Coolier - 新生・東方創想話

白と黒の幻想 ~後編

2007/03/05 13:14:44
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※注  作品集38「白と黒の幻想 ~前編」の続きにあたります
    なお、この作品はうろ覚えの知識と多分な私設定が入っております
    これらのことを容認していただけるなら以下本文をどうぞ







































【彼我同一性論】
【魔道具の正しい使い方 ~あなたはきちんと使えてる?~】
【魔力とは】
【魔道具の正しい選び方 ~あなたはどのタイプ?~】
【魔界の外の冒険】
【魔法使い偉人伝】
    ・
    ・
    ・
    ・













一息ついた後、部屋の掃除を行った。
掃除は気分の乗った時に一気にやるのが私のポリシーだ。
ここ4日間はマイがやってくれていたが、私と同じくそんなに几帳面ではないらしい。
目に付く大きなゴミこそ存在しないものの、よく見ると小さなゴミが所々落ちていたりする。

「ついでだからマイの部屋もやっとこうかしら」
と、人知れず言い訳を口にしてマイがしばらく使っていた部屋の扉に手を掛けた。
 まぁ別に入るな、とか言われてないしね。
 掃除をした、と言えば物色した理由にもなるだろうし。



ガチャリ



ノブを回し部屋に侵入する。(侵入といっても私の家なのだが)
部屋の中を見回してみると別段散らかってる様子もない。
床の上にはマイがここに来た際に持っていたやや大きめのバッグ、
テーブルの上には彼女が読んでいたと思われる本が山積みになっていた。










































私は執務をこなすときはいつもこのお気に入りの部屋を使う。
開放感のある方が仕事がはかどるため、この部屋は結構広く創った。
もちろん屋上の角部屋、ここから一望できる街と自然はまさに絶景。
落ち着いた感じを出すため壁は黒を基調としてシンプルに、
豪華な装飾の施された採光用の大きなステンドグラスは自作。
4方のうちの一面を覆い尽くす本棚は近況報告やら他人には見せられないものやらを詰め込み、
紅茶を淹れるためのティーセットも煮沸用の放熱魔方陣も用意してある。
執務机もこれまた黒で、いつも光沢を放つお気に入りの一品。
淹れたばかりで湯気の立っている紅茶は至福の一時を約束してくれる夢子特製のブレンドティー。

入り口と私との丁度中間くらいに立つ可愛い白魔法使いは、黒をバックにその存在感が一段と増していた。


「マイちゃんが私のところに来るなんて久しぶりね~
 どうしたの?何かあったの?」


 マイが私のところを訪れるのは一体何時振りかしら。

素直に嬉しかったのでつい頬がゆるんでしまう。
一月くらい前にユキがここに来た時に後ろにくっついているのを見かけたような気がする。


「一つ聞きたい事があります」


 何か心配事でもあるのかしら。
 いつもの聞いてるこっちが眠くなるようなローテンションな喋り方じゃないし。


「あら、何かしらね」


 それに今日はユキが傍にいない。
 喧嘩の仲裁?うーん、さすがに私が直接出張るものじゃないわね。
 親心としてどうにかしてあげたいのは山々なんだけど。
 あとで夢子相談員を召還することにしよう。


「神綺様はなぜ私のような不完全な存在をお創りになったのですか」






    ・
    ・
    ・
    ・
    ・






 ・・・へぇ。




 そうきますか。




 この相談はさすがの夢子相談員でも解決不能かしらね。


「どういう意味かしら」


私は純粋な疑問と若干の期待を込めて訊いてみた。


「少し前、私とあいつとで合成魔法の編成を試しました」
「・・・・・で、失敗したのね」




合成魔法

2人、もしくはそれ以上の術者による1つの魔法の編成。
複数人の魔力が重なるから当然出力は1人で行うそれの限界を超えることができる。


 魔法使いなら誰しもあこがれる高等テクだけど、あれって結構難しいのよね。


魔力の相性、出力もさることながら、そのコントロールが極めて難しい。
バランスを取るにはお互いの術式を理解しないといけないが、それはそのまま自らの手の内を明かすことになる。
魔法使いにとってその魔法の本質を探られることははっきり言ってかなり望ましくない。
弟子と師匠のように手の内を明かしても大丈夫だという関係、または表面上だけの理解を相手に与え、
本質を探られることがないくらいの実力が必要になる。
どちらにしろ相手に困るというのも合成魔法の難易度を高める要因の一つである。

 ・・・けどまぁマイとユキならこの点は問題ないわよね。


「魔力の比率を変えて試したとき少し私が調整に失敗したら、
 ・・・・・もう少しであいつを飲み込みそうになりました」


呟くようにマイは話す。


 あー、それは危ない。
 高難度の魔法は失敗したときのリスクも格段に高いからね。 


「マイちゃんはもう少し実力をつけないといけないみたいね」


私がそう答えるとマイは私の方から床のほうに視線を移した。

 なるほど、実力の問題の方ならそんなに深刻じゃないわね。
 魔法の領域なら夢子より私の方が専門だから多少のお手伝いはできるかしら。
 神様相談室で鍛えたカウンセリング能力が生かせるわ。
 ここまで凹むようだと恐らく1回や2回の失敗じゃないはず。
 自分の実力に嫌気が差すこともあるでしょうね。
 ましてやマイの得意とする魔法に関してだからねぇ

 自分の存在意義に疑問でも感じたのかしら。
 魔法使いだけどやっぱり心は硝子のように繊細な少女なのねぇ。


しばらく待ってみたが返答は返ってこない。
マイを見るとここに入ってきた時と同じ暗い面持ちでうつむいている。
こちらと目を合わそうともしない。

なので私は普段以上に明るく努めた。


「大丈夫よ、マイちゃんの実力は私から見てもすごいと思ってるから。
 ほらほら、元気だして。今回がダメでも次があるじゃない」


 普段はいつも強がってるけど合成魔法の失敗でここまで悩むなんて。
 また新しい一面を発見しちゃったわ。やっぱり可愛さの奥義はギャップよね。
 あー、それにしてもなんていじらしいのかしら。
 合成魔法はちょっと無理だけど何か秘伝書を貸してあげようかしらね。


