※注 この作品にはうろ覚えの知識と多分な私設定が入っております。
これらのことを容認していただける様でしたら以下本文をどうぞ。
「明日も良いお天気となりそうです。洗濯物も気持ちよく乾くでしょう」
という魔界神天気予想のとおり、今朝も窓の外は快晴。
日向ぼっこをするとさぞかし気持ちがいいだろう。
やわらかい日差しが差し込む部屋の中、テーブルを挟んで2人の少女がそれぞれ椅子に腰掛けている。
湯気の立つマグカップを片手に普通の魔界人であるルイズは「フゥ・・」と溜息をついた。
溜息の元凶はテーブルの対面に同じくマグカップを持ち、食後のコーヒーに口をつけながら
こちらのことを気にもせず、ごく平然と本を読んでいる。
「ねぇ、いつまでここにいるつもりなの」
少女はこちらを見ようともせず、声が聞こえているのかいないのかわからないが
未だ手元の本に目を走らせている。
「別に家にいるのはかまわないのよ。
ただ、いつまでもこうしてはいられないでしょ?」
ぱたん と本が閉じられ、ブルーの瞳がこちらを向いた。
「あなたが邪魔だ、と言って追い出すのならすぐにでも出て行くわ。」
白の魔法使い、マイはそう言った。
~ 白と黒の幻想 ~
事は4日前に遡る
「わけあってあいつの顔を見たくなくなったからしばらくここに泊めさせてほしいの」
空が黄昏色に染まった夕暮れ時、玄関のドアをノックする音を出迎えた私に向かって
扉の向こうにいた彼女はそう言った。
彼女達が同じ空間で生活をしているのは知っていた。
現在ここにいる白い方はマイ、黒い方はユキという名前で、共に実力のある魔法使いであり、
ちょくちょく喧嘩はしてもすぐに仲直りする程度に仲が良いことも知っていた。
なので見知った顔であったし、特に断る理由もなかったので私は彼女を招きいれた。
コーヒーを煎れ( 私のブレンドで結構自信作:レア度 B )、話を聞いてみると
どうやら予想してた通りただの喧嘩であることが判明。しばらくすると勝手に出て行くだろうと判断した。
その後話を聞くと、喧嘩の原因は新しい魔法の作成が失敗続きだったというだけのこともわかった。
「魔法のことになると家を飛び出すくらいに真面目なのねぇ、お姉さん感心しちゃうわ」
と、軽く冗談を言ったら部屋の温度が急激に低下した。
呼吸がいきなり視認化してあらびっくり。
ついでに目の前の魔法使いは焦点の合ってない目をしたままぶつぶつと何かの詠唱をしていた。
かなり怖かったので、夢子さんの手作り羊羹( 彼女は何をさせてもパーフェクト:レア度 A )を
目の前に出したら元の顔に戻ってくれた。
魔界グルメ紀行( 月刊誌で愛読書:レア度 E )で夢子特集が組まれる程、彼女の料理の腕は凄まじい。
しかも一般人には滅多に口にすることができないものなので、交渉の材料として正に切り札的破壊力を持つ。
「よかったわ、極寒地獄で生活するのは私も苦手だから」
魔法使いは羊羹をに舌鼓を打った後そう言ってにこにこしていた。
言葉のキャッチボールで気まぐれに変化球を投げてみただけで
この娘は私の家を機能不全にするつもりだったのだろうか。
そもそも地獄で生活など出来るのか?
一切が氷に閉ざされた世界で彫刻のように笑みを張り付かせたまま微動だにしない私を想像していた。
そして現在
彼女が来てから私の生活が一変した、ということはなかった。
彼女は私がコレクトしている魔術書やら雑誌やらに目を輝かせ、
部屋にいるときの彼女は本を読んでいるか何か書き物をしているかのどちらかで、
時々外に出ては魔法の編成をしているようだった。
今のところ私の家に最初の室温低下以外では魔法による被害は出ていない。
むしろ家事を手伝ってくれたため、現在となっては歓迎の念が強い。
「居候の身なんだから最低限の労働はするわ」
と、なかなか礼節がなっている様子。
別に何かさせようとは思っていなかったが、折角なので好意をそのまま受け取ることにした。
「ねぇ、ずっと本を読んでるみたいだけど何を読んでるのかしら?」
最初は魔術書にかじりついているのかと思っていたが実際はそうではないらしく、
どちらかというと私が趣味で集めている書架の方を集中的に読んでいるみたいだったので聞いてみた。
もし趣味が交わる点があったのなら、この際是非とも親睦を深めたいし。
「ん、今はこれを読んでる」
【魔道具カタログ・これであなたも大魔法使い】( ブースト系アイテム特集号。私は見て楽しむだけ:レア度 E )
「へぇ、何かお気に召すものは見つかったの?」
「ん~、実際に使おうってわけじゃないの、
どんなものがあるか眺めてるだけ」
おっと、いきなりビンゴかしら。
私自身そんなに魔法を使わないので魔道具の類もあまり持っていない。
