Coolier - 新生・東方創想話

包容力を希求

2007/03/22 06:31:48
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 いつものようにやることもなく、霊夢はだらだらと神社の境内を掃除していた。
 掃除、とはいうが、実際は惰性でほうきを動かしながら、青空でもぼうっと眺めているようなもので、その手がせわしなく動くことは一度たりとてない。早朝、まだ小鳥のさえずりが聞こえる時間帯。そこで霊夢は何をするでもなく、ぶらぶらと、誰もいない神社の境内を歩き回っていた。

 中庭を散歩するようなものだ。勝手知ったるそこを歩くこと自体、ちょっとした日常の一部であろうか。屋内ではない場所、そこでただ歩いて、空気を吸う。それだけなのに胸が落ち着くのは、霊夢がことさらに情趣というものを感じていたからなのかもしれない。
 ゆったりと、境内を歩く。空は見事なまでのスカイブルーで、降り注ぐ陽光が、彼女のまとった紅白の衣服を、優しくゆっくりと温める。
 黒髪を流し、紅白の衣服の裾を流し、白い肌をそこここの木々に見せ、彼女はそこにいた。愛らしくも整ったそのおもてには、どことなく歓喜の念が見てとれる。無論、それは自然を謳歌しているがゆえの、喜びだ。

 目を細めて、空を見上げる。雲ひとつないそこは、どこまでもどこまでも澄んでいて。まるで、幼子の心のよう。何ひとつ黒々としたものの介入がない、幼き乳飲み子の心のよう。どこか透徹している雰囲気すら感じられた。

 はて、とそこで霊夢の足は止まる。自らが考え浮かべた、幼子、という言葉に反応する。

 ぴたりと足を止め、小首をかしげ、整ったかんばせを疑問の色に染め上げる。




 幼子。そういえば、自分の子供の頃はどうだったのだろうか? 霊夢はやにわに思考の海へと没頭する。
 母の記憶は、明確にはない。過去の思い出が極端に少ないからなのか、それとも、霊夢の親友である魔法使いたちと親しくなった時間があまりに濃いからなのか。恐らくは、その両方であろう。

 幼き頃に見た母の面影は、霊夢の心の奥に少しだけではあるが残っている。柔らかな乳房をこちらに出して、優しい手であやしてくれた、程度のものではあるが。とりとめのない不安を埋めるように、優しく温かな母の心と密着していたいかのように、赤子の霊夢は、彼女の乳をちゅうちゅうと一心不乱にすすっていた。

 そういった記憶はあるも、過去に母と交わした会話は驚くほどに少ない。母が没した時は泣いたものだが、それでも時間の経過と共に、そのかけがえのない記憶は色あせていった。思い出はもう、セピアではなく灰の色。

 明確なビジョンが出現しないのだ。過去の母の姿を思い起こそうとすれば、そこはすでにモノクロの世界である。過去を懐かしむのは老いたる証左なのかもしれないが、それでも思い出したい何かがあるのかもしれない。

 または、そういった思いに飢えているだけなのか。最近、宴会がなくて仲間たちと接していないから、誰かを求めている。もしかすると自分は寂しがりやなのかもしれない、そう考えて霊夢が苦笑した時だった。

「はぁい、霊夢。久しぶり」

 紫である。いつもと変わらず、虚空からひょっこりとスキマに乗って現れる。金の髪を揺らして、フリルをそこここにつけた衣服を身にまとい、胡散臭い笑みをたたえている。顔立ちはとかく妖艶であるが、やはり胡散臭い。

 それでも包容力が感じられるのは、人徳なのだろうか。虚をつかれてたじろぐ暇もあらばこそ、霊夢は虚空より出でた金髪の妖怪に向かって、言葉を返した。

「いきなり何の用? また変なこと考えているんじゃないでしょうね?」
「あら、酷いわ。私は霊夢とお酒を飲みに来ただけだというのに」
「朝っぱらから酒・・・・・・? 正気を疑うわ」
「まあまあ、そんなかたいこと言わずに、ね?」

 少女のように小首をかしげて言う紫に対し、霊夢は溜息ひとつで返してやる。ここで断ったとしても、この妖怪はしつっこく付きまとってくるに違いない。ならばとっとと流されてしまった方が懸命と言うべきか。

