Coolier - 新生・東方創想話

『東方秘咲花』第二章《魔女達のお茶会》~ローズマリー

2007/03/19 01:04:31
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――60年に一度だけの春。
『異変』という陽気に中てられ、そこかしこで馬鹿騒ぎが繰り広げられる中。
湖畔に浮かぶように座する紅の洋館は、花が咲き乱れることなど意に介さないような、いつも通りの佇まいであった。
そこに住まう者達にとって、館の主が興味を示さぬものに対する関心は薄い。
というより、主の興味=我が儘に終始付き合わされているので、他に関心を払うことが出来ないと言うべきだろう。
――ただ、やはりどこにでも例外というものは存在して。
主に近しい者達は、やはり自分の好奇心に忠実なのである。





「……相変わらず、埃っぽいのね。」
入ってくるなり、第一声がそれか。自分も同類とはいえ、少しは一言目に挨拶するくらいの心構えというものを持つべきだと思う。
読んでいた本から顔を上げ、来訪者の姿を確認する。
「……また来たのね。珍しい方のネズミ。」
目に優しくない鮮やかな容姿。自称都会派の人形遣い、アリス・マーガトロイド。
「人形がわらわら出てくる所なんて、まさにネズミ算。」
一瞥し、すぐに読書を再開する。
「失礼な物言いもここまでくると逆に気にならないわね。」
相席よろしいかしら、と本当に気にした様子もなく訊いてくるので、好きにどうぞと返してやる。彼女ならば無碍に追い返す理由もないし。
ギシ、といすに座る音が静かな空間に響いた。
「で、今日の用件は何かしら?」
視線は本に移したまま、尋ねる。この体勢もいつものことなので、やはりアリスは意に介することはない。
「えっと、それなんだけど……あんまり急ぎじゃないから、少しお喋りしない?」
「少し、ね。大体いつも話し込んでる気がするけど。まあ、別に構わない。どうせ退屈だし、しばらくは。」
「しばらく、ね。……ふぅん、なるほど。」
「何、その納得してるのは。」
何のことかはこちらも察しているが、あえて訊いておく。まあどうせ、
「別に。何でもないわ。」
予想通りの回答しか返ってこないだろうけど。

……一瞬の沈黙が生まれる。
それを埋めるように、控えめな足音が近づいてきた。
「お茶が入りました。」
悪魔なのに良く気の利く、司書兼小間使いの小悪魔である。
「ん。……適当に置いといて。」
「かしこまりました。どうぞ、アリスさん。」
「ああ、ありがとう。この香りは――ローズマリーね。」
ティーカップをテーブルに置く前に、紅茶の種類を言い当てるのは如何なものか。せめて飲んでから……まあ、どうでもいいか。
微かに香ばしい匂いもするので、クッキーでも焼いたのだろう。この章が読み終わったら頂くとしよう。
「……理想は、貴方なのよねぇ。」
不意に、アリスが呟いた。唐突な上に意味不明であり、
「はい? 何がですか?」
言葉を向けられた子悪魔が、首を傾げているのが容易に想像出来る。
彼女の理想というと……あれか。
「確かに、使役したつもりもないのに、思い通り……でもないけど、それなりに気の利く下僕(しもべ)がいたら、便利ではあるわね。」
「思い通りでなくてもいいのよ。それが『思う』通りに動けば、ね。」
完全に自律した行動を可能とする人形、だったか。
ようやく話を飲み込めた小悪魔は、ああそういうことですか、と相槌を打った後、
「私は好きでやってるだけですよ。誰にお仕えしている訳でもありません。それに、人形さんはやっぱり操り人形の方が可愛いと思いますよ。ねえ、上海ちゃん、蓬莱ちゃん?」
同意を求められた人形達は、それぞれアリスの左右の肩にちょこんと座っている筈で、
(喜んでいいのかな……。まあ、アリスのそばに居られればそれだけで私は幸せなのは間違いないよ。)
(……私も。)
「ありがとう、二人とも。」
おそらく優しい笑顔を浮かべているであろう、その2体の主人。
自己完結してるだけのような気もするが、所詮は他人事なので追求の必要は無かろう。

