?こう見えても私は結構食べるぞ?」
「食べたいだけ食べれば良い。
その代わり私の言う事は聞いてもらうが」
「・・・私なんかでも良いのか?」
「何だそれは、変な事を気にする奴だ」
はは、と笑って、慧音は私の事を受け入れてくれた。
さっきまで敵と思い警戒し、挙句に誤解とはいえ蔑視し、
罵声を浴びせてしまったこの私を。
一人だけ生き、一人だけで生き、一人だけで生かされ続けた私には、
その許容の言葉が、何よりも深く、しみるように浸透していった。
「そういえばまだ名前を聞いてなかったな。
生徒を呼ぶのに名前を知らないでは不便だ。
良かったらそろそろ、教えてくれないか?」
「藤原 妹紅だ。よろしくな慧音」
「藤原・・・そうか。
だが、先生に呼び捨てはないだろ。
でもそうだな、それも悪くないかもしれない――」
にこり、と笑って、私に手を出す。
「良いのか?繋いで」
「何を言っている。そんなの聞く必要も無い」
「ああ・・・」
そうだ、私はもう、上白沢 慧音の生徒なのだ。
きっと、ずっと、これからは。
がっ
と手を取り、ぎゅっと握る。
「はは、握手なのに腕相撲みたいだ」
そう笑うこの先生に、どれだけ私は救われただろう。


「先生っ、そのお姉さんは~?」
「ああ、この者は新しい生徒だ。
藤原 妹紅と言う。皆仲良くな」
「よろしくねもこちゃん~」
「違うよもこたんだよ~」
「いや、私は妹紅であってもこたんとかもこちゃんとかじゃ・・・」
「ふふ、困っているな」
「お前も笑ってないで助けろっ」

「もこたんって頭良いんだね~」
「良いなぁ、俺も頭よくなって先生ともっと色々話せたら良いのに」
「色々話せるのは、経験が豊富だからだよ」
「けいけん?」
「そうだ、人は勉強だけしてれば良いってもんじゃない。
それに見合った経験を積まないと、意味がないんだぞ?」
「そーなのかー」
「ふふっ」

「え・・・?寺子屋をやめるのか?」
「ああ、閻魔様のご好意で、
幻想郷にも学校らしい学校が開かれるようになったんだ。
妖怪も妖精も、霊の類すら人間と一緒に勉強できる学校が」
「よ、妖怪とってっ、危険じゃないのか?」
「ああ、大丈夫だろう。
校長は閻魔様自らがするし、
古参の妖怪達は教師として妖怪を監視するから、
人間が襲われることも無いそうだ」
「そうなのか・・・でも、それとやめるのとどういう・・・」
「私にも教師としてきて欲しいらしいんだ。
本当は校長で、という事だったんだが、
それでは自分で教えられないから辞退した」
「今まで教えてきた子を他の教師に任せて、
自分は新しい生徒を見るっていうのかっ!?」
「それは・・・すまない。でも、私は色んな子供達に教えてあげたい。
知っていれば避けられる危険もある、
知らないために失う物もある。
教育は、万人に平等に与えてこそ初めて成る」
「私は嫌だぞっ
そんな学校より慧音の寺小屋の方がずっと面白いぞっ
多分皆そう言う!!いや、絶対言うに決まってるっ」
「我侭を言わないでくれ。まだ学校はこれからなのだから」
「絶対にいやだっ
そんな学校、認めてやるものかっ」
「あっ・・・妹紅っ」


