※色々と崩壊しています。ご注意ください。
『この世に不思議じゃない事なんて何一つないんだぜ?』
人妖蔓延(はびこ)る幻想郷の中でも特に(人々の知る間では)進入を拒まんとする魔法の森。
日中でも陽の光が当たる場所は少なく、迷いこんだら森の知識が無い限り無事ではすまないだろう。
だから賢い人間達は自分に害が及ばぬように好き好んで森には近づかない。只―――人が居ない事を好都合とするちょっと変わった普通な人間も居る。
魔法使い、霧雨 魔理沙もそんな変わった人間の一人であった。
魔法使いというものは人を避けてひっそりと生きるモノらしいが、魔理沙はアウトドア派な魔法使いらしくしょっちゅう空を飛び回っては
巫女がやるような妖怪退治や別の魔法使いがやるような、やんごとなき頼まれごと(但し魔理沙本人が家を空ける事が多いので殆ど無い)
もやっていた。
彼女は魔法の知識も然ることながら、森のキノコの知識については聞けば解らない事はない。とまで言われている。
森で怪しい店を開いている『香霖堂』店主のお墨付きなので多分間違いは無いのだろう。
そんなキノコ博士な魔法使いが―――森で倒れていた。キノコ狩りをしている真っ最中だったのだろう。バスケットの中から倒れた際に
散ばったであろう大量の色取り取りのキノコと、右手に握り締められ、齧った後の怪しいキノコ。摘み食いは乙女のマナー違反とは解っていても
止められなかったのだろう。恐らく新種のキノコだったのだろうか。キノコに博識故に、『味も見ておこう』と一歩踏み入れてしまった…しかし
それはまさに奈落への招待状だったのだ。
「う…うぅん…」
どれぐらい気絶していたんだ?辺りを見回すと陽の光が全然あたらない、となると夕暮れか…。私とした事が、新種らしいキノコを
摘み取った喜びのあまりよく調べもせずにパクついちまったぜ。笠と壷はついてないから毒キノコである可能性は低かったんだが…。我ながら失態だぜ。
まあ、幸いなことにこの失態と痴態を知り合いに見られなかった事か?アリスなんかに見られた日にゃ、
『やっぱりキノコなんて不潔よ!色といい形といい…。キノコにまみれる魔理沙なんてきっとピーしてピーに違いないんだわ!』
とか言うに違いないぜ。くそっ。齧りかけだが、研究材料にはなるだろう。私は前向きに考え自宅へと戻る。
…ガサッ
「あ」
「あ?」
…噂をすれば何とやら、だな。七色の人形使いとばったりでくわしてしまった。コイツは私と同じ魔法使いではあるんだが、互いの決定的な違いは
『キノコを使う/使わない』だ。そんなだから私がキノコ狩りの時なんかに鉢合わすと嫌味と弾幕が飛んでくる。いわれの無い暴力だぜ。
などといかぶしげにアリスを見ていると…私の目に信じられないものが飛び込んできた。
「どうしたのよ。っていうか貴女もキノコ狩り?ちょうど良かったわ。余ったし食べていかない?なんなら半分位あげてもいいけど」
これはどうした事だ。私の幻視力が吹っ切れたのか?あのキノコ嫌い(?)なアリスが私の目の前でキノコを抱えているどころか頬張っている。
齧ってる。あ。根元からいった。
「どうした…ってのはこっちの台詞だぜ。お前はいつからキノコを克服したんだ。いつもは目の前にもってくと顔を真っ赤にして金切り声をあげながら
人形と弾幕を飛ばしてくる癖に」
「はあ?私が?私はいつだってキノコ大好き魔法使いよ。どれぐらいかと言うと…そうね、貴女のキノコ好きに負けないぐらいの情熱は持ち合わせているわ」
「じゃあ、人形とキノコどっちが好きなんだ」
「キノコ に決まってるじゃない。何言わせるのよ!もう私はキノコ無しじゃ生きられない体になってしまったのよ」
一瞬世界が歪んだ。いや違う、私の体がぐら付いた。普通じゃない。どうあったって普通じゃない状況だ。七色人形パ@ットマ@ット使いが
事もあろうに人形よりキノコ好きだと!?私の知らない間に事件でもおきたのか。それとも本当にアリスの奴はキノコを克服したのか?