「マイちゃんとユキちゃんは私が知ってる中でもとびっきり仲がいいことも知ってるし、
 修行すればいつかきっと合成魔法もできるようになるわ」


マイは少しうつむいたまま応えない。


 さすがに無責任に励ましすぎたかしら、
 それかよっぽど堪えてるのかしらね、
 まぁもともとプライドの高い子だったから。

飲みかけの紅茶に手を伸ばす。
そんなに時間が経っていたのだろうか、もう完全に冷め切ってしまっている。
というか冷たいんですけど。

















「・・・嘘ね」






  ・・・キィィー…‥…ーン・・・






マイが呟いた瞬間、周囲の熱量が一気に奪われ部屋の温度が急激に下がる。
それが魔法による影響だと私は一瞬で理解した。


「私とあいつとで合成魔法を創るなんて絶対に不可能」


マイはそう断言した。
こちらを睨むようなブルーの瞳は強い強い意志の宿る魔法使いの眼だ。


 ・・・・なるほど。


この魔法使いは気付いたのか。
魔力の本質を探る過程で。

どうやらそこから導き出される可能性にもこの聡い子は気付いたようだ。
そしてその答えを出しに私の元へやってきたというわけだ。

私の頬がさらに緩む。


「それは神綺様が一番よく理解ってるはず!」


叫ぶような声と同時にさらに周囲の熱量が奪われてゆく。
吐く息は白く曇り私は今度こそ満面の笑みを浮かべた。








































「はぁ、結局何もわからなかったわ」


マイが読んだと思われる本に一通り目を通し、
何かメモが残ってないかベッドの下まで探したが結局何も見つからなかった。

 こうなったら素直に本人に話を聞くしか道はないかしらね。

もう物が隠せるような場所に思い当たる節はない。
もう一度部屋を見渡してみると、


「・・・さすがにこれはまずいかしら」


マイのカバンが目に付いた。




 いや、これはバレたらちょっと言い訳が思いつかない。
 それにプライバシーの塊を覗き見る様な真似はさすがの私にもできないわ。

と、白い羽を生やした天使ルイズは言う。

 けどひょっとすると今回の騒動の原因がこの中に眠ってるかもしれないわよ。
 千載一隅のチャンスをみすみす逃すというの?

と、黒い尻尾の生えた悪魔ルイズは促す。

白)確かにキーとなるパズルのピースがあるかもしれない。けど乙女の秘密の園を覗いていいはずがないわ。
  それに相手は高位な魔法使い、トラップが仕掛けられていたらどうするのよ!?
黒)その点に関しては我らがご主人様はすでに解析がお済みのようね。
白)・・・・え?

 大丈夫、簡単なトラップがあることは確認したが解除は可能だ。
 それにこの型なら解除後、もう一度同じものを設置して偽装することもできる。

と、黒い帽子を深く被ったやけに凛々しい魔法工作員ルイズは腕組みをしたままにやりと答えた。

黒)というわけよ。それにあなたも少しはカバンの中身に興味があるんじゃないの?
白)そ、そんなことは・・・。
黒)たしか天使にとって嘘は重罰のはず。さぁ、興味がないと今ここで断言できるの!?
白)う・・・・・。
黒)ほら見なさい、即答できないのがあなたも興味を持っている証拠よ!