「・・・・・・はぁ」
机に伏したまま眠ってしまったらしい。
懐かしいといえば懐かしい過去を思い出した。
良い歳して、幾周りも歳の違う子供達と机を並べていた時の話だ。
結局私は慧音が教師になるのに反対して、
そのまま子供みたいに家を飛び出してしまった。
そしてそのすぐ後に、寺子屋は廃止された。
新しく出来た学校は、初等部・中等部・高等部とに分かれ、
幻想郷に住まう者なら種族すら問わず、
幅広く生徒は集まった。
というよりも、閻魔の言葉に逆らえる者は居らず、
否が応にも年齢
――これもほとんどが外見がそれらしい者のみだが――
の適応される者は行かざるを得なかった。
私すらも。
「来る訳ないよなぁ」
そして私は、学校で慧音と再会する。
かつての寺小屋の時の親しさは消え、
慧音はサボりがちで言動も粗野な私を問題児として見、
その様にしか扱ってくれなかった。
それでも、私が居ればきっと、寺子屋の事を思い出すと思った。
だから、ずっとこうやって、待つ。

コツ、コツ、コツ、コツ―――
静寂の中、どこからか、靴の音がした。
「え・・・?」
諦めていたものが途端に希望に変わり、そして
「ごきげんよう♪」
裏切られた。
「お前は・・・お前はっ」
長く黒い髪の女。人生の宿敵だった女。
私の人生を変えてしまった女。
蓬莱山 輝夜。月の姫だ。
それが、なんでかこんな所に、従者もつけずに現れた。
「久しぶりね妹紅。入るのが見えたから着てみたのよ」
因みに、私がここに入ってからもう三刻は回っている。
うさんくさい。
「何の用事だ・・・」
期待を裏切った相手がよりによって輝夜だったということもあり、
私の苛立ちは隠しきれない物となる。
「別に?暇だから来ただけ。なんなら弾幕ゴッコでもする?
まぁ私に勝てるはずはないけれど?」
「・・・・・・いい度胸だ。ここでお前とケリをつけるのも―――」
言いかけて、はっとする。
ここはどこだ?竹林ではないのだぞ?
そんな所で、こんな所で弾幕なんて展開すれば、それこそ―――
「いや、やめておく。ここで暴れるのは・・・ダメだ」
「そ、つまんない」
「そう思うなら帰れ、暇人」
「ええ、帰る。
それと私暇人じゃないわ。
こう見えても新鋭サークル『アトリエ輝夜』の主宰よ?
ま、いいわ。行きましょう永琳。存外つまらなかったわ」
「はい。では姫、外套を。初夏とは言え冷えますから」
「・・・なっ」
言葉が発せられ、
それまで居なかったはずの人間がそこに居たことに驚きを隠せない。
「妹紅、あんまり退屈だから寝る前に良い事を教えてあげるわ」
差し出された外套を羽織ながら、私の方を顔だけ向いて言う。
「いらない」
「そう言わないで聞きなさいよ。
・・・こんな、つまらない過去に拘るのは死者の考えよ」
「つまらない・・・だと?」
「ええそうよ。とてもつまらない。
過去にしがみついて、それで前に進めて?
人は一部の例外を除いて
――そう、あのハクタクですら――
自らの積んできた歴史を変える事はできないわ」
「まるで長年生きたような口を聞くじゃないか」
「長年生きてるもの。私も、貴方も」
「・・・・・・」
「正直しょっちゅう突っかかられて迷惑だけど、
どういう経緯かはともかく貴方は私と同類だから教えてあげるわ。
前をしっかり見て、あの先生を見てみなさい?」
そこにどんな真意が有るのか考える。
勿論こんな引きこもり女が言葉の裏なんて考えて話す訳が無い。
そのままに取るにしても、
何故このタイミングで言ってくるのが解らない。
余計に解らない。
「お前と同類というのは虫唾が走る」
「ええ、全く。同意見だわ」
「ならなんで―――」
なんでそんな事をお前が言うんだ?
「仕方ないじゃない。生徒は教師に逆らうものではないわ」
「なっ・・・」
「誰が好んでこんな古びたところに。
でも仕方ないわ。上白沢先生は、あんたが心配らしいからね。
最初はそれでも、他と分別してしまえば、
周りとの平等がはかれないからダメ、
なんて思ってたみたいだけれど、長年積もってたのかしらね?
それにしても、
よりにもよって迷惑掛けられてる私に頼んでくるのも、変な話だわ」
勘弁して欲しい、と、本当に嫌そうな顔をする輝夜。
「貴方がどうしてここに固執するのかは知らないけれど、
先生は捨てたなんて思ってないんじゃないの?
新しく出来た生徒も含めて、大切な生徒だと思ってるのよきっと」
「だから・・・」
「ん?」
「だから、なんでそれをお前が言うんだよっ」
「そんなの私が聞きたいわよっ
でも仕方ないじゃないっ、頼まれたんだからっ
教師の言う事はちゃんと聞かないのと閻魔様が怖いのよっ
ねっ、永琳っ」
「ええ、その通りですわ」
「ほらっ、そんなわけだからっ、私は伝えただけっ
喜ぶなり泣くなり感情出すのはあの先生と居る時しなさいなっ
全く、私の前で出す感情は純粋な怒りだけで十分だわ。不似合いなのよ」
「わ、解ってるっ、とっとと帰れっ」
「な、何その態度?あーむかつくっ
もう絶対貴方のことなんて知らないわ。
今度魔理沙とか霊夢とか送りつけてやるから覚悟しなさいよっ」
なんて、訳の解らない捨て台詞を吐いて、来た時とは裏腹に、
ドシドシッと、古くなった床板を強く踏み歩いていった。
二人が居なくなり、またシン・・・と静まり返る。
「・・・・・・あいつらはやめて欲しいな。寺子屋が壊れる」
全く、あの輝夜という女は。

