「今日も良い天気じゃない。
パチェも外に出れば良いのに」
「ですがお嬢様、パチュリー様はお体の調子が優れないそうですし」
昼の休息時間。上品な柄のパラソルの立てられた席で、
侍従と共に優雅にお茶を飲む。
折角の良い天気なのに、私の友人は今も図書館にこもりっきりだ。
「ふん、何が不調よ。
大体あの子は色素が薄いのよ。
もっと外に出るようになれば、きっと健康にもなるわ」
「そうかもしれないですわね」
ふふふ、と、咲夜は笑う。
私の言った事が冗談に思えて笑ったのではないだろう。
相変わらず、その心底は計り知れない。
「最近担任になった博麗先生の授業が面白いのよ。
他の先生は私の事気にしてあまり言わないのに、
あの先生はいつもはっきりと言ってくるわ」
他の三年担当の教師とは一味違う。
三年になってから既に四度、
『何故か』担任が立て続けに変わったけれど、
今度のは中々骨がありそう。
「あら・・・それは結構な事ですわ」
「ええ、本当に」
満足そうにそっと微笑みカップに口をつける主に、私も安堵する。
(博麗 霊夢・・・・中々大したものね。
流石は博麗の巫女、と言った所かしら。
今度はしばらくは持つかしらね)
今までお嬢様の為にならない、
ダメだと思われる教師は、
その様に判断したらすぐ内密の内に枝打ちをしておいた。
しかし、今回は当面、その必要はなさそうだし、助かる。
「さて・・・」
す、と
カップを置き、席を立つ主人。
私もそれに伴い、やや大きめの日傘を開き、
主人がパラソルの下から出る丁度そのタイミングに合わせ、
その上にあて、右後ろを歩く。
「咲夜、先生はどこかしらね」
「今は、食堂にて食事中かと思われます」
「そう」
それきり、話さずに進む。
行く先は、食堂。
第二話[紅い生徒会長]
「さ、昼だぜ。おっ、アリスは弁当なのか」
「あ、うん。
食堂とかあるのか解らないから、この方が確実かなって。
魔理沙は?」
「私は食堂だなー
家はごちゃごちゃしてて弁当作るどころじゃないし」
「そ、そうなの?」
「ん、まぁ食堂行こうぜ。
パン屋も食堂にあるから、
知っておいて損は無いし」
「うん。少し待ってね。
うん、これでよし、じゃあ、行きましょうか」
「その人形・・・いつも一緒なのか?」
行こうか、と言うアリスの右肩には、
ちょこんと上海人形が座っていた。
そういえば最初から今まで、ずっと人形を手放さないよな。
授業中も。
人形使いって言ってたし、皆もそれで納得してたけど、
食事の時にまで連れて行かないといけないくらい大切なんだろうか。
「え?うん、友達だから・・・変かしら」
一瞬、本当に一瞬だけど、暗い表情が見えた。
それはすぐに消えたけど、
八雲先生の
「個人的な事情で」
と言っていたのが頭に引っかかってたのもあって、はっと気づく。
「大切な友達なんだろうな。アリスにとっては」
そして、それに気づかないフリをした。
追求してはいけない、そんな気がして。
「・・・・・」
「え?どうしたんだ?」
もしかしたら、地雷を踏んだか・・・?
急に黙りこくってしまって、焦る。
実際にはほんの少し、わずかな間なのに、
どうしてかとてもこの時間の流れの遅さが辛い。
「ふふ・・・ふふふっ、魔理沙って変な子。
でも、そう言ってくれたのは魔理沙が初めてよ」
「な、なんだよ・・・
だんまりしてたから、何か悪い事言ったのかと思ったじゃないか」
全く、私が相手のペースに流されるなんて、珍しい。
「さ、行きましょう。行った事ないから解らないけど、
あんまりゆっくりだと席とか確保するの大変なんじゃないの?」
「あ―――うん、そうだな、急ごうぜ」
そう言って、先導するように歩く。
「ここが食堂。メニューは大抵張り紙があって、
お金と一緒に注文するんだ。
購買はパン屋も兼ねてて、
必要な物からどうしようもないゴミまで売られてる。
ただ、店主が黒い髪の方だとぼったくられるから注意だぜ」
学校の売店なのに投石器とか売られてて最初は驚いたものだ。
まぁこっちも張り紙に書かれてただけで、実物は見たことないけど。
「黒い髪だとダメなの?」
「ああ、銀色の髪と黒い髪のときの二種類かな。
どっちも兎の耳がついてるんだけど、黒いほうは性格悪いんだ。
その癖上っ面はいいから、
ニコニコしながらぼったくるんだが男子が引っかかる引っかかる」
「そ、そうなの・・・気をつけないとね」
「パン、美味しいんだけどなぁ」
和食中心のこの幻想郷では、パンとか洋食は結構貴重だ。
まず麦なんて誰も作ってないし。
「ま、とりあえずこんなもんかな。
それじゃ、私ご飯買ってくるから、
アリスは席取り頼むぜ」
「うん。いってらっしゃい」
近くの席に座って、隣の席に弁当箱を置く。
ぽんぽん、と席をたたいてるのを見て安心すると、
好きなメニューを頼むために人ごみの中に突撃っ
「おらおらどけぇーっ
ミルキーウェェェェェェィッ」
どごぉぉぉんっ
容赦なくスペルカード。
邪魔者は消すものよって八雲先生が言ってた。
「うぁぁっ、逃げろぉっ、くろぃ魔理沙がきたぞぉーっ」
「ひぃーっ、命だけはっ、どうかお助けぇぇぇっ」
「こ、このひまわりパンだけは盗らないで~っ」
お前ら、人の事何だと・・・
ちょっとだけ傷つきながらも、
とりあえずいつものメニューを買えたので、
細かい事は忘れてほくほくと戻る。
「ただいまー」
「おかえり。買えた?」
「おぅ、私に掛かればこんなのちょろいちょろい」
ひょい、と茸ソテーと茸汁と茸ご飯の乗ったトレーをアリスに見せる。
自分で言うのもなんだけどちょっとだけ得意げだ。
「え・・・茸なの?」
「ほーんと、相変わらず強引ねぇ。しかもまた茸?」
「全くだわ。よりによって茸づくしだなんて。
それに、貴方といい、当校の生徒には気品が足りないのよね。
―――そう、私とは違って」
「庶民にそれは少し酷ですわ。所詮茸ですし」
・・・茸の何が悪いんだよ。
「って待てっ」
「「「?」」」
何か余計なのがいないか?