 溜息を吐きながら、霊夢は指先だけで縁側へ行くよう指示する。紫はそれにならった。いきなり姿を消したかと思えば、新たな場所からひょっこりと。それは奇しくも、土の中から出てくるモグラのようで。霊夢は知らず、唇を持ち上げていた。
 ほうきを片手に、霊夢は縁側まで歩いていき、そこに座る。まだ太陽がのぼりきっていないせいであろうか、くうきはやや肌寒い。だが、太陽はぎらぎらと光っており、地面を温めてくれている。

 縁側に腰掛ければ、そこに見えるのは枯れ枝。もう葉を落とし、やせぎすの枝ばかりを見せ付ける木々が、そこここに林立しているのが見てとれる。

 そんな景色を一瞥し、横に視線を向けてみれば、そこにいるのは金髪の妖怪。その横にはいくつもの一升瓶があり、あつらえたようにコップがふたつ。

 紫は霊夢の顔を見、にんまりと笑うと、一升瓶の中に入っていた液体をなみなみと、そのコップの中に注いだ。たちまち透明な液体でいっぱいになる、小さなコップ。

 ちゃぽん、と。注がれた勢いの余波で、酒が跳ねる。わずか一粒の雫が、飛沫となりて、霊夢の頬に当たった。
 それがどこか温かいと感じたのは、まだ昼になっていないからなのか。霊夢自身、寝ぼけてはいない。もしかすると、朝の空気の涼やかさが、酒というものに熱をもたらしたのかもしれない。

 あるいは、紫がとなりにいるからこそ、なのか。胡散臭い、妖艶なるスキマ妖怪。それでもそばにいて安心するのは、長い付き合いだからなのかもしれない。それと、紫のさぱさぱとした態度も、霊夢は嫌いではなかった。たとえ突拍子もない考えに巻き込まれたりしても、最終的にはそれを楽しんでいた気がする。

「では、霊夢の胸が成長することを期待して。かんぱぁーい」
「悪かったわね、肉付きの悪い体つきで」

 軽口に溜息で返しながら、霊夢は酒をあおる。ここで付き合ってやらないと、紫はすねて、変な行動に出ようとする。だからそれを阻止するために飲んでいる、と自分を納得させて、霊夢は透明な液体を胃袋へと注ぎ続けた。

「それで、最近はどうなの? 何か変なことでもあった?」
「全然。いたって平穏ね。私としては面白くないのだけれど」
「いちいち面倒ごとを希求するなっつーの。こちらとしては平穏が望ましいんだから」
「相変わらず、波風立たぬことを好むわねぇ。無重力ね、その胸も無重力ね」
「どうしてそういった話にもっていこうとするのか・・・・・・」

 最初は、くだらないことばかりを話しており、酒の進みも悪かった。

 だが、ある一定の基準を超えれば、舌は回るし酒の進みも速くなる。頭もふらついてくるし、強烈な眠気が体を襲うし、のどは渇く。
 酒が回ってくれば、普段は言わないようなことも喋るようになる。それは紫も同じだったようで、愚痴の言い合いから始まり、霊夢は食事の困窮話を、紫は家族の自慢話を、それぞれ思い思いに語った。

 それでも、不思議と心地良かったのは、酒の魔力だけではなかったのだろう。この胡散臭い妖怪が相手だからこそ、楽しいのかもしれない。霊夢は酔った頭でそう考え、酒をあおった。

「あれ・・・・・・?」

 と、とたんに迫るのは強烈な眠気。摂取したアルコールが一定量を超過したのか、霊夢はそのまま倒れそうになる。それを紫が慌てて引きとめた。

「あらら、大丈夫? ほら、気分が悪いのならば横になりなさいな」

 別に、と霊夢が反論する暇もなく、紫は霊夢の頭を強引につかみ、自分のひざへと持っていく。首が折れそうな圧迫感ののちに来るのは、柔らかな感触。後頭部にそれを覚え、霊夢は至近距離で紫の顔を見ることとなる。

 酒のせいだろうか、その整ったおもては赤みがさし、妖艶ぶりに拍車をかけている。それでも浮かべる笑みが、霊夢にとって決していやらしくないのは、彼女の母性があふれ出ている証なのであろうか。

