Coolier - 新生・東方創想話

コードアリス 返却のパチュリー

2007/03/23 00:38:58
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幻想郷の少女、パチュリーは、力を二つ持っている。

一つは、精霊魔法。如何なる属性が相手でも弱点を突ける、変幻自在の力。
一つは地下の図書館。親友が統治する紅魔館の知恵袋として働く、彼女の要塞。

小悪魔 という契約モンスター(?)を使い、パチュリーは動き出す。
図書館の蔵書を守るために、そして返却期限以内に本を返さないアホどもをこらしめるために。

その行動は、如何なる結果を生んでいくのか。
今はまだ、誰も知らない――。



******



「これ、返すわ」
「どうも」

ある日の紅魔館地下図書館。
テーブルを挟んで、二人の少女が話していた。
椅子に座り、手元の本に視線を落としているのは、図書館の主、パチュリー・ノーレッジ。
もう一人、鞄から数冊の本を出してテーブルの上に置いているのは、アリス・マーガトロイド。

「あなただけよ、ちゃんと期限までに本を返してくれるのは」

そう言いながら、パチュリーは溜息をつく。
貴重な魔導書や幻想郷の外の世界の本など、この図書館には様々な本が置いてある。
一般公開はされていないものの、この図書館の噂を聞きつけ、その蔵書を一目見たいと訪れる輩は絶えない。
絶えないだけで決して多くはないが。
そもそも普通の人間ならば、紅い悪魔の住まう館に近づこうなどとは思いもしない。
ここを訪れるのは普通ではない人間や普通の人間以外――それもごく一部の実力者だけである。
そしてその大半は、「借りる」と称して貴重な書物を勝手に持って行き、決して返却しない。

『死ぬまで借りるだけだぜ』
『代わりにこの薬を置いていくわ。いい夢が見られるわよ』
『新聞とってくれたら返します』
『返す返すって言って返さないやつらは最低ね。わたしは最初から最後まで絶対に返さないわ!鬼は嘘つかない!!』
『寝る前に少しずつ読んでるの。再来年の春には読み終わると思うわ』

この有様である(←どこかで見た表現だが気にしてはいけない)。
そんな中、アリスだけはきちんと借りた本を返していた。
借りる時もパチュリーの承諾を得ることを忘れず、貸し出し禁止の本は借りない。
本来なら誰もができて当然のことなのだが、「できる」ことを「しない」のが幻想郷クオリティ。

「いっそ強行手段に出たら?待ってても誰も返さないわよ」
「力ずくで取り返す?できたら苦労しないわ」

幻想郷ではかなり強い部類に入るパチュリーも、あのネコババ軍団相手では相当な苦労を強いられるだろう。
そもそも、生半可な実力の持ち主ならば、この図書館から本を勝手に持ち出すこと自体できるはずがない。

「強い奴ならあなたの周りにもいるじゃない」
「咲夜と美鈴は仕事があるからダメ。小悪魔は頼りにならない。それと…」
「あの姉妹は論外、って?」
「察しが良くて助かるわ」

あまり事が大きくなりすぎても困るの、と付け加え、パチュリーは肩をすくめた。
そんなパチュリーの様子に苦笑しつつ、アリスはパチュリーの向かいの席に座る。

「ねえ」
「何?」

パチュリーは本から視線を上げることなく、アリスの言葉に答えた。

「わたし達二人が組んだら、どれぐらい強いと思う?」
「……?」

予想だにしなかったアリスの問いに、初めてパチュリーが顔を上げた。
冗談半分、真面目半分の表情が、目の前にあった。

「何が言いたいの」
「わかるでしょうに」
「…一緒に本を取り返してくれる、そう解釈していいのかしら?」

努めて冷静に返したパチュリーだが、内心ではアリスの真意をはかりかねていた。
確かにアリスは魔法使いとしては一流であり、味方にすれば非常に心強い。
しかし、そうすることでアリスに何の得があると言うのか。

「そうなるわね」
「何が目的?まさか単なる善意ってわけでもないでしょうに」
「ひどい言い草ね。これでも結構いい友達のつもりだったのに」

目元に指を当て、泣きまねをするアリス。

「魔法使いの取引は常にギブアンドテイクよ。それはあなたもわかるでしょう?」
「…もう。ノリが悪いわね」

軽く溜息をついて、アリスは説明を始めた。

「要はわたしも色々と取り返したいものがあるの。まあ、わたしの場合、相手は一人なんだけど…」
「魔理沙ね」
「そう。やられてることはあなたとほぼ一緒」

魔導書はもちろん、貴重なマジックアイテムや薬品、調味料の類に至るまで「死ぬまで借りるぜ」状態。
近所づきあいってレベルじゃねーぞ、という話である。

「わたし一人で物を返してもらうには骨が折れると思ってたところなの」
「だから、それをわたしに手伝えと?」
「あなたにとっても悪い話じゃないはずよ」

この図書館においても、未返却の本の冊数がダントツで多いのはお馴染み白黒魔法使いである。
職業魔法使いと言うだけあって、魔術的価値の高いものを見極める感覚は鋭い。
つまり、アリスやパチュリーが「特に」持って行って欲しくないものばかり持っていくのである。
これで弾幕ごっこの腕もなかなかのものだというからタチが悪い。
紅魔館もアリス邸も、幾度となく彼女の被害にあっていた。

「確かに、わたしもあの子に返して欲しいものは沢山ある」
「でしょう?協力してくれれば、あなたの本の『回収』を手伝ってもいいわ」

パチュリーはアリスの目をじっと見つめた。
ここまで話した内容以外に、何か別の事情がある――ようには見えない。
少なくとも、現時点では。

「…いいわ。その話、乗りましょう」
「そう来なくっちゃ!」

アリスの嬉しそうな叫びが、図書館内にこだました。

「やるからには徹底的にやるわよ。この図書館の蔵書を、完全な状態にまで復活させる」
「いいわね!むしろ『増やす』くらいの意気でもいいんじゃなくて?」
「それじゃ奴等と同じじゃない」

パチュリーは苦笑すると、静かに右手を差し出した。

「とりあえず、あなたの協力に感謝するわ」
「こちらこそ」

差し出された手に、アリスは自分のそれを重ねた。
握り合った互いの手は、僅かに汗ばんでいる。
無意識のうちに、両者の心が高揚している証拠であった。

かくして、二人の魔法使いによる奪還と復讐の旅が始まったのだった――

「別に旅に出るわけじゃないわよ」
「近場よね」

そこはまあ、あれよ、雰囲気で。





『コードアリス 返却のパチュリー』 

STAGE1 山崩し編





「さて、まずはどこへ行きましょうか?」

図書館を出た二人は、外へ出るべく紅魔館の庭を歩いていた。
パチュリーが手に持った「未返却者リスト」を覗き込みながらアリスが尋ねる。

「そうね、ここからなら…」

パチュリーがリストに目を通そうとした瞬間。

びょうっ

強い風が吹いた。
庭に散らばる砂粒や小石が舞い上がり、二人は反射的に服の袖で顔を覆う。
そのまま、風が止むまでの僅かな時間をやり過ごす。
そして、目を開けた二人の視界に飛び込んできたものは。

「…あいつ、かしら」
「そうね。家も近いし」

二人が今いる場所から少し離れた、かなり高い空の上。
カメラ片手に周囲を見渡す、一匹の鴉天狗の姿があった。



******



二人は湖の岸辺を歩いていた。

「作戦は?」
「考えてないわ」

パチュリーの即答に、アリスは僅かに眉をひそめる。

「あれに正面からぶつかって行くのはあまり賢くない気がするんだけど」
「そうね」
「じゃあどうするのよ!?」

少し苛立たしげに尋ねるアリスの言葉に動じることなく、パチュリーは口元に人差し指を当てる。
そのまま、ほんの少しの間だけ、地面に視線を落とす。

「…こんなのはどう?」
「えっ!?今考えてたの!?」

驚いた様子のアリスの耳に、パチュリーはそっと口を近づける。

少女密談中…

「…マジ?」
「マジ。激マジ。超激マジ」

パチュリーがたった今考案した作戦を聞き、アリスは目を丸くする。

「確かに悪くない案だとは思うけど…」
「思うけど?」
「…大丈夫なの?その…体、とか」

不安げにパチュリーの華奢な体を見つめるアリス。
パチュリーはやはり動じることなく、言葉を返した。

「大丈夫よ。走ったり跳んだりするよりは遥かに楽」
「そ…そう…?」

パチュリーの顔には自身に満ちた笑みが浮かんでいる。
最初は不安がっていたアリスも、その顔を見ていると少しずつ乗り気になってきたようである。

「ええ。…さ、すぐに準備しましょう」
「あ…うん!」

やがて、二人の姿は湖を包む霧の中に消えていった。



******



射命丸文はふらふらと、しかし相変わらずものすごい速さで飛び回っていた。
いつものようにネタ探しである。
事件がなければ新聞を書く必要はない、とは言うものの、それで本当に新聞を書かなければ飯の食い上げだ。
故に、どんな小さな事件でも見逃すことの無いよう、こうして飛び回っているのである。

「最近異変らしい異変もありませんしねぇ…」

ちなみにここ数日、彼女は記事にできそうな事件に遭遇したことはない。

「また誰か紅魔館に泥棒にでも入りませんかね」
「へえ…たとえば誰?」

何気なくつぶやいた独り言に答える声があった。
声の主は文の背後。

「そうですね、白黒の服を着て、速くて…」

背後の何者かの問いに答えながら、文は振り向く。
そこには、何度か取材したことのある人形使いの姿があった。

「ふーん、それで?」
「…あなたもよく知っている方ですよ」
「なるほど」

アリスは微笑みながら文に近づいていく。
これから弾幕ごっこをしようという雰囲気ではない。文は特に警戒することはしなかった。

「名前を言ってみましょうか」
「どうぞ。わたしと同じことを考えているはずですよ」
「じゃ『せーの』であなたも一緒に」
「いいですね」

文はくすくすと笑うと、アリスの提案に応じた。

「せーの」

アリスが合図する。

「射命丸文!」
「霧雨魔理…え?」

自分の答えと違うばかりか、恐ろしく身近な者の名前を呼ばれ、文は目を丸くする。

「何ですか。わたしをからかってるのですか」
「どうして?白黒で速い紅魔館に泥棒に入ったことのある奴。あなたが思い浮かんでも何も不自然じゃない」

確かに文の服装は白いシャツに黒いミニスカートを合わせていることが多い。
白黒の服と言えないこともない。
速いのは言うまでもない。

「泥棒というのはいささか心外なのですが」
「自覚症状がないのはいよいよ深刻ね」
「何が言いたいんですか?」

表向きは冷静を装っているが、文はアリスの態度に苛立ちを覚え始めていた。
自分は紅魔館に空巣に入ったことも、強盗じみた行為を働いたこともない。
(空巣の読みは『あきす』ですよ。空き巣とも書きます。『からす』じゃないですよ。わたしは鴉天狗ですが)
誰がうまいことを言えと(ry

「お母さんは言っていたわ。『借りたものを返さない奴は泥棒と同じ』だって」
「失礼な。わたしがいつ借りたものを返さず…」

そこまで言って文はある一つの事実を思い出した。
以前、ある事件に関する記事を書く際、紅魔館の図書館から数冊の本を資料として借りたことがあった。
「さっさと返す」と言うパチュリーに、冗談めかして「新聞を取ってくれたら返しますよ」などと言った記憶もある。
記事を書いた後すぐに返すつもりだったが、その時借りた本があまりにも資料として便利だったため…

「あっ!!」
「やっぱり。借りたままになってる本があるんでしょう?」
「は、はい…いや、何とも色々なことが載っている本で…」
「それで手放せなくて借りっ放し?あなたいくつよ」

アリスは溜息をついた。
どこぞの人間のように「死ぬまで借りる」などと言わない分マシではあるが、無責任にも程がある。

「すぐに返しなさい。パチュリーの奴、結構怒ってるわよ」
「そ、そうですね。わかりました今すぐに…と、言いたいところなんですが」
「何?」

文は本を借りたことを半ば忘れていただけであって、思い出せばすぐに返しそうな雰囲気だった。
そのため、アリスは用意した「作戦」を実行する必要がないのでは、と思い始めていた。
しかし。

「もう少し待っていただけますか?先週取材した事件の記事を書くのに使うので…」

なんという先延ばし…。
明らかに自分のことしか考えてない発言をしてしまった。
間違いなくこの天狗は反省していない。

「だめよ。既に返却期限を過ぎまくってるんだから。今すぐ持ってきなさい」
「そこをなんとか!今書いてる記事ができたら、返しますから…」
「そうもいかないわ」

パチュリーは本の返却に関して「その場ですぐに返却。それ以外はどんな条件を出しても譲歩しない」と言った。
『ここで甘い顔をすれば我が図書館がなめられるわ』
図書館と己の名誉と尊厳を何としてでも守るという、パチュリーの「覚悟」が表れている。
もし相手が本を即刻返却しなければ交渉決裂、「作戦」が実行される。
アリスは少々厳しすぎないかと思ったが、既にそれは決定事項であり、二人の約束である。