……さて。では私も紅茶を頂くとにしよう。





「うん、美味しい。メイド長の淹れた方が私好みだけど、今日はこっちが良いわ。」
「喜んで頂けて幸いです。あ、こちらもどうぞ。色々試してみたので、正常に戻ってからの参考にしたいと思うんです。」
そういって勧められた皿の上には、カラフル過ぎるクッキーが並んでいた。
緑、赤、黄色はまだしも、紫などは若干危ないオーラを放っているのが気になる。
「……大丈夫よね?」
「毒草は使ってませんから安心してください。お客様にそんなの出せませんよー。」
邪気のない笑顔が、逆に怖い。
「何にしても、体のいい実験台ね。レミィには毒入りを平気で出すのよ、この子。」
「お嬢様には効かないから問題無いですよ。それに、咲夜様だって紅茶に色々入れてらっしゃいますよ?」
ようやく本から顔を上げたパチュリーの台詞だけでも衝撃的だが、小悪魔の言葉はさらに恐怖を感じさせるのに充分すぎた。
「この間は、『冥界から良い物を貰ってきました』って、げる、げる……えっと、何でしたっけ、パチュリー様?」
「ゲルセミウム・エレガンス。」
「そう、それですよ。物凄い猛毒なのに、平気でお代わりまでしてらした時はさすがにびっくりしましたねぇ。」
「……。」
ますますクッキーに手を伸ばす気が失せた。というか、すでに飲んでしまった紅茶すら本当に大丈夫なのかも怪しい気がしてきた。
こちらの怪訝な表情を見て、パチュリーは心配ないわ、と前置きした上で、
「この子も悪戯の相手はちゃんと選んでるから。妹様にはやらないし。」
「いえ、私じゃなくても出来ませんって。私まだ死にたくないですカラあハはハハ。」
ひきつった笑いを見るに、一度実行したに違いない。目の焦点も合ってないし。
壊れた彼女を見ると逆に安心してしまい、クッキーを口に運ぶのにも躊躇は無くなっていた。……うん、なかなかいける。
「お菓子に関してはこの子と咲夜の腕に大差は無いのよ。というより、咲夜は不得手が無いだけで、デザート関係のレパートリーだけならこの子の方が多いくらいね。」
「へえ、貴方が他人を褒めるなんて珍しい。」
そういう機微には疎そうに見えるのに。
「褒めてないわよ。事実を客観的に述べてるだけ。」
「でも、それだけ彼女をよく見てるのは事実よね。」
「……えーっと、その余計な口を消極的に黙らせる方法は、と。」
ジワリ、と魔力の立ち昇りを感じたので、大人しく引き下がることにする。両手を挙げ、降参のポーズ。
「過激な照れ隠しね。はいはい、もう言わないわよ。」
「まったく……。」
少しだけ顔を赤くする図書館の主は、なかなかにからかい甲斐がありそうだ。
「結果的には、消極的に話が終わりましたね。」
(うん、確かに。計算通りなのかな?)
(……多分、偶然。)
気を取り直した小悪魔と上海達の小声の遣り取りは、私にしか聞こえなかったようだ。

――と。

……ィィィン……。

(――ん。アリス、来るよ。)
「え? ……ああ、そうね。」
蓬莱は何も言わないが、気付いているだろう。私は立ち上がり、テーブルから距離を置くように大きくバックステップ。
「……? どうしたんですか、アリスさん?」
「――そこ、危ないわよ。」

……ボヒュッ……!

「はい? パチュリー様、何が――」

……ヒュゴゥッ!! ドゴンッッ!!!