 紫は酒を飲むのを止め、寝転ぶ霊夢の黒髪を、手ぐしですく。二回、三回。押し付けがましいでもなく、ただただ柔らかに、霊夢の髪をその五指で撫でる。

 くすぐったい、と霊夢は感じた。体が、ではなく、心がくすぐったいと。それはどこか、含羞のそれにも似た思い。あるいは、幼子のようにあやされているからこそ、くすぐったい気持ちになるのだろうか。

 母は、こうして霊夢の髪をすいてくれたような気がする。脳内で演じられる映像が、明確にならないのは、酩酊感に身を任せているからなのかもしれない。

「ごめんなさい、ちょっと眠い」
「そう? いいわよ、寝ても。ちゃんと見守ってあげるから」

 その時に紫が浮かべた表情は、胡散臭い妖怪のそれではなく。

 慈愛に満ちた、母の笑みだった。













 霊夢は夢を見た。
 夢、と自分で分かる夢だ。自分の存在はどこかおぼろであるが、それでも『これは夢なのだ』と自覚出来る、稀有なるほどに明確なビジョンの夢。
 霊夢はその夢の世界で、傍観者だった。

傍観者たる彼女の前で演じられるのは、ひとつの世界での話。

 神社には霊夢がいて、皆と仲良くやっている。魔法使いのちょっかいを、苦笑で受け止めて。吸血鬼のちょっかいを、苦笑で受け止めて。皆の馬鹿騒ぎに乗じて、自分も羽目を外す。勿論、その中には紫も混じっていた。

 連綿と続くかと思わせるほどの、どんちゃん騒ぎ。昼も夜も朝も種族も関係がない。妖怪だろうと人間だろうと、皆で寄り添って騒ぎ続ける。
 その光景は、どこか奇異なるものだったのかもしれない。妖怪も人間も一緒になり、少女たちは笑い、何の遠慮もなく、恥も外聞もかき捨てて、思い思いに笑っている。それは、いつまでも続くものではなく、過去にも未来にもないのかもしれない光景。一時の偶然と、少女たちの心が生み出した、うたかたの夢、限られた蜃気楼。

 それはいつまでも続くものではない。騒ぎが下火になるにつれて、ひとり、またひとりと帰っていく。
 ほどなくして、ひとり神社に残るは霊夢。それでも彼女の顔には寂しげな色がひとつとしてない。夢の中の霊夢は、寂寥感をその胸中に刻み付けていない。

 傍観者である霊夢は、そのことに訝った。夢の中に文句を言っても仕方ないのであろうが、それでも思わずにいられなかった。違うだろう、と。博麗 霊夢は、もっと寂しがりやだったのだろう、と。

 そんな傍観者の意図にも構わず、夢の中にいる霊夢は、嬉しそうな顔で本殿へとおもむく。それはもう、本当に嬉しそうで。彼女の足が跳ね上がっているのが、遠目にも分かるほどに。

 彼女が足を踏み入れた先には、ひとつの人影があった。台所で、何かを刻んでいる女性。身長は高く、霊夢と比べると大人と子供ほどの違いがある女性。

 その女性を見て、夢の中の霊夢は言った。



「おつかれさま、お母さん」



 女性は、霊夢に振り向きながら、言った。



「そっちもおつかれさま、霊夢」



 その女性の顔は、紫と似ていた。

 否、紫そのものだった。

 紫と霊夢は、楽しげに談笑していた。お母さん、という呼称を何の羞恥心も覚えずに使いきり、霊夢は満面の笑みのままに紫に話かける。紫もそれを聞いて、あらあら、と微笑しながら、霊夢の気持ちを受け止める。

 それは、親子の会話だった。温かな、温かな、温かな親子の会話。




 そこで傍観者は困惑する。何故、どうして、霊夢は紫を母と呼んでいるのだ、と。それでも夢の中の世界は、傍観者の管轄外。だから見守るしかない。見ることしか、出来ない。





 黒髪の巫女は母に甘え。幼き巫女の慕情を受けて、母たる金髪の妖怪は笑う。

 この上なく美しい、その関係。互いに互いを思い、愛で愛を満たす。ふたりはどこまでも幸福そうであり、事実、幸福であったのだろう。
 だが、転機は唐突に訪れることとなる。

