辺りは一面、見渡す限りの焼け野原。
ぺんぺん草一つ残っていない。
大地は抉れ、土も岩も、今は硝子みたいに変質していて踏み拉くとバキバキ音を立てる。
荒みきった荒涼の地。
戦いの爪痕。
…………否、虐殺か?
……どちらでもいいか。
どちらでもいい。
素敵な素敵な、素晴らしい場所であることに変わりは…無い。
さて、そろそろここにいるのも飽きてきた。
荒んだ焼け野原もいいけれど、「草原」はやっぱり草花が生えてなきゃ。
私が軽く念じれば、何時でもどんな場所でも生えて来る。
…ホラ。
目の前の大地は一面の花畑。
サービスで大きな木も何本か生やしておきました。
きっと木陰が気持ちいいでしょう。
私は腰を下ろしていた小山から立ち上がる。
愛用の日傘をくるくると回す。
気分が昂揚している。
とっても気分がいい、気持ちいい。
気分爽快、愉快愉快。
私は軽く伸びをして、お尻に付いたススを払う。
人間のチンケな衣装とは格が違うから、汚れなんてそうそう付かない。
「さぁって、と!うーん……次は」
…………次は、誰を殺そうか。
自分が座っていた「モノ」を軽く一瞥してから、少女はゆっくりと飛び去っていった。
紫色の服と、藍色の服と、橙色の服を纏った骸の山に、彼女は座っていた。
その日、風見 幽香は上機嫌だった。
……彼女は最強だった。
自分がそう言うのだから間違い無い。
他者からもそう言われるのだから間違い無い。
私は最強なのだ。
今日もそれを証明してみせた。
私が最強だと言う証明を。
強い、最強だと言われている大妖怪を殺してみせることで。
……噂はだいぶ前からちょくちょく聞いていたから、なんとなくは知っていた。
私が主に寝床としている向日葵畑に、たまに遊びにやってくる妖精どもからその話を聞いて、噂が確実なものだと最近知った。
「そうか、やっぱりその、「すきま妖怪」っていうのがここじゃ最強って名高い妖怪なのね?」
「そう聞いたよ。ね?チルノちゃん」
「そーゆー話をレティから聞いただけよ。あたいは詳しいこと知らない。けど」
「けど?」
「この前の……永夜異変だっけ。あれを解決して、犯人の宇宙人をぶっ飛ばしたのが、その紫なのよ」
「ふーん」
最強と名高い大妖怪、ね……。
八雲 紫か。
「面白そうじゃない?」
まずは、あいつのことを詳しく知っていそうな奴に聞いてみることにした。
「……何の用だ」
「そんな嫌そうな顔すること無いじゃないの、魔理沙」
魔理沙は嫌そうな顔で私を出迎えた。
「お前が来る時は大抵、面倒臭いことの前触れだ。そうじゃなくともお前さんみたいな物騒過ぎる妖怪に突然訪ねられて、
嬉しい顔する奴なんてそういないぜ」
「随分と酷い言われようだわね」
「自称最強、実力のほうも私が知る限り最高ランク。趣味は自分より強い奴と闘って、勝って殺すことじゃあな。
いい趣味とは言えないぜ?」
「否定はしないけど。そういう相手に随分大きな口をきくじゃない?」
ちょっと睨んでみる。
「私は弾幕勝負しかしないぜ。弾幕勝負なら一度勝ってるし負けても死なないからな」
「あら、そう。残念」
「……で?何の用だよ」
魔理沙は嫌そうな喋り方をしつつもお茶を淹れてくれた。
「八雲 紫のこと」
単刀直入と言う奴だ。
前置きは面倒臭いし、世間話をしに来た訳でもない。
「あぁ?紫ぃ?すきま妖怪の、あの八雲 紫か?」
「そうそう、そいつのことよ。何処に住んでるか知ってる?」
「知ってそうだから来たんだろうが……」
「まぁね」
「教えてやったら何かくれるか?魔道書でいいぜ、貴重な奴」
「そんなもの持ってないわよ。けど、そうね。私のスペル、一つパクッってもいいわよ」
チクッと嫌味を言ってみた。
「パクリじゃねーよ」
唇を尖らせて魔理沙が否定する。
「どうする?」
意地悪っぽい笑みを浮かべて魔理沙に詰め寄る。
魔理沙は短い逡巡の後、ニヤリと笑って、
「スペルはいいや。じゃあ旨い酒でいいぜ」
と、要求してきた。
「おやじくさいわねぇ…。いいわ、今度上物を持って行ってあげるわ」
……料理酒を持って行ったらどんな顔をするのかしら。
きっと可愛い顔を歪めて怒るんだろうな。
悪くないかも。
やってみよう…。
魔理沙はそんな私の考えを知る由も無く、無邪気に喜んでいた。
「OK、OK!お教えしよう幽香さん?」
「頼みますわ魔理沙さん」
魔理沙に調子を合わせて先を促す。
「八雲 紫はマヨヒガに住んでるぜ」
……マヨヒガ、か。
「へぇ。あそこにねぇ……解ったわ、ありがとうね」
「紫と弾幕勝負でもするのか?」
魔理沙に礼を言って去ろうとすると、魔理沙が理由を尋ねてきた。
「……そうよ。勝負勝負」
「そーかい……?」
弾幕ごっこをしに行くつもりじゃないんだけど、とりあえずそう言っておく。
…そうだ、一つ言い忘れていた。
「霊夢には内緒よ?あいつ煩いんだから」
「弾幕ごっこじゃあいつは出張らないと思うがな。……解ったよ、霊夢には内緒にしとくぜ」
「ありがとうね、だから貴女って好きよ」
「うへー……」
魔理沙が気持ちの悪そうな声を上げる。
でもその鳶色の瞳は、本当はそうじゃないと言っている。
私には解っているわ、魔理沙。
「また来るわ。今度はゆっくりお茶しましょ」
「あまり来るなよなー」
私は魔理沙の家を出ると、彼女に手を振って別れを告げた。
目指すは一路、マヨヒガへ。
「……とまぁ来てはみたものの」
そこいら辺の妖怪どもから聞き出した情報によれば、今私の目の前に建っている、この「純和風な武家屋敷のコンパクト版」
が八雲 紫の棲家らしいのだが……。
「誰もいない、か……?」
家人は皆出払っているらしく、家から何者かのいる気配は感じられない。
「さーて……どうしようか」
このまま帰ってくるのをボケっと待っているのも退屈だしバカバカしい。
しかし行方がわからない。
「ちょっと困ったなぁ」
……と。
ぼやく私の視界の片隅に、一輪の百合の花が目に留まった。
……そうだ、こいつに聞くか。
「…ねぇ。八雲 紫はどこいったか知ってる?」
周波数っていうの?
香霖堂で読んだ難しい本に、私が花というか植物の声を聞く時と似たような状態についての本があった筈だ。
詳しい意味は違うだろうけど、私が理解できればそれでいいのだ。
知識なんて、それを求めるものにとっての価値さえ満たせれば、他はどうでもいいものだ。
『r1yrfぎ1卯cdふj29ぅr51くぁwせ29r58yr3fgfひjふ9078う9r3じょ』
……………………………。
……お前たちはいつもそれだ。
『津2卯r1対jqjgwgjfgkv;fgこpq3gこgひqjfjgg;jm』
……お前のことなどどうでもいい。
お前が見ていた情報をよこせ。
『wgfぺkf3jfjふぉjkwhぢくjfgじょfごjgghwgjふぉp2ぎこjk』
「ゴチャゴチャと喧しい!!!お前は私に、お前の視覚情報の記録を見せればいいのよっ!!!!!」
百合の茎を握り絞め、私は怒鳴った。
……最初から期待はしてなかった。
お前達はいつもそうだ。
人間は個人であればいいやつだが、群れればこの世で最も愚劣な存在に成り下がる。
たまにそうじゃないのもいるが、そんなのはせいぜい霊夢と魔理沙ぐらいだ。
それだって2、3人程度だ。
だが植物は違う。
こいつらは個だろうが群れだろうが同じだ。
手前勝手で自己中心そのものの存在。
「他」など知ったことか。
「自分」さえ良ければどうでもいい。
言うことも考えることも思うこともすべてが「願望」、「欲求」、「悲鳴」!!!!
……お前達のことなぞ知るものか。
いずれ機会があれば根絶やしにしてくれる。
世界には私が生やした花だけが咲いていればいい。
……強制接続、検索開始。
視覚情報を選択、分析開始……終了。
百合の記憶情報から、八雲 紫の行方を導き出した。
「式二人を連れて森へいったか。ピクニックって奴ね」
ここからそう遠くは無い。
思わず拳を固くしてしまう。
心が躍る。
待っていなさい八雲 紫。
今から遊びに行くわ。
拳の中の百合を握り潰してしまったが、まぁどうでもいい。
掌に霊力を集め、根元から蒸発させてやった。
薄汚い屑め。
棲家に染み付いていた霊力の残り香を辿って飛んで行く内に、私は目指す相手が近いことを知った。
小高い丘の上にある、かなりの大きさの草原だ。
大きな木々が疎らに生えている以外、特に何の変哲も無い場所。
その中心部、一際大きな木の根元に、桃色の、よく判らない材質の布を敷いて弁当を突きながら、
遊びまわる式の姿を見て微笑んでいる八雲 紫と、何やら妙な遊びに興じている式二人を見つけた。
心が躍る。
昂ぶる。
歓喜に染まる。
殺意に染まる。
私は染まる。
秋の涼やかな陽気に包まれた平和な昼下がりは、突然禍々しい殺意と妖気に満ち溢れる空間へと変質した。
藍とバトミントンに興じていた橙は、背筋の凍るような殺意に敏感に反応し、全身の毛を針のように逆立たせた。
「これは……!?」
先程までの暖かな笑顔から一転、藍はその表情をキッと引き締めると、油断無く周囲を見渡しながら身構えた。
「紫様……」
「……心地よい殺気…いいえ、殺意ね。何年振りかしら」
紫は腕を組み、悠然とした態度で立ち上がる。
「心地良い……懐かしくて……そして……」
「……!来る」
藍がそう言うのと同時。
禍々しい殺意の渦、そのものがやってくる。
そいつはゆっくりと、優雅に、そして禍々しく大地に降り立った。
そいつは恐ろしいほど美しい姿だった。
そいつは禍々しいほど美しい女だった.
深い碧の髪をなびかせて、禍々しく、そして美しい、狂気を孕んだ喜悦の笑みを浮かべて。
彼女は降り立つ。
「……っ!」
「藍」
臨戦態勢を取る藍を制し、紫は彼女を待つ。
優雅に、そして狂的に、禍々しく。
「……初めまして」
三日月の形に口を開き、狂喜の笑みを浮かべ。
「初めまして」
「初めまして、素敵な女性(ひと)」
紫が応えた。
その表情は……至極。
「私の名前は風見 幽香」
「私は八雲 紫」
お互いに手にした日傘をくるくると回し、微笑んで。
「自己紹介。趣味は人妖構わず殺すことですわ」
唄うように。
「特に、貴女の様な強そうな妖怪と遊ぶのが好きでね……。非常に短い付き合いになりますが、よろしくお願いします」
「ええ……こちらこそ。仲良くしましょう?」
空は翳り、影達が一斉に手を伸ばす。
初手は紫が仕掛けた。
「先ずは「こっち」の御挨拶。初めまして……」
言い終わらぬ内に、幽香の頭上の空間に切れ目が入り、そこから巨大な墓石が出現し、落下する。
「無駄ぁ」
幽香は、落下してくる巨大な質量を、無造作に振り上げた拳で粉々に粉砕した。
「霊力込めて、触れずに砕くまでも無い!」
「結構硬いんだけどなぁ。貴女にはお豆腐よりやわらかだったようね」
「豆腐はキライ」
「もったいなぁい。…そうだ!今度家に来ない?美味しいお豆腐を御馳走するわ」
「冗談!」
幽香が跳躍する。
傘を畳み、大きく振りかぶって眼下の紫に向けて無数の光弾を繰り出した。
紫はそれを……避けない。
光弾はすべて紫の周囲に着弾する。
「小手調べのつもり?遠慮はいらなくてよ」
着弾による爆煙が晴れる前に、紫は攻撃したままの態勢で空中に静止したままの幽香に語りかけた。
「こっちも御挨拶、よ。ちゃんと挨拶しなきゃ」
「ふふ…そうね、そうだった」
互いに不敵な笑いを浮かべ、天と地で対峙する。
「さぁ…殺して殺されて、死んだり死なせたりしましょうか」
「コンティニューは無いわよ」
紫が畳んだ傘を突き付けるのと、幽香が傘を振りかぶるのは同時だった。
「えい!」
「はっ!」
目にも止まらぬ速度で、二人の傘から同時に無数の光弾、レーザーが放たれた。
両者とも、その壁の如く迫り来る膨大な量の弾幕を、人知を遥かに超越する動きで避け、或いは傘で、素手で捌き、受け流し、
新たに放つ弾幕で相殺する。
「そらそらそらっ!どんどん行くわよっ!」
「んふふ」
叫ぶと同時に、幽香は自分の放った弾幕を盾に地上の紫へと突撃をかけた。
「その首ッ!ブチ折らせてもらうわッ!!!」
大上段に、畳んだ日傘を振り上げ、弾丸の如き猛烈な勢いで肉薄する。
「やってみせて!」
迎撃に、更に分厚い弾幕を形成して相手を挑発する紫。
怒涛の勢いと密度を誇る弾幕に、幽香は嬉々として突入する。
威力の高い弾は回避し、捌き。
大して脅威とならない弾は当たるに任せた。
あまりの密度に紫の姿が視認出来ない。
だが、気配が、彼女が、其処に居るということを、幽香は全感覚で認識している。
「逃げない勇気は賞賛に値するけどね!」
突破、突破、突破。
幾重にも重ねられた弾幕の壁を突き抜けて。
幽香は速度を上げる。
被弾する気は毛頭無い。
そもそも私が被弾などするものか!
私は最強の妖怪だ。
敗北などありえない。
「それは無謀ってやつよ!!!」
最後の…一枚。
高密度の弾幕を一気に抜き、幽香は弾幕を生成する紫の姿を捉えた。
「次からは弾幕じゃなく、壁でも用意することね!!ブチ抜いてあげるけどっ!!!」
正面。
相手は攻撃を放った動作の直後……一瞬の硬直状態!!
「次なんか無いけどさぁッ!!!!」
更に加速。
相手が対応出来ないほどの速度と膂力を持って。
「さようならッ!!!!」
狙うは一点、敵の…八雲 紫の細い首。
超高速で繰り出される一閃。
幽香の瞳は、己の一撃が、獲物の首へと吸い込まれる様に叩き込まれる様をスローモーションのように認識していた。
無限に等しい時間、けれどそれは刹那の瞬間。
当たる。
絶対命中。
見なくても解る。
……来る。
来る来る来る来る来る!!
