Coolier - 新生・東方創想話

『狂気』を持つ者たち ACT2 『狂気』からの自由

2007/03/30 03:23:46
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  一方咲夜とフランドールの戦いも佳境に入っていた。

「あはは、咲夜やる~♪」
「私だって……成長、してるんですよ!」

  フランドールの恐るべき弾幕を時を止めたりしながらかわして行く咲夜。
  だが内心ではかなりギリギリの勝負だった。心の中では脂汗が出まくっている。
  何しろ避ける分にはこの通路は狭すぎた。外ならばまだ避けやすい。

「じゃあこれならどうかなぁ」

  新たなスペルカードを取り出すと

「禁忌『フォーオブアカインド』」

  4人に増えたフランドールから4倍の弾幕が襲い掛かる。

「っ!?」

  ギリギリで時を止め、弾幕の隙間を何とか見つけてそこから回避して行く。

(やはり満月が近いからかしら? 妹様何時も以上に力が強まってる。 
 幾ら時を止めて避けられるからといって何時までも行えるわけではないわ。
 何しろ妹様はお得意の『あらゆるものを破壊する程度の能力』を有してるんだから)

  今でこそ時を止め、自身の世界で動き回っている咲夜だがもし今後フランドールが
  その時の静止した世界を認識すれば、その世界を破壊しかねない。
  その為にも余り時を止める能力を行使することは望ましくない。

(最悪何とか日の出まで時間稼ぎをしなければいけないわね。太陽さえ出れば、後はどうとでも出来る)

  とにかく今は時間稼ぎをすることを決意したようだ。
  だが、こういう緊迫した時に別の事を考えると失敗するのが世の常。
  この場合も例外ではなく、4人の内の1人が放った弾幕の一部が
  咲夜の右斜め後ろから襲い掛かる。既にバックステップでかわしているため避ける事は出来ない。
  時を止める暇もない。一発当たったらそれで終わり。それがフランドールなのだ。
  もう駄目だ、と目を瞑った。が、何時まで経っても痛みはやってこなかった。

「何やってるの」

  聞きなれた声が聞こえてきた。

「お嬢様!」
「遅くなったわね」

  右手にグングニルを持ったレミリアが咲夜の前に立っていた。みれば弾幕も止まっている。

「申し訳ありません」
「いいわよ。それよりもそんな傷でよく頑張ったわね」

  みれば咲夜は既に傷だらけだった。息も切れ、痛みもあるはずだ。
  何時当たったのかは知らないが、今までよく動けたものだとレミリアは感心する。

「その傷はあとで治療するとして……さがっていなさい咲夜。後は私がやる」

  咲夜は無言でコクリと頷くと、左足だけで後ろに飛び安全圏へと避難した。
  それを見届けたレミリアはフランドールに向きあう。

「あはは♪ こんばんわお姉様」
「ええ、いい夜ね。さ、フラン……お部屋に帰りなさい」
「いやよ。だって私にはやる事があるもの」
「生憎だけど、それは姉として、領主として許可できないわね」
「別にいいよ、許可なんて要らないもの。私は私の判断で行動する」
「目的は……やはり美鈴?」
「そうよ。私はあの女を殺すだけ」
「あなた……分かってるの? 殺す…壊すって事が」
「うん、わかってるよ♪ 動かなくなるって事でしょ? ならいいじゃない。見てみたいな。
 あの女が血だらけになって動かなくなるところ」

  レミリアの言葉に4人のフランドールが1人ずつ答える。
  咲夜はその発言を受けるたびに怒気がレミリアを段々覆っているのが分かった。

「そう、なら本気で止めさせて貰うわ。明日は満月で色々と面倒だし、美鈴を殺させるわけにもいかない。
 あなたと彼女を会わせる訳には行かないの」
「良いの? 今日の私は絶好調だよ?」
「あのね、同じ吸血鬼なんだから私だって同じよ」
「そっか」

  すると4人のフランドールとレミリアは身構える。

「あはは♪ 幾らお姉様でも今日の私には敵うかな?」
「あのね、何年あなたの姉をやってきたと思ってるの? それに今まであなたが私に勝ったことあった?
 良くて相打ち、それ以外はあなたの自滅でしょうに」
「そうだね♪ じゃあ今日はその連敗記録に終わりをつけよう♪」

  その言葉と共に双方の殺気は爆散し激突した。
  本体と思われるフランドールが一番後ろに下がり、3人が襲い掛かってくる。
  だがレミリアの動きは今までにも増して凄かった。グングニルを横に振っただけで大部分の弾幕を吹き飛ばし、
  フランドールがひるんだ隙に投擲。それでまずは1人を撃退した。

「紅符『不夜城レッド』」

  辺り一面に今度はレミリアの弾幕が展開される。
  それは4人のフランドールに負けず劣らずの多さと威力をかね揃えていた。
  流石は自身も好調だと言っただけのことはある。
  あっという間に1人を殺し、もう1人を吹き飛ばして瓦礫に埋もれさせた。
  残った最後の1人も何とか逃げ回ったが最終的には捕まった。

「ほら、止めたわよ。今日の逃走劇もここで終わり」

  首根っこを捕まえてレミリアは不敵な笑みを浮かべた。

「それにしても今日は一段とおとなしかったわね。てっきりこの10倍は弾幕ごっこすると思ってたけど?」

  確かに、普段の姉妹喧嘩に比べて今日のはあっという間に終わった。
  そこだけがレミリアにとって腑に落ちない。そして何より。

「ふふふ」

  この圧倒的不利、勝負はもうついているはずなのに、フランドールが浮かべる邪悪な笑みが腑に落ちない。
  恐ろしく、まるでしてやった……といわんばかりの顔。

「ねえお姉様」

  左手で自身を掴んでいる手を、右手でレミリアの肩を掴む。

「一ついい事教えてあげる。今日の私は……『狂気』にはまだ犯されてないよ?」
 
  その時、不意に先ほどフランドールの1人が吹き飛ばされた瓦礫が吹き飛んだ。
  中からでてきたのは傷だらけのフランドール。

「えっ!?」

  これにはレミリアも驚いた。

「分身にはこういった使い方もあるんだよ? けど痛かったぁ~」

  そう言うは傷だらけのフランドール。既に体は修復が始まっている。

「まさか……本体を囮にしたのね?」
「そうだよ。私だってお姉さまが一番後ろに居る私を攻撃してくるのは分かってたもの。えへへ、してやったり」

  ケラケラと笑う。そして邪悪な笑みを浮かべて彼女を見た。
  その笑みを見る限り、本当に『狂気』おかされていないのか疑問にも思える。

「じゃあねお姉様。後はその子が相手してくれるよ」

  クルリと背を向けるとフランドールは去っていく。
  レミリアは追いかけようとするが、自身を捕まえている分身のフランドールが離さない為動く事が出来ない。

「じゃあね咲夜。また今度遊ぼうね♪」

  まともに動けない咲夜にフランドールは言って素通りする。
  咲夜も今の状態で勝てるとは思わなかったのか抵抗と呼べる抵抗はしなかった。
  ただ一つ、どうしても聞きたい事があった。

「妹様、妹様は一体何をお望みなんですか? 美鈴を殺して、何を手に入れようというのですか?」
「ふふふ、そうだね♪ 咲夜には特別に教えてあげる」

  フランドールはバッと左右の手を横に広げて高らかに言った。

「私は『自由』を手に入れるために彼女を殺すの」

  この答えに直ぐに咲夜が反論する。

「ど、どうしてですか? どうして自由を手に入れるためには美鈴を殺さなければならないんです?
 関係ないでしょう? 美鈴と妹様を閉じ込めていた地下室は」
「まぁ最後まで聞こうよ咲夜」

  首だけを動かしてフランドールが咲夜に向けた眼差しは今までと違った。
  今までの壊れたような笑顔ではなく真剣な表情。これなら確かに『狂気』には犯されていないといえるかもしれない。

「私が『狂気』を宿していること。それは知ってるよね?」
「はい。ですから地下室に幽閉されていました」
「そう。じゃあその原因を作ったのは美鈴だって知ってる?」
「え?」

  思いがけない言葉を聞いて咲夜は言葉を失う。すぐさまレミリアが反論した。

「違うわフラン! 壊れたのはあなたが自己の制御が出来なくなったからじゃない!」
「そう! 私が私の能力で自我を破壊し、『狂気』の権化となった。最終的には私の過ちだわ。
 けどお姉様もよく言ってたでしょう? 『結果』には必ず『原因』があるものだって。
 原因はあの女。あの女のせいで私は私を失った!!」
「馬鹿言わないで!! あなたの言いたい事は破綻しているって前にも言ったでしょう!?」
「破綻してないわ!!」

  レミリアの怒声に今度はフランドールが怒鳴り声を上げる。
  普段からは見られない『狂気』無しの本気の怒気にレミリアまでもがひるんだ。

「あいつは私から全てを奪った。お姉さまも、何もかも全て!
 今でも夢に出てくる。あいつが、あの女が私だけをおいて全てを持って行く悪夢を!!」
「フラン……」
「私はあの女が嫌い。だから壊す、殺す気で壊しに行く。あいつを、あいつの存在を、あいつの全てを壊してみせる!」
「……ですがそれでは自由は得られません」
「そうかもしれない、今回のも一つの賭けだから。でもね、今の私にはそれしかない。
 私は『狂気』によって支配されている。今もこうして気を保たなきゃまた気が振れて私は私じゃなくなる。
 だけど少なくとも、あの女を壊せば悪夢は終わる! 全てが元に戻る! 安心して眠る事が出来る!
 私は私を取り戻す事が出来る!!」
「……論理が破綻してるわね、相変わらずあなたの意見は」