 神社に忍び込むひとりの妖怪。全身が闇色に彩られたそれ。巫女は歯が立たず、地に倒れ伏す。地面には赤い池を作り、死を覚悟する。

 そんな強力な妖怪の前に、巫女を守るように立ちはだかるのはひとりの母。金髪をなびかせ、明確なる憤怒の情にそのかんばせを染め。その妖怪と、熾烈なる激戦を演じる。

 骨肉の破砕される不協和音。飛び散る紅色の液体と、漏れ出るくぐもった悲鳴。どさり、と地に倒れ伏すは、全身を血に染めた妖怪。それは霊夢の母ではなく、霊夢を傷付けた、闇色の妖怪だった。

 大輪の花が散華したのをきっかけに、またも地面に、どさり、と。

 全身を血に染めた、霊夢の母の、無残なる姿がそこにあった。

「おかあ、さん・・・・・・?」

 体を傷だらけにした、幼き巫女は、焦点の合わない目で、虚ろなる言を唇に乗せる。

 母は、答えなかった。応じようとしなかった。ただ荒い息をひゅうひゅうと吐いて、娘たる霊夢に向かって、言う。

「ごめん、ね・・・・・・?」と。

 そこで霊夢の涙腺が決壊したのは、仕方がないのかもしれない。

 闇色の妖怪はすでに事切れており、金髪の妖怪の命も風前の灯火。幼き巫女は、母たる妖怪のみに寄りすがり、泣きついた。

「あはは、ごめんね、霊夢。ちょっと今回、相手が強すぎたわね」
「馬鹿ッ・・・・・・! お母さんは、いつも無理しすぎなのよ!」
「仕方ないわねえ。それが私たるゆえんだものねえ」

 軽口を、うたうようにして、金髪の母。娘は泣く、ただひたすらに。

「まあ、仕方ないわ。死ぬ時は死ぬもの。・・・・・・と言っても、娘は納得しないか」
「するわけ、ないじゃない」
「うん、それは分かるわ。でもね、私は幸せだった。私は母で、貴女は娘。けれども、人間と妖怪だから。そこにどうしようもない疎隔が生ずることは、分かっていた。私が本当の母親じゃなくても、貴女はお母さんと呼んでくれた。それがどうしようもなく、嬉しい」

 まるで末期の言葉をつぶやくような母であったが、娘は理解していた。

 母は、息を引き取るのだと。その言葉は、本当に、末期のそれなのだと。

「お母さんは、紫だよ。それは変わらない」

「それ、母冥利に尽きるわねぇ。私は私のことしか、基本的に考えないんだけれど・・・・・・。それでも霊夢、貴女の成長は、私の生き甲斐でもあったのよ? 泣いて、笑って、怒って。ひとつひとつの感情に翻弄される貴女が、どうしようもなく愛しくて、どうしようもなく素敵で。だから、思ったわ。ああ、この子のためなら、私は私自身の命すらも、いとわないんだなあ、って」

「紫・・・・・・」

「ばぁか。こういう時くらい、気をつかって、お母さんって呼びなさいよ。結構、好きだったのよ? 貴女に母と認められるのは。毎日がとても幸福で、毎日がとても楽しくて。素敵な友達も、出来たわね。素敵な関係もあった。素敵な日常も、貴女は謳歌出来た。まだ、ちょっと巫女としての実力は半端だけれど・・・・・・」

「ごめんなさい・・・・・・」

「ううん、いいのよ。人を惹きつけるだけの力も、素敵なんだと思う。私は、貴女の母になって、貴女の心を満たしてあげたかったけれど。貴女は、人を満たすほどの力が、その胸にあるのね。だから皆、貴女に集まる。私も、救われた。成り上がりの母である私を、母と認め、何の恥もなく慕情を寄せてくれる貴女に」

「だって、私は、紫・・・・・・、ううん、お母さんが、大好きなのよ!」

 叫ぶように、巫女。照れ笑いを浮かべる、妖怪。

「ふふ、嬉しい。幸せよねえ・・・・・・。娘に看取られて、娘に愛されて。空白の百年間より、この一瞬が、何よりも愛しい」
「・・・・・・そう、なんだ」
「ねぇ、霊夢。最後に言ってくれないかしら? お母さん、って」