むしろその原理に興味があり、その類の本なら自慢ではないが結構色々な種類を集めてある。
ブースト愛好会に今度誘ってみようかしら。
なんて私が未来予想図を妄想していると、
「あ、ちょっとキッチン借りてもいいかしら?」
「・・・えぇ、別にかまわないけど」
「じゃあしばらく借りるわ」
と言って本もそのままにマイはキッチンの方に歩いていった。
まぁ魔法使いが気まぐれだということは知識としては知っている。
あれ、魔女の方だっけか。
「ところでこの本・・・」
・・・読み終わってるのなら片付けるんだけど、判断に困るわね。
ということで私も本はそのままに自慢の庭の方に足を向けた。
こんなにいい天気の日には日向ぼっこに限るわ。
と、当初の予定を敢行することにした。
「プリンを作ってみたからよかったら食べてみて」
昼下がりの陽光の中、庭に設置してあるガーデンチェアに座ってぼーっとしていたら、
ボウル一杯分くらいのプリンが盛られた皿がテーブルの上にどかん、と出現した。
なんでパーティ用のプリンが私の目の前にあるのかしら・・・。
あの後なにかやってるみたいだったけどこれを作ってたのね。
というかブースト系魔道具からどうやればプリンがインスパイアされるのかしら・・・。
と、しばらく脳内メモリがプリンと魔道具で一杯になっていたら、
これを持ってきた本人はすでに部屋に帰ろうとしていた。
「あなたも一緒に食べるんでしょ?
さすがにこの量は一人じゃきついんだけど」
私が慌てて声をかけると、
「私の分は別に用意してあるから大丈夫、
全部食べといてね」
と言いながら彼女の姿は家の中に消えていった。
いや、さすがにこの量を全部消化すると色々と弊害があるような気がするんですが。
主に体重とか。
まさか私の部屋に設置してあるぶら下がり健康器( 魔界通販で購入。神綺様が髪の毛を使って
ぶら下がっているコマーシャルが色々と話題になった:レア度 D )を見たのか?
ベストな体型を維持しようと毎晩影ながら努力している私へ喧嘩を売っているのか?
「あ、それともう一つ」
いきなり声が聞こえた。
あんた部屋に戻ったんじゃなかったの?
見ると扉から顔だけ出してこちらを見ている彼女と目が合った。
「もしあいつが来たとしてもまだ顔を見る気にはなれないから」
そう言って今度こそ扉は音をたてて閉じられた。
なんだそれは。
この攻撃はまだ序章のクラリオンコールにすぎないということか?
善意なのか善意を装った悪意なのか唯の悪戯なのか・・。
魔法使いの考えることはよくわからない。
・・・ともあれ折角作ってくれたプリン、無駄にすることはできない。
甘いものが大好きな私の中で、プリンはかなりの上位に食い込んでいる。
しかもこれはよく見るとかなりおいしそうだ。
均整の取れたボディー、ほのかに香るバニラが私の鼻を通じて食欲中枢を刺激し、
平らな頂から垂れ下がるカラメルソースが「私を食べて」と激しく自己主張している。
思わず垂れそうになった涎を飲み込み、慌てて周りを見回してみると
垂れた涎を慌てて拭いている黒い片割れと目が合った。
今朝からずっとここにいるわけだけどどうしてもこれ以上足が進まない。
昨日も一昨日もそうだった。
マイはすぐそこにいるというのに。
見慣れている白いワンピースが見えたとたんに私はつい垣根の裏に隠れてしまった。
「・・・・・・・・から・・・・・・みて」
まさかここまで自分が躊躇うことになるなんて予想してなかった。
かすかに感じる魔力の波長を辿って行き着いた先がここ、ルイズの家だった。
これまで何度も喧嘩はしてきたけれど、ここまで長期間家を空けることがあっただろうか。
確かに今回の喧嘩の原因となった魔法はかなり扱いが難しく、
私がこれまでにないような失敗続きだったとしても。
「・・・・も・・・・・でしょ
さすがに・・・・・・・・だけど」
失敗したのは私だけじゃないし・・・・。
そもそもこの魔法を提案したのはマイの方だし・・・・。
ていうか最近マイは難易度の高い魔法ばかりに挑戦しすぎなのよね。
あ~、お腹空いたなぁ。
何か食べるものを持ってくればよかった。
と3回目となる愚痴をこぼす。
バタン
と、扉の閉まる音が聞こえた。
マイは家の中に戻ったのかな。
私はそっと庭の様子を窺ってみた。
「な・・・・なによあれ」
さっきと同じ様にイスに座っているルイズの前にはどでかいプリンが出現していた。
「うわ~~・・・おいしそう・・・」
朝から何も食べてない私にアレは少々刺激が強すぎる。
今なら自慢の魔法でアレを消すより早く食べ切れる自信がある。
おっと。思わず涎が・・・。
「あ・・・」
と思った時にはすでに彼女と目が合っていた。
うわ・・どうしよう。
・・・・逃げるか?