「悪いけど、ここは譲れないの。返しなさい」
「そんな!少しくらいいいじゃないですか!」
「だーめ」
「うう…」

アリスも心を鬼にして文に本の返却を迫る。
追い詰められた文は、思いも寄らぬ方向から反撃に転じた。

「な、なぜなんですか!」
「え?」
「そもそもあなたは図書館の関係者じゃないでしょう!なぜここまでして本を返させようとするんですか!!」

逆ギレ気味に、文は言葉を叩きつける。

「なぜって、それは…」
「なぜそれほどまでに…あの図書館の魔女に協力するのですか!!」
「え?パ、パチュリーは別に関係な…」
「関係ないはずないでしょう!関係ないと言うなら、あなたが本の返却を迫る理由はどこにあるんですか!」

今度は文が一転、攻勢に出て、アリスに質問の嵐をぶつけ始める。

「知りませんでしたよ。あなた達二人がこんなに仲が良かったなんてことは…」
「ち、違…」
「違いませんよ。ぜひ教えてください!お二人の出会いは?仲良くなったきっかけは?一晩の回数は!?」

文は手帳とペンを取り出し、アリスに迫る。
しかも質問の方向も何やら妙な方向にずれ始めている。一晩の回数って何だ。

「違うって言ってるでしょ!」
「へ~え…」
「何よその目は!べ、別にパチュリーがどうとかじゃなくて…そ、その…」

アリスはしどろもどろになりながら後ずさる。
心なしか頬が赤くなっているようにも見える。

「ほ、ほらあれよ!あなたが借りてる本の中に、わたしが読みたいのが混ざってるかもしれないでしょ!?だから…」
「だから?」
「だからわたしのこと…パ、パチュリーのことはいいのー!!」

アリスさん、もう真っ赤である。
この現象を「魔術師の赤(マジシャンズ・レッド)」と名づけよう。

「チッ♪チッ♪(65%)」
「な、何よ!?」
「見事に引っかかってくれましたねアリスさん…(87%)」

文の右手には、いつの間にかカメラが握られている。

「わたしが見たかったのはその表情ですよ…(100%)…今だ!ツンデレシャッターチャアァァァァンスッ!!」
「ひっ…や、やだ!こんな顔撮らないでえっ!!」
「無駄です!我が愛機『ダークザギヒルカワ3号』のレンズからは…決して逃れられない!」
「いやああああああああっ!?」

文のカメラがアリスの恥ずかしい表情をファインダーに捕らえようとしたその瞬間、信じられないことが起こった。
何かがカメラのレンズに突き刺さり、写真の撮影を阻止したのである。

「何ッ!?」

意外!それは髪の毛ッ!!
アリスの髪の毛が一房、本人の意思と関係なく伸長し、カメラのレンズを割ったのである。
アリスはなぜ自分の髪がレンズに向かったのか、彼女自身理解できなかった。
無意識だった。
「アホ毛」が「カリスマ」に吸い付く様に勝手に動いたと感じた。
しかしアリスの肉体は知っていた。
恥ずかしい姿を公開されまいとするアリスの肉体が動かしたのだ。
アリスに流れるたくましき魔界神の血が、アリスの直感をプッシュしたのだ。

「あ…アホ毛はお母さん譲りだった…」

そしてアリスの追い詰められた本能は、一気にスペルカードの威力となって頂点に達したッ!!



―呪符「ストロードールカミカゼ」―



アリスを中心に、無数の藁人形が空に広がった。
それぞれが黄色い弾の尾を引きながら、標的へと襲い掛かる。
標的――文はアリスの近くにいたため、その攻撃をもろに食らうことになった。

「しまっ…」

恐るべき弾と人形の密度。
頼みのカメラはレンズを破壊され、弾幕を消し去る能力を失っている。

「ぐううううううっ!!」

それでも天狗の神速でもって必死に避けるが、何発かの弾と、何体かの人形は文の身体に当たる。
その度に、特大の木槌で殴られたような鈍痛が文を襲った。

「あなたは調子に乗りすぎた…特別に本気で叩き潰してあげる!」
「くそっ…このままだと、まずい…」

文はどうにかアリスから距離をとり、退却の隙をうかがう。

「逃げる気!?あなたが本を返さない限り、どこまでも追っていくわよ!」

冷静さを失った状態でも、本来の目的を忘れていないところはさすが。
そんなアリスに、文は不敵な笑みを返す。

「妖怪の山までですか?どうぞ!わたしに何かあったら仲間が黙っちゃいませんよ!」
「仲間?」
「山にはたくさんの天狗がいます!そんな場所まで追いかけてこれるならどうぞ、と言ってるんです!!」

しかし、アリスもまた、不敵な笑みを浮かべた。

「ふふ…仲間、ね」
「そうです」
「山まで逃げ帰るつもりなの?そう…」

一端言葉を切り、アリスは肩を震わせて笑った。
心の底からおかしそうなその様子に、文は再び苛立ちを覚える。

「何がおかしいんですか!」
「別に。…ねえ、確かにあなたが言う通りよね」
「!?」
「パチュリーの本を、わたしが返してもらいに来るってのは、おかしいわね」

アリスは完全に冷静さを取り戻していた。
反対に、文の表情は次第に曇り始めている。

「パチュリーが直接来ないのには理由があるはずよね?どこかに出掛けてるとか…」
「……」
「たとえば、そう…妖怪の山、とか?」

妖怪の山、という単語を強調したアリスの言葉に、文は目を見開く。
その様子を見て、アリスはいっそう楽しげな笑みを浮かべた。

「なっ…まさか、わたしの仲間を!」
「さあ?どうなのかしら」
「馬鹿な!たった一人であれだけの妖怪を倒すなど…」
「ホントよねえ」

アリスは答えをはぐらかし、まともに答えようとしない。
うろたえる文を弄んでいた。

「くっ…」

文はすぐに踵を返し、妖怪の山がある方向に向かって飛び始めた。
普段は滅多に出さない全速力、それよりさらに速く。
背後のアリスのことなどもはやどうでもいい。
追いつけるはずがないのだから。

「みんな…」

今の文の胸を占めるのは、仲間の無事を願う心だけ。






瞬く間に文の姿が消え、アリスは胸を撫で下ろした。

「うまく妖怪の山に誘導できたわね…」

そう言いながら、懐から発煙筒を取り出す。

「確か『交渉決裂』は青い煙だったわよね…」

文が妖怪の山へ向かったことを、パチュリーに知らせなければならない。
用意した「作戦」の準備はほとんど済んでいるが、最後の仕上げをする必要があった。

「乙女の純情を踏みにじる奴は…」

空に立ち上る青い煙を見上げながら、アリスは藁人形を握りしめた。
人形の顔には文の似顔絵が貼ってある。

「…許さない。天狗め、吠え面かきなさい」

その顔の中心に向かって、アリスは五寸釘を深々と突きたてた。



******



「来たわね」

遠くから猛スピードで近づいてくる影を見ながら、パチュリーはつぶやいた。
背後を振り向き、そこに控える何者かに声をかける。

「あなた達、手筈どおりやるのよ」

答える声は三つ。

「お任せください!」
「バッチリよ!」
「当然でしょ?」

遠くに見える青い煙は、そろそろ消えようとしていた。

「さて」

パチュリーの待ち人は、既に顔がわかる距離にまで近づいてきていた。
その表情の変化を見ながら、パチュリーはくすりと笑った。

(幸先のいいスタートを切れるといいけど)

作戦の第一段階は終了した。
本当の地獄はここからだ。

「あなたにとってのね…射命丸文!」

空中で急ブレーキをかけた人影に聞こえないように、パチュリーは「小声」で「叫んだ」。



******



遠くから見てもわかった。
妖怪の山の様子がおかしい。
どこがおかしいのか、文にはうまく説明できなかった。
異常は一箇所のようにも、多数あるようにも解釈できる。

「一体何が…」

近づくにつれ、その異常の詳細が明らかになる。
そしてその実体を知った瞬間、文は言葉を失った。
山が、崩れていた。
天狗をはじめとした幾多の妖怪が住む山。
その上半分が消し飛び、茶色の断面を露出させている。
豊かだった木々はなぎ倒され、崩れた土砂に埋まっているものも多い。

「そん…な…」

そして何より、文にとって大きな衝撃となった事実。
誰もいない。
山に住み、時に穏やかに、時に賑やかに暮らしていた仲間達の姿がない。
遥か昔から幻想郷で共に生活してきた妖怪達の集落は、影も形もなかった。

「有り得ない!たった一人の魔女に…この山がやられるなんて!」

文は山の真上まで飛び、事態の確認を急いだ。
この光景を前にしてもまだ、目の前の現実を信じることはできなかった。
嘘だ。
これは何かの間違いだ。
しかし、その期待も、次の瞬簡に全て崩れ去ることになる。

「遅かったわね」
「!?」

上半分が消失し、水平になった山の頂上から、その声は響いた。
文が視線を向けた先にいるのは、七曜の魔女。

「パチュリー・ノーレッジ…」
「信じられない、って顔してるわね」

パチュリーはかなり疲弊した様子で、足元をふらつかせていた。
服装もあちこちに泥がついていたり、生地が破れていたりと、ボロボロである。
身体のあちこちに生傷があり、血が滲んでいる。
それはまるで、想像を絶する戦いをついさっきまで演じていたかのような風体であった。

「ところがどっこい嘘じゃない。これが現実。この妖怪の山は…陥落したわ」
「あなたが…一人で…」
「ええ。さすがに一筋縄ではいかなかったけどね」

疲れきった顔に、それでも勝者の笑みを浮かべるパチュリー。
文は悟った。
自分が生まれ、育った場所、妖怪達の楽園はもうない。
たった一人の魔法使いの手によって、壊滅したのだ。
怒りや悲しみが来る前に、文の心を巨大な虚脱感が支配した。
思うことも、考えることもできない。
自分の精神が、余すところなく真っ白になってしまったような状態だった。

「あなたのお仲間には随分苦労させられたわ」
「…!?」

しかし、放心状態だった文の意識を「仲間」の一言が呼び戻した。
そう、文はここに来るまで死体の一つも見ていない。
山が崩されたからといって、そこにいた妖怪が一人残らず消えたとは考えにくい。

「み…みんなは!わたしの仲間はどうしたんですか!?」

文はパチュリーの前に降り立つと、その肩をつかんでガクガクと揺らした。

「そんな態度をとっていいのかしら」
「何を…」

そこで文は気づいた。
パチュリーの背後に、幾つかの人影があった。
全部で三人。
いずれも身体を縄できつく縛られ、目隠しをされた状態で地面に転がっている。
意識を失っているのか、動く様子はない。
そして、彼女達――文には三人とも女性に見えた――は、いずれも文にとって馴染み深い、天狗特有の服装をしていた。

「驚いた?このコ達は最後まで抵抗したの。本当に、手を焼かせるんだから」
「ほ…他の皆は…」
「ああ、『まだ』殺しちゃいないから安心して」

こっちの三人は見せしめよ、と付け加える。
文は驚愕していた。
故郷を破壊され、仲間が非道な仕打ちを受けてもなお、怒りや悲しみより先に驚愕と絶望が心を襲った。
魔法使いという種族は、かくも残酷な復讐をするものなのか。
ここまで非情な手段を用いる妖怪が、この幻想郷にいたのか。
その事実こそが、文にとって最も信じがたい現実だったのかもしれない。

「そんな…」

文は地面にへたり込み、山頂の土に手をついた。
豊かな緑が生い茂っていた天然の山道は、もうそこにはない。
首なし死体の、首を切り落とされた断面の上に、文は今いるのだった。

「こうなった原因、わかるわよね?」
「…え…」
「他者の所有物を盗むってのは悪いことよ」

パチュリーは文を見下ろし、強い口調で言った。
文はここまで、敢えて考えまいとしてきた事実に直面した。
そう。
この惨劇の大元の原因は、文自身だ。
文がいつまでもパチュリーに本を返さず、そのことを注意されても決して本を手放さなかったこと。
そのことがパチュリーの逆鱗にふれ、妖怪の山を襲撃するという行動をとらせた。