悪魔ルイズがそう高らかに宣言すると天使ルイズは膝を折ってその場にへたれこんだ。

黒)大丈夫、誰しも心のどこかに知的好奇心はあるの。それは恥ずべきことじゃないわ。

めそめそと泣く天使ルイズの傍らにしゃがみこんだ悪魔ルイズはそう優しく慰める。
魔法工作員ルイズはそんな2人を遠くから静かに見守っていた。


~~~


と、一瞬迷ったが「どこかで苦しんでいるあの子のため」と、ルイズはカバンに向かっていった。


     ・
     ・
     ・
     ・


バッグになるべく干渉しないように注意深く魔法を解析する。
どうやら編成されている魔法は簡易な鍵の役割を果たしているようだが、
それだけではなく巧妙にカモフラージュされたもう一つの術式が確認できた。

解除すると大爆発

なんて物騒なものではなく、解除する側の魔力の残滓を記憶する、
いわゆる『跡付け』みたいなものである。
忘れた頃に不意打ち気味に本人が制裁を行うのであろう。
知らずに破ると後々恐ろしい報復が待っているに違いない。

 けど残念、私は魔法についての理解はそれなりに深いのよね。


ヴン


と一切の魔法を凍結する。
魔法の内容が判明すればその対処法もいくつか思いつくことができる。
こういうタイプの魔法は無理に開けようとせず、全体の機能を麻痺してやればよい。
後者の魔法は私にはばれないと思っていたのか、
案の上強固に固定されてはいなかったため、私の簡単な魔法であっさりとその機能を停止した。

これでトラップの解除は成功。

 さて、何が出てくることやら。

ごそごそとカバンの中を漁ってみる。

【ペンタグラムの描かれた魔道具】
「これはこの前使ってたやつね」

【黒い丸薬の入った瓶】
「魔道具の一種だったかしら」

【白いワンピース】
「たまには他の色も着ればいいのに」

【マイの×××】
「あらあら、意外と・・・」







    ・
    ・
    ・
    ・







「うーん、これといって手がかりになりそうなものはないわね」

バッグの中にも仲裁の手がかりらしきものは見当たらなかった。

「仕方ないわね、おとなしく帰ってくるのを待つとしますか」

床にばら撒いた中身を一つずつバッグに詰め込んでいく。






と、不意にその手が止まる。


【黒い丸薬の入った瓶】


「・・・これって、薬じゃなくて魔道具・・・だったかしら」
 たしかこれは、そう・・・どっかで見た記憶が・・・。

妙に気になったのでその瓶を片手に部屋を出た。
私は実際に魔道具を持ってはいないが、その知識なら結構ある。
一般に出回らない珍しいものや、クレイジーな輩が作り出した傑作など、日の目を見ることがなかった物も知っている。
この丸薬、よく見ると表面にかなり複雑な魔方陣が描かれていた。
この術式は確かに見た記憶がある。

・・・それもかなりヤバめの本で。

私の脳裏に少し嫌な予感が走った。
自室に着いた私はそのまま奥の壁に向かっていき、普段人には見せられない貴重な書物を収めた隠し扉を開ける。





【空間跳躍の可能性】

 ・・・違う




【創生の魔術】

 ・・・違う




【禁出された魔道具】

 あった、たしかこれに載っていたはず。
私は急いでページをめくる。たしかこの魔道具は・・・・







     ・
     ・
     ・
     ・
     ・







嫌な予感ほど的中率が高いのはなぜだろうか。
そして大概は予感以上の出来事が現実に降りかかる。

一通りそのページを読み、さらにもう一度読み直し終わった私はその本を閉じた。
 

 よし、魔道具の効力は確認した。
 どうやってこの魔道具を入手したのか。
 なぜこれが今ここにあるのか。
 本来2つなければいけないのになぜこの瓶には1つしか残ってないのか。
 なぜマイは恐らくこれを1つだけ持って神綺様の元へ向かったのか。


気になる点はいくつもある。
だけど最悪のケースを考えた私はその魔道具を持って一目散に外に飛び出した。


 なんというか・・・、久しぶりに最悪って現実に直面するかも。


扉を閉めた私はそのまま走り出し、紅く染まり始めている空へ向かって跳躍した。






向かう先はマイと神綺様の処。
万一のことを考えてユキも連れて行かなくてはならない。


 あぁもう、こんなことなら探知の魔法くらい覚えときゃよかったわ!


心の中で愚痴りつつ、ありったけの魔力を振り絞って空を疾走する。

頬にあたる風が私から生まれる熱を剥ぎ取ってゆく感覚はこんな時でもなぜか心地がよかった。











【創生の種】
( 体内に取り込むことで物理的な組織を直接魔力に変換する魔道具。
  ただし取り込んだ本人全てが完全に魔力へと変換するまで作用が続くため
  その効力が危険視され、魔界保安局によりすぐに製作が中断させられている。
  ごく一部が世に出回っているらしい。:レア度 S )












































極寒の部屋。
マイの魔法--いや、魔力の開放といったところか--により
私の部屋の温度は奪われ続けている。

 あんまりはしゃぐと夢子が来るわね。

今はこの子と2人きりでいたい。
なので私は軽く夢子にメッセージを送る。



 さて、この子はどういう答えを持ってきたのかしらね。



「私とユキは魔力の質が対になってる。
 それもかなり完璧に近い」


言葉とともに肌を刺すようなプレッシャーが圧し掛かる。
そのくらいこの子は本気なのだろう。
問いに対する私の答えはこうだ。


「その通り、そういう風に私が創りました」


マイの魔力の本質は例えるなら白。
何もかもを奪い去り何もなかったかのように全てを白へと還元する。
曇りの一点もない白。

逆にユキは黒。
魔力を注ぎ増加させ、活性化させ、変容させ、全てを黒く塗り潰す。
光の欠片も許さない黒。

2つの色は相反する。
そんな2つを混ぜ合わせるとどうなるか、
それはこの子達が直接身をもって体験したはず。


「私は私の、あいつはあいつの持つ最高の魔法を組み合わせた」    周囲の気温はさらに低下する。


マイとユキの合成魔法、そこに辿り着こうとする2人の過程を私は想像してみた。


2人で登るさらなる高みを想い描き、心躍らせていたのだろうか。
それともこの子は以前から2人の関係に疑問を抱いていたのか。
初めから合成魔法が完成するはずがないと思っていたのだろうか。


多分そうなのだろう。
しかし・・・、一縷の望みは心のどこかにあったはずだ。


「そして、私はあいつを消しそうになった」      紅茶の表面が凍りつき始める。


魔法はそれを扱う術者の魔力を媒介に形となる。
では魔力とは何なのか。
確実な定義は私も知らない。
ただ、それはどんな物にも宿っていることは確かだ。
私、マイ、彼女の着ている白いワンピース、今にも結晶になりそうな紅茶、空気。
例外はない。


「私は、確信しました」     窓ガラスが軋む音が聞こえる。


特に私の創った魔界人という物は、その体に潜在する魔力の量が多い。
体内を巡る血液は魔力を全身に滞りなく運搬する、
指先から髪の毛1本に至るまで。
そういった意味で、魔界人は魔力の塊であるともいえる。
そして2つの魔力が接近すれば、
互いの影響は避けられない。


「私が力を持てばいつかあいつを完全に消滅させる。      防護用の魔法を無意識に展開する。
 逆にあいつが力を持てば私は完全に飲み込まれる」      紅茶は完全に凍ってしまったらしい。


魔法使いともなればその影響力はさらに増大する。
だから魔法使いは魔力をコントロールする。
そして魔力の量、操作力、キャパシティを練磨してゆく。
この2人もこれまでずっとそうしてきたのだろう。
しかしその本質が変わることはなく。


「仮に2つの力が同量だとしたら、後には何も残らない」    私の領域を拡大する。


魔法使いとしての実力をつければつけるほど影響は顕著になってゆき、
その反動は大きく、取り返しのつかないことになる。
もしこれらを回避したいのなら魔力の練磨を絶つか、
お互いの干渉を零にするしかない。


・・・・この子にできるのだろうか。


「魔法使いとなる資質を備えて生まれ、
 そうなるようにこれまで修行を行い、
 気付いた時にはあいつが傍にいて。
 あなたは私たちに嬉しそうに魔法を教えてくれました。






 こうなる可能性を知っていながら」


確かにその可能性を考えなかったわけではない。





「なぜ神綺様は破局が約束された私たちを創り出したのですか」





私は答える。





「今、あなたの考えている解答を見届けるためよ」





「・・・・わかりました」


そう言うとマイはポケットから黒い塊を取り出し、
それを飲み込んだ。












   バァァァァァァン!!





次の瞬間私の魔術は弾け飛んだ。

窓硝子が全て吹っ飛び、きらきらと赤く輝く

自慢のステンドグラスも同じ運命を辿り、有終の美を撒き散らす

床、天井、書架、ありとあらゆるものが一斉に凍りつく

マイの魔力の象徴である背中の白い翼が今や本人以上の大きさになってゆく

その全てがスローモーションに感じられた。

私を見据える眼は、吸い込まれそうなくらい深く、濃い群青。

そのプレッシャーは今や明確な殺意となって私に襲い掛かる。

白く、透明な波動。

空気の流れさえも停止する世界の中、

短いやり取りを互いに交わす。



 これがあなたの答えなのかしら


 そうよ、後悔はしてないわ







































「あー、また失敗だ」
「・・・・・」


我が家から少し離れた空き地。
そこで私たちは魔法の編成を行っている。

何回目の失敗だろうか。
8日ほど前、いきなりマイが合成魔法に挑戦しようと提案した。
合成魔法の難しさは知っていたが、その時はそれ以上に自分の魔法に対しての自信の方が強かった。
結局その期待は尽く粉砕されてしまったが。

 てかなんで発動すらしないのよ。

3日間魔法の組み上げを行ってきたが、
お互いの魔力は相加するどころか相殺してしてしまい
形になる前に消滅してしまう。
注ぎ込む魔力の比率を変えたり、魔力の質を変換させるような魔道具を使ってみてもだめだった。
その頃になってようやく私はマイと相性がよくないという事実にも目を向け始めた。


「・・・・・もう、いいよ」


普段なら先に諦めるのは私の方なのに、今回はマイからその言葉が飛び出した。
それにまだ3日目だ、いくら高難度の魔法だからといって諦めるには早すぎる。
一度マイの魔力の引き付けられすぎて意識が飛んでしまったりしたが、
それ相応のリスクは覚悟の上だ。


「え、次はあの新しいやつ使ってみようよ」

「ううん、・・・・・・もう十分」


そういうとマイはそのまま家の方に向かって飛んでいった。

 うーん、私ってそんなにだめだめなのかなぁ。

愛想を尽かされたのだろうか。
けど私の方はまだ諦め切れなかったので、
仕方なく一人であーでもないこーでもないと考えたり適当に魔法をぶっ放したりしていた。
まぁ何の成果も得られなかったが。

しばらくしてからいい加減疲れたのでふらふらと家に帰った。


 あれ?


『しばらく家を空ける』

いつもなら用意されているはずのティーセットはそこにはなく、
代わりに書置きがテーブルの上にあった。


正直かなりショックだった。
というか意味が分からなかった。

 ・・・本当にどうしたんだろう