  するとフランドールはブン、と手を振った。レミリアの肩が抉れる。どうやら気に障ったようだ。

「私は『狂気』から解放されたいの。私が幽閉された原因となる『狂気』から解放される、それこそが真の自由!
 無論あの女を壊したとしても、解放されないかもしれない。でもまた一つ前進できる!
 かつて魔理沙が私を倒し、私が少し自我を取り戻せたように! あの女を壊し、私は私を取り戻す!」
「…………」
「フラン……」

  一息つき、何とか平静さを取り戻すフランドール。
  熱くなるのはいけない、熱くなればまた『狂気』犯されることはわかっていた。

「だからこればかりは邪魔させないわ。それがたとえお姉様でも」

  邪魔すれば問答無用で殺す、という眼だった。そんな彼女に勇敢にも咲夜は質問する。

「では……今までの脱走も全てが美鈴を殺すために?」
「いいえ、今までのは本当に外の世界を求めたから。外の世界に出る事によって自由が手に入ると思ったから」
「じゃあ…美鈴を殺そうと思ったのは?」
「魔理沙にやられた後。魔理沙は非常に役に立った。
 私が彼女と戦った事により私は自我を少し取り戻した。そして彼女は私を外に何度も連れ出してくれた」

  魔理沙はあの戦いの後何度かフランドールを地下室から連れ出していた。
  無論レミリアの許可を取ってである。
  そして幻想郷中を回り、フランドールに世界というものを見せてきていた。
  いろいろな物を見せ、いろいろな物を教えてきた。その様子は姉と妹のようだったと咲夜は語っていた。

「私は世界を周った。そこでまた少しずつ自我を取り戻した。でも駄目だったの、限界があった。
 外にでるだけではまだ私の体の中を巣食う『狂気』は消えなかったの。お姉様は色々と手をうってくれた。
 以前ウサギさんの耳を生やした女の子が来たわ。彼女は『狂気』を操る能力を持っていた。
 でも…彼女の力をもってしても、私の身に巣くう狂気は排除できなかった」

  そう、以前の事件後、咲夜はレミリアの命令で鈴仙を紅魔館に連れてきていた。
  彼女の持つ魔眼ならばフランドールの『狂気』を消すことが出来るかもしれないと考えたからだ。
  だが結果は失敗。せいぜいフランドールの『狂気』をある程度抑えることくらいしか出来なかった。
  逆に得たものでは、フランドールの自我がまた少し、元に戻ったくらいである。
  それほどまでにフランドールの『狂気』は強力なものだったといえる。

「100%でなくてもいいの。少しでも『狂気』を減らしたい。
 そのためなら手段は選ばないわ。そこで思い立ったのが…」
「美鈴を殺す……ことですか?」
「そう。勿論美鈴は何時か殺そうと決めてたの。脱走にあわせて殺そうと思ったのは幻想郷に来てからは多分初めて」
「幻想郷に来てから?」
「咲夜、この子はね。幻想郷の外に居たとき度々美鈴を襲撃してたのよ」
「そう。まぁそのときの私は『狂気』に支配されていて、恨みや憎しみだけで襲ってたと思うけどね」

  まだヨーロッパに居たころ美鈴は度々フランドールの襲撃を受けていた。
  今もなお生きているということはそれを全て退けてきたという事になる。

「あの頃は一度も勝てなかったけど。少なくとも今の私は自我を持ってるわ」
「でもそれだけでは勝てないでしょう?」
「勝率は上がったよ? それだけで十分」

  つまり自身の明確なる意思の元に美鈴を殺しにかかったのは今回が初めてということだ。

「じゃ、話はこれで終わりにしよう? 急がないと日が昇っちゃう。
 私たちは吸血鬼、太陽が大の苦手。日が昇っちゃったら折角出て来たのが無駄になっちゃう」
  
  先ほどまでの真剣な表情から打って変わりいつもの笑顔に戻ると鼻歌を歌いながら歩き出す。

「ま、待ちなさい!」
「待てといわれて待つ人はいないよ~。あ、そうだ。その子振り切って追いかけられても困るから、
 お姉様には暫く動けなくなってもらうね♪」

  パチン、と指を鳴らすと彼女は行ってしまった。

「咲夜! すぐに追って!」
「は、はい! …お嬢様!!」

  最初頷いた咲夜だったが直ぐにレミリアに向かって無茶な体を動かして走り出す。
  というのも、フランドールの分身の体が発光していたからだった。

  バァン

  そしておもむろに分身は爆発した。正に間一髪というところだった。
  時を止めてレミリアの体を引き剥がした咲夜はそのまま瓦礫に向かって飛び、瓦礫を壁代わりにした。
  本来ならばもっと遠くに逃げるべきだったのだが、今の咲夜ではそこまでが限界だった。
  爆発したのと同時に大量の弾幕が発生、全方位に散る。
  瓦礫をシールド代わりにしたが甘かった。何しろ相手は破壊を能力とするフランドールなのだ。
  弾のいくつかは貫通し、2人を襲った。

  砂煙が立ち、2人の姿もその中に消える。数十秒後煙は晴れ、2人は出てきた。
  咲夜には今の爆発によるダメージはあまりなかったが、レミリアは全身を酷く抉られていた。
  
「お嬢様……」
「大丈夫? 咲夜」
  
  庇ったのである。咲夜が頷くとレミリアはゆっくりと倒れた。
  すぐさま咲夜が激痛が走る体に鞭を打ち、手当てを始める。

「お嬢様こそ……申し訳ありません、お手を煩わせて」
「いいのよ。まさか…あの子が罠を張っていくなんて思わなかったわ」
「……それほど本気ということですか」
「ええ……」

  レミリアの体からは煙が上がっている。修復が始まっている証拠だ。

「咲夜、私が動けるようになったらすぐに追うわよ。動ける?」
「大丈夫です」
「無理はしないように、私が何とかするから。何としてでもフランをとめる」
「分かりました。あの……」

  申し訳無さそうにレミリアをみる咲夜。言い出しにくいのだろう。

「そうね……教えておいた方がいいでしょうね、あなたには」

  ゆっくりと頷くとレミリアは話し出した。






  フランドールは玄関へ向かって歩いていた。彼女……美鈴は門番の仕事をしている。
  ならば門番隊の勤務所があるはずだとフランドールは直感する。まずはそこを探す事にした。
  門番隊というからには門の近くに勤務所はあるはずだ。ならば玄関から行った方が早いと考えたのである。

「妹様!!」

  もうすぐ玄関、というところで彼女に声がかかる。
  またか……とフランドールはため息をついた。懲りずによく来る、と思った。

「お部屋にお戻りください。隊長のところには行かせません」

  玄関口には3人のメイドが居た。纏っている空気から他のメイドたちとは違うとフランドールは感じ取った。

「お話は聞きました。門番隊直属メイドとして、お通しするわけにはいきません」

  3者3様の構えを見せる。それをみてフランドールはシメタ、と思った。

「手間が省けて丁度良かった。ねえ、あなたたちの隊長さんの居場所知らない?」
「知っていますが教えるわけには行きません。お部屋にお戻りください」

  どうやら聞き入れる気配はないらしい。まぁどうせそうだろう、と予想はしていた。

「じゃあ仕方ない。力ずくで教えてもらうね。門番隊とやるのは多分初めてだから楽しめそう。
 せいぜい壊れないようにね♪」

  ケラケラ笑うとバッと襲い掛かった。



  ◆  ◆


  
  フランドールが紅美鈴をはじめて見たのは雲ひとつない三日月の日。
  それ以前にも彼女の話は聞いていた。レミリアがよく話していたからだ。
  
  『面白く、優しく、意地悪な人』

  彼女はそう言っていた。だからフランドールも一度会いたくなった。
  姉がそこまで興味を持ち、自身から離れて行くようになったきっかけを持たせたあの女に。
  あの頃のフランドールはまだ『狂気』の『き』の字も知らない唯の吸血鬼だった。
  自覚していなかった、自身の持つ能力の危険さを。
 



  これは彼女が能力を発動し、自我が崩壊していない頃の話。 
  あの頃の彼女はまだ普通の吸血鬼で、レミリアとそこまで差はなかった。

  三日月の日、レミリアは普段よりも早く眠ってしまった。彼女たち姉妹は何時も2人一緒に同じベッドで寝ていた。
  多分その頃の彼女らを見ていた人たちならば、仲の良い姉妹に見えていただろう。
  事実2人の仲は良かった。無論、今でも仲はいいが。
  ただ当時はもっと仲がよく、何時も一緒に居たという事を分かって貰いたい。
  その日、どうしても寝付けなかったフランドールは寝ている姉を置いて内緒で部屋を出た。
  外は後2時間もすれば夜明け。うっすらとだが暗黒の闇は薄れてきていた。
  別段何処に行くでもなく、一人暗い館の中を徘徊した。そんなとき。

「こんな夜更けに何処に行かれるんですか?」

  突如何処からか声がした。

「誰!?」

  驚き、とっさに身構える。すると声の主はコツコツコツ、と暗闇の中から出てきた。
  
「こんばんわ妹様」
「あなたは……?」

  紅い髪、独特な衣装、すらりとした体格……フランドールの記憶の中に該当するのは一人しかいない。

「紅……美鈴?」
「あら? 知っておられたのですか? 初見の筈ですが」
「お姉様から話は聞いているの。何時もお姉様がお世話になってるわ」
「別にかまいませんよ。どうせ夜は暇ですから」

  それから2人でベランダへと向かった。レミリアと美鈴が始めてあった場所だ。

「お飲み物は何になさいますか?」
「何でもいいわ。それよりもあなた、普通に喋ってよ。年上に変に気を遣われるとこっちも困るの」
「あいにくですが、それが使用人というものです」