「ひきゃ!?」
反応が遅れた小悪魔の頭に何かが激突し、その勢いでぐるん、と1回転した後、ばたりと倒れた。
……当たり所が悪かったようで、気を失っているみたいだ。
まあ人妖の類(彼女は人魔というべきか)はおおよそ頑丈に出来ているので、それほど心配する必要は無い。それよりも問題なのは――
「……相変わらず、唐突に過ぎるわね。そして空気読まないし。」
「……また来たわね。そろそろネズミからGに格上げされる馬鹿。」
「おいおい、折角暇を潰して来てやったというのに、随分な言い草じゃないか。」
いつも通りのふてぶてしい笑みと態度でずかずかと歩いてくる、モノクロ魔法少女。
「そこの主ならともかく、同じ客にまでとやかく言われる筋合いは無いぜ。」
「あんたと同列項に並ぶのは遠慮願うわ、馬鹿魔理沙。」
「それについては同感だな。」
彼女――霧雨 魔理沙の場合、理解はずれているが話が成立しているのが不思議なところだ。
その他諸々の事を含めて、ある意味凄い才能の持ち主なのかもしれない。本人に言うと絶対に(都合良く)曲解して受け取るので口にはしないが。
「で、うちの使い魔に何をしてくれたのかしら?」
若干の怒気を孕んだパチュリーの声。先程は素っ気ない言い方ではあったが、彼女なりに思うところがあるのだな、と感心する。
対照的に傍若無人の塊は、やはり悪びれもせず抜け抜けと言い放つ。
「いや、本当はアリスの人形を狙おうと思ったんだが、主人に似て地獄耳でなあ。仕方なくさ。」
(……この場合、千里眼の方が正しい気がするけど……?)
「まあ、どっちだって良いじゃないか。」
「いや、良くないし。誰が直すと思ってるのよ?」
(どっちにしても、質問の答えとして不適切だよね。)
(……同感。)
その上当事者置いてきぼりだし。
心の中でそう指摘するまでもなく、七曜の魔女の声はさらに低いトーンになり、
「……質問を変えるわ。貴方の今日の用件は体調120%の実験的スペル体験ショー飛び入り参加希望だということね?」
「おお、それもいいな。こっちも実はそうしてもらえると都合が良い。」
いや、それ質問じゃない上に普通に会話進んでるし。しかもそんな話初耳だし。
(律儀にツッコむと疲れるよ、アリス。)
人形達には筒抜けの私の思考はさておき、一触即発の空気はどんどん濃密になっていく。
「……うぅ…痛い……。一体何ですかぁ……?」
と、ここでもう一人の当事者が覚醒。まだ状況が把握出来ていないようで、頭を押さえながらおろおろしている。
「お、良いところで気が付いたな。どうだ、『プチブレイジングスター』の威力は?」
「((プチ??))」
3人でハモる。一応言っておくが、狙ってやった訳ではない。
「私自身を核にする『ブレイジングスター』は、負担がデカいし一発勝負過ぎるからな。まあ一撃離脱って面では問題無い訳だが……。」
そこでだ、ともったいぶる様に言葉を区切り、
「魔力を籠めた媒介なら、小回りが利くし燃費も良い。熟成させたやつを使えば、結構なダメージになるしな。マジックミサイルと違って実体弾だから、対魔結界も無効だぜ。」
名前は『コメットブラスター』って案もあるんだが、等と得意げに熱く語る魔理沙。
「…………ねえ。」
そんな彼女の熱を瞬時に凍らせる、冷え切ったパチュリーの問い掛け。
その温度差も気にせず、笑顔で振り向いた魔理沙の表情が、
「何だ? 今の私なら『ロイヤルフレア』もぶち抜い…て……。」
やるぜ、と言いかけた口と共に、固まった。
……まずい。この魔力は、本気でヤバイ。
「……その媒介って、もしかしなくても、これよね……?」
小悪魔が倒れていた場所の近くにしゃがみこんでいたパチュリーが立ち上がる。その手に持っていたのは、
「――うわ。」
見るも無残な姿になった、魔導書(グリモワール)の成れの果て。
ややくすんだ赤の装丁のそれは、この前訪れた時に魔理沙が借りて(かっぱらって)行った内の一冊……だったと思う。原形を留めていないので自信は無いが。
「……あ、あれ? 確か、私は自分のを撃った筈…だ、けど……。」
苦笑から青ざめた表情に変わっていく黒い魔法使いの手には、その容姿と同じ色をした、まだ新しい魔法の本があった。

ゴゴゴゴゴゴゴ……。

知識の魔女の身体から溢れ出す魔力が、無限に閉じた広大な図書館を震わせる。……どうやら、平和なお茶会は一時中断を免れないらしい。
「まったく……貴方はいつもいつもいつも私を怒らせないと気が済まないの……? 返さないほうがまだマシよ、本が無事だったらの話だけどね……。」
「ご、誤解だぜ、私は借りた物を大事にする事にかけては、誰よりも自信がある。今回のは事故、そう、不幸な事故なんだ。だから落ち着け。小声で高速詠唱やめれ。」
「……つまり、返さない=自分の物=大事にしない、という方程式なのね。納得だわ。」
「だから誤解だって言ってるだろ!? おい、アリスも何かフォローしてくれ!」
あ、こっちに振られた。まあどうせ殺戮……じゃなかった、実験ショーは決定だろうし、巻き込まれたくもないからこう言っておこう。
「そうねぇ……確かに、人から借りた物(パクったスペル)は大事にしてるわよね、色々な意味で。」
(うんうん、確かに。)
(……門前の小僧。)
ナイス相槌。特に蓬莱。
「それはフォローじゃなくて追い打ちと言うんだ!! 頼むからパチュリー、話を聞いて――」
「聞いているわよ。――聞く耳は持たないけど。」
無情な死刑宣言の後、魔方陣が展開し。
魔女は静かに発動の言葉を告げた。
「火&水符――『フロギスティックレイン』。」
「どおおおあああぁぁ!!?」