~~~



「・・・・ぅ」


目を開けると赤くなり始めた空が一面に広がっていた。
ルイズの家を出てから公園のベンチでボーっとしていたらつい眠ってしまったようだ。
甘いものを食べたら眠くなるのはしょうがない、
手元を見ると空になったガラスボウルが陽の光を反射していた。

 あ、そういえばこれ返さなきゃ。

とはいっても家に直接乗り込むのはまずい、
幸いルイズの魔力の型はなんとなく記憶しているので、
2人が離れているときを見計らって返しにいこう。

と、思っていたらルイズらしき魔力が近づいているのがわかった。
マイも傍にいないようで、居場所は方角からすると

 神綺様のところ?
 
これまでのことから考えて恐らくそうだろう。

 マイったら私に内緒で相談にいったのね。
 けどまぁいいタイミングだわ。


と呟いた私はガラスボウルを両手で持ち、そのまま空に向けて浮かび上がった。
眼下に街が一望できるくらいの高さまで上昇した私は、
ルイズに気付いてもらうべく軽く魔力を込めた合図を送る。

相手もそれに気付いたようで、方向転換をして一気にこっちに向かってきた。
てかぶつかるって!!

そう思ったのも束の間、
私の目の前でルイズは急停止した。
ぜいぜいと息を整えるルイズに向かって遠慮がちに私は声をかけた。


「あの、丁度いいタイミングだと思ったので、
 このボウルお返ししますね」

「本っっっっ当にいいタイミングだわ!」


間髪いれずに返事が返ってくる。
こんなにテンション高い人だったっけ。


「ユキちゃん、あなたマイちゃんの様子って離れてても分かる?」


まだ少し息のあがっているルイズはそう聞いてきた。
何かあったのかと思い、急いで意識を集中する。







何か魔法を使っているのだろうか、
いつもより強い、馴染んだ魔力をすぐに感じ取ることができた。
方角は最初思ってた通り、神綺様のいる城。
空中からだと周りに遮蔽物がない分より詳しく分かる。
ほぼ確実にマイはあそこにいるだろう。


「・・・特に変わった様子はないみたいですけど」

「そう、まだ使ってないのね」

 ??


何のことかよくわからなかったが、ルイズの顔に少しだけ余裕が戻った。


「一体どうしたというんですか?」


息が整って少し落ち着いたのか、ルイズはその細い目をさらに細めて言う。


「ちょっとマイちゃんが大変なことになるかもしれないから一緒に来てほしいの。
 詳しくは途中で話すから」

「え・・・?」


ルイズの表情は真剣そのもの、
光に反射する汗がその言葉が嘘ではないということを雄弁に語っていた。


「わ、わかりました。けど大変なことって」


言うが早いかルイズは城の方に飛んでゆく。
私は慌ててその後を追った。




ルイズもかなりの速度を出しているようだが、
私はすぐに追いつくことができた。


「本当に何があったんですか!?」

叫ぶように私は問いかける。
顔にぶち当たる風のせいだろう、耳鳴りもうるさい。

「創生の種、って聞いたことある!?」

何のことだろうか、初めて耳にする単語だ。

「どうやら知らないみたいね!
 魔道具の一種なんだけどマイちゃんが今それを持っているかもしれないのよ!」

まだ遠くにそびえる城を見据えながらルイズは話す。
もう空は完全に茜色に染まり、城はその黒い影を街に落としている。

「それがどうかしたんですか!?」

口に出す声は一瞬で風に流され、遥か後方に吹き飛ばされる。
高速で飛びながらの会話がこんなに億劫だったなんて。
マイとならある程度テレパシーみたいなので会話できるのに。
ふとマイの顔を思い出す。
思い浮かぶのは去り際に見せたあの顔、
何かに集中しているようでどこも見ていないような。

「あの子、ひょっとしたらこのまま消えちゃうかもしれないのよ!」









 は?