  苦笑しながら美鈴は茶をいれて2人は椅子に座る。
  彼女が独自に配合した茶らしく、今まで味わったことのない、奥深さが感じられた。

「でもあなたは私たちと同じ吸血鬼なんでしょ? じゃあ何で使用人なんてやってるの?」
「では逆に問いましょう。なぜ吸血鬼が他の者を従えなければならないのですか?」
「吸血鬼は人間、妖怪を遥かに凌ぐ絶対的な存在だからよ」

  少なくともフランドールはそう自覚していた。妖怪の種類はたくさんあるが、吸血鬼にそれはない。
  ピラミッドを作ってみてみても、どう考えても吸血鬼が頂点、ないしはその次に来る存在だ。
  ましてや美鈴はその吸血鬼の中でも特異な存在。

「果たしてそうでしょうか?」

  だというのに、この女は難しい顔をしてそう言った。

「人間よりかは強力でしょうが、妖怪とは大差ありませんね、私から見れば」
「どうして?」
「私たちには弱点がたくさんあります。太陽の光然り、白木の杭然り……」
「あなたは太陽の光は問題ないでしょう? 『白昼の吸血鬼』と呼ばれる存在なのだから」
「そうですね。他にもお嬢様方が苦手とされているニンニクや流れる水も弱点ではありません」
「ほら、そう考えるとあなたは少なくとも私たちよりも上の存在。
 だというのにあなたは自身が属する吸血鬼が下等という。それはどうして?」

  美鈴は難しい顔をしながら茶を飲むと続ける。

「吸血鬼は確かに他の追随を圧倒する力を持っています。
 ですがその代償として今言ったような数多くの弱点を負います。勝利を得る代償としてはかなり大きなもの。
 弱点を知っているものはその分、対策を打てます。
 それを打ち破って勝ちに行くわけですから、はっきり言ってハイリスクローリターンというものですね。
 反面妖怪は貧弱な体ですが、その反面弱点と呼ばれるものがほとんどない。
 故に下手な細工は打てず、真っ向から勝負するのがもっとも効率がいいんです。
 そう考えると吸血鬼は妖怪よりも簡単に倒せる相手といえます」
「…………」
「更に妖怪は倒した者の肉を食らうことで更に強くなります。
 彼らの戦いは勝って得るものを考えればローリスクハイリターン。我々とは正反対なのです」
「でもそれが大差ないってどうしていえるの?」
「わかりませんか? 妖怪は強くなります。ですが我々は強くなるにも限度というものがあります。
 時間が経てば双方の力関係は逆転します。
 ですから吸血鬼は未だに妖怪と同じ分類にされながら、異端とされてるんです」

  流石にそれはフランドールも知らなかった。妖怪は強くなるということは知っていたが、
  それだけで吸血鬼と対等になるとは思わなかった。
  もちろん自分たちを倒すにはそれ以上に力をつけねばならない。
  最初から力を持っている吸血鬼に比べれば莫大な時間がかかるだろう。
  でも聞いてみればなるほど、確かに吸血鬼が何故妖怪の分類に含まれているのか納得できた。

「じゃあさ美鈴、あなたはどうなの? あなたは数多くいる吸血鬼の中で唯一弱点がたったの一つ。
 他は私たちと同じ、いえそれ以上の資質を持ってる。失礼なことを言うけど、あなたは私たちの中でも特異な存在よ」
「…………」

  フランドールたちも十分化け物だが、そんな彼女から見ても美鈴はまさに化け物だ。  
  太陽の光をものともしない吸血鬼がいる、という話をランドから聞いたことがあった。
  そしてそれが美鈴だということもそのとき聞いた。
  吸血鬼太陽の光が苦手だ。それこそ耐性が低い者ならば浴びた瞬間に死に絶える。
  スカーレット家はある程度耐性があるから日傘があれば太陽が照っているときでも外にはでられる。  
  でも美鈴は違う。何の問題もなく、何の対処もせずに外にでられる。
  流れる水…つまり雨も彼女はものともしない。これを化け物と呼ばずに何というのだろうか。
  『白昼の吸血鬼』を分類するのだとしたらそれこそ吸血鬼と人間の境目。
  絶対に存在しないはずの分類。つまり彼女ただ一人の分類になる。

「あなたは私たちと違い弱点はたった一つ。後は他の吸血鬼や妖怪を凌駕している。
 その気になれば世界でも名高い存在になるというのに、あなたはそれをしない。
 一介の吸血鬼の一族、私たちスカーレット家に仕えてる。どうして?」
「必要ないからです」
「?」
「私はあなた方眷族と違い、元は人間です。本来ならば当に死んでいる存在。
 富も名声も、私にとっては別にどうでもいいんです。必要と感じません。
 食事は…もちろんお腹はすきますが、それでも餓死はしませんから、断食も出来、望んだときにとればいい。
 ランド様に仕えている理由は、彼に恩があるということと、彼と雇用契約を結んでいるということ」
「……つまりその2つがなければあなたはここには?」
「はい、いないでしょうね。とはいえ彼に助けられたからここにいることは事実。
 もし助けられなかったら私は今でも封印されていたでしょうが。
 少なくとも彼に感じている恩はかなり大きいものといえるでしょう。
 私だって流石に肉体として滅びるときは空の下で…と考えてますから」
「…………」
「まぁとにかく敬語を止めろというのはご勘弁を。何というか、ある意味癖のようなものなので」
「……わかったわ」

  フランドールは直感する。これ以上自身に話すことはない、と美鈴は言っているということに。

「そういえば妹様」
「何?」

  今度は美鈴が聞いてきた。

「もし妹様の能力が開花したら、それをどうします?」
「どうするって……また難しい質問ね」

  能力……この頃フランドールは自身の能力がまだ発現していないことを知っていた。
  兆候は見られたけど、それでもわからない。レミリアの能力はもう発現していた。運命を操る程度の能力。
  流石スカーレット家の次代頭首。最強ともいえる能力だろう。

「発現してみないとわからないわ。それにどんな能力だとしてもきっと使いこなしてみせる」
「ではもしそれが使いこなせないものだったら?」
「やってみせるわよ。それがどんなに強力なものでも、いつか、きっと」
「そうですか」

  何をいきなり聞いてくるのだろう、と彼女思った。だが彼女の考えていることなんて、小娘の自分にわかるはずない。
  だから深く詮索するのは止めた。

「なら人生の先輩として助言をしておきましょう。決して逃げないでください。
 たとえどんなにつらいことでも、どんなに厳しくても決して逃げないでください。
 戦って、戦って……最後に勝ってください」
「何をいきなり……」
「何があっても決して目を背けることなく生きてください。それがあなたの役目です」
「……………」
「そしてどうしようもないことになったら誰でもいい、助けを求めてください。
 ここにいる人たちはあなたのことを愛している。助けてくれるでしょう」
「じゃあ……あなたも私を助けてくれるの?」
「はい。必ず、どんなことがあろうと助けます」

  そういうと茶を飲み終わった美鈴は立ち上がる。

「それともう一つ。どんな状況になっても決して相手の命を無碍に扱わないでください」
「?」
「相手の命を無碍に扱えば、その行為は間違いなくあなたに跳ね返ってきます。
 私も人のことをいえませんが、とにかく命は大事に扱ってください。
 決して、暴走してところかまわず誰かを殺さないように」
「私はバーサーカーじゃないわ。貴族よ。それくらいの礼儀はわきまえてるつもり」
「ならいいのです。ですが人は簡単にバーサーカーになります。
 復讐をはじめとする負の感情でそうなるんです。私も似たような経験を持ってます。
 私としましては、妹様にはそのような事にはなって欲しくない。
 もし妹様がそうなってしまったら、ランド様はそれ相応の措置をすることになるでしょう」
「……わかったわ」

  それ相応の措置とは、すなわち自身を殺すことになるかもしれないということ。
  フランドールがそれを当時どこまで理解していたかは知らないが、美鈴の真剣な表情にただ頷いた。
  頷くのを確認した美鈴は背を向ける。

「仕事に戻ります。良い夜を、妹様」
「そうね……ご馳走様。ところで美鈴、なぜ今のような質問を?」

  歩き出した彼女にフランドールは質問する。ベランダの端で立ち止まった美鈴は、少し考えると……言った。

「あなたと私は似ているからです」

  その言葉と共に彼女の姿は掻き消えた。ベランダから飛び降りたのだろう。
  更に気配まで絶ってしまったので追跡は不可能だ。
  フランドールは暫く放心していたが……やがてため息をつくとその場から離れた。



  それからも2人の仲は良かったといえよう。
  また、レミリアもその中に入り、従者たちからは仲の良い姉妹とその世話をする母親に見えたという。
  何しろ彼女たちの母親は吸血鬼でも体が弱く、そのほとんどの時間をベッドですごしていた。
  そんな彼女にとって自身の代わりに世話をしてくれる美鈴は非常にうれしい存在だった。
  もちろん彼女も世話をする、がやはり限界があった。
  いつしか美鈴は門番兼2人の教育者という任もこなすようになっていた。

  レミリアも、フランドールも美鈴のことが好きだった。両親の次に心を開いている存在だったといっていい。  
  だが、異変はこの頃から始まった。フランドールの力が強くなっていた。
  彼女が出す弾(後の弾幕)は全てのものを破壊した。何もかも、跡形も残らないくらい完璧に、完全に壊した。
  そしてフランドールは笑顔だった。ただの笑顔ではない。どこか壊れてしまった笑顔。
  いつでも、どこでも笑顔……これを変だと思わずになんだという。
  異変はまだ続いた。最初は自身の能力を恐怖した彼女だったが……
  少しずつ、その能力で楽しむようになった。
  周りはそれを、彼女がその能力を使いこなせるようになったからだと思い込んだ。
  今になって思えば、その頃に手を打てばこのような事態にはならなかっただろう。