鈍い衝撃音。
肉が爆ぜ、骨を粉々にブチ砕く感触ッ……!!
(仕留めた……!!!)
確信。
この手応え……勝利の感覚!!!!
傘を振り抜いたまま地面へと一瞬だけ着地、接した直後に大地を強く蹴り、急上昇。
地面にキスだなんて、ダサイ真似は出来ない。
上昇による重力の抵抗を感じながら、幽香は勝利の愉悦に顔を綻ばせた。
「はっはー!!なぁんだ!!!大した事無いじゃない!!!やっぱ私って最強だわ!!!
あっはははははははははははははは!!!!!!!」
ケリはあっさりとついた。
何が最強の大妖怪だ!
たったいま殺してやったぞ!!!
幽香は上昇から転進、眼下を悠然と見下ろした。
術者を失い炸裂した、魔力で編まれた弾幕による爆炎と、盛大に噴き上がった土埃で視界は最悪。
「チッ。これじゃあ死体が見えないじゃない」
腕を組み、舌打ちしながらもその表情は愉悦に歪んでいた。
「はは……」
勝利、最強の証明。
この感覚は心地良い。
「私より強い奴なんて認めない。強い奴は全部、全部殺す!そう……霊夢だって……いつか」
笑いが自然と込み上げて来る。
我慢する必要は無い。
少女は再び喜びの唄を哄笑に乗せようとして……。
「お姉さん、それはちょっと賛成できないかなぁ?」
笑いが喉から出る瞬間、幽香の時が凍りつく。
「!!!??ガハッ!!!!!!!!」
後頭部に凶悪で、獰猛な衝撃が襲い掛かった。
驚きも何も、感情も感覚も一瞬にして真っ白に塗り潰される……。
「……ッ!はぁっ!!!!」
瞼をカッと見開き、幽香は背筋の力だけで勢い良く起き上がった。
「く……!!?」
どれぐらいだ!?
何秒……私は気を失っていた……!
「あらら…もう少し眠っているかと思ったのだけれど……せっかちさんね」
「!……あんた……!?」
「はろ~、幽香ちゃん」
紫が傘をくるくると回しながらくすくすと微笑んだいた。
「お…前ぇ……」
「んー?」
「なんでっ…」
後頭部を押さえ、鈍痛に顔をしかめながら幽香はゆらりと立ち上がる。
「確かに…!あの時、お前の首を捉えた筈だ……!なのに、なんで、生きてるのよっ!!」
「んー?あぁそのこと」
紫は手品の種明かしでもするかのように、楽しそうな表情で喋り出した。
「貴女は確かに、妖怪の首を砕いたわ」
何時の間にか取り出した、畳んだままの扇子で、目の前の空間をスッと軽く凪ぐ。
すると、そこに「切れ目」が出来て……。
「それが……ウワサのスキマって奴!?」
「そうよぉ。ホラ、これが、貴女が砕いた首の正体」
クスクスと笑いながら、紫がスキマへと手を突っ込み、それを引っ張り出す。
「最近、うちの橙をいじめた屑妖怪のなれの果てー♪」
首と胴体が分離して、接合面が見るも無残に破壊され尽くされている、妖怪の死体だった。
「あの程度の速さと力じゃ、私は捉えられなくてよ。よしんば当たっても、貴女の、その可愛い綺麗な細腕か、
可愛い傘が折れちゃうわね」
紫は手にした死体をぱっと放し、スキマへと落とすと、亀裂のような笑みを浮かべた。
「もっと本気でやろうよ。折角の機会、派手に愉しく殺し合いましょう?」
「……上等!」
闘志と殺意、牙を剥き出しにして少女は吼えた。
……その速度は音を超え、光にまで達するか。
外力「無限の超高速飛行物体」
視認を許さずに襲来するその敵意に、殆どの存在は自分が死んだことも気付かない内に逝くだろう。
だが風見 幽香は違う。
「ほいっと」
直撃すれば大地を深々と抉り吹き飛ばす衝撃を、手にした日傘で軽く流し、光弾を大量に撃ち返して反撃する。
「つまんないスペル!こんなもので私をどうこうしたいっていうのなら、この十倍は持って来なさい!!」
「……そうするわ」
幽香の挑発を、紫はそのまま受け取った。
外力「無限の超高速飛行物体」―Lunatic―
文字通り十倍、否、それ以上の衝撃が幽香を一斉に襲撃する。
「わ!本当にやるなんて…ガキ?」
「美少女よ~」
「あんたは幼いお姉さんの方が正しいと思うけどっ!?」
「お褒めに与り恐悦至極に存じますわ」
「言ってろ!!」
傘で弾き、受け止め、或いは避ける。
視覚は要を成さない。
幽香ほどの妖怪であっても、これらをすべて目視することは不可能だ。
(幻視すりゃそうでもないでしょうけど……感じで判るんだからする必要は無いわね)
次は…真上、正面、右斜め四十五度!!
「あらよっと!!」
回避。
(感じで判るっちゃあ判るけど……こんなのに何時までも付き合ってらんないわ!!疲れたら当たるかもしれないしね)
背面と真下、左後方から迫る衝撃をやり過ごすと、幽香は反撃に転じた。
「行くわよっ!花符「幻想郷の開花」!!!」
宣言と共に、幽香の周囲から花を模した高密度の霊力の塊が無数に射出される。
「弾幕密度も最高レベルのサービスよ!!受けろ、八雲 紫!!!」
膨大な量の花弾が紫に迫り来る。
「ふふっ」
頬を掠める花弾を横目で見送り、迫る分厚い弾幕の壁を、まるで踊っているかのように華麗に避けていく紫。
「余裕こいてるんじゃないわよっ!!!」
幽香は毒づき、更に花弾を撃ち出すと同時に紫との距離を詰めに入った。
「今度は逃がさない!」
紫との距離を一気に詰め、目前へと迫った。
「喰らいなさい!!」
刃よりも凶悪な切れ味さえ持ち合わせた日傘が紫に向けて振り下ろされる。
「いやん」
振り下ろされる一撃を、紫も手にした日傘で受け止め、捌く。
振り下ろされ、或いは突き出し、薙ぎ払って、弾幕の応酬。
「この……!」
当たらない。
それどころか掠らせもしない。
「誤解されやすいんだけどぉ」
幽香の連続攻撃を軽くいなしながら、紫はくすくすと笑う。
「私、見た目通り運動神経抜群なのよ?嘘だけど」
「何を……きゃっ!」
紫の連撃。
嵐の様に高速回転しながら繰り出される技のすべてが、驚異的な重さと鋭さを併せ持つ。
「ちぃっ……!!!」
比較的浅い攻撃は当たるに任せ、それ以外は捌きつつ反撃の糸口を探す。
「そこ!」
「あ痛!もう……」
紫の頬に掠り傷。
「浅い……!」
フェイントを多用し、幽香も負けじと攻撃の手を更に強くする。
「あらら…?」
「はあああああああっ!!!」
紫の攻撃に自身の攻撃をぶつけ、相殺。
相手が体勢を立て直すよりも速く踏み込み更に攻撃。
(押し込む!)
「いや~ん、急に速くなった!?」
「目が慣れて来たんでね!」
一撃、二撃、三撃。
徐々に、そして的確に。
幽香の攻撃が紫へと届き始める。
「畳んでやる!!」
更に加速し、烈火の如き勢いで猛烈に撃ち込む……。
紫は防戦一方になってしまった。
(手数で勝負!パワーもスピードもほぼ互角、なら数よ!質が同じなら後は量!!)
息つく暇無く攻め立てる幽香。
「ちょっとちょっと~!激しすぎるわー!!」
口調は軽いが紫の声音に焦りの色が混じっていることを幽香は理解すると、更に攻め手を強めた。
「………!!」
何度目かの剣(?)戟。
「あっ……」
紫の傘が、ガクンと下がる。
(体勢を崩した……!)
ここぞとばかりに幽香は猛然と撃ち込んだ。
だが。
紫の目は笑っていた。
「!?」
紫が体勢を崩したまま、背後の空間に吸い込まれ……。
「んふふ~、「禅寺に棲む妖蝶」」
「!!」
背後から紫の声が響いた。
「きゃあっ!!?」
高速回転する傘が、チェーンソーの様に唸りを上げて幽香の背中を強襲する。
「くおっ……!」
背中にダメージ。
深くは無いが、浅くも無い損傷を受けた。
「ちぃぃぃ……!!」
歯を食いしばり、自分の優勢を信じていた自分自身に腹を立てながら離脱する。
だがそれを許すほど紫は甘くなかった。
大きく跳躍し、離脱する幽香の頭上の空間に隙間を開き、紫が飛び出してきたのだ。
「はぁーい♪」
「えぇっ!?」
傘を回転させて弾幕の雨を放つ紫。
「わわわわっ!何すんのよッ!!!?」
幽香は足先に魔力を集中させた。
集中した魔力で空を蹴り、慣性を無視した機動で無理矢理紫の攻撃を回避する。
「…っのぉ!!」
強引に体勢を立て直す。
転進して牽制の弾幕。
無理で強引な機動が、幽香の肉体を軋ませ、彼女にとって「快い」痛みを覚える。
「あははっ!あんた、いいよ!すごくいい!!久し振りに本気で本気出せそうよ!!!?」
遥か上空での、熾烈な空中戦。
幾条もの光が飛び交い、激突し火花を美しく散らし合う。
弾かれ、反れた霊力と魔力とで編み上げられた弾丸は矢となり雨となり大地に降り注ぐ。
地面を抉り大穴を穿ち、木々を吹き飛ばし地に根ざす草花を燃やし尽くした。
主と、その敵との戦いを、地上に残された二人の式はただただ見上げることしか出来なかった。
微動だにせずに。
「飽きてきたわね~…」
何度目かの剣戟の後。
聞き取れないくらいに小さな声で、紫はボソリと呟いた。
幽香にそんな紫の呟きは聞こえず、彼女は次のスペルを宣言している。
「いくわよ!!幻想「花鳥風月、嘯風弄月」!!」
「魍魎「二重黒死蝶」」
二つのスペルが真っ向からぶつかり合い、その様はまさに豪華絢爛。
互いに絡み合い、迷宮と化した弾幕の海を、人智を遥かに超越した機動と速度で紫と幽香は抜けて行く。
「美しくても触れてはダメよ?私の花は容赦無く貴女の命を奪ってしまうわ」
「けれど花に向かうのは蝶の性。死と隣り合わせのその輝きに、触れようとすることは誰にも止められはしない」
「生か死か?随分と博打好きな蝶ね」
「あら、私は蝶ではないのだけれど」
「減らず口を!」
交差。
すれ違いざまに傘による斬撃。
切り返して傘を叩き付ける様に振り下ろす。
「~♪」
「よっと!」
振り下ろし、激突させた日傘は互いにフェイント。
空いた左手で、紫は扇子で、幽香は魔力を集約した拳で。
紫の扇子は幽香の肩を浅く掠め、幽香の拳は紫の髪を数本散らす。
(また!?こいつ、どんな反射神経してんのよ)
幽香の脳裏に今までの撃ち合いが再生される。
お互いに何度も弾幕を放ち、傘や肉体を用いた格闘戦を行ってきた。
「おっと!」
「あら、残念」
紫のハイキックを寸でのところで回避する。
「そりゃー!」
「!っと……」
ミドル、ロー。
傘の刺突、左の肘鉄、膝蹴り。
「随分とっ…!やんちゃなのね!!」
「遊びたい年頃なのよ~」
幽香も負けじと傘を振り回し、自身の身体を回転させる。
唸りを上げて、大気を引き裂き必殺の威力を秘めた拳と蹴りを連続で見舞う。
しかし……。
(クソッ!!なんで当たらないのよっ!!)
紫の攻撃は自分を掠るのに、幽香が繰り出す攻撃の殆どは掠りもせずに完全にかわされている。
浅いとはいえ、幾度か紫の攻撃が命中してさえいる。
それに引きかえ幽香の攻撃は少しも当たっていないのだ。
(悔しいけどッ…!紫の方が私より体捌きは上ってこと!?霊夢を相手にしてるみたい……!!)
幽香は歯噛みした。
(認めない!!私は最強だ!!!)
最強の妖怪であるこの風見 幽香に、唯の一つであっても敵に戦闘能力で劣る要素は、絶対に存在してはならない!!!!!
(霊夢だって……何時か必ず……)
殺してやるんだから。
「チョコマカ動くんじゃない!!!」
幽香が吼える。
四肢を神速の勢いで回転させ、幽香は嵐と化した。
触れるものすべてをことごとく薙ぎ払う破壊の嵐だ。
「怖いわ~」
しかし紫は、そんな幽香を嘲笑うかのように、少しも怖そうな顔をせずに幽香の攻撃をかわし、捌いていく。
同じ繰り返し。
だが今回は違った。
「嘗めるんじゃっ!!!」
「ふぇ?」
「ないわよっ!!!!!!!」
「あっ……」
幽香の動きが加速する。
同時に。
「フラワーショット!!!避けきれるものなら避けて見ろっ!!!!」
連撃と同時に弾幕技。
「……!!」
紫の顔色が変わる。
「やるじゃない」
だが、そう言いつつも紫は攻撃に当たることなく、逆に反撃を加えてくる。
(ここまでは予測済み……!!)
「どうしたのよ?まだまだ余裕あるわよ?私」
紫の挑発に、幽香の髪が逆立つ。
「喧しい!!」
「酷いわ」
「黙れっ!!!」
怒りに任せた横薙ぎの一撃を紫は傘で受け止めた。
いつものように捌こうとする。
だが……。
幽香の瞳が憎悪に燃え上がる。
歯を噛み鳴らし、魔力を傘の切っ先に集中させる。
「らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
「あ」
ここに来て更に幽香が驚異的な膂力を発揮したのだ。
防がれた攻撃を、幽香は力任せに叩き付けた傘で強引に、防いだ紫の傘ごと振り抜いた。
「っ…!!」
捌ききれずに、たまらず体勢を崩す紫。
「もらったぁ!!!!!」
幽香の瞳が輝いた。
振り抜いた勢いを殺さず、一回転して正面に向き直り、慣性を無理矢理殺して傘を高々と振り上げる。
渾身の力を込めた一撃。
雷よりも速い、超神速の一太刀。
幽香の、全体重を乗せた必殺の一撃だ。
「ああああああああああああああああああっ!!!!!」
吼える。
自分に今振り下ろされようとする一刀を、崩れた体勢のまま紫は食い入るように見つめ……。
「酷い酷い。……そんなのじゃ当たってあげられない」
崩れた体勢のまま、避けた。
紫の顔に亀裂のような笑みが広がる。
虚しく空を斬った自分の傘を凝視しながら、幽香は何が起こったのか理解出来ないという表情だ。
「終わりよ」
紫の傘の先端に魔力が集中する。
圧倒的な魔力の奔流。
傘の先端に、禍々しい光が灯り。
「終わりよ」
瞳を閉じて、紫が呟いた。
「……あんたがね」
「!!!!!!」
幽香がいた。
瞼を開けた紫の目前に。
(ここは空中。地面が無い。だからこういうことも出来る)
空振りしたままの勢いを殺さず更に加速して。
形容し難い速度で回転したまま幽香は紫に突撃をかけたのだ。
紫は。
避けれない!!!!