 口からおびただしい量の血液を流しながら、金髪の妖怪はそう言う。

 巫女が、口を開く前に。




 金髪の妖怪は、息絶えた。





「お母さん・・・・・・?」

 巫女の言葉に、妖怪は答えない、応じない。ただ、その目をつぶって、安らかに、ただ安らかに眠るのみ。

「お母さん、お母さん! 何度でも言うから、目を開けて! 最後の言葉、ちゃんと聞いて! 私、もう、好き嫌いしないから! なんでも言うこと聞くから! 掃除だってちゃんとやる! 修行だって、面倒に思わない! だから、だから、だから・・・・・・!」

 少女は、なきがらに、すがりつく。

「目を、開けてよ、お母さん・・・・・・! 私の言葉を、聞いてよぉ!」

 少女の慟哭は、神社を超えて、どこまでも遠くに、響き渡った。










「霊夢、霊夢・・・・・・?」

 夢から覚めれば、そこは縁側。紫のひざをまくらにして、霊夢は覚醒した。

 後頭部の柔らかな感触が、やはりと言うべきかこそばゆい。それは、夢の世界にあった現象が、彼女の心に動揺を与えているからなのか。

 そうなのだろう、と霊夢は思う。紫に母性を求めていたことは確かだ。それは、霊夢が、母を希求していたせいでもあったのだろう。

 そこまで考えて、霊夢は、ぶるりと身を震わせる。失って初めてその者の大切さが分かるというが、本当にそうなのかもしれない。夢の中にいる霊夢はとても沈痛な面持ちで、紫の死を見取っていたけれども。『今』の霊夢は、紫が死ねば、泣いて泣いて泣きすがったのかもしれない。母であり、友人であり、相棒である紫がいなくなれば、その悲しみはいかばかりか、語るべくもないから。

 酔いは、冷めていた。今の霊夢の胸にあるのは、ただひとつの切なさのみ。

 だから、霊夢は、その身を起こして紫に抱きついた。

「ちょっと、霊夢・・・・・・?」
「・・・・・・いなくならないで」

 抗議の言葉を発しようとした紫を止めたのは、霊夢の言葉だった。

「好きだから、大切だから・・・・・・。どうしようもなく、貴女が愛しいから。母のおぼろげな記憶も、忘れるものは忘れるから。けれど、貴女がいなくなるのは、悲しい・・・・・・!」

 酒に溺れた勢いなのか。霊夢は、涙をあふれさせて、紫にすがった。

 紫は、そんな霊夢を見、瞠目する暇もあらばこそ、霊夢の背を優しく抱く。その仕草は、やはりと言うべきか、母性というものが漂っていた。

「私は、お母さんよ。貴女の本当の母じゃないけれど。私は、貴女のことを娘のように思っている。大切よ。守り通したい存在よ。私も、貴女のことが、好きよ」
「・・・・・・ありがとう、おかあ、さん、・・・・・・」

 そのまま、霊夢は意識を失った。










「ねー、霊夢。秋だから石焼いもしない? いもは持参するわよ?」
「相変わらず、アンタの頭には食い気しかないのか・・・・・・」

 翌日。
 霊夢と紫は、何のてらいもなく会っていた。霊夢に昨日の記憶は、おぼろげながらにしてある。今思えば、顔から火ならぬ業火か出そうなほどに恥ずかしい言葉ではあろうが、それでも霊夢は胸が温かくなるのを感じた。
母の記憶にすがるよりかは。今、ここにいる『母』に慕情を寄せるべきではなかろうか。それが霊夢の下した決断、紫を愛するがゆえの行動。
 友愛も、恋愛も、母性愛も。愛には変わりないのだ。霊夢は紫が好きである、ただそれだけの話。
 いつものように、スキマからその胡散臭い姿を見せる紫を見ながら、霊夢は口を開く。

「そうね、焼きいもも悪くないけれど。ひとつ、条件があるわ」
「へ? 珍しいわね、霊夢がそんなことを言うなんて」
「茶化さないで。で、聞いてくれる?」
「はいはぁい、どうぞ」