私が躊躇っていると彼女がこちらに歩いてきた。
幸か不幸かあまり距離は離れてはおらず、私が行動に移る前にもう彼女は目の前にいた。
「こんにちわ」
「・・・こんにちわ」
気恥ずかしい中ごく普通に挨拶を交わす。
「こんなとこに立ってないで庭に・・・・・・は来辛いのね」
「・・・はい」
こちらの気持ちを察してくれたらしく、家の中からは死角になるところまでルイズは移動し、口を開いた。
「さて、とりあえず確認だけどマイちゃんに会いに来たのね」
「・・・はい」
「あの子なら家の中にいるわ。その目で見てたかもしれないけど」
「はい、一応魔力の波動もわかるのでここにいるのは確信してます」
「あら、便利そうね、それ」
「まぁマイは私にとって特別ですから」
「ふぅん。誰彼かまわず、ってわけじゃないのね」
その通り。マイの魔力の波動を私は感じ取ることができる。
かなり距離が離れていたとしても大まかな方角くらいなら確実に感じ取ることができるし、
今くらいの距離だと私を軸にした空間座標のどの点にいるのかぐらいは見当がつく。
・・・というかこんな世間話をしに私はここに来たわけじゃない。
さっさと本題の方に軌道修正しないと。
「あの。ところでマイは何か変なことを言ったりしてませんでしたか」
「変なこと・・って?」
思い当たる節があるのだろうか、ただでさえ細いルイズの目がさらに細くなる。
「たまに喧嘩とかしてもこんなに長期間家を出ることはこれまでなかったんです。
それに出て行くときに、なんか思い詰めたような感じだったから・・・・」
「う~ん。特に変な様子は見られなかったけど・・・。
家の中でも本を読むとか料理したりとかで大人しくしてるし」
「・・・そうですか」
私は何か特別変なことをしたのだろうか。
記憶を探っても探ってもそんなことはこの数日間繰り返しているが見当たらなかった。
「あ~、ちなみにね」
私が思考のループに突入していると、ルイズはそう口を開いた。
「マイちゃんが言うには今はまだ会えない、だそうよ」
言葉を選んでいたのだろうか、やや困ったようにルイズは言った。
「そうですか・・・・」
本当にどうしたというのだろうか。
しかしここで無理矢理謝りに行くという選択肢は消え去った。
とりあえず・・・・・今は家に帰ろう。
「・・・では私は帰りますね」
「あ、ちょっと待って」
と言うとタタタっとルイズは駆け出して。
こっちに戻ってきたとき、さっきのプリンが半分ほど入ったガラスボウルを持っていた。
「悪の野望阻止のため・・・ではなくて
私じゃさすがに食べきれないから遠慮なく持っていって頂戴」
「あ・・、これは」
「マイちゃんお手製よ。私の独断だとレア度 C+ってとこかしらね」
「C+・・?」
なんのランク付けだろうか。
まぁかなり気になっていたし、マイの作るデザートもここしばらく食べてなかったのだが・・・。
「もちろんマイちゃんには内緒にしとくから」
「いただきます」
「そう言ってもらえると助かるわ」
即決しておいた。
「自分で作るのもいいけどやっぱり一人だと味気無くて。
他人の料理の味が恋しくなったりもするんですよね」
「そうねぇ、やっぱり食事は一人だと寂しいわよね」
なんかどう聞いても言い訳にしかとられないセリフだなと我ながら思う。
言わなきゃよかったと少し後悔。
「じゃあ今度こそ帰ります。
あの、マイはちょっと口は悪いかもしれないけど・・・その」
「ああ、そのことなら十分わかってるわ、一緒にいて結構楽しいもの」
流石に他人に対して私に接するのと同じ態度なわけがないと思いつつ言ってはみたが、
どうやら心配する必要はなさそうだった。
ルイズと別れた後、私はそのまま公園に向かった。
そういえば最近甘いものを口にしてなかった気がする。
こんなにいい天気なのだ。たまには外で甘いものを食べつつ呆けるのも悪くは無い。
「ふぅ」
ユキと別れた後、私はまだ結構な存在感の残っていたプリンをあっという間に完食した。
量が多くて食べられない、という言葉はどこへいってしまったのか。
恐らく別腹という空間に一緒に飲み込まれてしまったのだろう。
うん、きっとそうだ。
この世には解明不可能な現象が多々存在するのだ。
部屋に戻ると相変わらずマイは本を読んでいた。
「さっきのプリン、ユキちゃんにもお裾分けしといたから」
「うん、知ってる」
そう言うと思った。