文のせいで、妖怪の山は滅びたのだ。



「あ…ああ…」
「理解したようね。自分の行動が招いてしまった『もの』の大きさが」
「違…これ…あなたが…」
「手を下したのはわたしだ、って?」

パチュリーはふらつく足で膝をつくと、文の顔と正面から向き合う。

「それでもあなたがきちんと本を返せば、こうはならなかった」
「そんな…」
「大袈裟?魔法使いから本を奪うってことがどれだけ大それたことか…」

一端言葉を切り、うつむき加減だった文の顎に手を添えた。
パチュリーはそのまま顎を上げさせ、視線を合わせる。

「あなたはしてはいけないことをした」

その眼光は文の目を射抜き、脳髄にまで届くほど鋭かった。

「だからわたしは…それに相応しい制裁を加えた!」
「…っ!!」

普段のパチュリーからは想像もつかないほどの声量。
息が届くほどの距離からその声をぶつけられ、思わず文は身体を震わせる。
そのまま数秒。
やがて、文の頬を涙がつたいだした。
遅れてやってきた悲しみと、たった今覚えた罪の意識が流させた涙だった。

「あ…わた、し…なんて、こと…」
「今更泣いたって遅いわ」

文は地面に手をつき、嗚咽を漏らした。
涙は止まることなく、後から後から溢れ出して来る。
茶色い地面の上に、次々に染みができていった。
その様子を一瞥して、パチュリーは山頂を去ろうとする。

「待って!!」

文は立ち上がったパチュリーの腰にしがみつき、叫ぶ。

「みんなは!わたしの仲間はどこ!?」
「…返して欲しい?」

パチュリーの問いに、文は首を何度も縦に振る。
その度に大粒の涙が宙を舞い、陽光を反射して輝きを放った。

「返してください…何でもします…本も全部、返しますから…だから…」
「本当に?」
「本当です!!約束します!!」

文はパチュリーの腰を掴んだまま、また地面に顔を向けて泣いた。
細い肩は小刻みに震え、彼女の心の不安定さを物語っている。

「いいわ」

パチュリーは懐から一枚の紙を取り出す。

「わたしは本が戻ってくればそれでいい。ただし…」
「えっ?」
「口約束じゃ信用できないからね」

取り出した紙には「誓約書」と書かれている。
誓約書を文に突きつけ、パチュリーは命じた。

「ここに名前を書いて」
「は…はいっ!」

文はパチュリーの手から誓約書をひったくると、すぐに名前を書き始めた。
その字は普段のような可愛らしいものではなく、線が歪み、名前欄から字があちこちはみだしていた。
当然である。名前を書いている間も、文の手はずっと震えていたのだから。

「そうね、あとは…」

何を思ったか、パチュリーは文の顔を両手で掴むと、自分の顔の方へ引き寄せた。
そのまま、強引に唇を重ねる。

「…痛っ…!」

唇を放す直前、文は小さく悲鳴を上げた。
二人の顔が離れる。

「いい顔になったじゃない」

パチュリーは文の顔を見て小さく微笑む。
文の下唇の一箇所が切れ、血が流れ出していた。
先ほど唇を重ねた瞬間、パチュリーの歯がその部分を噛み切ったのである。

「これは…」
「わかるでしょう?誓いなさい、そう…」

パチュリーは文の手を掴むと、唇の辺りまで持っていく。

「わたしに…あなた自身の、血で」

文には、パチュリーの言わんとすることが理解できた。
魔法使いが契約を交わす際の方法の一つにこんな方法があると、本で読んだことがある。
いまだに血が流れ続ける唇の傷に、親指を当てた。
そのまま、真っ赤になった親指を、誓約書に書いた自身の名前の横に当てる。
誓約のサインに、鮮血の拇印が押された。

「これでいいわ」

パチュリーは誓約書を取り上げると、文のサインをまじまじと見つめた。

「汚い字」
「……」
「ま、いいわ。これで、わたしとあなたとの間の約束は成立した」

文の涙は止まっていた。
しかし、それは仲間に会えるという安堵によって止まったものではない。
どのような顔をして山の住人達に会えばいいのか。
彼らは自分をどんな言葉で責めるのか。
自分がこれから受けるであろう、さらなる「制裁」に対する恐怖が、一時的に文の悲しみを凍りつかせたに過ぎない。

「あなたはこの誓約に逆らえない。いいわね?」
「…はい…」

文は焦点の合わない目で答えた。
未来への希望を全て失った、生ける屍の目。


















「オッケー!言ったわね!すぐに本を返すのよ!!絶対よ!!」
「…はい…え?」
「『と、ここでネタバラシ』…って言えばいいのよね、確か」

いやいや。
それにしてもこの仕掛け人、実に、実に、実に実に実にノリノリであった。
つーか途中で何度もギャグに逃げようと思った。
文とパチュリーが会ってからここまで。
ハイッ!全部ドッキリでした!

「だっだだ~ん」

いつの間に拘束が解かれていたのか、背後に倒れていた天狗の一人が立ち上がり、文に近づいてくる。
その手には「大成功」と書かれた立て札。
しかもよく見るとその少女、服装こそ天狗だが、翼がコウモリだ。
頭からも似たような翼が生えており、キュートなお尻からは尖った尻尾が生えている。
皆さんご存知、小悪魔である。

「迫真の演技でしたねパチュリー様!見事な悪役っぷり!ちょっと濡れちゃいましたよ」
「何が濡れたのかは聞かないでおくわ。ところであなた」
「なんでしょう?」
「クローテングーの腕だけコフィンバットに換えたみたいね」
「今の若いコは無印メダロットなんて知りませんよ…」

にこやかに談笑する仕掛け人と協力者その1。
そのやりとりを見つめる文は完全に思考停止状態だった。まあ無理もないか。

「パチュリー様、天狗さんが考えるのをやめちゃってますよ」
「何?この程度で脳がパンクするなんて、天狗ってのも大したことないわね」
「あ…あの…話が全く見えないのですが…」

どうにかして言葉をひねり出す文。

「だからドッキリよ。わたしは妖怪の山を攻撃なんてしてないし、あなたの仲間を苛めたりもしてないわ」
「ええっ!?で、でも実際に山は…」
「ああ、それね」

パチュリーは人差し指を立てると、その先端に少しだけ魔力を集中させた。
そのまま指先を地面に向ける。
短い呪文がパチュリーの口から発され、それに応じるように地面の一箇所が盛り上がった。
パチュリーが指先を動かすと、それを追いかけるように盛り上がった土が移動する。
まるで、土の塊に生命が宿ったかのように。

「これって…」
「土の精霊魔法。それもごく基本的な、ね」

パチュリーは勢いよく片手を天に向かって突き上げる。
それと同時に、周囲の平坦な地面が盛り上がり、小さな山を作った。

「まさか…いえそんな」
「ええ。この妖怪の山は魔法で作り出した偽物よ。本物はあっち」

そう言って、文が飛んできた方向を指差す。
先ほどまで全く気づかなかったが、確かに見慣れた妖怪の山の形を、遠くに確認できた。
文は妖怪の山と正反対の方向に飛んできていたということになる。

「さすがに、これだけ広い範囲の地形を変えるのは疲れたけど」
「じゃ、じゃあ…最初あんなにボロボロだったのは…」
「単に魔力の使い過ぎよ」
「服が破れてるのは、徒歩でこの山を登ってきたからなんですよー」

小悪魔が会話に加わる。
どうやら本物そっくりの妖怪の山を作るには、大変な魔力が必要だった様だ。
山だけでなく、周辺の地形もかなり細かく似せてある。
おそらく、パチュリーは空を飛ぶこともできないほど消耗してしまったのだろう。

「もし天狗さんがすぐ本を返してたら、骨折り損だったんですよね」
「言って返すような奴ならこんな作戦用意しないわ」

パチュリーはジト目で文を見つめる。
つい先ほどまで追い詰められていたことを思い出し、文は一瞬身体を強張らせる。

「で…ですが」
「何よ?」
「わたしが自分の家への道を間違えるわけありません!どうしてここに来るとわかったたんですか!!」
「それについては、わたしが答えるわ」

文の背後から、聞き覚えのある声。
振り向けば、そこには十数分前に別れたアリスの姿があった。

「えっ?わたしが答えるんじゃないの?」

いや、アリスだけではない。もう一人。
肩まで伸ばした髪をツインテールでまとめた、羽根のある少女。
光を「マッガーレ(屈折)!」させる妖精・サニーミルクである。

「うるさいわね。ここまでの流れから言って、わたしがキメたほうが自然なのよ」
「だってわたしの能力で山の方向を勘違いさせたんじゃ…あとマッガーレって…」
「言うな!」

ここに来る前、文がアリスと会話している間。
サニーミルクの「光を屈折させる程度の能力」により、文は実際のものと異なる景色を見ていたのだった。
つまり、本来山があるのと反対の方向に「山がある景色」を見ていたのだ。
山の反対の方向。
つまり、パチュリーが作った「贋作・妖怪の山」がある方向である。

「…ずっと、隠れていたんですか…」
「ま~ね~」

もちろんサニーも作戦の協力者。
してやったり、という表情で「大成功」の立て札を掲げる。

「ほらあんた達、いいかげん起きなさいよ!」

そして、パチュリーの背後で倒れていた天狗に声をかけた。

「ん~…もう朝…」
「うわ、服汚れてる」

縛られ、目隠しされて地面に転がされていた天狗は残り二人。
小悪魔が出てきた時点で、残りの二人もパチュリーの仲間であることは察しがついていたが…。
天狗達はただ巻きつけられただけの縄を解き、目隠しをとる。

「あなた達でしたか…」

天狗特有の山伏風の衣装に身を包んではいるものの、肉体的な特徴は似ても似つかなかった。
一人は金髪縦ロールな蜻蛉羽の少女。こんな天狗いない。
もう一人は黒髪ロング。これは天狗にも結構いるが、蝶の羽を持った天狗などどこを探してもいない。
ルナチャイルドとスターサファイア。
サニーミルクを加え、三人揃って東方三月精。「兎と牛の区別をつかなくさせる程度の能力」を持つ。
「もう誤植の話は許してあげましょうよ」
物書きで飯を食っているものとして、文には色々と思うところがあるのだろう。
ちなみにこの三人がパチュリー達に協力した理由は至って簡単。

『天狗騙して泣かせようと思うんだけど』
『『『やる!!!』』』

妖精さんはイタズラ大好きなのだ。
ただ寝てただけのルナとスターが本当に楽しかったかどうかは疑問であるが。
あ、ちなみに天狗コスチュームはアリス製作ね。



******



「さて、あなたは見事に騙されたわけだけど」
「くっ…そのようですね…」

完全にはめられた。
そのことを理解するに至り、文は唇を噛む。さっきの傷が痛い。

「一つだけ嘘じゃないものがあるわ」
「嘘じゃないもの?」
「これよ」

パチュリーは誓約書を差し出す。
そこにははっきりと「射命丸文」という名前があり、横に拇印が押されている。

「…そうでしたね…確かにわたしがその誓約書にサインをしたのは事実です…」
「理解が早くて助かるわ」
「わかりました。すぐに本を返します」

文は己の敗北を認め、誓約書を手にとって眺めた。




~誓約書~

私、射命丸文は、紅魔館地下図書館の本を必ず返却期間以内に返すことを誓います。
また、返却期間以内でも、高貴なるパチュリー・ノーレッジ大先生がお望みになるならば、
いつでも菓子折りを添えて本をお返しいたします。もしもこの誓約を破った場合、私は、
『射命丸文は無責任で嘘吐きで尻軽でクサレ脳ミソ』という噂を天狗の仲間内に流され、
いえむしろ幻想郷中に流されても決して文句を言いません。無言の抗議もしません。

                                       第百二十一季 卯月
                                       射命丸 文  @



「なっ…なんですかこれは!!」
「誓約書よ。あなたもさっき読んだでしょう?」
「さっきは気が動転してて細かいところまで…ってクサレ脳ミソは酷いです!人を見下す言い方はよくない!」

やはりパチュリー・ノーレッジは非道な魔女である。
最悪の事態だけは免れたものの、恐るべき誓約を成立させられてしまった。
たとえ一日でも本の返却が遅れれば、文は幻想郷にいられなくなる。
これでは怖くて本を借りることすらできない。