私の頭にクエスチョンが飛び交っている内に、アリスがまた爆弾発言を投げ掛けやがった。
「そもそも…私をこんな風にしたのは…貴女じゃないの」
と、アリスは頬を朱色に染めて、モジモジしながら上目遣いでこっちを見つめてきた。恋する乙女だな。私の十八番が取られた上にこっちみんな。
やばい。私の本能がそう叫んでいる。普通な私がこんなにも焦燥するんだから間違いない。顔というか体中が汗だくになってきたぞ。
「さぁ!おとなしく責任を取りなさい!そして私のキノコを受け取って!『茸符・キノコフェスティバル』をぉおぉ~~!!」
「うわぁあぁぁ!?いつも以上に展開が読めないぜぇぇえぇ~~~~~!!!」
私はアリスの放つキノコ弾幕を星弾で相殺させつつ、いつぞやの終わらない夜を疾風したとき以上に、森を脱出し空を駆け抜けた…。
「ぜぇ…ひぃ…」
正直どこをどう飛んだのか解らない。が、私の終着点はいつもの神社だった。とりあえず暫く匿ってもらうか。
あいつならいつもの調子でお茶でも啜ってるだろうし。
「おーいー。霊夢ー?恋するストーカーに追われてるんで匿ってくれ」
私が部屋の障子をあけるまえに物凄い勢いで障子が開かれた。そこで私はまた度肝を抜かれたわけだが。
「うわっ!」
「魔理沙!大丈夫!?恋するストーカーはどこ!」
物凄い形相だ。というかやる気満々だ。こんな切迫した顔の霊夢は見たことがないぜ。というかここは、
『あ~はいはい。とりあえず中に入ってお茶でも飲んでなさい』な展開じゃないのか?
「あぁ・・・魔理沙。怖かったでしょう。でももう大丈夫よ。博麗の巫女の名に賭けてあんたを必ず助け出してみせる!」
世界が一周した。違った、私が盛大に1回転してこけたのだ。霊夢がありえない台詞を吐いてありえないやる気オーラを出しているのだ。
こんなのいつもの暢気な巫女じゃない。というかおかしい。暢気が反動で最初からクライマックスになったのか?いやいや、ありえない。
「いや…霊夢。なんでそんなにやる気なんだ。ストーカーって言ってもちょっと様子がおかしいアリスだぜ。というかお前も十分おかしいが」
「なんですって!?アリスがおかしい…そう。そうよ!そうなのよ!これは事件だわ!幻想郷全体を巻き込んだ大事件よ!ラスボスが全て糸を引いていたんだわ!昔は世話になった玄爺も…本当は優しかった魅魔も…私を幽閉した変な姫も…別世界から来たとか言うキ@@イ二人組みも…皆良い人だったのに…!」
死んでない上に人じゃないのも混ざってるんだが。
「そして今度は私の周りの知り合いから堕とそうとしてるのね…。許さない!絶対に許さない!そんなこと絶対させるもんですか!
…魔理沙。私は今から闘いに行くわ。大丈夫…ちゃんと帰ってくるわ。だけど…もし…帰ってこなかったら…ううん。なんでもない。じゃあ、その間神社は宜しく頼んだわよ」
霊夢は居もしないラスボスとやらを仕立て上げ、被害妄想に陥った挙句私を置き去りにして飛んでいってしまった。
大体ラスボスってなんだ。今の霊夢なら歴代のラスボスを10秒台で倒せそうな勢いだぜ。
「…おかしいぜ」
おかしい。幻想郷はおかしな奴らとおかしな事で豊富だが、今回ばかりはそんな出来事を根底からちゃぶ台返ししたような異変だ。
…異変?そもそもこれは異変なのか?もしかしたらアリスや霊夢は最初からあんな感じじゃなかったか?いやいや、しっかりしろ私。
たまたまアリスと霊夢が変になってるだけかもしれん。私は微かな希望を胸に紅魔館へと飛んだ。
願わくば普通でありますように。
「あぁ~っ!ま、またやっちゃった…」
「あっ!駄目駄目駄目ー!」
「きゃぁーーーーー!?」
そんな私の願いは、いともあっさり打ち砕かれた。
(私の中では)普通だった門番・美鈴に門を通され、紅魔館はさすがに変化なしかと思った矢先、割れた皿と引き裂かれたカーテン・壷が彩るフロアー