物理法則を色々と無視した、荒唐無稽にして無慈悲な威力を持った一撃が紫の肩口を捉え、直撃して吹き飛ばした。
(勝った!!!!)
今度こそ、嘘偽りの無い手応え。
確実に紫の身体を捉えた筈だ。
攻撃の反動と慣性で回転が止まらない幽香は、確信した。
「勝った……」
視界の片隅に、もの凄い勢いで落下していく紫の姿、と。
……と?
一枚の……。
スペルカード。
結界「魅力的な四重結界」
スペル発動。
幽香は動けない。
超至近距離、零距離という方が適切か。
幽香の周囲の空間全域に、結界が展開される。
「う……!!!」
瞬時にして完成した結界は容赦無く、動けないままの幽香を、その中心点へと引き込んだ。
抗い様の無い凄まじい強さで。
「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!!!!」
服が炭化する。
肉が焦げる。
骨が軋む。
血が沸騰する。
霊力が幽香を焦がす。
「読んでたって……言うのッ……!!?があああああああああッ!!!!!!!」
抵抗の為の霊力も、魔力も集中出来ぬまま、幽香はスペルブレイクの瞬間まで結界に囚われ、焦がされ続けた。
「くぉっ……」
四重結界から開放され、崩れるように落下した幽香は、そのまま大地に叩き付けられた。
落下の衝撃で土埃が舞い上がり、周囲一帯の視界が閉ざされる。
立ち込める土埃の中に、揺らめく影があった。
肩口を手で押さえながら立ち上がった紫だった。
「いたたた……こりゃ効いたわぁ……」
激痛に顔をしかめながら、ふらふらと歩き出す。
愉しくてたまらないというような笑みを浮かべて。
「貴女も頑丈ねぇ……アレを受けてまだ立てるなんて。ダメージはともかくすっごく痛いのよ?あのスペル」
紫の視線の先……そこに、苦痛に顔を歪ませて、そして凄絶な笑みを浮かべる幽香の姿があった。
「痛かったでしょー」
「ケホッ!ごほごほ……ま、確かに痛かったわよ……」
幽香が軽口を叩く。
さも愉快そうに、憎憎しげに。
しかし。
「まだ遊ぶ?」
紫が次のスペルカードを取り出してニヤリと笑う。
面白い玩具を見つけた子供の様な表情で。
「そうね。そうしたいけど」
しかし……幽香の瞳は。
「ケホッ…あんた、すごくいいわ。妙に強くてさ」
「あら、強さ自体はそう変わらないと思うけど。アレね?経験の差?私の方がお姉さんだしぃ……あたたた……」
紫はあくまで愉しそうだ。
面白くなってきた、そう思っていた。
だが、幽香は、そうでは無かった。
彼女の瞳に写る色。
それは。
「ホント……あんた強いわ。もっと遊んでもいいけど……まぁいいわ」
……退屈の色。
「今日はもう疲れたから」
幽香の瞳がスッと細められていく。
眼光は冷たく。
幽香の周囲の空気が変わった。
それは、絶対零度の瘴気。
何処までも禍々しく、そして狂った正気の放つ、凍てつくオーラ。
「……疲れたから」
紫の顔色が変わる。
(これは……)
紫が、その次の思考を続けることは出来なかった。
「殺すね」
一瞬の空白。
時間が完全に停止したかのような錯覚。
その瞬間。
「あ……」
己の肉体を、内部から「食い破って」押し寄せる、「何か」を紫は感じて。
その「何か」が自分の肉体を破壊し、「生まれる」ということを漠然と悟りながら……紫の意識は途切れた。
紫は崩れるように倒れた。
その全身から、大量の花を咲き乱れさせて。
「ハッ……!!」
その様を瞳に焼き付けるように見つめた後、紫に背中を向け、幽香は乾いた笑い声を上げた。
口元を締めてもすぐに緩んでくる。
どうしようもない。
……終わりだ。
「ハハハハ……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
倒した。
あれだけ強かった八雲 紫を倒した!
自分が知る限り、最強の妖怪を倒してやった。
殺してやった!!!
「アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」
愉快、愉快。
気分爽快だ!
幽香は勝利の感覚に酔いしれた。
哄笑が、荒れ果てた戦場に響き渡る。
左手で顔を抑え、亀裂の様な笑みを顔面に貼り付かせて。
狂的に、禍々しく、無邪気に笑い転げる……。
その時だった。
ずる。
「ハハ……?」
ずる、ずる、ずる。
「…!っへぇぇ……」
何かが地を這う音。
幽香はその音がする方をゆっくりと振り返って見た。
全身から数え切れないほどの花を咲かせ、肉体をことごとく破壊されて生命力を急速に吸収され続けながら尚、紫は生きていた。
「ゴキブリ並の生命力ね……いいえ、あんたの前じゃゴキブリなんて塵以下ね。それを受けてまだ生きてるなんて」
「…………………」
紫の口が動くが、それは言葉にはならず、しゃがれた呻き声にしか聞こえなかった。
喉からも生えている花が、紫の声帯を破壊しているのだろう。
全身から何千何万もの種類の、色鮮やかな花を咲き乱れさせ、その花すべてを鮮血に濡らして。
片方の瞳は眼球を貫いて眼窩から生えた花が不気味に蠢いて。
片方だけ残された瞳で。
このような惨状になって尚、紫は意思の輝きを持った瞳で幽香を見ていた。
「驚いた、これを受けてもまだ正気を保ったまま生きてるなんてね」
幽香は心底感心したとでも言うように、目を丸くして驚いていた。
純粋に驚いている。
だが焦りは無い。
本当に、ただ驚いているだけだった。
「どう?素敵な能力でしょう?花を咲かせるのに場所なんて選ばない。時間なんて要らない。その数は無制限。その種は自由自在」
唄うように幽香は語る。
だがその表情は唄ってなどいなかった。
憎悪と憤怒、そして狂気と、それに混じる喜悦。
「ただ「花を操れる程度の能力」。それだけで」
幽香が左手を軽く上へと挙げる。
紫が倒れている地面から、突然花が芽を出し、巨大に育って紫を弾き飛ばした。
為す術無く転がっていく紫。
「私は誰よりも強い。そうでしょう?「元」最強。私が最強の妖怪なのよ」
幽香は傘を突き出した。
「知ってる?花ってね、綺麗なのは外面だけなの。アイツらはね、下種で愚劣な外の人間よりも、自分のことしか考えない、
考えられない塵なのよ」
「……?……」
「多種の都合など考えない、考えられない。奴らの意思と本能は唯一つ」
傘の先端に淡い光が燈る。
「…「生きたい」。唯それだけ。「自分さえ生きられればいい」、それだけ」
「…………」
「!へぇぇ……そうか、貴女も知ってるんだ。でも……」
その光は七色。
徐々に光はその輝きを増していく。
「貴女には、昼夜問わず花どもの悲鳴が聞こえた経験は無いでしょう?」
「…………?」
「私の目的?貴女を殺したい理由?……目的は、この世すべての花を殺すこと。殺して私の花に入れ替える。
私の花は綺麗でしょ?その上」
傘の先端に燈る光が、更に輝きを増し、魔力の弾ける火花とプラズマがほどばしる。
「私の花は、塵どもと違って身勝手を言わない。私が生み出した命は皆いい子だから」
そう語る幽香の表情は、我が子を愛しむ母親のそれだった。
「貴女を殺したい理由。それは最初に言ったでしょ?私の趣味。それと、私が最強なら私の邪魔をする奴がいなくなるし、
目的達成もやりやすくなる。……けど、ま」
幽香の目が細まる。
「目的の方は結構どうでもいいの。気長にてきとーにやるし、その程度だから。今の私のすべては殺したいこと、これだけ。
だって殺し合いって素敵でしょ!?闘争って最高じゃない!!最強の証明!!!
ただ生きるだけなら永遠な、退屈な生を潤す唯一絶対変わらない娯楽!!!」
哄笑が響く。
幽香は狂ったように笑い出した。
「目的を達成する為には、それを阻もうとするありとあらゆる障害を、すべて残らず叩き潰す必要があるの」
三日月のような亀裂の笑みを貼り付けて。
「解かるかしら?解るわよね?あはははっ!!その為には力が!何ものにも屈せず、勝利し蹂躙出来る程の力が必要なのよ。
最強の存在になる、それが必要不可欠で絶対の目標……」
狂気の渦巻く瞳がカッと見開かれた。
「目的の為の手段が、手段が目的となる。妖となってもまだ、人の欲と本能が消えていない!私の発見した新事実!
人間も妖怪も、根っこは同じだってこと!!!何だか素敵だと思わない!?ねぇ、紫」
幽香は紫に問いかけたが、彼女の返答を待つ気は、幽香には無かった。
「結構、解ってくれるものなんだけれど、貴女はどうかしらね、紫。……とっても面白かったわ」
集約された魔力が、その輝きを増す。
その輝きは、七色で、美しく……どこまでも禍々しい。
「さようなら、紫。魔理沙のままごととは違う、本家本元を味わいながら……閻魔の世話にでもなりなさい。
残された力の残滓と活きの良さそうな式二匹は私の肥しよ」
強大なエネルギーの奔流。
その輝きは死への誘い。
「ばいばい、紫。……名前借りるね、魔理沙」
集約された光が一段とその輝きを増し、七色は極彩色となり幽香の殺意を表現する。
「マスタースパーク!!!…ってね」
魔力のこもった呪が、幽香の口から唄うように、涼やかに紡がれた。
「……………!!!!」
軽く口に出されたその言葉は死の宣告。
紫は、自分に向けて放たれたそれを、ただ為す術無く見ていることしか出来なかった。
触れるものすべてを原子まで分解し、その上消滅させるその光の柱は、彼女の知る魔法使いのそれとは比較にすらならなかった。
死と破壊。
滅びという名の光の魔砲が紫を飲み込んだ……。
煮沸した大地に炭化した何か。
地獄絵図と化した戦場の跡。
動くものが何一つ無いそこに、風見 幽香は佇んでいた。
「さっすが」
幽香の視線の先に、紫が倒れていた。
所々が炭化して、もはやどこがどの部分なのか見分けもつかぬほど損傷していたが、服の、紫色の生地部分が辛うじて、
その焼け焦げた体躯の主が紫であると教えていた。
「欠片も残さない自信があったんだけどなぁ。流石は八雲 紫。……死んじゃったけどね♪」
……紫は完全にこときれていた。
肉の焦げた臭い。
全身から生えた、炭化した植物。
最後の最後で抵抗でもしたのだろうか。
所々「まとも」な箇所が存在していたが、それも極僅か。
抵抗したと思われる、紫の両腕は、肘の部分から爆ぜて無くなっていた。
「結界張って耐えようと思ったんだ?馬鹿ね」
幽香はつかつかと紫の亡骸へと歩み寄ると、彼女の身体を軽く蹴った。
「じゃあね」
そう呟くと、踵を返してその場を後にしようとする。
その時。
「!」
幽香のこめかみを、何かが掠めた。
「ああ…そう言えば」
幽香の顔が歪む。
喜悦の表情。
「まだ……あんた達が残ってたわね」
「……殺す!殺してやるぞ……!!!」
「紫様の…仇!!!」
幽香の背後に、憎悪と憤怒でどす黒く染まった表情の、藍と橙の姿があった。
「「貴様だけは絶対に殺す!!!!」」
「食後のデザート代わりには丁度いい!!?やってみせろ!式神風情がッ!!!!!!」
……戦闘は一時間ほどでカタがついた。
化け狐の方は、流石は八雲 紫の式だけあって中々に愉しめた。
弾幕ごっこ用じゃない、制限無しのスペルを連続で使いつつ、驚異的な身体能力を活かした肉弾戦まで仕掛けてきた。
化け猫の方も、格の低い妖怪とは思えない強さで挑みかかってきた。
思ったよりも「やる」方だったと言わざるを得ない。
必死に、健気に主の仇を討とうとするその姿は感動的だったわ。
……でも、とても残念なことに。
その時私はお腹が空いてきてしまったの。
もっと長く遊んでいたかったけれど、「腹が減っては遊びは出来ぬ」って言うじゃない?
戦って空腹を覚えるほど消耗したのは、随分前に霊夢と戦った時以来。
霊夢とは弾幕ごっこでアレだったから、本気で殺し合ったらきっと凄いハズ。
……減った魔力は、紫の魔力の残滓を「食べて」補充したし、何よりそれを「食べた」から、私の力は今まで以上。
今の私ならきっとアイツを殺せる。
前のままでも殺せたけど、余裕が出来たってわけね。
ってワケで魔力の方は心配無いんだけど、空腹ばかりはどうにもならない。
私の食事は、割と人間に近いから、家に帰って用意しないと。
遊んであげたかったけれど、空腹には、流石の私でも大抵は敵わない。
なので、すぐにケリを付ける事にしたわ。
……先ずはチョコマカと動き回る二匹の両脚に花を咲かせて止めてやった。
狐は必死に耐えてたけど、猫の方は耐え切れずにいい声で鳴いたわ。
痛くて当然じゃない、痛くしてるんだから。
のた打ち回ろうにも、足から生えた花は肉を突き破って地面に深く根を下ろしてるから、痛みを少しでも忘れることが出来ない。
動けなくしたところで、私は二匹に極上の笑みで御褒美をあげたわ。
怒り狂った顔で御礼もしてくれて…なんて可愛い。
そんな顔されたら……ゾクゾクしちゃうじゃないの。
全身から花を咲かせて殺してあげようと思ったけれど、その表情に免じて、ご主人様と同じ死に方をさせてあげたの。
二匹同時に、マスタースパークで焼き尽くしてあげたわ。
…断末魔の叫びが今でも耳に残ってる。
私を呪う、呪詛と怨嗟の絶叫!!!
ああ、ありがとう!
貴女達二匹のおかげで、私はまた強くなりました。
貴女達の怒り、辛み、恨み、負の感情、私に対する負の感情が、私を焦がす度!!
私は私が最強であることを実感できる!!!
私は強い。
誰よりも強い。
それが私の、私が見出した価値。
最強の証。
私が私であることの価値。
え?それじゃ悲し過ぎるって?