マイにとってもユキは特別な存在なのだろう。その言葉を聞くと少し安心した。
「ユキちゃんが色々と気に病んでたけど、今回はなんかあったの?」
興味がないわけではない。
さらに先ほどの会話の中、よく注意してユキの顔を観察してみると
本人は気付いてないようだが若干やつれてるように見えた。
ということで原因解明及び仲直りの手助けとなれれば、と思い
他人事ではあるが少し首を突っ込みたくなったのだ。
「ん、別にあいつに愛想をつかした・・・・ってわけじゃない。
今回は・・・・むしろ私かな」
「ふぅん」
なら放っておけばマイの方から勝手に謝りにでもいくだろう。
今はただ単に時間を必要としているだけみたいだけど。
・・・だけど、なんだろうか。
私の知っているマイはこんな少女だっただろうか。
普段の様子だといつも実力を出し惜しみしているかのような、
表面上そう取り繕っているような印象だった。
今私の目の前にいるのは、夜遅くまで読み物をしているためか目の下に隈のできた
なにかこう、必死に本を読むような子じゃなかった気がするが。
よく見るとマイの方も若干やつれているように感じる。
・・・なぜ今まで気がつかなかったのだろう。
そもそもの原因として私の持っている情報といえば魔法の編成がうまくいかなかった、ということだけだ。
まぁその辺はもっと詳しく話を聴いてみないとわからないのだろうけど。
さて、どの程度まで突っ込んでいいものだろうか。
そしてどういう風に聞き出そうか。
他にはマイが書いていたメモなど何かヒントにはなるかもしれないが・・・期待はできない。
というか盗み読みなんてしたら今度は家が焦熱地獄になる可能性もある。
「ルイズ」
「・・・ほぇ」
いきなり名前を呼ばれたのでかなりアホっぽい声で返事をしてしまった。
「ちょっと用事ができたから出かけてくる。
あ~、いつ戻るかは今のとこわからないから晩御飯は先に食べておいていいわ」
読み終わったであろう本をテーブルに置き、マイはすたすたと玄関の方へと歩いていった。
「あ、ちょっと、用事ってどこへ?」
「ん、神綺様のとこ」
そういって彼女は出て行った。
「・・・・なんでまた神綺様?」
魔法を教わりにでもいくのだろうか。
確かにあの方は魔法にも詳しいが、もっと身近な知り合いに魔法使いはいたはずなのだが。
まぁどうせなら一番詳しそうな方から当たっていくのが妥当というものか。
神様とだけあっていかにも何でもできそうな気がするし。
喧嘩の理由は・・・・まぁ帰ってきたら詳しく聴くことにしようか。
とりあえず私が相談役にはふさわしくなかったという事実にはこの際目を瞑ってもいいだろう。
だってあんまり魔法詳しくないし。
けどこれまでに色々と旅行をしてきたおかげで出会った様々な人の体験談やら経験談といった記憶が私の中にはある。
人生相談の方なら多少は出来ないことも無い。多分。
と、そこまで考えてふとマイがそれまで読んでいた本に目を向けた。
【ここが俺のベストプレイスだ!】( 木刀を持って熱血指導をしてるっぽい人著:レア度 B )
・・・・・なんで?
コツ、コツ、コツ、
一度気付いてしまったらその疑いはなかなか晴れることがなかった。
そもそもそんなこと疑う必要があるのか。
気付いたとしてもそのまま受け入れればいいだけの話である。
けど私にはそれができなかった。
私が気付いたそれは私が気付いたその瞬間に生まれ、
今もなおお腹の辺りに黒い塊として存在し続けている。
コツ、コツ、コツ、
他の人が聞いたらなんて他愛も無いことなのだろう、と言うかもしれない。
現にアリスにその話をしてみたら、
「考えるだけ無駄だと思うわ。ありのままを受け入れればいいんじゃない?」
と言った。
まぁ確かにその通りだと思う。
それが多分正解なんだと思う。
コツ、コツ、コツ、
だけど私は不安でしょうがない。
コツ、コツ、コツ、
だからきちんと答えを出さなくてはならない。
コツ、コツ・・
「神綺様、お客様ですわ」
夢子に案内されて私は私の創造主の前に
「どうぞ~」
夢子は私を部屋に通すとそのまま姿を消した。
いつ見ても不思議でしょうがない。
まばたきさえしていないのにいつの間にかいなくなっている。
初めからそこに存在しなかったように。
扉の方は私が中に入ったのを確認したかのように勝手に閉まっていった。
「あらあら、マイちゃんじゃない。
なになに、今日は一人なの?