で叫び声をそこら中に振りまいて狼狽している、紅魔館の顔でありメイド長の十六夜咲夜が居た。
「あ~あ~。咲夜さんまた散かしちゃって…。ちゃんと皆でやらないと駄目だっていったじゃないですか」
美鈴、なんでお前は驚かないんだ。
「う…グズッ…。ち、違うもん…ひ、一人でできるんだもん…。私は完璧で瀟洒なんだもん…」
(うわぁ…)
なんだか見てはいけないものを見てしまった感じだ。あのパーフェクトメイドでポーカーフェイスな咲夜が新人メイドの如くドジ連発でしかもベソかいてる。正直今すぐここを飛び出して声を大にして言いたいが、泣いてる本人を見てると哀れに思えてきたのでやめとこう。
しかし…なんだ。…ぐずぐずしている咲夜を見ていると…こう…。
「もう、しょうがないですね。咲夜さん・・・また私の『桃色颱風』でお仕置きされたいんですか?」
「え・・・いや・・・。ち、違うわよ・・・そんな事」
おいおい、何二人して頬を染めるんだ。ていうかなんだ桃色颱風って。聞くからにお子様立ち入り禁止なスペルカードだぜ。
空気になりかけた私は、そそくさと紅魔館の別の住人を探す事にした。
―――この調子だと他の奴らも酷い事になっていそうだがな。なんだか楽しくなってきたぜ。
「だから私はいってるじゃないのこんな埃塗れの図書館からさっさと開放されて日の光を燦々と浴びて見も心もサンシャイン溶解したいのよそれがなによ
窓少ないし私は本しか読んでないしあげくもやしっ子だの喘息持ちだの私は健康体でいたいのに手足を動かす動作より魔法で移動したほうが早いのよ解るかしら解らないわよね昔から元気だけが取り得の貴女にはいいかしらこの際言っておくけど私は普段つまらなさそうにしてるけど正直心の中では誰よりもロイヤルフレアしてるわけなのよサイレントセレナでロイヤルフレアなのよそれが先入観と外見だけでいつのまにかもやしっ子だの喘息もちだの私は健康体でいたいのに手足を動かす動作より魔法で移動したほうが早いのよ解るかしら解らないわよね昔から元気だけが取り得のアナッダッゲフッ!ンガッッグッグ!」
「解ったから句読点を打て。息つぎしろ。」
ある意味予想通りというか、予想外と言うか。喘息もちの動かない大図書館の魔女は句読点を知らない弁舌魔女に大変身していた。
しかも喋っている間に体全体でジェスチャーしてくるから鬱陶しい事この上ない。さっきからツッコミしかしていない自分を悔しがりつつ、
普段口にファスナーをしているような奴が弁舌になっているのを面白おかしく鑑賞している自分を楽しんでいた。
「そういやレミリアはいないのか?夜だしアイツ時間だろうに」
「あぁレミィ?今妹様と一緒にキャッキャウフフしてるんじゃないかしら全く酷いわよね私友人なのにこういうときだけ蔑ろにされるのよねあーそうだあの
パーティーの時もそうだったわレミィったら自分達だけ楽しんどいて私には事後報告なのよ解
私は止まらない口速弾幕を放つ魔女から逃れた。
「さて・・・今までの異変を整理するか」
レミリアにも合おうと思ったが、我侭お嬢様が反転した吸血鬼を想像するとゾッとしたのでそのまま自宅へと戻ってきた。
事の発端は私が新種のキノコを齧って気絶から目を覚ました後だな。それから皆がおかしくなった。
異変はまたしても幻想郷全土・・・というか、幻想郷で異変を起こした妖怪、それと解決する人間に関わった奴だ。
人の性格なんざ早々変わる事は無い。しかもこの変わりようは『絶対に当人がやりそうに無い事』でもあるな。
以上の事から推測すると・・・。
「―――・・・まあ、あいつならどんな常識事も覆すだろうなぁ」
犯人は、やっぱりアイツだろうな。酒ほしさに森を閉鎖しようとするような奴だ。今回の事も当人がやりそうにない/口にしそうな事にないってのを
見たくて性格の境界でも弄ったんだろう。というか性格に境界なんてあるのか?