  そして……ついにそのときは来てしまった。

  夜、暇だったので母親の部屋にフランドールは向かった。精神年齢が幼いのだから、遊んでほしいのだろう。
  母親も数少ない娘とのふれあいである。遊んであげることにした。
  この時点でフランドールは20を超えていた。だが精神年齢は子供といっていい。
  まだ親を必要とするほどの子供だ。だというのに考え方は大人なので、どこか矛盾していた。

  暫く遊んでいると、不意にフランドールは母親にあるものを見せたくなった。
  それは以前自身が出した弾(弾幕)の中で最も綺麗だと思ったもの。
  精神を集中し、弾をみせる。母親はにっこりと笑った。だが、そのときだった。
  
  ボゴン

  鈍い音と共に母親の胸にポッカリと、コルク栓くらいの大きさの穴が開いた。
  2人は呆けた。何が起こったのか、まったくわからなかったのだ。
  
  ボゴン ボゴン

  続けて右手左足に同じ穴が開く。フランドールはそれが自身が出した弾のせいだと直感した。
  直に消そうとしたが、時既に遅かった。
  
  グチャ

  母親は潰れた。頭から一気に。血が部屋中に飛び散った。もちろんフランドールもそれをモロに被った。
  彼女は呆けた。あまりの事に頭の中で整理がつかなかった。だが心のどこかでそれを楽しんでいる自分がいた。

「フラン……」

  ビクッ、フランは固まった。声の主は己がもっとも敬愛している人物、レミリアのもの。

「あ……あ…………」

  ゆっくりと振り向くとそこにはおびえたレミリアがいた。顔には驚きとおびえがある。

「お……お姉様……」

  次第に心の中に後悔と恐怖が浮かんでくる。
  母親を殺した後悔、姉に嫌われた恐怖、そして母親を殺したときに楽しいと思ってしまった自分に対する恐怖。

「フラン……」
「いやぁぁああああああ!!」

  そんな姉の哀れみのこもった目に耐え切れなくなった彼女は姉を突き飛ばして部屋を飛び出た。

「フラン! 待ちなさい!!」

  後ろからレミリアが追うが、待てといわれて待つほどの余裕はなかった。
  館の中には様々な部屋があり、その部屋を探検するのは彼女たちにとっての楽しみの一つだった。
  そのうちの一つ、普段は誰も来ることがない小さな物置部屋にフランドールは逃げ込んだ。
  扉を閉め、誰も入れないように物で封鎖する。

「フラン!」

  レミリアはドンドンと扉をたたく。だがここで出てはだめだ。
  このままだとまた何時暴走し今度は姉を殺すことになるかわからない。
  暫くレミリアは何度もフランドールに呼びかけた。だが反応はない。
  数分後扉をたたく音がやんだ。フランドールはようやくあきらめた、と安心するのと同時に
  寂しさを感じた。これで間違いなく姉に嫌われた、と思った。

「…………ねえフラン、聞いて」

  そんな彼女にレミリアは悲しそうな声で言った。

「私はあなたに言わなければならない。私はあなたに謝罪しなければならない」

  謝罪、という言葉にフランドールは驚く。なぜ謝るのだろう? 

「私は運命を操る能力を持ってる。さっきの事も運命で見たの。
 詳しくはわからなかったけど、お母様が死ぬ、という運命が見えたの」
「え……」
「だけど信じられなかった。そこで私は観察することにしたの。
 どうやってお母様が死んでしまうのか。……でもまさかこんなことになるとは思わなかった」
「…………」
「とめられたはずなのに、私には止められなかった。ごめんなさいフラン。私、最低の姉ね」
「お姉様……」
「私が…止めに入れば……こんなことにならなかったのに……。ごめんなさい、ごめんなさい」

  レミリアは何度も謝った。声から泣いているとフランドールには直にわかった。
  彼女はあわてて物をどけるとドアを開けた。

「お姉様!!」

  レミリアはその場に崩れ落ちて泣いていた。フランドールは彼女に抱きつく。

「ううん、違う! お姉様は悪くない! 何も悪くない! 私が悪いんだ、私が……」
「フラン……」

  それから暫く2人は抱き合って泣いた。



  その日からすべては変わった。フランドールはその物置部屋から出なくなった。
  このままではどうなるかわからないから、という理由だ。
  ランドをはじめとする他の者たちはどうにかしようとがんばったが、
  そっとしておいて欲しい、というレミリアと、何故か美鈴の発言により問題を先送りにした。
  だがフランドールの変化はまだ続いていた。日に日に彼女は彼女ではなくなっていった。

  レミリアは毎日妹のことを心配し、そのもとに向かった。ただ中に入ることは叶わず、ドアの外で話すだけだった。
  後は食事を配膳する行為をした。そしてその日のことを事細かに話した。
  フランドールにとってその話は唯一の心の慰めだった。レミリアが自分の味方をしてくれている、それだけで十分だった。
  
  その時に彼女は美鈴もまた、自身の味方をしてくれたと聞いた。
  レミリアもまた所詮子供のため、どんなに説得しても父親たちが聞くはずがない。
  だがそんな中、色々と後のことを決めようとしていた父親たちを必死に止め、時期を見ろと
  率先して説得したのが美鈴らしい。だから自身は今もこのような状況に入れるのだとレミリアは説明した。

  フランドールは嬉しかった。姉だけでなく、世話係の彼女も味方してくれたことに。
  父親の怒りや悲しみはわかる。愛する女性を愛する娘によって失ったのだから。
  それをわかっていながら自身を守ってくれた美鈴がフランドールにはひどく嬉しく思えた。

  だが、それも長くは続かなかった。ある日のことだ。外はあいにくの大雨で、雷が鳴っている。
  フランドールはそわそわしていた。いつもならレミリアが来る時間なのだが、
  既に2時間も経っている。こんなことは今までなかった。
  何かあったのか? 外に出たい衝動に駆られたが何とかそれを押しとどめる。
  だめだ、今出ては二の舞になる可能性になる……と自身で何とか制御した。
  
  コンコン

  扉をたたく音がした。来た! フランドールは喜んだ。だが

  ドサッ
  
  同時に誰かが倒れる音がした。そして……

  ギィッ

  鍵を閉め、誰も入ることが出来ないはずの扉が開いた。そこに立っていたのは……。

「めい……りん?」

  そう、美鈴だった。今までにない重圧を持って彼女は立っていた。
  怖かった。フランドールは数歩後ろに下がった。そして見つけた。彼女の後ろにレミリアが倒れていたことに。

「美鈴? これは……」

  頭が混乱し、ついていけない。一体どういうことだ? 何が起こっている?
  ゆっくりと彼女は近づいて、フランドールの目の前で止まった。
  部屋が暗いため表情をうかがうことは出来ない。だが……恐怖を感じた。

「妹様」

  言うなり彼女はフランドールの首筋をトン、とたたいた。手刀である。
  前のめりに倒れると、フランドールはそのまま意識を失った。


  次に彼女が起きたのは、暗い暗い部屋の中。今までの物置部屋と違いものがない。
  地下室だった。ここには自分ひとりしかいない。
  
  一人ぼっちだった。

  無性に外に出てみたくなった。何がどうなっているのかさっぱりわからなかった。
  あの夜のことは一体なんだったのかひどく気になった。
  幸い扉は簡単に開いた。このとき彼女は気づいていなかったが、扉は『破壊』された。
  すでに致命的というまで彼女は自身の能力に破壊され、侵されていた。

  地下道は出来立てだったらしく、非常に綺麗だった。 
  道を進むと途中でメイドたちが自身を止めようとしたが、返り討ちにした。
  皆、死んでいた。だが彼女は何とも思わなかった。罪悪感、というものが既に欠如していた。

  外にでる扉を見つけた。見れば扉には小窓がついており、そこから外を眺めることが出来た。
  外は夜。ためしに覗いてみるとなんと遠くのほうに美鈴とレミリアがいた。
  2人は楽しそうに談笑している。自分もそこに加わりたかった。でもドアノブをまわしてもあかない。
  まるで自分を拒んでいるかのように。そして気になった、あの夜のことが。

  すると後ろの方で先ほど壊した筈のメイドの一人が苦しそうに息を吐き出すのを聞いた。
  その女性に聞くと、話された内容は恐るべきものだった。

  メイドも詳しくは事情を知らなかったため簡潔に話す。
  曰く、フランドールの能力を危険視したランドが美鈴を使って幽閉したという。
  フランドールに衝撃が走る。

  幽閉されたということに対しては別に何の疑問も抱かなかった。
  されるにいたることをしたのだから、親として出す当然の措置だと思った。
  が、問題は美鈴だった。あれほど自分を守ってくれた彼女が、逆に率先して
  自身を幽閉しようとしたのだという。信じられなかったが事実だ。その事実がフランドールを打ちのめした。

  更にレミリアはフランドールと離され、美鈴の下で育てられるという。 
  レミリアは最後までランドに抵抗したらしいが……結局だめだった。
  おそらく彼女はあの日、フランドールを地下室に連れて行こうとする美鈴を止めようとしていたのだろう。
  だがもっとも強力な協力者が寝返ってしまったのだ。子供一人ではどうしようもない。
  