「あなたは人じゃないわ」
「天狗を見下す言い方はよくない!」
「訂正どうも」

文はナイフの一つでも取り出そうと思ったが、やめた。
今ここでこれ以上パチュリーに楯突くと、どんな恐ろしいことになるかわかったものではない。

「まあ、きちんと本を返しさえすれば、概ね平和な毎日を送れるわ」
「くっ…この悪魔!」
「悪魔はわたしですよ~」

文は地団駄踏んで悔しがるが、もはや後のサンバカーニバル。
またしても地面にへたり込み、絶望の表情を浮かべた。

「ねーお腹空かない?」
「空いた空いた~」
「起きてすぐ食べるとウミウシになるのよ」

一人を除き天狗コスな三月精は、既に別のことに興味が移りつつある。
世界人口の半分以上はウミウシか。

「ふう…とにかく成功ってことでいいのかしら?」

アリスは文の頭に足を乗せてぐりぐりしているパチュリーに声をかける。
パチュリーは笑顔でVサインを作って見せた。

「バッチリよ。あなたもよくやってくれたわ」
「それはどうも」
「ところで…天狗のカメラが壊れてるみたいだけど。あなたがやったの?」

レンズが割れた文のカメラを(勝手に)手に取り、パチュリーは尋ねる。

「あーっ!そうだ!」

パチュリーの足を跳ね除け、文が勢いよく立ち上がる。

「わっ、な、何よ!?」
「ひどいですよアリスさん!いくらわたしがアリスさんの絶妙な表情を激写しようとしたからって…」
「絶妙な表情?」

興味深々といった顔のパチュリー。

「そうなんですよ!ツンデレ全開で真っ赤に染まった…」
「わああああああ!言うなあああああああ!!」

アリスの体重が十分に乗った飛び蹴りが炸裂し、文は山の上から転がり落ちた。
どこか懐かしさを感じさせる急斜面を転がりながら、文は思った。

わたしの指紋って、あんなカリスマに満ちた模様だったのね…と。





STAGE1 山崩し編 完





(CM)
妖忌「香霖堂の新作コスチュームを着て、香霖堂でカツラをオーダメイド」
妖夢「師匠! それはもしや」
妖忌「さらにオシャレは足元から、香霖堂のサポートグッズで靴下を揃えれば…」
妖夢「あれ?幽々子様、こんなところで何を?」
妖忌「愚か者! わしの顔を忘れたか!」
妖夢 「なあ!? 師匠!」
妖忌「ホームページは、香霖堂ドットコム!」





『コードアリス 返却のパチュリー』 

STAGE2 星曝し編





哀れな風神少女から、借りていた本を回収した後。
二人はアリスの自宅で午後の紅茶を愉しんでいた。

「とりあえず、第一段階は成功ね」

パチュリーはテーブルの上に乗った数冊の本を見ながら、美味そうにカップを傾けた。

「そうね。ところでパチュリー」
「何?」
「どうしてわたしがあなたの服を縫ってるのかしら」

アリスは先ほどから、先ほどの作戦で破れたパチュリーの服を針と糸で修繕していた。
汚れはアリス宅の洗剤を使ってパチュリーの水魔法で洗い、火魔法で乾かしてある。
一人で複数属性持ってるって便利ね。

「小悪魔にやらせるとどうも不格好になるのよね」
「メイドとかいるでしょうに」
「咲夜以外のメイドのスペックは小悪魔の三割引なの」

そして咲夜はレミィのお世話と館のお掃除で手一杯だしね、と付け加えた。
自分でやる、という発想はないのだろう。
さすがは紅魔館VIP待遇、当主の友人にしてトラブル解決役。ある意味彼女もお嬢さま。

「お礼は必ずするから」
「期待してるわ」

普段から人形の衣服を作っているアリスにとって、この程度の裁縫はお手の物である。
しかし、アリスの胸中は穏やかではなかった。
具体的に言うと心臓の鼓動がやや激しい。

(何で平然と下着姿でお茶なんか飲んでるのよ!)

服が破れたからと言って、他人の家で何のためらいもなく服を脱いで、しかもそのままでいるとは。
百年近くも魔法使いをやっていると、その程度のことは気にならなくなるのだろうか。
だったらせめて、こちらも気にならない程度の――

「ねえ」
「はひゃうっ!?」

無意識のうちにパチュリーから目を背けていたアリス。
不意に真後ろから声をかけられ、情けない声を上げてしまう。

「ふーん…ほんとに縫い目が全然目立たないのね。さすが、器用だわ」

いつの間にか席を立っていたパチュリーが肩越しにアリスの手元を覗き込む。
アリスの背中にパチュリーの身体が密着する形になり、薄布一枚に覆われた柔らかい双丘の先端が背中ごしに、

「って背中越しいぃ!?」
「何よ」

せめて、こちらも気にならない程度のボディラインをして欲しいと思うのは間違いかしら。
華奢な癖して、出るところは必要以上に出ているプロポーション。
病弱属性持ちのヒキコモリ魔女らしからぬ肉感的な肢体を前にして、アリスはそんなことを思うのだった。
着やせ?さあな……なんのことだ……?わからないなメイド長。



******



「で、次は誰のところに行くの?」

不自然なまでに手際よく服の修繕を済ませ、アリスは尋ねた。
パチュリーは衣服を身につけながら、その問いに答える。

「言うまでもないわ」
「『ここ』から一番近い奴ってこと?」

今二人がいる場所は、アリスの家。
魔法の森の奥深くだ。

「作戦を考えましょう」

その言葉が、アリスの言葉に対する肯定の意思を伝える。
標的はある意味、今回の最大の目的。
――霧雨魔理沙。



******



ある晴れた日のこと。
魔理沙は自宅の寝室で昼寝をしていた。
ベッドの上の寝顔は、うららかな午後に惰眠を貪れる幸福に満ちている。
安らぎをたたえたその表情に似合う言葉は幼さ、あどけなさ、そして無防備さ、などなど。
普段の傲岸不遜な態度からは想像もつかない、可愛らしい寝顔。
これから自分に、魔法以上の不愉快が限りなく降り注ぐことになろうとは、文字通り夢にも思うまい。
いや…それは「魔法以上の不愉快」というより…「魔法異常の不愉快」。
そんな不愉快の種を撒きに来る悪い魔女が、今まさに彼女の家のドアをノックするところであった。

コンコン

「…んぁ?」

だらしない声を上げながら、魔理沙は目を覚ます。
何かの音が耳に入ったような気がした。

コンコン

今度は魔理沙にもはっきりと知覚できた。
誰かが玄関のドアをノックしている。

「はいはい、今出るぜ」

寝る前に脱いだいつもの白黒魔女ルックを素早く身につけ、玄関に向かう。
さすがに室内なので、帽子は壁にかけたままだが。

「…魔理沙、いる?」

ドアの向こうからは聞き慣れた声。
この魔法の森で唯一のご近所さん、アリスの声だった。





「で、今日は何のようだ?」

魔理沙は紅茶を淹れながら、アリスに尋ねる。
使っている茶葉は新品、どこぞの神社の巫女のように客人に出涸らしのお茶を出したりしない。
たとえそれが普段から顔を合わせれば憎まれ口を叩き合う悪友であっても、だ。

「ん…えっと、ね…」

来訪の理由を尋ねられたアリスだが、どこか歯切れが悪い。
椅子に座った自分の太ももを見つめるように、下を向いてもじもじしていた。

「…これ…」

しかしその状態も数秒間のこと。
おずおずと、そして少し恥ずかしそうに小さな袋を取り出す。

「何?」
「その…暇潰しに作ったら…予定より多くできちゃって…」

テーブルの上に置かれた袋を、魔理沙は覗き込む。
袋の口を開けた途端、甘い香りが鼻腔をくすぐった。

「…クッキー?」
「い、一応、紅茶には合うと思うんだけど…」

アリスは視線だけは下を向けたまま、言葉を返す。
その顔が紅茶と同じくらい赤く染まっているのは夕日のせい?いやいや、まだ夕方には早い。

「わたしにか?」
「だっ…だから!多く作りすぎちゃったって言ってるでしょ!作ったのも暇潰し!」
「そ、そうか?」

突然声を大きくしたアリスに、魔理沙は少々気圧される。

「まあ、嫌なら食べなくて…いいけど」
「いやいや。もらえるものは何でもいただくぜ」
「相変わらず調子いいんだから」

そっぽを向くアリスには、明らかに動揺を隠せないでいる。
そんなアリスをにやにやしながら眺めつつ…実は魔理沙の心にも若干の「乱れ」があった。
近所に住んでいる顔見知り同士とはいえ、アリスがこんなことをするのは初めてだった。
理由があるとはいえ、一緒にお菓子を食べるために家に来るなど、普段の二人の関係からは考えられない。

(…どういう風の吹き回しだ?)

口に出すとアリスがさらにギャーギャー喚くのが目に見えているので、心の中で。
これまでは本を貸せだのマジックアイテムを貸せだの(しかも大抵は魔理沙が一方的に押しかける)、
反対にあの本を返せだのマジックアイテムを返せだの(当然こちらはアリスが一方的に押しかける)、
とにかくそういう目的で互いの家を訪れていた。
それに比べると今回は、ひどく穏やかで友好的な理由による来訪ではないか。

「別に毒なんか入ってないわよ」
「ん。別にそういうわけじゃないんだが」

目の前のクッキーとアリスの顔を交互に見比べていた魔理沙は、アリスの声で思考を一旦断ち切る。

「余っただけ!それ以上の詮索禁止!!」
「わかったって」

何となくだが。
今のアリスからは害意が感じられなかった。
頬を染め、必死で「余った」「多く作りすぎた」を繰り返すその表情は、むしろ魔理沙には新鮮に見えた。
いつもクールでドライ(っていうのは言いすぎか?)なこいつに、こんな一面があったのか。
そんなことを思うと共に、ほんの少しだけ…そんな様子を、かわいい、とも感じていた。

「ん、おいしい」
「ほんと?」
「ああ」

クッキーは形も大きさも様々だった。
一つ一つが、様々な生物を模した形をしている。
鮪。
河豚。
蛸。
烏賊。
海亀。
蟹。
その他諸々。

「…これ全部、海の生物か」
「うん」
「さすが、器用だな」

皿の上に散らばった海生生物たちは、本物とは似ても似つかない。
しかし、その造形はそれぞれ特徴を捉えており、何を模した物かは一目でわかる。
手先が器用で、凝り性なアリスらしい「遊び」であった。

「アリスも食べろよ。うまいぜ」
「そうね…ま、多く作りすぎちゃって食べ飽きてるんだけど…魔理沙がそう言うなら」

この期に及んでまだ「多く作りすぎた」を主張するアリスを見て、魔理沙は苦笑する。
強く主張すればするほど、嘘くさくなるというのに。

「何笑ってるのよ」
「別に」

その会話を最後に一旦二人の言葉が途切れる。
しばらくの間、クッキーを噛み砕く微かな音だけが響いていた。
ゆったりとした時間が流れる。
そこにいるのは弾幕使いでも魔女でもない、甘いお菓子と紅茶を楽しむ「ただの」少女たち…

「ん?」

…というわけにはいかなかった。
魔理沙は、手に取った一枚のクッキーをしげしげと眺める。
それは五つの突起を放射状に伸ばした、左右相称/放射相称な立体。
魔理沙にとって、ある意味最も馴染み深いあるものと同じ形をしていた。

(おいおい、海の生物で統一するんじゃなかったのか?)

そう思いながらも、魔理沙はほんの少し、嬉しい気持ちを感じていた。
それはアリスの気まぐれか、あるいは無意識の産物かもしれない。
でも、自分の大好きな、この「形」を作ってくれたことが、なんとなく嬉しかった。
このクッキーの形を作っているとき、アリスはもしかして、わたしのことを思い浮かべたりはしなかっただろうか。
そんな他愛もない、妄想じみた疑問すら浮かんでくる。
その疑問を素直に口に出したりはしないが、なんとなく確かめてみたくて、でも言えなくて。

「なあ、アリス」

遠回りして、包み隠して、その他色々手を加えて。

「このイカ、わたしのだからな!」

まずは前振り。
いかにも悪ふざけをしています、という表情も忘れずに。

「…ならこのカメはわたしのよ」 

アリスもクッキーを一つ、手にとって。
悪戯っぽい笑みを浮かべて、言葉を返してくる。

「じゃ、この星わたしの!」 

本命登場。
星、という単語をことさらに強調して言う。
もはや先ほどの疑問を確かめる言葉でもなんでもない。
それでも、魔理沙はこの「星」に話を持っていくことができればよかった。
自分が空に描く弾幕の、一番重要なパーツの形。
たくさんの魚介類の中に、たった一つ(探せばまだあるかもしれないが)混ざった、魔法のかけら。
アリスはどうして、この「形」を特別扱いしたんだろう…?


