アイツの住む場所はしらんが、妖怪の集まる場所なら心あたりがある。
私は決着をつけるべく、再び神社に赴いた。
「さて、いるんだろう?スキマ妖怪」
夜明前の神社境内。私以外に気配は無かったが、アイツ―――紫はどこでも現れる。私は確かな確信をもって誰も居ない空間に声をあげる。
「確かに普段見られない光景を見れて面白かったぜ。でも、異変は人間が解決するもんだ。お前さんのあくどい趣味にこれ以上付き合うのは
心臓に悪い。だったらここで白黒つけて、私が気持ちよく安眠できるように協力しな!」
後ろ、気配、いる―――紫だ。間違いない。
―――間違いない。んだが。
なんだ、この変な臭いは。
「うっ・・・ひどい臭いだ」
思わず口に出してしまったほどだ。なんというか・・・ミルク臭とでもいえばいいんだろうか。小さい赤子がだす特有の甘ったるいあのなんとも言いがたい
スメル・・・まあ有り体に言ってしまえば『乳臭い』。こいつ、変な芳香で私を弱らせようってか・・・?
「随分と妙手を使うじゃあないか?紫・・・それとも私との弾幕勝負に自身が無い――――いぃいいぃい!!!??」
振り向きざまナパームボムをけしかけようとした私は素っ頓狂な声を張り上げてしまった。
そこには、
涙目の、
乳臭さ全開の、
スキマようか・・・スキマ少女がいた。
「あー?なんだ、自分の年の境界でも弄ったのか?それともあくまでも私を油断させようって魂胆か?
残念ながらその手には乗らないぜ。こっちはもうおかしい事に合いすぎて慣れたぜ!」
「う・・・うわああああああああああん!!」
「ええぇーーー!?」
すまん、おかしい事に慣れたといったが、ありゃ嘘だ。紫が大声でなくだなんてありえない。ありえないんだぜ。
「このお姉ちゃん怖いよぉーーー!!」
と、泣き叫んでいつまにか紫の後ろに立っていた人物に抱きつく。・・・乳臭そうだ。
「・・・そう。あんただったのね。全ての元凶は」
最悪な事態はさらに最悪な事態にいくもんだな。とこの時私は冷静に思っていた。やる気満々モードの霊夢が私を捉えていた。
目が据わってる。やばい。本気だ。
「お、おちつけ霊夢。話せば解る」
「・・・ええ、解ったわ。あんたが後ろで糸を引いていたってことがね」
「だからそれはお前の妄想だろう!?」
「そう、そうやって皆を陥れたのね。あげくこんなペドい妖怪少女まで誑(たぶら)かそうだなんて!」
「私はそんな趣味は持ち合わせてないぜー!」
「問答無用ゥゥウウウ!夢想封印ーーーーー!!」
「ぎにゃーーーーーーーーーーーー!?」
七色に輝く珠が私に襲い掛かる。世界が眩しいぜ・・・。あ、やばいなんだか走馬灯・・・
「…あ?」
体を起こす。辺りを見回す。
―――魔法の森だ。
「あれ…?私は…?あれ…?キノコ…」
自分の右手を見る。新種のキノコが齧り跡をつけられてしっかりと握られていた。
「…ま、まさか夢?」
冷や汗が頬を伝う。夢というにはあまりにもリアルすぎる。だとしたら時間が逆行したのか?何故?
ガサリ
「あれ、魔理沙じゃない。って…貴女またキノコなんか取って」
振り向けば七色の魔法使い。私は半混乱状態のままアリスに問うた。
「なぁ、アリス。お前キノコ好きか?」
「はあ!?何言ってるのよ。好きなわけ無いでしょう…当たり前の事聞か
「嘘だっ!!!!!!!!」
「ひっ!?ちょ、ちょっと魔理沙?」
「好きなんだろ…?本当は…なあ。好きなんだろう?コレなしじゃ生きられないんだろう?なあ!
好きなんだろう!好きと言ええぇえぇぇ!!!」
「きゃあぁあぁ~~~~?!だれかぁあぁ~~~!!」
翌日、文々。新聞に普通の魔法使いが普通じゃなくなったとの記事が載った。
おしまい。
>レミリアにも合おう 会おうの誤字だと思われます。