私には……家族も友も恋人もいない。
……いいなと思う娘はいるけれど。
何も無い私にとって、それはすべて。
強さこそすべて。
悲しくなんてないわ。
……本当に。
秋風が気持ちいい。
ゆっくりと風向きに任せたまま飛ぶのも中々にいい。
……八雲一家の力を喰べて、私の力は大きく上がった。
私はさっきのままでも最強だと自負しているが、今の私はもっと強い。
簡単に言えばスタミナが増えたようなものだ。
単純なようで、これは大きい。
さっきまでは、全開で戦える時間を1とすると、今は10以上。
魔力の基本値も底上げされてるから、実質的なパワーアップは想像以上だ。
……もう、何が相手でも、そいつが何人いようと負ける気はしない。
「って言うか負けれないじゃん私。あっはっはっは……」
……愉快。
私が戦った中で、まだ勝ちを上げた事の無い存在。
知り得る限り、最強にして最悪の相手。
博麗 霊夢。
……超楽勝で圧倒し、殺す。
強さだけじゃない強さを持つ、あいつという存在を捻じ伏せ蹂躙する為に。
今度こそ。
勝って殺してやるわ。
すべての存在において、「最強の存在」は私だけでいいのだ。
立ち塞がる奴は、どいつもこいつも皆殺しだ……。
「……殺気位隠したら?……何時ぞやの幽霊侍さん」
「……隠す必要はあるまい。殺してやるのだからな」
気配は真下、木々の中からやってきた。
ちょっと前から段々と近付いて来たので、走って追いかけて来たらしい。
……暑苦しい奴。
「こっちに来たら?姿が見えない相手との会話はイラつくのよ。なんなら下の土地ごと消し炭にしてやるわよ?
殺し合いしたいのならいらっしゃいな」
私が言い終わると同時に、殺気の主が上昇して来て姿を見せた。
「…怖い顔。そんな顔してちゃ誰も寄ってこないわよ?殺されちゃいそう」
「……就いて来い。お前を殺したい御方が待っている」
「へぇ……」
私の安い挑発など意にも介せず、緑の服を纏った半人半霊の少女は急激に加速して遥か彼方へと飛び去った。
「ちょっと待ってってば」
名指しとあらば、とても楽しいことだろう。
行かない手は無いじゃない?
「……私ってば死んじゃった?」
着いた先は冥界。
いつぞやの、花の異変の時に門のところまで来たことがあったっけ。
今、私はその冥界の門を越えた所、門の内側にある大きな屋敷の敷地内にいた。
白玉楼というのがここの名前らしい。
絢爛豪華な、純和風の武家屋敷。
二百由旬もありそうな広大な庭は丹念に手入れされ、まさに芸術と呼ぶに相応しい。
その庭の中心部、巨大な枯れ桜のある場所に、彼女らはいた。
「……はじめまして。私、この白玉楼の主、西行寺 幽々子です」
蒼い衣を纏った、ほんわかとした少女が名乗った。
……幽霊か、こいつ。
「……魂魄 妖夢。西行寺家に仕える庭師だ」
「知ってるよ。忘れてただけで」
「……」
私は一応、客だぞ?
従者の教育がなっていないと文句をつけてやろうかと思ったが、その前にもう一人の少女が名乗った。
「伊吹 萃香だ。鬼よ」
「まぁ、鬼!?幻想郷にはいないと聞いていたけれど…」
「いるんだよ、残念ながら」
「残念?いいえ、これは素晴らしいことですわ!鬼と会えるなんて。是非、御手合わせ願えるかしら」
まさか鬼に出会えるとは。
魂魄 妖夢に就いてきた甲斐があったというものだ。
「ああ。そのつもりで呼んだんだよ。……望みどおりブチ殺してやる」
萃香と名乗った鬼の形相が変わった。
強烈な憎悪と憤怒が合わさった、鋭い殺意が私に叩き付けられる。
「アイツは……!紫は……悪い奴で、悪さばかりする奴で、迷惑ばかりかけて、いつも寝てばかりだったけれど……っ」
萃香が私に指を突き付けて叫んだ。
「私にとって、アイツはかけがえの無い親友だった!!!」
その双眸には燃え盛る怒りの炎が渦を巻き、一滴の涙が炎の灯りに照らされて輝いていた。
「紫様だけじゃない……藍殿も、橙も……お前なんかに殺される理由は唯の一つも無かった……!!!」
妖夢が激昂する。
ズラリと腰の二刀を抜き放ち、右の刀を私に向ける。
陽光を受けて、美しい刀身が燦然と輝く。
研ぎ澄まされた殺意。
「八雲 紫は、私の…たった一人の親友だったの」
幽々子が呟いた。
その声音には何の感情も感じられなかった。
「…その割に、そっちの二人と違って随分と冷静じゃない?」
軽く挑発。
見た感じ……コイツが一番強そうで、やばそうだ。
……是が非でも、殺してやりたい。
「親友が殺されたから仇討ち?この世界で、私達みたいな人外はドライだと思ってたけれど存外…そうじゃないみたいね。
でも貴女はそうでもないのかしら?西行寺 幽々子」
調子に乗って挑発を続けようとした私だったが、次の瞬間、口が動かなくなった。
「……涙はもう…枯れ果てたわ。私は貴女を殺す。人が無意識に蟻を踏み潰すみたいに。知ってる?
怒りっていうのは…度が過ぎると無味乾燥になっちゃうのよ」
……膨大な数の、黒い蝶が私の視界を埋め尽くす。
敵は三人。
幽霊に半人半霊、そして鬼。
それぞれ強大な力を持ち、特に幽霊と鬼の実力は相当なものだ。
相手にとって不足は無い。
闘いは昼に始まり、深夜まで続いた。
中々どうして、手強い。
幽々子の、「死」の能力が最大の障害だった。
その能力を具現化した、「死」そのものの黒い蝶。
その蝶が弾幕となり、戦場を所狭しと埋め尽くす。
傍目には、ただ幽々子は美しく優雅に舞を踊っているだけに見える。
だが、その舞は死の舞踏なのだ。
研ぎ澄まされ、静かに激しく燃え盛る殺意と怒りは、時にその者を何よりも美しく魅せる。
私が避けた、一匹の蝶が地面へと触れる。
触れた地点を中心に、半径4メートル程の土地が「確かに死滅した」。
…もう二度と、あの場所に植物も生えず、生き物も居つかないだろう。
流石の私も、触れたら一発でゲームオーバーだ。
これを避けつつ、しゃにむに突撃してくる妖夢と、緩急織り交ぜて攻撃してくる萃香を同時に捌かねばならない。
だけど、まあ……。
二人を捌くこと自体は、私にとってそう難しい問題じゃあない。
問題は幽々子だ。
……まずは幽々子から殺す。
どう殺すかって?
簡単な話だ。
高密度の霊力を奴の魂魄に直接ぶつけ、叩き壊せばいい。
だが、それには接近戦に持ち込まなければならない。
「はぁぁぁっ!!!!」
「っと!危ないわね!!」
「喧しいっ!八つ裂きにしてくれる!!!滅!!!!」
刺突、払い、唐竹。
しつこく追い縋り、刀を嵐の様に振り回しながら、同時に衝撃波を連発してくる。
……まるでダニだ。
「鬱陶しい…!!」
だがこいつに構っている間は無い。
蝶から注意を逸らせばその瞬間にあの世逝きだ。
私はこいつに構わず幽々子へと突進した。
私の背後はがら空きだ。
「でやあああああっ!!!」
その隙を逃すまいと妖夢が肉薄する。
刺突きか。
……わざと見せた隙に食いつく様じゃあ……まだまだだ。
「黙ってろ!!!」
全身に魔力を集約。
それを体内で一気に炸裂させ、全身から放出する。
「発勁」とか言う、人間の技と、弾幕除けの「霊撃」を合わせて私流に発展させた技だ。
名前はまだ無い。
「うあああっ!!?」
私を背後から貫こうと突進してきた妖夢は、私の攻撃を避けれない。
まともに魔力の衝撃波を浴びた妖夢は後方へと吹き飛んでいく。
萃香が私の眼前に立ち塞がるが、私は速度を緩めず萃香へ突っ込んだ。
萃香が私に掴み掛かってくる。
投げる気か!!
傘で萃香の腕を払い、間髪入れずに顎を真下から蹴り上げた。
「今はすっこんでな!後で遊んでやる!!」
浮いた萃香に目を向けずに大玉を5、600発放ち、更に速度を上げて幽々子に向けて走った。
「…………!!」
幽々子の舞が更に激しく、加速する。
こちらの狙いに気付いたか!
膨大な数の黒死蝶……その数は最早計測不能。
少なくともこの状況下で数え切れる量ではない。
けれど……抜けられる。
そう思った。
確信と言っていい。
私は速度を緩めず逆に、更に速度を上げた。
高密度の弾幕、その隙間を抜けて駆ける。
避けて避けて避けまくる。
避けれないヤツは霊力を伝わらせた傘で払い落とし、弾幕をぶつけて相殺する。
「ちっ!!」
幽々子が舌打ちする。
「「弾幕」で駄目なら、「壁」はどう!!?」
幽々子が叫んだ。
と同時に、彼女の眼前に巨大な黒死蝶が現れた。
それが4匹、文字通りの壁となる。
隙間は…無い。
巨大な黒死蝶が羽ばたき、更に小さな黒死蝶を生み出す。
ミサイルがミサイルを撃ちながら迫ってくるようなものだ。
背後に気配が生まれる。
妖夢と萃香が体勢を立て直し、こちらへ向かってきているのだろう。
だが、まだ時間はある。
「隙間がないなら作るまで」
私の前に敵意を持って立ち塞がる奴は、何だって許さない。
「消し飛ぶがいい!!」
傘を突き出し、先端に魔力を集約。
急速に莫大なエネルギーを集め、収束し……。
「マスタースパークッ!!!!」
「!!?何ですって…!!」
紫の時とは違い、ゆっくりと待ってやる義理は無い。
一気にチャージし、溜めを作らず撃ち放つ!!!
七色の光の柱が、迫り来る黒死蝶の群れをまとめて吹き散らす。
私の魔砲は、黒死蝶の背後にいる幽々子も巻き込んだ。
マスタースパークの名を聞いた瞬間の、幽々子の顔は滑稽だった。
どうやら余程、魔理沙の奴に酷い目に合わされたらしい。
「ああああああああああああああっ!?」
「幽々子様!?」
「何であいつがっ」
マスタースパークの名ではないが、本家は私だ。
きちんと魔力の充填が不十分だからシケた威力になったが、それでも本家本物。
オリジナルの威力、とくと味わうがいい!!
幽々子を巻き込んだ光は、幽々子の高い霊力に反応し炸裂した。
強烈な魔力の残滓を撒き散らし、轟音を発して大爆発を起こす。
普通の相手ならこれだけでケリが着く。
だがこんな程度で終わるような相手なら、私は闘わない。
魔力の充填が不十分なこの魔砲で死ぬような相手を手に掛けたら、私の誇りに傷が付く。
「まだよっ!!!」
爆光の中から炎を纏って、幽々子が飛び出してきた。
「せやぁあああああああああああああッ!!!!」
扇を刃に見立てて、自身を高速回転させて突撃してくる。
竜巻が意思を持って突っ込んでくるより酷い。
触れればミンチどころか何も残らないだろう。
……面白い!!
傘を畳んで魔力を纏わせる。
同時に霊力を込め、魔力と組み合わせて増幅。
眩い光を放ち、傘を媒介にした光の剣を作り上げる。
「はああああああああああああああああっ!!!」
手にした剣を振りかざし、私は幽々子に向けて突進した。
……一撃で決める。
回転する幽々子の動きが更に速くなる。
互いに必殺の間合い。
私は臆する事無く更に踏み込んだ。
真っ向から迎え撃つ。
剣が一際大きく輝いた。
閃光を放ち、輝く刀身が巨大化する。
突進の勢いと全体重を乗せて、一気に振り下ろす!!
幽々子の扇と私の傘が激突する瞬間。
互いの纏う魔力がぶつかり、スパークして爆発を引き起こす。
刹那の轟音。
眩い閃光を放ち、炸裂する強大なエネルギー。
その衝撃で弾かれそうになる身体を強引に持ち直させ、懇親の力で傘を振り抜いた。
……手応えは無かった。
だが…。
「…獲った」
手応えは無かった。
当たり前だ。
幽霊に斬りつけることは、霞を斬るようなものだからだ。
物理的感覚があろう筈も無い。
「けれど霊感としては手応えあり。……終わりよ、亡霊」
交差して、お互いに背を向けた状態。
私は背後の敗者に私の勝利を告げてやる。
彼女の攻撃は、私には届かなかった。
届く前に私の一刀が彼女を斬っていたのだ。
「…かはっ」
私の傘…剣は幽々子の霊体、魂魄を捉えた。
剣は容赦無く彼女の魂魄を斬り裂いた。
斬り裂いた魂魄は、私の剣に込められた霊力によって完全に破壊される。
私の霊感が、幽々子の魂魄を破壊したという感覚を私に教えた。
「幽々子様っ!!!!?」
「あ……」
背後の気配が消失する。
霞を掻き消したような感覚を私に残して。
「さようなら」
西行寺 幽々子は……死んだ。
「くっ…くくくく……はははははははははははは……」
「うわぁああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!」
妖夢が激昂する。
「お前ッ!!お前ぇぇぇぇぇッ!!!!!」
萃香が吼える。
「……次はお前達だ」
歯を噛み鳴らして、私は一歩踏み出した。
…………あれから私は退屈せずに数日を過ごした。
目に付く強い奴をバラバラに引き裂いて殺した。
耳に入る強い奴を粉々に打ち砕いて殺した。
感じられる強い奴を……どうしたっけ?兎に角殺した。
殺して殺して殺し尽くした。
倒し、殺した連中の力を喰らい、私の力は増して行く。
私自身の強さも殺し合いで高まった。
……皆には、とてもとても感謝しています。
あははは。
いくら殺してもしつこく生き返る、竹林の生き死体どもは、花の種子を撃ち込んで未来永劫、生命を吸い続ける様にしてケリをつけた。
生きていても動けず、生きていられる瞬間はせいぜい刹那の一時。
死んでいるのと変わらない……文字通り「植物状態」だ。
冥界に行き、三途の川を渡って地獄まで行って来た。
幽霊侍5、6人に相当するレベルの死神が大量に出てきて、それ以上の実力を持つ死神もやっぱり大量に出てきて面白かった。
死神どもに混じって地獄の悪鬼やら悪魔やら、それに閻魔大王も何人か出てきていたが……数は忘れた。
確かなことは、地獄にいた連中を皆殺しにしたということだ。
湖へ行き、紅い館へ行った。
数はいなかったが、馬鹿みたいに強い姉妹がいて紫並に面白かった。
触れただけで壊れてしまいそうな魔女もいたが、こいつの魔法は中々どうして凶悪で、真っ先に叩かないとやばかった。
時間を操るメイドや、パワーこそ劣るが前の鬼より手強い、よくわからない妖怪もいて、屋敷全体が面白かった。
途中、リボンを外して襲い掛かってきた雑魚もいたけど、これもそこそこ面白い。
殺してしまうのがとても惜しかったけれど、全員綺麗に殺してやった。
吸血鬼は灰も残さず消滅させて、無様に生き返らないようにしてあげた。
私って親切よね?