「ふっ、それ、ヒトデだって…」
















ヒトデでした。
漢字で書くと海星。
魚介類の中で唯一の異端、などということはなく。
思いっきり魚介類でした。
勘違いも甚だしい。
そして自惚れはもっと甚だしい。
クッキーが星形をしていただけで、無理矢理自分に関連付けようとしていた。
どうして?
だって、星の形は自分にとって特別で。
普段から自分の弾幕を見てるアリスも、それは知ってるはずで。
何の繋がりもない魚介類の群れの中に、敢えて星形を混ぜてくることには意味があるはずで。
つまりアリスが焼いたこのクッキーの中で、星形クッキーは特別で。
それが意味するところとして、アリスの中で、***は特別で。

注:霧雨魔理沙女史の名誉のため、一部の心情表現を伏字にしてあります。


なんとういう論理の飛躍。
クッキーの形を見ただけでここまで妄想してしまった。
間違いなくこの白黒魔法使いは夢見がち。(←またこのネタっすかwwwwwwwwサーセンwwwwwwww)

でもヒトデでした。
それは魚や蟹の中に混じっててもなんの不思議もなく。
形は一緒でも自分のばら撒く星弾とは何の関係もなく。
それはつまりこのクッキーと自分の間に特別な繋がりは一切なく。
先ほどの嬉しい気持ちや、微かな疑問や、盛大な妄想は、全て空回りだったわけで。

「ぐあ…」

魔理沙は夢見がちな少女らしからぬ声を上げて下を向いてしまった。
その両頬は先ほどのアリスの三倍は赤い。
赤いという時点で通常の三倍という世の中である。
さらに赤さも三倍なのだから、三×三で九倍ということになる。
何が九倍なのかは知らないが。

「何赤くなってるのよ」
「死にたいかも」
「大袈裟ね。ヒトデと星を間違うってのも、そう珍しいことじゃないでしょ」

実物はともかく、ヒトデ形のクッキーを星形と思ってしまうことは少なくない。

「そうじゃなくて…いや、そうなんだけど…」
「?」

魔理沙は消え入るような声でつぶやきながら、相変わらず下を向いている。
気づけば、先ほどと立場が逆転していた。
魔理沙が「しゅ~ん」としているのは、間違いを指摘されて恥ずかしがっているから…アリスはそう思っているようだった。

「ねえ、魔理沙」

アリスは少し意地悪な表情で、テーブルの上に軽く身を乗り出した。

「あー…何だよ」
「下向いてないで。目を見て話しましょうよ」

今の魔理沙にとって、正面からアリスの顔を見るのは少し辛い。
別に後ろめたいことは何もしていないのだが、心の問題である。

「……」

それでもしぶしぶ顔を上げる。目の前にアリスの顔。うああ。
そしてその手には、先ほどのものとは別のヒトデクッキー。

「これ、な~んだ?」
「……」

アリスの顔にはニヤニヤ笑い。
さっきの仕返しのつもりか。
いや、魔理沙は何も悪いことはしてないのです。間違いをしただけなのです…。

「…デです」
「え?」
「…トデです」
「聞こえないわね~」

アリスの瞳が不気味に光る。
魔理沙は自分が追い詰められているのを感じた。

「さ、もう一度!」

アリスの瞳が光を増す。
うう、この潜在的S属性女め、あとで覚えてろ。
潜在的S属性って何だよ。

「ひっ…ヒトデだよ!これはヒトデ!!海の星と書いて海星!ヒトデライズド!意味なし!」
「よくできました」

アリスはクスクスと笑うと、乗り出していた身を戻し、元の位置に戻る。
魔理沙の顔はもう真っ赤。しかしこの話、登場人物の顔が赤くなりすぎである。激レッドである。ニキニキである。

「まあ、魔理沙ならそう言うと思ってたわ」
「え?」
「この形を見たら『星だ!』って言うだろうなあ、って」

言いながら、ヒトデクッキーを口に運ぶ。

「他のクッキーが三日月や太陽の形をしていたら、誰でもこのクッキーを『星だ!』って言うんでしょうけど」
「当たり前だ」
「魚や亀や海老に混じって『星だけ』があることに、全く疑問を抱かないのはあなたぐらいね」

あなたの弾幕を見れば、それも納得だけど、と付け加えた。

「疑問なら…あったよ…」
「え?何か言った?」
「別に!」

魔理沙は乱暴に席を立った。

「どこ行くの?」
「お茶を淹れなおすだけ!おかわりいるか!?」

不自然に大きな声で受け答えする魔理沙。
その背中を見て、アリスはまたクスクスと笑う。

「ええ、頂くわ」

振り返ることなく、魔理沙はキッチンへ入っていった。





その後も、クッキーと紅茶で二人は午後のひと時を楽しんだ。
すっかり調子を狂わされた魔理沙は、終始会話のイニシアティブをアリスに握られっぱなし。
対して、最初はしおらしかったアリスは、ヒトデネタを武器に見事に魔理沙を手玉に取っていた。
はいそこ、「攻守逆転ktkr」とか「マリアリはリバ可がマイジャスティス」とか言わないように。
帰る際になって、アリスは最後にもう一度尋ねた。

「これは何?」
「…ヒトデ」

その答えを聞くと、アリスは満足げに帰っていった。





魔理沙は思った。
一瞬でもあいつにと*め*たわたしが馬鹿だった。
今度会ったら*してやる。

注:霧雨魔理沙女史の名誉のため、一部の心情表現を伏字にしてあります。



******



夜。

「ご苦労様。大した演技力ね」
「大した苦労でもなかったわ。魔理沙に一泡吹かせてやれたし」

アリス宅にて、パチュリーとアリスは遅めの夕食を取っていた。

「あのままラブコメ展開に突入してもよかったのよ?」
「…いきなり何を言うのよ」
「ふふ、あなたがいきなりクッキーなんか作ってくるんだもの、魔理沙、色々考えちゃったんじゃない?」

どこか冷やかすようなパチュリーの口調に、アリスは眉をひそめる。

「冗談言わないで。全ては作戦、段取りに従っただけよ」
「そうね、ふふ…あのクッキー、おいしそうだったわね。わたしも食べてみたいわ」
「よしなさい。あなた『も』ただじゃすまなくなるわよ」

そう。
これは作戦。
借りたものを返さない魔理沙を懲らしめるための、一日がかりの芝居なのだ。

「わかってるわよ…さすが魔法の森の住人、こういう時は頼りになるわ」
「どちらかと言うと魔理沙の得意分野だけどね」
「いえいえ、あなたは十分にやってくれたわ」

パチュリーは夕食のイカスミスパゲティをズビズバーと食べ尽くすと、席を立った。

「さて、そろそろいい時間ね」

時刻はもうすぐ日付を越えようかという辺り。
よい子はおねんねの時間だ。

「もう行くの?」
「ええ。さすがの魔理沙ももう寝てるでしょ…寝ぼけてるところを一気に、叩く!」

パチュリーは拳を握りしめてつぶやいた。
魔理沙は未返却図書の冊数はダントツに多い。
さらに毎回強盗まがいの手段で本を持っていくため、パチュリーの怒りは予想外に大きいようだった。
その背中に燃え盛る炎が見える…アリスはそんな気がした。

「…正面から行くのは危険よ」

この作戦に対するパチュリーの意気込みの強さを感じ、それゆえにアリスは警告する。
確かにパチュリーは普段から常に冷静にして沈着、熱くなることは滅多にない。
が、今回は場合が場合だ。
これまで溜め込んだ魔理沙への不満が爆発してもおかしくはない。
そうして感情に任せて正面から弾幕戦を挑めば、返り討ちにあう可能性もある。

「…大丈夫よ。作戦は予定通りに遂行するわ」
「途中で熱くならないといいけど!」
「心配しないで。クールに徹するわ…あなたの働きを無駄にしないためにもね!」

ドアの前に立ったパチュリーは、アリスの方へ振り向いて笑ってみせた。
その目には炎のごとき怒りと――しかし同時に、作戦の遂行に徹する冷酷さが宿っている。
どんなに感情が燃え盛っても、今のパチュリーはその炎をクールに受け止め、力に変えることができるだろう。

「そ、そう?」

アリスは少々面喰った形になった。
確かに今のパチュリーは頼もしいが、それはそれでなんだかパチュリーらしくない…。

「でもありがとう。もし最初からあなたがいなかったら、わたしは怒りに任せて当たって砕けてたかも」
「え…?」
「わたしたち、案外いいコンビかもね」

そう言い残して、パチュリーはドアの外へ歩き出していった。
アリスはその背中を、呆然と見つめていたが、数秒後。

「えー…っと…」

パチュリーが何を言ったのか、すぐには理解できなかった。
意外な角度から飛んできた、しかし直球ストレートな言葉は、アリスの心に決して弱くはない衝撃を与えた。

「なんで不意打ちでそういうこと言うかなぁ…」

そうつぶやいて頭を掻くアリスの顔は、僅かに赤い。
今まで誰にも言われたことのない台詞を、しかも絶対そんなことを言いそうにない相手に言われた。
そんな時、どんな表情をすればいいのかわからなかった。

「まったく…」

それでも、悪い気はしなかった。
…『いいコンビ』。
照れ臭さ半分、嬉しさ半分。
なんとなくこみ上げてくる笑みを押し殺しながら、アリスは窓の外に目を向けた。


「ぐげげげげげげげげげげ!!
ほぅら見えたぞ、あれが霧雨邸だ。
アリスに話を充分に聞いてあるから初めて見るけどよく知ってる、くっけっけっけ!!!
魔理沙の部屋は二階だと言ってた二階だ二階!!!
起こしてやれ、石をぶつけろぐぎゃぎゃぎゃぎゃ!!!」


「ちょwwwwwww全然クールじゃねえしwwwwwwww」

やはりパチュリーは相当頭に来ていたらしい。
魔理沙、あんた一体どんだけの本をネコババしてたのよ…アリスはそう思った。




******




こつん。
こつん。
何かが窓にぶつかっている。
その音が七回続いたところで、魔理沙は身体を起こした。

「だぁっもう!こんな時間に誰だ!?」

女の子の安眠を妨害する奴は百叩きだぜ、とつぶやいてカーテンを開ける。

「おい、何のつもりだ!用があるなら朝になってから…」
「朝までなんて待てないわ。今すぐ降りてきなさい」

窓から見下ろした地面に、小柄な人影が一つ。
見慣れた顔がそこにあった。

「何だパチュリー、お前のほうから来るなんて珍しい」
「そうね。いいから降りてきて」

基本的に紅魔館でしか会ったことのない七曜の魔女は、しきりに降りてくるよう催促した。
魔理沙は眠い目をこすりながらも、その言葉に従う。
今はすぐにでもベッドに戻りたい。
早めに話を終らせるためにも、下手に逆らわない方がいいだろう。
そう考え、ハンガーにかかったエプロンドレスに手を伸ばした。


しかし、これは長すぎる夜の始まりでしかなかった。


「で、何だ?」
「単刀直入に言うわ。図書館の本を返して」

パチュリーの口から出た言葉は、これまで何度となく聞かされたもの。
そして、その度に右の耳から左の耳へ聞き流してきたものでもある。

「あー、今度な」
「その言葉は聞き飽きたわ。今すぐに返して。ついでにアリスの分も」
「何でお前がアリスの本まで催促に来るんだよ」

ちなみに魔理沙がアリスから借りっぱなしにしているのは本だけではないが。
貴重なマジックアイテムや薬品、調味料などが未だに霧雨邸に眠っているのは、冒頭で述べたとおり。

「理由はどうでもいい。返却期限は過ぎてる。あなたには返す義務があるはず」
「期限はわたしが死ぬまでっていわなかったか?」
「図書館の主はわたしよ。返却期限はわたしが決めるの」

こんな当たり前のこともわからないの、とパチュリーは蔑みの眼差しを向けてきた。
その態度が少し気に食わなかったのか、魔理沙は少し顔を険しくする。
が、それも一瞬のこと。すぐに肩を落とし、

「…わかったよ。明日、返しに行くから」

参りました、といった感じの笑顔を作り、申し訳なさそうな声を出す。
普段なら、パチュリーは文句を言いながらもここで引き下がる。
このラインを越えれば、話し合いでは済まなくなることを両者が理解しているためであった。
同時に、話し合いで済まなければ双方に少なからぬ被害が出ることも。
この妥協によって、二人は一応「知り合い以上友人未満」な良好な関係を築いてきたのだ。

「ふざけないで」

しかし、今日のパチュリーは何かが違った。
魔理沙の胸倉を掴むと、その背中を玄関のドアに押し付ける。

「そう言って、次の日に返しに来たことが一度でもあった?」
「ぐ…苦、し…」
「もう一度言うわ。今すぐ本を返して。これは最後通告よ」

パチュリーは鋭い眼差しで魔理沙を睨みつけた。
これまで魔理沙が見た中で、最も真剣で、そして攻撃的な視線だった。
パチュリーは打ち捨てるように魔理沙から手を放すと、その背後のドアを開いた。

「さあ、これまで貸してあげた本を全部持ってきなさい」
「げほっ…こ、この…」

自分に非があることは疑いない。
いつかパチュリーの堪忍袋の尾が切れることも、予想できなかったわけではない。
しかしそのことを全て受け入れ、この場で頭を下げるには、魔理沙は幼すぎた。

「ふざけやがって!だったら力づくで奪い返してみろ!」

最初に「手を出した」のはパチュリーだ。
その事実だけで、魔理沙は激昂するだけの理由を自身に与えることができた。
箒にまたがり、夜空へと飛び立つ。

「…無視して『くれた』わね、最後通告を…」

パチュリーは口元に笑みを浮かべながら、魔理沙と同じ高さにまで飛び上がった。

「あなた、自分がどれだけ格好悪いか自覚してる?」
「はっ!そういうことは勝ってから言いな!」

魔理沙は既に八卦炉をその手に構え、臨戦態勢である。

「わたしは優しいから、いいことを教えてあげる」
「何?」
「今のあなたでは絶対にわたしには勝てない。戦えば、ひどく後悔することになる」

もちろん、そんな「忠告」に魔理沙が耳を貸すはずはない。

「…その言葉、そっくりお返しするぜ!」

その言葉が、開始の合図になった。





魔理沙とパチュリーが弾幕で戦うのはこれが初めてではない。
何度かの異変と、そして数え切れないほどの日常で壮絶なスペルカード戦を演じてきた。
現在はお互い、ある程度は相手の手の内を知り尽くしている状態である。

(いつものようにこっちの足を止めに来るな…先手必勝だ!)

