Coolier - 新生・東方創想話

例えばそれが一つの未来だとしたら

2007/03/25 04:20:41
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「・・・・・相変わらず茸ばっかり生えてて嫌な感じ」
深く深く、暗く、茸の有る森を歩く。
茸の所為もあるけれど、私は今、とても気分が悪かった。
「何言ってるんだ、宝の宝庫じゃないか」
後ろからついてくる子は、
目を爛々として嬉々として歩いているに違いない。
見えないけど、そう思った。
別に、この子の所為で憂鬱なんじゃない。
ないんだけれど、この賑やかさが癇に障るのもまた事実で。
「でもアリスが外に出るなんて珍しいよな」
「別に・・・私だって外出くらいするわ」
最近はお薬を貰いに永遠亭に行ったりもしているし、
用事がある時まで外出しない程横着じゃないつもり。
「それはそうと・・・いつまで付いてくるつもり?」
「暇じゃなくなるまでかな」
「迷惑だわ」
「そう言うなよ。
上海だって賑やかなほうが楽しいって言ってるぜ?」
「だから上海は私が動かしてるんだって言ってるじゃない」
この黒の魔女は、未だに私が人形を操作している事を認めない。
軽薄に見えて、実の所結構頑固らしい。
「人形にだって心はあるものだぞ?」
「・・・はぁ」
溜息が漏れる。
なんでついてくるのか解らない。
ただ偶然、家を出たところでばったりと会っただけ。
この魔女―――厳密には人間だけれど――は霧雨魔理沙と言って、
私にとっては・・・何とも言いがたい相手だった。
嫌っているというより、苦手。
同じ魔法を使う者でも、性格も好き嫌いも正反対で、
何かと意見が合わない。
向こうはまるで気にしていないようだけれど、
私はとても気にする。
正直、ここまで自分と違っている
―――もしかしたら、
こういうのを相性の悪いと言うのかもしれないけれど―――
相手と出会うのは、
いくら長い年月生きられるとしても、奇跡に近いと思う。
「私は、紅魔館に借りた本を返しに行くの」
「奇遇じゃないか、私も本を」
「奪いに行くんでしょ」
「そうそう力ずくで・・・って、
それじゃまるで私が強盗みたいだろっ」
・・・・泥棒じゃない。
「それに、貴方と一緒に居たら私まで侵入者と誤解されるじゃない」
「大丈夫だって、あそこの門番は弾幕張るの下手だから」
まず会話が噛みあってない事に気づいて欲しい。
「大体、私と会うまで茸狩りしてたんでしょ。
暇だって言っていたし、
なんで急に紅魔館に行く事になったの?」
話に脈絡が無いのはいつもの事だけれど、
それを流せずに突っ込んでしまう自分が悲しい。
「ん~・・・・・気が向いたから?」
「はぁ・・・・」
どうしても付いてくるつもりらしい。
「ていうか、なんで飛ばないんだ?」
「歩きたいからよ」
「ふ~ん、なら私も歩いていこう」
「なんでよ」
「一人で行くの、つまらなくはないけど寂しいからな」
「何それ、そういうの全然似合わないわ」
つい、ぷっと笑ってしまう。
「やっと笑ったな」
「え・・・?」
見ると、向こうもにや、と笑っている。
「さ、行こうぜ」
「あっ、ちょっと‥腕引っ張らないでよっ」
「ははっ、早く行かないと真っ暗になっちゃうぜ」
私の言葉なんてお構い無しに、そのままぐいぐいと引っ張って進む。
私は、その言葉に焦って、ちょっとだけ頬を膨らませて、
魔理沙の強引な様にささやかに反発する。


あの時は、まだそんなに意識してなかった。
いや、むしろ、自分達はきっと、
一時的に馴れ合っているだけなんだ、と思っていた。
いつかまた、昔の様に敵対して、そして今度こそ。
―――本当に来ると思っているの?そんな時が?
どこかで、それは無いと思っていた。
私が本気を出さないから。
私が負けている限りは、
どちらかが立てなくなるまで戦うことなんてない。
事実、互いに互いを妨害しあう事はあっても、
本気で争うことなんて一度も無かった。

どうして、こんな事を考えるようになったのか。
一つはきっと、私の中での魔理沙に対する見方が変わったからだろうと思う。
満月の異変の時、私は然程躊躇わずに、
特に意識せずに魔理沙をパートナーに選んだ。
互いに足を引っ張っていたけれど、
きっと他のどの人妖と組んでも、無事解決する事はできなかったと思う。
私達は、性格も趣味も全く違うけれど、
ただ一つ、相性だけは良いらしかった。
それが日常でもそうなのかと言われれば私にも解らなかったけれど、
でも、それがどこか、私自身、嬉しく感じていたらしい。

