Coolier - 新生・東方創想話

鬼魂三途渡

2007/03/04 08:38:02
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ここはどこだろう。


私は「何」だったのだろう。「誰」だったのだろう。
「私」を「私」と言ってるコレは何なのだろう。何一つわからない。


「そうだな、まずは目を開いてみるといいよ、お客さん。」


声が聞こえた。女の声だ。


女、という認識が持てるなら、私は人間だったのかもしれない。もっとも、動物ならどう認識するかなどという事は知らないが。
とりあえず言われた通りに目を開いた。


河だ。向こう岸がわずかにかすんで見える程度の、大きな河。
そして、自分の側には、赤い髪の少女。女性にしては随分と長身に見える。


ここは、どこなんだろうか。


「ここはね。そう、お客さんも一度は聞いた事あると思うけど、「三途の河」ってやつさ。」


三途の河。ああ、人が死んだら来るというあの。ということは。


「そう、お客さんは死んだからここにいるのさ。そしてあたいはこの河の水先案内人、小野塚小町だよ。」


まあ、名乗っても仕方ないんだけどね、と少女はからからと笑った。


確かに、ここが本当に三途の河なのなら、名前を知った所でこれ以上縁が出来るわけでもない。私はただ裁かれてなるようになるだけだ。


「今日はお客さんが最後・・な気がするから。少しお喋りしないかい?なに、ほんの気まぐれさ。」


お喋り?お喋りといっても、一体何を話せばいいというのか。


「そうだね、じゃあお客さんが、死ぬ前どんな人だったか。そして何故死んでしまったのか。かな。」


この場所でいう「当たり障りのない話題」と言った感じか。


私は・・私はどんな人物だったか。
思考をすると、思い出す、というより、0から記憶が構築されていくような感覚で、そして鮮明な映像で再生されて行く。


村が燃えている。人々が叫んでいる、悲鳴といった方が近いだろうか。家が崩れ、木々が倒れている。
そして逃げ回る人々に襲いかかる影。大人より更に一回り大きいその影────私だ。


・・ああそうだ。私は人でありながら人ではなかった。人として生を受けたが、誰一人として私を「人」として見る人はいなかった。


「へぇ・・。それはまた何故?」


私は生まれて間もなくして、鬼に憑かれた。
皮膚はみるみる人とはまるで違う色となり、頭には鋭い角が生えて来た。


「鬼憑き、ね。そういうのがあるのは知ってたけど、あたいも実際そうだった人を見るのは初めてだよ。」


私が腕を振り回せば岩など、木など、いつも簡単に砕け散った。私が一度叫べば、大地が、森が震えた。
人間など、いとも簡単に。


「たくさん殺したわけだ?」


ああ、そうだ。最初は自分を産んだ両親を。そして、次はその村の人々を。そして、幻想郷の人里という人里を。
殺す事に抵抗など無かった。私は鬼だったからだ。何度も人を攫った。退治に来た者達を何度も殺した。


「だけど、やっぱり鬼さんは最後は・・。」


そう。攫い、襲い、殺したが、最後には桃太郎がやって来た。
まあ、桃太郎のお供はキジとサルどころか不死鳥と半獣だったわけだが。


「はは、そりゃ酷い。」


ああ、酷すぎた。恐怖を与える事しか知らなかった私が恐怖した、だなんて話なら物語として上出来なのだが、恐怖するどころかあまりの力の差に笑えてきた。
敵うとか敵わないとかそういう考えの以前に私の体は灰になっていたようだ。


「・・なるほどね。ここに来る魂の中には確かに「人」とはちょっと違う人も多かったけど、お客さんみたいなのは初めてだよ。」


そうだろう。人でありながら鬼だなどというのは私以外にはほとんど無いだろう。
まあ、人の身でありながら鬼である私より強大な力を持つ人間が幻想郷には多くいるようだが。