パチュリーの得意とする戦法は、広範囲・高密度弾幕による無差別攻撃である。
四方八方へランダムに散らばる弾を無数にばら撒き、相手を近づけさせない。
敵の動きを封じ込めたところに、強烈な一撃でとどめを刺す…というのが基本的なスタイルだった。
高速で動き回って相手を攪乱する魔理沙のようなタイプが、最も苦手とする戦法である。

「速攻で決めさせてもらうぜ!」

しかし、魔理沙は全ての弾を一瞬で消し去る魔砲によって、自由に動ける空間を無理矢理作ることができる。
今回も、パチュリーが弾幕を展開する瞬間を狙ってマスタースパークを撃つつもりだった。
そのまま光線を追うように突っ込み、接近戦で一気に畳み掛ける。
そこまで持ち込めば、まず自分が負けることはない。
だが。

「…何!?」

いつもなら魔理沙から一定の距離を置き、スペルカードを発動させるパチュリーが、一直線に突進してきた。
背中に魔法によって起こした強い風を受け、猛スピードで魔理沙目がけて迫ってくる。
右手に魔導書、左手には…火の玉。

(まずいっ!)

完全に虚を突かれた形になる魔理沙は、とっさに身体を右に傾け、パチュリーの突進をかわす。
近い間合いから放たれた火の玉は、魔理沙の身体をとらえることなく、飛んでいく。
すれ違う瞬間、数本だけ触れた魔理沙の金髪の先端を小さく焦がして。

「…いい反応ね」

火の玉を追いかけるように、パチュリーは魔理沙の背後に抜けた。
魔理沙はすぐさま振り向き、背後の敵に向けてマジックミサイルを放つ。
パチュリーは空気中の水分を集め、水の障壁を作ってこれを防いだ。
障壁がミサイルと共に消え、再び二人が向かい合う。

「やられたな。いきなり突っ込んでくるとは思わなかったぜ」
「その割りに、あっさり避けられてしまったけど」
「原始的な才能ってやつだぜ」

言葉を交わしながら、魔理沙はある種の違和感を感じていた。
今日のパチュリーは何かが違う。
先ほどの奇襲もそうだし、今こうして対峙しているパチュリーからも、普段とは違う雰囲気が漂っていた。

「身体能力ではあなたに分があるってことね…でも!」

一瞬、空気が歪んだように見えた。
その次の瞬間には、パチュリーの姿は魔理沙の眼前から消えている。
パチュリーは再び風を纏い、高速移動を始めたのだった。

「あなたはわたしには勝てない!間違いなくね!」
「はっ!天狗みたいな真似しやがって…その根拠のない自信はどこから来るんだか!」

魔理沙は死角へ消えたパチュリーを探し当てると、再びミサイルを撃ち出す。
パチュリーはそれを避け、またも魔理沙の死角に入り込む。
魔理沙はすぐにパチュリーを見つけ、撃つ。
パチュリーは弾を避け、死角へ入る。

「くそっ…さっきからチョコマカと…」

見つける。撃つ。
避ける。隠れる。
先ほどから、二人はこの繰り返しだった。
パチュリーは右へ左へ上へ下へ、一瞬にして、そして確実に魔理沙の視界から消える。
長い距離を移動する必要はない。魔理沙の二つの目が届かない場所へ。
ごく短い距離を、瞬時に移動する。
これだけならば、パチュリーの飛行能力でも、文や魔理沙に匹敵するほどのスピードが出せた。

「ほらほら、どうしたの!?」

そしてパチュリーは逃げ回るだけでなく、当然のことだが、攻撃もする。
これがまたいつものパチュリーらしくない、小さな弾を一発だけ、狙いを定めて撃つというもの。
魔理沙の攻撃の0.1秒前に合わせるように放たれるその弾は、確実に魔理沙の手元をとらえる。
その結果、どうなるか?
0.1秒遅れて放たれた魔理沙の弾と、パチュリーの弾がぶつかり合い、相殺する。
0.1秒分だけ、その相殺は魔理沙の近くで起こる。
至近距離で弾が消え、爆ぜる瞬間の光は、これまた一瞬だけ魔理沙の視界を奪う。
その隙に、パチュリーは再び死角へ移動する。
これをひたすら繰り返すと言うのが、今日のパチュリーの戦法であった。

「この…セコい攻撃してきやがって…!」

魔理沙は次第に苛立ちを感じ始めていた。
まるで自分をからかうかのようなパチュリーの空中移動。
狙いは正確だが、倒す気が感じられないほど弱い攻撃。
「弾幕はパワー」を信条とする魔理沙にとって、今日のパチュリーのスタイルは「やりづらい」上に「歯がゆい」ものだった。

「やる気あるのか!パチュリー!」
「その台詞、そっくりあなたに返すわ!そこから一歩も動かないなんて、余裕ね!?」
「何!?」

言われて初めて気づいた。
魔理沙は最初のパチュリーの奇襲をかわしてから、ずっとその場所に留まっていたのである。
パチュリーは魔理沙の死角から死角へと移動するが、相手との距離だけは変えなかった。
ちょうど、魔理沙を中心とした半径七~八メートルほどの球体の上を滑るように飛んでいたのだ。
さらに攻撃の手を休めず、魔理沙をその場に縫い付けていた。
移動しようとすれば、その出鼻をくじくように、魔理沙が言うところの「倒す気のない弾」が飛んでくる。
その場で避け、撃つ。これが魔理沙にできる精一杯だった。

「…言ってくれるぜ…」

つまり魔理沙が一歩も動いていないと言うことは、パチュリーの思惑通りなのである。
それを知っていて、敢えて「余裕ね」という言葉をかけたことが、さらに魔理沙を苛立たせた。

(くそっ!これじゃいつもと逆じゃないか!!)

魔砲で一気に吹き飛ばしてやろうとも考えたが、やめた。
ただでさえパチュリーは、魔理沙の死角から死角へ移動しているのだ。
基本的に正面の一方向にしか撃てない魔砲では、当てられる望みすら薄い。
同様な理由で、ブレイジングスターで突っ切るという案も棄却。
となると。

(いつもと逆だってんなら…敢えてそいつに従ってやる!)

高速で飛び回る自分を止めるために、パチュリーが何をしたか。
それを思い出せば、この状況を打開する道はすぐに見出せた。

「ばら撒きはおまえの専売特許じゃないぜ!」

牽制にミサイルを数発放つ。
もちろん当たらないが、パチュリーが回避している間の時間を稼ぐことはできた。
その隙に、魔理沙は一枚のスペルカードを素早く取り出す。



―魔符「スターダストレヴァリエ」―



魔理沙の身体を中心に無数の星型の弾が広がる。
たちまち周囲を埋め尽くした星弾をかわすために、パチュリーは一旦動きを止めることを余儀なくされる。

「ようやく止まったか!」

魔理沙は笑みを浮かべると、八卦炉に魔力を込め始めた。
しかしパチュリーもまた、その顔に小さな笑みをたたえていた。

「…ねえ、魔理沙」

四方から襲い来る星弾を紙一重の距離でかわしながら、パチュリーが話しかける。

「何だ?」
「あなたがばら撒いてる『それ』は…何?」

魔理沙は最初、パチュリーが何を尋ねているのか理解できなかった。
そもそもパチュリーはこのスペルを何度も目にしているはずだ。
ばら撒いているものが何かって?
そんなのは決まっている。

「何を今更…こいつらは…」

そこまで言って、なぜか魔理沙は言葉に詰まった。
見慣れているはずの弾の形。
しかし、それが何なのか…答えが出てこない。
そして同時に脳裏にこみ上げてくる、パチュリーの質問に対する強烈な既視感(デジャヴ)。

『ねえ、魔理沙』
『これは、何?』

そうだ、あれは確か昼間、アリスが…。
五つの突起を放射状に伸ばした、無数の弾の間を、パチュリーがくぐり抜ける。
そして再び、その問いを口にする。

「魔理沙。あなたが撒いてる、たくさんの、『それ』は、何?」
「やめろ」

魔理沙の脳裏にある一つの単語が浮かぶ。
しかしその単語を口にしてはいけない。いや、脳で認識すらしてはいけない…!
何故かはわからない。
だが、魔理沙の精神はその単語の認識を全力で回避するよう警告を鳴らす。

「もしかして…」
「やめろ」
「この形。そうだわ、確か…」
「やめろぉぉぉっ!」

魔理沙は絶叫と共に、闇雲にミサイルを放つ。
ミサイルは明後日の方向に飛び、再び一瞬の静寂。
だめだ。
その言葉を思い出すな!
理由はわからないが、とにかくまずい!
そしてパチュリーはおそらくその言葉を言おうとしている!

「きゃああああああああっ!」

魔理沙は悲鳴を上げながら耳を塞ごうとした。
だがその手が耳に届くよりも早く、パチュリーの口は、その言葉を紡ぎ出す。


「ひ と で」


その言葉が耳に入った途端、魔理沙は軽い眩暈を覚えた。
昼間、アリスとした会話が脳裏に甦る。

『じゃ、この星わたしの!』 
『ふっ、それ、ヒトデだって…』

そうだ。星はヒトデ。ヒトデは星。アリスに教えられた。
教えられた…?
何を大袈裟な。
要はアリスがヒトデの形をしたクッキーを作ったってだけだ。
わたしには関係ない。
何を恐れていたんだ。
パチュリーだって、わたしのばら撒いている星が、何なのかって尋ねただけで…。

「ははは、似てるけど違うぜ、パチュリー。こいつは…」

そう言いかけたところで、魔理沙は奇妙な違和感を覚えた。
何だ。
さっきまでと何かが違うような…?

「こいつは、何?」
「だからこの弾は星だって…見ればわかる、見れば、見」

見た。
自分が今もばら撒き続けている、弾を。
中心から放射状に、五つの突起を伸ばした幾何学的な図形。
ほら、いつも通りの…

「えっ!?」

その表面は、ざらざらした硬い表皮に覆われ、
裏返せば、無数の短い触手が口腔を中心にして並び、

「なっ…何だよこれ!」
「あら?どうかした?」

色とりどりの星、星、星…の形をした、棘皮を持つ生物。
それらの一つ一つが、五つの触手を蠢かせ、深海を這い回るように空を埋め尽くしている…!