  フランドールはレミリアは悪くない、と思った。彼女には次期頭首としての役目がある。
  だから自身が幽閉された今、それを割り切るしかない。それもフランドールはかろうじて理解していた。
  それよりも最後まで自身を守ってくれたことが嬉しかった。
  自身を必ず助け出す、と断言していたとメイドは言った。それが嬉しかった。  

  だが…だが…問題は美鈴だった。なぜ? なぜ? なぜ彼女は裏切る行為をした? なぜ彼女は自分を幽閉した?
  自分の能力が危険だと判断したからか? わからない。彼女は自身を助けると約束した。何があっても助けると。
  それから2人は深い信頼関係で結ばれた。姉以上とも呼べるほどに。
  でも彼女は自身を裏切った。更には、姉まで奪っていった。
  あれから姉は面会にも来ない。美鈴がそれを止めていると直感でわかった。

  先ほどの外の光景を思い出す。レミリアと美鈴は楽しそうに過ごしていた。
  まるでそこに自分の居場所がないかのように。

  その時フランドールの中で何かが切れた。
  
「あ…………」

  最愛の姉を奪い去り、

「あ……ああ……」

  そして、自身の信頼を裏切り、約束を破り、最後の最後で美鈴は全てを奪い取っていったと理解した。
  自身が独りぼっちになったと理解した。自分はこの先ずっとこの地下室で過ごさなければならないのだと理解した。

「あは……あはは…あはははは」

  フランドールはよろよろと部屋に戻り、泣いた。完全に独りぼっちになってしまったとわかったから。
  最も信頼していた母ともいえる人物に裏切られた悲しみは大きすぎた。
  フランドールの残った自我を破壊するには十分すぎた。

「あはははははははははははは!!」

  笑顔で彼女は泣いた。その笑顔は壊れた笑顔。何もかも失った彼女にはもう、自我など存在するほどの力がなかった。
  残ったのは唯一つ、

  『狂気』と、この世で最も憎い美鈴への憎悪だけだった。



  ◆  ◆


  
  そして話は現代に戻る。

  美鈴は何とか紅魔館から抜け出すと、頭を押さえながら自室へと向かっていた。
  そこまで誰とも会わないように気をつけながら歩いていた。
  
(拙いわね……こんなところで『発作』が表れるなんて)

  紅魔館を出る辺りから喉が渇いていた。吸血鬼特有の症状である。
  そろそろ来るだろうとはうすうす気付いていたが、まさかこんな日に来なくても、と愚痴る。
  彼女の『発作』…つまり渇きは非常に特殊だ。
  通常の吸血鬼が生きるために血を吸うのに対し、彼女にとっての血は精神安定剤といえる。
  美鈴は別に血が無ければ生きていけない、というわけではない。
  ただ、自身の中に眠るもう一人の自我、言ってしまえば普段は使うことの無い感情を抑え込む為に血をすうのだ。
  
  その感情とは『破壊衝動』。もしくは『狂気』とも言う。他にもあるが、まとめれば『負の感情』。

  『気』を操る彼女が最も苦手とする部類が『狂気』であり、未だに完璧に操作が出来ていない。
  人間が欲求をずっと抑えていたらいつか爆発するのと同じで、
  彼女の『発作』はその負の衝動が爆発するのと同じなのだ。
  そしてそれを抑え込む為に、彼女はそのときだけ血を吸う。
  何でも『発作』が起こったときに吸わねば効果が無いらしい。
  だから普段は普通の妖怪として生き、『発作』が起こったときだけ血を吸う。
  そんな非常にあいまいな吸血鬼なのだ。

「くっ……これは……明日は仕事しないほうが良いかもしれない」

  スイッチが入ってしまったら何をするかわかったものではない。
  あの夢で出たもう一人の自分は吸血鬼としての自分……いけないことを考えている自分。
  そんな自分に自我を渡すわけには行かない。
  自分が自分を嫌うというの何か変な感じだが、少なくとも下手に暴れたくなかったのだ。

  だが、そんな願いもはかなく散るのが世界の決まり。

  

  ドォオオン


  
  館のほうから大爆発が起こると、美鈴の目の前に何かが落ちてきた。

  グシャ

  肉がこげた匂いと血の匂い。それだけでそれが生物だと判断できた。

「!」

  そしてそれが、自分の部下、つい先日まで門番隊にいた人物だとわかった。
  慌てて抱きかかえる。既に四肢の内の3つが吹き飛んでおり、全身血だらけ。
  息も絶え絶えといったまさに絶望的な状況だった。
  だがそんな部下は美鈴に抱きかかえられたことに気付くと必死に右手を伸ばした。

「た……いちょう……逃げて……くだ…さい」
 
  そっと右手を美鈴の頬に添える。

「もう…しわけ…ありません。わたし……」
「もういい。喋ってはだめ」

  無駄なことだとはわかっていたが、ハンカチを取り出し止血をしようとする。

「わたし……たい…ちょうの……下で働けて……よかった…です」

  そう言って部下は息絶えた。非常にあっけなかった。
  美鈴の中に強烈な罪悪感が芽生えた。自分が体のことを省みずにフランドールを止めれば
  このようなことにはならなかった……と。

「ふふふ……あははは」

  だが悲しんでいる暇は無かった。ゆっくりと振り向けば、そこには血を被ったフランドールがいた。
  何が嬉しいのか、笑っている。

「ようやく……ようやく会えたわね、美鈴」

  長年の宿敵にあえたかのように言う。いや、実際フランドールにとってはそうなのだろう。
  美鈴はまたその死んでしまった部下に眼を落とす。

「今度こそ、殺す」

  ビッと指をさし高らかに宣言する。だが美鈴は何も答えようとはしない。ただ一言、

「なぜこの子達を?」

  そう聞いた。ひどく小さい声で。フランドールは笑いながら言った。

「別に殺す気は無かったんだけど。私はあなたの居場所を聞こうと思っただけよ。
 でも中々吐かなくて。気付いたら壊れちゃった」

  ピクッ、と美鈴の体は震える。

「中々楽しかったわよ? さすがは門番隊、中にいるメイドたちとはわけが違う」

  フフフ、と服についた血をぺろりとなめた。

「どうしたの? 抵抗しないと、簡単に殺せちゃうわ」

  フランドールは美鈴が恐怖と絶望で絶句しているのだと思った。
  だがそれは間違いだ。彼女は、決して押してはならないボタンを押してしまった。

  ブチッ

  美鈴の頭の中で何かが切れた。

「………………か?」
「何? きちんと言わないとわからないわよ?」

  彼女は小さく何かを言った。だが当然フランドールに聞こえているはずも無く、彼女は笑いながら聞く。

「そんなに楽しいか!!」

  もう一度発した美鈴の声は明らかな怒声だった。大地も、大気も震えた。もちろんフランドールもうろたえた。

「簡単? そう、確かに人は簡単に殺せる。だがお前はわかっているのか?」

  怒っていた、今までに無いくらい怒っていた。
  口調も今までの優しいものではない。妖夢と戦ったときの冷徹さをこめた声でもない。
  純粋に怒り。爆発的に燃え上がった怒りの声。その怒りを強烈な威圧感に変えてフランドールに放っていた。

「失ったものは永遠に戻ってこない。後に後悔しても、絶対に戻ってくることは無い。
 お前……それをわかっててやってるのか? ただ私を殺すために!」
「くっ……そうよ! 私は自由を手に入れるために生きている。
 お前を倒すために私は生きている! その目標を邪魔するものはいかなる者だろうと容赦はしない!」
「…………」
「第一お前は何様のつもり!? お前は私から全てを奪った! 何もかも、全てを!
 だというのになぜお前は悠々と生きているのよ!? お前にはそんな権利は無い!!」

  フランドールも負けじと怒鳴る。

「ならば他人を簡単に殺していい権利もお前には無い! 狙うなら私一人しろ、他人を巻き込むな!」
「っ……」

  両者一歩も引かない。いや、美鈴のほうが威圧感で上だった。
  おそらく……幻想郷の中にいる人物でも、彼女をここまで怒らせたのはフランドールが初めてだろう。
  むしろ美鈴が完全にブチ切れる事のほうが無いといっていい。
  『発作』の上に今の状況、彼女が感情を爆発するのも無理は無かった。

「もういい! お前はここで殺すわ! それだけで十分よ!!」

  レーヴァテインを持つと一気に襲い掛かった。それを美鈴は難なくよけると、一度距離を置く。
  自身の手で抱えている部下の亡骸を安全な場所に置くためだった。
  紅魔館の大扉の前に一度降り立ち、丁寧に置くと、フランドールが紅魔館を攻撃する前にその場から一気に離れた。

  紅魔館前の広い中庭。普段は綺麗な花々が咲き誇っているが、今日は先ほどの爆発、
  そしてレーヴァテインの炎でその半分が焼けてしまった。それが美鈴の神経を更に逆なでする。

「今までは私が行った数々の罪により、お前が私を襲撃してくるのも納得がいったしそれが罰だとわかっていた。
 だから今まではそれを甘んじて受けていた。だが状況が変わった。これ以上はもたない。
 いや、私ではなく、他の部下たちがだ。今までの脱走もお前は外に出たいという願いだった。
 だから私も、部下たちもお前が外で暴れる前に抑えてきた。
 その際の被害は紅魔館を守ると同時に幻想郷を守るという意味を持っていたからあえて何も言わなかった」

  ギュッと拳を強く握る。大義名分をかざしているとはいえ、やはり部下を失うのはつらいのだ。

「だが今回、お前は私のみに標的を絞り脱走し暴れた。私はこれからもお前の恨みを永遠と受け続けてやる。
 それに見合う罪を犯したのだ。だが部下たちは違う。彼女たちには何の関係も無い。
 彼女たちは私を守るために戦い、死んだのだろうが、はっきりいってこれでは無駄死にだ。
 お前が私を狙うというのであれば、それはあくまで私一人にしろ。部下たちが死ぬ気で戦う必要は無い」