あはははははは。
幻想郷中を粗方殺して回ったけれど、心の底から満足したのは紫、映姫とかいう閻魔、不死身の弓使い、吸血鬼姉妹の五人ぐらいだった。
けれど、足りない。
まだ足りない。
自分でも良く解らなくってきている。
戦って闘って。
殺して殺して殺すうちに。
闘って、殺すことが止められない。
面白い。
楽しい。
ずっと続けたい。
……きっとこれは中毒。
私は酔っている。
決して醒めない、醒めれない快感。
闘ったら次の相手へ。
殺したら次の相手へ。
先に挙げた五人はとても楽しく愉しかった。
私を満足させた。
でも、駄目だ。
彼女らが悪いのではない。
私が欲張りなのが悪いのだ。
欲張りな私は満足しただけでは足りないのだ。
満足を突き抜けた欲望の境地へ!
尺度を超えた快感へ!!
計れない衝動の更に先へ!!!
私は行きたい。
逝きたい。
征きたい。
……征かせろ。
……幸いにして、私をその境地へと導いてくれる相手を私は知っている。
「博麗 霊夢」
幻想郷の巫女。
博麗の巫女。
それは最強の存在。
私と同じ妖の者であれ、人間であれ、弾幕、闘争、これらの界隈に目を向け耳を傾けたものなら誰もが知らずにはいられない存在。
何が相手だろうと関係無く勝利する。
質だろうが数だろうが関係無く、敵意を、悪意を持って立ちはだかるものをことごとく粉砕し、下し、勝利する。
絶対無敵の超越存在。
彼女にとって勝敗など無い。
彼女が勝つシナリオしか無いのだから。
完全な一本道。
選択肢は、無い。
絶無だ。
本来なら挑むこと自体が無駄で、無謀で、無意味で、価値が無い。
……それに、私は価値を見出す。
比較すること自体が間違いな、「最強の存在」。
私は彼女を打倒する。
霊夢をこの手で殺し、「最強」の証明を。
最強は二人も要らない。
唯一つの例外であればいい。
彼女に勝つにはどうすればいいか。
力か?
答えはNOだ。
単純な力だけなら当の昔に勝てている。
必要無い訳じゃあない。
上手く使えるかどうかだ。
小難しい話は嫌いだけど、要は力を使いこなせるかだ。
自身の力を完全に支配し自由自在以上に使えればいい。
それが出来て初めて強いと言える。
力だけあっても強いとは言えない。
技だけあっても力負けしては意味が無い。
双方を兼ね備えたものが強いのだ。
最強たる私は当然、その二つを極めている。
寄り道を重ねて、極めたものを更なる境地へと押し上げたのだ。
楽しみながら勉強したということね。
勝てない道理は、もう存在しない。
私は最強なのだから。
相手はもう、唯一人きり。
なら、どうする?
決まってる。
それしかないじゃない?
「自分から出向いてきてくれるとはね」
博麗大結界の境界。
博麗神社。
「気が利くでしょ?私。どこかのぐうたら巫女とは天と地の差ね」
人間には寂れて見える場所。
人外の者、人の理から外れた者にとっては楽しく、騒がしく、殺伐とした…賑やかな場所。
お気に入りの花畑と、私も知らないような妙なキノコが生えてたりする魔理沙の家の周囲以外で、多分一番好きな場所。
……博麗 霊夢との死合いの場。
「邪魔しないでよ」
神社の境内で私と対峙しているのは、霊夢と……魔理沙。
それぞれがお札に、箒を手にし、構えている。
霊夢に比べ、魔理沙は……はっきり言って雑魚以下だ。
彼女もそれを理解していると、その表情が物語っていた。
それでも、この場に立つということは……。
「…想われてるのね」
……小さな苛立ちが心を焦がす。
……嫉妬か、馬鹿馬鹿しい。
「下がってなさいよ、バカ」
霊夢が魔理沙に向かって言った。
「足手まといよ」
「……別に、お前に手を貸すつもりじゃないんだがね」
霊夢はそれ以上言わずに、私に向き直った。
魔理沙も私に向かって一歩踏み出す。
「幽香……なんでこんなことするんだ?」
魔理沙が私を睨みつけて、そう言った。
その手は静かに震えて、瞳は怒りと……何かしら。
「……解ってるクセに」
「……魔理沙、下がってて……」
霊夢が低い声で魔理沙に言った。
有無を言わせぬ口調で。
魔理沙は何か言いたそうな顔で、しかし霊夢の言葉に従って一歩下がった。
……貴女はそこで、そうしていなさい魔理沙。
貴女は殺さないでいてあげる。
「……始めましょうか」
「いつでもどうぞ」
…さぁ。
宴だ。
初手は私が仕掛け……る前に霊夢が動いた。
視界を埋め尽くす札、札、札。
その数、その密度。
これまで私が戦い、殺し合って来たどんな相手よりも凶悪で。
そして……。
「なんて魅力的な……殺意の弾幕」
全身に、闘志と殺意を走らせる。
私のすべてを闘志と殺意を合わせた衝動で塗りつぶし、衝動そのものへと変化させていく。
「征くわよ、博麗 霊夢」
展開。
魔力と技の粋を凝らして、瞬時に超高密度の弾幕を創り上げる。
最初から全力だ。
ただの小手調べなど不要。
全力で小手調べる!
「シィッ!!」
涼やかな音色を奏で、私の弾幕が霊夢の弾幕へ飛んで行く。
互いの弾幕がぶつかり、相殺されて、干渉し合う二つの霊力が炸裂し、境内が爆光に染め上げられる。
美しく散らされる霊力の光。
しかし。
それに見惚れる余裕は無い。
お互いに。
私が石畳を蹴るのと同時に、遥か上空に霊夢が姿を現した。
……弾幕をまるごと飛び越えてきたか!!
霊夢が両腕を顔の前で交差させ、次の瞬間その両腕を外側へ向けて大きく振るった。
無数の針。
それが恐ろしい速さで上空から私とその周囲に向かって降り注ぐ。
針の雨だ。
私は傘に霊力を込め、私と針の間の虚空を薙いだ。
巨大な圧力を伴う衝撃波を発生させて、飛来する針の雨を蹴散らした。
「その程度かっ!!?」
「……なワケないでしょ」
霊夢の両腕が掻き消えた。
否。
目にも映らぬ速さで動いた。
「っおぉ!?」
頬を何かが掠めた。
……札だ。
霊夢が踊る。
空中で行うクレイジーダンス。
その死の舞踏から繰り出される、札、針、霊力弾。
「…上等ォ!!」
迫り来る膨大な量。
私もそれに負けじと魔力弾を一気に大量に生成し、霊夢のそれにぶつけた。
相殺、爆発。
連鎖的に起こる爆発の中に、私は突撃した。
撃ち合いじゃケリはつかない。
直接叩く!!
牽制に数千発撃ち込み、傘を突き立て突進をかける。
「夢想封印!!!!」
霊夢の声がした。
スペルか!!
極彩色の、巨大な霊力弾が四方八方から私に襲い掛かる。
だが、着弾する前に霊夢を捉えれる!
そう思った矢先……。
「……………!!!」
霊夢の声がした。
声だけが聞こえた。
何を言ったのか聞き取れない。
だが、私はそれを漠然と確信した。
スペルだ。
一瞬で、恐らくは……数千回もの。
「っはは……」
乾いた笑みが私の口をつく。
まったく……!
「やってくれるじゃない!!!」
計測するのも馬鹿馬鹿しい数の、極彩色霊力弾が私を襲った……。
意識が無くなったのはほんの一瞬だった。
「カハ……」
喰らったスペルで意識を落とされ、体勢を崩し、隙を作った…。
だが、霊夢相手に隙を晒すことは、たとえ一瞬であっても……!!
「破!!!」
超多重夢想封印のダメージで全身をズタズタにされた私に、払い棒を構えて霊夢が一気に間合いを詰めてきた。
神速の速さで踏み込み、払い棒を真っ直ぐに突き出す。
無様に隙を晒していた私は、その一撃をかわすことが出来なかった。
左肩に棒が触れる。
猛烈な衝撃が私の全身を襲った。
まるでパイルバンカーだ。
私はたまらずに吹っ飛んだ。
「ぐがっ……!!!!」
嫌な音が響いた。
ぐしゃり。
筋骨がひしゃげる音。
ろくに防御も構えもしなかったせいで、私の肉体は激しい損傷を受けた。
不意に、身体が軽くなる。
……肩先から左腕が吹っ飛んだのだ。
「あああああああああああああっ!!!?」
なんて威力。
打撃で妖怪の身体を破壊するのは、人間では至難の業…いや、不可能に近い。
これがコイツの力かっ!!
吹き飛んだ私に、霊夢は更に追撃をかけてきた。
跳躍。
加速と体重をたっぷりと載せた回し蹴りを放ってくる。
吹っ飛び、いまだ空中にいた私は、それをまともに側頭部へ受けた。
が、今度は被弾箇所に気と霊力を集中し、インパクトの瞬間に、僅かに頭を動かして打点をずらし、ダメージを抑えた。
並の相手が喰らえば、頭蓋骨は潰れた卵みたいにグシャグシャになってしまうだろう。
「くそっ……!!やってくれるじゃないっ!!!」
被弾の反動を利用し、私は空中で回転し、姿勢を戻す。
心なしか身体が重い……!
「……!」
体勢を立て直した私の視界を、霊夢の姿が塞ぐ。
横薙ぎに払い棒が襲ってきた。
「ち……!?」
右の傘でそれを防ぎ……。
「でりゃあっ!!」
霊夢のフェイントだった。
片腕が吹っ飛んだ今の私が右手を使えば……ガードはがら空きだ!!
霊夢の回し蹴りが私の鳩尾に深々と突き刺さる。
「っがぁぅ……!!!」
口から何かが飛び出しそうになる。
骨も何本かイカれた……!
かろうじて踏みとどまったが……。
「終わりにしましょ」
霊夢が呟いた。
「……陰陽鬼神玉」
私へ向けてかざされた霊夢の掌に、途方も無い量の霊力が集約される。
「滅!!」
絶望的な量の霊力の塊が私へ向けて解き放たれた。
同時に……。
私の周囲を無数の光弾が取り囲む。
更に。
「!!これは……」
何時の間に。
私の身体に無数の札が貼り付けられていた。
「…っははは」
まったく……!!
身体が重いのはこのせいか!
頭を蹴られた時に貼り付けられたか……。
「霊夢っ……」
奴の名を叫ぶのと同時に、全身に貼り付けられた札が、込められた霊力を開放し、一斉に爆裂した。
目覚めは不意にやってくる。
全身を焼くような激痛が襲い、意識が覚醒する。
また、一瞬、意識を落とされていたか。
蹲る様にして私がいる場所が爆心地だ。
周囲の地面は未だ煮沸し、爆煙のせいで周囲の視界は閉ざされたまま。
恐ろしい威力だった。
両腕が持っていかれた。
全身穴だらけだ。
中身もぐしゃぐしゃで、さしずめ今の私は歩くグロテスクだろう。
……心地いい痛みだ。
耳障りな音が響く。
私の笑い声───声帯がイカレたようだ───だった。
楽しい。
まったく楽しい。
楽しい愉しい。
「愉しいじゃないのさ…っ!!!!」
壊れた声帯からしゃがれた声が出る。
私は崩れた顔を歪ませて喜んだ。
筋肉が痛い。
その痛みさえ心地良い。
「……呆れた」
霊夢の声がした。
煙の向こうから目に映える紅白がゆっくりと歩み寄ってくる。
「まだ生きてるなんてね。ボロボロだけど」
「妖怪の…単純な利点の一つが、頑丈さなのよ」
「ふん」
霊夢が目の前にやってきた。
肉体の再生は始まっている。
体力の消耗は激しいが、そんなことには構ってられない。
「情けよ。苦しまないよう一瞬で消してあげる」
霊夢は……無表情だった。
そこには何の感情も無い……。
「怖い怖い。さすがは博麗の巫女ね」
私が言うと、霊夢の眉がぴくりと動く。
が、それ以上の動きはもう無かった。
……もう少し、かかる。
私の周囲に、札やら針やら玉やらが現れた。
それらは高密度の壁を作り……要するに逃げ場は無い。
「……何か言い残すことはあるかしら」
あと少し…。
「……そうね」
「命乞い以外なら聞いてあげるわよ」
「するわけ無いじゃない。馬鹿ね」
「あっそ。……遺言は無い?じゃあ……さようならよ」
霊夢の手が挙がる。
全身から強大な霊力が湧きあがり、目に見えぬ巨大な渦を巻く。
……後、5秒。
4.。
「さようなら」
3。
2。
「風見 幽香」
1。
霊夢が挙げた手を振り下ろす。
その様はスローモーションの映像を見ているかのように、私には酷く緩慢な動きに見えた。
一瞬が永遠に感じられる。
どこまでも引き伸ばされ、やがて感覚が麻痺する……そう錯覚する。
0。
振り下ろされる手が降りきる刹那。
……スウィッチが入る。
――世界が爆光で白く、何よりも白く染められた。
大気を震わせ、大地を波立たせ、霊夢の霊力が炸裂する。
私が今までいた場所は、あらゆるものが存在することを許されぬ空間と化している。
私はそれを、遥かな上空より睥睨している。
その間、刹那。
呑気に見物しているわけではない。
上空へ逃れると同時に、分身を霊夢にばれない様に作り上げ、身代わりにして離脱する…。
そして私は上空にて欠損した身体を高速で復元している。
どれほどの時が稼げるかは解らないが、無いよりマシだ。
そう思考した瞬間だ。
爆炎の中からこちらへ向けて鬼の形相で霊夢が飛び出してきた。
「往生際が悪い!!」
「ハッ!まだまだなのよっ!!!」
一気に両腕を再生する。
身体がガクンと重くなった。
……急激な再生は、やはり体力を激しく消耗するか…。
だが贅沢は言えない。
両腕があれば後は何とでも出来る。
私は笑いながら霊夢へ向けて急降下をかけた。
人生(?)最高の瞬間だ。
もっと愉しみたいじゃない?
――――――終わりは本当に、呆気無く訪れるものだ。
焦土と化した境内に、私は傘を大地に突き立てて寄りかかるようにして空を見上げ佇んでいる。
日は沈みかけ、夕日が美しい。
……私と霊夢の闘争は、あれから時間にして半日位で決着がついた。
博麗 霊夢は私の想像を、ことごとく上回った。
その度合いもまた私の想像を遥かに絶するもので……要するに、先が一切見えない勝負だった。
どう言う理屈か知らないが、霊夢は何度殺しても「死ななかった」
これが博麗の巫女の力なのかどうかは解らない。
が、彼女が最強で負け知らずなのは解った。
死なないのだから負けは無い。
勝てる道理が無いわけだ。
いくら殺しても死なない相手をどう負かせられる?