「嘘だ!なんでわたしの弾がこんな…お前、何かしたな!」
「何もしてないわ」

パチュリーは先ほどと同様、星弾をかわしながら答える。

「そもそも『何も起こってない』じゃない。あなたが取り乱す理由がわからないわ」
「理由って…お前、自分の周りに何があるか、わかってないのか!?」

もはや弾を撃つことも忘れ、魔理沙は大声を上げる。
その声に、涼しい顔でパチュリーは答えた。

「何って…だから、あなたがばら撒いた、ひ と で でしょ?」
「そうだ!さっきまではただの星形の弾だったのに…」
「何を言ってるの」

パチュリーは不思議そうな顔をした。

「あなた、いつもこうやって、ひ と で をばら撒いてたじゃないの。それを今更――」
「い、いつも!?」
「ええ。紅い霧の事件で初めて出会ったときから、ずっと」

変な魔理沙、と言いながらくすくすと笑う。
そんな馬鹿な!?
わたしは今までもずっと、この気味の悪い生物を空にばら撒いてきたと言うのか!?
目の錯覚ではないかと、もう一度星弾をよく見てみる。
星形の海生生物は、見られていることに気づいているかのように、身を縮めた。
紛れもない、「生きているもの」の動き。

「そんな…じゃあ…」

気づいていなかったのか。
アリスのクッキーをそうだと思い込んでいた様に、自分の弾をヒトデではなく、星だと勘違いしていた…?
そんな馬鹿な、と理性が抗議の声を上げる。
だが、目の前の光景、現実がその抗議を決して許さない。
ヒトデは、いる。
魔理沙は震える手で、もう一度、スペルカードを掲げる。

「スターダストレヴァリエーッ!!」

嘘であって欲しかった。
このヒトデの山は、パチュリーが何か変な魔法で自分の弾に細工をしたのだと、思いたかった。
再び魔理沙を中心に無数の弾が広がり、夜空を埋め尽くす。

「あら、増えたわね、ひ と で」

同じだった。
新たに生みだされたヒトデ達は、ぶつかりあい、重なり合いながら、五本の触手を蠢かせる。

「う…嘘、だ…」

これまで自分が夜空に描いてきた宇宙は、全てこの気持ち悪い海生生物の群れだったと言うのか。
折れかけた心に追い討ちをかけるように、魔理沙の視界を、空飛ぶヒトデが横切る。
その瞬間、魔理沙は、声を聞いた。
空耳ではない。確かに、聞いた…ヒトデの声を。
それはたった今大きな勘違いに気づいた魔理沙を嘲笑うかのような声色で、こう告げた。

『実はヒトデです』

その一言が魔理沙の心を打ちのめした。

「は…はは…」

乾いた笑い声がこぼれた。
だって笑うしかないじゃないか。
何が恋色魔法使いだ。
自分はこんな薄気味悪いモノを他人にぶつけて喜んでいたのか…はは、あの蛍の妖怪といい勝負じゃないか。

『実はヒトデです』

その声は、今や、周囲を埋め尽くす数百匹のヒトデから発せられていた。
そう、全て、実はヒトデだったのだ。

『実はヒトデです』

おい、わたしはその辺には何もばら撒いてないぞ。
新たに声をした方に目を向けた。
目に入るのは、遥か幾千光年彼方の、本物の夜空の星――いや。
そうか。
お前らもそうだったんだな。

「あはは…なんだ、そいつはつまり…」

わたしのだけじゃない。全ての星はみんな、ヒトデなんじゃないか。

『実はヒトデです』

最後に声が聞こえてきたのは、随分近くからだった。
それは魔理沙の腹の中から聞こえてくる声だった。

「おいおい」

その声の意味するところはつまり。

「冗談きついぜ、アリス…は、はは、は…」

今や魔理沙のいる場所――世界は、ヒトデに埋め尽くされていた。
夜空で、地上で、そして魔理沙の体内でひしめき合う無数のヒトデ。
触手を絡ませあう者、卵を産むもの、千切れた身体の断面から、新たな触手が生えてくるもの…。

「は、はは、ははははは…あ、あ、あああああああああああああッ!!」

嫌だ。
こんな気持ち悪い世界は嫌だ。
消えろ。視界を埋め尽くすヒトデども。消えてしまえ。

「消えろっ!消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろーッ!!」

もはやパチュリーのことなど、魔理沙の頭にはない。
とにかく今は、視界を埋め尽くす気持ち悪い奴らを消し去ってしまいたい。
そうだ魔砲だ魔砲で一匹残らず消し飛ばしてやる覚悟しろ下等生物どもめ消えろ消えろ消えろ…!


魔理沙は八卦炉にありったけの魔力を込める。
八卦炉の中にも数匹のヒトデが入り込んでいる。


構うものか。ゼロ距離で焼き尽くしてやる。
ほうら食らえ、灰になれ、灰になれ、灰になれ、

「灰になれッ!!ファイナルスパアアァァァクッ!!あああああああああああああッ!!!」

八卦炉から、巨大な光の帯が迸る。
魔理沙は巨大な剣を振り回すかのように、光の帯で周囲を薙ぎ払った。
光に飲み込まれたヒトデ達は、次々とその身体を黒焦げにし、地面に落ちていった。
千切れた触手の破片が、いくつも地上に転がっている。

「うううううううううううううううううう」

魔理沙は血走った目で地上へ急降下、着地する。
それから狂ったように、地面に散らばったヒトデの骸を、箒で掃き始めた。

「気持ち悪い!わたしの前から消えろ!一匹残らずだ!一匹残らず!」

ひとしきり黒い残骸を撒き散らした後で、魔理沙は空を見上げる。
ここまではお前の魔砲も届くまい、と笑う宇宙のヒトデども。

「いつかお前らも殺す…絶対に殺す、殺して殺して殺しまくってやる!わたしを騙した、そうだ騙してたんだ!」

信じてたのに!綺麗なキラキラお星様だって!
嘘吐き、嘘吐きは舌を引っこ抜いて殺すんだ!と魔理沙は絶叫する。
その叫び声の残響も消え、静寂が戻る。

「魔理沙」

いつの間に地面に降り立っていたのか、暗がりからパチュリーが現れた。
すっかり忘れていた。
そうだ、わたしはパチュリーと弾幕ごっこをしていたんじゃないか。

「…取り乱して、悪かったな」
「別にいいわ」
「続き、やるか…?」

忌々しいヒトデの群れは一掃したが、それだけに疲労感も大きかった。
そして腹の辺りに残る不快感。
ああそうだ、わたしはヒトデを食べたんだっけな。アリスめ。

「いいわ。なんか魔理沙、調子悪いみたいだし」
「はは、本は…いいのか…」
「返してくれるの?なら、今すぐにでも…ところで、魔理沙」
「あー?」

パチュリーは魔理沙の身体のある部分を指差した。

「わたしの手…どうかしたか?」







「それ…何?」







「え?」

何言ってるんだ、手は手だろ…そう言おうとして、魔理沙は言葉を飲み込んだ。
動いている。
自分の意思に関係なく、両手の指が…五本の指が。
手のひらを中心に、五つの方向に突き出された指が蠢くさまは、まるで、

「いっ…」

人の手。人手。…ヒトデ。

「嫌…やだ、もう、やだよ、やだ…」

目から涙が溢れてくる。
なのに、視界は滲むことなく、より鮮明にその像を網膜に結ぶ。

「や、やめ、やめ、て」

手のひらの中心に亀裂が入り、五方向に分かれる。
指先へ向かって伸びる亀裂に沿って、短い、半透明な触手がびっしりと生え、並んだ。
亀裂の中心――口が開き、その言葉を口にする。

『実はヒトデです』

その言葉が耳に届く前に、魔理沙の理性は崩壊した。
いや、既にある程度崩壊していたかもしれない。
しかしこの瞬間、もはや粉々、物にたとえば原子レベルにまで、その崩壊は進んだ。

「嫌ああああああああああああああああああああッッ!」

絹を裂くような悲鳴を上げ、魔理沙は闇雲に走り出した。
まるで何かを必死出で振り払うかのように、両手を思いっきり振り回しながら。
深い深い、魔法の森の奥へ。
あのおぞましい、ざらついた触手が、決して届かない場所を探して。















☆☆☆☆☆☆













「…正直やりすぎじゃない?」

一部始終を見ていたアリスが、暗がりから姿を現した。

「まさかここまで強く暗示がかかってるとは思わなかったわ」

パチュリーは呆然とした顔で、魔理沙が走り去った方向を見つめていた。
確か霧雨邸がある方向と一致していたか。

「うまく家にたどり着いているといいけど。それにしても凄い威力ね、その…」

アリスの手元にある「それ」に、パチュリーは目を向けた。

「幻覚キノコ」
「これだけじゃないけどね。他に色々、催眠効果のあるキノコとか、薬も色々…」
「で、調合した薬をクッキーに練りこんだ、と」

魔法の森の住人であるアリスは、毒キノコやそれから作る薬品などに詳しい。
今回の作戦は、薬の作用によって魔理沙を催眠状態に陥らせ、ある暗示をかけるというものだった。
その暗示とは、「星形の物は全てヒトデ」というもの。

「暗示をかけるのも難しいのよ。今回はうまくいきすぎたくらい」
「そうね。あんなに意識がはっきりした催眠状態ってのも、初めて見たわ」

意識がはっきりした催眠状態、という言葉にそもそも矛盾めいた響きを感じるが。
簡単な催眠術なら、魔法使いである二人には造作もないこと。
だが今回は、相手も同じ魔法使いであること、そしてより強い催眠効果を得るために、薬を用いた。

「魔理沙があのクッキーに興味を示さなかったら、どうなってたか…」

とにかく、魔理沙は昼間のアリスとの会話の中で、暗示にかかった。
そしてついさっき、二人は暗示の効果を目の当たりにしたのである。

「今の魔理沙は、星形、あるいはそれに近いものは全て、ヒトデとして認識するわ」
「そのようね。自分の手までヒトデに見えてるみたいだったものね」
「…それはあなたが変なこと言ったからでしょ」

アリスは少し非難するような目でパチュリーを見た。
目的は魔理沙から本やマジックアイテムを取り返すことであって、魔理沙の心を壊すことじゃない。
早く暗示を解かなければ、魔理沙は自分の両手首を切り落としかねない。

「もう充分よ。本を返してもらったら、暗示を解いてあげましょ」
「あらあら、魔理沙には随分と甘いのね、アリスは?」
「どっ…どういう意味よ、それは!」
「言葉通りよ」

二人は魔理沙が消えた方向に向かって歩き始めた。





魔理沙は部屋の隅でうずくまり、震えていた。
アリス達が部屋の扉を開けた瞬間、魔理沙は身体を一層大きく震わせ、叫んだ。

「だっ…誰だっ!」
「ピザ屋です。ボルチーニ茸たっぷりの熱々ヒトデピザをお持ちしました」
「ひいいいいいいいいいっ!」

魔理沙は頭を抱え、さらに身体を縮める。

「もうやめなさいよパチュリー。ほら魔理沙、ヒトデなんていないから。話を聞いて」

いつもの勝ち気で小憎らしい恋色魔法使いの姿はそこにはない。
マジックアイテム強奪の恨みはどこへやら、アリスはなんだか魔理沙が哀れになった。

「ほ…ホントか!?ホントにヒトデ、いない?」
「いないいない」
「ほーら魔理沙、わたしの手を見て?」
「パチュリー!」

ここぞとばかりに魔理沙を苛めまくるパチュリーにツッコミを入れながら、アリスは事情を説明した。
しかし、催眠術や暗示の種明かしをされても、魔理沙の恐怖は消えない。
当然である。魔理沙の目に映る世界がヒトデにまみれていることには変わりないのだから。

「わかったでしょ?これはあなたに対するお仕置きなの」
「う、うん…」
「…催眠術、解いて欲しい?」

その言葉に、魔理沙は何度も首を縦に振る。
その度に涙の雫が宙を舞い、月明かりに照らされて光った。

「なら、わたしとパチュリーから無理矢理取った本やら何やらを今すぐに返しなさい!」

それで許してあげるから、と付け加えた。

「わかった、今すぐ取ってくるから、ちょっと、待って…」

そう言って立ち上がった魔理沙の腕を、パチュリーが掴んだ。

「え!?な…何!?」
「魔理沙」

そのままパチュリーは魔理沙の背後に回りこみ、羽交い絞めにする。

「ここまでは、本を奪われたことに対するお仕置き」
「え?え?」

パチュリーの腕力は決して強くはないが、憔悴しきった今の魔理沙にはその腕を振りほどくだけの力がない。

「ここからは、その度に図書館をメチャクチャに壊したことに対するお仕置きよ…」

パチュリーは魔理沙を羽交い絞めにしている右手を、その襟元に滑り込ませる。
今の魔理沙には、大きなヒトデが身体をくねらせながら襟元に潜り込もうとする光景が見えているに違いない。

「ひっ…や、やめ…」
「ちょ、ちょっとパチュリー!もう許してあげようっていったじゃない!」

アリスは慌ててパチュリーの右手を掴む。
奪われた本は返ってくるし、これに懲りて魔理沙もしばらくは本を勝手に持ち出したりしないだろう。
目的は十分に達せられたはずだった。

「んー…なんかこう『直接手を下す』感が足りないのよねぇ…」

言いながら、パチュリーは魔理沙の耳たぶに舌を這わせる。

「ひゃうっ!な、何!?」

身体をビクッと震わせ、涙目で振り向く魔理沙。

「パチュリー、これ以上やったらただのいじめだって…」
「ふふっ、いじめ、ね…。ねえ、アリス」

パチュリーは魔理沙の肩に顎を乗せながら、アリスに声をかける。
魔理沙の頬に顔を寄せながら、言った。

「あなたもこの子を『いじめ』たくはない…?」
「えっ…?」









☆☆☆☆☆☆








東の空に日が昇り、一日が始まる。
アリスとパチュリーは、巨大な風呂敷包みを持って、霧雨邸の前に立っていた。

「こんなにたくさん取られてたのね…」
「一度、本棚ごと持って行った時もあったし。もしかしたらまだあるかも」

風呂敷包みの中身が何かは、言うまでもない。
そしてその中身を盗んだ世紀の大泥棒は今、自室のベッドで寝息を立てている。

「本当に、暗示が解けてるのかしら…?」
「大丈夫よ。ついでに昨日の記憶も消しておいたから」
「…随分と便利な魔法を覚えてるのね」
「伊達に何十年も図書館に引き篭もってないわ。それにしても…」