いくらなんでも話が飛躍しすぎだ。

「あれは飲み込んで体内に取り込むことで体組織全部を魔力に変換させる効果を持つわ!
 もし使ったりしたら冗談じゃなく消滅しちゃうのよ!!」










しばらく自分が高速で飛んでいることさえ忘れていた。




あれほど煩かった風切音も聴こえない。




「今はまだ使ってないみたいだけど!
 ひょっとしたらひょっとするかもしれないのよ!」


なんだろう。
わけが解らない。
どうしてこんなことになっているの?


「あなた何か知らないの!?」


原因のことだろうか、
マイの心のことだろうか、
思い当たる節なんてありすぎる。
これまでかなり長い時間を共有してきた。
私の時間の7割はマイと重なっている。

だけど・・・・。

あぁもう!原因が多すぎてわからない!


ふと見ると城はかなり近づいてきていた。


と、







   バァン!






遠雷のような破裂音が聞こえ、城の一部分が白く輝く。
同時にこれまで感じていた魔力が爆発的に膨れ上がった。

 ちょっと、嘘でしょ!?

尋常ではない魔力。
横を見るとルイズの顔は血の気が失せたように青くなっている。

もう解った。
嫌というほど理解させられた。

さっきまでの会話が全部真実だということも
もう修正の効かない位に現実が進行しているということも
この異常な魔力の源がマイのものであることも
そしてこの魔力を得るためにマイが何を失おうとしているのかも


 ・・・・マイっ!


「ユキちゃんっ!!」

ルイズがすぐ隣に来て魔道具を私に手渡しながら言う。

「この魔道具は一度発動したとしても解除方法があるわ。
 使った本人の魔力と相対するような魔力をこれに込めて飲み込ませて!
 一番マイちゃんのことを知ってるあなたならできるわ!」

そこまで一気に言うと、辛そうに汗を拭う。

「あなたなら私より早く飛べるでしょ。だから先に行って頂戴」

このわけのわからない現実を終わらせられるなら。
いつものように2人で過ごせる時間を取り戻すチャンスがあるというのなら。

「わかりました、行ってきます!」

持てる魔力全てを推進力に変換する。
目的地は城の最上階のあの一角。
恐らくそこにマイはいる。









みるみるうちに城が近づいてくる。
城の外堀付近に到達し、目指す部屋は目と鼻の先にある。
しかしその間には神の右腕であるメイドが佇んでいた。


「こんな所まで来て、一体何の用かしら」

この人には目と耳がついていないのか!?

「マイに用事があります、通して下さい」

息を整えながら端的に用件を述べる。

「あの方は2人だけにしろ、と私に仰った、
 そしてその命は未だ解かれてはいないのよ」

右手に銀のナイフが出現し、眼光が鋭くなる。

 ふざけるな!!

と怒鳴ってやりたかったが、夢子の威圧感も相当なものだ。
まず戦っても勝てないだろうし、そんな時間もない。
そうこうしている内にもマイの魔力はさらに増大し続けている。

「お引取り願えないかしら?」

今度は左手に、こっちのはご丁寧に魔術様式まで施されている。
魔法の影響を限りなく無力化するそれは、
魔法使いにとってはこれ以上ない脅威になる。





だけど




ここで引き下がる選択肢は存在しない。





「・・・・代価を」

「代価?」

「私がここを通るための代価をお出します」

「へぇ、一体何を差し出すというのかしら」

興味深そうに夢子はこちらを向いたまま手元のナイフを弄んでいる。


 よし、会話が成立した。


この交渉に聞く耳を持ってくれないようだったら残された道は強行突破しかない。
説得をするにも相手が相手だ。
今私の目の前にいるのは普段の温厚で優しい夢子さんじゃない。
主の命を忠実に完遂する唯々完璧なメイド。
主以外の言葉を聞く可能性は、多分万に一つもない。


「代価は私の両腕、
 まずはこの左腕を今ここで差し上げます」


魔法使いにとっての命綱、マイに会うための代償としては安くはないはず。
もう片方の腕はできればまだ残しておきたい。
マイに会うまでは。

一瞬で覚悟を決め、左腕を掴んだ右手に魔力を込める。





   バァン




あっけない音とともに私の体は吹き飛んだ。
すぐに体勢を立て直す。
右肩には鈍痛。
思わず左手で肩を撫でる。



・・・って、あれ?



見ると私の立っていた場所に夢子さんが立っていた。

「残念だけどあなたの腕を頂いても嬉しくもなんともないわ」

夢子の左手に握られたナイフが赤く輝いている。
あぁ、あれで魔法を無効化したってわけか。
タックルのおまけつきで。

「けどあなたの覚悟は頂戴したわ。
 目の前で自ら傷物になろうとしてる娘の頼みとならば
 神綺様も納得してくれるでしょう」

ぶん、と左手のナイフが振るわれると、
残っていた魔力の残滓は堀に飛んで行き盛大な水柱を立てた。

「行くわよ、急ぐから私に掴まって」

「は、はいっ!」

慌てて返事をして、痛む体に鞭を打つ。
本当は夢子さんも気になっていたんじゃないかと思った。
でないとテレポートサービスなどやってくれないだろう。
差し出された手に掴まった瞬間、目の前の夢子さんの顔がブレた。












極寒











地獄に連れてこられたんじゃないかと思った。

目の前には対峙するマイと神綺様。


「マイっ!!」


ある意味地獄そのものなのかもしれない。
少なくとも生物が活動できる環境ではない。
白く霞む氷の世界は全ての生物の活動を停止させる。
巨大な翼を背負い、その圧倒的な殺意はそのままに
天使のように純白な驚いた表情のマイ。