  この世界と違い、自身は守るに足らないただの吸血鬼だ。そんな自分を守って死ぬなど、おかしい話だった。

「私には他の部下を守るという役目がある。これ以上被害を出すわけには行かない。
 今宵の暴走もここまでだ。ここで眠ってもらう」
「そう何回も……!」
「雇用条件第8条第4項目」

  突然美鈴は変なことを言う。徐々に彼女の体の周りを高密度の『気』が覆っていく。

「労働者はとある一定の条件下でのみ一時的に雇い主の所有権から脱する」

  目を瞑り、パンと手のひらをを胸の前であわせるように叩くとピタリと『気』の流れは止まった。

「この権利を今から行使する。これで今の私はスカーレット家の門番ではなくなる。『白昼の吸血鬼』紅美鈴だ。
 心せよ、今からお前が相対するのは、長きに渡り大国を恐怖に陥れた吸血鬼だ。無論容赦はしない。
 お前が私を殺すというのであれば、生半可な気持ちで来るな。
 あいにく私は怒っている、それも久しく感じるくらいにな。でなければ私がお前を殺す」
「くっ……」

  その眼が本気だということは良くわかった。だがフランドールだって本気なのだ。こんなところで気負けしていられない。
  
「それはこちらの台詞よ! 今日こそこの悪夢を終わらせる」

  自分に活を入れるつもりで叫んだ。美鈴は『気』を制御し終わったのか、ゆっくりと目を開ける。
  その眼にフランドールはまた驚いた。

「何? その……眼は」

  普段の青い眼と違い、今の美鈴の目は紅色をしていた。今までこんな眼は見たこと無い。
  いや、以前咲夜の眼の色が変化したのは見たことがあるが、美鈴までこうなるとは思わなかった。
  スカーレットの紅よりも更に赤らしい紅色。『狂気』とまではいかないがその眼には何か禍々しいものがこめられていた。

  最初その眼に臆したが、目的のためならばそんなことも関係ない、殺せばいいのだから。
  レーヴァテインを構えると一直線に突っ込んだ。



  ◆  ◆



  美鈴の変化は様々な場所に波紋をよんでいた。例えば霊夢と魔理沙の場合。

「おい、霊夢」
「気付いた?」
「ああ。とんでもない大きさの殺気の塊が2つ、紅魔館で暴れてる」
「一つはフランね。じゃあもう一つは……レミリア…にしてはちょっと違うわね」
「違うだろ。しかし2つともこれ以上に無い殺気だぜ。迂闊に近づいたら並の妖怪なら気死してるかもな」
「そうね……流石にど真正面から行くのは危険ね。仕方ないわね、迂回しましょう」
「おう」

  森を遠回りして側面から侵入を試みる決断を下す。
  この行動が後に与える事態を考えると、ここで迂回しなかったほうが良かったと後に紅白は後悔した。


  そしてマヨヒガでも。

「藍」
「はい。ここに」

  何時に無く真面目な表情の紫と思い入れのある剣を腰に差した藍は八雲邸玄関前に立っていた。
  
「橙は?」
「寝ています。薬も使いましたから、少なくとも2日は起きないでしょう」
「悪いわね、心苦しいでしょうに」
「いえ……幻想郷の未来にも関わる事ですから、橙もきっとわかってくれるでしょう」

  橙は居間の藍の布団の中で熟睡している。2人はその間に身支度を整え外に出ていた。

「しかし…本当にいいんですか? 今回の件で紫様が……」
「私が関与する理由が無いって言うんでしょ? 理由ならあるわよ、遠い昔の約束がね。
 私はそれを果たすだけ。彼女が暴走する前に止めないと全てが終わりよ?」
「はぁ…でしたら私だけを向かわせれば……」
「あのねぇ、あそこには2人の狂人がいるのよ? そんな場所にあなたを一人で行かせられるわけ無いでしょう」

  どうやら2人は遠く離れた紅魔館で起こっている出来事がわかっているようだ。

「しかし……まさか紅魔館にスキマを開いてみたら、たまたま戦闘をやってるなんて、それも大規模な。
 こんな偶然もあったんですね」
「なに、先日からあそこを監視してたのよ。今日起きたら何時に無く胸騒ぎがしてね、
 ためしに開いてみたらびっくり、戦闘をしていたってわけ」
「なるほど……」

  遅かれ早かれ美鈴とフランドールが衝突するのがわかっていたみたいだ。
  先日とは焼肉(バーベキュー)パーティーをした後のこと。
  未だに不調を訴えていた美鈴を心配してか、監視という名目のもと紅魔館に監視用のスキマを設置しておいたのだ。

「私は彼女をやるから、あなたは霊夢たちを助けてあげなさい」
「はい、わかりました」
「あ…それと先に幽々子のところによりましょう。戦力は多いほうが良いわ」
「はぁ…ですが、もう寝てるのでは」
「起こして駄目ならスキマに落とすわ。流石の幽々子も戦場のど真ん中に落とされれば一発で気付くでしょう」
「鬼ですね」
「日ごろのツケを返すだけよ」

  そう言ってスキマを開くと、2人は白玉楼に向かった。


  『武人』としても庭師としても、何か変化があれば妖夢は簡単に感知することが出来た。
  今宵も何か胸騒ぎがして、いつもは寝ている時間なのだが起きていた。

「……!」

  瞬間、庭のほうに何者かが現れた気配がした。数は2つ。
  胸騒ぎの原因はこの2人だと思った妖夢はすぐさま愛刀を持ち、飛び出た。

「こんばんわ幽々子」
「ええ、いい夜だわ、そして何か悪いことが起こる夜」

  その中庭の状況に驚く。いつも突然来訪する紫は別として、
  明らかに自分よりも先に就寝した幽々子が起きていた。服も、寝巻きではなく普段のまま。
  まるで今宵紫たちがやってくるのがわかっていたかのような立ち振る舞い方だった。

「妖夢」
「藍さん……」

  驚いている妖夢の肩をポンと叩いて藍が苦笑しながら登場する。

「まぁ…驚くのも無理は無いな。実際私も驚いている」
「なにがあったんですか?」
「実はな…」
  
  時間が無いため軽く説明する。説明が終わり妖夢が頷く頃にはあちら側でも話がついたのか2人の傍まで来ていた。

「行くわよ紅魔館に。準備は?」
「できてるわ? 妖夢?」
「はい。大丈夫です」
「じゃ、いくわよ」

  などという会話をした後、そこで何か思い出したのか、しまった、と紫は言葉を漏らす。

「悪いけど、先に行ってて頂戴」
「どうしてです?」
「後1人、この舞台に必要な人材がいるのよ。ちょちょいっと呼んでくるから」
「無理やりつれてくるんでしょう?」
「そうとも言うわね」

  紫はスキマを開くとさっさと行ってしまった。

「行っちゃいましたね」
「スキマで連れて行ってもらえばよかったですね」
「仕方ないわ、飛ぶわよ」

  3人は軽くため息をつくと紅魔館へ向けてとんだ。



  ◆  ◆



  フランドールはあせっていた。この女の前では全てが上手くいかないと。
  2人とも紅魔館から離れた上空にいた。美鈴が地上でこれ以上暴れたらとんでもない損害が出ると踏んだからだ。
  
「…………」

  傍目から見れば、優勢なのはフランドールに見えた。何しろ美鈴は弾幕が体中に当たったのかぼろぼろだったのだ。
  だがフランドールはそうは思わない。美鈴は明らかにわざと当たっていた。
  あの一撃でも当たれば即死亡につながるフランドールの弾幕をだ。
  もちろん直撃ではなく、紙一重であたっているのであるが。まるで間合いを計っているかのような当たり方である。
  そして何より彼女に不安を与えていたのが、その目つき。
  まるで全てを見透かしているような目つき、そしてその眼の色。
  彼女が抱えている不安が、恐怖に変わるのも時間の問題だった。

  彼女は間合い、その弾幕を潜り抜けフランドールにどうやって接近すれば良いのかわかったのか
  一度間合いを取る。フランドールはレーヴァテインを片手に難しい表情でにらんだ。
  一度間合いを取った美鈴は指を動かし距離を測るとパン、と両手の平を胸の前で合わせた。
  その行為にいっそう身構える。美鈴があの行動をとった後、必ず自身の攻撃を打ち破ってきた。
  ちなみに今の弾幕はフランドールのスペル、『カゴメカゴメ』である。

「見えた」

  言うなり自身もスペルカードを取り出す。

「極光『華厳明星』」

  自身の前方に気の塊を形成、虹色の弾が飛んでいく。
  ただしそれは『カゴメカゴメ』よりもはるかに数が少なく威力だって低い。
  だが美鈴は放った後、一直線にフランドールめがけて突っ込んだ。

  双方の弾幕が激突する。無論、『カゴメカゴメ』に『華厳明星』が敵うはず無く、消えていく。
  だが美鈴はそれすらわかっていた。いや、正確には『華厳明星』が『カゴメカゴメ』の弾幕にあたることが
  重要だったのだ。如何に破壊がこめられている能力を持つ弾幕でも少し衝撃を加えればその軌道はそれるのだ。
  美鈴はあてずっぽうに発射したのではなく、きちんと計算して弾幕を展開したのである。
  普段弾幕が弱い分、ここぞという時に頭を使わないと生きられない。
  弱点である弾幕戦を何とかカバーしようとする美鈴なりのがんばりだった。