紫の大風呂敷の包みを背負ったまま、パチュリーはアリスの方へ向き直る。

「アリスって、意外と容赦ないのね」
「なっ…」

アリスの顔が一瞬にして赤く染まる。

「あ、あなたに言われたくないわよ!そもそも昨夜はパチュリーが…」
「そうかしら?途中からは『それにしてもこの七色、ノリノリである』って感じだったけど?」
「そそそそんなことない!断じて!」
「ふーん、そう。じゃあ…」

そこで一旦言葉を切り、パチュリーはアリスの耳元に口を寄せた。


「今度は、二人で試してみる?」


早朝の魔法の森に、怒号とも悲鳴ともつかないアリスの叫びがこだました。














☆☆☆☆☆☆












余談だが、この日を境に霧雨魔理沙はある生物に対し異様な執着心を示すようになる。
昼夜を問わずその生物の研究に没頭し、周囲の者に対してもその生物の素晴らしさを説くようになった。
木彫りのヒトデをいくつも作っては、道行く人に配っていたという話もある。
風の噂によれば、ある晩に見た不思議な夢が、彼女の変化に深く関わっているという。
その夢の内容は、
『四匹のヒトデが体の上を這い回り、やがて体内に入ってきた』
というもの。
魔理沙はその後も研究を続け、三途の川で見かけたヒトデに関する論文で博士号を取った。





STAGE2 星曝し編 完





幻想郷のどこかにあるといわれるマヨヒガ。
そのマヨヒガのある場所で、木に登って遠くを見つめる少女が一人。

「…!?」

何かに気づいたのか、身体を一度大きく震わせ、木の上から飛び降りる。

「何だろう…ゾワゾワだ…ゾワゾワがやって来る…!」

そう言うと、少女は二又に分かれた尻尾を揺らしながら、家の中へと駆け込んでいった。
空はどんよりと曇り、これから訪れる「何か」に対する警告を伝えていた。


TRY NEXT STAGE→




    //: : : /: : : :/,: : : : : : : : ,: : : /: : : : : : : : : : ::``ー-,‐
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 ∠-/: : : :/ : : : / /:/: :、-‐= ̄__ ノ: :|: : : | : : : : : : : : ヽ
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  l| |: |: :{ |/冫==|: : /___|/-/ノ≠ニ弌: :`: : : :|_: : : : l`ーヽ
    ヽ{| ||: : |{ 仁ヽ|: /  ̄`__..-=≠ヽ.  |: : : : : / |: : : /    後書きに何書くかで3時間悩むなんて間違ってる
     `ヽ\ ',└┴lヾ    ´_{‐-'::::} ミ |: : : :ノ } l: : /     そんなに書くことがなきゃ、いっそ何も書かないで
        `、|  /       ̄`¨ ̄ /: :/ /:/      早くラーメンを食いに行けばいいのに
         `、ヽ.         /-‐'´∠´: : /
          ヽ `_          ノ / /レ
           \ `二‐ 、    , '   '/ノ}
            \    _ -    ィ戈 彳
   ___ -‐== ̄r≧≦二_-─=彡冖 : : ト、
  / :/: : : : : : : : : : |: : : : : : :| | ̄∧: : : : : : :l: : ヽ
. /: : /: : : : : : : : : : : : :V: : : : : :| |.,-ヘ/‐、: : : /: : : :`丶
/: : /: : : : : : : : : : : : :/ V : : : : | /⌒)乢⌒:/: : : : : : : : : \



( ・3・)皆さんお久しぶりダヨォ
( ゚д゚)作家としては実に5ヶ月ぶりに創想話に帰ってきたぜ
( `ワ´)とりあえずここまで読んでくれて感謝ですのよ
( ´ω`)なんか新シリーズの一作めばっかり書いてないかな、かな?
( ・ー・)どのシリーズも続きはちゃんと執筆中なのですよ
( ^ω^)あぅあぅ、「創想話の夢枕獏」とか言われないように頑張るです
( ´∀`)むぅ。それはそれで名誉なことだと思うよ
( ・з・)とにかくできるだけ早く次の作品を書こうと思うので、待っててくださいね。きゅんきゅん☆

     ,r---、
    ノヽ_興ンi  
    >=~=~=<  
    (_i,'ノリノレノ!〉)   その前にまず後書きでふざけるのをやめないと死刑ですよ。
   <,〈iリ ゚ ヮ゚ノリ、>  
     j7:':;:'_]つXE無旺〉
    ,ィ(ン:=:ixi:=:ゝ
    `~ト.7~ト7´

うるさい!俺は生きなきゃならないんだ!それが俺のルール(AA略
相変わらずこんなんですいません。
後書きも含めて楽しんでいただけたら幸いです。
ぐい井戸・御簾田
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コメント



0.5070簡易評価
1.60名前が無い程度の能力削除
メダロットなつかし~
6.70蝦蟇口咬平削除
タイトルでちょ、これってと思ったらいろんなネタ入ってて吹きました
7.80SETH削除
タイトルの「返却」で爆笑したわけですがw

欲を言えば結託するときには「結ぶぞ!その契約!」ってセリフがwww
8.80らくがん屋削除
創想話の夢枕獏吹いた。
毎度々々よくこれだけのネタを揃えると脱帽するばかりです。
9.80名前が無い程度の能力削除
読んでいて吹きました。
凄く勉強になった気がします。
10.90名前が無い程度の能力削除
…なんか前より上手くなったような気がする、味付けとか色々と
11.90秦 稜乃削除
久しぶりに帰ってきてくれたと思えばこのネタの数々。
本当に素晴らしいものがあると思います。

>ちょwwwwwww全然クールじゃねえしwwwwwwww
アリスwwwwwwwwおまwwwwww
12.90猫の転がる頃に削除
内容でも十分吹かせて貰ったのに、後書きでも見事に噴き出した。
笑いをこらえてたトコロでAAなんて反則だぜ……ゴッドファーザー。

魔女の復讐は怖いなぁ……。
16.80名前が無い程度の能力削除
途中で自分の手を確認してしまった……。
ネタ満載ながらちょっとしたホラーとしても完成するとは恐るべし。
17.80名前が無い程度の能力削除
ネタわからないのがたくさんありましたが吹きました。
パチェの追いこみ、秀逸でした。
22.100ドク削除
ヒトデダストレヴァリエ死ぬほど笑ったwwwwwww
つーかパチュKOOLになっちゃ駄目wwwww
25.100名前が無い程度の能力削除
笑えるわ怖いわで久々にキタwwwwwwwww

体内とは口の事ですよね^^
28.90じょにーず削除
>意外!それは髪の毛ッ!!

「たくましいなw」ときいてあるいてきたよ! つづきがはやくよみたーい!
29.80名前が無い程度の能力削除
メダロット懐かしいなw

そして『実はヒトデです』がおぞましくもかわいい。
31.90カンナ削除
>ぐげげげげげげげげげげ!!
これの不意打ちにやられたwww
多彩なネタもGJでしたwww
35.80名前が無い程度の能力削除
笑ってしまったことに敗北感。
37.90名前が無い程度の能力削除
タイトルですでに撃沈、脳内でOPすら流れました。
○音っぽいKOOLなパチュリーが特にツボに入りました。
続きを心待ちにさせていただきます。
40.90削除
アルェー?筆者様がどこにしばらく出入りしていたかまで判ってしまう…?w
44.60翔菜削除
あー、おっかしぃなぁー。

……。
…………。


STAGE1で突っ込みたい事があったはずなのに全部ヒトデに持って行かれたwwwww
48.100名前が無い程度の能力削除
うたらじCMネタwwww
51.90名前が無い程度の能力削除
テラワロスwwwww
パッチェさんマジ外道。超KOOL。
54.90ななーし削除
タイトルで吹き音泉で吹きヒトデで吹き何かよくわからないまままた吹いた

奪還だー布団の中でー
56.80名前が無い程度の能力削除
魔理沙は少しやりすぎな気もするけど面白かった。
57.90名前が無い程度の能力削除
もう突っ込み所が多すぎてどうしようもないwww
59.90名前が無い程度の能力削除
CMの時点で吹いてしまった俺はきっと負け犬
64.100名前が無い程度の能力削除
これは続きに期待!!
いつまでも待っていますので、頑張ってください!
65.80悠祈文夢削除
ネタの弾幕アメアラレ
66.80名前が無い程度の能力削除
『実はヒトデです』の才能に嫉妬w
67.80大根大蛇削除
全力でフイタww
シリアスだとかラブコメだとかバトルだとかホラーだとか
そうした要素をカオスに混ぜ合って笑いを引き立たせているというか……引き出しの広さが凄いッス。
ってか文の愛機、何その円谷最狂最悪なネーミングww
68.90数を操る程度の能力削除
 なんでしょう・・・お仕置きにしてはやり過ぎかなぁとは思いつつも、
ゾワゾワした読感に最後まで読むのを止められませんでした。
 「怖さ」ってのをこれほど感じたSSも久しぶりでした。
70.80名前が無い程度の能力削除
とても面白かったけど作者とつっこみが気持ち悪いのでこの点数
73.100名前が無い程度の能力削除
クソワロタwwwwwwwwwww
74.80名前が無い程度の能力削除
ちょwCMwwwwwwwwwwwww
78.90名前が無い程度の能力削除
嗚呼…ついにヒトデネタが…w
誰かがやるとは思ってたけど…こんなホラーになるとはw
81.無評価ルドルフとトラ猫削除
最後にゾワゾワしてるんじゃねーwww
85.80名前が無い程度の能力削除
冒頭と「ぐげげげ」で爆笑したりと全般的に楽しく読めました!
パチュリーの容赦ないドSっぷりにゾワゾワ。
何気にいい雰囲気なパチュアリコンビも気になりつつ続きに期待してます!!
87.無評価A削除
内部派自重しろwww
CMもすごい内容にwww
次回も楽しみです。
88.100名前が無い程度の能力削除
これはクソワロタwwwwwwwww
89.100時空や空間を翔る程度の能力削除
ヒトデ・・・・・・

魔理沙・・・・・お気の毒に・・・・む??

あぁ~~自業自得か・・・・・・
ご利用は計画的にね。
90.80真十郎削除
ギャグもパロディもホラーもごちゃ混ぜ!
パチュ×アリも有るよ!
カオスだがそれもいい。
91.90ししょ削除
鯛取るの元ネタ知らないのに吹いたw

もちろん続きますよね?
92.50二見削除
ヒトデに頼るなんて間違ってる。
そんなに返して欲しけりゃ魔理沙をネチョって
内部から変えていけばいいのに。

笑わせていただきましたw
95.100名前が無い程度の能力削除
おぅ!! 笑い・怖い・エロいの三拍子!!!
96.70名前が無い程度の能力削除
食後に読むモノじゃない…特に後半…
まぁ色々とカオスですが楽しく読ませてもらいましたwwww
ただ偉そうに言わせて頂くなら(既出ですが)本文中の自己突っ込みは不要かな、と。

続編にも期待してますwwww
97.90名前が無い程度の能力削除
STAGE2を魔理沙に感情移入しながら読んでたら
ヒトデで精神崩壊しかけた。
ヒトデ怖い。((((;゜Д゜)))ガクガクブルブル
105.90名前が無い程度の能力削除
あとがき自重しろwwww
108.70名前が無い程度の能力削除
ネタ濃いですなぁ・・・。
突っ込みどころが満載でした。

師匠!!
109.100名前が無い程度の能力削除
パチュリーコエーwwwwww
笑ったwwこれはwww 次の話も楽しみに読ませていただきますw
112.100名前が無い程度の能力削除
場面転換で使われてる☆の区切りでも笑えてきましたwww
しかし、なんでここまで魔理沙をかわいく書けるかな!!
きっとあれですね、最後のほうは瞳のハイライトがなくなってきて、ちょっとまずいな、記憶消しときましょか みたいな感じでしょうか!
それとも意外とアリスあたりがあやしながら撫でるものだからm(
134.90OIP削除
実はヒトデですw
136.100名前が無い程度の能力削除
ヒトデ駄目だwwwwww死ぬwwwwww
137.100名前が無い程度の能力削除
キラッ☆
138.80名前が無い程度の能力削除
☆←ひとでにしかみえなくなった
148.100名前が無い程度の能力削除
おもすれー(^ω^)
149.90名前が無い程度の能力削除
散りばめられたパロネタにずっと笑いを我慢してたが、
「ヒトデの論文で博士号をとった」のくだりでもう耐えられなかった。面白かったです。