もう一つは、私自身の心境の変化だと思う。
それまでの私は、どこか引きこもりがちで、
あまり人との接点を持とうとしていなかった。
たまに祭があれば芸を見せに行くという位で、
当然魔理沙に対しても、家が近いというだけで、
自分から会いに行くような事はしなかった。
茸なんて見るのも嫌だったし。
そういえば、永遠亭の兎の眼に惑わされて、
魔理沙の事を異性のように意識してしまったこともあった。
あの時は本気で悩んだけれど、
半ば自棄気味に本人に打ち明けたら爆笑されて、
呆気に取られた。
「じゃあ相思相愛だな」
なんて言うものだから全身ヤカンの様に熱くなって、
どうしたらいいのか解らなくなって、
涙をぽろぽろ流したのを覚えている。
勿論、魔理沙は解った上で、茶化してくれたんだと思う。
そのおかげで、魔理沙との関係は壊れずに、
そのまま末まで変わらないままでいられた。
それが原因かは解らないけれど、
私自身、その時にはもう、
かなり他人と打ち解けられるようになっていると思った。


「・・・・ふぅ」
今年もまた、こうして一人でここに来る。
ヒュゥゥゥゥゥ―――
そっと風が吹き、静かに佇む、一本の石柱。
そんなに大きくは無くて、
今はまだ時期じゃないから、
冥界の桜の様に、華は全然ないけれど・・・
「魔理沙、また着たわ」
そうして、話しかける。
時の経過とはこうも辛いものなのか。
魔法使いとなった事を、どれだけ恨んだことか。
「あっと言う間ね、もう一年よ。前に来た時と比べて、どうなのよ。
成仏・・できないでしょうね、あんたじゃ。地獄行き確定だし」
怖い閻魔に延々と説教を食らわされているかもしれない。
何せ強盗常習者だ。罪状には事欠かないだろう。
「全く、下手な妖怪よりずっと強いくせに。
その気になれば、いつだって、私と同じようになれたのに」
全く、私は友人に恵まれない。
なろうと思えばその努力を鑑みれば、
魔法使いにだってなれたはずなのに。


「なんで魔理沙は魔法使いにならないの?」
「私は魔法使いだぜ?」
「違う・・・・・
なんで、人間のままで居続けるのかって聞いてるのよ」
「だって私は、人間だぜ?」
「だからっ
だから、魔法使いになれば、ずっとずっと、
それこそ永遠に近い時間だって生きていられるのよ?」
「それは・・・苦痛だよな」
「・・・・・っ」
「そりゃ、たまに思うぜ?
『ずっとこうやって皆と莫迦やってられたら、どれだけ楽しいだろう』って」
「そうよ・・・きっと楽しいわ。
私は楽しいもの」
「だけど、それは違わないけど、そうかもしれないけど、
でも、ダメなんだ」
「何がダメだって言うの?」
「時々思うんだ。死んで、成仏なり何なり。
そうなったら私は、外の世界に転生する」
「あんたなんて地獄行き確定よ」
「そうかもしれないけど、
でもいつかは、もしかしたら外の世界に。
―――人間って、普通は魔法使えないから、
幻想郷から出る事はできないけど、
でも、魔法も十分浪漫あるだろ?
届かないかもしれないけどでも、
外の世界に行くより、ずっと可能性が高い」
「何よそれ・・話変えないでよ」
「なんでかな、子供の頃からずっと、外の世界に憧れてた。
でも自力じゃ出られないって知ってから、
諦める代わりに、魔法を使えるようになってやろうって思ったんだ」
「だから、それが何なのよっ」
「魔法・・面白いぜ。好きだし。新しい魔法を覚えた時なんて飛び上がる位嬉しい。
でも、やっぱり外にいけるなら、行きたい」
「それで死んでまた幻想郷に生まれたら、莫迦みたいじゃない」
「はは、でも、死ぬ限りは外に出られる可能性、あるんだぜ?
死ぬことにだって、意味はあると思うんだけどな」
「解らない。解りたくない。貴方変よ。そんなだから魔理沙なのよ」
「おいおい・・何だよそれ・・・うわ、何泣いてるんだよ、
いや悪かった、うん、私が悪かったぜ。だから泣き止めって。ほら」
「な・・泣いてなんて・・・あんたなんかの為に泣いてなんてやらないわよっ」

どうしようもなく、情けなかった。
止められない。
魔理沙が老いていくのも、
魔理沙が弱っていくのも、
魔理沙が死んでいくのも。
私は全く変わらない姿のまま、
本当に何も変わらずに、変える事すらできずに、
その、友人の様を目の当たりにする。
そう、友人の。
それが嫌で、
いつか必ず訪れる未来がわかってしまって悲しくて、無力で。
魔法使いになんてなっても、人一人助けられないじゃない――
自分でも気づかなかった。孤独とは、こんなにも身近なのだと。
妖怪の知り合いが居ない訳じゃない。
死なない人間とも多少なりとも交友はあると思っている。
里に出れば人形遣いが来た、
と子供達がはしゃいで人形芸をせがんでくれる。
だけれど、魔理沙はもう私の手の届く場所には居なくなってしまう。
それだけの事。
ただ一人、居なくなるんだと感じただけで、
私はこんなにも孤独を感じている。