キュウウウゥゥゥゥ…………プチ。(注:音声はイメージです)











先ほどの分は冷めてしまった為、子悪魔が淹れ直した紅茶を一口飲む。
……ふぅ、ようやく落ち着いた。
「……まったく、悪戯がバレた時点で謝らないから痛い目を見るのよ。」
(自業自得だね~。)
(……因果応報。)
先ほどの話に戻るが、仮初めの魂とは言え、人形の自我に個体差を持たせられる時点で、アリスの理想は半分叶っていると言える。後は、人形自身にエネルギーを生み出す原動力があれば良いだけなのだから。
……もっとも、それが難しいから苦労しているのだろうけど。私でも魂の創造など出来ないし。
何にせよ、彼女『達』を見ているとそれなりに飽きないので、今のままでも良いのではないだろうか。所詮は他人事というのも勿論あるが。
――さて、飽きないと言えばもう一つ。
「あ……あんなの、反則、だぜ……。」
ぴくぴくと痙攣している害虫の生命力に少しだけ感心し、先ほどの顛末を思い返す。
「……ふむ、押し潰すのに10秒かかる、か。もう少し改良の余地があるわね。」
「うぅ、まだ頭がズキズキします……。でもパチュリー様、いまのスペルじゃ『ごっこ』にならないんじゃないですか……?」
「それで良いのよ。いつまでもザルな猫共に警備を丸投げしてるわけにもいかないし。……それより、あまり無理しなくていいわよ。」
「……パチュリー様がそんな事言うなんて、珍しいですね。」
痛みに眉をしかめつつも笑みを浮かべようとする子悪魔を見て、説得は無理か、と諦める。
……しかし、今までの自分なら、こんな思考にすら至らなかっただろう。我関せずの姿勢を崩すきっかけとなったのは、あの子と、紅白と、そして目の前で伸びている白黒馬鹿の影響である事は、もはや認めざるを得ない事実である。
それが良い傾向か悪いかどうかはともかく、退屈しなくなったのは間違いない。それだけは良い事と言える。
恐らくではあるが、対面に座る人形遣いも似たようなものだろう。
「『ごっこ』じゃないスペルカードか……。文字通り必殺技という訳ね。私もちょっと研究してみようかしら?」
「どうせなら一緒にやらない? その方が効率も良いし、それに――」
――共通の実験台も居ることだし、ね。
言わずとも同じ所に視線が向き、互いに笑い合う。
その真意を感じ取ったかどうかは定かではないが、当のモルモットは最後の力を振り絞り、
「……避けれない弾幕なんて、カーテンじゃなくて、壁、だぜ……がくっ。」
そう言い残し、息絶えた。







――春と花に浮かれた幻想の地。
――そのお祭り騒ぎに積極的に参加しない者達も、やはりどこか浮かれていて。
――たまには本気で遊ぶのも良いんじゃないか、と。
――そんな考えを抱いた者も、居たとか居なかったとか。



第二章 幕


……シリーズ物なのに2ヶ月空くってどうよ(苦笑)




どうも、この調子だと毎回『初めまして』になりそうなダメ人間、Zug-Guyです。
ああ、油断した……。
『下書き出来てるから何時でも書けるぜ!!』
――なんて甘い見積もりは通用しないとつくづく痛感させられました。
かといって下書き無しだと暴走しそうで怖いんですよね……勢いは良くても推敲が疎かになりますから……。
(前科持ちですし:朱月譚)


ええと、鬱になる前に簡単な解説を。
時間がかかった理由もここにあるのですが、パチュリーが想定外に優しくなってしまいました……。
最初はもっと素っ気無かった筈が、話を持たせるために書き直してる内に随分と子悪魔を可愛がる流れに。
話が味気無いよりは良かったとは思いますが。
上海と蓬莱の性格・立ち回りは一般的な二次創作イメージに近くなりました。
公式設定(=求聞史記)に則るならば、アリスがそういう風に操っているという事になるのでしょうが、
魔理沙の言を借りるなら、人形自身にもある程度の自我はあるものという認識で話を作っています。
グランギニョルとかはその線でないとむしろ不自然だし。


花を話に組み込むのは半ば諦め気味です(笑)
ちなみにローズマリーの花言葉は割と有名だと思いますが、今回の話だと『私を思って』です。


では今回はこの辺で。
次はもっと早く書きたいです(爆)
Zug-Guy
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