ユキちゃんは一緒じゃないの?」
目の前で神綺様はそれは嬉しそうに、にこにこと笑顔を絶やさない。
「マイちゃんが私のところに来るなんて久しぶりね~
どうしたの?何かあったの?」
「一つ聞きたい事があります」
「あら、何かしらね」
思えばいつもそうだった。
私はあいつと一緒にいるのが当然のように。
「神綺様はなぜ私のような不完全な存在をお創りになったのですか」
神綺様はにこにこと笑顔を絶やさない。
これらのことを容認していただける様でしたら以下本文をどうぞ。
「明日も良いお天気となりそうです。洗濯物も気持ちよく乾くでしょう」
という魔界神天気予想のとおり、今朝も窓の外は快晴。
日向ぼっこをするとさぞかし気持ちがいいだろう。
やわらかい日差しが差し込む部屋の中、テーブルを挟んで2人の少女がそれぞれ椅子に腰掛けている。
湯気の立つマグカップを片手に普通の魔界人であるルイズは「フゥ・・」と溜息をついた。
溜息の元凶はテーブルの対面に同じくマグカップを持ち、食後のコーヒーに口をつけながら
こちらのことを気にもせず、ごく平然と本を読んでいる。
「ねぇ、いつまでここにいるつもりなの」
少女はこちらを見ようともせず、声が聞こえているのかいないのかわからないが
未だ手元の本に目を走らせている。
「別に家にいるのはかまわないのよ。
ただ、いつまでもこうしてはいられないでしょ?」
ぱたん と本が閉じられ、ブルーの瞳がこちらを向いた。
「あなたが邪魔だ、と言って追い出すのならすぐにでも出て行くわ。」
白の魔法使い、マイはそう言った。
~ 白と黒の幻想 ~
事は4日前に遡る
「わけあってあいつの顔を見たくなくなったからしばらくここに泊めさせてほしいの」
空が黄昏色に染まった夕暮れ時、玄関のドアをノックする音を出迎えた私に向かって
扉の向こうにいた彼女はそう言った。
彼女達が同じ空間で生活をしているのは知っていた。
現在ここにいる白い方はマイ、黒い方はユキという名前で、共に実力のある魔法使いであり、
ちょくちょく喧嘩はしてもすぐに仲直りする程度に仲が良いことも知っていた。
なので見知った顔であったし、特に断る理由もなかったので私は彼女を招きいれた。
コーヒーを煎れ( 私のブレンドで結構自信作:レア度 B )、話を聞いてみると
どうやら予想してた通りただの喧嘩であることが判明。しばらくすると勝手に出て行くだろうと判断した。
その後話を聞くと、喧嘩の原因は新しい魔法の作成が失敗続きだったというだけのこともわかった。
「魔法のことになると家を飛び出すくらいに真面目なのねぇ、お姉さん感心しちゃうわ」
と、軽く冗談を言ったら部屋の温度が急激に低下した。
呼吸がいきなり視認化してあらびっくり。
ついでに目の前の魔法使いは焦点の合ってない目をしたままぶつぶつと何かの詠唱をしていた。
かなり怖かったので、夢子さんの手作り羊羹( 彼女は何をさせてもパーフェクト:レア度 A )を
目の前に出したら元の顔に戻ってくれた。
魔界グルメ紀行( 月刊誌で愛読書:レア度 E )で夢子特集が組まれる程、彼女の料理の腕は凄まじい。
しかも一般人には滅多に口にすることができないものなので、交渉の材料として正に切り札的破壊力を持つ。
「よかったわ、極寒地獄で生活するのは私も苦手だから」
魔法使いは羊羹をに舌鼓を打った後そう言ってにこにこしていた。
言葉のキャッチボールで気まぐれに変化球を投げてみただけで
この娘は私の家を機能不全にするつもりだったのだろうか。
そもそも地獄で生活など出来るのか?
一切が氷に閉ざされた世界で彫刻のように笑みを張り付かせたまま微動だにしない私を想像していた。
そして現在
彼女が来てから私の生活が一変した、ということはなかった。
彼女は私がコレクトしている魔術書やら雑誌やらに目を輝かせ、
部屋にいるときの彼女は本を読んでいるか何か書き物をしているかのどちらかで、
時々外に出ては魔法の編成をしているようだった。
今のところ私の家に最初の室温低下以外では魔法による被害は出ていない。
むしろ家事を手伝ってくれたため、現在となっては歓迎の念が強い。
「居候の身なんだから最低限の労働はするわ」
と、なかなか礼節がなっている様子。
別に何かさせようとは思っていなかったが、折角なので好意をそのまま受け取ることにした。
「ねぇ、ずっと本を読んでるみたいだけど何を読んでるのかしら?」
最初は魔術書にかじりついているのかと思っていたが実際はそうではないらしく、
どちらかというと私が趣味で集めている書架の方を集中的に読んでいるみたいだったので聞いてみた。
もし趣味が交わる点があったのなら、この際是非とも親睦を深めたいし。
「ん、今はこれを読んでる」
【魔道具カタログ・これであなたも大魔法使い】( ブースト系アイテム特集号。私は見て楽しむだけ:レア度 E )
「へぇ、何かお気に召すものは見つかったの?」
