キーンコーンカーンコーン―――
幻想郷にしては珍しい高い音色の鐘が鳴り、
今日もまた、終業を告げる。
生徒達はにわかに騒ぎ始め、
教師達はふっと一息つく。
今日も、無事に終わった、と。
「アリス、これから暇か?」
「え?うん、暇ね。どうかしたの?」
これから帰ろうかっていう時に、仲良くなった魔理沙が話しかけてくる。
「ちょっと・・・な、暇なら、良かったらだけど、校内案内するぜ」
ぽりぽりと頬をかきながらそんな事を言ってくれる。
一日きただけじゃ解らない所もあるだろうし、
知っておくのもいいかもしれない。
「ありがとう、魔理沙。お願いするわ」
まだ会って間もない友達に感謝しながら、きっと私は笑顔でお礼を言っていた。
第三話[図書館の魔女]
「ふふふ・・・今日も見つけたわ黒いの」
ヴワルとは違う図書館の窓。
いつもの様に以前から目をつけていた生徒
―――霧雨 魔理沙と言ったかしら―――
の廊下を歩く様を捉え、見つめていた。
いつも黒と白の服を着て、男顔負けの強引さと、
皆を惹きつける話題の豊富さ、
そしてどちらかと言うと異性よりも同姓受けのするその顔つき。
一目見たときから思った。
これは、良い素材ね―――と。
そんな黒いのが、珍しく知らない女の子と歩いていた。
まぁ別に女の子と歩いてるのは不思議じゃない。
ただ、見慣れない子と歩いてるというのは珍しいと思った。
大体いつもは教師の紅白巫女。
たまに中等部のチルノとか、
そういう年下と歩いてるのも見かけるけれど、
入学の時に見かけてから二年。
ずっと見続けていた中で、
私の知らない子と歩いてた事は中々無い。
しかも結構仲が良いのか、二人とも歓談しながら歩いているようだ。
「それにしても、綺麗な子だわ」
今度は魔理沙ではなくその隣を歩く子を観察する。
少し癖っ毛気味の金髪は、同じ色の魔理沙と並ぶととても映える。
それに、大人しそうな外見とは裏腹に、結構な魔力の強さを感じる。
多分、魔理沙と同等位の力はあるだろう。
当の魔理沙が気づいているかは、私にはなんとも言えないけれど。
普段はそれを押さえているみたいだけれど、
魔法使いとして既に数百年を生きる私はそんなのでは誤魔化せない。
「去年までは紅白巫女とのベストカップル説が流れたけれど・・・
ふふ、またいいネタが現れてくれたわ。
これで我が部は後3年闘える」
見てなさいよ輝夜。大手の力を見せてあげるわ。
「―――で、ここが放送室。
夜になると夜雀が歌うから聞かないようにな」
「ふふっ、ほんと、この学校って変わってるわね。
夜なのに放送室があいてるの?」
「ああ、何たって妖怪や亡霊も来る学校だしな。
夜の方が動きやすい奴とかも結構多いんだぜ」
「そうなの。なるほど、夜はきっと昼間とは違う賑やかさがあるのね」
「ああ、でも普通の人間は無理かな。
下手すると食べられてしまう」
何たって夜は教師少ないからなー。
あの連中に一番にらみの利く八雲先生が寝てしまうのが痛い。
いや、あの先生はいつも寝てる気がするが。
「あら・・・?あそこは?」
廊下からも見える、外にある建物に目が行ったらしい。
「ん?ああ、あれか。図書館だよ。
紅魔館の司書が何故かこっちの司書もやってるんだ」
「ふーん・・・誰でも入れるのかしら」
「興味あるなら行ってみるか?図書館はいつでも千客万来だぜ」
「うん、入れるのなら行ってみたいわ」
ぱぁ、と、すごく可愛い笑顔が・・・って何言ってるんだ私は。
と、とにかく、喜んでるみたいだから嬉しいな。うん。
「帰って」
「来た途端それはないだろパチェリー」
ふふ、解ってるわよ。こう言えばそういう反応をする事位。
全く、本当に面白いわ。霧雨 魔理沙。
「パチ『ュ』リーよ。図書館は本を貸し出す事はしても、
泥棒に本をあげる事はしないわよ」
「借りてるだけだって」
「なら今まで持っていった63冊のグリモワール。
後23冊の漫画本、3冊の恋占いの本。
それから私秘蔵の同人誌っ、全部返しなさいっ
・・・はぁ、はぁ、はぁ」
久しぶりに長い台詞を言ったわ。私、よくがんばったっ
「持ってくるの面倒なんだ。取りに来てくれ」
盗人猛々しいとはこういう事を指すのよね。
「この・・・私が外に出たがらないのを良い事になんて事を」
大体その時点で返すつもりないようにしか感じられない。
「それにたまに返してるだろー、いいじゃん。ケチ」
毎回返しにきなさいよ。
「返しに来てもまた倍の量持っていくじゃないのよ」
「目に付いたんだから仕方ない」
ふん、と胸を張る。
まぁ、そういう態度に出るんだろうとは解っていたけれど、
やっぱり同人誌取り戻せないのは痛いわ・・・
「・・・はぁ、ダメね、そういう理由ならやはり二人とも使用許可は出せないわ」
「なっ、それとこれは関係ないだろ?
少なくともアリスは関係ないはずだぜ」
あら、庇うの?