影をいくら踏みつけたとて影は消えない。
いくら風を掴んだとて風は掴めず。
水面に移る像に石を投げつけてもいずれそれは元に戻る。
どうにも出来ない存在。
唯、無敵であり、不敗であり、最強であり、比肩すべきものがいない。
博麗の巫女なのだ。
……まあ、相手が普通なら、ね。
私は違う。
私は最強の妖怪であり……何よりも強いのだ。
影が消えぬのなら影を作るものを壊せばいい。
風が掴めぬのなら大気を消し飛ばせばいい。
水面の影が気に入らぬのならその水を残らず干上がれせればいい。
やり方次第。
それと諦めない心?なんちゃって。
普通に何回も殺しても駄目なのなら、異常に何度も殺してみればいい。
一度の殺害にありったけの力と意欲を注ぎ込んで、偏執的に、徹底的に、しつこくしつこく何度でも。
そうこうしている内に霊夢の動きに陰りが見えた。
そうなったら私に勝てる筈が無い。
私はとっておきのスペルを幾重にも駆使して彼女に放った。
絶対無敵で不敗の筈の巫女が、この私、風見 幽香の手によって滅ぼされる瞬間だった……!!!!
彼女の断末魔は残念ながら聞けなかった。
彼女の周囲と彼女の全身から花を咲かせ、酸素を強制的に吸い上げ、化学反応を起こして爆裂させた。
間髪いれず、私は全周囲に分身を展開し、全方位から霊夢に向けてマスタースパークの上位版を撃って締めた。
出力も範囲も申し分ない。
手応えは確実。
「ついに……」
殺った。
自然と笑いが込み上げて来る。
倒した直後には来なかったものが、今になってやって来る。
「ふっ…くくくくくく……ははははははははははははははは……あっはははははははは」
笑い声は次第に大きくなり、私は馬鹿みたいに大口を開けて、腹を抱えて笑った。
何を叫んだのか解らない。
確実に解るのは私の哄笑が遠くまで響き渡ったということぐらいだ。
最高の気分。
私は最強なのだ。
もう誰にも屈さない。
すべては思うが侭だ!!
そう思うと笑いが止まらない。
最強なのだ!!!
「……そんなに……嬉しいのか…?」
声は背後から聞こえてきた。
私としたことが、接近に気がつかなかったようだ。
震える声で、彼女は私に問い掛けて来る。
「皆……どいつもこいつも殺して、壊して、殺し尽くして!!そんなに愉しいのか?嬉しいのか!?」
手足はガクガクと震え、両の瞳は涙を流し、潤んでいた。
「お前…っ!幽香っ!!なんで……何でこんなことするんだ…何でこんなことをしたっ!!!!」
煤と埃塗れで、震える身体と心を懸命に制し、普通の少女……霧雨 魔理沙はそこに居た。
「何故……ですって?」
私は魔理沙にゆっくりと歩み寄る。
魔理沙の、小さくて可愛らしい身体がビクンと震えた。
……怖いのだ、この私が。
それを知った時……言い様の無い優越感と恍惚が……そしてほんの僅かな寂しさが胸に満ちた。
「私は最強でありたいのよ。何ものにも負けない強さ。その証明。無敵?って言うのかしら。力が欲しいのよ」
人間に解る様な私の心じゃない。
「誰もいない世界で最強になっても意味無いだろ!!?認める奴がいなければ……」
ホラ、解ってない。
「誰に認めて欲しいわけじゃないわ。私が、私自身が最強でありそれを知っていればいいだけ。それに誰もいないと言うけど」
私は魔理沙の身体を強引に引き寄せた。
「ひあっ!??」
魔理沙の声が裏返る。
恐怖で歯がガチガチと鳴り、瞳は私から視線を逸らそうと懸命に努力している。
が、魔理沙の瞳は私に釘付けだ。
逸らすことも出来ずに私をただただ怯えて見上げるだけしか出来ない。
嗜虐心をそそられる。
「誰もいないって言うけれど。貴女がいるじゃない?魔理沙……」
「あっ……あああ……」
恐らく聞こえていない。
言葉で責めても今は面白みが無い。
「ふん……」
ならちょっと遊んでみるか。
私は魔理沙の顔に自分の顔を、互いの息遣いを感じられるくらいに近づけた。
「ヒッ……!」
魔理沙の顔が更に恐怖で引き攣る。
チクリと。
胸の奥がかすかに痛む。
何なのかは解らないが……。
私は怯える魔理沙に構わず、更に顔を近づけた。
「うあああああああああああああああああああああああっ!!!!」
魔理沙が恐怖の悲鳴を上げ、じたばたと暴れだす。
だが、私は彼女の肩を強く押さえ、身動きの抵抗を出来ないようにしてやった。
「ああああああああああああああ」
「………五月蝿いわね。黙りなさい、魔理沙……」
そのまま、魔理沙の唇を奪った。
「んっ……」
「―!!~~~っ!!」
今の状態じゃ噛み切られてしまいそうだし、舌は入れない。
「ぷはっ…」
二人の唇に、唾液の橋が光る。
こんな情緒のヘッタクレも無い場所では何も感じないが、寝所で同じものを見れば中々に興奮したことだろう。
……どうしようか……このまま魔理沙を攫って行くのも面白いかもしれない。
魔理沙を放し、私は、今はもう主のいない神社の賽銭箱へ向けてゆっくりと歩いていった。
考える時間はたっぷりある。
異議を唱えるものはいないだろうし、出てきても潰す。
あまりにも自由過ぎる!
「あっはははははははは」
最高だ。
何をしてもいいのだから。
知らず知らずのうちにまた笑みが零れ落ちる。
愉快愉快。
賽銭箱まで辿り着いた瞬間だった。
背後に強烈な殺気と魔力反応が膨れ上がった。
その瞬間は長かった。
永遠のように感じられた。
この殺気と魔力には覚えがある。
誰だっけ……?
勝利の感覚に酔い、麻痺した愚鈍な感覚が、答えを教えてくれない。
……ええい、面倒だ。
何を躊躇する必要がある。
殺気だろう?
ならば答えは単純明快。
敵だ。
雑魚だろうがそこそこ出来ようが関係無い。
私に殺意を向け、実行する奴は何であろうと全殺しだ。
私は一切の躊躇無く、背後の相手に傘を向け、魔砲を撃った。
……………。
……………静寂が、日の落ちかけた境内を支配する。
私が振り返ると、そこには腹に焦げた風穴を開けた魔理沙が突っ立っていた。
恐怖と驚愕で見開かれたその瞳に光は既に無い。
……完全に、こときれていた。
「そんな……」
魔理沙を……殺した。
「………馬鹿な娘……」
魔理沙の身体が崩れるように地に臥した。
「本当に……馬鹿ね」
この感情は何だろうか。
……魔理沙。
私は魔理沙に歩み寄った。
魔理沙の顔は、見るに耐えない程怯えきっていた。
きっと錯乱状態で私を撃とうとしたのに違いない。
「本当に馬鹿……そんなことをしなければ生きていられたのに」
私はそっと、魔理沙の、見開かれた瞳を閉じてやった。
……今、私を支配しているのは優越感でも勝利の酔いでもなく。
虚無感だけだった。
何故だ?
何でこんな気持ちになる?
魔理沙を手にかけたから?
…確かに、私は魔理沙のことが他の奴よりかは気に入っていた。
さっきのキスだって、嫌いじゃないから戯れてみただけだ。
ただ、他の奴より気に入っている程度の存在の筈だ。
その筈なのだ。
なのに……。
「ああ……そうか」
思い出した。
夕日が完全に落ちるその間際、最後に残る紅い光を見て、唐突に思い出した。
「私は……どの程度かはわからないけれど……」
頬を何か、熱いものが伝わっていく。
「魔理沙が好きだったんだ。そして……」
魔理沙が好き。
これには驚いたが、それよりも……。
「はははははは……懐かしい。懐かしいよ……」
間も無く日没だ。
「これが……悲しいって感情か……。本当の意味での、悲しみ……随分前から忘れてた……」
自分の行為に後悔は無い。
だが、魔理沙のことは誤算だった。
「……涙か…泣いたのも、いつだったかな……」
涙を拭い、私は誰に言うでもなく呟いた。
もう一度魔理沙の顔を見る。
可愛らしいその顔が、生意気で、愛らしい笑顔を浮かべることはもう二度と無い。
私がこの手で永久に奪った。
「折角の大勝利に……自分でドロつけてどーすんのよ……」
……まったくだ。
最低な気分だ。
「悲しみ」だなんて懐かし過ぎる感情を自分で掘り起こし気分をダウンさせ、涙まで流すとは。
おまけに……。
「人間だったら……今頃泣き崩れて自害でもしそうだったろうけど」
妖怪の身である私には、そこまでの感情の波が押し寄せてこなかった。
無意識のうちに境界線を引き、自分の心を守っているのだと知って、物凄く嫌になってくる。
最低で、最悪な気分。
何より最悪なのは、悲しみを覚えたくせに……今だどこかで勝利に酔い、嬉しがっている自分が存在していることだ。
釈然としない苛立ちが私を支配する。
「なんなのよっ!……糞!!ちくしょう!!!」
拳を地面に叩き付けた。
何度も何度も叩き付けた。
日が沈み切る瞬間まで、私はしゃにむに拳を叩き付け続けた……。
何も考えず、怒りに任せて。
ただただひたすらに、怒りのままに拳を叩き付けた……。
――――――――――そして日は完全に落ちて。
――――――――――――――――――夜が、降りてくる。
異変を感じたのはその時だった。
境内が突然、禍々し過ぎる巨大な妖気で包まれたのだ。
その妖気は強大過ぎて、巨大過ぎて、そして禍々し過ぎた。
あまりに高密度で、絶望的だった。
妖気と一緒に、悪夢のような強大な魔力と、絶望的な量の霊力も境内を支配した。
否。
境内どころではなかった。
私が知り得る限り、それは。
「馬鹿な……!?幻想郷…全体ですって……!!?」
そんな馬鹿な。
信じられない。
信じられる筈が無い!!
「霊夢はたった今殺した!!他の奴も……目ぼしい、強い奴は全員殺してやった!!!!あの紫もだ!!!!」
なのに……!!
「どこのどいつだっ!!!?」
叫んだ瞬間、私は自分に呆れた。
なんてこと。
私は、信じられないことをしてのけた、未知なる相手の出現に、戸惑うどころか喜んでいたのだ。
まったく…どこまでも……。
「救いようの無いほど戦闘好きね……!!!」
全身の血肉が沸き立つ。
顔は亀裂のような笑みが浮かび上がっていることだろう。
とても人には見せられないような、狂った笑顔が。
「……笑うのなら、もっと可愛く笑いなさいな。女の子でしょ?」
!!!!!!!!!!
「な……」
声が、唐突に境内に響いた。
「だっ……」
誰だ!?どこだ!?
全感覚を研ぎ澄まし、私は境内中を霊力感知で探し回った。
だが……。
「いない……!?念話の類か…?いえ…でも」
今の声は、確かに、「鼓膜に聞こえた生の声だった」
だが、誰もいない。
何も無い。
私の周りにあるものといったら、私と…魔理沙の亡骸だけ……。
惜しむらくは不意を突かれて、声の方向を覚え損ねていたことだ。
覚えてさえいればまだマシだったものの……!
「出てきなさいよ!!隠れているなんて、あんた生意気言っておいて臆病とかふざけるんじゃないわよ!!!」」
立ち上がって怒鳴った。
何としてでも引きずりだしてやる……!!!!
「紫め……」
「え?」
私は……。
今、なんて言った?
誰の名前を口にした?
「なんで……?」
どうして。
「なんでアイツの名前が出てくるの……?」
解らない!
訳が解らない!!
どうしたというの私!!
いったい、何がどうして……ッ??
「私の声を覚えていてくれるなんて……紫、カ・ン・ゲ・キ☆」
「ッ!!!!!」
もう間違い無い。
紫の声だったのだ!
あの、人を小馬鹿にしたような態度で喋る紫の口調。
悔しいけど、きれいな声音。
全部、聞き覚えのあるあの声。
八雲 紫の声だ!!
疑念は確信に変わり……そして再び疑念となる。
「確かに殺した筈なのに?うふふふふ……」
そうだ。
確かに私が、この手で殺した筈なんだ。
「何故……!何故お前の声がする!!?答えろッ!!!!!」
私は姿を見せぬ「八雲 紫」の声音の主を探した。
……まだ信じられない。
あいつが生きているなどと……!!
認められるものか!!!
「くすくす……どこを探してるのよぉ…?私はここよ?コ・コ。耳を澄まして御覧なさい。そしてヒント。”灯台下暗し”」
「ハァ?それが何だっ…………何?」
…声は、私のすぐ近くから聞こえていた。
だが、私の周囲に、あの「スキマ」らしき気配は無い。
私の感覚なら、あのスキマであっても見つけられないことは無い筈なのだから。
…けれど、どんなに探してみても、スキマは見つからない。
……奴は”灯台下暗し”と言った。
その意味は?
………私の周囲には、私と…魔理沙だけ……。
………………………。
………………。
………。
……?
「私と…魔理沙だけ…?」
何かが私の脳裏を過ぎった。
それが何かはわからない。
だけど……。
「…っ!」
私は、脱兎の勢いで振り向いた。
振り向いて、魔理沙を見た。
「あらん…ようやく気が付いたのぉ?うふふ…」
私…否、世界が凍りついた。
「こんばんわぁ☆ゆーかちゃん♪ゆっかりんでぇす」
魔理沙が、立っていた。
「どう?驚いた?驚いたでしょ~?うふふ…あっはっはっはっは」
否…そいつは魔理沙じゃない。
「身体に穴が開いたままで失礼~。……その顔は、半分解って半分解らないって感じぃ?」
魔理沙の顔で、魔理沙の身体で喋るそいつは、間違い無く。
「八雲……紫……」
声だけが、あいつの声だった。
「そうそう。私よ~」
「なんで……お前が出てくるんだ……」
「あら?知りたい?」
この、小馬鹿にしたような態度…間違い無い。
「知るかっ!!」
私は魔理沙…いいえ、紫に飛び掛った。
「お前が紫ならば!!もう一度殺してやるだけだ!!!」
もう何が何だか解らない。
私は自身に、考えることを止めさせた。
もういい、面倒だ。
敵は敵、全部残らず薙ぎ払う!!
鏖だ……!!
私の手が届く、その直前だった。
「ゆ、幽香……?」
「!!!?」
魔理沙の、声がする。
目の前に、魔理沙がいた。
「私……お前に殺されるようなことしたか?なあ…幽香…答えてくれないか」
「ま…魔理沙…魔理沙なの……」
魔理沙の姿だ。
魔理沙の声だ。
「私はっ…」
「幽香…」
「私は…魔理沙を殺す気は……」
「でも殺したよな?」
「…っ」
何も言い返せない。
言葉に詰まるようなことじゃない筈だ、こんなこと……!