「ははは、違いない。どっかの神社の巫女とかね。面白い話聞かせてもらったよ。んじゃ、そろそろ行こうか?」

・・三途の河は生前の行いにより渡し賃が決まり、それによって河の長さが変わるという。どうやら長い船旅になりそうだ。
あれだけ人を殺めたのだから──


「そういうのは、お客さんが持ってる銭を見てからいうものだよ?」


じゃらり、と重量感のある袋が、いつの間にか私の手の中にあった。
おそるおそる開いてみると、そこには私が使う機会すらなかった銭。しかも、結構な量。


何故だ?何故こんなにも銭があるというのだ。私が善行を一つでもしたというのか。人にあれだけ恐怖を与えた私が。


「・・・あなたは勘違いをしています。」


後ろから声がした。
振り向くと、そこには緑の髪をした少女。小野塚小町に比べるとかなりの小柄だ。
そして反対側からはげっ、という小野塚小町の声が聞こえた。


「はぁ・・、今日の分が終わったと思って来てみたら。またサボってるんですか、小町は。」
「えっ、や、やだなー映姫様。これからやろうと・・きゃん!」


言いかけた小野塚小町の頭に笏を落とし、少女は溜息をついた。言い回しと、小野塚小町の気まずそうな顔からして、小野塚小町の上司と言った感じだろう。という事は。


「そう。私は幻想郷を担当する閻魔、四季映姫といいます。」


閻魔がわざわざ三途の河にいる、なんてことは生きている間は考えた事もなかった。
普通は裁判所で死神が送る死者の魂を裁くのが仕事なのではないのか。


「・・ええ、まあ。普通はこんな所には来ないんですが・・。どうもこの子はすぐにサボって・・こら、逃げない!」
「きゃん!」


四季映姫はそろそろと逃げようとする小野塚小町の服の帯をがしりと掴んだ。
何とも、こんな少女二人が死神と閻魔などとは思えない。まあ、ここにいる時点でそれ以外考えつかないのだが。


「さて、話が戻りますが。あなたの銭が多い事は不思議な事もありません。あなたは「人」として生まれたかもしれませんが、
あなたは「鬼」として生きる事を生まれてすぐに決められました。」


だから何だというのか。私は幾多の人を殺めた。


「「善行」とは何だと思います?確かにあなたは人であったがために人という主観から見てしまうでしょう。ですがあなたは鬼なのです。
なら、鬼の役目とは?」


・・人に恐怖を与える事・・?


「そう。殺し、襲い、攫い。人に恐怖を与えるという役割を持ち、生を受けたあなたが、それを果たして何故悪い?自分と違う生命を奪う事が悪行ならば、人間は悪人だらけです。」


そうだ、人間は植物を切り、動物を殺している。私の場合もただその立場が違うだけ・・という事か。


「そういう事です。人が魚を食べる事は悪行などではありません。生存の為であり、世界の生物の均衡を保つ為。
あなたもそうです。生物が他の生物をまったく殺さなかったら、世界は溢れてしまいます。
正常な輪廻を保つためにも、生物には天敵が必要不可欠なのです。」


増えすぎても、死にすぎても、殺しすぎてもいけない・・。


「だから、あなたは「人の天敵」という存在。存在がその存在としての役目を果たす事、それが善行です。悪霊ならば人に害を与える、といった風に。
その銭が多い事はあなたが鬼としての生を全うした証。何も不思議ではないのです。・・まあ、天国にいけるか地獄にいけるかは私次第ですが。」


ふふ、と最後に四季映姫は微笑んだ。見た目相応のかわいらしさを含んだ笑顔だった。
その笑みと、言葉に、私の心は少し安らいだ気がした。
結果はわからないが、何となく、悪い結果にはならないような、そんな安心感に包まれた。


「ほら、小町。仕事ですよ。まあ、この銭の量ならすぐに渡れるでしょう。私も同乗します。」
「わっ、映姫様、横着~。」
「あなたに言われたくありません!」
「きゃんっ!・・あぁ、お客さん、長く待たせてごめんね。さ、乗りなよ。」