  ちなみに肉弾戦、知略共に相当な力を持つ彼女がなぜ弾幕戦だけ苦手なのか、それは後に述べよう。

  それはともかく計算どおりに美鈴が放った弾幕はフランドールの放ったところ狭しと襲ってくる
  弾幕に、最短距離の隙間を開けた。『縮地法』をつかい一気に間合いをつめる。
  
「レーヴァテイン!」

  かつて神々の世界を燃やし尽くしたとされる炎の剣が襲い掛かる。
  当たれば美鈴の体など瞬時に燃え尽きるだろう。だが、美鈴は何とそれを片手で受け止めた。

「え!?」

  その手は燃えない。いや、それどころかその手の周囲、7センチまで火が届いていなかった。
  大地と海のように、燃えている部分と燃えていない部分にきっちりと境界が分かれていた。
  美鈴はそのまま炎を形成している杖をつかむ。

「私は『気』を操る。長年修行した結果、あろうことか『気』と名のつくものの全てを操ることが出来るようになった。
 炎など、それを形成する部分を消し去ってしまえば簡単に消滅できる。それだけのことだ」

  そのまま杖を奪い取り、遠くに捨てた。

「ではまず一撃!」

  フランドールのみぞおちに強烈なブローを叩き込む。体がくの字に曲がった。
  続いて回し蹴りで紅魔館めがけて吹き飛ばす。
  猛烈な痛みが襲うが、何とか姿勢を維持しようとしたところに止めの打ち下ろしの右。
  重力の働くまま、勢いをつけて丁度紅魔館の中庭に墜落した。

  体中に激痛が走る。魔理沙と戦ったときもここまでの激痛は無かった。
  いや、それ以上にフランドールを襲っている恐怖がその痛みを倍加させていた。
  今までと違い、初めて『殺される』と思った戦いである。本当の『殺し合い』。
  今までは殺す側に立っていた彼女が始めて殺される立場に立ったのだ。初めて感じる恐怖に体が萎縮する。

  ゆっくりと中庭に下りてきた美鈴はコツコツと歩いてくる。
  フランドールにとってそれはまさに死刑執行へのカウントダウンに聞こえた。
  立ち上がろうとするが、足が震えていた。
   
  ガシッ

  美鈴はフランドールの喉をつかむと自身の目線まで上げた。無論フランドールは身長が低いため、足が宙に浮く。

「くっ!」

  スペルカードを取り出す余裕は無い。最後の抵抗とばかりに爪でその首をかききろうとする、が。

  ボキン

  美鈴は難なくそれを止めると、逆に前腕を受け止めるとへし折った。

「あああああああああ!!」

  思わず悲鳴が出る、だが

「終わりだ」

  美鈴は首をつかんでいない手…右手を懐に入れ、一枚のスペルカードを取り出した。

「私はあいにく弾幕戦が苦手だ…威力も低い。だが零距離で食らえばそうもいくまい」

  それをフランドールの胸、丁度心臓の位置につける。

「吸血鬼だから死ぬことは無いだろうが、せめて三途の川まで行くといい。いい経験になるぞ」

  死刑宣告をすると
  
「彩符『彩光乱舞』」

  スペルカードを発動する。瞬間おびただしい数の弾幕がフランドールに襲い掛かった。


  ドォン


  よけることかなわず、その全ての弾幕を一身に受けてしまったフランドール。
  爆発と共に美鈴は彼女を放した。煙から出てきた彼女は全身血だらけ。
  数秒よろよろと立ち尽くした後、グシャリと地に伏した。

「…………」

  怒りが収まってきたとはいえ、いまだに殺気は消えない。
  とはいえもうフランドールには興味ないのか背を向けると門へ向かって歩き出す。
  言葉では殺すといったが、実際は殺すことが目的は無く、懲らしめただけだった。
  後はこのやり場の無い怒りをどこかで抑え込もうと人気の無い場所に向かうことにした。  
  何しろこの状態で喧嘩を吹っ掛けられれば間違いなく相手を殺してしまう。

「私やお嬢様に負けず劣らずの生命力ね……多少手加減してるとはいえ。
 明日の夜まで眼が覚めない程度にしておいたけど」

  とてもそうは思えない負傷でグッタリしているフランドールに対し美鈴は呟く。
  怒りが収まってきたためか言葉遣いが少し直っていた。

「待ちな……さい」
「!? ……意識がまだ残っていたとは……」

  立ち去ろうとした彼女をフランドールは呼び止める。が、今にも意識はなくなりそうだった。
  何とか体を起こし、立ち上がろうとする。全身の細胞が悲鳴を上げる。
  頭では『こいつには勝てない、ここで寝ていろ』といった考えが彼女に告げていた。
  まだ『狂気』に侵されていない彼女はそれを頭の奥に引っ込める。
  だが彼女は時間をかけながらも立ち上がった。足も震えているし呼吸も荒い、立っているのがやっとだった。
  とてもじゃないが戦いを続けられる体ではなかった。

「人間も、そして吸血鬼も見るべきなのはその成長力ということ。昔ならとっくに死んでいたわね、あなたは」
「はあっ……はあっ……」
「だが私を殺したい、私に対する憎しみだけではそこまでいかないはず。
 一体なにがあなたをそこまで動かす?」
「私は……私は『真(まこと)の』自由を望む。『狂気』からの脱出…それが……私の自由」
「『狂気』からの自由……か。なるほど」

  合点がいったのか、頷きながらゆっくりとフランドールのもとに歩きだす。

「く……」
「やめなさいな、既に勝負はついている。強いものに立ち向かうのは確かに『勇気』あることだけど、
 今のあなたは単なる『無謀』よ。『勇気』と『無謀』は紙一重。きちんとわきまえなさい」
「この……」
「とはいえその姿勢、自身を省みずに自由を求めようとするその精神は評価してあげる。
 ただし、今回はやり方を間違えたわね。次からはこの私一人に絞って行動なさい」

  今度は顎をつかむ。グイッと顎を上げ、無理やり自身に向けさせた。
  フランドールはキッとにらみつけるが、美鈴はさらりと受け流す。

「それともう一つ、あなたは重大なことを忘れてる。確かに私を殺せば多少の『狂気』からの脱出は出来るでしょう。
 が、もっと簡単な方法をあなたは既に手に入れている」
「何……だと?」
「気付きなさいな、あなたは既にその『狂気』から脱出するための糸口をつかんでいる」
「? だからそれが」
「いいや、私を殺すことではない。逆にあなたが今しようとしていることでは遠回りになる。
 もっと簡単な方法がある」
「?」
「あなたは既に自身の内に巣食う『狂気』の存在に気付いている。
 あなたはそれから脱するために私を殺そうとしているが、実際のところ、あなたは逃げているだけに過ぎない」

  フランドールを見るその紅色の眼になにやら悲しいものが浮かんでくる。

「私はいつかあなたにいった。私とあなたは似ていると。
 手段は違えど私もかつては『狂気』から逃げていた。いや、今も逃げているといっても過言ではないわ。
 だがあなたは違う。己の力で『狂気』を破壊することが可能なのよ。なのになぜ逃げるの?」
「私は…………」
「自己の中に巣食う『狂気』にあなたは気付いた。ならば既に自由への道は開けているわ」

  普通の者ならば、狂人ならばその自身に巣食う『狂気』さえも見つけることは出来ない。
  『狂気』から脱出するために必要なステップの一つがその『狂気』を見つけることなのだ。
  簡単に言えば自覚すればいい。『自覚』というのが非常に重要だと美鈴は思っている。

「能力にしてもそう、全てを操るのに必要なのがまず『自覚』すること。
 あなたはそれを既に『自覚』している。ならば後はそれに立ち向かうことだけ。
 はっきりいってあなたは今逃げている。『狂気』を恐れ、道を間違えている。
 『狂気』からの脱出法は他人から与えられるものでも、ましてや誰かを殺して得るものでもない。
 自身からそれに立ち向かい、自身で打ち勝つ、それこそが真の『狂気』からの自由よ。
 気付きなさい、あなたには『狂気』に打ち勝つのに十分な要素がある。
 後は見つけるだけ、自由への道を。その道はあなたの心の中にある」

  『気』を操る彼女だからこそ分かる事。今も『狂気』に侵されながらも正気を保っているのは
  その自身の内から噴出してくる『狂気』を何とか押さえ込んでいる結果。
  何かがたくさん詰まっている箱に穴が開き、もれたとしても、その穴をふさげば元に戻る。
  簡単に言えばそういうことだ。

「くっ……美鈴、お前は……それを分かってて」
「言っただろう? あなたは私と似ている。もし私があなただったとしたらおそらく同じことをしただろうね。
 ただし、部下を殺されたのは私にとっては不本意なことだけど。だから私は怒った。
 その傷はその代償だと思いなさい」
「じゃあ……全部、予期していた……と?」
「あなたが私を殺しに来ることは、ね。ただし、それが今日だったのは最大の誤算」
「く……」

  すると美鈴は突然拳でフランドールの腹を殴った。

「今のあなたには考える時間が必要よ。私はあなたにヒントを与えた。
 あなたが私に対する憎しみを捨てたくないのなら……その答えを見つけなさい」
「な……に……?」

  美鈴は何か言ったがそれは聞こえることなく、フランドールは気を失った。


  完全に気を失ったのを確認した後、美鈴は大きくよろめいた。
  忘れているかもしれないが、彼女もかなりの傷を負っているのだ。
  今の今まで我慢してきたが、ついに耐え切れず、大きくよろめく。

