Coolier - 新生・東方創想話

法 ~信疑~

2007/03/05 23:12:45
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遠く……ただ遠く。

近く……ただ近く。

赤い霧の向こう側にあるその風景……。

連日続く宴会の様子をただ一人、幻想郷の境で子鬼は眺める。

彼女が忌むべき人間と彼女が忌むべき妖怪達が喧嘩もせずにただ楽しそうに酒を飲み交わしている様は、とても楽しげで面白そうで……。

……ちょっぴり寂しくなった。

彼女が生まれた頃の人間は遊び仲間。

小さな子供たちと鬼ごっこやかくれんぼをしたりして楽しく暮らすのが日課だった。

他の人間達が大きくなるにつれて、遊び仲間は大人になって、遊ぶ子供たちとの差がちょっぴり寂しくなるときもあったし、大きくなっていった子供達は小鬼を気味悪がったけれど。

それでも毎日が楽しかった。

けれど、村に大きな病が流行った年に私は迫害を受けて村を追い出された。

以来、人間を信用しなくなった……。

そして人間を信用しなくなってからは妖怪(彼女の出身である鬼達)と共に山奥で、時々来る人間達を襲って暮らしていた。

自分達の都合で彼女を追い出した人間。

それに対する意趣返しの意味も有ったし、怖がる人間を追う狩りはそれなりに楽しかった。

尤も、彼女は鬼達の中でも身分が低かったから分け前なんかは殆ど出なかったけれど。

人間と喧嘩をしてからはそうやって過ごすのが日々の日課だった……。

それも、人間達と鬼達の喧嘩が激化して戦争が起きるまでだったけれど。

人間達の追求から逃れるため、戦う勇敢な鬼達が減っていくと鬼達は彼女を残してどこかに行ってしまったから。

そうして、ただ一人、人間の住む世界と妖怪の住む世界の狭間と呼ばれる場所で……。

幻想郷を、ただ静かに眺めていた……。


















「そんな所で眺めてないで、一緒に交われば?」

 急に、声がした。

 ここは、人の知覚から外れて、簡単にはわからない場所の筈。

「誰? ここには誰もこれない筈だけど?」

「来れない筈はないでしょう。だって、今ここに貴方が居るじゃない。」

「他人が居ればどこにだって来ちゃうんだ、おばさんは」

「おばさん……。まぁいいわ。本当はそんなことを言う邪悪な子鬼は向こうの世界で永遠にさまよってもらう方が正解だと思うけれど。初対面で礼儀ってのも知らないみたいだから、教えてあげる、私の名前は八雲 紫。幻想郷ではそこそこ有名な妖怪の一人よ」

 おばさんといわれるのはあまり嬉しくないらしい。

「今そこに居る以上、来れないって事は無しにして、それでいったい私に何の用?」

「ただ、単純に誘いに来たのよ、宴会場の遠くから延々覗き見されていると折角の酒が不味くなるのよ」

「誘いに来たって……毎日のように起こっている宴会を不思議に思わないの?」

「別に、だって宴会がしょっちゅう起きることなんて幻想郷ではそう珍しいことじゃないもの」

「尤も、この頃は随分と多くなりすぎたせいか、霊夢達も異変に気づき始めてるみたいだけど」

「異変に気づいているのに私を誘いに来るなんて、随分と妙な妖怪ね、貴方は」

「ええ、これでも私2人の配下を世話する世話好きな妖怪として有名なのよ」

「そ・れ・で、世話好き妖怪の貴方は酒が不味くなるって理由だけでこの私を誘いに来たのね。でもお生憎様、宴会に飛び入り参加する気もあの子達と馴れ合う気も私には一切無いわ」

 世話好き妖怪はちょっと落胆した様子で一応頷いて、

「なんとなく予想はしてたけど、誘っても無駄だったわね」

 なんて呟いたので、

「そういう事。まぁ、私をどうこうしようなんてまだまだ甘かったわね」

 と、付け加えておいた。

 そうして、世話好き妖怪は去っていって、また一人。

 幻想郷で行われている宴会をゆったりと眺めなおすことにした……。





 世話好きのおばさんが去ってから数時間経過しただろうか?