「ん~、実際に使おうってわけじゃないの、
どんなものがあるか眺めてるだけ」
おっと、いきなりビンゴかしら。
私自身そんなに魔法を使わないので魔道具の類もあまり持っていない。
むしろその原理に興味があり、その類の本なら自慢ではないが結構色々な種類を集めてある。
ブースト愛好会に今度誘ってみようかしら。
なんて私が未来予想図を妄想していると、
「あ、ちょっとキッチン借りてもいいかしら?」
「・・・えぇ、別にかまわないけど」
「じゃあしばらく借りるわ」
と言って本もそのままにマイはキッチンの方に歩いていった。
まぁ魔法使いが気まぐれだということは知識としては知っている。
あれ、魔女の方だっけか。
「ところでこの本・・・」
・・・読み終わってるのなら片付けるんだけど、判断に困るわね。
ということで私も本はそのままに自慢の庭の方に足を向けた。
こんなにいい天気の日には日向ぼっこに限るわ。
と、当初の予定を敢行することにした。
「プリンを作ってみたからよかったら食べてみて」
昼下がりの陽光の中、庭に設置してあるガーデンチェアに座ってぼーっとしていたら、
ボウル一杯分くらいのプリンが盛られた皿がテーブルの上にどかん、と出現した。
なんでパーティ用のプリンが私の目の前にあるのかしら・・・。
あの後なにかやってるみたいだったけどこれを作ってたのね。
というかブースト系魔道具からどうやればプリンがインスパイアされるのかしら・・・。
と、しばらく脳内メモリがプリンと魔道具で一杯になっていたら、
これを持ってきた本人はすでに部屋に帰ろうとしていた。
「あなたも一緒に食べるんでしょ?
さすがにこの量は一人じゃきついんだけど」
私が慌てて声をかけると、
「私の分は別に用意してあるから大丈夫、
全部食べといてね」
と言いながら彼女の姿は家の中に消えていった。
いや、さすがにこの量を全部消化すると色々と弊害があるような気がするんですが。
主に体重とか。
まさか私の部屋に設置してあるぶら下がり健康器( 魔界通販で購入。神綺様が髪の毛を使って
ぶら下がっているコマーシャルが色々と話題になった:レア度 D )を見たのか?
ベストな体型を維持しようと毎晩影ながら努力している私へ喧嘩を売っているのか?
「あ、それともう一つ」
いきなり声が聞こえた。
あんた部屋に戻ったんじゃなかったの?
見ると扉から顔だけ出してこちらを見ている彼女と目が合った。
「もしあいつが来たとしてもまだ顔を見る気にはなれないから」
そう言って今度こそ扉は音をたてて閉じられた。
なんだそれは。
この攻撃はまだ序章のクラリオンコールにすぎないということか?
善意なのか善意を装った悪意なのか唯の悪戯なのか・・。
魔法使いの考えることはよくわからない。
・・・ともあれ折角作ってくれたプリン、無駄にすることはできない。
甘いものが大好きな私の中で、プリンはかなりの上位に食い込んでいる。
しかもこれはよく見るとかなりおいしそうだ。
均整の取れたボディー、ほのかに香るバニラが私の鼻を通じて食欲中枢を刺激し、
平らな頂から垂れ下がるカラメルソースが「私を食べて」と激しく自己主張している。
思わず垂れそうになった涎を飲み込み、慌てて周りを見回してみると
垂れた涎を慌てて拭いている黒い片割れと目が合った。
今朝からずっとここにいるわけだけどどうしてもこれ以上足が進まない。
昨日も一昨日もそうだった。
マイはすぐそこにいるというのに。
見慣れている白いワンピースが見えたとたんに私はつい垣根の裏に隠れてしまった。
「・・・・・・・・から・・・・・・みて」
まさかここまで自分が躊躇うことになるなんて予想してなかった。
かすかに感じる魔力の波長を辿って行き着いた先がここ、ルイズの家だった。
これまで何度も喧嘩はしてきたけれど、ここまで長期間家を空けることがあっただろうか。
確かに今回の喧嘩の原因となった魔法はかなり扱いが難しく、
私がこれまでにないような失敗続きだったとしても。
「・・・・も・・・・・でしょ
さすがに・・・・・・・・だけど」
失敗したのは私だけじゃないし・・・・。
そもそもこの魔法を提案したのはマイの方だし・・・・。
ていうか最近マイは難易度の高い魔法ばかりに挑戦しすぎなのよね。
あ~、お腹空いたなぁ。
何か食べるものを持ってくればよかった。
と3回目となる愚痴をこぼす。
バタン
と、扉の閉まる音が聞こえた。
マイは家の中に戻ったのかな。
私はそっと庭の様子を窺ってみた。
「な・・・・なによあれ」
さっきと同じ様にイスに座っているルイズの前にはどでかいプリンが出現していた。
「うわ~~・・・おいしそう・・・」
朝から何も食べてない私にアレは少々刺激が強すぎる。
今なら自慢の魔法でアレを消すより早く食べ切れる自信がある。
おっと。思わず涎が・・・。
「あ・・・」
と思った時にはすでに彼女と目が合っていた。
うわ・・どうしよう。
・・・・逃げるか?