ルイズの言っていたことは本当だろう。
こんな力を得るために犠牲にしなければならない対価なんてそういくつも思いつかない。


「そこから出てはだめよ」


神綺様が言った。


「夢子なら耐えられるだろうけど、
 今のあなたじゃ一歩外に出た瞬間に吸い尽くされるわ」

「神綺様は・・・」
「私なら大丈夫だから」


夢子さんの声に笑顔で返事を返す神綺様。
私たちは神綺様の創り出した結界の中にいるようだった。
一瞬でこれほどの結界を張るだなんて。
見るとこんな世界の中、余裕の笑みを浮かべている。
マイもそうだが神綺様の実力も私から見れば異常だ。


「マイ、一体どうしちゃったのよ!!」


「・・・・うるさい、あんたには関係ない」
 (ごめん、こうするしか私には思いつかなかった)


こちらを睨みつけてマイが喋った。


 ・・・?
 なに、これ?
 直接頭の中に響くのは紛れもなくマイの意識。


「いい加減あんたといるのも疲れたのよ」
 (腐れ縁だったけど、悪くはなかったわ)


そうか、いつものテレパシーだ。
マイの力が強すぎるため一方的に意識が流れ込んでくる。

 ちょっと、私の声は聴こえてるの!?

私の方からもマイに意思をぶつける。


「じゃあね」
 (あんたはちゃんと生きるのよ)


だめだ、全然通じてない。


「何勝手なことほざいてんのよ!」


私が叫んだ瞬間、マイの魔力が一点に収束した。

白く輝く閃光。
一瞬視界が白く染まり、思わず目を閉じる。



 バリィッ!



私が目を開けると、魔法の直撃を捌いた神綺様は防御用の魔方陣を組んでいた。
輝くダイアモンドダストが魔法の軌跡を描いている。

白い天使が翼を翻し、一気に距離を詰める。
それを阻止する為に空中に何十もの魔方陣が出現する。
陣はその役目を果たせず尽く打ち破られ
ほぼ零距離から放たれる無数の白き弾丸。
しかしすでに次の陣は完成している。
これまでの物とは比べ物にならないくらい強固なそれは、神が傷つくこと許さない。
暴風と供に白の天使の体は跳躍する。
数瞬遅く巻き上げられた純白の羽を消滅させながら黒い波動が空間を裂いてゆく。



全てはほぼ一瞬の出来事、

私はただ唖然としていた。

気付いたときにはマイは元の位置に戻り、
神綺様はその場から動いていない。

しかし一瞬のうちに部屋は崩壊しており、
天井という障害が除かれた今、真っ赤な夕日がそこに佇む全てを照らす。
その光は凍った空気にあたって乱反射し、七色の光輝く空間が完成していた。



「これだと手出しすらできないわね」


しばらくその光景に見とれていた私は夢子さんの声で我に帰った。
確かに、はっきりいって全ての桁が違う。
余波に巻き込まれて終了、というのが現時点では一番可能性が高い。
だけど、

このまま見ているだけで終わるのは嫌だ。
置いてきぼりにされるのはもう御免だ。


「マイ!
 なんでこんなことになってんのよ!
 私にも解るように説明しなさいよっ!!」


渾身の力をこめて叫ぶ。


「別に・・・、限界を感じたから有終の美を飾ってやろうと思ったのよ」
 (私はあんたを消したくないし、あんたに飲み込まれたくもない)

「・・・待って、何で私がマイに消されないといけないの」


そう言うとマイは驚いた表情をして、すぐにこっちを睨みつけた。

「・・・私の思念を読んだわね」
 (ちっ、うかつだったわ)

「マイの力が強すぎるのよ、こっちの声は聴こえてないみたいだし」

「この前合成魔法を試したでしょう、
 あの時あんたは何も感じなかったの?」
(相性が悪いなんてもんじゃないことくらい気付きなさいよ)

「別にちょっと相性が悪くてもいいじゃない!
 そんなことでここまでする必要があるの!?」


瞬間、私の周りから音が消え去った。


「・・・・・もういいわ」
(だからあんたはいつも足手まといなのよ)


マイの声だけが鮮明に聞こえる。
透明な音色だった。

白い翼が大きく膨らむ。
それに比例して魔力がさらに強大になっていくのがわかった。
しかしその力を得る代償としてマイの両足は薄く透け始めていた。

だめだ、こうしてはいられない。

ここに来た本来の目的を成し遂げるため、私は急いで懐に眠る瓶を取り出した。

「夢子さん」

ここからマイのいる場所までは結構距離がある。
合成魔法の編成の時にあった事故。
マイの魔力と私の魔力の質。
それを考えればこの結界から出たら私がどうなるかはある程度予想ができた。
恐らくマイのところに辿り着く前に私の魔力は吸い尽くされてしまうだろう。
私ではなく夢子さんが行った方が確実だというのはわかっている。


だけどどうしても私が直接行きたかった。


「何かしら?」

「無理な注文かもしれませんが私をマイのところまで運んでくれませんか?」

「大層な注文ね、けどできなくはなくてよ。
 ただ私よりもあなたの方は大丈夫なのかしら」

「大丈夫、だと思います。これで全部終わらせられるはずだから」

瓶から魔道具を取り出しながら私がそう言うと夢子さんは微笑んだ。


「じゃあ覚悟はいいわね」


ここに来た時のように右手が差し出される。
マイと神綺様はまだ動こうとしない。
戦闘時は目で追うことすらできなかったからチャンスは今しかない。


私はその右手を掴み、2人は空間を跳躍した。












「!!?」

目前にマイの顔が現れる。

その瞬間から私の魔力が一気に奪われてゆく。

 ある程度想像はしていたけど急がないと本格的に危ないな。

左手に握り締めた魔道具に私の持つ純粋な魔力を込めた。

そしてマイの群青色をした瞳に目を向けた私は、








 ・・・・なんで泣いてるのよ








ブルーの瞳の端に溜まっている雫。
それに気付くと同時に私の頭の中にマイの思念が洪水のようになだれ込んできた。

 (再会のない別れなんてまっぴら御免だわ)

私のことだろうか

 (かといって魔法使いとしての道を絶つのもできない)