「ふぅ・・・お酒は萃香に飲み尽くされるし、
食べ物は西行寺さんに食べ尽くされるし、
何の為に行ったのか解らないな」
それでも少しは飲んだし食べたが、
あまり楽しめたとはいえない。
何より気がかりが減らないのだ、うちの生徒ときたら。
霧雨 魔理沙は借りたものを返さないと苦情が絶えないし、
ルーミアは何にでもぶつかるし、
チルノはチルノだし、
生徒会長に至っては、
メイドと組んで教師を葬るなんてとんでもない事を平然とやっている。
正直あの学校の生徒指導は大変すぎる。
それに―――
「ただいま」
私の声に何も返ってこなくなってからもう三年目。
ずっと居なくなって久しい同居人は、きっと今日も・・・
「おかえり」
「・・・え」
間抜けな声が出た。
きっと顔も間抜けだろう。
「ど、どうしたんだよっ、早くあがれよっ」
―――ああ、そうか、やっと、解ってくれたのか。
「そうだな、ただいま妹紅」

(続くのか?)
初めましての方初めまして、小悪亭・斎田という者です。

なんか自分でも有り得ない速度で書いてる気がしますがとりあえず5話です。
前回の続きです。分割した片割れです。
その割には異常に長いです。
このまま行くとタイトルの割に魔理沙が全然出てない小説になりそうなので、
シリアスな話はここで止めてまたギャグに戻りたいなーと思うんですが、
折角書いたのだしこの話も後の笑いの複線になったらなぁとも考えてます。

そろそろ全体像みたいなの考えたほうがいいんじゃないかとたまに思うんですけど、
どうなるんでしょうねこれは(´・ω・`)最後はきちんとまとめてFinにしたいなとは思うんですが。

まぁとりあえずここらで失礼します。ではでは。
小悪亭・斎田
http://www.geocities.jp/b3hwexeq/mein0.html
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.270簡易評価
1.無評価名前が無い程度の能力削除
仕事はえええええええ
続き楽しみにしてます
5.70時空や空間を翔る程度の能力削除
親友、友情・・・・
今も昔も何時までも変わらない・・・・
6.無評価小悪亭・斎田削除
仕事~>
きっとこの勢い、長くは持たないでしょう。
ならばせめて一華ヽ(`□´)ノ

今も昔も~>
この二人の友人設定は好きです。
二次創作だけの設定だなんて、なんとなく勿体無い気がします(´・ω・`)