私が躊躇っていると彼女がこちらに歩いてきた。
幸か不幸かあまり距離は離れてはおらず、私が行動に移る前にもう彼女は目の前にいた。
「こんにちわ」
「・・・こんにちわ」
気恥ずかしい中ごく普通に挨拶を交わす。
「こんなとこに立ってないで庭に・・・・・・は来辛いのね」
「・・・はい」
こちらの気持ちを察してくれたらしく、家の中からは死角になるところまでルイズは移動し、口を開いた。
「さて、とりあえず確認だけどマイちゃんに会いに来たのね」
「・・・はい」
「あの子なら家の中にいるわ。その目で見てたかもしれないけど」
「はい、一応魔力の波動もわかるのでここにいるのは確信してます」
「あら、便利そうね、それ」
「まぁマイは私にとって特別ですから」
「ふぅん。誰彼かまわず、ってわけじゃないのね」
その通り。マイの魔力の波動を私は感じ取ることができる。
かなり距離が離れていたとしても大まかな方角くらいなら確実に感じ取ることができるし、
今くらいの距離だと私を軸にした空間座標のどの点にいるのかぐらいは見当がつく。
・・・というかこんな世間話をしに私はここに来たわけじゃない。
さっさと本題の方に軌道修正しないと。
「あの。ところでマイは何か変なことを言ったりしてませんでしたか」
「変なこと・・って?」
思い当たる節があるのだろうか、ただでさえ細いルイズの目がさらに細くなる。
「たまに喧嘩とかしてもこんなに長期間家を出ることはこれまでなかったんです。
それに出て行くときに、なんか思い詰めたような感じだったから・・・・」
「う~ん。特に変な様子は見られなかったけど・・・。
家の中でも本を読むとか料理したりとかで大人しくしてるし」
「・・・そうですか」
私は何か特別変なことをしたのだろうか。
記憶を探っても探ってもそんなことはこの数日間繰り返しているが見当たらなかった。
「あ~、ちなみにね」
私が思考のループに突入していると、ルイズはそう口を開いた。
「マイちゃんが言うには今はまだ会えない、だそうよ」
言葉を選んでいたのだろうか、やや困ったようにルイズは言った。
「そうですか・・・・」
本当にどうしたというのだろうか。
しかしここで無理矢理謝りに行くという選択肢は消え去った。
とりあえず・・・・・今は家に帰ろう。
「・・・では私は帰りますね」
「あ、ちょっと待って」
と言うとタタタっとルイズは駆け出して。
こっちに戻ってきたとき、さっきのプリンが半分ほど入ったガラスボウルを持っていた。
「悪の野望阻止のため・・・ではなくて
私じゃさすがに食べきれないから遠慮なく持っていって頂戴」
「あ・・、これは」
「マイちゃんお手製よ。私の独断だとレア度 C+ってとこかしらね」
「C+・・?」
なんのランク付けだろうか。
まぁかなり気になっていたし、マイの作るデザートもここしばらく食べてなかったのだが・・・。
「もちろんマイちゃんには内緒にしとくから」
「いただきます」
「そう言ってもらえると助かるわ」
即決しておいた。
「自分で作るのもいいけどやっぱり一人だと味気無くて。
他人の料理の味が恋しくなったりもするんですよね」
「そうねぇ、やっぱり食事は一人だと寂しいわよね」
なんかどう聞いても言い訳にしかとられないセリフだなと我ながら思う。
言わなきゃよかったと少し後悔。
「じゃあ今度こそ帰ります。
あの、マイはちょっと口は悪いかもしれないけど・・・その」
「ああ、そのことなら十分わかってるわ、一緒にいて結構楽しいもの」
流石に他人に対して私に接するのと同じ態度なわけがないと思いつつ言ってはみたが、
どうやら心配する必要はなさそうだった。
ルイズと別れた後、私はそのまま公園に向かった。
そういえば最近甘いものを口にしてなかった気がする。
こんなにいい天気なのだ。たまには外で甘いものを食べつつ呆けるのも悪くは無い。
「ふぅ」
ユキと別れた後、私はまだ結構な存在感の残っていたプリンをあっという間に完食した。
量が多くて食べられない、という言葉はどこへいってしまったのか。
恐らく別腹という空間に一緒に飲み込まれてしまったのだろう。
うん、きっとそうだ。
この世には解明不可能な現象が多々存在するのだ。
部屋に戻ると相変わらずマイは本を読んでいた。
「さっきのプリン、ユキちゃんにもお裾分けしといたから」
「うん、知ってる」
そう言うと思った。
マイにとってもユキは特別な存在なのだろう。その言葉を聞くと少し安心した。
「ユキちゃんが色々と気に病んでたけど、今回はなんかあったの?」
興味がないわけではない。
さらに先ほどの会話の中、よく注意してユキの顔を観察してみると