「そして、今も私を殺そうとした」
「違っ……」
「違わない。その手は何だ?血塗れで、何人も殺したその手で。私を殺すんだろ?」
「魔理沙じゃない!私は紫の奴をっ……!!!」
「私がどうかしたぁ?くすくす」
「っ!!?」
背後から声がした。
振り向くと、そこには……。
「はぁい。蘇ってみました」
「どうもどうも」
「はろー」
「どうしたの?固まっちゃって」
西行寺 幽々子が居た。
魂魄 妖夢が居た。
伊吹 萃香が居た。
他にも…私が殺した連中が、そこに居た。
「……っ!!!!」
絶句した。
どいつもこいつも……皆殺したはずなのだ。
「な…んで…」
「痛かったわぁ~。成仏しそうだったじゃないのぉ」
「いくら頑丈だからって、少しはレディに優しくしなさいよ」
「貴女は地獄逝きですね」
理解が追いつかない。
止めた筈の思考が止め処も無く溢れ返り、私の心を掻き乱す。
なぜだ!?
なぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだ!!?
「何でお前たちがここにいるっ!!!!」
「なぜ?」
後ろから声がした。
振り向くと、そこには。
「ちょぉぉぉぉっと、「おいた」が過ぎちゃったゆーかちゃんにお仕置きするためよ?」
魔理沙の顔をした紫がいた。
「魔理沙…?魔理沙は…」
「呼んだか?」
「!」
まただ。
魔理沙が紫で、紫が魔理沙で……?
わけが解らない。
いったい、何がどうなって……。
そこまで考えたときだ。
背中に焼けるような痛みが走った。
「ガッ!!!?」
「お話はおしまーい。説教は後で、今は……」
「体罰たーいむ」
後ろから撃たれたのだと気付くのに数秒を要した。
情けないほどに動転しているらしい。
「誰だぁっ!今撃った奴はっ!!!」
憤怒に身を委ね、私は振り返る。
そして見たものは、私の付け焼刃の怒りを消すには十分過ぎるものだった。
目に映える紅白の装束。
艶やかな黒の髪。
「れ…いむ……!!!」
最悪だ。
悪夢といっていい。
「私達、貴女に殺された仕返しに来たの……」
「さあ、やろうじゃないか」
霊夢だけじゃない。
その場にいる全員が、私に一斉に襲い掛かってきた……。
「ゼッ!ゼッ!ゼッ!……ぐ…」
肩で荒々しく息をする。
片目は潰れ、左腕は肩先からもがれた。
空には大きな満月が浮かぶ。
……たった今、最後の一人を殺した。
「…っハッ!コレで解った?ゾンビども!!私のほうが強いんだ!!!二度と迷って出てくるな!!!!」
私は、もはや原型を留めていない境内に大の字になって倒れた。
全員、死体を残らず消し飛ばした。
「これで……二度と出てこないでよね……」
身体も、意識も重い。
正直、寝てしまいたかった。
だが。
境内を包む妖気は依然晴れず、むしろその禍々しさを一層強めていた。
「くそっ……何だってのよ!!まったく……」
「言ったでしょ?悪い子にはお仕置きですよー」
「!!!!」
私は一気に跳ね起きた。
……やっぱりまだ終わっていない!!
どこだ……どこにいる!!
「ここよぉ~」
!!!!!
地面に、大穴が開いていた。
否。
それは巨大な……スキマだった。
そのスキマから、何本もの腕が、ワラワラと生えてきたのだ!!!!
「…………!!!」
私だってこういう時は女の子だ。
気持ち悪い……。
だが次の瞬間、そんな呑気な考えは粉々に砕かれた。
『ゆーかちゃぁぁぁん』
紫だった。
どいつもこいつも皆紫だった。
服と背格好が、霊夢や魔理沙やその他色々な奴だったが、首から上は全員、紫だった!!!
そいつらが、一斉に私のほうを見て、笑った。
亀裂のような笑みだった。
ただ笑っている。
それだけで私は気圧された。
……馬鹿な!!
この私が……私が…!!
「怖い?」
―――――――――――――――――――――――――っ!!!?
「うわああああああああああああああああああああああっ!!!?」
声が耳の横で聞こえた!
吐息が私のうなじに感じられた!!!
すぐ後ろに紫がいたっ!!!!!
心臓がバクバクと音を立てて、全身から冷や汗が噴き出した。
……怖かった。
純粋に、怖かった!!
背後の紫が、私を羽交い絞めにする。
「放せ!!この!!!放せっ!!!!」
「やぁよ。放しちゃったらお仕置きにならないでしょ」
私の気は完全に動転した。
目の前に、無数の紫が迫ってきた。
視界を埋め尽くす、紫、紫、紫、紫、紫、紫、紫、紫、紫、紫、紫、紫、紫、紫、紫、紫、紫、紫、紫、紫、紫、紫、紫、紫、紫、紫、
紫、紫、紫、紫、紫、紫、紫、紫、紫、紫、紫、紫。
紫たちの手が、一斉に私の身体へと伸びてくる…。
「来るな!!来るなぁ!!!」
「ゆーかちゃん?おいたはいけませんよぉ~」
「博麗の巫女に喧嘩売って殺しちゃだぁめ」
「貴女が最強なのはよぉく解ったわ。でもね。アレはそもそも比較することが間違いなの」
「あれは博麗。敵にしてはならない存在」
「貴女がどうするかを観察していたけれど、こればかりは見逃せないわぁ」
「本当に悪さする前に……、お姉さんが優しく優しく躾けてあ・げ・る」
紫が何を喋っているのか私には理解できない。
恐怖で支配されていく私。
最初は小さな恐れだった。
だが、それはだんだんと大きくなっていき……。
「ぐああああっ!!!?いた…痛いぃぃ……!!!」
紫たちの手が、私の身体のあちこちに絡みつき、万力のように締め上げたのだ。
殺した筈の連中が、紫の顔で、笑いながら、迫ってくる。
くすくすと笑いながら、私の身体を絡めとり、私を押し潰す。
理解出来ない、理解不能の恐怖。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」
私は絶叫した。
このままじゃ……このままじゃ………っ!!!!
「放せぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!」
残った理性を総動員し、霊力を集めて体内で炸裂させ、全身から放った。
自分にも痛いが、絡みつく相手にも相当なダメージを与え、尚且つ弾き飛ばせる。
私はありったけの霊力を使って、紫たちをまとめて吹っ飛ばした。
「うがふっ……!!!が…ぁ……」
身体の内側が焼けるようだ……!!
だが、今はそんな泣き言を言っていられる状況じゃあない……。
「に、逃げなきゃ……」
逃げる。
あまりに情けないその行為。
けど、今は逃げたかった。
嫌だ。
これ以上、ここに留まるのは嫌。
紫を見るのは嫌……!!
「わぁぁぁぁぁっ!!!!」
形振り構ってなどいられるものか……!!!
大地を必要以上に強く蹴り、私は飛び上がった。
逃げなくちゃ……!!
あいつが追ってこない場所まで!
もっと速く!速く!!速く!!!
私は逃げた。
どこでもいい、あいつが追ってこない場所に……っ!!!
どれくらい飛んだのか……。
あまり見覚えの無い場所までやって来て、私は一度止まることにした。
…酷く疲れている。
休みたい……。
「こ、ここまでくれば……とりあえずは……」
とにかく、休みたかった。
隠れなきゃ……気配も、霊力も消して……あいつに見つからないところで……。
「どこにいくのよぅ?」
!!?!!?
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!」
すぐ後ろ……背中だ!!
背後に開いたスキマから出てきた!!
「おいてっちゃ、いやぁん」
紫の手が私の肩にかかる……!!
「ひぃいいいいいいいっ!!!!!」
私は渾身の力で紫の手を払い除け、一気に飛んだ。
もっと、もっと遠くへ!もっと遠くへ!!!
力の限り、飛んだ。
出来る限りの速さと高度でひたすらに飛び続けた。
……どれぐらい飛んだのか。
時間の経過も解らなくなり、何で逃げているのかさえ解らなくなってきた。
意識が朦朧とする……。
極度の疲労。
視界も先程からぼやけ気味だ。
ただただ、惰性で、けれど全力で飛び続ける……。
「逃げなきゃ…逃げなきゃ…」
うわ言の様に繰り返しながら、私はただ飛んだ。
……暫くして、眼下が急に明るくなった。
「……あ」
そこは、一面の花畑だった。
月の光に照らされて月見草が淡い輝きを放っていたのだ。
……この場所には覚えがある。
この花達は、私が生んだ花達だ。
そうか、ここは私がかつて訪れた場所……。
昔の、私の寝床だった。
疲れきった私にとって、そこは何よりも素敵な場所に見えた。
……かなりの距離を飛んだ筈だ。
ここまでくれば、もう大丈夫。
根拠の無い確信。
けれど、今の私にはそれで十分だった。
私は花に群がる蝶のように、月見草の満ちる地面に引き寄せられるように降り立った。
ここなら安全だ……ここならアイツはこない……。
私は記憶を頼りにかつての寝床を探した。
寝床はすぐに見つかった。
花畑の片隅にぽつんと立っている大きな木の洞だ。
中は広く、雨風を凌げる快適な場所だ。
私は迷うことなく飛び込んだ。
妖怪の住処に、他の動物や妖怪は滅多な事では寄り付かない。
だいぶ前とは言えここもその例外ではない筈だった。
「あの時のまんまだ……懐かしいなぁ……」
私は、そこに放置してあった、古びたベッドに倒れこんだ。
埃が気になったが、疲労の前では些細なことに感じる……。
横になると、睡魔が襲ってきた。
眠い……。
疲れきった心身に、睡魔は強敵以上に恐ろしい相手だった。
吸い込まれるように意識が遠退いていく……。
私は薄れる意識で、手探りで枕を探した。
目当てのものはすぐに見つかり、私はその柔らかな枕に頭を乗せた。
埃だらけだが、今はいい。
明日は髪を洗わなきゃ……。
意識がどんどん薄れていく。
眠い……。
寝てしまおう。
眠ればきっと、嫌なことは無くなる。
何故かは解らないけどそんな気がする。
瞼が鉛のように重くなり、意識が闇に飲まれていく……。
枕が柔らかい。
気持ちいい…。
心地よい眠気……このまま……。
「ん……ぅぅ…」
…………。
……それにしても……。
「この枕……気持ちいー……やわらかいなぁ……」
ふかふかで、適度な弾力があって気持ちいい……。
優しい感じがして……。
「ん……」
だらしない甘えた声が出てしまう……。
気持ちいい……これは、何だったかな……?
何か……懐かしい感じ……何だろ。
……そうだ、これは……。
「ひざ…まく…らぁ……」
そうだ…膝枕だ……。
昔、すごく昔に……誰かにしてもらったっけ……。
懐かしいなぁ……。
懐かしい……膝枕………………。
……………………………え?
膝枕?
どくん、どくん、どくん。
鼓動が次第に、大きく激しく加速していく。
全身の毛が逆立ち、汗が吹き出ていく。
膝枕ですって……!?
そんなものがある筈が無い。
この場所に存在する筈が無いのだ!
存在しない筈のものがそこにある矛盾。
じゃあ「これ」は何なんだ!!?
……答えは簡単だ。
解りきってる。
でも………それを認めたくない。
認めたら……認めてしまったら………っ!!!!
身体はガタガタと震え、背筋は凍りついて今にも砕けそうだった。
認めたくない、認メタクナイ、認メ……!!!!
「あら?寒いの?ゆーかちゃん……?」
「ひぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああッ!!!!!???」
私の拙い抵抗は、容赦無く打ち砕かれた。
私は、紫の膝に頭を乗せて寝ていたのか………!!!??
私は、その驚愕すべき事実さえ頭から吹き飛ばされ、完全に恐慌状態へと陥った。
恐怖の絶叫を上げながら起き上がろうとした私は、しかし紫に上から肩と頭を押さえつけられ起き上がることが出来なくなってしまった。
足を駄々っ子のようにじたばたとさせるだけで、恐慌状態の私は何も抵抗が出来なくなった。
「あらあら……寒いのね?暖めてあげますよー」
「うあああああああああああああああああ!!!あああああああああああああああああ!!!!!」
私を抑える紫の手が、万力のように食い込んだ。
頭を鷲掴みにされ、私は紫の顔がある方向へ無理矢理振り向かされた。
反射的に瞼を閉じようとするが……出来なかった。
そして……私は紫の瞳を見てしまった。
その瞳は、混沌だった。
禍々しく光輝き、私の心を完全に掌握された。
「う…うあああ…あぅあああああああ……!!!」
「ゆーかちゃん?」
紫がゆっくり語りかけてくる。
……同時に、四方八方から私の身体が何かに押さえつけられた。
霊夢だった。
魔理沙だった。
幽々子だった。
私の殺した奴らだった。
いつの間に空けられたのか、無数のスキマから彼女らは姿を現していた。
「つーかまーえたぁ」
「もう逃げちゃ駄目よ?」
私は身体の自由を完全に奪われた。
そして私は見た。
見てしまった。
私を見つめる彼女らの顔が、造型こそ変わらなかったが、紫の表情そのもに変化したのを。
「うあああああああああああああああっ!!!わあああああああああああああああああッ!!!!!!」
悪夢だ。
こんなことってありえない、ありえないよ……!!!
私は恥も外聞も無く、意味の解らない叫びをあげ、もがきながら泣き叫んだ。
「よぉぉく聞きなさぁい?ゆーかちゃん?」
私の頭を押さえる紫が、私に、互いの息遣いが感じられるほどに顔を近付けて言った。
「残念ながら、世界には「分相応」って言うのが存在しちゃうのよ。
それを破ることは決して許されない、それはそれは残酷で素敵な約束がね」
紫と目が離せない。
視線の自由さえも奪われている。
「破ることは、たぶん出来る。けれど、それを破ってしまったら……どうなるかは解らない。
少なくとも……貴女にとって良いことにはならないわ……」
恐怖で麻痺した心では、紫の言葉が理解出来ない。
理解できないが……。
「破っちゃいけない……約束……」
紫の言葉が、私の中に入っていく。
浸透し、支配し、何かが私となっていく。
「そう、約束」
紫がにっこりと笑った。
その笑顔はとても綺麗で、可愛くて……。
そして何より、恐ろしかった。
「貴女は危険よ」
霊夢の姿をした紫が言った。
「最初は面白半分で貴女の夢に干渉して、精神世界を観察していたのだけれど」
魔理沙の姿をした紫。
「貴女の欲望を忠実に再現するように仕組んだら、あろうことか霊夢に喧嘩を売って、しかも殺しちゃうんだもの」
幽々子の姿をした紫。
「つまるところ、貴女は将来、霊夢か、または次世代の博麗の巫女に喧嘩を仕掛け、殺してしまうかもしれない。
ここでやったように力をつけて、殺してしまうかもしれない」
「実際、貴女ならそれが出来かねない。そしてそれを認可することは……私が出来ないの」
もう何が何だか……とにかく、紫。
「いくら仮想の世界だからとは言え、こればかりはね。可哀想だけど……」
「危険の芽は、根絶するわ」
紫が更に近付いてくる。
そして、彼女の唇が私の唇に重ねられる。
「んんんぐぅ!!?んむむむぅぅぅー!!!!」
「これは、ごめんなさいの印。……それじゃあ、お仕置き、ね?ゆーかちゃん………」
紫はそういうと、私の肩を抑えていた手を離し、指をぱちんと鳴らした。
その途端……。
私を押さえつけていた無数の紫達が、一斉に。
私の身体に、噛み付いた。
否。
喰らい付いた。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!???」
こいつらは、私の身体を食っているのだ!!!!