う・・・、魔力が尽きたのかな

 (あんたとの時間を否定することになるから)

なんだか猛烈に眠い

 (だから私は魔法使いとして消えることにする)

これは・・・・まずい・・・・な・・・・

 (あんたは能天気だから一人でもなんとかやっていけるでしょ)





ふ・・・っと

脱力感が消えた。

見るとルイズが心配そうにこちらを見ている。

「よかった、気がついたみたいね」

「ここなら上よりかは安全でしょう」

私は城の門の付近に仰向けに倒れている状態だった。
そうか、夢子さんがここまで運んでくれたんだ。
って私どのくらい気を失ってたんだろう。
屋上の方ではまだマイの巨大な魔力が感じられる。
・・・よかった、まだ終わってないみたいだ。

「ん・・・っ」

私は上体を起こす。

「その様子だと、まだ飲ませてないみたいね」
「・・・はい、すみません」
「いいのよ、あなたはあなたにしか出来ないことをやればいいわ」

ルイズさんが慰めてくれる。

私にしかできないこと。

この魔道具をマイに飲ませること。






だけどそうすることでこれまでの日常が戻ってくるんだろうか。
2人で一緒にした修行。
私は朝食を作り、マイは昼食を作る。
晩御飯は交互に作ることになっていたが最近は私が作ってばっかりだった。
マイの想い。決意。そして涙。
これまでかなりの時間を2人で共有してきた。
そんな中でマイが涙を見せたことは今まで一度もなかった。


私だって別れてしまうのは嫌だ。











「・・・・・ルイズさん、夢子さん」

私は2人に声をかける。
4つの目が同時にこちらを向いた。

「もう一度マイのところに行こうと思います」

「うん、マイちゃんの魔力なら少しなら抑えることができるから、
 あなたはそれを飲ませることに集中してね」
「2人を同時に運ぶのは初めてだけど、
 まぁまかせておきなさいな」

そういって2人とも笑ってくれた。
私もつられて笑顔を返す。


「・・・ありがとうございます」






「そして、ごめんなさい!」

そう言った私は左手に握り締めている魔道具を口に含み、一気に飲み込んだ。

ぽかん、と口を開けてるルイズさん。
表情の凍りついた笑顔の夢子さん。


別れるのは嫌だった。
だけどマイの決意を踏みにじった先にある未来を心地よく迎えることもできそうになかった。


体の奥で魔道具の効力が目を覚ますのを実感した。
全身に魔力がみなぎってゆく。
許容量を軽くオーバーした魔力はその器から溢れ出し、周囲に放出された。


「ちょっと、どういうつもり!?」


ルイズさんが叫ぶ。
私はそれに笑顔で答えた。


「行ってきます!」


跳躍

爆音と共に私は宙に舞い上がる。

城の壁が音速でスライドし、私は一瞬で屋上まで到達する。

そしてそのまま呆然とこちらを見ているマイの元に着地した。



「あんた・・・・・何やってんのよ」


マイの体はもはや膝から下は完全に魔力へと変換されており、今や両腕が透けてきている。


「もう置いて行かれるのは御免なのよ」


私の魔力は今もマイに吸収され続けている。
しかしそれを遥かに上回る速度で私からは魔力が生み出されている。

 マイが言いたかったのはこの事なのかな。

さっきまでのやりとりのことが少し解ったような気がした。


「・・・・あんたの考えがよくわからないわ」

「いいよ、別に。」


やっぱり私達はこういう関係が一番合っているみたいだ。
ならこのまま私は私にしか出来ないことを果たそう。

そっとマイの手を握る。

透けてしまった手を通じて私の魔力が直接マイに流れ込む。
その魔力は相殺されることなくマイの欠けた部分を満たしていった。


「・・・・・嘘」


マイが信じられない、いった顔をしてこちらを向く。


「やっぱり魔法は実践よね」


私にもよく解らなかったのでとりあえず適当に誤魔化しておいた。


「じゃあアレやってみようよ」


さりげなく私は本命を口にする。


「・・・・そうね」


いつもの不敵な笑顔。


神綺様は笑顔でこっちを見ている。
やっぱりあの人はいつも笑顔なんだな。
その背には3対の翼。
向こうはやる気満々らしい。


ならばこちらも負けてはいられない。
私とマイが生きた証を刻み付けよう。


繋いだ手を中心に2人の魔力は絡み合い、混ざっていく。

黒と白。

溶け合った魔力は灰色ではなく万別に煌く極彩色。

闇が訪れた城の頂上に新しい星が生まれる。

私はマイの望みのため。

マイは私と誇りのため。

結局私もマイも、一人は嫌だった。ただそれだけのこと。

今はすぐ傍に一番大切なものがある。

「なんだかんだ言っても・・・」
「口に出すのは癪だけど・・・」

私達の声が重なる。

「やっぱり2人一緒が一番ね!」
「一緒の方が気分がいいわね!」

私達の意識が重なり1つの魔法が完成する。

私達の全てを込めた1つの魔法。

「行こ、マイ!」
「ええ、一緒に!」


生まれた星は太陽となる。

一瞬の閃光の後、そこにはいつも通りの夜があった。





































「ユキちゃん、マイちゃん!」

夢子に連れられて屋上に到達した私は2人の名前を叫んだ。
しかしそこに2人の姿はなく、
2人がいたことを証明するような魔力の残滓と翼を広げた神綺様がいるだけだった。

「神綺様、あの2人はどうなったんですか!?」

私は神綺様の元に駆け寄り、一番の疑問をぶつけた。

「ちゃんと存在してるわ」

光の欠片をすくいながら神綺様が答える。

「2人の出した答、確かに受け取りました」

私はその場に膝を折って座りこんだ。
と、目の前に光の欠片が降ってきた。
私はそれを両手で受けとめる。
その魔力はゆっくりと私の中に流れ込んできた。

なんて力強く、温かいんだろう。


「あの2人は立派に成長しました」


神綺様の声が聞こえる。


「持って生まれた宿命から逃げず、2人でそれを乗り越えた。
 正直私の想像以上でした。」


あの時の全てを吹っ切ったようなユキの顔が思い浮かぶ。


「もう一度生まれたとしても心配はないでしょう」


神綺様が私たちを創造したことは知っている。


「姿形は同じだとしても、・・・それは全くの別人です。
 私の知っているあの2人とは違う」


私は創造主の方に顔を向け、当然の疑問をぶつけてみる。




「あの子達なら今もここにいるでしょう?」




優しく光る魔力の欠片を手に神綺様はにっこりと笑った。




































 ~~  an epirogue  ~~





私は今、神綺様の城の庭にいる。



一度あんな経験をしてしまったため、いろんなことが吹っ切れたように思う。
絶対に無理だと思ってたあいつとの合成魔法もなぜか成功したし。
思ってたより魔法というものは深いのかもしれない。