本人は気付いてないようだが若干やつれてるように見えた。
ということで原因解明及び仲直りの手助けとなれれば、と思い
他人事ではあるが少し首を突っ込みたくなったのだ。
「ん、別にあいつに愛想をつかした・・・・ってわけじゃない。
今回は・・・・むしろ私かな」
「ふぅん」
なら放っておけばマイの方から勝手に謝りにでもいくだろう。
今はただ単に時間を必要としているだけみたいだけど。
・・・だけど、なんだろうか。
私の知っているマイはこんな少女だっただろうか。
普段の様子だといつも実力を出し惜しみしているかのような、
表面上そう取り繕っているような印象だった。
今私の目の前にいるのは、夜遅くまで読み物をしているためか目の下に隈のできた
なにかこう、必死に本を読むような子じゃなかった気がするが。
よく見るとマイの方も若干やつれているように感じる。
・・・なぜ今まで気がつかなかったのだろう。
そもそもの原因として私の持っている情報といえば魔法の編成がうまくいかなかった、ということだけだ。
まぁその辺はもっと詳しく話を聴いてみないとわからないのだろうけど。
さて、どの程度まで突っ込んでいいものだろうか。
そしてどういう風に聞き出そうか。
他にはマイが書いていたメモなど何かヒントにはなるかもしれないが・・・期待はできない。
というか盗み読みなんてしたら今度は家が焦熱地獄になる可能性もある。
「ルイズ」
「・・・ほぇ」
いきなり名前を呼ばれたのでかなりアホっぽい声で返事をしてしまった。
「ちょっと用事ができたから出かけてくる。
あ~、いつ戻るかは今のとこわからないから晩御飯は先に食べておいていいわ」
読み終わったであろう本をテーブルに置き、マイはすたすたと玄関の方へと歩いていった。
「あ、ちょっと、用事ってどこへ?」
「ん、神綺様のとこ」
そういって彼女は出て行った。
「・・・・なんでまた神綺様?」
魔法を教わりにでもいくのだろうか。
確かにあの方は魔法にも詳しいが、もっと身近な知り合いに魔法使いはいたはずなのだが。
まぁどうせなら一番詳しそうな方から当たっていくのが妥当というものか。
神様とだけあっていかにも何でもできそうな気がするし。
喧嘩の理由は・・・・まぁ帰ってきたら詳しく聴くことにしようか。
とりあえず私が相談役にはふさわしくなかったという事実にはこの際目を瞑ってもいいだろう。
だってあんまり魔法詳しくないし。
けどこれまでに色々と旅行をしてきたおかげで出会った様々な人の体験談やら経験談といった記憶が私の中にはある。
人生相談の方なら多少は出来ないことも無い。多分。
と、そこまで考えてふとマイがそれまで読んでいた本に目を向けた。
【ここが俺のベストプレイスだ!】( 木刀を持って熱血指導をしてるっぽい人著:レア度 B )
・・・・・なんで?
コツ、コツ、コツ、
一度気付いてしまったらその疑いはなかなか晴れることがなかった。
そもそもそんなこと疑う必要があるのか。
気付いたとしてもそのまま受け入れればいいだけの話である。
けど私にはそれができなかった。
私が気付いたそれは私が気付いたその瞬間に生まれ、
今もなおお腹の辺りに黒い塊として存在し続けている。
コツ、コツ、コツ、
他の人が聞いたらなんて他愛も無いことなのだろう、と言うかもしれない。
現にアリスにその話をしてみたら、
「考えるだけ無駄だと思うわ。ありのままを受け入れればいいんじゃない?」
と言った。
まぁ確かにその通りだと思う。
それが多分正解なんだと思う。
コツ、コツ、コツ、
だけど私は不安でしょうがない。
コツ、コツ、コツ、
だからきちんと答えを出さなくてはならない。
コツ、コツ・・
「神綺様、お客様ですわ」
夢子に案内されて私は私の創造主の前に
「どうぞ~」
夢子は私を部屋に通すとそのまま姿を消した。
いつ見ても不思議でしょうがない。
まばたきさえしていないのにいつの間にかいなくなっている。
初めからそこに存在しなかったように。
扉の方は私が中に入ったのを確認したかのように勝手に閉まっていった。
「あらあら、マイちゃんじゃない。
なになに、今日は一人なの?
ユキちゃんは一緒じゃないの?」
目の前で神綺様はそれは嬉しそうに、にこにこと笑顔を絶やさない。
「マイちゃんが私のところに来るなんて久しぶりね~
どうしたの?何かあったの?」
「一つ聞きたい事があります」
「あら、何かしらね」
思えばいつもそうだった。
私はあいつと一緒にいるのが当然のように。
「神綺様はなぜ私のような不完全な存在をお創りになったのですか」
神綺様はにこにこと笑顔を絶やさない。