恐怖どころじゃない。
もう何が何だか解らなくなった。
考えられない。
ワカラナイ。
誰かが私の腸を噛み破り、中身を貪り喰っているのが、まるで遠くの世界の、他人事のように思えた。
「あは…あはははははははは……」
まともな思考が出来ない。
狂ったか。
とうの昔にイカレたかと思ってたけど、更に狂えるとは思っても見なかった。
「アハハハ…アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
狂った笑いを吐き出しながら、私は咀嚼されていく。
狂気に染まった意識が薄れ、闇へと飲まれていく……。
意識が消えるのその間際、私に膝枕をしていた紫が、私に笑いかけた。
「また遊びましょうネ」
私が最期に見た光景。
紫の、恐ろしくて、けれど可愛い、極上の笑顔と……
その彼女がバケツのような大口を開けて、私の頭に喰らいつき、私の意識ごと頭を噛み砕き首から頭を噛み千切る瞬間だった。
そして何も無くなった……。
…………身体が、重い。
頭が……後頭部が、痛む。
それが、意識の覚醒する手前に私が感じた、最初の感覚。
それを感知した瞬間、私の意識は一気にある感情に支配されていった。
恐怖。
「うわああああああああああああああああああああああッ!!?」
意識が急速に覚醒し、私は跳ね起きた。
「はぁはぁはぁはぁはぁ!!」
肩で荒く息をする。
全身が汗でぐしょぐしょだ。
頭が痛い……。
激しい頭痛と、後頭部に走る鈍痛が、意識をより鮮明にしていく。
……最悪。
汗で寝巻きがびしょびしょじゃない……。
「え…?」
寝巻き?
ここは……。
そこまで考えた時だ。
ガタンと、背後から音がした。
「おー、目が覚めたか?」
振り向くとそこには、白黒の服を纏った小さな少女。
魔理沙。
「ったく、二日も寝てるんじゃないぜ?日和ったか?幽香」
「え……何?どういうこと……?」
わけがわからない。
私は、何で魔理沙の家に居る?
状況が理解出来ない私に、魔理沙が聞いても居ないのに説明してくれた。
……何でも、私は二日前に遠くの草原で昏倒していたようだ。
その場所について詳しく聞くと、どうやら私が紫と戦ったあの場所であることが解った。
「夢じゃ……無い…?」
更に聞いていくと、私は自分が情けなくなってきた。
私は紫との戦闘中に受けた後頭部への一撃で、そのまま伸びてしまったらしい。
しかも、それをわざわざ魔理沙に教えたのだというから更に情けなさが倍増しである。
たまたま近くに居た奴に告げた、とのことらしいが……あの天狗でなくて本当に良かった。
……そして昏倒したまま魔理沙にここまで運ばれ、私は今に至るまでずっと寝ていたというのだ。
なんて無様な!!
話を聞いている最中、私はずっと、あることを考えていた。
眠っている間に感じたあの感情。
………恐怖。
あまりに強烈で、恐怖という言葉だけでは語り尽くせない程の恐ろしさ。
アレは…………。
「―――――――――――ッ!!!!!」
脳裏に、「あの光景」がフラッシュバックする。
「う…!ぐぅ……!!」
背筋が絶対零度に凍りつく。
強烈な吐き気と目眩が襲ってきた。
「お、おい、大丈夫か!?」
身体を抱え、嘔吐感に悶えながらガタガタと震える私に、魔理沙が心配そうに声をかけてくる。
「うあああああ……」
震えが止まらない。
すべてを覚えてるわけじゃない。
けど、いくつかは明確に思い出せる。
何より鮮明なのは、夢が終わる、あの瞬間!!
「――――――っ!はぅあッ!ううう……!!」
そうだ……あいつは、私を……。
食べたんだ。
「大丈夫か……?医者呼ぶか?」
魔理沙が私の背中を優しくさする。
「まだ、寝てろよ。汚いとこだがそれなりに快適だぜ?」
私は魔理沙の顔から目が放せなかった。
……私は、あの夢の中で……魔理沙を……。
「魔理沙っ……!!」
「おおう!?」
私は魔理沙を抱き寄せた。
「な、どうしたどうした……」
「…………」
魔理沙の小さな身体は、けれど暖かかった。
夢の中の魔理沙は、どんどん冷たくなって行って……。
「あのね……」
言いかけて、止めた。
夢の内容を言おうかとも思ったが、止めておく。
言っても魔理沙に変な思いをさせるだけだ。
「なんでもない……ちょっと人肌が恋しくてね……」
「おいおい、勘弁してくれ……これでも貞操は守ってるんでね」
魔理沙はそう言うと、私の腕を優しく振り解いて立ち上がった。
「何か食べるか?粥ぐらいならすぐ作れるぜ」
「何でもいい」
最後の「魔理沙が作ったものなら何でも」は飲み込んだ。
流石に恥ずかし過ぎる。
「ほう。まあ待ってな」
「うん」
「ああ、それと」
「?」
「服着替えろ、汗臭いぞ」
「!…ああ、ごめん…汚しちゃったね」
「気にするな、後で宿代、食費につけて払ってもらうぜ」
「なによそれ」
魔理沙が人懐っこい、生意気だけど可愛い笑顔で微笑んでくれた。
他愛も無い冗談を交えながら、私に着替えのある箪笥と、脱いだものを入れる籠を教える魔理沙を見ながら、私は考えていた。
私は夢の中で、誰かは思い出せないが多くの人妖を殺していた。
その中に、魔理沙もいた。
……私は力に酔い、酔ったまま魔理沙を殺してしまった。
あんな想いは二度と味わいたくない。
殺すのはなるべく控えよう……。
そして力に溺れぬ様に自分を戒めねば。
そうすれば、私はあんな想いをせずに最強の妖怪となれる筈だ。
「じゃあ軽く作ってくるから待ってろ」
「うん」
まずは、今度こそあの八雲 紫を倒してやる。
あの悪夢は、多分アイツのせいだ。
必ずボコボコにしてやる……。
最終目標は霊夢だ。
あいつも、今度こそ潰して、勝ってやる……!
萎えた気力を奮い立たせるため、私は心にそう誓い、グッと拳を握り締めた。
私は風見 幽香だ……最強の妖怪……今度こそ。
部屋の扉へ手をかける魔理沙を見送りつつ、私は再び布団の中へ潜り込んだ。
……と、ドアから半分、外へ身体を出していた魔理沙の動きが止まった。
忘れ物か?
「魔理…」
「そうそう…」
魔理沙が、やけに低い声で喋りかけてきた。
「…?」
………その時だ。
部屋全体が、得体の知れない妖気に包まれた。
「!!?これ……は……」
どこまでも、禍々しい妖気。
この、忘れようにも忘れられない妖気はっ………!!
「ま…魔理沙……?」
まさか。
「今度、悪さをしたらな……」
まさか。
魔理沙は私に答えず、自身の言葉を続けた。
否、それは……。
「ま……」
扉の向こう側から、魔理沙が私に振り向いた。
違う。
それは。
魔理沙ではなく。
「本当に……食べちゃうわよぅ?……ゆぅぅぅかちゃぁぁぁん??」
「うぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああッ!!!!!!!!!!!!」
おわり
その後を綺麗に纏めてあり
十分すぎるほど楽しめました
最後に出て来た魔理沙は本物の魔理沙なのか?
それとも紫が化けた魔理沙なのか…
良い感じで幕を閉じました
私にとって良い感じに楽しめました
次のが楽しみです!
軽くトラウマになりますねこれは。
ただ、これだけのラストがあるなら、
無理に徒歩二さんの展開をなぞる必要は無かったのでは?
ラストのインパクトが凄すぎます。
あ~いい言葉が浮かばない
この紫は怖すぎる。
夢落ちだと必死に主張するあれですか、違いますか、そうですか
タイトルで落ちが読めたけど、魔理沙で2段落ちとはやられた
いつから俺は世にも不思議な物語を見始めたんだ
ここまで壊れきった幽香にしても始めて見て驚愕ですよ。
ストーリー自体は本当にキたんですが。
やばい、これから東方やるときにトラウマになるかも(笑
フルコース的ゴージャスさでヨダレものだぜ!
戦闘描写がやや長めで疲れてしまったけど
それも含めてパワフルさを感じる作品でした
の 「な避けなさ」が誤字じゃないかなーと
怖いよゆかりんwwwww
元ネタは知らないけどこいつは久しぶりに戦慄したぜ!
あと戦闘シーン、誰も彼も格好良かったです。少女だけど、男の生き様を見た気がしました。
>半人判霊 これ多分造語とかではないですよね……?
>発頸 めーりんとかが使うアレなら字は「発勁」です。
>やろじゃないの 「う」の脱字です。
バトルが長い、長すぎる。読んでて凄く疲れました
こういうオチにもっていくなら、もう少し簡潔にというか、短くてもよかったのではないかと
あと個人的に魔理沙への恋愛感情云々は邪魔に思いました
崩壊のきっかけとしては分かりやすかったのですが
前振りが少なく感じたので違和感が凄かったです
似た様な展開が直前に重なりすぎてオチを殺しているのが残念。
しかし怯える幽香は怖さよりも徒歩二分さんの「あちら」のおびえ方の方が好き♪(爆
悪夢から覚めたらまだ悪夢だった、よくあるオチですがよくあるってことは効果的ってことで。
みすちー肌が立ちまくりです。こえーよー
戦闘も長く描写されていて、疲れました・・・
でも、題材と上記以外の要素をみると、あなたの他の作品を読んでみたい、
そう思いました。
まで読んでしまうほど流れに淀みがなかったですし、オチも怖かったですし。
でもやっぱり長すぎだったかと。戦闘シーンが一番長かったと思いますが、
結果と概要だけサクッと書いた方が「楽勝」っぽさが出るかと思いますし。
まぁ、点数に関しては系統に対しての個人的な好みの問題で。
評価すべき作品だと思うのでこの点数です。
オチの弱さや戦闘描写が長かったことは見なかったことにしました。
幽×魔は論外です。どうせやるなら、もっと説得力をもたせましょう。
しかし私は3回ほどヌ
でも読んでて「これぞ紫さんだ!」と思ってしまった。
とても楽しめました。これは、凄ぇ。
最後は「ホラー」みたいで。
心の恐怖こそ最大のダメージでしょうか。
ゆかりちゃんを怒らせたらもっと恐怖だと
心に刻みましたとさ。
>上手く表現出来ず、自分の未熟さを痛感します。
完全に的外れなわけではないですが、微妙にズレていると思いますよ
この話が幽香と魔理沙の人間関係を題材にしたものなら
そういった(二次)設定が『前提』の話でもいいのかもしれません
しかし、タイトル・話の流れ・最後のオチ・後書きを考えるに、それは違いますよね?
なのに話の本筋にはたいした関係も無い二次設定を、何の説明もなく唐突に出されても、読み手としては戸惑うだけです。シリアス系の話だけになおさらです
幽香と魔理沙が『そういう関係』にあることを(事前に)知るための情報が決定的に不足している以上、表現云々の問題ではないと思います
使いたい気持ちはわかるけど、三点リーダと「!」、あと戦闘シーンでの
会話をもうちょい少なめにするといいんじゃないかなぁ。
淡々とした描写がいいって事はないけど、記号を多用すると物語全体が
安っぽく見えて視覚的に損をしてしまう。
物語に酔うのは良いけど書いてる自分に酔うのは厳禁って事で。
賛否両論あるようですが、個人的には良かったです
あと、読んでる内に「ゆかゆかーゆかりー」がエンドレスし始めたのはナイショ
幽香の台詞を読んだ際、「あれ?」と思いました。
あまり引用しないほうが楽しめたかもしれません。
ですが表現力は良いと思いました。
戦闘シーンは勢いで読み切ってしまったので、そんなに気にはなりませんでした。
…まあ、魔理沙との関係が唐突だったので、その辺はおや?と思いましたが。
オチにゃ素晴らしいセンスを感じましたよ。
「ああ、パクリか」とおもわれてしまいがち
特に貴方のような・・・ の部分からまさにそんな感じ
後書き部分にのみ書いておけばよいかと
文章としては描写やキャラの個性などよく捕らえていると思います
なのでこの点数と
だから涙を流したんですよね?
だから紫も警告にとどめた?
さて、当方、餓狼伝に始まりバトル小説は大好きですが、残念ながらこの作品は途中(1/5くらい)で読むのをやめました。
酒であっさり紫を売り渡す魔理沙の外道さや、なぜか幽香があっさりとマヨヒガにいけてることや、ガチンコの肉弾戦の最中におしゃべりしている事などに違和感を覚えましたが、まあこれは杉さんと私との見解の相違でしょうからとくに何も申しません。
しかし、それを差し置いても私個人にとって今までにない衝撃でしたw
次回作期待してます!
…手の震え止まらねぇw
何度か途中放棄したくなったけどw
お仕置きだとか壊れる瞬間だとかが好きなので100点w
他の人もおっしゃってますが、無理にダブらせる必要は無かったと思います。
最後の方は楽しませてもらいました。
色々改善すべき点はあると思いますが、悪くは無い。むしろ良かったと思います。
次の作品も楽しみにしております。がんばってください。
戦闘描写がちょっと長すぎてそこで少し疲れてしまいました
ゆうかりんがおぞましい
改めて彼女達が最強レベルの妖怪だという事を認識しました。
申し訳ないのですが、白玉楼戦あたりからほぼ飛ばし読み状態でした。小説ではなく漫画だったらもうちょっと良い評価がもらえたかもな、と思います。
閻魔を軽く殺してますが、神の分類に入る閻魔をどうやって殺したのかという説明というか描写も欲しかったです。
ただ、再登場後の紫については、今まで読んで来た東方二次作品の中で一番現実の我々が抱いている「妖怪」というイメージに近い恐ろしさというか不気味さを持っていたと思います。この紫は良かったですw
八雲紫が負けた時点でこれは化かされてるなと確信したので、どういう落ちになるか楽しみに読みました。
けど、その八雲が死んだシーンからがちょっと長すぎでしたね。そこでかなりだれました。
けど、最後の八雲紫は恐ろしさと不気味さが溢れる実に妖怪らしい妖怪でした。そこをもってこの点数に。
個人的にホラーは好み。
いやぁ、今まで読んできたホラー系のSSとは一線を画しているように思えた。
どこまで殺戮が続くのかと思ってたら結局全滅かぁ、って思いましたよ。
……紫よ、妖怪相手にアレはキツすぎる。対妖怪では、ある意味最強の攻撃法だと思う。
くわばらくわばら