 黒髪の巫女は、まだ成長段階。母に甘えたい年頃、愛を受けたい年頃。
 妖怪も、人間も、関係がない。巫女が発したのは、純なる慕情のそれに基づく一言。

「今日だけ、プライベートで、紫を、お母さんって、呼びたい・・・・・・」

 羞恥の色に顔を染めながら言う霊夢を見て、金髪の妖怪は、一瞬瞠目したのちに、ぷっとふきだした。
 季節はもう、初冬も間近。風は冷たく、吹き付けるのだろう。幼子の心を、おびやかすのだろう。
 けれども、幼子には母がいる。包み込んでくれる、温かな存在が。

 霊夢の言葉に、紫は輝くような『胡散臭くない』笑顔で、うなずいてみせた。
 そのふたりの間に生じる親子関係の、圧倒的破壊空間は、まさに腋巫女的砂嵐の小宇宙!

 ・・・・・・はい、すみません。肉虫です。ありがちなサナトリウムに走るまい、と思っていたのにこれ。八百万の神々もブチ切れかもしれません。そこに痺れも憧れもしません、。俺は一生、DIO様になれそうもないです。
 ええと、今回は、親がいかに素敵かということを言いたい作品でして・・・・・・。ごめんなさい、俺はロリコンだけじゃなくて、マザコンとファザコンなんです。家族大好き。
 霊夢の設定の辺りは、勝手にさせてもらいました。不快と思った人がいたのならば、ごめんなさい。
 最後にひとつ。ゆあきんは俺の嫁。
 
肉虫
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コメント



0.1350簡易評価
1.-30名前が無い程度の能力削除
不快
4.-30名前が無い程度の能力削除
不快だな
8.70名前が無い程度の能力削除
紫が霊夢の母親的存在って設定たまに見るけど個人的にこういうの好みだなぁ
9.40名前が無い程度の能力削除
上手く言えないが、嫌いではないことは確か
14.無評価名前が無い程度の能力削除
あとがきの最後が余計です。別にここに書く意味も無いと思いますが。
15.無評価名前が無い程度の能力削除
お話は普通に良かったです。ちょっと美辞麗句が気になったけど、今更取り上げるほどでもない
>俺はロリコンだけじゃなくて、マザコンとファザコンなんです。家族大好き。
いやいや知らないよ。彼方が思っているほど周りは彼方に興味無いと思うけど。それでもこの場で人間孝行だって云いたいなら次からはファミコンですって云うのがいいよ。誰か頭の良い人が云ってた。
あんまげんなりさせないで欲しいです。
17.90名前が無い程度の能力削除
こういうの好き。俺も家族好きだから凄く良く解る。
一つ一つの単語が丁寧に選ばれていて流れるような綺麗な日本語になっている所も好き。
だが後書きの最後には同意できんな!ゆあきんは俺の嫁d(スキマ

>業火か出そうな
誤字というか脱字というか、脱濁点?
18.60名前が無い程度の能力削除
後書きで半分没収しようかとも思ったけど…
普通に話としては良いので勿体ない
21.40名前が無い程度の能力削除
話は良かったけど、あとがきは蛇足(で-40点
貴方は「人の心を逆撫でする程度の能力」の所有者ですか
23.80名前が無い程度の能力削除
こういう話好きだな。甘える霊夢がかわいい!
24.70れふぃ軍曹削除
霊夢の願望と過去。それが微妙な感じで入り交じった夢が、いかにも夢って感じがして良かったです。(……って私は解釈したんですが、違ってたらどうしよう)
最初から最後まで暖かい雰囲気が大好きです。
28.90名前が無い程度の能力削除
このあとがきが何が悪いのか普通にわからないんです…
29.70徹り縋り削除
後書きが叩かれる理由がまったく分からないんだが・・・
お話はふつうに良かったのにコメントで台無し
33.60アティラリ削除
あぁもう暖まるなぁちくしょーい
41.90名前が無い程度の能力削除
うん。良かった。あったまる。
44.90名前が無い程度の能力削除
ゆかれいむはやっぱりいいなぁ

ゆかりん相手だとツンデレたり子どもになったりからかわれる霊夢は可愛いと思う

独自設定も良かった
45.90sati削除
こういった作品いいな・・