 今度は妙な狐の妖怪がやってきた。

「はぁ、今日は随分と客の多い一日」

 と相手に聞こえるように呟いた後、

「こんなところにはるばるようおこしやす、ぶぶづけでも食べるどすか?」

 と、人間の世界で流行った追い出しつきの歓迎をしてみた。

「来た瞬間に随分酷い言われよう」

 狐は流石に来た瞬間から随分な接待をしてやったので、少しは頭にきたようだったけれど、すぐに気を取り直して本題を言いはじめた。

「遠くから眺めているだけではつまらないだろう? だから一緒に宴会をやらない?」

「ああ、やっぱりおばさんの仲間ね。でもさっき言ったとおり、宴会に参加する気は無いわ」

「……その割に、眺めている姿は寂しそうだったけど?」

「うるさい狐ね、ホントやなお節介。大体誘われたからってハイそうですかとあの場に交われるとでも思ってるの? これでも私は由緒正しい鬼族の一人、あんな雑魚妖怪や駄人間と一緒にやるような酒は一辺たりとも持ち合わせてないわ」

「雑魚妖怪や駄人間ね。まぁ、霊夢やら魔理沙やらが駄人間かどうかはおいとくとして、どう考えても雑魚妖怪とは思えないものたちが混じっているのに気づいてる筈よね」

「確かに真祖の吸血鬼が混じってたり、冥府の王が混じってたりするみたいだけど、だからって雑魚妖怪でないとはかぎらないわ」

「説得して参加してもらうのはやっぱり無理か」

「ええ、この気持ちが変わることは無いわ。だからさっきのおばさんみたいにとっとと撤退すれば?」

「じゃあ、しょうがない。一つ為になる話をするから黙って聞いてて」

「つまり、その話で私を説得して参加させようってわけ? 面白かったら参加しろと」

「別にそうは言ってない、もう参加させるのはあきらめたから、参加するしないはそちらに任せようと思う」

「でっ……と、どんな話をしてくれるの?」

「あそこの吸血鬼や冥府の王はみんな元々は敵同士でね、幻想郷を揺るがせる2大事件の真犯人なのさ」

「それはそれは。だったらとっとと捕まえてしまえば良いじゃない? そんな危険な奴らほっといたらまたでっかい事件を起こして世界を混乱させるかもしれないわよ」

「そうね。ひょっとするとあの2大妖怪はまたでっかい事件を起こすかもしれない。でっかい事件が解決したときに封印しておけばよかったと思えることもあるかもしれない」

「なら、尚のこと封印しておいた方が世のためじゃない」

「でもやらなかった。何故だと思う?」

「さあ?私には良くわからないわね。だって、そんな危険な奴らをほっておくのは百害あって一利なしだと思うもの」

「事件が起こった後にね、2人の大物妖怪はもうこんな事件はおこさないって言ったからだってさ」

「なによそれ? そんな口約束だけでみんな信用したって言うの??」

「信用した。少なくとも、事件を解決した霊夢や魔理沙達はそれで良いと思ったんでしょうね」

「へぇ……つまり、あそこにいる連中はお人よしの馬鹿ばかりと」

「そうとも言えないけれど。でも、多かれ少なかれ幻想郷には普通じゃない力を持つ者が多数存在するの。だから、イチイチ何かの事件がおきたときにまたやるかもしれないからって裁いて拘留したりしてたらきりが無い、それこそ幻想郷の妖怪達全てを封印しないといけなくなっちゃうんじゃないかな」

「だから口約束で放っておいたと」

「ほっておいてる訳でもなくて、少なくとも宴会の時にはそのことを出さないようにしたって言う方が正しいのかな? 今でも宴会の外では吸血鬼と冥界の王は対立してたりするし、時々は弾幕で決着をつけるような事態も往々にしてあるもの」

「宴会、だから無礼講。でもそうしたら宴会が終わった瞬間凄い事になるんじゃない?」

「ええと……そうじゃなくて。同じような事件が起きたらその時々で対処すれば良いだけで、一旦反省してやらないって言ってくれたなら問題はないと思うのよ」

「ふうん……」

「だから、ごめんなさいって謝って、普通に宴会に参加しに行けば良いと思うわ」

……謝れば、あの輪に入って昔みたいに楽しく過ごせるかもしれない。

「……………………でも、残念ね。私はあの宴会に参加する気なんて最初っから無かったの。だからそんな話は無駄よ」

……一人きりで過ごす日も終わって、みんなと暮らせる日が来るかもしれない。

「そう、なら良いけど。 気が向いたら参加してくれると嬉しいわ」

……でも、謝るのは嫌。 だから、この場は帰ってもらおう。

「多分、参加する事なんて無いと思うけどね」

 そうして、答えを聞いた狐はあのおばさんと同じように帰っていった。

 おばさんと狐が来て数日後の宴会。

……私は謝るのは嫌だったから、赤い霧に変わって、宴会場に遊びに行くことにした。

 こっそりと、遠い境界ではなく近い場所から眺めるために。

……それは、私が寂しく暮らしていた日々が終わる前のお話。
まぁ、宴会に参加している当人達は考えても居ないでしょうけれど。
策謀琥珀
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