「あ、あの・・・だめっぽいの?」
こちらを伺うように聞いてくる金髪の女の子。
――そう、アリスというのね。
「そうね・・・黒いの。私の出す条件を飲むなら使用を許可するわ」
「おっ、ほんとか?どんな条件なんだ?」
・・・かかった。
「私は今、次の学園祭で販売する同人誌の作成で忙しいの。
丁度ネタもなくてね。
貴方達にやって欲しいのは――」
「作るの手伝えって言うのか?」
「ちょっと違うわ。モデルになりなさい」
「「は・・・?」」
綺麗なハミング。
まぁ、呆気に取られるのは解っているけれど。
「私の描く同人誌のモデルになるの。
ちょっと指定したポーズを取ってくれればそれでいいわ」
「まぁ、それ位なら・・・」
「えっ、魔理沙、大丈夫なの・・・?」
「うーん・・・変な奴だけどひどい事はしないだろうし・・・
その、いざとなったら私が護ってやるしなっ」
「ぁっ・・・・・・う、うん」
何そのラブコメ展開。
現実は時として妄想を凌駕する速度で進むのね。
「ふふ・・・貴方達いいわ。私がとっても素敵に描いてあげる」
いける。
次の学園祭(イベント)は魔理沙×アリスのカプが席巻するのよっ
二人のその仕草を見て、そう確信した。
「じゃあまずは・・・アリスと言ったかしら?
あんたはそこのソファーに寝転がって」
「え・・・?こ、こう?」
すぐ近くに設置されていたソファーを指差すと、
アリスは戸惑いながらも横になる。
でも違う、これじゃうつぶせだわ。
「仰向けになるのよ。膝の辺りを少し曲げて・・・
けふっ・・・そう、それで少し股を開く」
「は・・・はぁ」
その不安そうな表情はとても良いと思う。
男共はこういうのがそそるのよ。
「黒いの・・・いや、いつまでも黒いのって呼ぶのも変ね。
魔理沙、あんたは・・・ごふっ・・・」
「だ、大丈夫か?血吐いてないか?」
「大丈夫よ・・・これ位はいつもの事だわ」
そ、そうよ・・・私は本と共に在るのだから。
この位の吐血に負けているようでは直前の修羅場には耐えられないわ。
「魔理沙、あんたはアリスの上になるのよ。
丁度・・・そう、アリスの足の間に膝を置く感じで・・・
げふっ・・・こふこふこふっ・・・うぅ・・・
と、とにかく・・・そう、その状態ね」
「・・・吐血しながらとんでもない姿勢要求してるぞ」
「な、なんだかすごく逆らいにくいわね・・・」
ふ、ふふ、それも策の内よ。
「もう少し、顔を近づけるの。
うっ・・くふっ・・・
はぁ、アリスはその表情のまま魔理沙をじっと見るの」
「えーっと、こう・・・?」
「うぇっ!?」
要求どおりアリスが魔理沙の顔を見つめる。
と、魔理沙はすっとんきょうな声をあげ、顔を背けてしまう。
「え?どうしたの魔理沙?」
「顔は背けたらダメよ。正面からじっと見るの」
「わ、わわわわかってるよっ」
くす、なるほど。
「そのまま少し待ってて・・・」
かりかりかりかりかりかりかりかりかりかりかり――――
スケッチブックに簡単なラフ画を描いていく。
勿論二人の表情の所はラフの域を超えるくらいに徹底的に描く。
それはもう、色々と。
「よし・・・」
数分後、描き終えてぱら、とページをめくる。
中々の力作。
「お、終わったのか?もういいんだな?」
「ええ、良いわ」
ふぅ、と、いかにも疲れたように息をついて、
魔理沙がソファーから降りる。
「全く、変な体勢頼まないでくれよ」
どうやら、これでモデルの依頼は終わったと思ったらしいけれど。
「あら、まだこんなものじゃないわよ?」
「へ・・・?」
「とりあえず今のポーズが終わった、と言っただけ」
「ま、まだあるのかよっ!?」
「当たり前じゃない。
今のポーズだけで一つの話になんてしたら、大手サークルの名が泣くわ」
それこそ、ネタ切れで手を抜いた、とか、
売れっ子になって質が落ちた、とか言われてしまうし。
「サークルって何だ・・・で、次はどんなのなんだよ」
「そうね・・・次は―――」
そうして小一時間ほど、
ひたすら本人達に魔理沙×アリス本のモデルになってもらった。
勿論二人は自分達がそのまま実名でネタにされてるなんて、
夢にも思ってなかったでしょうね。
まぁ、アリスの方はどんなシーンのモデルなのかは、
途中から気づき始めていたようだけれど。
それからがまた面白かった。
どんな目的のモデルなのかがわかってしまったアリスと、
同性なのに強烈にアリスを意識してしまって顔もろくに見られない魔理沙。
二人とも赤面してて、しかも互いに顔を見つめるように指示したものだから―――
勿論その表情も参考にさせてもらったし、
今日は大収穫だった。まる。
(パチュリー=ノーレッジの日記より抜粋)
「は、ははは、なんかすごく遅くなっちゃったな(←気まずい」
「そ、そうね・・・
あの、ごめんなさいね、案内で遅くなっちゃって(←気まずい」
「いやいや、それを言うなら私があいつのいう事安請け合いしちゃったから・・・ぁ」
「・・・・・・・(←赤面」
「・・・・・・・ご、ごめんな(←赤面」
「い、いいえ、私がお願いしたことだったから・・・(←赤面」
かぁぁぁぁぁぁっ
プシュー
二人してその時の事を思い出してしまい、また赤面。
まだ出会って初日だというのに、
とんでもない一日を迎えたために、とてもそうは感じられなくなってしまっていた。
そんな、学期末一週間前。
その頃どこかの紅魔館の門では―――
※都合により門番さんの出番は割愛させていただきます。
(そろそろ続かないかもしれない)
内容が気になります・・・・・・・
きっと7話位になれば出てきますよ。続けば。
もん~>
そして彼女は星になった!!
ツンデレじゃないアリスなんて・・・素直なアリスなんて・・・
大好物ですv