「落ち着け私。
えーっと、とりあえず私だろ、アリスだろ。
―――なんで霊夢とレミリアが居るんだよっ」
当たり前の様にそこにいるし見慣れてるから一瞬気づかなかったぞ。
いや私は馬鹿じゃない。⑨じゃないってばっ
「あらいやだ、私の存在をお忘れなく」
と、気取った風に私の前にずずいと現れるメイド服。
「あんた、食器洗いしなくていいのか?
食堂のおばちゃん激怒してたぞ。
『どこ行ったんだーっ』って」
「ひっ・・・」
顔が真っ青になったぞ?
また抜け出したのか。良くクビにならないなぁ。
「咲夜・・・何も仕事を抜け出してまで私に付き合わなくても」
「いっ、いえいえ、そんな、とんでもないですわ。
お嬢様の為なら火の中水の中・・・」
「早く来ないと鍋の具にするって言ってたぜ?」
今日の奉行は伊藤らしいとも言ってた気がする。
「ひぃぃぃぃっ!?
あ、あの、お嬢様、それではその・・・行ってまいりますね?」
食堂のおばちゃんの何が紅魔館のメイド長を恐れさせてるんだろう。
うーん、興味深い。
「あー、はいはい好きになさい。
スカーレット家に仕えるメイド長が、
バイトで仕事すっぽかしでお茶してたなんて噂立てられても困るしね」
「ははは、はい。申し訳ございませんでしたっ」
そう言うや否や、あっという間に居なくなる。
多分時間でも止めたんだろう。
便利だよなーあの能力。
今一活かせてない気がするけど。
「それで、なんでアリスと私の席の周りに霊夢やレミリアが居るんだ?」
「あ、あの、知り合いだったの?
私、いつの間にか居座られててどうしようかと・・・」
「私は魔理沙と話してたから、てっきり魔理沙の友達なのかと」
せめてそうなのかどうか位確認取ってくれ。
「まぁ友達だけどな」
「私は・・・博麗先生がいらっしゃったから、
素通りするのも失礼だと思ってきたのよ。
用事もあったしね」
つまり、私が居るから霊夢が来て、
霊夢が居るからレミリアが来たのか。
何だこれ、招き猫か私は。
「というか、私の事を呼び捨てにするなと何度言ったら解るの?
春雨 魔理沙」
「霧雨だよ。だってどう見ても年下じゃん?
な、アリスもそう思うよなー?」
下手しなくてもレミリアは幼女にしか見えないし。
「そ、そんな・・・外見で判断したらダメよ。
こう見えても中等部なんでしょ・・・?
大人びたい年頃なのよ」
フォローした直後にダメ押し、アリス、やるな。
感心していると
ピキッ
と、何かが割れた音がした。
ああ、レミリアの堪忍袋か?
結構短気なんだよなこいつ。
「こ、こほん。貴方、見ない顔だわ。転校生ね?
良い事?