「本当に莫迦よね、貴方も、私も」
魔法使いになった事。
魔法使いにならなかった事。
どっちもどっちだ。
全く、こんな所まで正反対だなんて、本当に私達は――
「亡霊にでもなって出てきてくれれば良いのに、
律儀に冥界にすら行かないなんて」
魔理沙の霊が冥界に来たという話は聞かない。
まぁ来たとしても幽霊の姿では話す事もできないけれど。
それはつまり、成仏したか、地獄に落ちたか、という事を示す。
どちらにしても、同じ姿で私の前に現れる事はもう二度とない。
それが解ってから、私ははじめて魔理沙を死んだと認めた。
「私は楽しくやってるわよ。
手持ちの人形、千体を超えたわ。
心を持った人形も作れるようになったのよ?
すごいでしょ。
あ、これは去年も言ったわよね」
その言葉に答える相手は居ない。
「まぁ黙って聞いてなさいよ。珍しく私が自慢話をするのだから。
私が自分からこういう事を話すのなんて、滅多に無いわ」
風が吹くだけの、石が立っているだけのそこに、
人影はおろか妖精の姿すらないというのに、独白は止まらない。
「それからね、私、結構いろんな人と話す様になったのよ。
人だけじゃない、妖怪とだって。
鬼とだって仲良しよ」
聞いてないかもしれない。
聞いてないと思う。
だけれど、
「私は元気よ。上海だって、ほら、すごく可愛いでしょ?
最近里で流行ってる服を真似てみたのよ。
縫った私が言うのもなんだけど、すごく良く出来てて―――」
それでも、何か話さないと、涙が止まってくれそうに無かった。


ここは無縁塚。
霧雨魔理沙の墓の立っている場所である。 
今年もまた、桜の咲く少し前の季節、
少女の姿をした魔法使いの独白が小さく、延々と風に流れていった。
(終)
初めましての方、初めまして。
小悪亭・斎田という者です。
ここまで読んでいただけてありがとうございます。

さて・・・
まず最初に一言。
魔理沙好きな人、ごめんなさい。
書いていた当初はミニの方に投稿していた「東方兎弾奏」の続きっぽく、
アリス×魔理沙なラヴ重視なのを書こうとしていたのですが・・
気が付くと、こんなのになってました。
はい、暗いです。
魔理沙さん死んでます。

・・・いや、悪気は無いんです。
ただ、書いていて「同じようなノリで書いてたら兎弾奏の6になるじゃん」と、
路線変更を試みたのが直接の原因です。

読み終わって、
欝になってもらえたでしょうか?
哀しいと感じていただけたでしょうか?
もしそう感じていただけたなら、
個人的にはこの小説はこの小説としては成功だと思うのですが。
それから読んでくれてありがとうございます。

とりあえずこれにて失礼します。
それではでは。
小悪亭・斎田
http://www.geocities.jp/b3hwexeq/mein0.html
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コメント



0.390簡易評価
1.無評価名前が無い程度の能力削除
×ルサナ
○ルナサ
2.無評価小悪亭・斎田削除
Σ(´Д`)
またやっちまった(つД`;)グスン
5.40名前が無い程度の能力削除
よくよくあると言ってしまうと語弊はありますが、でもまあよくあるテーマなのでそこまで謙虚に過ぎるのもどうかと。また、冒頭の文章で損をしていると思います。冒頭の文章の調子で、内容も壊れて軽いくだらないものだと思えてしまう。親切もやりすぎては台無しになってしまいます。警告文やあとがきも含めて一つの作品だとカタチを考えられてはどうでしょうか。

ぐだぐだと書き連ねてしまいましたが、内容はアリマリとしてけっこうありだなと楽しませていただきました。
6.無評価小悪亭・斎田削除
ご指摘ありがとうございます。
あとがきだけでなく警戒文も作品の一つであるというのを少し軽んじていたかもしれません。
迂闊でした。
思い切ってその部分を消してみました。

けっこうありだな~>
ありがとうございます。
それを聞けて安心しました。
9.60ドライブ削除
小悪亭様の作品を初めて読ませていただきました。
個人的には、好きな作品です。アリスの心理を上手く書いていると思いますよ。
10.無評価小悪亭・斎田削除
おお、感想ありがとうございます。

アリスの心理~>
これからもそう言ってもらえるようなシリアスなのを書いていけたらと思います。
16.80名前が無い程度の能力削除
実は冒頭の魔理沙はアリスの作った人形で、アリスが一人で腹話術してるんじゃないかって勘違いしてた。
なにその鬱展開。