さすがに以前より魔力は落ちたが、そんなものはまた取り戻せばいいだけのこと。
今は素直にテーブルで夢子が作ったプリンを貪っているあいつといられることに感謝しよう。

「あ、マイちゃんもこっち来なさいよ。
 夢子ちゃんの作ったプリン、早くしないとなくなっちゃうわよ」
「その『ちゃん』付けはやめていただけないかしら」

プリンの盛られた皿をなぜかここにいるルイズから受け取り、スプーンですくって口にする。
何よ、私のよりおいしいじゃない・・・。
椅子に座っている夢子はこっちを向いてにこにこ笑っている。
ち、何でもかんでも完璧だと思ってたら大間違いよ。いつかあんたの舌を巻くような料理を作ってやるわ。
と、心の中で思って、

「・・・・・まあまあね」

とだけ言っておいた。

「あ~、夢子ちゃんのプリンじゃないの~」

神様の登場。
あの後私達の起こした一件の対応に追われていたらしく、
ずっと部屋に引き篭もっていたようだった。
こちらに着くと、椅子に座るなり大皿からプリンをすくって食べ始めた。
事の本意を聞き出すため、私の魔力の全てを受けきってくれそうな人はこの方しか思いつかなかったためとはいえ、
かなりの迷惑をかけてしまった。
しばらくは頭が上がりそうにない。

「ん~、さすが夢子ちゃんね」

ご満悦のようだ。

「けどよかったわ~、2人とも立派に成長してくれて。
 私はとても感激しています!」

ユキを見ると苦笑いを浮かべている。
私もできることなら蒸し返してほしくなかった。

「まさかあんなことになるとはね~、
 性質の問題は2人を生んだ後で気付いちゃったんだけど
 無事にクリアしてくれてなによりだわ~」

元々私とあいつとの問題は予定調和じゃなかったんだろうか?
あの時は確かそんなことを言ってたような気がするけど。

「けど神綺様も酷いですわ。
 どうしてこんな厄介な性質を持たせたんですか?」

ルイズが突っ込む。
私もかなり興味があるので真剣になる。

「あの時も丁度プリンを食べてたのよね。
 ほら、これって白黒っぽいでしょ?
 こんな風に甘い子達が欲しいなー、と思ったの。
 で、めでたく2人が誕生したのよ~」


嬉しそうに神綺様が仰った。
見るとルイズは下を向いて震えていた。
夢子はスプーンでプリンを皿ごと両断していた。
ユキは半泣きになっていた。


私は全員の代表として目の前の創造神の顔にプリンを皿ごと叩きつけた。






 ~~  continue to the brilliant future  ~~
2度目の始めまして。

まずはここまで読んで下さった方々と、本文飛ばし飛ばしでもここを見てくれている方々に感謝を。
次に、後編のボリュームが異常にでかくなってしまったことに謝罪を。

ほとんどの設定が闇に包まれているため作成するに難儀しましたが、いかがだったでしょうか。
このような文を書くのが今回初めてだったので、ご指摘、突っ込みなどいれていただければ幸いです。
旧作の設定集・・・・あったら欲しいなぁ。

~~以下注意書き~~

●この話は時系列としては旧作の前であることを想定しています。

●私設定が本当に多分に含まれています。
 そのためひょっとすると旧作に触れておられない方の場合、
 設定が変にインプットされてしまうかもしれません。
 なので、この話はアナザーストーリーだと思ってもらって結構です。
 1)特に口調とか・・・。
   ユキはもっとボーイッシュのはずなのに・・・。
 2)マジックアイテムや魔術書は架空のものです。
 3)白黒の魔力の質、関係は本設定にはないです。
 寄せていただいたコメント読んだ後、一番大事な部分を書き忘れてたことに気付いた……。
東方ファンの一人
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コメント



0.330簡易評価
5.70名前が無い程度の能力削除
ユキを足手まとい扱いしているあれだけの台詞から
ここまで話を膨らませたのは見事。
神綺とのバトル中の背景なども描写されてるあたり、細かいと思う

にしても格好良かった神が最後で台無しwww

7.90名前が無い程度の能力削除
カリスマ溢れるちんき様に燃えた。
最後にそれを盛大にぶち壊したちんき様に萌えた。
8.90名前が無い程度の能力削除
うん、実に良かった。怪綺談のキャラは大好きなんで嬉しい。
何気に猛蹴伝のセリフが入っててニヤリとしてしまったwww

ただ、アリスの出番がほとんどないのが少し残念。読んでた時はアリスは幻想郷にいるものと思ってたけど、後書きでは旧作の前とあるので、それならもう少し出張ってもいいんじゃないかなー。
9.無評価東方ファンの一人削除
コメントどうもありがとうございます。
本来ここに書くべきか悩みますが、処女作とあってコメントいただけて狂喜してますので僭越ながら書き込ませていただきます。

>↓の名無しさん
あのセリフは2次設定とはいえゲーム内で1,2を争う好きなセリフです。
アリスは自分から積極的にこういうのに首を突っ込んできそうにないかなー、
と思ったので今回は物陰から覗いてます。

>↓↓の名無しさん
最後のオチは書いてるうちにふと頭に光景が浮かんだのでそのまま使ってしまいました。神々しくも愛らしいボスであってほしいです。

>↓↓↓の名無しさん
正直設定の方いじりすぎたかなーと思ってますが、許容していただいたようでなによりです。