この学園で暮らしていく上で、一つだけ大切な事を教えてあげるわ」
「は、はぁ」
お、ぶち切れて不夜城レッドな事態にはならなかったらしい。
成長したなぁ。外見は全く変わらないけど。
「私の名はレミリア=スカーレット。
この学園の三年生。『高等部』の三年生。
つまり最上級生よ。
そしてっ、私は生徒会会長も務めているわ」
「え・・・・?」
アリスが呆気に取られるのは解る。うん、解る。
「解ったら先ほどの無礼を詫びなさい。
ええ、私の名を知らなかった事は罪ではないわ。
大切なのはただ一つ、知った後の態度よ」
「は、はぁ・・・ごめんなさい」
疑問符が頭をいったりきたりしながらも、
とりあえず謝るアリス。
「ふふん、解ればいいわ。今後は気をつけなさい」
すごく満足げに無い胸を張るレミリア。
「まぁ、こう見えても500年も生きた超年増だもんな」
「ええっ!?そんなにっ?」
「なっ、し、失礼なっ
悪魔にとって長命なのは誇りある事なのよっ!?」
「まぁまぁ、食事中だし、食堂だし、落ち着きなさいって」
私の余計な一言で本気でぶち切れそうになるレミリアを、
それまで黙ってた霊夢が手をかざして押さえる。
「ま・・・まぁ、先生がそう仰るのなら」
霊夢には従順なのな。
「それで、私に何か用なの?レミリア」
「あ、はい。
実は今度のお休みにでも先生のお宅に家庭訪問させていただこうかと」
霊夢だと名前呼び捨てでも気にしないのな。
教師って便利だな。
「家庭訪問って・・・普通逆じゃない?」
「そんな・・・先生がどうしてもと仰るのでしたらこのレミリア、
紅魔館500年の歴史に則って、
門番から図書館に至るまで全て警備万全にしてお待ち申し上げますわっ」
会話がかみ合ってないのは気のせいか?
「・・・・・・レミリアが来てくれればいいわ」
色々と諦めたらしい。
「はい。それではその様に」
生徒会長、変な方向に目覚めてないか・・・?
「それで、話の流れみてた感じだと、その子は転校生なの?」
レミリアは用を終えるとすぐに教室へと戻っていった。
しばらく三人でもくもくと食べてたけど、
静か~な空気に飽きたのか、霊夢が切り出す。
「ああ、今日転校してきたんだ。
アリス、こいつ私の幼馴染でここの先生の博麗 霊夢って言う」
「あっ、先生だったんですね。あの、初めまして。
アリス=マーガトロイドって言います」
「別にそんなかしこまらなくていいわよ。
どうせ歳同じくらいだろうし」
「そうなんだ・・・良かった。見た目と実年齢ギャップがある人多いのかと」
「まぁ見た目とギャップあるって言ったらウチの担任も大分・・・」
ポンッ
何かが肩に当たるのを感じて見ると、
何もない所から手だけが出て私の肩の上に乗っていた。
これが私の肩を叩いたのは解る。
でも、それ以上振り向いてはいけない。
振り向いたら連れて行かれる。
「は・・・ははは、うちの担任はほんっとっ
歳も見た目も若くて美人だよなーっ」
「・・・?何言ってるの魔理沙?」
不思議そうにこっちを見ているアリスと霊夢。
もう肩の感触はなくなってた。
ああ、お前達には見えなかったんだな?見えてなかったんだな?
私は解るぞ、今、きっと、私達には見えない空間で、
担任がすっごい笑顔で私の方見てるんだっ、きっとっ
「変な魔理沙。まぁいいわ。
それで、アリスは魔理沙とどういった経緯で友達になったのかしら?」
「あ、それは、
私が男子に囲まれてぼろぼろになって困ってたところを、
魔理沙に助けられて・・・」
アリス。それは間違ってないけどなんかダメだ。
「そ、それは・・・そう、強く生きるのよ」
霊夢も勘違いしてるし。
「は、はぁ・・・」
釈然としないと言った感じで、アリスは私の方と霊夢の方を交互に見ている。
「霊夢は、レミリアの担任だったんだな」
「ええ。なんだかすごい問題児だって聞いたんだけど、
全然そんな事無かったわ。生徒会長っていうだけあって頭いいし。
魔理沙みたいなのだったらどうしようかって思ってた」
「それは・・・失礼だぜ」
教師まで含めて色物ばっかりなこの学校にしては、
私はかなりまともなほうだと思う。
「でも何故か良く話しかけられるのよね。
別に贔屓してる訳じゃないし、私から話しかける事はあんまりないんだけど」
「気に入られたんじゃないか?」
「馬鹿、吸血鬼に好かれてもあんまり嬉しくないわよ」
「そりゃそうだ」
怒らせても好かれてもあんまり良い事は無いのが吸血鬼だと私は思ってる。
多分人間なら誰でも。
「まぁ・・・神社に来るっていうし、綺麗に掃除しておかなきゃ」
神社、壊されてまっさらにならなきゃいいけどな。
その頃―――
ひゅぅ~~~~~
微妙に長く弱い風が吹く。
今日も誰も来ない。
きっと誰も来ない、一人きりのクリスマ・・・違う。
フランドール様も出てこない。
パチュリー様も出てこない。
小悪魔すら出てこない。
「・・・・・・はぁ」
今日になって何度目かの溜息かわからない。
とりあえず、今までここまで強くこんな気持ちになる事はなかったはず。
なんで今日に限って、こんなにも―――
「出番・・・まだかな。丑三つ時からスタンバってるのに」
見せ場ないんですかっ!?
(続く・・・?)
早く出れると良いですね・・・・
いきなりあだ名で呼ばれそうな気がしますが・・・・(汗
言葉の行き違いよりも困り方のシュールさに笑いをとられたのは俺だけではないはず(汗
完全に霊夢に誤解されてるぞw