「何しろ……私にも、時間が無いみたいだし」

  何とか二の足に力を入れ、踏ん張った。

「美鈴……」
「これは……」

  まず現れたのは霊夢と魔理沙だった。

「ふう……遅かったですね、2人とも」
「まさか、あなたがここまでやったの?」

  出来るだけ平静を装う美鈴に霊夢は聞く。魔理沙はすぐさまフランドールのもとに走った。

「こりゃあ……ひでえな」

  その傷を見て魔理沙も絶句する。

「ここまでする必要あったのかよ」
「じゃなきゃ私が殺されてます」

  いつも通りの言葉遣いで会話する。が、殺気は全く消えていない。
  魔理沙も霊夢も身構える。

(クソッ、早く逃げれば良いのに……)

  その殺気には放っている美鈴自身も気付いていた。だが抑えこむ事が出来ない。
  自身の『狂気』を支配するのが非常に難しくなってきた。

「それともなんですか? ここで殺りあいます?」

  不意にそんな言葉が飛び出す。既に『狂気』が外に出始めていた。

「お前……何を」
「待って魔理沙。彼女の眼、あんな色してなかったわよ」
「……確かにな。どうする? あいつやる気満々だぜ?」
「やるわよ。止める」
「OK」

  そういうと2人は各々の武器を取り出す。

(ああもう。そういう態度とられると、殺したくなるじゃない)

  更に美鈴にとって不幸なのは次なる来訪者が現れたこと。

「あら、もう終わってるじゃない」
「いえ……幽々子様、終わっていないようです。かなりの殺気が放たれてます」
「なるほど……」

  事情が分かったのかしきりに頷く幽々子。どうやら超特急で飛んできたため、3人とも息がきれている。

「紫の言ったとおりになったわね。止めるわよ」
「はい。藍さん」
「分かっている。私も手伝おう」

  剣を抜き、美鈴包囲網が完成する。最悪の状況だと認識する。

(……どうしよう。さすがにみんな一気にかかってきたらまずいよね)

  頭の中ではそう考えながらも、体は既に臨戦態勢に入っていた。
  パン、と今までと同じように手のひらを胸の前で合わせ、『気』を練る。

「美鈴!」

  そして更に状況悪化。自己治癒がすんだレミリアと咲夜が現れた。

「妹様!?」
「大丈夫……でもなさそうだな、おいメイド長。急いで治療をしたほうがいい」

  血だらけのフランドールを見つけた咲夜は魔理沙の言葉を聞くと
  時を止めて安全な場所まで連れて行った。

「フラン……」
「大丈夫です。息はあります」

  咲夜は既に負傷しているためフランドールを連れてさがった。
  変わりにレミリアが美鈴の前に立ちふさがる。

「まずはフランをとめたこと……褒めてつかわすわ。でもここまでやる必要はあったの?」
「でなければ私が殺されてますから」
「……その眼……まさかあなた、『渇き』が?」
「そうですね……何故か今はとまってますが、先程まで起きていました」
「!」

  レミリアはすぐさまグングニルを取り出す。

「霊夢、魔理沙、それに他の者たち。美鈴をなんとしてでも止めなさい。このままでは大変なことになるわ」
「どういうこと?」
「いいから言うとおりにしなさい。フラン以上の損害が出るわよ」

  既に殺る気満々だった。

「あらお嬢様。私に今まで一度でも勝ったことありました?」
「肉弾戦ならね。だけどこの人数、そして弾幕戦ならあなたに勝ち目は無いわよ」
「確かに……そうですね」

  いつもの構えを取る美鈴。既にいつもの彼女ではなく『狂気』に侵された彼女になっていた。

「いくわよ美鈴」
「どうぞ、どこからでも……」

  が、ぶつかることは無かった。なぜならば


「はい、おしまい」


  どこからか声がするなり、美鈴の周囲に結界が現れる。

「!?」
「これは……!」

  美鈴は反応することが出来ずに、結界に阻まれ動けなくなった。

「紫!?」
「はぁい」

  現れたのは紫だった。驚く霊夢に笑顔で手を振る。

「間に合ってよかったわぁ」
「全く……寝ているところをいきなり叩き起こすんですもの」

  彼女の後ろには眠気顔の永琳がいた。

「じゃ、まずはおねんねなさい」

  言うなり美鈴の頭に傘を勢いよく振り下ろした。なにやら妖力が使われていたのか、美鈴は簡単に気を失う。
  そしてグッタリした彼女を背負うと、永琳のもとへといった。

「患者はこの子?」
「そうよ」

  永琳は事前に説明を受けているのか特に驚いた様子は無い。 
  だが突然現れた紫の突然の行動に他の者は唖然としていた。特にレミリアが。
  紫はそのまま2人をスキマの中に連れて行った。そして説明するために自身はレミリアのもとにいく。

「どういうこと? 説明なさい」
「今の彼女は危険よ。だからとりあえず隔離したの」
「主人の了承もなしに?」
「あら、知らなかったの? 雇用条件第8条第4項目、今も施行中よ」
「なによ…それ」
「それも知らなかったの? 良く彼女の主人をやってるわね。仕方ないわね、簡単に言うとね。
 今の彼女はあなたたちの僕ではないの。一介の妖怪であり『白昼の吸血鬼』紅美鈴よ。
 あなたは既に彼女に命令できる立場ではないのよ。
 ああなるほど。これ、ランドと美鈴の間で交わされた密約だから、あなたが知らないのも無理ないか」
「…………」
「えいっ♪」

  呆けているレミリアにいきなりボディーブローを叩き込んだ。
  まともに対処できずに彼女は後ろに吹き飛ぶ。が、直に立ち上がる。

「何するのよ!」
「なに、下手に能力使って暴れられるといやだから、境界を弄くったのよ」
「何ですって?」
「『運命』を操る能力を使えなくしたわ。見えないでしょう?」
「……!?」

  本当だった。運命が見えない。能力が封印されていた。

「ああ、安心しなさい。明後日までには治るはずよ?」
「何のつもり……?」
「なに、ただの余興よ。そしてあなたに対する試練でもある」
「?」
「運命を味方につけずに、この後の事態を乗り越えて見せなさい。
 それもまた、スカーレット一族の頭領として必要なことよ」

  そう言って今度は自分が入るスキマを開く。

「待ちなさい、何が目的なの?」
「あら、全ては幻想郷の為よ。それに私を追う暇があったらさっさとワクチンを作りなさい」
「!? どうしてそれのことを?」
「伊達に美鈴と友人をやってなくてね。彼女の体はあなたよりも知ってるわ。
 藍、あなたはレミリアのもとで待機していなさい。幽々子、あなたは私と来て頂戴」
「あ……はい」
「? わかったわ」

  フヨフヨと紫のもとに幽々子はいくと、紫は耳元に口を当て、なにやら説明する。
  何度か頷き、了承した彼女は

「妖夢、あなたも紅魔館にいなさい。何かあったら直に手助けすること」

  と言った。まだ周りがついていけない中、紫はレミリアに言う。

「タイムリミットは明日の満月が南中する12時。それまでにワクチンを作りなさい」

  そして2人はスキマの中に消えていった。



  さて、残された者たちはその流れについていけなく、固まっていた。
  美鈴がフランドールを倒し、自分たちが相手をしようとしたら、紫が邪魔してそのまま美鈴を拉致して行った。
  簡単に言ってしまえばこうなる。

「あの……藍さん、どうします?」
「どうするもこうするも……なぁ」
 
  そういってレミリアを2人は見る。レミリアは暫く難しい顔をしていたが、
  ようやく決断したのかため息をつきながら言った。

「とりあえず今日は家に泊まりなさいな、もちろん霊夢たちもね。もう夜も遅い。
 それに聞きたいこともあるでしょうからゆっくり話すわ。咲夜、動ける?」
「大丈夫です」
「フランの治療がすんだらパチェを起こしに行って」
「はい。ですがいいのですか?」
「美鈴のこと? 大丈夫よ。永琳がいるところをみると永遠亭にいるはずだから。
 どういうつもりかは分からないけど、殺すような真似はしないでしょう」
「分かりました。では直に作業に向かいます」

  レミリアは軽く爪をかむと魔理沙に向く。

「あなたも手伝って頂戴。時間がないわ」
「別にいいが、時間って、何の時間がだよ」
「説明する暇無いから、とにかく手伝いなさい」

  いらだっているのが分かった。魔理沙に怒鳴るように言うと、
  彼女は館の中にパタパタと羽を羽ばたかせはいていった。
  霊夢が魔理沙に向くと、魔理沙はため息をつき、ついていった。
  他の者たちもとにかく説明を聞かねば動けないので、館から出てきた平メイドに導かれ館の中に入った。



                           続く


続けて投稿します、長靴はいた黒猫です。

今回は美鈴とフランの昔話です。やはりとんでもなく長くなってしまいました。

狂気に侵されたフランを書くのは難しいですね、やっぱり。
何しろ周りの者たちが既におかしいんですから。
フランの『気がふれた』を『狂気』としてこのお話は進めています。
そしてフランがああなった原因に美鈴が絡んでいると言う設定も付加。

とりあえず今書きおえたのがここまでですので、次回までまた時間をおきます。
では、次回をお楽しみに。

P.S 4月3日微々修正
長靴はいた黒猫
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コメント



0.1850簡易評価
5.100時空や空間を翔る程度の能力削除
読んでいてゾクゾクしてきます。

続きが気になってこんな時間・・・・・(現在深夜の2時18分

続編心から期待してます。
たいへん素晴しい作品です。
6.100名前が無い程度の能力削除
美鈴どうなっちゃんですか。
続きがすごく気になります。
20.100SSを見て楽しむ程度の能力削除
美鈴がどうなるかとても気になります
ここまで面白いと続きがかなり気になりますよ
続編を心待ちにしてますね
39.100名前が無い程度の能力削除
続きが気になるけどもう完結している作品で良かった
早速読んできます