船に乗り込み、小野塚小町が船を漕ぎ出した。
河の長さの見た目は変わらないはずなのに、明らかに短く感じた。恐らくは死神の力なのだろう。


実際、半時とかからずに向こう岸へと着いた。
一面の彼岸花の絨毯の向こうに、建物が見える。あそこで私は裁かれるのだろう。
果たして行き先は、天国か、地獄か。


「では、一足先に裁判所に行ってますから。少ししたら来てください。・・ああ、そうそう。あなたにこれをあげましょう。」


四季映姫はそう言って、足元の彼岸花を一本抜いて私に差し出した。
受け取って、渡された赤い花を見つめる。一体、何の意味があって渡してくれたのだろうか。


尋ねようとした頃には、既に四季映姫の姿は無かった。
彼岸花はたしか、地獄花だとか死人花だとか言われていて、不吉な印象ばかりがある。あまりいい気分はしなかった。


「おっ、お客さん、いいものもらっちゃったね。これは天国行き決定どころか、転生先も人間になれる、って感じかな?」


舟をとめてたせいで少し遅れてきた小野塚小町が花を見つめている私にからからと笑いかけてきた。


・・何故、そんな事がわかるのか?この花は不吉なものではないのか。


「ありゃ、知らないかな、彼岸花の花言葉はね。」


花言葉?



















「『また会う日を楽しみに』さ。」


一応二度ほど投稿していますが、受験とかあったりして間空きすぎてほとんど初めまして、なみずほです。
過去作品は私的に黒歴史です。もしかしたらこの作品も黒歴史化するかもしれませんが!

今回の作品は、彼岸花の花言葉を知って、それが書きたいが為にここまでになりました。
丁度、一度は映姫とこまっちゃんのコンビを書いてみたかったので楽しくできました。

オリキャラ(というべきなのか)の「鬼憑きだった人」。これは本当に思いつきでした。
いや最初は普通に鬼だったんですけど、三途の河って確か人間しか来なかった気がするので・・。

これは余談ですが、最初タイトルが「彼岸鬼話」だったんですけど、どっかの同人誌のタイトルそっくりになることに気づき急いで訂正(笑)

このコンビを書くことも、オリキャラ出すことも初めてなので、短くても批評、感想など書いてくれると嬉しいです。
みずほ
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コメント



0.540簡易評価
1.50名前が無い程度の能力削除
自分の中での映姫、小町のイメージはこんな感じです。オリキャラも違和感は感じませんでした。
多少短い気はしますがこういう雰囲気は好きです。
黒歴史にならないといいですね。
2.70名前が無い程度の能力削除
善悪に対する人と鬼の主観の違い、という着想点が私には新鮮でした。
最後もまとまっていて、読後感も悪くないと思います。

>人が魚を食べる事は悪行などではありません。
不殺生戒のくだりについては、上手く言えないのですが
なんとなく違和感を感じました。ただ、人によって捕らえ方が違う所なので
あまり気にされる程の事でもないのかもしれませんが。

>不死鳥と半妖だったわけだが
この辺の描写が、少しもの足りなかった気がします。
(桃太郎と不死鳥と半妖が、誰かわからなかった。妹紅と妖夢?)

小説の書式・体裁については、個人の好みがあると思いますので
あえてコメントはしません。

色々と書いてしまいましたが、これからも頑張って下さい。
今後の可能性に期待しつつ、次回作をお待ちしています。
3.無評価みずほ削除
>人が魚を~という所はもちろん色々な事情が絡んだりして何とも言えないので、感じ方は人それぞれだと思います。まあそれも含めて読んで頂けるといいかな、と。
>不死鳥と半妖
妹紅と慧音・・なんですが、よく考えたら慧音は半妖ではなく半獣でした。訂正します。指摘ありがとうございました。それでもわかり辛いとは思いますが。
解り辛いと思うのでこの場で補足をさせていただくと、「桃太郎」が妹紅、「不死鳥」は妹紅の背後の不死鳥、「半獣」は慧音という解釈でお願いします。
訂正箇所 半妖→半獣
8.80名前が無い程度の能力削除
主観の違い、殺生についてというのが面白いと思いました。
すっきりと読めていい感じだと思います。
オリキャラも突っ込みすぎず変にズレすぎず良いと思いました。
次回からも楽しみにしていますね。